転生したら戦闘力5のオッサン以上にモブだった件 作:大岡 ひじき
これだけは絶対書いてはいけないと思っていたのに、我慢できずに書いてしまった…。
基本、主人公は空気ですので、この出来事に対する彼女の脳内ツッコミだけを楽しんでください。
「悟空さ───ん!」
ジェットフライヤーをカプセルに戻し、会場入口にいた警備員さんに聞いた場所まで、重い荷物を抱えて歩いて行くと、いつもの山吹色の道着を着て寝転んでる悟空さんを見つけました。
アタシが声をかけると顔をあげ、寝ぼけ眼をこちらに向けて、アタシだと気付いて片手をあげます。
「おっす、マリン。
おめえ、こんなとこで何してんだ?」
「それはこっちが聞きたいです。
悟空さん、今日は警備員のアルバイトだって聞いたんですけど。
こっちに来る用事のついでにお宅に寄ったら、お弁当忘れたから届けてくれって、チチさんから頼まれたんですよ」
言いながら、手にぶら下げて来た重箱を上げて見せると、悟空さんの目が輝きました。
「…でも、お仕事してないなら要らないですよね?」
「いやいや、要るって!腹減ったぁ〜!」
まったく、自分がしたいことしかしないとか、本当に子供みたいな人です。
いや、今時子供だってもっとしっかり物事考えてますね。
ごめんなさい世のお子さんたち。
自分が親になった視点で見て改めて思いますけど、この人悟飯さんの思春期に、下手に生きてなくて良かったんじゃないでしょうか。
第二次性徴期の精神的に不安定な時期に、この父親と普通に一緒に生活してたら彼、多分どっかでグレてます。
悟天くんはその悟飯さんが居るぶん心配なさそうですけど。
まあそれ言うなら悟飯さんにもピッコロさんという厳しくも優しいお兄さんが居ますけどね。
いやいや間違いなくお兄さんですよ。
あの人悟飯さんと4歳位しか違いませんから。
ああ、大丈夫かもしれません。
なんだこのピッコロさんの安心感。
「いや〜、わざわざ届けて貰って悪かったなぁ、マリン!」
「いえ、実は今日この会場で行われてる発明品アワード、中学生の部にうちの息子の作品もノミネートされてたんですよ。
さっき電話が来て、受賞は逃したそうですけどね。
アタシは昨日まで学会で、今朝帰ってきたもので授賞式には間に合わなかったんですけど、せっかくだから展示だけは見て帰ろうと思ってます。
ついでに旦那と子供達がまだ帰ってないなら、回収して一緒に帰ろうかなと」
「じゃあ、17号もこっちに来てたんか?」
「ええ、息子の晴れ舞台ですからね。
本人はあまり、人の大勢いる場所に出たくないみたいですけど。
息子と並んだら兄弟にしか見えないし」
そう、あの人はそもそも知り合った時点で、まだ成長期半ばの少年の風貌で、細胞の劣化スピードが遅いという人造人間の体質から、未だその見た目にほとんど変化はないのです。
比べてこっちはどんどん年をとっていくわけで、結婚した時にすらアタシが犯罪者呼ばわりされたのに、これから更に差が開いていくと考えると若干憂鬱になります。
人造人間爆ぜろ。
チチさんやブルマさんのこの先の同じ悩み考えるとサイヤ人も爆ぜろ。
化け物め。
「おめえの息子って、悟天のいっこ下じゃなかったか?」
「それ下の子です。今日の主役は上の子。
おかげさまで来年高校生です」
正確には下しか産んでないから、悟空さんの言うのも間違いじゃないですけど。
「ふうん…まあいいや!
そんな事より、メシ、メシ!腹減っちまったよ!」
「だから、食べるのはお仕事してか……っ!?」
ドオォォン!!
と、建物の方から突然破壊音が響いたと思ったら、音とともに壁に開いた大穴から、何かがこっちに飛んできました。
「危ねえっ!!」
咄嗟に悟空さんがアタシの腕を掴み、地面に引き倒します。
次の瞬間アタシの頭があったくらいの空間を、明らかに人間の身体と思われる物体が通り過ぎて、それが地面に激突し土煙を上げました。
え…ベジータさん!?
なんでここに…そしてなんでこんな事に?
「な、なんだ!?ベジータ、おめえ何やってんだ!?」
「つ…強すぎる!
このデタラメな強さは、おそらくギャグ漫画の…キャラ……っ!!」
「ギャグ漫画ぁ?」
土煙の中から立ち上がるベジータさんが、よくわからない事を言い出しました。
が、それに突っ込む暇もなく、
「おいっちに、おいっちに…」
という緊張感のない掛け声とともに、小さな身体が建物の中から、ゆっくりとこちらに歩み寄って来ます。
土煙が晴れて見えた姿は、まだ小さな女の子のようでした。
アレ?なんだろう。
アタシ、なんかこの子に見覚えがある気がするんですが。
アタシが記憶の引き出しを漁っている最中、歩いて来た少女がふと立ち止まり、暫し悟空さんと見つめ合います。
そして次の瞬間、悟空さんと彼女、『あ────!!』とお互いを指差しながら叫びました。
「知り合いか!?」とベジータさん。
しかし『…誰だっけ?』と2人同時に言ったのを見て、アタシとベジータさん、2人揃ってずっこけました。と、
「孫くん気をつけて!ベジータをぶっ飛ばしたのはその子よ!!」
建物の方から聞こえてきたブルマさんの声に、アタシたちは目をみはります。
「その子は悪の科学者に心を操られているんです!
一発食らわせて目を覚まさせるしかありません!」
続いてのサタンさんの言葉に、
「いや、でもよ…こんな小っちぇ子をぶっ飛ばすわけには」
と悟空さん。
うーんうーん、なんかここらへんまで出かかってるけど思い出せません。
でもそれはともかく悟空さんのお弁当、ここに置いといたらバラバラになっちゃいそうなんで、もう少し安全そうな場所に移動させましょうか。
よいしょっと。
「どけカカロット!
ガキに赤っ恥かかされて黙っていられるか!!」
とか後ろで声が聞こえ、気付けば実に大人気ないサイヤ人王子が少女をぶっ飛ばしたと思ったら、次の瞬間にはその少女に、後頭部蹴飛ばされたところでした。
《くっ、このガキいつの間に地球一周しやがった…やはりこいつ、ギャグ漫画のキャラだな。
常識がまったく通用せんぞ。
バトル漫画の戦い方のままでは埒があかん》
何故でしょう、ベジータさん…心の声がだだ漏れです。
言ってる意味はまったくわかりませんけど。
「マリン!」
と、アタシの名を呼ぶ声が聞こえ、そちらを振り返ると、今日の為に奮発して仕立てたスーツでいつもより更に男前度の上がったうちの夫が、こちらに駆け寄ってくるところでした。
「17号さん!」
やっぱりまだ会場にいたんですね。
あれ、でも夫だけで子供たちは居ません。
「怪我はないか?早くこの場から離れろ。
やつらの戦いに巻き込まれちゃかなわない」
「あ、待って17号さん、今アナタだけ?
子供たちは?どこにいるんですか?」
「心配するな。
向こうの安全な場所に、イベント関係者と一緒に避難中だ」
聞き覚えのある声が聞こえたから、と夫がチラッとベジータさんに目を向けます。
そして次の瞬間、それまでは余裕を見せていた夫の顔が驚愕の表情に変わりました。
アタシもつられてそちらに目をやると、ベジータさんが放った蹴りで吹っ飛ばされ、オブジェに激突した少女の身体が、首と胴体が離れた状態で転がっているのが見えました…えええっ!?
「バ、バカ!見るんじゃない!」
夫が慌ててアタシの目を掌で塞ごうとしますが、うん遅いです。
あまりの事に倒れかけるアタシの身体を、夫が慌てて支えてくれました。
とりあえず子供たちが居なくて良かった。
夫グッジョブ。
「ベジータ!お、おめえやり過ぎだって!」
「し、知るか!!」
というサイヤ人同士のやり取りがあった後、しかし事態は更に驚愕の様相を見せつけてきました。
首のない少女の身体がゆっくりと起き上がり、そばに落ちている首を拾い上げたと思ったら、そのままカチリとはめ込んで、何事もなかったかのように笑ってみせたのです。
「に、人間じゃない…」
「うん、アラレ、ロボットだよ♪」
「ロ、ロボット…!?」
サイヤ人達も呆然としていますが、そのホラーともギャグともつかない光景に、後ろでアタシを支えてる夫も、驚愕の表情を浮かべたまま呟くのが聞こえます。
「ロボットだと…?
まさか、ヤツもドクター・ゲロの人造人間!?」
「いや違うから」
そしてアタシは、彼女の名を聞いてようやく思い出しました。
彼女、アタシの「孫悟空さんの物語」の初期に登場していた人物の1人です。
少年時代の悟空さんがレッドリボン軍と戦っていた時、三たび相まみえてその3回とも自力では勝てなかった唯一の相手…確かブルーさんとか言いましたか、とにかくその人を、あっさりぶっ飛ばしちゃったのが彼女でした。
あの時少年だった悟空さんが二児の父親になり、更に孫までいるほどに時間が経過しているのに、彼女がちいさな少女のままなのは、やはり『ロボット』だからなのでしょう。
とは言っても、アタシがそれらの事情を知っている理由を、唯一話したのは夫だけですから、これどうやって説明したらいいのかわかりません。
見てるうちに少女が地面を拳で叩くと、あっさりそこに地割れが発生し、それを見てベジータさんが更に呆然としました。
「き、貴様…!
ギャグで物理法則を無視するのは反則…」
「今度はあたしからいくねー」
「人の話を聞け───っ!!!」
そしてアタシ達がまごまごしているうちに、そのブルーさんと同じ展開でベジータさんがぶっ飛ばされました。キラーン。
思ったより長くなったので前後編。