ビーデルの真横をとてつもない速さで何かが飛んでいった。
その何かは遮るもの全てを破壊しながら減速することなく後方へ吹き飛んでいく。
ビーデルの頭の中ではその何かがなんなのかは理解している。しかし、現実ではあり得ないことであるので本能的に分かりたくない、分からないほうが良いと判断したのだろう。
「俺の部下はこんな雑魚に殺られたのか。
使えんゴミどもだ。」
ボージャックは感情が全くないよう能面のような表情でそう吐き捨てる。
そしてボージャックの魔の手がビーデルに延びようとしていた。
「小娘次はお前だ。」
「ひっ!!」
今まで感じたことがない恐怖、今まで考えたこともない『死』が逃れられないものであると理解したのであろうか、逃げようにも体が震えてなにもできない状態である。
ボージャックの手が近づくたびにサタンやカーシ、そして先ほどまで体を張って守ってくれていた悟飯の顔が脳裏によぎる。
これでおしまいかと思った時だった。
「ビーデルさんに手を出すな!!」
怒声と共に現れた黄金の戦士がボージャックを殴り飛ばし、今度はボージャックがあらゆるものを破壊しながら吹きとぶこととなった。
「はあはあはあ、大丈夫ビーデルさん。」
「え、あ、ご、悟飯君!?大丈夫というかあなたこそ大丈夫なの。」
ボロボロになりながらもビーデルを気遣う心優しい悟飯に驚きながらも嬉しくなるビーデル。顔を赤らめながら「ありがとう」と言いなかなか良い感じではあるが状況がそれを許してはくれない。
「小僧なかなかいい攻撃だったぞ。」
遥か後方に飛んでいったはずであったボージャックがいつの間にかすぐ前に立っている、しかもたいしてダメージがあったようにも思えない。
見るに耐えない嫌らしい笑顔さえ浮かべている。
「来いよ、小僧。」
「ビーデルさん、逃げてコイツは僕がなんとかするから。」
そう言うと悟飯はボージャックに飛びかかった。
ビーデルは「逃げて」と言われたが逃げることはできなかった。
恐怖で足がすくんだからではない、先ほども悟飯に助けられ逃げそして悟飯はブージンによってボロボロにされた。
自分が足手まといであることは分かっていたが悟飯を残して逃げることはできなかった。
「だりゃあ、だだだだだだあっ」
悟飯は猛烈な勢いでラッシュをかけるがボージャックはそれを避けることもしない。
笑いながら全ての攻撃を体で受け止めた。
「こんなものか。攻撃とはこういうものを言うんだよ。」
ボージャックの右の拳が唸りをあげて悟飯を襲う。
「―――」
悟飯は声さえもあげることはできなかった、しかし辺りには打撃音だけでなくバキッと何かが折れるような音が鳴り響いた。
「さあ、天国へ送ってやるぜ。」
「やめてーーっ」
ビーデルの悲鳴がこだまするがボージャックはとまらなかった。
もう意識がなく、ボージャックのパンチで宙に浮く悟飯に無情の肘うちが舞い降りた。
悟飯は悲鳴もあげることはなく、そのまま肘うちをまともに受け地面に叩きつけられた。
「悟飯君!!」
ビーデルが駆け寄ったが悟飯はピクリとも反応しない。動くのは悟飯の口から流れ落ちる血液だけであった。
「いやーーー、悟飯君死んじゃいやーー!!」
「大丈夫だ小娘お前もすぐにコイツの後を追わせてやる。」
悟飯に泣きつくビーデルにボージャックは歪んだ笑みを浮かべながら気功波を放つ。
地面を揺るがす爆発が起こり、突風が巻き起こり、砂煙が巻き起こる。
しかし、ボージャックの表情は冴えない。
先ほどまでは愉悦を感じた笑みを浮かべていたのだが、その顔は再び表情がなくなっていた。ボージャックが向ける視線の先にその理由があった。
「大丈夫ですか、悟飯さん。」
悟飯とビーデルを下ろし、悟飯に声を掛けているのはトランクスであった。
ボージャックが撃った気功波が当たる直前に二人をすんでのところで救出したのだった。
「どうだトランクス、悟飯の容態は。」
天津飯が悟飯に声をかけるトランクスに心配そうに問いかける。
「相当酷いですがかろうじて息はあります。
早く仙豆を与えるか、治療を施さなくては危ないです。」
トランクスは淡々と天津飯の問い掛けに答えるがその表情には悲壮感と底知れぬ怒りが現れていた。
未来の世界の悟飯は自分のために亡くなった。優しくも厳しい兄のような師匠だった。
しかし今のトランクスにはその悟飯を救う力がある。
(絶対に悟飯さんは死なせはしない。)
トランクスは決意を決めて立ち上がる。
「お前がどんなやつでも関係ない。
倒すだけだ。」
トランクスは怒りの眼差しをボージャックに向ける。
それと同時にトランクスの気は爆発的にはねあがった。
一緒に来た天津飯とヤムチャも今まで見たことがないほどの怒りを表しているトランクスに驚きが隠せない。
「天津飯、俺は悟飯とこの子を連れて上に戻るがお前はどうする。」
「俺は残る。何もできないかもしれないがな。」
ヤムチャは天津飯の答えを聞くと二人を抱えようとする。
「逃がすと思ったか。」
ボージャックはヤムチャに気弾を放つ。
「お前の相手は俺だと言ったはずだ。」
巨大な気弾を手刀で弾き、トランクスはボージャックに向かって、光すらも越えるような速さでぶつかっていった。
「ほう、凄まじいパワーだ。だが動きが鈍いぞ。」
トランクスは筋肉で膨れあがり、パワーはとてつもなく上がっていたが、やはりセル戦の時と同様にスピードの面を克服できてはいなかった。
トランクスの攻撃をことごとく避け、一撃いれ、怯んだ所で後方で悟飯とビーデルを抱えて飛ぼうとしているヤムチャに気弾を放つ。
「しまった。」
トランクスが身構えた時には遅かった。
巨大な気弾がヤムチャ達に向かっていた。
天津飯が必死でその気弾を相殺しようとしたが、その気はとてつもなく相殺すること叶わずヤムチャに着弾した。
「ヤムチャー。」
天津飯の目の前で焼けただれたヤムチャが落下して、地面に横たわる。
しかし、焼けただれたのはヤムチャだけであった。
ヤムチャは身をもってビーデルと悟飯を気弾からは守ったのだった。
「ヤムチャ大丈夫か。」
「役たたずの俺でもこれぐらいはしないとな…」
駆け寄る天津飯に弱々しくも答えるヤムチャであったが、天津飯にはヤムチャが眩しく見えた。