私がアイドルになるまでの話   作:長雪 ぺちか

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私は猫になりたい

私は猫だ。

正確には違う。

私は猫になりたいただの人間だ。

 

 

いつからだろう。

気付けばいつも猫を目で追っていた。

それ程までに私は猫に魅了されていた。

こんなに可愛い猫なのだ、みんな好きなのは当たり前と思っていたが……現実はそうではないらしい。

猫アレルギーの人は仕方ないとして、それ以外の人でも猫が好きじゃない人がいると言うのだ。

絶対おかしい!

こんなに可愛いのに!

どうにかしてみんなに猫好きになってもらうために、私は猫の真似をすることにした。猫布教だ。

語尾は『にゃあ』手首はこんな感じに曲げて……指は野菜を切る時の形。猫耳も着けてみたりして。

お弁当はもちろん!……流石にキャットフードはやめておいたけど、猫のキャラ弁を作ることにした。

そんな努力が実を結んで、段々とクラスの中で猫が好きと言ってくれる人達が増えていった。

中には熱烈に猫のことが好きになってくれた人もいて、放課後教室に呼び出されて

 

「僕、猫ちゃんのこと大好きです!」

「あ、ありがとにゃあ☆私も猫ちゃん大好きにゃ!」

 

と言うような会話したことが2、3回あった。

そんな感じで私の猫布教は成功したんだけど、成功したらさらに欲が湧いてきてしまった。

私も本当は人間だし欲があったって良いよね?

クラスだけじゃなくって、もっとたくさんの人に猫ちゃんの可愛さを知ってもらいたい!

これが今の私の目標になっていた。

もっとたくさん……と言っても私が動けるのは精々市内と電車で行ける所程度。

電車に関して言えば、高校生の私には資金力的に少し無理をしなくちゃいけなさそうだ……

何か良い案がないかと思い、インターネットで調べていたら『猫動画』と言うものを見つけた。

それは可愛い猫の可愛い仕草を撮影した大変可愛いもので、初めて見た時にはあまりの可愛さに悶絶した。

これは使える!と思い、今では『猫動画』の宣伝をしたり、自分で動画を撮ったりして、自分で言うのもなんだが猫の宣伝部長をしている。

しかし、インターネットと言うのは誰が見ているのか分からない。動画の再生回数が増えようとも本当に猫

好きの人が増えているのか……兎に角、実感が湧きづらいのだ。

何か新しい方法はないかにゃあ……?

 

「そんなこんなで、スランプ中なんだにゃ〜」

「そう?--ちゃん頑張ってるのに」

 

学校の昼休み。

私は後ろの席に座る友達と一緒にご飯を食べながら愚痴をこぼす。

 

「ほら。頑張ってる--ちゃんにお弁当分けてあげる」

「うっ、お魚はちょっと……」

 

私がそう言うと友達は少し悲しげな表情を浮かべたが、それは一瞬のことですぐにいつもの様子に戻った。

 

「そう言えば--ちゃん。昨日のテレビ見た?」

「テレビ……?何の番組にゃ?」

「えっ!?私、昨日の--ちゃんに見てって言ったのに〜。番組に私の好きなアイドルが出てたんだよ。--ちゃんにも見て欲しかったな〜」

「そうだっけ……猫動画漁りに耽ってたにゃ……」

 

いつもは温厚な友達だけど、この話になると熱くなる。

どうやら友達はそのアイドルのファンらしい。

 

「実は私、今度の日曜日にそのアイドルのライブに行くんだ〜。名古屋まで行くんだけど--ちゃんも一緒にどう?」

「いや、私は遠慮しておくにゃ」

 

友達には申し訳ないけど、名古屋までは電車代だけでも相当かかってしまう。

そんなお金は無いのにゃあ……

それにしても、アイドルはすごいと思う。

ここは大阪で名古屋までは結構距離がある。

それでもファンの友達を名古屋に行かせてしまうほどに……

 

バンッ!!

 

私は机を叩き立ち上がった。

教室の視線が私に集まる。

友達も、突然のことに目を見開いている。

恥ずかしさを感じないわけでは無いが、胸にこみ上げる興奮が勝った。

心臓が早鐘を打っているのがはっきりと分かる。

 

「それだにゃああああああああ!!」

 

どうして早く気づかなかったのだろう!?

アイドルは多くの人を魅了する!!

 

 

自分のやるべきことが分かってから、私の行動は早かった。

すぐにアイドルの募集、スカウトについて調べて……幸いにも家の近くに芸能事務所があることを知った。

アイドルの事務所かと言われたら少し違うかもしれないが、一応芸能事務所だ。

まずこの事務所のオーディションを受けてみよう。

応募用紙を学校で印刷し、お母さんに……勿論お父さんにも内緒でエントリーした。

エントリーした後は、案外呆気ないもので「週末、事務所で面接を行います」という内容の電話が来た。

書類選考と言うものに受かったのか、そもそも書類選考何てものが、無いのかは分からないが、面接を受けさせてもらえるのは嬉しかった。

 

ドキドキした気持ちが続いたまま、1日1日と過ぎていき、ついに週末がやって来た。

途中緊張のあまり、自分がオーディションを受けることを友達に言ってしまったが、その友達から「頑張って!応援してるよ!」という内容の言葉を貰い少し楽になった。

身支度を済ませ、家を出る。

お母さんには友達の家に行ってくると伝えた。

財布は持った。ハンカチも持った。勿論、猫耳も忘れてはいない。

万全の準備は私の心を落ち着かせ、足取りは軽くなった。

 

 

そして今、私は事務所の前にいる。

いざ面接、となると流石に緊張は隠すことは出来ず、手には汗をかいていた。

持ってきたハンカチで手を拭いて、一度深呼吸する。

そして呼吸が整ったのを見計らい、事務所の扉に手を掛けた。

ギィと低い音と共に扉が開く……!

 

「オーディションを受けに来た--にゃん☆可愛い猫耳アイドルを目指しているにゃ!」

 

 

「それで、この間言ってたオーディションはどうだったの?」

 

食事中、後ろの席の友達がそんな話を振ってきた。

 

「それがにゃ…………」

「あっ…………」

 

言いにくそうな私の態度を見て、友達は察してくれた。

そうだ。

私はオーディションに落ちた。

土曜日に面接を受けて結果の封筒が月曜日に届いた。

郵便局の都合もあるだろうから、きっと私の不合格は面接を受けた瞬間に決まっていたのだろう。

悲しさや悔しさが込み上げる。

思い付きでオーディションを受けてしまったのが原因だと友達に言われ、自分の浅はかさに腹が立った。

私の準備は万全では無かった。

重くなった空気に耐えかねたのか、友達が口を開く。

 

「でも、その事務所に--ちゃんが合わなかっただけかもしれないよ。そんなに落ち込まなくても良いんじゃない?」

 

優しく諭すような口調だった。

そうか。そうかもしれない!

確かに私が受けたのはアイドル事務所ではなく、どちらかと言えばお笑いの事務所だった気がする。

それならオーディションにおちてしまったのは当たり前だ。

まだ諦めるような状況じゃないと納得した私は……

 

「あ、ありがとにゃ! 諦めずに頑張ってみるにゃあ☆」

 

少しはアイドルらしく笑えるようにはなっていた。

 

 

それから何回、私は失敗しただろう……?

友達に背中を押されたあの日から、もう10件以上のオーディションを受けた。

 

しかし、結果は全て不合格。

 

自分の夢が全否定された気がして、心がもう折れそうだった。

日が沈みかける中、私は一人俯き加減に街をとぼとぼと歩いていた。

別に目的地があるわけではない。

ただ、今は歩いていたい気分だった。

止まってしまったら、今の気持ちが溢れてしまう。

その事を、自分で分かっていた。

当ても無く歩いていると、どういうわけか駅に着いた。

最近オーディションを受けるために、たくさんの電車に乗っていたのが私に中でルーティーンになっていたのかもしれない。

ここなら、溢れ出しても気付かれない。

電車が通過するのを見計らい、私はホームの外から力一杯叫んだ。

 

「にぁあああああああああああああ!!」

 

私の叫びは掻き消され、掻き消されているのが分かってさらに叫んだ。

 

「にぁあああああああああああああああああああ!!」

 

喉が壊れてしまうのではないかと思うぐらい叫んだ。

兎に角、溢れる気持ちを吐き出すのに必死だった。

電車が通過しきる頃には私の体力は尽き、脱力感を覚えたと同時に膝が砕けた。

 

はは……にゃはは…………

 

体に力が入らないが、内側からは力が溢れ何ともこそばゆく、私は自然と笑みを浮かべていた。

鏡を見てはいないが、恐らく今までで一番良い笑顔なんじゃないかと思うぐらいだ。

 

「あの……すいません……」

 

叫び終わった達成感の余韻に浸っていた私に、低く図太い声がかかる。

 

「にゃあああ!?」

 

突然のことで驚いた私は尻尾を踏まれた猫の様に飛び起きる。

振り返ると、そこには肩幅の広いスーツを着た男が立っていた。

明らかに怪しい男だ。

背は……かなり高い。

見上げる様になってしまう

私は警戒を解かないまま、おもむろに口を開く。

 

「どうかしましたか……?」

「突然声をかけてしまい、すいません……」

 

男は何か言いづらそうに、というよりも言うべき言葉を思案している様に見えた。

そして妙な間を空け口を開く。

 

「アイドル……やってみませんか?」

 

私はその言葉を聞いて、思考が一瞬止まった。

何だ?

この男は何と言った?

私の聞き間違いじゃなければ、アイドルをやらないかと言っていた。

少し考えて言っているぐらいだ。

別に男は混乱して、咄嗟の思い付きで言っているわけではないだろう。

でも……本当に

頭の中でそんな思いがぐるぐると回っていると、男は一枚の紙を渡してきた。

名刺だ。

多分……本物。

ここまでされてもまだ実感が湧かないが、私は今スカウトされている。

駅に来たのは偶然と思っていたが、もしかしたら運命だったのかもしれない。

きっと、私がここでスカウトされるのは運命だったのだ。

そう考えないと辻褄が合わないんじゃないかと思える程の奇跡に直面している。

顔の筋肉が意識と別に緩むのが分かる。

これが運命であり必然なのだとしたら、この人が連れて行ってくれる場所こそがアイドルを目指す私のいるべき場所だったのだろう。

 

私は猫……迷い猫だった。

住処を見つけた迷い猫は…………

 

「もちろんだにゃ!!!!」

 

そろそろお家に帰ろうかにゃ。

おしまい。

 

 

……………………

……………………………………

………………………………………………

 

「そう言えば、どうしてプロデューサーは私をスカウトしたんだにゃ?」

 

「……………………」

 

「…………………………?」

 

「…………………笑顔です」




今回は前川みくさんのお話でした。
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