なぜこうなった……
カーシ、サタンそしてZ戦士の前に絶望的な状態が広がっている。
敵はたった一人だけである、ナメック星では多人数(ザーボンさん、ドドリアさん、ギニュー特戦隊、フリーザ)と戦ったこともある。
そこから考えると絶望的?となるかもしれない。
しかし、今回は違う!敵の力とこちらの力が桁違いなのだ。
たしかに今までであっても、大きく力の差が離れた戦いもあった。
だが今回はその差が越えられない壁が幾重にも重なっているほどのものなのだ。
「へへへ、いつものならあんなにつええのが敵ならワクワクすんだが、今回はワクワクすらしねえ。こんな感覚はブロリーと戦った時いらいかもしんねえな」
普段の姿とはかけ離れた悲壮感を湛えた表情でポツリと呟いた。
「クソッ、この俺がヤツの気に押されて動くことさえままならんとは、ふざけやがって!」
ベジータは怒気をはらんだ声でそう吐き捨てるが、その言葉の奥底には恐怖も含まれている。
ブロリーの時と違って自暴自棄になっていないのは救いではある。
「すまん悟空。あんなヤツを出しちゃって…もう出すつもりはなかったんだが」
サタンの傷を必死に癒しながら悟空に、いや地球上の生物全てに謝罪するように呟いた。
「わりいのはサタンを殺しかけた変なヤツだけだ。気にするな」
悟空が視線は全く悪の魔人ブウから外さず、しかしカーシを気遣い励ます。
悟空の戦いの中でも優しさがなくならない人格者の一面が見られる場面である。
「悟空お前たちはそこで腰を抜かしている界王神の正気を取り戻させて、界王神界へ逃げろ。逃げる時間ぐらいなら俺が稼ぐ。罪滅ぼしにすらならないが」
息を吹き返したサタンを安堵した表情で見届けると、一度「もうだめだ。終わりだ…」とガタガタ震え、焦点の定まらない目をした界王神を一瞥した後に、悪の魔人ブウを睨み付けた。
「へっ、みずくせえこと言うなよ。おらをこの姿に導いてくれた大事な仲間を置いていけるかよ!!」
隣には既に黄金のオーラを纏い、長髪を風に靡かせ、眉のない極悪顔の悟空が臨戦体勢で佇んでいた。
「カカロットを倒すのは俺だ。俺もヤツを倒すのに手を貸してやる」
悟空の横にも悟空同様超3化したベジータが並んでいる。
「心強いな…」
嬉しそうに二人を笑顔で見やった後に、覚悟を決めた瞳で再度魔人ブウを睨み付けた。
「悟飯シンを正気にさせろ、トランクスサタンを頼んだ」
手短に指示をとばすとそれが戦いの始まりの狼煙となる。
気を極限まで高めた三人が魔人ブウに襲い掛かる。
踏み込みで起こる凄まじい爆音が響くと同時に、悟空、ベジータ、カーシが前と左右から魔人ブウを取り囲み連打を加えていた。
「だだだただりゃあ!!」
「ハアッッッ!!」
「ブウッ!!」
目視も気で捕らえることすら難しい戦い。
しかし、魔人ブウはあくびをしながら右手で悟空の攻撃を、左手でベジータの攻撃を、右足でカーシの攻撃を、全て無力化している。
「嘗めやがって!くらえ!!」
ベジータは怒りから大振りになる。
「ヒヒ」
嫌らしく歪んだ笑みを口元に浮かべた魔人ブウはパンチを避けると過ぎ去っていく手首を両手で軽々と掴み、ジャイアントスイングの要領でそのベジータの勢いのままに前方のカーシ、右方の悟空を巻き込んで凪ぎ払った。
「ガハッ!!」
「クッ!」
悟空、カーシが先に吹き飛び、ベジータはそのまま何度かジャイアントスイングをされた後悟空とカーシが叩きつけられた岩場に投げつけた。
ベジータが悟空とカーシがめり込むその上に叩きつけられると、巨大な岩が崩落した。
「ヒヒヒヒ!」
魔人ブウはその様を見て下卑た笑い声を響かせている。
「なんなんだ。父さんと悟空さんとカーシさん三人がかりなのに赤子の手を捻るように戦っている」
「いやヤツにとってはこれは戦いですらない。遊んでいるようなものだろう。小さい子供が蟻を潰すようにな…」
トランクスの言葉を、苦々しそうな表情で訂正するピッコロ。
二人にはどのように戦っているのかさえ分からない戦いではあるが、三人が全く手も足も出ていないことだけは分かっていた。
「シンさん、正気に戻ってください」
悟飯は悟空に言われた通りにシンを揺さぶり正気を取り戻させようとするが「もうダメだ、おしまいだ…」と壊れたラジオのように繰り返すシン。
たしかにヘタレてもしょうがない状況ではあるが、世界の頂点に立つ界王神としてはあまりにも情けない姿である。
「すいません。許してください」
そう悟飯が言うとシンに対して往復ビンタをなん十発と叩きこむ。
「貴様界王神様になんてことを!!」
「悟飯ーーーー!!
(そこまでにいてくれー)」
主人より一足先に立ち直ったキビトとピッコロによって止められた悟飯であるが。
ビンタの効果があったのか界王神は正気を取り戻していた。
「みなさん。ここは。あ、今の状況を教えてください」
立ち直った界王神は今までの説明を求める。このような時にも前方から打撃音と爆音が響き渡っている。
「ここは俺が説明する」
ピッコロが一歩前に出て、魔人ブウの復活後のことを苦々しく、また絶望感をはらんだ表情でかくかくしかじかと事細かに説明した。
その様子には世界の頂点に君臨する界王神に助けを求めるようにも見えた。
「そんなことが。あの三人でも歯が立たないとは……」
界王神はしばらく沈黙した後に、覚悟を決めたように言った。
「状況が状況です。それにあなた方なら希望を託せられる。界王神界に参りましょう!!」