転出当日の朝、初霜は北方警備艦隊庁舎にある司令執務室で、上官であった司令に型どおりの挨拶を行った。
「駆逐艦・初霜、本日付で南方警備艦隊勤務を命ぜられ、只今を持って転出します。お世話になりました」
それを受けて、まだ年若い司令は「うん」と曖昧に頷いた。
「まあ、その、なんだ。短い付き合いだったけれど、新しい任地でも頑張って」
ほんの数日前に着任したばかりの新司令から、ほとんど接点がないまま転出していく部下にかける言葉は、この程度でしかなかった。
初霜にしても、定期の人事異動と、南方警備艦隊の事実上の壊滅と再編の煽りを受けてほぼ総入れ替えとなった現在の艦隊に、思い残すことも少なかった。
そもそも北方警備艦隊というところは元々、人員の異動が頻繁に行われる艦隊であった。
慣れ親しんでいた仲間たちはとっくに別の任地へ行ってしまったし、最後に残された初霜にとっては、ようやく自分の番が来たという淡々とした感情しかなかった。
ただ唯一の例外として、新司令と一緒に着任したばかりの秘書艦・若葉だけが、司令執務室の片隅で、物言いたげな様子で佇んでいた。
若葉は初霜と同じ初春型駆逐艦の三番艦であり、艦娘としても同期生だった。初霜の新人時代、二等駆逐艦・萩だった頃、その僚艦・梨として共に訓練に明け暮れた旧友だった。
新司令は同期のよしみと気を遣ってくれ、若葉に、初霜を見送るように告げた。それで初霜と若葉は連れ立って執務室を出た。
広い鎮守府内を隊門まで向かう道すがら、初霜は、若葉に語りかけた。
「せっかく同じ艦隊になれたのに、すぐにお別れだなんて寂しいね」
「そうだな」
若葉は短く答え、頷いた。
寡黙にして冷静なこの友人は滅多に感情を表に出さず、そっけない言動が多かった。しかし他人に興味が無いのかといえばそうでは無く、むしろ意外なくらい人間をよく観察していた。
常に一歩引いた位置からの客観的なアドバイスに何度も助けられた事があり、初霜はこの無口な友人に大きな信頼を寄せていた。
今、二人は最初のやり取り以来、無言のまま敷地内を歩いていた。だが初霜は、これは若葉が自分を気遣って言葉を選んでいる結果なのだと理解していた。
やがて隊門の近くまで来たとき、不意に若葉が足を停めた。
「初霜」
「何?」
初霜も数歩先で立ち止まり、若葉に振り返る。若葉はしばし間を置き、しかし初霜から目を離すこと無く真っ直ぐに見つめながら、言った。
「正直な話、今回の人事異動について、お前の過去の一件が起因していないとは言い切れない」
「・・・」
初霜は黙って、静かに頷いた。
元より散々噂になっていた事だった。若葉は前配置から秘書艦を務めていた事もあって、今回の人事に関わる裏事情にも多少なりとも通じていたのだろう。
それを初霜に告げたのは、若葉のもつ正直さと真面目さ、そして友人への誠実さ故だと、初霜は思った。
若葉は続けた。
「お前がこれから向かう艦隊には、旧式だが練度の高い艦娘が多く配属される事になっている。ある意味、お前を抑えるための面子と言っても過言じゃない。それだけ上層部はお前を警戒しているんだ」
「・・・そっか」初霜は苦笑した。「私、あれからも色々とやらかしちゃっているものね。仕方ないかな」
「噂は聞いている。救命行為に関わる場面での複数回に渡る抗命行為と独断専行。結果的に多くの人命を救っているから表沙汰にはされていないみたいだが・・・ウチの司令は、お前が転出すると聞いて露骨に安堵していたよ」
「前の司令には散々迷惑かけちゃった。でも何度も庇ってくれて、本当に良い人だったわ。ねえ若葉。前司令は左遷じゃないわよね?」
「安心してくれ、栄転だ」
「そう、よかった」
初霜の苦笑が、紛う事なき笑顔に変わる。若葉はそれを見て、続けようとした言葉を飲み込んだ。
栄転は嘘ではない。しかしそれは司令部の判断ミスを初霜が現場判断でカバーした結果だ。抗命行為、独断専行に目を瞑れば、残るのは作戦成功という輝かしい結果だけだった。
そもそも、初霜が北方警備艦隊に在籍していた二年間で司令は三度変わっている。すぐに異動を望むほど過酷な環境なのだ。
そのため、経験の浅い司令部と現場を知り尽くした艦娘との間で判断が食い違う事は多かった。これは一歩間違えれば、艦隊の指揮系統が崩壊しかねない危険さえあった。
しかしそれでも、曲がりなりにも二年間、この艦隊が表面的にはまともに運用され、かつ司令が栄転できるほどの実績を上げ続けたのは、初霜の力量と性格によるところが大だった。
初霜は、司令部の判断ミスを現場判断でカバーし、それを抗命行為、独断専行と咎められれば素直にそれを認め、自ら処分を望んだ。しかしそういう場合、作戦そのものは全て成功していたから、司令部はその問題を揉み消してきた。
それと差し引かれる形で、初霜の功績が評価される事もなかった。しかし初霜はそれを不当とも思わなかった。
次も出撃できる。次も海を守れる。次も誰かを救える。その権限と機会を与え続けてくれるだけでも、彼女は歴代司令に恩義を感じていた。初霜はそういう艦娘だった。
「・・・初霜、お前はどこへ行ってもそうなんだろうな。南方の司令が目を回さなければ良いが」
「うん。まあ、ごめんね」
「謝るなら、私じゃなく、新任地の司令と仲間たちだろう」
若葉はそう言って、わずかに目尻を下げ微笑んだ。しかし、すぐにその顔から笑みが消え、彼女は言った。
「ただ忠告はしておく。お前の信念と、それを可能とする技量は認めるところだが・・・誰もがお前のように強くなれるわけじゃない。強すぎる信念はときに齟齬を生む。くれぐれも味方と衝突するんじゃないぞ」
若葉はそう告げて、右手を差し出した。
「うん・・・ありがとう。若葉」
初霜はその手を握り返す。
その手の感触に、親友があえて口にしなかった初霜の行為に対する肯定と、そして激励が込められているように感じられた。
それでも若葉が口に出さなかったという事は、それに甘えるなという事なのだろう。
初霜は手を離し、友に見送られながら隊門を出た。
北方警備艦隊と南方警備艦隊は字面からも分かるとおり、この国の領土のほぼ両端に駐留する艦隊だった。
そもそもが南北に細長い列島状の領土とそれに付随する領海を持つ我が国においては、最も距離が離れた艦隊である。
初霜は北方警備艦隊が駐留する北国の港から近隣の海軍航空基地へ移動し、そこから飛び立つ定期便に便乗した。
全国各地に点在する陸海空それぞれの航空基地を結ぶこの定期便は、軍関係者なら誰でも無料で利用する事ができた。したがって人事異動や出張などでよく利用されるのだが、その実、使用者の評判はあまり芳しくはなかった。
なにせ定期便の正体は軍用輸送機に他ならず、利用者は「人の形をした輸送品」として窓もない貨物室の隅に設けられた仮設席に身体を固定され、数々の航空基地を経由しながら何時間もの長旅を強いられるからだ。
これに比べて民間航路は首都経由で全国津々浦々にまで短時間で、そして快適な空の旅を味わえるのだから、誰もがそちらを使いたがるのも道理だった。
しかし軍は、機密保持、万一の事故の際の責任と保証、そして経費の観点から、職務上の移動はなるべく軍の定期便を使用するようにと方針が下されていた。
初霜は北から南への長距離を、八つの基地経由と、三回の乗り換え、そして民間航路の三倍以上の時間をかけて移動し、ようやく琉球本島の航空基地へ辿り着いた時は既に夜も更けた時分だった。
初霜は疲労の溜まった身体で私物を詰めた衣囊を背負いながら、基地を出て港へ向かう。今度はそこからフェリーで十時間の船旅が待っていた。
深夜出港のフェリーにギリギリ間に合った初霜は、ようやくシャワーを浴びて人心地つくことができ、二等船室の広い空間の片隅に腰を落ち着けるや否や、強い睡魔に襲われて泥のように眠ったのだった。
駆逐艦娘三名が着任する予定の当日。海尾と叢雲は宮吉島鎮守府敷地内にある艦娘用岸壁に佇み、彼女達を待っていた。
もっとも、海から着任するのは白雪と村雨の二人のみであり、初霜はフェリーで民間港から島に着くことになっていた。
なぜ同じ艦娘で移動方法が異なるのかと言えば、白雪と村雨の場合、前所属部隊がこの島の割と近場であったこと。そして、最近活性化する深海凄艦に備え、こちらに移動するついでに航路哨戒を行えという任務を与えられたためだった。
そんな特別な理由でもない限り、艦娘達は通常、初霜のように自分の身ひとつで移動する。何故ならその方が手軽であり、安上がりだからだ。事実、叢雲も同じようにフェリーを使って着任している。
ちなみにこの場合、船体はどうやって回航しているのかと言うと、これは各軍港に設置されている船体転送装置を使用して送られることになっていた。
この装置は艦娘本人と船体との結びつきを利用し時間と空間を一時的に遮断することにより質量保存の法則を量子論的にマクロな状態へと落とし込みそれはすなわち仮想的に三次元空間を十次元にまで引き上げる事と同等の現象を生じせしめそれを艦娘理論の応用により云々カンヌン
つまり一種のワープ装置である。
こんな便利なものがどうやって実用化されたかは先述した複雑怪奇な文章の羅列でしか説明できないが、それを無理やり乱暴に説明すると、
“艦娘七不思議の一つ”
であるという結論になる。
海面に直立できる、老化が止まる、挙句ワープまで出来るとなれば戦争どころか社会体制そのものまで変えてしまいかねない超技術だが、不思議なことに現実はそうならなかった。
何故なら、これらはすべて艦娘だけにしか起きない現象だったからだ。
そう、艦娘七不思議が不思議たる所以は、これらの技術が基礎研究を経て確立されて艦娘に投入されたのではなく、艦娘技術を開発して行く途中で偶発的に誕生してしまったものであり、その原理自体、未だ解明されていないからである。
結果、こういった超技術は艦娘の運用のみに限定的に使用されていた(艦娘を相手にしか使用できないとも言う)。
その転送装置が内蔵されている鎮守府の岸壁には、いま、50センチ近い波が繰り返し打ち寄せては白いしぶきを上げていた。防波堤に囲まれた港湾内部でこれなのだから、外洋は2メートル以上の波が立っているはずだった。
空はいまにも降り出しそうな鉛色の雲に覆われており、冷たい風とともに東へとゆっくり流れていた。
寒波である。
最近では海が時化ることも多く、深海凄艦の脅威が増していることもあって、島の主要産業である漁業に大きな影響を与えていた。
今日などは連日の時化に比べれば大人しい天候の方であり、白雪と村雨が警備艦隊に加わるという情報が島中に伝わっていることもあって、多くの漁船が漁に繰り出していた。
それでも外洋は2メートル以上の波である。漁師たちがかなりの無理を押して出港しているのには間違いなく、そんな彼らが早く安心できるよう、警備艦隊の再編は急がねばならない。
と、そんなことを考えていた海尾の傍で、叢雲が沖を指差した。
「来たわ」
海尾も沖に目を向けると、防波堤の向こう側に、二隻の駆逐艦が縦に並んで航行してくるのが見えた。
先頭は白雪だ。
叢雲と同じ吹雪型駆逐艦であり、船体の形、搭載武器は全く同じである。違いと言えば、船体脇に片仮名で書かれた船名しかない。しかし、それなのに白雪と叢雲では互いの船体を交換して操艦することは不可能なのだから艦娘とは不思議なものである。
続く村雨の船体もほぼ似たような外見だった。そもそも駆逐艦という艦種自体、吹雪型より小型化を目指した初春型や、明確に船体が大型化した朝潮型以降の駆逐艦を除けば、外見上にほとんど相違が無い。変更はほぼ搭載武器や電子部品を含む戦闘システムや、機関関係のバージョンアップに留まっていた。
このよく似た二隻の駆逐艦が防波堤を巡り、先ずは白雪が港湾内へと進入する。
なお鎮守府の岸壁は長さが200メートルほどしかなく、船体長が100メートルを超える二隻の駆逐艦が縦に並んだまま停泊するのは不可能だった。そのため、村雨は防波堤の外で待機し、白雪が岸壁へと接近を開始する。
白雪は岸壁に対し斜め三十度の角度で進入し、岸壁から50メートルの位置で回頭、平行になるようにして船体を止めた。
この時、岸壁と船体との距離は10メートル。不安定な水上と強い風の下で、全長120メートル、排水量2000トンの巨体をこの位置で止めるのはかなりの練度を要する。白雪は、それを危なげなくやって見せた。
停止した船体に対し、岸壁の転送装置が作動する。白雪の船体を光の粒子が包み込んで行き、それは波しぶきのように宙へと吹き上がって消えた。
光が収まると、そこにすでに船体はなく、代わりに一人の少女が海面に佇んでいた。
その少女は、波打つ海面をことも無げに歩き(50センチもの波が立つ海面をである)、岸壁に設置された階段から陸上へと登った。
少女が、海尾に対し敬礼する。
「吹雪型駆逐二番艦、白雪です。本日付で南方警備艦隊勤務を命ぜられ、ただいま着任しました。よろしくお願いします」
海尾も答礼する。
「南方警備艦隊司令の海尾だ。・・・練習艦隊以来、だな」
「ふふ、練艦隊の広報担当として大活躍されていた青年士官さんも、立派になられましたね」
昔と変わらぬあどけない顔に優しい笑みを浮かべた白雪に、
「ま、まあ・・・そんな時代もあったな」
と海尾はなぜだか目を泳がせた。
傍らに立つ叢雲は、そんな海尾の不審な態度をチラリと横目で眺めたが、すぐに白雪に目を戻した。
白雪も、叢雲に顔を向ける。
「久しぶりね、叢雲」
「去年の同期会以来ね。あの時は、またこうして船を並べられるなんて思いもしなかったわ」
「私もよ。同期会の後すぐに任期延長の話が来たの。でも本当は警備艦隊じゃなくて、練艦隊に留まるはずだったんだけどね」
「・・・ここに来て、良かったの?」
「断ることも出来た。でも、そうしなかったのは私の意志よ」
白雪は軽くそう答えた。
それに対し、叢雲は「そう」とだけ短く頷いた。
後方で長く勤務し引退まで考えていた同期に対し、なぜわざわざ再び前線へと出てきたのか。その理由を白雪は言わなかったし、叢雲も訊こうとはしなかった。
叢雲が訊かないなら、同じく知り合いであっても自分が訊くのはお門違いだろう。と、海尾も何も訊かないことにした。
「海尾さん」と、白雪。「精いっぱい頑張りますので、改めてよろしくお願いしますね」
「ああ、頼りにしているよ」
海尾はそう答え、そして、なぜか叢雲が妙な表情で自分を見ていることに気がついた。
それは何というか、驚きと不審がないまぜになり、それを務めて表情に出さないようにしているという表情だった。
「どうした、叢雲?」
「いま、海尾“さん”て・・・いえ、何でも無いわ」
はて、何かおかしいところがあったか、と軽く首をひねる海尾の視線の先に、続いて入港しようとする村雨の姿があった。
白雪と同じように危なげの無い操艦だが、岸壁と平行に停止した時には、その距離は30メートル以上も離れていた。
と言っても、今日のように風も強く波も高い天候では、下手に近づけば岸壁に激突する恐れもあり、むしろこれくらい離すのが最も安全である。
したがって村雨は慎重な判断をしただけであり、これだけで技量が白雪より劣っているとは言えない。白雪との差は、経験と、それに伴う操艦技量への自信といったところだろう。
では白雪は自信ゆえに安全を無視し、岸壁ギリギリまで接近したのだろうか。いや、そうでは無い。実は岸壁から離せば、離しただけ別の問題が生じてくるのだ。
船体が光に包まれ、海面上に村雨本人が残される。
彼女は岸壁に向かって小走りにやって来ようとしたが、高く不規則な波に足を取られ、転びそうになった。
「ふあ! お、おお、うわわわ!?」
そう、岸壁から遠いという事は、それだけ長く海上を自分の足で渡らなければならないという事でもある。たった数十メートルとは言え、波打つ海面を歩くことがどれほど困難か、艦娘でなくとも想像はつくだろう。
「おーい、大丈夫か?」
「は、はいぃぃ、だ、だいじょーぶ、だと思います・・・おおおお!?」
波に足をすくわれつつも、彼女は何とか岸壁まで辿り着いた。
「はぁぁ~、お恥ずかしところをお見せしちゃいました。白露型駆逐三番艦、村雨です。南方警備艦隊勤務を命ぜられ、ただいま着任しました。よろしくお願いします」
「司令の海尾だ、よろしく。ここの岸壁は外洋から風や波がよく入ってくるからな。入港は難しかっただろう」
「白雪さんがあまりにも簡単に入ってみせるから油断しちゃいました。私もまだまだ経験が浅いですね。先輩方、これからご指導よろしくお願いします」
改めて頭を下げた村雨に、叢雲と白雪も笑顔で応じた。
これで南方警備艦隊には駆逐艦が三隻在籍した。
彼女たち駆逐艦は通常、三隻から四隻で一つの【駆逐隊】を編成し、ここに軽巡が二隻加わって【一個戦隊】を形成する。
この戦隊が二つと、戦艦か重巡が一隻、そして正規空母一隻もしくは軽空母二隻が加わって、ようやく警備艦隊の陣容が整うのだ。
「取り敢えず後は、別行動の初霜が到着すれば駆逐隊の編成は完了だな。フェリーの入港予定時刻は・・・あと一時間後か」
海尾が腕時計を見ながらそう言うと、別方向から、
「その初霜さんが乗っているはずのフェリーに関して、気になる情報を受信しました」
そう声をかけられ、海尾は腕時計から目を上げた。
そこに、仁淀が姿を表していた。
「あ、白雪さん、村雨さん、初めまして。私はここの業務担当をしております仁淀と申します」
彼女は手短に自己紹介を済ませると、海尾に続きを報告した。
「先ほど海上保安隊へ、近海で小型漁船一隻が転覆し、乗っていた漁師が海へ投げ出されたとの通報が入りました」
「そうか。で、我々にも救助要請か?」
海難救助や海上治安の維持は海上保安隊の任務だが、地元に駐留する保安隊の戦力では対処しきれない時は海軍にも支援要請がかかる。
しかし仁淀は首を横に振った。
「いいえ。ちょうど通りかかったフェリーが漁師を救助したようです。その際、乗客の一人が海を“走って”助け出した、と」
「走った?」
仁淀の言葉に、海尾たち四人は顔を見合わせた。
海上を走れる人間は艦娘以外に無い。であるならば、その乗員とは初霜その人に間違いなかった。
しかし・・・
「この海を、走っただと・・・?」
海尾は、岸壁の向こう側へと目を向けた。
そこでは高波が防波堤にぶつかり、激しいしぶきを上げている光景があった。
次回予告
荒れる海に、助け求める声がする。それを誰が救うのか。
誰かを救える力があるのなら、それがこの身にあるのなら、
私がやらねば誰がやる!
その小さな体に大きな覚悟と勇気を秘めて、荒れ狂う海へ少女は飛び込む。
次回「第八話・危うい矜持」
「私が沈めば、それは駆逐艦一隻の損失と同義です。それでも・・・それでも・・・」