中に浮く悟空とベジータがポタラにより融合したことにより誕生したベジット。
新しい体を確かめるかのように手を握ったり、開いたり、空に向かって拳をつきだしたりしている。
拳がつきだされる度に爆風のような衝撃波が巻き起こり遠く離れた山が粉々に吹き飛ぶのだが、ベジットは気にも止めていない。
一通りの動きを試すと動きを止め感嘆の声を上げた。
「フハハハハハ!もう怖いものなぞありはしない。とっととかかってこい魔人ブウ!」
ベジットは視線を下に向ける。
視線の先には今まで見せたことのないような焦りの表情を浮かべた魔人ブウが。
「どうした、何をビビっているかかってこないのなら俺から行くぞ!」
そうベジットが宣言した時には、ベジットの拳が魔人ブウの腹部を深々と抉っていた。
「ゴハッ」
いきなりの先制攻撃をまともに受けた魔人ブウは動きが完全に止まる。
「どうした、どうした、今までの余裕は何処にいったんだ」
余裕綽々の表情で魔人ブウに話しかけながら恐ろしいスピードでラッシュをかける。
「拍子抜けだぜ。終わりだ」
全ての攻撃が今までではあり得ないように魔人ブウを捉え、圧倒的に優位にたっていることからベジットはベジータの性格からくる慢心が顕著に現れていた。
終わりだとばかりに大きく振りかぶり渾身の力を込めて拳を叩きつける―――はずであった。
地球さえも楽々破壊するのではないかとも思われた拳であったが、魔人ブウを捉えることはなかった。
魔人ブウの眼前で拳が止まっているのだ。
「えっ!?」
終わったとたかをくくくっていたベジットに現実を叩きつける。
ベジットの手首を魔人ブウが掴んでいたのだ。
先程のラッシュにより歪んでいた魔人ブウの顔面がみるみるうちに再生する。
「こ、こいつ!」
どんなに引いても押しても微動だにしないので焦れたベジットは空いている左手を魔人ブウに叩き込む。
しかし、左拳も不発に終わる。
完全に再生しきった魔人ブウが顔をあげる。
先程の焦りの表情など微塵も感じられない。
今は下卑た歪んだ笑みを浮かべてベジットを真正面から見据える。
「オマエヨワクナッタナ」
初めて魔人ブウが人の言葉を話す。
しかし、それ以上にベジットを困惑させ怒らせたのは、ここまで強くなった自分を弱くなったと言ったことであった。
「バカにす――ガハッ!?」
怒りに任せて頭突きをしようとしたベジットの腹に魔人ブウの膝が深々と刺さる。
あまりの痛みにベジットは悶絶する。
「ホラナ、マエニオレガタタカッタオマエハホントウニツヨカッタ」
片言で喋りながら膝を幾度となくベジットに容赦なく叩き込む。
「ガハッ、グハッ」
膝が入る度ベジットの苦悶に満ちた声が響き渡る。
「ヒヒヒヒヒ、ホラナ。オマエガヨワクナッタンジャナイ。オレガツヨクナリスギタンダ!」
勝ち誇ったようにベジットに告げる魔人ブウ、その時だった。
「ふざけるなーーー!!」
ベジットの体から黄金の気が溢れだす。
あまりの圧力に魔人ブウの両手の拘束が緩んだとき、ベジットはそれを見逃さなかった。
「返すぜ!」
先程のまでのお返しだと言わんばかりに今度はベジットが膝を叩き込む。
「ガッ!」
怯み両手を手放されたことにより自由になったベジットは、腹を押さえて前屈みになっている魔人ブウに両手を組み合わせて降り下ろす。
がら空きとなった背にハンマー打ちをまともに受けた魔人ブウは凄まじいスピードで地面に突き刺さる。
地面に打ち付けられてもスピードは衰えずそのままに穴を掘るかのように地中深くまで潜っていく。
「野郎、なめやがってーー!!」
怒りが全く治まることはないベジットが怒りに任せて黄金の気を撒き散らす。
超サイヤ人に姿を変えたのだ。
「出てこいよ魔人ブウ!俺をこけにしてこれで済むと思うなよ」
黄金の髪を逆立てて、碧眼の瞳で魔人ブウが沈んでいる穴を睨み付けながらベジットは大声を上げる。
その声が魔人ブウに届いたのだろう。
穴の中からおぞましい身も凍るような禍々しい雄叫びが聞こえてくる。
そして、穴から赤黒い禍々しい光が放たれた時だった。
凄まじい轟音を轟かせ地面が爆発し、大きく抉れあがる。
「ハアハア…」
肩で息をする魔人ブウがその穴の中心部に浮いている。
「まだピンピンしてるじゃねえか!」
ベジットは魔人ブウを見てニヤリと笑う。
「第二ラウンド行くぜ!!」
ベジットが突っ込もうとした時だった。
〈待て、待つんじゃー!!〉
ベジットの頭の中に切羽詰まった声が響く。
「なんだ界王神のジジイ。今いいところなんだ。つまらんことを抜かすとぶっ殺すぞ」
明らかに苛立った声で話すベジットだが、魔人ブウへ突っ込むのを止め話は聞くようだ。
〈お前達がこのまま戦えば地球がもたんぞ、ただでさえ戦いや気の余波で地球の周りや遠く離れた星でも被害が出たりしているんじゃぞ!〉
老界王神が念話で捲し立てるように話す。
宇宙の摂理を守る界王神なのでストップを当然だろう。「じゃあどうすればいいんだ!!」
ベジットの怒声がこだまする。
〈そう大声を出さんでも聞こえているわい。しょうがないヤツを連れて来て界王神界で戦え。この星ならちょっとやそっとの攻撃じゃびくともせんし、隔絶された世界じゃから他に迷惑がかかることもない。……うるさいぞ黙っとれ!ああすまんのキビト界王神がゴチャゴチャと念話で五月蝿く茶々を入れてきたんでの〉
それだけ言うと老界王神の念話は途切れた。
「界王神聞こえているか。俺はコイツを連れて先に界王神界 に行く。お前は悟飯、トランクスを連れてこい」
そう言うと、瞬間移動で魔人ブウの背後をとり、拳を深々と背中に捩じ込みながら、額に人差し指と中指を当ててカーシの気を探り瞬間移動を実行した。
「はあ御先祖様もむちゃくちゃ言うんだから…。悟飯さん、トランクスさん行きますよ。界々」
愚痴を残してキビト界王神と悟飯、トランクスの姿も地球上から消えた。