「バビディ様、私はこれから瞑想をして気を高めて参ります」
「ああ、頼むよダーブラ」
うやうやしくダーブラはバビディに頭を下げると瞑想室に向かっていった。
「ヒヒヒヒヒ、ダーブラが気を高めればあんなやつすぐに倒しちゃうもんね。まあ魔人ブウの肥やしにしてやるのもいいかもねヒヒヒヒヒ」
「俺がなんだって?」
「!!!」
バビディは青ざめながらもソロリソロリと後ろを伺う。
「な、なんでお前が扉には魔術で鍵を掛けておいたのに!?」
明らかに驚き戸惑うバビディの後ろには笑顔のカーシが立っていた。
「魔術なんてなかったぞ。で、俺がなんだって?」
再度問いかけるカーシの声にはかなりの威圧感が込められている。
「ヒ~~~ッダーブラでてこ~い、僕を助けろ~」
バビディは腰を抜かしたまま這って後退りしダーブラが入っている瞑想室の扉を叩く。
無言でバビディに迫るカーシ。
「バ、バリアー」
バビディの回りに薄い膜のようなバリアが表れる。
「ヒヒヒヒヒ、僕だってこれぐらいできるんだよ」
カーシはなおも無言で迫る。
一歩一歩、確実にバビディに歩みよる、死をもたらすために。
「と、とまれよ~。パッパラパ、グゲアーッッ!!」
カーシはバリアごとバビディを踏抜いた。
「俺はお前が嫌いだ!」
カーシは無表情で呟いた。
「あとは、こいつだけか、おーいもういいかい?」
「まーだだよ」
魔人と魔王との声の掛け合いとも思われないやり取りである。
カーシはしばらく待つと再び。
「もういいかい?」
「もういいよ」
プシューっという音と煙とともに扉が開き、目視できるほどの迸る気を纏ったダーブラが現れた。
「待たせたな」
「もうお前の主人はいないぞ。その肉の塊がそうだぞ。それでも戦うのか?」
カーシは元バビディの肉塊を指差しダーブラに尋ねる。
カーシはこの後に本番が迫っているのでできれば戦いたくない、ということでダーブラに提案したのだ。
「そうであってもお前は私の主を殺したことにはかわりない。死んでもらうぞ!!」
ダーブラの体から強大な気と、爆風のような突風が吹き荒れる。
「俺はプイプイやヤコンのようにはいかんぞ!!」
「ごめんな」
「!!」
ダーブラの目の前にはいつの間にかカーシが迫っていた。
ダーブラにはカーシの動きが全く見えていなかった。
それも仕方がないことではある。
復活したての魔人ブウの動きでさえ、捕らえられないダーブラであるうえに、今ではその戦闘力はアルティメット悟飯に勝るとも劣らないほどにまで成長しているのだ。
ということで、カーシが繰り出すショートアッパーを見切ることさえできずにまともにくらい、宙に浮いた所に放たれた右ストレートが腹を抉った。
「グホアッッ」
ダーブラはピンポン玉のように凄まじい勢いで飛ばされ壁に叩きつけられ、倒れ伏した所に崩れ落ちた壁に埋もれもう出てくることはなかった。
「二度もお菓子にするのは可哀想だしな」
カーシはそう言うと気を引き締め直し当初の目的の物に向かった。
「あった、これだ」
カーシの前には脈動する丸い肉の塊のような物があった。
――――
「き、棄権する!」
「な、なに!!」
「ピ、ピッコロさんなんで…」
天下一武道会はすでに二回戦まで進んでいた。
二回戦ではマジュニアことピッコロが得たいの知れないシンと呼ばれる相手と相対していた。
しかし、拳を交えることもなく、ピッコロは棄権したのだ。
シンの力を知ることができると思っていたベジータと、師匠の突然の棄権発言に驚いた悟飯が声をあげたのだ。
ピッコロは白いマントを翻し武舞台を降りると、何か考え込むように無言で舞台裏に帰っていった。
次の対戦相手となるクリリンがピッコロに尋ねると「次元が違う」とだけピッコロが呟いて去っていったので、シンについての謎だけが更に深まる結果となった。
「じゃあ次は私の出番ね!悟飯君私の強くなったところ見ててね」
「はい。ここで見てますよ」
ビーデルは意気揚々と武舞台に上がっていった。
その瞬間観客は総立ちとなってビーデルコールを送っていた。
少し遅れて気まずそうな表情でスポポビッチも武舞台に上がった。
「第三回戦始めてください!」
アナウンサーの掛け声と同時にビーデルとスポポビッチは「行きます」といい中央でぶつかり合った。
しかし、その勝負は一瞬で決まった。
スポポビッチのエルボーを避けることをせず、腕でガードし、スポポビッチの動きが止まったところに一撃をいれ戦いを終わらせた。
観客は誰もがその一連の流れを追いきれず、何が起こったのかわからずに静寂に包まれる。
「悟飯おめえの彼女やるじゃねえか」
「マジかよ。俺ともいい勝負できそうじゃねえか」
「低レベルな戦いだ」
悟空、クリリンはビーデルの強さを素直に称賛し、ベジータはつまらなそうに吐き捨てた。
しかし、そのように言いながらも戦いを見ていたのはベジータの成長かもしれない。
しばらくの沈黙の後観客は再び総立ちとなり、大いに沸き立った。
その武舞台の中心では、ビーデルが起き上がろうとするスポポビッチに手をさしのべ、スポポビッチもそれを笑顔で受けるという清々しい光景があった。
その過去とは変わった様子を遠く離れた所から笑顔で見ていたサタンであったが、次の瞬間にはなにかを思い詰めた暗い表情に変わっていた。