私がアイドルになるまでの話   作:長雪 ぺちか

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私に声をくれた人

目の前で大切な友達が泣いていた。原因は私。一緒に遊んでいたのに私が急にいなくなったのが原因だ。飽きっぽい性格なのは自覚している。

私は後ろか抱きかかえられ、背中から声がした。

 

「いなくなってごめんね。ずっと一緒だよ」

 

その日以来、私はよく喋るようになった。

 

 

寒さで目がさめる。ここ最近寒い日が続いていた。見ると愛猫ーーペロが私の布団の上に乗っかっていた。目が覚めたのはこの子のせいもあるかもしれない。

ペロは尻尾をくねくねとさせて誘っているように見える。退屈だったのかな。

私はペロを抱きかかえ頬ずりした。チクチクと髭が当たってくすぐったい。

 

「………………おはよう……」

『おはよう』

 

彼女は少し図太い声でそう言った。可愛い顔をしているが男らしいな声だ。聞くと安心する。

ペロを抱えたまま、朝陽をこぼすカーテンを開ける。外は一面白銀の世界だった。

 

「…………雪……」

 

私はそう呟くと布団をたたみ、部屋を出た。ペロも後から付いて来る。裸足で歩く廊下は冷たかった。

 

ダイニングに入り、入ると置き手紙がテーブルの上に置いてあった。朝食用にパンがあるらしい。冷蔵庫から食パンと牛乳、それに苺のジャムを取り出し、猫用のお皿とコップに牛乳を注いだ。

 

私の家はパパもママも忙しい。パパはたまにしか帰ってこないし、ママも朝早くから仕事。ハロウィンでもクリスマスでも関係なし。昔からずっとこう。でも私にはペロがいるから大丈夫。それに小学校から帰る頃にはママは帰ってくる。今日は土曜日だから小学校はないのだけど。

 

ペロの前にお皿を出し、私も席に着き苺のジャムをたっぷりと塗ったパンをかじる。丁度昨日ママと作ったばかりの苺ジャムは匂いも味もとても良かった。でも、私は苺が大好きだから味がどうであれ満足すると思う。

ふとペロを見ると彼女は口の周りに白い髭を生やしていた。ペロは黒猫だから余計に白髭が目立つ。

 

「………………サンタクロースさん…………みたい……」

『鏡見てみなよ』

 

ペロが目を擦りながらそう言うので、その通りにしてみると確かに私にも白い髭が生えていた。それが何だかおかしくて思わずクスリと笑ってしまう。サンタクロースはあまり好きじゃないけどペロとお揃いなのは嬉しかった。

 

ご飯を食べ終わると手袋をし、厚手のコートを着込んで外に出る。目の前に広がる雪に私はとても興奮していた。私はあまり感情表現が得意な方ではないけど、心の中ではワクワクしてたりするのだ。

 

『早く行こうよ』

 

ペロも雪が楽しみらしい。私とおんなじだ。

家に鍵をかけると、私たちは公園に向かった。

 

 

公園には誰もいなかった。足跡すらない。

私が一番乗りで、そのことがさらに私をワクワクさせた。まっさらな雪面にザクザクと踏み入るのは面白くて、何だか胸がくすぐったくなる。ブランコまで歩きチョコンと座る。公園には私とペロの足跡だけが残っていた。

そう言えば私は靴を履いているけど、ペロは履いていない。寒いと思い、私はペロを膝の上に乗せた。

 

「………………ペロ寒い…………?」

『寒いよ』

「…………温めて……あげる……」

 

そう言って、私はペロの前足を掴むとほっぺたに押し当てる。肉球がしっとりひんやりとしていた。ペロはいつも私を温めてくれる。だから私もペロを温めてあげるのだ。

 

それから私たちはくたくたになるまで遊んだ。雪の中に大の字で飛び込むのは初めてだったが、中々面白い。飛び込むたびに面白くて何度も何度も飛び込んだ。幸い公園には他に誰も来なかったためそれが出来た。気付けば公園には大の字の跡がいくつもあって、それをすべり台の上から見るのもまた面白かった。

気が済んだところでそろそろ帰ろうと私はコートについた雪をはたく。

 

「雪で足止めを…………そうです……よろしくお願いします」

 

帰ろうとしたその時、ペロの声がした。

私は何かと思い動揺する。ペロの声はしたが私の隣にいるペロは喋っていない。私が言うのだから間違いない。

公園の外に視線を移すと電話で話している大人の人が忙しそうにせかせかと歩いていた。

 

気付けば足が勝手に動き出していた。ペロには先に家に帰るよう言い、私はあの人の後を追った。

大人は歩幅が大きいためにすぐに私はあの人を見失う。だけど足跡が道を教えてくれた。

足跡が途絶える。

目前には高くそびえ立つビルがあった。おそらくあの人はこの建物に入ったんだと思う。私は思い切って大きな自動ドアをくぐった。

 

まっすぐ進むと受付の女の人がいて、私は少し背伸びして受付カウンターの上に頭を出した。

女の人は首を傾げたが、何かを思う出したかのように私の手を引きエレベーターに乗った。

突然のことで声が出なかった。私はあの人の場所を聞こうと……そう思ったところで、私はあの人の名前を知らないことを思い出した。これでは聞こうにも聞けない。それに、女の人は仕切りに私に「可愛いわね、あなたなら大丈夫」などと話しかけてくる。全然大丈夫じゃない。いっぱい話しかけられるのはすごく困る。結局一言も喋れずエレベーターは止まった。

受付の人は私を廊下に面した一室に案内する。中には私以外にも女の人がパイプ椅子に座っていて、私もその隣に座らされた。

 

不安な気持ちが募るまま、パイプ椅子に座っていると、部屋の外から何人かの声が聞こえてくる。どこか聞き覚えのある、安心する声。これだ。私はこの声を追ってここまで来たのだった。

 

さっきの忙しい男が目の前の席に着くと、私は立ち上がり、歩き出す。視線は彼から離さない。男の隣にいる人が何か座りなさいなどと言っていたが、男がそれを制した。

男の前に止まると、男の方から質問が飛んでくる。

 

「どうしてアイドルを目指すんだい?」

 

男の言ってる意味が分からない。だけど私が言いたいことははっきりとしていた。今度はちゃんと自分の口で伝えるのだ。

 

「…………私……アイドル……なるためじゃ……ない……。あなたに……会いに……来た」

 

男はゆっくりと私の手を取ると私もそれを握り返す。その日から私はアイドルに、男は私のプロデューサーになるのだった。

おしまい。

 

 

今日は一段と寒い日だった。カーテンが開いている。雪はやんでいた。きっともう大丈夫。1人でいると寒さは身にしみる。今はこちらの方が問題だ。いつも通り、私は大切な友達に構ってもらうべく、彼女の布団に飛び乗った。

初め、彼女は苦しそうな顔を見せるがすぐに目を開ける。目をパッチリと開いてないがそれもいつものことだ。

 

「………………おはよう……」

 

彼女は私を抱きかかえそう言った。

愛おしそうに頬ずりされるのは悪い気持ちはしない。そして

 

『おはよう』

 

今日も私は彼女の腕の中で、たぶんそう言っているのだ。

 




今回は佐城雪美ちゃんのお話でした。
実は雪美ちゃんは一番の推しキャラなので考えるのに苦労しました〜(タイトルは雪美ちゃん主語じゃないじゃんとか言わない!)
最後の
雪はやんでいた。きっともう大丈夫。
の 『きっと』 の後ろに 『それは』 を入れて、『きっとそれはもう大丈夫』にするかどうかで1時間悩みました。
雪美ちゃんの話だと分かった今、『それは』 を入れて読み直すと違う意味で考えられて面白いかもしれません。
是非よろしくお願いします!
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