私がアイドルになるまでの話   作:長雪 ぺちか

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探し物は何でしょう?

お昼時、些細な事件が起きました。

学校に猫が迷い込んだとか、その類いのものです。学校の先生は相当な注意を払っていたようですが、迷い込んだスーツの男はそこまで悪い人には見えませんでした。

私にはただ……ただ探し物をしているように見えたのです。

 

 

禊を終えると、ばばさまの作った朝食を食べます。そして、湯飲みに口を近づけ一口。食後のお茶はなんと美味しいことでしょう。ばばさまはお茶を入れるのがお上手なのです。

ほっと一息ついて、せんべいなども食べたくはありますが、学生である私にはそのような時間はありません。口惜しいですが、ちゃぶ台に別れを告げると、未だに着慣れない制服に着替え家を出ました。

いつも通りの時間に家を出て、いつも通りの道を通り、いつも通りの踏切に来たところで、いつもと違うことが起きました。足元に銀色のケースが落ちていたのです。私はそれが落し物であることにすぐに気が付きました。このようなものは、近所のコンビニエンスストアという場所で100円程度で売られていたのを見たことがあります。中身がまだ入っているところを見ると、きっと誰かが買った側から落としてしまったのでしょう。私はケースを落とした落とし主のことを思うと、何とも遣る瀬無い気持ちになりました。

学校に着くと同じ学級の友人たちがおはようと声をかけてきました。私もそれに答えます。挨拶を交わしあえる友がいることはなんと素晴らしいことでしょう。日々の幸せに浸っていると一時間目の先生が教室に入ってきました。先生はとても良い笑顔で授業を始めます。

先日まであの先生は暗い雰囲気で、まるで悪霊にでも取りつかれたかのような形相をしていました。私は困っている人を放っては置けない故、お話を伺いに行きました。先生は重い口を開き、聞くに彼女は「恋煩い」であると私は知るのです。これは専門外だとあきらめかけましたが、何とか力になろうと相槌を打ち、話だけでも聞きながら……としているうちに先生の血相はみるみる良くなっていきました。実感はわきませんがきっと力になれたのでしょう。人の力になることは非常に嬉しいことであります。

授業が終わり、お昼になりました。

私は窓際の自分の席でばばさまが作ってくれたお弁当を広げると、校舎の外に何やら不審な人影がうろついていることに気が付きます。何かと思い弁当の包みを軽く縛ると、私はベランダに出ました。先ほどよりも人影がはっきりと輪郭を結んで、スーツの男が草木を掻き分けているのが分かりました。そして同時に、彼が何か失せ物を探しているということも直ぐに気付きました。さて、どうしたものかと思っていたところ、校舎の外に体育の先生が出て行きます。そしてスーツの男に近づくと、男は身振り手振りで慌てふためき頭を下げてどこかに行ってしまいました。恐らく不審者と間違えられてしまったのでしょう。悲しいことだと私は思います。男はただ、物をなくして困っていただけだというのに。

放課後、私はお昼に出たスーツの男を探すことにしました。友人からは危ないだの、先生に任せようだのと、助言を貰いましたがそうはいきません。私は困っている人を放っては置けないのです。

町のどこに何があるのかは大方把握しています。そしてスーツの男が町の外から来た者だと私の勘は告げているのです。そんな男が行きそうなところは……と私は強く祈ります。するとぼんやりと私の探すスーツの男の気配を感じ取ることができました。公園です。

公園に歩いていくと確かにスーツの男がそこには居て、ベンチで肩を落としていました。私は声をかけようと公園に入り「そな……」と言ったところで男は何か思い立ったかのように急に立ち上がり、そそくさと公園を後にしてしまいました。呼び止めようとしましたが、時すでに遅し。大声を出せば止まってくれたかもしれませんが、如何せん私は大きな声を出すのが得意ではないのです。今度、人を探すときには大きな音の出る物、例えば……法螺貝など持っていくとしましょう。

足を速めて男を追います。

男はせわしなく周囲を見回しながら、ふらふらあっちに行ったりこっちに行ったりと足を止めません。少しでも後ろを向いてくれれば、私に気付いてくれるかもしれないというのもを……何とももどかしいものです。男は歩幅が大きいため、歩く速さは中々のもので、住宅街を抜け商店街を抜け、抜けたところで私は再び男を見失ってしまいました。

そして、私はついにスーツの男を追いかけるのを諦めました。男は見るに、大層忙しいのでしょう。さすれば、私が探し物の手伝いをするというのも少し迷惑かもしれません。それに帰りが遅れてばばさまが心配してもいけません。お家の清掃もありますし、私も中々に忙しいのです。

自宅に帰り家族にただいまと告げると、奥の襖を開け中に入り、和服へと着替えます。これから神聖な場を清掃します故、自身も清い装いで挑まなければいけません。

竹箒を握り、境内の落ち葉やらを払っていると、石段の方から足音が聞こえてきます。家に御用の方かと思い一礼。顔を上げるとそこには放課後に探していたスーツの男が立っていました。男は双眼で私をとらえると、軽く深呼吸して私の方に近づいてきます。男が私の前まで来ると、こんにちはと言い私もそれに答えます。次に男は胸元のポケットに手を伸ばすと首を傾げ、傾げたと思ったら顔を青くしました。

男は何か私に用があるように見えましたが、それは私も同じです。私の方から男に何か失せ物を探しているのかと尋ねます。すると男はゆっくりと頷きました。やはりスーツの男は失せ物を探していたのです。私は探している物を見つけると一言言うと、祈ります。

祈りをささげると、スーツの男の失せ物の位置がぼんやりと感じることができました。場所は……北でも南でも西でも東でもありません。はて、これは如何にと思っていた矢先、私は今朝の出来事を思い出すのです。確信を持ち、わたくしは懐からそれを取り出すと、男に微笑みかけます。

「これでしてー?」

男も少々頬を弛ませると、それを受け取ります。

そして手渡されたそれから一枚の名刺を抜き取り、私に渡すと『あいどる』について私に説明を始めるのでした。

おしまい。




今回は依田芳乃さんのお話でした。
お話書くに当たって、なるべくよしのんが主人公だということが分からないように書こうと思いまして、考えた結果……台詞が一言だけになってしまいました笑
よしのん語尾で即バレちゃうんですもん!
感想等ありましたら是非コメントよろしくお願いします!
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