「よっよっ。」
山吹色の胴着を着た悟空が試合前のお決まりの柔軟体操を入念に行っている。
「ああー。ワクワクすっな。」
悟空は満面の笑みを浮かべ来るべきトランクスの試合を心待ちにしている。
それに比べて悟空の対戦相手のトランクスは…緊張していた。
「まさか、あの悟空さんと戦うことになろうとは。」
トランクスの体内にも流れている半分のサイヤ人の血が騒ぐこともあるのだが、それ以上にトランクスの背後からかかる、彼の父親の猛烈な期待と羨望の眼差しが大いなるプレッシャーとなってトランクスにかかっていた。
(父さんの期待を裏切らないためにも頑張らなくては。)
ただしそのプレッシャーを力に変えることも幾多の戦いを潜り抜けてきて、成長した彼には可能であった。
そしてついに激闘の幕が切って落とされる。
「第三回戦、悟空選手とトランクス選手は武舞台にお上がりください。」
アナウンサーが今回の主役である二人に告げる。
「おっし、行くぞ、トランクス。」
「は、はい。では行ってきます。父さん。」
「ふん、早く行け。」
トランクスは素っ気ないベジータの態度に少しガッカリしながら悟空の後に続いていった。
「本当に素直じゃないな、ベジータは。トランクスがメチャクチャ心配なのによ。」
「う、うるさいぞ、ぶっ殺されたいのか。」
ヤムチャが笑いながら行ったことに顔を赤くしながらベジータは反発したが、その顔の紅潮が怒りからではなく、照れからくるものだと言うのはこの場にいる全てのZ戦士が分かっていた。
(そう言えば悟空さんと手合わせするのは未来から過去に始めて来た時にしたあれ以来かな。)
トランクスは未来から来た時のことを思い返していた。
あの時のトランクスでは絶対に考えられるはずもない、平和な世の中になってからの悟空との戦い。
トランクスは感傷に浸っていると。
「どうしたんだトランクス?」
トランクスに違和感を感じた悟空が心配して話しかける。
「いえ大丈夫です。」
「そうかそれならよかったぞ。
トランクス全力でかかってこいよ。
おらも全力でいくからな。」
共に全力を出して戦うことを約束しあう二人。果たして会場は、いや地球は大丈夫なのか。
「第三回戦、始めてください。」
「行くぞ、ハアアアアア。」
悟空は肩幅に足を広げて気を高める。
そして迸る黄金のオーラ。
会場が鳴動し始める。
しかし、
「まだだ、ハアアアアアッ。」
さらに高まる悟空の気、黄金のオーラが膨れ上がるだけではなく、ついには黄金のオーラを取り巻くようにスパークも走り始める。
「さあ、これが俺の全力だ。
お前も力を解き放て。」
先程ののんびりして、全てを温かく照らすような感じとは全くの逆の、威圧感を溢れさせる悟空。
「はい。俺も全力を出します。ハアアアアアッ。」
トランクスもまた黄金のオーラを迸らせる。
悟空とは違いトランクスは黄金のオーラが増大するのと同時に体が筋肉で肥大化する。
「これが今の俺の全力です。行きます悟空さん。」
「こい、トランクスッ」
悟空とトランクスがぶつかり会うたびに巻き起こる衝撃波で会場内が破損する。
「トランクス、ここでは被害が出る、もっと上空へ行くぞ。」
「はい。」
二人は上空へ舞い上がる。
「おいおい、二人とも見えなくなっちまったぜ。
気で探りながら見守るしかないのか。
おいベジータどこいくんだよ。」
クリリンが舞い上がり二人を見ながらどうしようかと皆に相談しようとするとベジータもかなりの速度で二人を追うように上空へ舞い上がった。
二人が見えなくなった、いや、いなくなった会場は混乱していた。
だがそんな混乱などものともせずに上空では苛烈な戦いが再開されていた。
共に相手の力をその身をもって確かめるべく避けることはしない。
「ぐっ、だあああ。」
「がはっ、まだまだあああ」
互いの拳が互いの体に打ち込まれ続ける。
もうすでに何十、いや何百発と拳を打ち込み、打ち込まれた。
「ふっ、さすがだなトランクス、以前とはまるで別人だ。」
「父さんに鍛えてもらいましたから。」
口に付いた血を拭いながら笑顔で話す悟空。
それを受け素直にベジータのお陰だと笑顔で返すトランクス。
(トランクス……。カカロットを俺の代わりに…)
少し離れた場所ではその戦いをまるで自分が戦っているかのように食い入るように見ている。
「トランクスお前もそろそろ体が暖まってきたんじゃないか。」
「はい。だんだん熱くなってきました。俺もやっぱりサイヤ人みたいです。」
あの戦いはまだ序の口だったらしい。二人とも共に口許にはうっすらと血が滲んでいるが、息は乱れていない。
「おもしれえ戦いはもっとしていたいが、後が控えているからな。これで終わりにする。お前も出しきれ。」「はい。」
悟空は両手を合わせ、腰元まで引き付け構えをとる。
「かーめーはーめー」
そう悟空といえばあの技といえるほどの技。それで戦いを決めるつもりらしい。
トランクスも両手を前につきだし合わせる。
「ファイナル」
(あ、あの技は、俺の…)
「波ーーーーっ」
「フラッシュッ」
巨大な気と気がぶつかりあう。
少し悟空の方押している。
気の総量の違いからくるものである。
「どうしたこんなもんか。波ー」
「くっ(強い、さすが悟空さんだ)」
トランクスの心に諦めが生まれたからか、一気にトランクスのファイナルフラッシュが押され始める。
「トランクスッ。俺の技で負けていいと思っているのか――。カカロットを殺すつもりで力を出しきれ。」
ついに我慢できずにベジータがトランクスに檄をとばす。
「父さん…。そうだ、俺は誇り高き父さんの息子だ。負けるわけにはいかないんだーーーー」
ベジータの檄を受け、トランクスが盛り返す。
「へっ、ベジータ来てやがったか。戦いを盛り上げてくれるぜ。」
悟空はトランクスが盛り返したのを喜んでいた。
「波ーーーーっ」
「はあああああ」
強烈な閃光を辺りに撒き散らし空間に穴が空くような、宇宙が誕生するもとになったような爆発が起こる。
そして雲のような煙が巻き起こる。数刻たち煙から逃れるかのように二つの影が地上に向けて落下していった。