変わっていく日々を君と   作:こーど

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第九話 持つべきものは薄氷で 中

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、ひとしきり首を傾げ合うこととなった私達。

廊下のど真ん中で、顔を突き合わせていながら話をするわけでもなく、ただうんうんと唸る私達は「あ、あんま、みんとこ」って目を背けられるくらいには異様だったと思う。

たぶん、だけどね。

考え事に夢中で周りに目を向けていなかったから、本当のところはわからないままだ。

まぁ世の中、知らない方がいいこともあるよね!

 

そんな世間知らずな私達は謎の迷宮を彷徨うこと、しばらく。

ふと我に返ると騒がしくも賑やかだった廊下は、知らない間にしんと静まりかえっていた。

はた迷惑にも、廊下のど真ん中を占拠していたんだから大層目立っていたはずなのに、誰も声を掛けてこないってこれは……。

 

友人ちゃんと私は「あードン引きってやつっすねぇ」って薄々勘付きながらも、それは口に出さなかった。

その代わり、静粛な廊下で「華のJK的には見過ごせない汚点をなかったことにする案」が無言で可決されることとなった。

総勢二人による満場一致だ。

 

んで、そんなこんなしている内に、いい加減お呼び出しに応えないと、ってことで友人ちゃんとお別れ。

遊びに行くのはまた今度ねって、別れの挨拶を交わしてから私は屋上へと足を向けた。

階段を上へ上へと昇りながら、徐々に冷えていく足元に身が震える。

そもそも、ふつーこんな寒い季節に屋上へ呼び出すかなー?

それだけでも、気遣いが出来るか、否かがよくわかるってものだ。

 

お返事内容はもう決まっているのだし、直接会わずとも間接的な方法でパパッとお返事したいんだけどなぁ。

差出人の名前を書いてないっていうのは、そういうことをさせない為なのかもしれない。

門前払いはさせませんよ、みたいな?

なかなかに策士ではあるけど、その気の回しようは他に使うべきだよね。

 

「はぁぁー……」

 

一歩一歩と屋上に近づくたび、重いため息と冷気が足元で鬱積していた。

とっても、とーっても面倒だ。

見なかったふりをして友人ちゃんと遊びに行けたなら、どれだけ良かっただろう。

 

本当は行きたくない。

私を知りもしない人の告白なんて、聞きたくもないんだ。

だけど、私の内心を知っているはずの足は、律儀に屋上へと歩を進める。

無視するのは簡単だけど、こんなことで後に禍根を残すのも馬鹿らしいでしょ?

だからさ、行っておかないと、って身体が私を説得しているようだった。

 

「あぁーあ……」

 

……前はどうだったっけかなー?

そう、前のわたし。

友人ちゃんが言っていた、今の私が変わった後ならば、変わる前のわたしはこんな時どうしていたんだろう?

 

ざっと記憶の中を探してみる。

けど、どうにも心当たりがある場面が思い出せなかった。

……あーそういえば。

全然ピンとこないけど、その前のわたしってのは、今と違って告白を受けることに面倒とか、嫌だとか、そんなこと思ってなかったような気がする。

どんな人かなーだったり、どうしよっかなーとかだったり、わくわく感……高揚感って言うのかな?

そんな感情ばっかり抱いていたような。

だから、嫌な時はどうしてたってのを思い出そうにも、何も浮かばないんだろうな。

嫌だったことなんてなかったんだから。

もう、前のわたしの役立たず……。

 

「…………」

 

駄々をこねる精神よりも、大人の対応をしていた足がぴたりと動きを止めた。

目の前には、鉄扉がある。

触らなくてもわかるくらい、いかにも冷たそうだ。

なんとなしに足を止めたまま、ぼんやりとその鉄扉を見ていると、つい先日の嫌な思い出が脳裏を過ぎった。

 

治まったはずの飲み込まれそうなほど深くて冷たい感情が、あの時の記憶と一緒に沸々と蘇ってくる。

……って、違う違う!

あれはもう過去のことで、終わったことなんだ。

ほんの少し狭まった視界を、ぶんぶんと頭を振って元に戻した。

一度、大きく息を吸って、

 

「よし!さっさと終わらせよっ!」

 

と小さく気合を入れから、少し重たい鉄扉をこじ開けた。

身が縮むような寒さを纏った風が、風切音で歓迎するみたいに押し寄せる。

かと思うと、強引に私をすり抜けて、後ろの方へ去っていく。

そんな身勝手な風に髪を遊ばれながら、夕日に照らされた屋外へと進む。

 

……あの人かな?

そこには一人ぽつんと佇む、背中があった。

フェンスに寄りかかっていて、どこかを眺めているみたいだ。

窺うみたいにそっと近づいていく。

すると、鉄扉の掠れた声で気が付いていたのか、私が声を掛けるよりも先にくるりとその背中は振り返った。

沈みゆく夕日を背に立つその人は、私の姿を見てどこかホッとしたような、そんな微笑みを見せる。

 

……んん?

この顔、どっかで見たような?

制服はうちの高校のものだ。

まぁ、ここへ呼び出すのだから総武の生徒だよね。

じゃあ、校内のどこかしらで見かけたのかも。

 

さり気なく全体を一見する。

……まぁ、爽やか?

そんな感想しか思い浮かばなかった。

印象に残る人ではなさそう。

だけど、記憶の片隅で埋もれながらも、確かに残っているような。

でも、誰かはわからない。

 

むーん。

なんだろ、この感じ。

知り合い未満、赤の他人以上みたいな?

って、ほぼほぼ関係ない人じゃんそれ。

 

「きて、くれたんだな。……ありがとう」

 

爽やかそうな男子生徒改め、私の中では爽やか君と名付けられたその人は、私がただここへ来ただけだと言うのに、幸せを噛みしめるみたいにして感慨に浸っていた。

その姿。

それに、私の視界はスッと細くなる。

 

「…………」

 

来てくれた、ねぇ。

なんだか、とっても気に食わなかった。

鞄に紙切れを挟むなんて、そんな一方的な渡し方で、名前もそのヒントだって書きもしなかったのは誰なんだか。

ほんとに来て欲しいなら、直接渡すとか名前くらい添えるとか、せめて学年くらい書いておくべきでしょ。

 

こんなの悪戯の一種に見えなくもないし、普通の人なら無視されても責めれないよ。

そんな手紙を寄越した張本人が、あろう事か「来てくれたんだな」、なんて言って嬉しそうな表情するかなぁ。

まぁ、簡単にまとめたら。

……すっごい白々しい。

 

「ううん、お礼を言われることじゃないよー。で、何か私に?」

 

ご用事ですかねぇ、って続けようかと思ったけど、不信感を表情に出さないでおく自信がないからやめておいた。

反感を買われることは、極力避けるべきだもんね。

ぶつ切りにされた言葉と一緒に、爽やか君へ歩み寄っていた足も止める。

 

ここで、もう十分だと思ったからだ。

この人には、これ以上近づかなきゃいけない、そんな価値があるとも思えなかったし。

不自然に距離が空いたままの私と爽やか君。

その間を通り易そうに風が悠々と吹き抜けていく。

 

「お、おぅ。えっと、な」

 

違和感のある距離に、爽やか君は少し戸惑っていた。

上手く会話の糸口を掴めないのか、いくつか舌をもつれさせる。

少しの間。

それから取り直すように大きく深呼吸して、「よしっ」って掛け声と一緒にこっちを向いた顔には、さっきの緩みを微塵も感じさせない澄み切った真剣な表情があった。

 

「いろは。俺はいろはのことが好きだ。だから……付き合って下さい」

 

放課後の屋上。

二人っきり。

綺麗な夕日。

真剣そうで、本気そうな表情。

それらを揃えて、爽やか君はそう言い切った。

最高ってまではいかないけど。

でも、学校の中で揃いうるものを上手く使った、なかなか雰囲気のいいシチュエーション。

 

この日のことを一生懸命に考えて、下見だってしたんだろう。

……色々と頑張ったんだろうなぁ。

そう私に思わせるくらい、爽やか君の熱意が伝わってくる告白だった。

 

もちろん、台詞を言い切った後も真剣な眼差しは、一時も私から逸らされることはない。

すっと、しっかりとこっちを見つめている。

誠心誠意。

そんな意思をその瞳で表していた。

相手のことを、きちんと想った情熱が溢れる告白っぽい。

私はそんな告白に……いや、この人に今までにないくらいで、これ以上ないくらいに―――

 

「お断りします」

 

―――苛立ちと不快感を覚えた。

空に浮かぶ夕日は、無遠慮な輝きで私を煽り始める。

 

「えっ……?」

 

粘りつく疼痛。

鬱陶しい不愉快さは、そんな感覚で私を飲み込む。

目の前の男は「な、なんで?」と小さく口を動かすのがやっとで、真剣な表情も崩れてしまって呆然としていた。

たぶん、私が突然表情を消したこと、そしてなんの考慮もない告白の返答に、頭が追い付けていないんだろう。

 

……わざわざ、それに答えてあげる義理はないよね。

小さな呟きは聞こえない振りをして、頭を一度深く下げた。

折角、行きたくもないし面倒だけど、後顧の憂いのないようにってここまで来たんだ。

これ以上乱雑に扱って、ここで変な逆恨みを買っても面白くない。

最低限だけど、でもこれくらいはしておこう。

 

そして、頭を上げても相手の顔を見ること無く、くるりと反転して鉄扉へと歩き出す。

やいのやいのと言われない程度なら、もう無愛想だと思われても構わなかった。

だって、もう見たくなかったから。

もう、これ以上はこの場にも居たくなかったんだ。

だって。

 

―――もう、あんな安っぽくて軽い、上っ面だけのものに晒されたくはなかったから。

 

始めの白々しさから、おぼろげには感じていた。

それが誰かに似ているって。

そのぼやけた人影は記憶の中を探さなくっても、この男を見ていると僅かずつ鮮明になっていった。

相手のことを何も知らないのに、使われる「好き」なんてそんな言葉。

感情の動きを理解して、狙ったシチュエーション。

見え隠れする打算の上に被って、張り付けた表情。

仮面。

 

「……っ!」

 

爽やか君には何の罪もない。

白々しくても、打算があろうとも、別にそれは罪ではないんだから。

だから、これは私の八つ当たり。

いつもなら、こんなことしないんだけど。

でも、爽やか君の後ろにチラついている、その誰かが私にそうさせていた。

嫌だ。

あんなの見たくないし、聞きたくもない。

だって、だってあれは。

 

―――私がやっていたことだから。

 

まるで映し鏡だった。

薄く重なって見えていたのは、葉山先輩へ告白したあの時の私。

爽やか君から感じたものは、私自身のものでもあったんだ。

 

あの時の自分がやっていたことを、こうだったんだぞってまざまざと見せつけられているみたいだった。

晒す側から、晒される側へ。

そして見えた、滑稽なその姿。

 

こんなにも酷いなんて思わなかった。

あんまりにも醜くて、だから、直視が出来なかった。

これもまた、彼が言った「自分は自分じゃ見れない」って当たり前の言葉に、ひっそりと隠されている一つなのかな。

もしそうなら、大当たりだ。

現に私は、私をこれ以上見れない。

私の影を背負った爽やか君を見たくない。

憐れなその姿にこんなことを私はやってたのか、っていう後悔が打ち付けられるから。

精神的な衝撃は、身体まで揺らしてしまいそうだった。

 

それと同時に。

そんなものを見せるこの人を、嫌な人だと、憎い人だと咄嗟に拒絶した。

……いいや、そうじゃない。

この人を、じゃないんだ。

自分自身の醜さを、否定したかったんだ。

これは、流石に間違いようもないや。

あれ、あれだよ、そうあれ。

よく聞く……そうそう、これって同族嫌悪ってやつだ……。

 

身体から力が抜けて、倦怠感が体の芯に居座っていた。

それとは逆に抜け落ちた表情は、のこのこと今頃戻ってくる。

歪なそれ。

苦笑いなんてものじゃない。

苦痛で引き攣ったその上に、呆れを通り過ぎたことで浮かぶ、自棄な乾いた笑顔が重なったそれ。

……こんなことになるなら、やっぱり来なきゃ良かった。

無視して被る悪いイメージなんて、そんなの放っておけば良かったんだ。

こんなものを見せつけられるより、そっちの方が断然いい。

そのくらい酷いんだ。

 

「っ!いろはっ!」

 

鉄扉まで、あと数歩のところ。

そこでさっきまでとは違う、澱みが表に滲んでいる声が私の背中に浴びせられる。

 

「まさか、や、やっぱりあいつと付き合ってるのか!?もし、もしもそうなら、今すぐ別れたほうがいいって!あんな最低な奴、いろはに相応しくない!」

 

耳を塞ぎたくなる醜さを、これでもかってくらいに乗せた声でそう叫ぶ。

かと、思えば「いろはなら、わかるだろ?」と声色を落ち着けて諭そうともする。

 

「あんな奴と付き合っても、なんの得にもならないってことぐらい。周りの奴らから馬鹿にされるぞ?あんな暗くて、ダサくて、ツレがいなさそうな奴と付き合ってんのかって。それにあいつの話、ぜってぇつまんねぇだろ?」

 

止めどなく回る口は彼への勝手な偏見を押し付ける。

ちらりと、肩越しに振り返った。

そこには、両手を広げて訴えかける爽やか君がいる。

いや、もうさっきまで感じていた爽やかさなんて、微塵も残ってなんかいなかった。

じわりじわりとにじり寄って来ながら「そうだろ?……そうだよな!」って、私の意見も聞かずに決めつけている。

 

「ならさ、俺と付き合っとこうぜ?俺が彼氏なら馬鹿になんかされないし、ツレもかなりいるしさ。むしろ自慢できるだろ?いろはを楽しませる自信だってある。だから、なっ?」

 

そうやって自身を誇張する男は、私のすぐ近くまで這寄っていた。

これだけ近ければ、ちらちらと覗く男の口角が、不気味に吊り上っているのもよく見える。

 

「…………」

 

私はそんな男に、もう苛立ちも不快感も覚えなかった。

ただただ、憐れにしか思えなかったんだ。

この男の言う、好きってのはただの道具。

飾りだ。

その言葉通りに、周りに自慢する為のアクセサリーとしか相手を見ていない。

ゲスびた笑みは言葉よりも分かり易くも……ううん、易過ぎるほど雄弁にそう物語っていた。

 

……最低だ。

そう思う。

けど、それもまた。

いつかの『わたし』と同じだった。

 

「イエスってことだよな?動かないってことはそうなんだよなっ?」

 

都合のいい解釈をしながら、眼前まで伸ばされた男の手。

それよりも先に、私は違うものに捕らわれていた。

違うんだ、と。

絶対に違う、ってそんな考えに。

 

もう私はやめたんだ。

上っ面や、偽物を追いかけることはやめた。

だから、こいつとは違う。

こんなのとは違う。

何もなくて、空っぽな自分を隠す為にしていた、あの頃と今は違うんだ。

私はもう、違う。

 

……そうだ。

変わる、いや、もう変わったんだ。

友人ちゃんも言ってたんだし、きっとそうだ。

そうに違いない。

そうじゃないと、嫌だ。

だって、じゃないと私はこいつと―――

 

「あー、なんかこっちで大声がしたんだけどー」

 

「おっ!?えっ、あー……オォ、オレモキコエタナー」

 

「だよねー。先生呼んでこよーかー」

 

「っ!?」

 

そんな何処かで聞いたことがあるような声で、私は我に返った。

目の前には伸ばされた手と、男の驚いた表情。

咄嗟に数歩、距離を取る。

男は私を追いかけるように足を前へと踏み出そうとして、でも、それを止めて周囲に視線を巡らせた。

 

誰かいるのかと私も見渡すけど、私とこの男以外には誰もいない。

……どこから、声がしたの?

って、考えるのも数瞬。

男が誰もいないけど声が聞こえたってことに茫然としている隙をついて、素早く鉄扉を開けて階段を駆け下りた。

ばたばたと慌ただしい足音を振り撒きながら、廊下に出る。

放課後になってそこそこ時間は経っているけど、そこには少数の生徒が残っていて楽しそうにふざけ合ったり、談笑したりしていた。

 

人気があることに胸を撫で下ろしてから、荒れる呼吸を整えもせずに振り返る。

駆け下りたばかりの階段。

上の方まで仰ぎ見るけど、どうやら追いかけては来ないみたいだ。

もう一度、「ふぅ」って大きく息を吐く。

けど、この階段の先に何がいるのかを思い出して、すぐに顔が強張った。

それは、あの男が怖いとかじゃなくって、

 

「…………」

 

この階段の先に、前の『わたし』がいるからだ。

 

「……見つけなくちゃ」

 

薄暗い階段の先を睨みつけながら、小さく呟く。

私が変わったと確信する為に、まずはその理由を見つけないと。

屋上へ行くまでは、どちらでもいいものだったのに、今では絶対に必要なものになっていた。

そうしないと、私は同じになってしまうから。

あの醜くて、空っぽなあの男と。

 

「っ!」

 

刺すような冬の寒さとは違う、仄暗い冷たさが身体を這った。

……もし、絶対にないけど、だけど、もしも。

私が本当は変わってなんかいなくって。

今もあの男と同じ、醜くも何もない奴だったとしたら。

……そんな奴は、ダメだ。

あの三人の傍に、いていいわけがない。

 

「違うっ……私は、もう違う」

 

自分を隠すように、壁へ身を預けた。

頭を振って、浸食する暗がりを振り払う。

怖い。

心の底からそう思った。

やっと、やっと入れたあの輪から、私だけが外れてしまうのがとても怖い。

あの人達は私にとって本当に大切な人達で、かけがえのない人達だから。

だから、失うのが怖い。

とっても。

 

「……ぁ」

 

こんな思いするくらいなら、あの人達から逃げてしまおうか。

そんなことを考えてしまうほど錯乱してしまって、逃げてしまいそうな私の心。

いや、もう端っこの方ではどうやって逃げるか、その方法を探していた。

そのくらい、怖いんだ。

大切が無くなるってことは。

 

―――ホントに大切な人だから。

 

隅っこから欠ける暗い意識の中で一筋の暁光が射した。

そうだ、結衣先輩はこう言ってたんだ。

不安はそれだけ一生懸命に、考えてるってことだって。

……だから、ここで逃げちゃダメ。

この怖いは本当の大切じゃなきゃ、感じることが出来ないんだから。

 

―――途中で諦めたり、楽な道は選びたくないから。

 

結衣先輩の言葉と、私の想いが交じり合った。

あの三人は、こんな不安と何度も何度も戦いながら進んできたんだろう。

なら、私だって。

 

「……逃げない」

 

知らず知らずに、俯いていた顔を上げる。

息を強く吐いて、階段の先を睨みつけた。

これは宣戦布告だ。

胸の内で好き勝手に暴れる恐怖への徹底抗戦の第一歩。

 

見つけてみせる。

理由と、そして確信を。

それで、証明してやるんだ。

やっぱり私は、あの三人の傍にいてもいいんだってことを。

誰にでもない、私自身に。

 

壁を押し退けるみたいにして体勢を立て直した。

何かに擦り付けるんじゃなく、しっかりと自分で立った。

退かないつもりで勇ましく、私は前に一歩踏み出す。

それはさっきよりも、ずっと重みを持っていたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九話 持つべきものは薄氷で 中

 

 

 




 









お疲れ様でした。
拙い文章にもかかわらず、ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


第九話『中』、大変長らくお待たせいたしました。
『上』を投稿してから一か月。
ふ、ふふふ……長く掛かってしまいました。
こ、こたつのせいではありませんよ?


気が付けばもう、十二月も半ばですね。
今年も残すところあと少し。
今日を入れて十七日しかありません。
皆様は今年にやり残したことはありませんか?
あるのならば、まだ間に合いますよ!
……間に合いますよね?



こほん。
それでは、皆様。
また近いうちにお会いできることを、心待ちにしております。










×××裏物語×××



放課後、とある場所での小声の会話。


「あいつが屋上から居なくなるまで声出すなよ?我慢しろよ?……フリじゃないからな?」

「大丈夫だって、わかってるよ。……ぷっ、くくくく。や、やめて比企谷、笑わせないでよ」

「なんもやってねぇよ……」

「だって、おっ!?だよ。おっ!?って……だ、だめ。が、我慢しすぎて……くくくく、お腹いたいっ」

「これ以上、俺の傷を抉らないでくれませんかね……。オットセイぽかったのは自分でもわかってるから……」

「ふーっ!ふーっ!」

「川崎、笑うの我慢しながら思い出させるなって目で睨むなよ。くっ、くく……お、俺も笑っちゃうだろうが」

「や、やめて。ほんとダメ。わ、笑うのやめて。移る」

「お、お前もだろ。や、やめろ。……だ、だめだ、腹痛いんですけど」

「く、苦しいっ……くくくく」

「うくぅっ。く、くくくく、死ぬっ」




  

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