変わっていく日々を君と   作:こーど

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第十話 罪の告白流れゆく 下ー上

 

 

 

 

 

私は今、とある場所を目指して一人で歩いていた。

大きなオートロックの門を潜り、上品な雰囲気が漂うロビーを抜ける。

落ち着いたシックな色合いのエレベーターにこそこそと一人で乗り込んで、階数のボタンを押す。

重厚な扉はゆっくりと閉まる。

そこらのエレベータみたいに独特の機械音は聞こえてこないし、気持ちが悪くなるあの浮遊感もこれにはなかった。

まるで滑るようにして上へ上へと昇って行く。 

 

淡く点灯する階数から目を移すとそこには鏡があって、真逆の私がいた。

つかつかと一人では広すぎるエレベーターの中を数歩いて、その鏡に映る私と手を重ねた。

ひんやりとした感覚。

温かさはもちろんない。

私は小さく息を吐いて、目の前の私と目を合わせ、

 

「なにっ!したっ!のっ!私はぁ!?」

 

鏡じゃない縁の部分をばんばんと叩きながらそう叫んだ。

……いや、何かしたとは決まってないんだけどね。

でも、そうとしか思えなかった。

 

一般家庭生まれの私には、到底場違いなこの高級マンション。

そこに私一人でいるなんて、それ相応の理由がないとこんなことあるわけがないわけでして。

入ることですら縁遠いこの場所に……まぁ縁遠いって言ってもついこの前来たばっかりで、それどころか、一泊までしちゃっているし。

そう考えると意外と身近?

 

「今更だけどすごいよねー。こんなところに雪ノ下先輩住んでるんだもん」

 

装飾の施された内装に改めて感嘆しながら呟いた。

そう、ここは雪ノ下先輩が住まうマンション。

そして私が訪ねに……では無いかもだけど、とにかく目指しているのは雪ノ下先輩の部屋だ。

 

「……あの感じからして遊びに来て、って感じじゃないよねぇ」

 

ここへ来るよう誘われた時を思い出すと、絶望感にふらふらと力が抜けた。

あぁ、これが先生とかの呼び出しだったらどれだけ良かったことか。

何かの手違いがあって、本当は先生が私を職員室に呼び出そうとしていたのに間違えて、とかないかなぁ。

それなら、きっと私はスキップをして先生の元へと向かうのに。

先生のお説教も今なら喜んで聞き入れるっていうのにさぁ……。

 

「はぁぁぁぁぁ……」

 

ついつい大きなため息が出た。

脳裏に浮かぶのは昨晩の夜のこと。

お誘いではなくって、お呼び出しを受けた時のことだ。

 

 

 

その日、彼の力を借りてなんとか下書きを書き始めることが出来た私は、家に帰っても下書きを書いていた。

相変わらず進みは鈍いけど、どうにかこうにか少しづつ進めていると、携帯がぴろんっと音を立てた。

その時の私は筆の遅さからくる精神的な疲れも溜まってきていたから、丁度いいやって鉛筆を放り投げて携帯を手に取ったんだ。

画面には結衣先輩からの連絡を知らせるアイコンがあって、何かあったのかなーと何の気なしにそれを開いた。

そして、私はかなーり驚いた。

もう、すっごく驚いた。

だって、だってだよ?

あの結衣先輩から送られてきた文が、

 

『いろはちゃん。明日の放課後時間あるかな?』

 

だけだったんだよ?

いつもはこれでもかってくらいに絵文字とか、デコ文字とかで賑やかな結衣先輩の文が、その時は嘘みたいにひっそりと静まり返っていた。

どうしたんだろうと思ったけど、まぁ忙しいのかなぐらいで深く考えず、「時間ありますよー。どうかしましたかー?」って返信したら、

 

『じゃあ、ゆきのんの家に来れる?』

 

理由も何も書いてくれなくて、ただこれだけが返ってきた。

流石に私も今度は忙しいのかな、なんて思えずにこれは何かあったんだと確信した。

だけど、「だいじょーぶです」みたいな文を送ったら「待ってるね」ってそれだけが返ってきた。

何かあったのかとか、理由だとかを聞こうにも、以上で打ち切りって雰囲気で聞けず仕舞い。

理由も話してくれず、内容もいつもよりそっけない。

その先にあるんじゃないかって事柄に思い至った時、冷や汗が頬を伝って、手がじんわりと湿った気がした。

もちろん、その後の下書きは手に着くはずがないよね。

 

 

 

そして、時は流れて今に至る。

以上、回想って名の現実逃避終了です……。

少し落ち着いてからよく考えれば考えるほど、これってやっぱり呼び出しだよね。

じゃないと、あの「キレちまったぜ。屋上にいこう」みたいな文の説明がつかない。

 

「あ、あぁぁぁぁぁ……」

 

何をやらかしたんだ私はぁぁぁぁ……。

あぁ、もう眩暈を起こしそう。

くらくらと身体がふらついて額が鏡にぶつかった。

冷たい気がするけど、そんなことは今の私にとってどうでもいいこと。

 

「も、もしかして馴れ馴れしすぎた……?」

 

今思えば、居心地が良すぎて奉仕部に居る時なんかずっとぐでーってしてたし。

雪ノ下先輩には紅茶をいつも淹れて貰ってたし。

結衣先輩が持って来てくれていたお菓子もたくさん食べたし。

彼になんかはストレートな物言いしちゃってたし。

あれ?

これって私、ふつーに考えたら呼び出しされても仕方ないレベルの後輩じゃ……?

 

そんなことに今更気が付いたのと時を同じくして、エレベーターがなんの振動もなく動きを止める。

階数を見れば、そこはもう目的の階だった。

良く聞く「チーン」みたいな音なんかは聞こえてこない。

代わりにこれまた、すごく上品な「ポーン」って音が大きすぎず、かと言って小さすぎない音量で室内に響いた。

着いちゃったんですけど。

いや、そりゃいつかは着くけど、まだ心の準備が整ってないのに着いてもらっちゃ―――

 

「―――ちょ!」

 

もごもごと胸の内で言い訳染みたことをくるくると回していると、エレベーターの扉がゆったりと閉じ始める。

慌ててその隙間を縫うようにして廊下へ出ると、扉は私の逃げ道を塞ぐみたいに閉じてしまった。

……早くいけってことですか。はいはい、わかりました行きますよー行けばいいんでしょー。

少し自棄っぽく先日も通った廊下を歩いてく。

 

同じデザインの扉をいくつか通り過ぎて、あるところで足を止めた。

緊張でこくりと喉が鳴る。

ついこの前に潜った扉と同じとは思えないくらい、私の力なんかじゃ開けることが出来ないかもなんて思ってしまうほど、今日のそれは重々しい。

 

用事があるんで、みたいな理由で逃げちゃおうか……?

そんな考えが頭を過ぎる。

いいや、ダメだ。

振り払うようにして頭を振った。

楽な道を選ばずに、こっちへ来たんだ。

なら、ここも逃げちゃダメなんだ。

……大層なことを自分に言い聞かせてるけど、お説教が怖いだけなんだけどね。

 

「よしっ!」

 

掛け声と一緒に気合を入れ直す。

及び腰になりかけていた姿勢をぴしっと正して、呼び出しベルを押した。

 

少しの間。

嵐の前の静寂。

そんな独特の無音と緊張感に高鳴ってしまう心音を無理やりに押さえつけていると、扉がゆっくり開き始めた。

スローモーションみたいに間延びした時間の中、はっとする。

 

な、なんて挨拶するか考えてなかったっ!

どうしよ、どうしよ!?

まだお説教って決まってないから殊勝な態度をするのも変だよね。

でもでも、くだけ過ぎてるのもダメだよね……?

と、取り敢えず臨機応変でいくしかないっ!

相手の出方を窺いながら―――

 

「待ってたよ、いろはちゃん」

 

私を出迎えたのは黒髪の女の子ではなくって、明るめの髪色の女の子。

いや、そこまではいい。

うん、それは大丈夫。

家主以外がお客を出迎える、そういう時もあるもんね。

でも、それ以外の衝撃が軽く会釈しようとした私を一瞬で固めてしまう。

 

いや、だってさ。

その女の子のトレードマーク。

底抜けに明るい朗らかな笑顔。

彼女といえばこれで、これといえば彼女。

私の中ではそんな風にまで思っている、そんな彼女の代名詞が、

 

「中、入って。ゆきのんも待ってるよ」

 

今は微塵もなかった。

出てきた彼女の顔には、明るさが抜け落ちてしまったかのような深刻そうな表情しか見てとれない。

 

私、一色いろは。

今日、生きて帰れないかもしれません……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十話 罪の告白流れゆく 下ー上

 

 

 




 









お疲れ様でした。
粗末な文章にもかかわらず、ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


『下』で収まりそうにないので分割……っ!
『下の壱』とか『下ー前』とか、色々悩んだ挙句。
えぇい!シンプルに『下ー上』だ!
ということで、今回は『下ー上』でした。

さぁクリスマスも終わって、今年も残り五日。
一週間切りましたよ……。



こほん。
それでは、皆様。
また近いうちにお会いできることを、心待ちにしております。










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