目の前で弱体化し、落下しみるみるうちに小さくなっていく悟空を呆気にとられて呆然と見つめていた魔人ブウであるが、次第に口角が上がり安堵とともに大声を上げて笑い出す。
「ヒャハハハハハハハハ!!」
先ほどまではゴッド化した悟空の前で死んだ魚のような目をしていた魔人ブウが、水を得た魚のように力を取り戻し、けたたましく笑い始めたのだ。
死を免れ、さらに悟空は弱体化した、もう自分を脅かす者はいない、誰も自分に叶うものはいないと認識したことによる。
その笑い声はしばらく止むことはなかった。
落下する悟空は意識が朦朧としながらも、悔しさでいっぱいであった。
後僅かに一センチ拳を伸ばしていれば、即戦いは終わっていた。
なぜその一センチ伸ばすことができなかったのか。
自分が未熟でなければ、ゴッドを維持できたのではないかという悔しさである。
地上で戦いを見守っていたベジータ、悟飯、トランクス、少年トランクス、悟天も何が起こっているのか分からず困惑した状態である。
「どういうことだ界王神?カカロットはどうしたんだ」
老界王神に声を震わせながら詰め寄るベジータ。
そんなベジータに臆することなく老界王神は呟くように話し出した。
「神の力は強大でな時間制限があるんじゃ。今の悟空ではあれが限界だったんじゃ」
「な、なんだと…」
老界王神の話す現実は皆を打ちのめした。
もう打つ手はないのかと。
「界王神様。父さんの力が大きくなっているように感じるのですが?」
そんな中で悟飯が口を開く。
「神になった者は副作用的なもので戦闘力が限界を越えて引き出されるのだ。その効果で悟空は強くなったそれだけじゃ」
「そ、それなら――」
希望が見えたと悟飯が口に出そうとしたのを、再び老界王神が遮る。
「無理じゃよ。ゴッドが解けた悟空は大きすぎる力を使ったために体はボロボロじゃすでに戦える状態ではない!」
再び訪れる絶望。
そこへ、明るい声が響く。
「私が悟空さんを回復させれば」
キビト界王神が名乗り出る。
しかし、そこでも老界王神は首を横に降る。
「回復させる時間をやつが与えるわけがなかろう」
老界王神が視線を送った先には、口が張り裂けんほどの笑みを浮かべた魔人ブウが巨大な、この界王神界すらも破壊しかねないほどの赤黒く、禍々しい輝きを放つ星一つあるほどの気弾を頭の触覚から作り出していた。
「もうおしまいだ……」
あのベジータが力なく膝をつく。
その姿を見た仲間達は次々と絶望に襲われ動きを止める。
「おれが責任をとって終わらせる!」
皆の絶望を振り払うかのような声が響き渡る。
皆が先ほどの魔人ブウの如く、死んだ魚の目のような生気が感じられない目で力なく振り向く。
「!!」
「!!」
「!!」
「!!」
「!!」
皆の表情が驚愕に染まる。
視線の先には、青く清らかな輝きを放つ巨大な気の塊、『元気玉』を宙に浮かべたカーシがいた。
「なぜ元気玉が!?」
ベジータが皆を代表するように問いかける。
「念には念をいれてな。サタンとキビト界王神そして生き残った地球人全てに協力してもらって作り出した。一人の力では勝てなくても、皆の力を合わせれば勝てる。これで魔人ブウに引導を渡す」
カーシは力強くそう宣言すると巨大な元気玉を魔人ブウに向けて放った。
上空では魔人ブウの笑みがひきつったものに変わっていた。
すでに自分を脅かすものは存在しないと思っていたところに急に放たれた元気玉。
再び自分を脅かすものに沸き上がる怒り。
魔人ブウは怒りに任せて、仰け反り、勢いをつけて触角の先にある巨大な禍々しい気弾を放つ。
全くの対照的なエネルギーで構成された気弾がぶつかりあう。
その途端に巻き起こるとてつもない衝撃波。
界王神界の空間を大気を、地面と存在するもの全てを揺るがせる。
ぶつかりあっている接地面では空間が悲鳴に似た軋む音を響かせ、宙に亀裂が入っている。
まるで新たな宇宙が誕生するかのように。
最初は拮抗していた両者であるが、段々と元気玉が押され始める。
力を入れるカーシの表情にも苦悶の色が表れる。
上空の魔人ブウには対照的に余裕の色が表情に表れる。
少しずつ一歩一歩押される元気玉。
皆は声援を送るしかできない。
すでに五人のサイヤ人は悟空をゴッドにするために力を使い果たしていた。
だがその場にはまだ余力を残したものが三人ほどいた。
「ええーい。お前らー、魔人ブウの気をそらすぐらいしてこんかい!!」
その三人に気づいた老界王神の怒号が飛ぶ。
その三人とはキビト界王神、ピッコロ、サタンであった。
「行ってきます!!」
上司の命令に逆らえない二人と何とかして援護したいと考えていたサタンは行動に移す。
キビト界王神とピッコロは舞空術を使い上空に飛翔し、攻撃を開始する。
「魔貫光殺法!!」
「はあっ!!」
ピッコロは螺旋を描きながら放たれる魔貫光殺法を、キビト界王神は気功波を放つが、魔人ブウの体から放たれる気が強すぎてすんでの所で動きを止められている。
サタンは手を三角に組み合わせ照準を魔人ブウに向ける。
「わしの命をかける。気功法!!」
サタンはカーシの体内で修行相手としていた天津飯もどきから気功法を習い習得していたのだった。
サタンの命をかけた気功法が放たれた。
一発の気功波でダメなら二発、三発合わせればよい。
一本の矢でためなら三本の矢を合わせる。
願いが通じたのかほんの僅かな気が魔人ブウの頬に傷をつけた。
そのほんの僅かな攻撃が魔人ブウの気をひく。
「今ですカーシさん!!」
サタンの叫びがカーシに伝わる。
「いけーーー!!」
僅かな隙に乗じて限界以上の力を込める。
元気玉は禍々しい気弾を浄化し始める。
ジワジワと元気玉に禍々しい気弾は食われ、ついに消え去った。
「グワアオォオオ!」
勢いを増した元気玉は腕を失い止める術を持たない魔人ブウを飲み込む。
魔人ブウはこの世のものとも思われないほどのおぞましい断末魔を残し塵も残さず浄化された。