転生したら戦闘力5のオッサン以上にモブだった件   作:大岡 ひじき

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思えば去年の年末にいきなり思いついて、適当にノリと勢いだけで書いていた『マリン』の物語。
番外編でうだうだ続けてきましたが、しばらく忘れていた後に、改めて自身の裡に『マリン』を呼び起こすのに苦労した事を考えると、恐らくはこの回で完全に完結です。


10・瑠璃色の地球(後編)

 ジェットフライヤーをカプセルに戻して自分の暮らす部屋に戻ると、そのアタシの部屋のドアにもたれて、腕組みをしている人造人間がいました。

 いやそれさっきのサイヤ人と同じポーズだし。

 

「どこに行っていた」

 少し怒っているのか、切りつけるような口調で問う17号さんに、アタシは答えず、笑いかけました。

 

「ちょうどよかった。お話したい事があります。

 立ち話もなんですから、どうぞ中へ」

 そんなアタシの態度に面食らったのか、17号さんは目を丸くし、少し逡巡した後、素直に開けたドアの内側に足を踏み入れました。

 何度か呼び出されて一緒に出かけたりしましたし、その際このドアの前まで送ってくれたりもしましたが、中に招くのは初めてです。

 

「コーヒーでいいですか?」

「そんな事より、話ってのは?」

「アタシが飲みたいんで勝手に淹れますけど、要りませんか?」

「……貰おう」

 

 ・・・

 

「アタシは、ただの女です。

 この星に生きる大多数の人間の中の、たった一人に過ぎません」

「…それがどうした」

「それでもアタシ自身にとっては、かけがえのない存在だった筈なんです。

 でもあなたを含めた、この世界に選ばれた特別な人たち、そういう人たちを見ているうちに、いつの間にか、それを忘れていました」

「忘れるか普通。そんな事」

「そうですよね。

 アタシは自分が、世界の主人公ではないという感覚が、他の人より強いのだと思います。

 それは幼い頃からずっと、アタシの中には別の主人公がいたから。

 そしてどんなに足掻いても、その物語に一片の変化さえ与えられず、主人公さえ失ってしまった世界に、それでもまだ自分が生きている、その事実から無意識に目を背けていました。

 アナタの言葉で、それに気がつきました」

「………」

「アタシはまだ、物語から抜け出せていないかもしれません。

 けど今はそれは、結末のわからない、自分で紡いでいくしかない物語です。

 アタシはつまらない主人公だから、アタシ一人ではつまらない物語にしかならないでしょう。

 だから…アナタが英雄(ヒーロー)になってください。

 世界の破壊者ではなく。

 アタシの物語の、英雄(ヒーロー)に」

 

 ・・・

 

「…おまえな」

 アタシの言葉に17号さんは、睨むような目でアタシを見据えました。

 

「ダメ……ですか?」

「そうじゃない。

 この間の反応からして、絶対にわかっていないと思ったから、こんなものまで用意して来たってのに。

 先に言われたら、オレの立場がないだろう」

「え?」

 言いながら17号さんは、アタシの左手を掴んだと思うと、ポケットから出した何かを薬指にはめてきました。

 それは……明るい青緑色の石のついた指輪。

 

「…ひょっとしてこれ、トルマリンですか」

「おまえの誕生石だろう」

「御存知でしたか…って、えっ?

 ひょっとして、これ…!?」

 誕生石の指輪、左手の薬指。

 

「見ての通りの意味だ。オレと結婚しろ、マリン」

「えぇえええっ!!?」

 ちょっと待って!

 急展開すぎて頭がついてきません!

 てゆーか結婚『しろ』って!

『してください』とかじゃないの、普通は!?

 

「なんだ、その反応は。

 おまえの英雄(ヒーロー)になれってのは、一生傍で、オレを見続けたいって意味じゃないのか?」

 それはそう思ってます!

 けど、アタシ的には本当に文字通りの意味というか…ああでも、そうか。

 それだと悟空さんに対して抱いていた気持ちと同じだ。

 悟空さんと同じ存在を求めては意味がないんだった。

 アタシは、悟空さんから卒業しなきゃいけないのだから。

 考え込んでしまったアタシに、17号さんはどういった解釈をしたものか、アタシの両頬を掌で挟んで上向かせ、自分の方を向かせました。

 

「そもそも、なんでおまえに家具を選ばせたと思っている?

 いずれは一緒に暮らす為に決まってるだろう?

 オレは付き合い始めからそのつもりだ。

 何せおまえはオレが傍にいなけりゃ、これまでに何回死んでるかわからない女だからな」

 えーと、付き合い始めっていつからでしょうか。

 そもそもアタシたち付き合ってたんですか?

 全然知りませんでした。

 でも、何だろうこの気持ち。

 ふわふわして落ち着かないような、それでいて安心したような、くすぐったいような気持ちいいような、どう形容していいかわからない気持ちは。

 

「返事は?」

 いや本当待って。いくら何でも急展開過ぎる。

 もう少しゆっくりと関係を深めていってもいいんじゃないでしょうか。

 そう心では思っていたのに。

 

「…はい。よろしくお願いします」

 気付けばアタシの口は、勝手にそう言っていました。

 なんでだ。馬鹿ですかアタシは。

 …けど、アタシの返事を聞いた17号さんは、口元にこれまで見たことがないくらい優しい笑みを浮かべ、それからふわりと、アタシの身体を抱きしめてくれました。

 ああそうか。アタシは。

 この人が、アタシの物語の英雄(ヒーロー)なら、アタシは、この物語の、女主人公(ヒロイン)なんだ。

 ということはもしかしてアタシは、この人を好きになっても、不自然じゃないと思っていいんでしょうか。

 

 好きになっても、いいんですよね?

 

 いいところに着地したような安心感に、アタシは彼の腕の中で目を閉じました。

 

 ☆☆☆

 

 その後、とんとん拍子に話が進んで、結婚式前夜。

 久しぶりに実家で、パパとママと三人で夕食を食べて、その際に子供の頃のいろんな話をして、少しだけ泣いて、その後、

 

「明日は最高に綺麗な花嫁さんにならなきゃいけないんだから、お肌の為に早めにおやすみなさい」

 とママに言われてベッドに入ったのですが。

 

 ………眠れない。

 とりあえずお水でも飲もうとベッドから起き上がり、見るともなしに窓の方を見た時、

 

 コツン

 

 何か、小石のようなものが、窓枠に当たったような音がしました。

 

「?」

 雹でも降ってきたんでしょうか。

 明日のお天気が心配になり、窓を開けて、何も降っていないのを確認して首を捻っていたら、

 

「マリン!」

 下の方から、聞き慣れた声が聞こえました。

 えっと思って見下ろすより先に、窓の外に突然浮かんで現れたのは、紛うかたなきアタシの、明日以降は夫となる婚約者です。

 

「…え?あの、どうしたの?」

「オレが居なきゃ、眠れないんじゃないかと思ってな」

「何言ってるんですか」

 …確かに眠れなくてウダウダしてましたけど。

 そしてあのプロポーズの日からほぼ毎日、夜はどちらかの家で過ごすという生活に入っていたから、隣で寝息が聞こえないことに、もう違和感を覚えてたのも事実ですけど。

 今何してるんだろうとか、ちょっと考えたりもしましたけど!

 

「明日の事を考えたら長時間は無理だが、少しだけ出てこないか。

 明日になれば、式で顔合わせるまで会えないだろう?」

 そうなんです。

 新郎には式の前に花嫁姿を見せてはいけないそうで、結婚式が始まって、パパに手を引かれて神父様の前で彼に引き渡されるまで、アタシ達は会えないわけです。

 と言っても、衣裳を決める時は彼も立ち会った上で、ああでもないこうでもないとこの人が一番口出ししてきてやっとの事で決めたから、アタシのドレス姿なら試着の段階でもう見ちゃってるんですけどね。

 まあ、慣習なんてそんなもんです。

 

「そうですね。わかりました。

 じゃあ着替えますから、一旦カーテン閉めますね」

 何せ今身につけてるのはガーゼ仕立てのネグリジェだけです。

 辛うじて下穿きは着けてますが、胸あてはさすがに外してます。

 ですが、カーテンに手をかけたアタシを制するように、17号さんは開けた窓から侵入して来やがりました。

 

「明日には夫婦になるのに、今更?」

 って今更とか言うな!

 そうですよ夫婦になるのは明日からですからね!?

 夫婦になる前から恥じらい捨ててたら、この先どんどん麻痺していきますからね!?

 大体、一応は毎晩枕並べて眠る関係にはなりましたけど、肌を合わせたのはさすがに雰囲気的に拒みきれなかった最初の日の一度だけで、そこからは結婚前という事でなんとか死守してますから!

 そんなわけで着替えもできずにあわあわしてたら、追い討ちをかけるように、

 

「別にそのままでもいいんじゃないか?」

 なんて言い出すし。ちょっと待て。

 

「何言ってるんですか。

 寝間着姿で外になんか出られるわけ…」

「流星群の夜でもないのに、こんな夜中に、空を見上げる奴なんかいやしないさ!」

 17号さんはそう言うと同時にアタシを抱き上げると、そのまま部屋の窓枠を蹴って、空へ飛び出しました。

 って、どこのピーター・パンですかアナタは──っ!!

 

 ☆☆☆

 

 夜の帳の中、星空を抜け、連れられて来たのは荒れ果てた小島でした。

 

「ここって、確か……」

「オレたちが初めて会って…一緒にセルに飲み込まれた場所だ」

 嫌な事思い出させるんじゃない!

 あの時は、例のPウイルスに罹患して、未来トランクス(ミランクス)さんが持ってきてくれた特効薬(そういえば先日、王立薬学研究所から電話があって、一年後くらいには量産できるだろうって事でした!やった)で命を拾ってすぐに、病院に現れたセルに吸収されるかと思ったら何故か連れ去られてここに来たんでした。

 そして、この人が吸収されるのを阻止しようとして、結局阻止できずに一緒に飲み込まれて。

 でも多分、あの時点でアタシは瀕死でしたから、あのまま吸収されずにいても、恐らく数分後には死んでたと思いますけどね。

 あの時の、地面に叩きつけられるたび全身の骨が砕かれて、肺に肋骨が突き刺さる感覚。

 …今思い出すとゾッとします。

 

「…嫌な思い出だと思ってるだろ?」

「そりゃあ…ね」

「だろうな。

 ここで出会った事実だけは、もうやり直せやしない。

 でも、いい思い出を重ねる事はできる。

 見てみろよ。

 島はあの戦いですっかり荒れたが、海は結構綺麗だぞ?」

 言われて見渡すと、月明かりと星影が海を照らし、夜空の色が水面に映って、空に海に、一面の藍色が広がっています。

 けどそれよりも。

 

「そうですね。

 多分この辺は気候的に、ウミイグアナの生息域です。

 あの子達、ちっちゃい恐竜みたいで、かっこいいんですよ」

「…おまえに少しでもロマンスを期待したオレが馬鹿だった」

 うっ。呆れられてしまいました。

 仕方ないじゃないですか。

 それに、アタシ的に爬虫類の生態は充分にロマンです!

 

「…それで、夢は叶ったって思うか?」

「夢?」

「ここから病院に送った時、別れ際に言っただろう?」

 

 あ。

 

『子供の頃の、つまんない夢ですよ。

 …大好きな人と、結婚したいって、それだけ』

 

 …あは。この質問の意図、判っちゃいました。

 そうですよね。

 アタシ、言ったことなかったですし。

 こんなこと言うと怒られるかもしれないけど…なんか、可愛いです。

 

「まだ、叶ってませんよ。

 

 …大好きな人のお嫁さんになれるのは、明日なんですから」

 

 アタシが言うと、17号さんは優しく微笑み、アタシの肩を抱き寄せました。

 そのまま唇が重ねられます。

 BGMは、波音。

 奏でる海は、瑠璃色(ラピスラズリ)




「鏡花水月」のテーマが「触れられない」的な感じのものだったので、それと対として書いたこの話は「触れられる」でした。
まあどうでもいいことですが。

読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
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