変わっていく日々を君と   作:こーど

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第十話 罪の告白流れゆく 上

 

 

 

 

 

流れていく時の中で何かが流行って、何かが廃れるってことはよくあるんだと思う。

それは世界の経済とか国家そのものだとか。

もちろん、そんなスケールの大きなものだけじゃなくって、小さな枠組みでもそれはあることで。

ブレーク中の芸能人さんとかヒット商品だとか流行語とか、まぁそんな感じで色々。

 

そして、それよりもっともっと小さい枠もあって。

人一人、個人っていう枠組みがある。

と、まぁここまで語ったけど、つまり言いたいことはこのことで。

今、私の中にも流行ってのが出来上がっている、それが言いたかったの。

いや、それだけを言いたかったんじゃなくって、まだ続きがあるんだ。

 

その私の中で流行っているものが問題なの。

それは、……うーむ。

これがなかなか、どんな言葉で表すのがいいのか難しい所なんだけど。

そうだなぁ、一言で言っちゃえば。

告白。

ってことになる、かな?

 

……あぁ、そうだよね。

なんの説明もなくポッと告白とか言われても、色々種類があるじゃないかってなるよね。

それは、たとえば恋の告白だったり。

それは、もしかすると罪の告白であったり。

辞書なんかだと、えっとたしか、秘密にしていたことを打ち明けること、とかそんな風に書かれていた気がする。

 

言っていなかったことを言う。

ただそれだけのことでも、告白って言葉を使って間違いはない。

そう考えると、思っていた以上に広く使える言葉だよね。

あ、別に誰彼構わず、その告白ってのをしているから私の中で流行っている、なんてそういうわけじゃないよ。

良く使うから流行っているんじゃない。

それについて私の中で持ち切りになっているから、流行っているって言い方をしてるんだ。

 

持ち切り、流行っている、って表現もちょっと使い方が違う気もしなくもないけど。

いっぱいになっている、なんて表し方じゃなんだか違う気がするから、そうしているだけなんだけどね。

 

告白が流行っている。

ちょっとおかしいよね、これ。

語感的にもなんかいやーな印象。

というより、違和感がある。

そんなの普通は流行んないでしょ、って。

 

じゃあ、なんでそんなのが私の中で流行っているのか。

それはたぶんだけど、あの屋上での告白がきっかけだったんだと思う。

そりゃ、あの人には全然いいイメージはないし、あの告白は裏があり過ぎて私が思っているのとは違うけど。

だけど、あの時。

好きですって言える、それだけは羨ましく思った。

私もこの胸の奥で育てている温かで穏やかな、でも、熱くて激しい想いを伝えれたらって思ったんだ。

 

まぁでも、あの後に変わった理由とかを一生懸命探していたから、そのことについてあんまり考える時間はなかったし、そのお蔭か一旦落ち着いていたんだけどね。

それも、雪ノ下先輩とのお話をすることで解決……じゃないか。

むー、とりあえず一段落みたいな?

そんなこんなで、頭のテーブルがそこそこ片付いて考える時間が出来ると、あっという間に意識はそっちに向かっちゃった。

 

彼に伝えたい。

彼に聞いて欲しい。

初めての溢れて零れて、それでも枯れることないこの想いを。

愛の告白を。

 

でも、私にはそれが出来ずにいた。

躊躇していたんだ。

彼に告白して断られるかもしれないってのもあるけどさ。

でも、それよりも私を躊躇わせることがあった。

 

私には告白する前に、『告白』しなければならない人がいるってことがそうさせた。

それは一人じゃなくて二人。

雪ノ下先輩と結衣先輩。

いや、別に愛の告白をするってことじゃないよ?

私はそっちじゃないから!

ノーマルだから!

 

二人にする告白は、私が彼のことを好きなんだってことを伝えるものなの。

そんなの別に言わなくてもいいでしょ、そう言う人は多いと思う。

恋愛は奪い合いだ、なんて言ったりすることもあるし。

たぶん、前の『わたし』ならその言葉に同意していただろうし、二人に告白しようとすら思いつきもしなかっただろう。

そんなの早い者勝ちだよ、くらいは言ってのけたかも。

 

でも、それは前の『わたし』で、今の『私』はそうじゃないんだ。

大切な二人だから正面からぶつかりたい。

だから告白の前に告白する。

隠さず、打ち明けたい。

私の想いを。

聞いて欲しい。

 

……なのだけど、それがどうにも出来ない。

後ろめたさが、二人への告白を阻んで躊躇わせる。

好きになってしまったことが、私にそうさせるの。

前から知っていたから。

あの二人が言いはしないけど、彼のことを想っていることを。

 

きっと好きなんだろう、ってけっこう前からわかっていたんだ。

なのに、私は彼を好きになってしまった。

気が付いた時には、好きになってしまっていた。

二人より後に、そして遅くに。

 

自惚れるような仮定の話だけど。

そんな私が、もしかするとその二人の好きな人を奪うことになるかもしれない。

それは、あの二人への裏切りになるんじゃないの?

あの三人の輪に入れて貰った私が図々しくまだ求めて、そんなことしてもいいの?

そんな暗がりの罪悪感に苛まれる。

 

二人に伝えたい。

二人に聞いて欲しい。

この罪の告白を。

 

流れてきては、流れて行く。

そんな不毛なことを、何度も何度も繰り返す。

川の水は途切れない。

告白という水は枯れてはくれない。

何度だって、意識の川を流れて行くんだ。

 

 

 

 

    ×  ×  ×

 

 

 

 

 

月日は流れて、卒業式の日取りが両手と少しで数えられるくらいに迫ってきた。

今までちらほら見かけていた三年生を滅多に見なくなった学校は、二年生や一年生が居てもなんだか物静かになったみたいに感じる。

まぁ、感じるだけでそうではないんだけど。

 

実際には、気の早いお祝いムードと三月下旬に控える春休みが見えてきたわくわく感とが混ざり合って、それもうふわふわしている。

ふわっふわなの。

もう中には「フッワフッワ」なんて言っている陽気な人達もいるくらい。

……これが噂のパーティーピーポー。

都心から離れたここでも、そんな人種が見れるとは。

 

そんな今までの日常と少し変わった非日常を楽しみながら、ほとんどの生徒は来る卒業式と終業式をまだかまだかと待ち望んでいた。

これが卒業式あんど終業式待望派の近況である。

じゃあ私は、と言うと。

楽しそうなぴーぽーを恨めしく思いながら、

 

「うーむー。やわらかな春風にぃー。春風にぃー?……あーもうっこの春風ぇ!」

 

思いっきり頭を抱えていた。

……えぇ、私は少数派の卒業式あんど終業式来ないで派です。

私だって前は待望派だったよ、もちろん。

でも立場が違えば状況も変わるってもんだ。

それもこれも。

 

「ぬぅー、心華やぐ季節になりました、かなぁ。……まだ寒くてぜーんぜん華やがないけど」

 

今、私がとっても苦戦しているこれ。

卒業式で私が壇上で読み上げないといけない、この送辞が原因なんだ。

パパッと書いて終わらせたいんだけど、これがなかなか終わらない。

 

聞く分には長ったらしくて早く締めればいいのにって思っていたけど、こうして書いて読む側に回ってみれば、そうはいかないのがよくわかる。

「ご卒業、おめでとうございます。以上!」みたいに短すぎると先生から却下をくらうし、かと言って、長々しく書くと聞いてる人はダレるし、読む私的にも困る。

文量を調節しながら、それでいて三年生への感謝とか思い出話を盛り込まなきゃいけない。

そもそも一年間しか同じ学校に居ない人との思い出話、ってその時点で無理があると思うんだよねぇ……。

 

「確かに本来は二年生の役目でしょうね。関わりの薄い一年生に言われても違和感しかなさそうだし。でも、まぁ仕方ないわ」

 

生徒会長だもの、と最後に付け足して、同じ長机に椅子を並べるその人は手元にあるカップを口に運んだ。

優雅に紅茶を楽しんでいるその姿は、頭を抱えてあーだこーだと唸っている私とは大違いだ。

その余裕が羨ましいぃぃぃ。

 

「むーそうなんですけどぉ……。これ、全然進まないんですよー」

 

卒業式まではそんなに余裕があるわけじゃない。

もうすぐそこまで来ている。

書き上げた後には推敲もしないといけないし、声に出して読む練習もしなくっちゃだし。

それに加えて、生徒会に押し付けられている卒業式の準備もまだまだある。

なのに、目の前に置かれた式辞用紙はほとんどが白紙で、これだけ見ても先が思いやられてしまう。

 

「だいじょーぶだいじょーぶ。いざとなったらゆきのんがパパッと解決してくれるから。ねーゆきのん?」

 

明るめの髪をぴょこぴょこと揺らしながら、その人はゆきのんこと雪ノ下先輩に信頼の笑顔を向ける。

屈託のないそれをふんわりと受け止めて「パパッといくかはわからないけれど。もし必要ならいつでも力になるわ」と雪ノ下先輩は答えた。

 

「ふふーさすがゆきのん!いろはちゃん、困ったらあたしにもどんどん頼っていいからね……ってあんまり役には立てないかもだけど」

 

「いえいえーそんなことないですよー。困ったときは遠慮なく頼っちゃいますから。雪ノ下先輩にも結衣先輩にも」

 

そう言うと二人は「おっけー!まっかせて」と「えぇ」って短く返した。

二人の心遣いがとってもありがたい。

一人で背負い込むのと、頼れる先輩達が後ろ盾してくれるのとでは気の持ちようが違う。

 

そんな心情が乗り移ったのかな。

下書き用の鉛筆がさっきまで重くて滑りが悪く思えていたのに、今はすこし軽くて滑らかに文字が書けそうな気がした。

よーっし!

なんだかやる気出てきた!

とりあえず、どうにもならなくなるぎりぎりまでは一人でやってみるぞーっ!

 

「ヒッキー国語得意だし、三人揃えばカンゼンムケツってやつだよ」

 

「まぁ比企谷くんが書くと、ずいぶんと捻くれた送辞になってしまいそうだけれども。……進路調査票みたいに」

 

いざ真っ白な紙に筆を走らそうとした時。

雪ノ下先輩と結衣先輩の会話が耳に入って、ピタリと私の動きが止まる。

いや、会話じゃなくって私の意識を掻っ攫ったのは同じ人物を指す言葉だった。

ヒッキーと比企谷くん。

それは、今この奉仕部の部室に居ない最後の部員。

その彼の名字とあだ名であって。

そして、私の好きな人だ。

 

「…………」

 

ちらりと横目で二人の様子を窺う。

二人は私の変化に気が付くことなく「何回目の呼び出しなんだろー?」とか、「間違いなく片手では収まらないわね」だとか楽しそうに話をしている。

変わった様子はない。

 

なんでかちょっとホッとした。

そして、そりゃそうだよねって思った。

ただ彼の名前が出ただけじゃないか。

そんなことで何かあるわけなんかないよ。

 

この二人の中じゃ、彼の名前が出てくるのは普通のことで、当たり前。

日常だ。

私が一方的に思い悩んでいるだけで、口に出さない限りは二人に影響があるわけじゃない。

今は何も知らないんだ。

そう思うと透明の吐息が小さく小さく零れる。

真っ白な式辞用紙にうっすらと私の苦笑いが浮かんた気がした。

 

……ダメダメ。

自嘲しても何も変わんない。

前に進みたいなら、そんなことしてる場合じゃないでしょ。

頭を軽く振って、それをすぐに引っ込めた。

言おう。

彼が居ない、今、ここで。

二人が揃っているここがチャンスだ、と自分を奮い立たせて顔を上げた。

 

「今回はなんて書いたのかな?」

 

「呼び出されるほどなのだから……専業主夫とかかしら?」

 

「あー……。それ、すごいありそう。んで、ヒッキードヤ顔してそう」

 

「……また、ここまで引き摺って来られないか不安だわ」

 

そこには、柔らかで自然なやり取りをしている二人がいた。

目の前には二人が彼のことを好きだってわかっていながら、それでも彼を好きになってしまった私がいるのに。

 

もし、もしもだけど。

私が彼に選ばれたら、二人のその恋心は無残に散ってしまうのに。

これから、私が不意打ちのような宣戦布告をしようと言うのに。

だと言うのに、二人はとても無防備だった。

 

どれだけの可能性があるかなんてわからないけど、もしかしたら二人の好きな人が奪われるかもしれない今の現状。

なのに、二人はそんなこと露程にも思っていない。

そんな二人に決心が揺らいだ。

 

ダメだってば。

自分を叱咤する。

後回しにしても、楽になんかならないよ。

二人だって彼のことを好きだろうけど、きっとそれに負けないくらい私も好きなんだから。

このまま諦めるなんてそんな選択肢はない……はず。

 

「あ、あのっ!」

 

無理やり押さえつけるように意を決して、二人に声を掛ける。

柔らかい表情はそのままにして、どうしたの?って言いながら二人はこっちを向いた。

 

「えっと、私。その、二人にお話しが……ありまして」

 

尻つぼみに小さくなる声でなんとか言い切る。

二人は小さく首を傾げたけど、そのまま黙って私の続きを待っていた。

 

「あのっ。わ、私―――」

 

彼のことが好きなんです。

とっても、とっても大好きなんです。

 

「いろはちゃん?」

 

「一色さん?どうかしたの?」

 

それが、どうしても出てこなかった。

心のどこかで止められて、私の外へ連れてこれなかった。

不自然に空いた会話の隙間。

それがよくわかんない重みとして圧し掛かかって、私の声を消してしまおうとしていた。

ここで諦めっちゃだめ、もう一回だ。

そう思って俯きかけていた顔を上げる。

 

「―――ッ」

 

思わず息を飲んだ。

ううん、もう私の心臓が止まったんじゃないかって思った。

 

ばったりと合ってしまったんだ。

今の私が触れれば汚してしまいそうなほど、透き通った雪ノ下先輩の瞳と。

それを汚したくなかったのか、それとも私がその瞳を見続けられなかったのか、逸らそうと思って横を向いた。

何も考えずに目線を動かすと、そこには結衣先輩が居て、

 

「……ぁ、えっと。じゃなくって」

 

吸い込まれるように今の私を全然疑っていない、そんな無邪気な瞳と鉢合わせをしてしまった。

言おうとしていた言葉は、喉元あたりでつっかえる。

 

会話にならない言葉を一人で転がして、私はまた式辞用紙に目を向けた。

折れてしまっていた。

跡形もなく。

さっき決意したことが二人と目が合った、ただそれだけで。

それも折られたんじゃなくって、勝手に折れてしまったんだ。

 

「そ、送辞!これっ書くの難しいですねー」

 

だから、へらへらとした薄笑いを張り付けて私はそう言った。

この場凌ぎだ。

それが一体、何から凌いでいるのか自分でもよくわかんなかった。

 

そんな私を二人が訝しむ。

そりゃ、そうだよね。

どう考えたって怪しいよね。

とりあえず、すこし時間を空けよう。

一旦、この場を離れようってそう思った。

それは、自分自身を落ち着かせる為でもあるし、聞かれても答えられない疑問を投げかけられないようにする為でもあった。

 

「あっ!ちょっと忘れものしちゃったんで生徒会室行ってきますっ!」

 

口を開きかけた二人を振り切るようにして、私は席を立つ。

返答も聞かずに教室を飛び出して特別棟の廊下を走る。

けっこう思いっきり走った。

 

身体の真ん中に纏わりつこうとする仄暗い感情。

それに追いつかれないよう私は走った。

廊下に漂う紅茶の香りは、いつもならじんわりと私に余韻を与えてくれるのに。

今はあっという間にしなくなっていった。

殺風景な廊下の景色はぐんぐんと後ろに流れていく。

 

 

 

 

 

    ×  ×  ×

 

 

 

 

 

「……私達も、そろそろなのかもしれないわね」

 

「そう、だね。……そうなんだと思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十話 罪の告白流れゆく 上

 

 

 

 

 

 

 

 




 









お疲れ様でした。
楚筆な文章にもかかわらず、ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


第十話、開始!
…………。
後書き書く(時間的な)余裕が足りない……っ!

取り敢えず、年末まで今日を入れて残り十一日ですね。
やり残したことは……ま、まだ間に合うはず……。


こほん。
それでは、皆様。
また近いうちにお会いできることを、心待ちにしております。










×××裏物語×××



お休み









  






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