艦これ海上戦記譚~明け空告げる、海をゆく~   作:PlusⅨ

27 / 63
第二話・カレー曜日は何曜日(・ω・)?

 出港後、港湾内から防波堤を越えて外洋に出たところで、漣は速力を20ノットまで増速した。

 

「針路240度、宜候。現針路速力での深海棲艦目撃海域到着所要時間、約五時間。到着予定時刻は1630頃です。ご主人様」

 

「了解。自動操縦を許可する」

 

「あいさー。通常航海配備に移行します」

 

 俺の許可に、漣は周囲に近づいてきそうな他の船舶が無いことを確認すると、船体を自動操縦に切り替えた。

 

 しかし自動操縦といってもレーダーや光学センサーは船体の周囲360度全周を休みなく監視し、その情報は常に艦娘とリンクしている。

 

 つまり艦娘たちは船体のどこに居ようとも外の状況を事細かに把握し、操艦できるということだ。

 

 しかし、

 

「この自動操縦って、艦娘が寝ているときはどうなっているんだ?」

 

 俺の質問に、漣が「ほえ?」と首を傾げる。

 

「別に寝こけていても操艦できますよ。といっても、頭の片隅が常に起きている感じなんで、熟睡なんてできませんけど」

 

「それはなんだか寝不足感がすごそうだなぁ。しかしその状態って、寝惚けているのとどう違うんだ?」

 

「寝惚けているなんて失礼な。きっちり冷静に操艦してますよ。まあそれが出来るようになるまでかなり訓練が必要なんですけどね」

 

 そう言って漣はどこか遠い目をして水平線を眺めた。

 

 なんでも艦娘になるための訓練で最も難しいのがこの眠りながらの操艦らしい。この感覚に慣れさせるために数日間、昼夜ぶっ通しで行軍訓練を行ったことを彼女はげんなりしながら語ってくれた。

 

 しかしそれなりの効果はあったようで、彼女自身、意識を失いながら1キロ以上も歩き続け、自身でも驚いたそうな。

 

 それでも普通の人間が寝惚け眼で歩くのと、100メートル以上もある巨大な船体を操るのでは訳が違う。

 

 行軍訓練はあくまで「やればできる」という達成感を養うものであり、技術的な面では何の役にも立たない・・・ということを訓練後に言われて凹んだらしい。

 

「結局これも艦娘特有の謎技術、“艦娘七不思議”の一つってやつなんでしょうけどね~。・・・自分でも未だに不思議なんですけど、何かあるとフッと目が覚めるんですよ。例えばレーダーにも引っかからないような小さな漂流物とぶつかりそうになったときとか、暗闇で光学センサーでも見分けられなさそうなのに、“何かあるな”って直感的に分かるんです」

 

「ほとんど超感覚だな。レーダーでもカメラでも見つけられない目標を感知できるといえば動体検知器だろうが、あれは戦艦や重巡用の装備だから、駆逐艦には搭載されていないだろう?」

 

「噂じゃ搭載している駆逐艦もいるらしいですけどね。あれも結構な謎技術ですけど、この艦娘特有の超感覚が応用されているって話もありますね」

 

 そんなことを話していると、艦橋にいい匂いが漂ってきた。

 

 これはカレーに、ついでにカツの匂いだ。腹が減った。

 

「そろそろお昼ごはんにも良い頃合いですね、ご主人様」

 

 漣も鼻をクンクンとならしながら待ちきれなさそうにこちらを見る。

 

「よし、食堂に降りるか」

 

「わ~い」

 

 二人そろって艦橋を降りる。

 

 食堂ではちょうどオオカミお姉さんが配膳を終えたところだった。

 

 カレー用深皿に白いご飯が三分の二ほど盛られ、さらに残る三分の一にはキャベツの千切りがどっさり載っている。その上にたっぷりの濃い目カレー、そしてざく切りされた大きなカツが載っていた。

 

「いいタイミングね。ちょうど今から呼びに行こうと思っていたところよ」

 

 三人で席に着き、手を合わせる。

 

「「「いただきます」」」

 

 先割れスプーンを手に取り、先ずは一口。

 

「うはww濃いwwお姉さん、このルー、マジで濃ゆいっス(;´∀`)」

 

「そして辛っ! 味見したときよりもっと辛いな」

 

「そこでキャベツの出番よ!」

 

 オオカミお姉さんの指示で、同じ皿に盛られているキャベツを口に放り込んだ。

 

 キャベツの甘みと瑞々しさがカレーの濃さを程よく中和する。うむ。これはなかなか絶妙なコンビネーション。

 

 そして本命のカツはと言えば、揚げたての衣のサクサクとした歯ごたえのあとに、柔らかで、しかし肉としての弾力を保ち、口の中で肉汁を溢れさせる。

 

「こ、これはっ!?」

 

 この肉の濃縮された旨味。これは、米に合う味だ。いや、米だけではない。俺はスプーンで白米を掬い取ると、それをいったんルーに浸してから口へと運んだ。

 

「おぉ・・・おお!」

 

 この肉汁の旨味が残る口内に濃い目のルーと炊き立てご飯を頬張ることによって、肉と油とスパイスと旨味が白飯によって究極かつ完全なる調和を生み出している。

 

 まさにこれこそ、究極のカツカレーと呼ぶに相応しい。

 

 感動に浸る俺の隣で、漣もがつがつとカツカレーをかっ食らっていた。

 

「うめぇっ、お姉さん、うめえッス。カツとカレーとキャベツのコンビネーションがパネェッス!」

 

「ふっふっふ」と得意げに笑うオオカミさん。「なかなかイケるでしょう。こうみえて現役時代は海軍カレーフェスタの常連だったのよ」

 

「ほう。観艦式よりも人気が高いと言われる、あの?」

 

「カレー界の甲子園とも言われ、民間のプロたちまでも注目するという、あのカレーフェスタ!」

 

 海軍は伝統的に金曜日にカレーを食べることで有名だ。その理由は長い艦上生活で曜日の感覚を失くさないよう、週に一回、決まった曜日にカレーを振る舞っていたことに由来する。

 

 別に曜日の感覚を失くさないためならカレーじゃなくとも、ハヤシライスでもシチューでも肉じゃがでもなんでもいいのだが、それが何故カレーになったのか、そして金曜日となったのか、その理由は定かではない。

 

 しかし当の海軍自身が由来を忘れてしまうほど長く続いた伝統であることには違いなく、そして当初は曜日を忘れない手段であったはずの金曜カレーが、いつしかカレーを食うための日となり、そして美味いカレーを作ることが目的化するようになった。

 

 まあこのように手段が目的化して、それを極めることに無駄な情熱と努力を傾注してしまうのはウチのお国柄なんで仕方ない。ついでにこういった伝統をお祭り騒ぎにして楽しんでしまう面もある。

 

 かくて海軍伝統カレーは、カレーフェスタという、全国国民が固唾をだらだらと溢れさせながら見守る巨大イベントとなった。このフェスタの優勝者は海軍最高のカレーシェフという名誉に加え、退役後はその腕前を欲しがる店からスカウトが殺到するという。

 

「これほどの腕前なら」と、漣。「きっとかなりいい成績だったんでしょうねぇ。もしかして優勝者とか?」

 

「艦娘部門、重巡級カツカレー代表として三年連続出場でいずれもベスト4どまり。残念ながら当時はまだ未熟だったわ」

 

「それでも大したものですよぉ」

 

「ていうかクラス分けが細かすぎないか?」

 

 カツカレー代表てことは、シーフードカレーとかキーマカレーとかもあるのか。

 

「艦娘部門というだけでも“キラ付けの間宮”や“居酒屋鳳翔”なんて強豪ひしめく時代だったしね。これで無差別級ともなったら通常艦艇150隻や全国の陸上基地から選り過ぐりの調理員たちが参加してくるのよ。まさに世は大カレー時代といっても過言ではないわ」

 

「大カレー時代・・・なんか大海賊時代みたいな響きですね」と漣は立ち上がって、「カレー王に、あたしはなる!」

 

「ういーあー」思わず口をついて出た。

 

「初代主題歌とか、年齢がバレますよ」

 

「ほっとけ」

 

「なんの話してるの?」

 

 と首を傾げるオオカミさん。もしかして俺より年上か? 元重巡艦娘ということを考えるとその可能性は否定できない。

 

 なぜなら、重巡、空母、戦艦といった艦娘は、駆逐艦娘か軽巡艦娘の中から選抜されて艦種替えするのだ。その間に再び長い教育期間を挟むので、彼女たちはたいてい十代後半から二十代半ばの容姿になる。

 

 当然、その後も容姿はそのままで何年も現役だったわけだから、このオオカミお姉さんの年齢は少なく見積もっても--

 

「ちょっと提督、あなた、なにか余計な事をかんがえてない?」

 

--オオカミさんが狼のような視線を向けてきたので、この話題はこの辺までにしておこう。

 

「いや、今なら優勝も狙えると思って」

 

「あら、ありがとう」

 

「お姉さん、おかわりいただきます!」

 

 漣が席を立ち、皿を持って調理場へと向かって行った。

 

「あいつ、食うの早いな」

 

「艦娘は体力勝負だしね、駆逐艦といえどもアスリート並みのカロリーを消費するのよ。私が現役時代は平均三杯は食べないと身体がもたなかったわ」

 

「そんなにか。いや、たしかに空母や戦艦は凄いと噂には聞いていたけどなぁ」

 

「“大食艦”なんて呼ばれている空母も居ますよねぇ」

 

 と漣が大盛カレーにカツ二枚分を乗っけて席に着く。これを平らげようとする奴から大食呼ばわりされるとか、どういうレベルだ。

 

 しかし“居酒屋”だとか“大食艦”だとか、軍艦なのに戦闘と関係なさそうな二つ名ばかりだな。

 

「そういえば」と漣。「“大食艦”さんて、料理関係の異名も持ってましたよね。たしか“海鷲の焼き鳥製造機”でしったっけ?」

 

「それは彼女じゃなく相方の方ね。ていうかそれ、料理関係の二つ名でも褒め言葉でも無いから、口にするのはやめときなさい」

 

「ほえ?」

 

「“海鷲”って空母に搭載される航空機の事だから」

 

「げー(;´・ω・)」

 

「建造当初の設計ミスが原因で、発着艦失敗が相次いでね。・・・本人の名誉のために言っておくと、それは設計の問題であって、艦娘のせいでは全くないからね。むしろ彼女が苦労して欠点を改善してくれたからこそ、今の空母艦娘たちがあるんだし」

 

「一航戦も苦労してたんですねぇ」

 

 しみじみと漣。ていうか、そうか、一航戦コンビの事だったのか。そういえば焼き鳥屋さん、最近、演歌歌手としてデビューしたよな。

 

「なぁ、お姉さん」と、俺。「お姉さんも二つ名とか持ってないのか?」

 

「私? 料理関係では持ってないわね」

 

「あ、そうなのか。・・・“料理関係では”?」

 

「イギリスの観艦式に出席したときに“餓狼”なんて二つ名を頂戴しちゃったわ」

 

「牙狼(・∀・)キタコレ」

 

「反応すんなオタク娘」餓狼伝説の方を連想したことが知られたら、またこいつにオッサン扱いされそうだ。「しかしカッコいい二つ名だなぁ。まさに戦闘艦にふさわしいって感じがする」

 

 俺がそう言うと、オオカミお姉さんはなぜだか微妙な表情をした。

 

「あっちのユーモアは賞賛と皮肉が一緒くたになってるからね。“餓えた狼のように強力な戦闘力だが、気品にかける”って意味よ」

 

「なんというか、ひねくれた批評だな。というか機能美以外で戦闘艦に気品を求めるのは、あの国ぐらいじゃないのか?」

 

「あの国の艦の居住性は超凄いわよ。なにせ艦内にバーが標準装備されてるんですからね。その点は羨ましいと思ったわ」

 

「ここにもカラオケならありますよ(・ω・)ノ」

 

「そんなのお前くらいだ。うちの海軍全部がそうだとか思われても困る」

 

「ご主人様もオタクのくせに~。どうせカラオケ行ってもアニソンしか歌わないんでしょ」

 

「見損なうな。ボカロもイケるぞ」

 

「ジャ〇ーズとかは?」

 

「イケメンは嫌いだ( ̄д ̄)」

 

「男の嫉妬って可愛くない(´・ω・`)」

 

「あ、ムーライト伝説みっけ」

 

 オオカミさんがいつの間にかカラオケのリモコンをいじっていた。というか、水兵服月娘の初代主題歌ですか、そうですか。

 

「歌っていい?」

 

「どうぞどうぞ」

 

「ていうか知ってる?」

 

「知ってます」

 

「サビ以外うろ覚えなのよね。一緒に歌ってくれないかしら」

 

「喜んで」

 

 マイクを受け取り、二人して立ち上がる。

 

「あー、ずるい。私も私も~」

 

 メロディが流れる中、漣が三杯目のカレーを急いで平らげると、どこからか三本目のマイクを持ってきた。

 

 そのまま三人で歌い倒していると、これまで歌詞と共に懐かしのアニメシーン表示していた多目的スクリーンが急にブラックアウトし、代わりに【緊急信受信】なんて言う無粋な表示が現れた。

 

「お、軍用秘匿回線で入電ですね。艦隊司令部の長門さんからです」

 

「カラオケタイムは終わりか。しかたない、切り替えてくれ」

 

 多目的スクリーンが切り替わり、長門秘書艦の姿がそこに表示された。

 

『こちら海軍総隊艦隊司令部、司令長官付秘書艦・長門です。南西警備艦隊、応答願います』

 

「はいはい、こちら南西警備艦隊、旗艦・漣でーす」

 

『なんだか、またずいぶんとお気楽そうな顔をした旗艦が出てきたな。駆逐艦一隻で深海棲艦を相手しようというのだぞ。怖くないのか?』

 

「まぁ、何が何でも殲滅しろって命令でもないですし。だったら、やりようはいくらでもあるっしょ。よゆー、よゆー」

 

『大した度胸だな。気に入ったよ』長門は愉快そうに笑って、『ところで、海尾大佐はどちらに居られるんだ?』

 

「ここに居るぞ」と、俺。向こうから見えるようにカメラの視界に入る。

 

『これは失礼しました。目撃された深海棲艦について追加情報を入手しましたので、これから送信します』

 

「わかった。参考にさせてもらうよ」

 

 多目的スクリーンの一画に情報ファイルのダウンロード状況を示すシーケンスバーが表示された。

 

「ずいぶん重いデータだな」

 

『最初に通報した民間航空機が目標を撮影しており、その画像データが当局へ提出されたので、こちらにもまわしてもらいました。これから分析するところですが、そちらが現場に急行していることもありますし、分析状況をリアルタイムで中継したいと思います』

 

 ダウンロードが終了し、スクリーンに画像が映し出された。

 

 スクリーン一面に、航空機から見下ろした海原が青く広がっている。その中心に黒いシミのような影が映っていた。

 

「これが目撃された深海棲艦か。細部が分からないな」

 

『トリミングして画像分析にかけます』

 

 黒いシミにカーソルが移動し、その周囲を四角形のグリッドで囲んだ。その囲んだ部分が拡大され、ドットの荒いぼやけた画像がスクリーンいっぱいに広がる。

 

 そのぼやけた画像が調整され、そこに黒い涙滴状の物体が出現した。

 

 それは海面に半身を現し、白い航跡を引きながら泳いでいた。

 

 一見すると大型の鯨の様にも見える。だがその表面は人工的な直線の組み合わせで構成されていた。

 

 ならば潜水艦に似ているとも言えるが、しかし、次に別角度から映された画像を見たとき、その異質ぶりが明らかになった。

 

 その画像は、深海棲艦が海面から大きく浮上し前半分が海面上に露わになっていた。先ほどの画像では水中にあった艦艇部の“巨大な顎”がハッキリと視認できる。

 

 画像に続いて艦隊司令部での分析結果が表示された。

 

【深海棲艦・駆逐イ級】

 

 イ級は深海棲艦の中でも最も数が多いとされる艦種だった。個体によってそれぞれバラツキはあるが、全長はおよそ100~150メートル、推定排水量2000~3000トン、武装は5インチ単装砲が1基~3基である。

 

 個体としての能力は我が海軍の標準的な駆逐艦と比べて格下と言って良いものであった。一対一で戦ってもまず負けることのない相手だ。

 

「目撃されたのはこの一隻だけか?」

 

『今のところは。ですが駆逐艦タイプの習性から考えて、おそらく最低でも他に二隻は潜んでいるものと思われます』

 

「このイ級、昨日の艦隊の生き残りかしらね」

 

 そう言ったのはオオカミさんだった。彼女がスクリーンの前に立ったことで、長門の方も彼女を視認したらしい。

 

『うん? なんだか懐かしい顔が見えるな』

 

「やっほー。長門、久しぶりね。艦隊司令部直轄艦だなんて出世したじゃない」

 

『そういいものではないさ。デスクワークばかりで船体が錆び付きそうだ』

 

「知り合いか?」

 

 と、俺の質問に、オオカミさんが頷いた。

 

「まあね、戦艦・重巡課程の同期よ」

 

『同期一番の武闘派と謳われたお前が今じゃ料理人とは、世の中はわからんな。いや、こんなことを話している暇はなかった。海尾司令、失礼いたしました』

 

「私も思わず口を挟んじゃって、ごめんね」

 

「構わんよ」と、俺。「お姉さんもこのまま話題に参加してくれ。元重巡としての意見を聞きたい」

 

「いいのかしら?」

 

 オオカミさんの確認に、漣も頷いた。

 

「よろしくっす、先輩(`・ω・´)ゞ」

 

「じゃあ、遠慮なく」と、お姉さん。

 

 俺は長門に、続きを促した。

 

 長門は言った。

 

『先ほどそこの彼女が言った通り、このイ級は昨日に撃退した敵艦隊の生き残りと思われます。個体識別の結果、どうやら空母ヲ級の護衛についていた一隻のようです』

 

「てことは、ヲ級も近海にいる可能性があるのか」

 

「それって、鎮守府を爆撃したやつですかね」と、漣。

 

『鎮守府に襲来した敵機の状況はわかるか?』と、長門がオオカミさんに訊く。

 

「そうね、爆撃機がおよそ十数機ってところよ。これが二派に分かれていたわ」

 

『あまり多くないな。機数から考えて鎮守府爆撃に関わったのは一隻か、多くても二隻か』

 

 長門の言葉に、俺も頷く。

 

「しかし、これから駆逐艦一隻で十数機の敵機相手にする訳か。苦しい戦いになるな。長門秘書艦、現在、この海域の制空権はどうなっているんだ?」

 

『基地航空隊より制空用の戦闘機が四機、緊急出撃しました』

 

「キルレシオは確か十三対一だったか。敵機が二十機も居なければ制空権は確保できるな。あと問題なのはヲ級本体と護衛のイ級だな」

 

「いつもの通りの編成なら」と、漣。「空母一隻につき護衛は三隻ってところですね。制空権も確保できるなら、セオリー通り超長距離からの先制SSSM攻撃しかないっしょ」

 

「だな。お姉さんの意見は?」

 

「現時点では無いわ。これで重巡か戦艦が出てくるようなら別だけど」

 

「そうだな」

 

 大火力と重装甲、そしてなにより強力な電子戦を仕掛けてくる重巡・戦艦級に駆逐艦一隻で立ち向かうのは流石に自殺行為以外のなにものでもない。

 

 もっとも、小規模とはいえ空母艦隊を一隻で殲滅できるとも考えていない。通商航路を航行中の民間船舶を守るのが精一杯だ。しかし、それが本来の任務なのだ。無理をする必要は無い。

 

「長門秘書艦、水上艦の増援はいつ頃出港するんだ?」

 

『隣接する警備区司令から、すでに出港中の艦艇を向かわせると報告が上がっています。派出戦力は、駆逐艦・五月雨、駆逐艦・如月、軽巡・木曽の三隻。一時間後に南西警備艦隊の担当海域へ入りますので、その時点で海尾司令の指揮下に入ります』

 

「早いな。助かる」

 

 ならば、すぐに合流した方が得策だろう。

 

 と、思ったところで、傍らの漣が虚空を見つめて、表情を険しくしていた。

 

「ん、どうした?」

 

「緊急信を受信しました。猫娘ちゃんからです」

 

「内容は?」

 

「海上保安隊から鎮守府へ通報があったそうです。付近を航行していた民間貨物船で故障が発生し、舵を破損して操船能力が著しく低下。予定航路を大きく外れて航行中とのこと」

 

 漣がスクリーンの一画に貨物船の位置と進路を示す。

 

 それは深海棲艦の目撃情報があった場所へと進んでいた。

 

「うわ、まっしぐらじゃん。これはまずいですよ、ご主人様」

 

『そちらの状況はこちらにも報告が上がりました』と、長門『増援は間に合いそうにないですね』

 

「かといって見殺しにはできないだろう。機関第四戦速だ。急いで追いつくぞ」

 

「了解!」

 

 漣の返事と同時に、船体奥で唸っていたタービンエンジンの咆哮が、さらに大きくなった。

 

『ご武運を』

 

 長門が敬礼し、スクリーンが消えた。

 

 艦首が波に乗り上げ、艦内が縦に揺れる中、俺は漣と共に艦橋へと戻った。

 

 

 

 




次回予告

 海原に緊急警報が響き渡る。助けを求める船がある。

 君がやらねば誰がやる。私がやらねば誰がやる。

 たとえ普段はおちゃらけても、やるときゃやるのが、艦娘魂!

「第3話・守護るッ(`・ω・´)!」

「いざとなれば、この艦を盾にします。それくらいのことは、とっくに覚悟完了ですよ、ご主人様」

「よし、わかった。例え敵が空母だろうと戦艦だろうと、俺たちでこの船を守るんだ!」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。