艦これ海上戦記譚~明け空告げる、海をゆく~   作:PlusⅨ

35 / 63
第二十一話・からかい上手の飛龍さん

 ちゅら海水族館は我が国でトップクラスの人気を誇る水族館だ。

 

 どれくらい人気かといえば、沖縄本島の玄関口である那覇空港から高速バスを乗り継いで四時間もかかるという辺鄙な僻地に建っているにも関わらず、

 

「一生に一度は訪れるべき観光スポット、ベストテン」

 

に常にランクインしているほどである。そのため展示の目玉でもある巨大水槽の前は大勢の観光客で埋め尽くされていた。

 

 カップル、家族連れ、団体観光客。多くの人々が巨大水槽をゆったりと泳ぐ多種多様な海洋生物に目を奪われていた。

 

 薄暗い照明の室内に、壁一面の巨大水槽を透過してきた紺碧の光が揺らめき、時折、水中を泳ぐジンベイザメの影が見上げる人々の頭上を通り過ぎて行った。

 

 今年で三歳になる加来の二番目の娘が、水槽を横切っていくジンベイザメの巨体を指差して声を上げた。

 

「くじらー!!」

 

「あれは、サメさん、ですよ」

 

 付き添っていた初霜が、微笑みを浮かべながら丁寧に訂正した。

 

 そこから少し離れた場所では、五歳の長女が水槽のガラスに張り付いていた。

 

「エイ、エイだ!」

 

 ガラス越しに張り付いているエイの裏側に興奮気味の長女。その隣りで朝霜も同じように張り付いて、

 

「アハハ、マジでエイだ。変な顔してんな、なぁ!」

 

 一緒になってはしゃぐ朝霜の様子に、その背後に立っていた霞が呆れ顔でため息を吐いていた。

 

「こら、二人とも。水槽のガラスにべたべたと触るんじゃないったら。ほら、見なさい。あんた達の鼻や額の跡がべったりと残っちゃったじゃない」

 

 霞は二人の襟首をつかんで引きはがすと、二人に携帯ウェットティッシュを渡した。

 

「ほら、ちゃんと拭き取ること。いいわね」

 

「へぇーい」と朝霜。

 

「へいへーい」と子供がまねをする。

 

「返事は“はい”でしょう。朝霜、あんたがシャキッとしないから子供が真似したじゃない!」

 

「へい――はいはい。なんか教育ママみたいだな、霞って」

 

「霞まま~」

 

「な、なに言ってんのよ。それより早く拭きなさいったら、もう」

 

 そこからさらに離れた場所では、阿武隈が、三人ばかりの幼子たちの面倒をまとめて見ていた。

 

「ミナサーン、ワタシの指示に従ってくださーい」

 

 だが五歳の子供たちはてんでバラバラに魚に夢中で、阿武隈の声など聴いていなかった。

 

「んンっ、ワタシの指示に従ってくださぁーいぃ!」

 

 この子供たちは加来の長女の友達だった。加来が子供を連れてくると、なぜだかたいてい、余所の子たちもついてくるのが通例だった。

 

 いつもなら子供たちの面倒は加来と、多門丸と、そして飛龍で見るのだが、今回は阿武隈を含めた二十一駆が来てくれた上に、彼女達から率先して子供たちの面倒を見ると言ってくれたので、加来は妻と一緒に、そして多門丸は飛龍と一緒に、ゆっくりと水族館を見て回っていた。

 

 周囲が混雑していることもあって、並んで歩く飛龍と多門丸の距離もいつも以上に寄り添っていて、端から見ればデート最中のカップルそのものだった。

 

 しかし、当の多門丸の内心はそれどころではなかった。

 

 この多門丸 歩という男、女性が苦手である。

 

 誤解が無いように言うならば、嫌いなのではない。性的に興味が無い訳でも無い。多門丸は肉体的にも精神的にも健全な成人男性である。

 

 しかも、彼は海軍士官であり、その中でも無人戦闘機部隊を率いるエリートだ。加えて顔立ちも整っており、つまるところ、本人にその気が無くとも女性の方が放っておかない“超優良物件”である。

 

 当然、言い寄ってくる女性は数え切れなかったし、そのうちの何人かとは押し切られるような形で付き合ったこともある。

 

 だが、いずれも長続きしなかった。

 

 別れはいつも相手から切り出された。

 

「いつまでたっても心の距離が埋まる気がしない」

 

「あなたが私のことを、どう思っているかわからない」

 

「一緒に居ると息が詰まる」

 

「つまらない男」

 

 そんな言葉を投げられて愛想をつかされてきた。

 

 多門丸にしてみれば、相手から頼まれて付き合ってやっているのに、勝手に愛想をつかされて迷惑だ。という気分でいたが、

 

 それを親友である加来に酒の席で相談したとき、彼は珍しく冷たい視線を多門丸に向けて、こう言った。

 

「だったら、最初から付き合うな。断れ。相手の気持ちに応える気もない男に恋愛をする資格は無い!」

 

 その言葉に、多門丸は頭をガツンと殴られた気分になった。実際、飲み過ぎで頭が痛かった。

 

 自分は、女性から言い寄られている自分に酔っていただけだった。

 

 相手の気持ちなど考えず、向こうから酔ってきたのだから俺に合わせればいい。そんな傲慢な態度で女性を傷つけてきてしまった。

 

 俺は最低な男だ。

 

 人間として恥ずかしい。

 

「加来、ありがとう。俺は目が覚めたよ」

 

「そうか! わはは、で、何の話だっけ」

 

「俺は生まれ変わる」

 

「おお、そうか、じゃあ飲もう。新しいお前の誕生日祝いだ。ハッピーバースデー!」

 

 この酒の席以来、多門丸は仕事一筋の男になった。

 

 加来は妙にストイックになった多門丸の様子を怪訝に思ったが、それが自分の忠告が原因だとは思いもしなかった。彼は酒の席での発言を全く覚えていなかった。

 

 だから加来は、多門丸が女に脇目もふらなくなったのは、彼が女性に振られ過ぎて女性不振に陥ってしまったのだと考え、

 

「不憫な奴だ。だったら俺が一肌脱いでやるしかない」

 

と、むしろ逆方向にやる気を出すようになった。

 

 そんな時に知り合ったのが、飛龍だった。

 

 明るく、社交的で、しかも航空母艦の艦娘だから接点が多い。航空職種の人間が交際するには打ってつけの女性だった。

 

 さらに都合の良いことに、クソ真面目な仕事人間と化した多門丸のことを何故か気に入ってくれたらしい。

 

 それが決して多門丸の外面――エリート海軍士官という飾りに惹かれたのではなく、むしろ残念味が強い中身を知ったうえで好意を寄せてくれたのだから、こんないい子は他に居ないだろう、と加来はすっかり飛竜の恋を応援する側にまわったが、

 

 当の多門丸は、あの忠告を愚直に守り続けていた。

 

「俺は女性の気持ちに応えられない、不器用な男なのだ。だから飛龍が言い寄ってきたなら、それはきっぱりと断るべきなのだ」

 

 と、最初のころは肩肘を張った態度を取り続けていたのだけれども、飛龍はこれまでの女性のように積極的に男女の関係を求めてこず、仕事上の同僚としての距離感を保ち続けた。

 

 飛龍との関係は、多門丸にとっては至って普通の、顔を合わせれば仕事の話のついでに世間話をして、仕事仲間の宴会やイベントにも一緒に顔を出す程度の親しい間柄、だった。

 

 別に男女関係を求めてこない飛龍に、多門丸は思った。

 

「なんだ、俺の勘違いか。自意識過剰にも程があるな。まったく、恥ずかしい」

 

 そもそも自分はアイドルでも何でもないのだから、女性なら誰でも言い寄ってくるはずがないじゃないか。過去の一時期、そんな女性が多かったが、それは誰でも人生一度は訪れるモテ期という奴だ。

 

 とまぁ、そんなふうに思いこんでしまったおかげで気持ちも楽になり、飛龍とも(彼なりに)肩の力を抜いて付き合えるようになった。

 

 そうやって素直に自然体で(あくまで彼なりにであるが)飛龍と接している内に、彼女の明るい性格や、時折垣間見せる聡明さを好ましく思うようになった。

 

 初めのうちは友人として好ましく思っていたのだが、加来の家族も交えて私的な付き合いを続けていくうちに、それが異性に対する好ましさに変化していくのに時間はかからなかった。

 

 しかし、

 

(俺は、飛龍のことが好き・・・なのか?)

 

 ここで素直に感情に従っていればよいものを、リアリストでロジカルな性格の悪い面が、彼に猜疑心を抱かせた。

 

(飛龍はパーソナルスペースがとても狭いのだ。だから何かにつけ必要以上に距離が近い。だから俺は無意識に“警戒して”心拍数が上がってしまうのだ)

 

(それに彼女は会話をするとき、よく人の目を見る。むしろ覗き込んでくるような感じだ。目と目が合うと、やはり“警戒して”しまう)

 

(それに飛龍はよくこう言う。「ねえ、多門丸」そんな風に何かにつけ名前をハッキリと呼ぶ。そのため意識を嫌でも彼女に向けざるを得ない。・・・まあ別に嫌ではないが)

 

(つまり、飛龍を常に意識してしまうのは、無意識かつ身体的反応によるところが大きいという可能性が高い)

 

 と、多門丸は自分の心理状況をこのように分析した。

 

 しかし、分析ができたと言って、だから飛龍と冷静に平静に向き合えるのかといえば、そんなことは全くなかった。

 

 それとこれとは別問題。恋愛とは理屈じゃないのだ。

 

(どうしよう、これから飛龍とどう向きあえばいいのか分からない・・・)

 

 これまで女性から好意を向けられたことはあれど、それに対し積極的に応えようとしてこなかったし、自分から好意を向けることも、ほとんど初めての経験だった。

 

(これじゃ、まるで子供の初恋じゃないか)

 

 自分自身で呆れもしたが、冷静に考えると、ほぼその通りだとも自覚した。かつての貴重なモテ期を自分勝手な思い上がりでスルーしてきたために、多門丸の恋愛経験値はほぼゼロなのだ。

 

 なので、仕事の時でさえも飛龍と二人きりになった途端、彼女のことを強く意識してしまい、ロクに世間話さえもできなくなってしまった。かろうじて仕事の話ができるくらいだ。プライベートで二人きりになろうものなら、もうどうしたらいいのか分からない。

 

今までの女たちから「つまらない男」と評されて愛想をつかされても「だからどうした」と平気でいられたのに、もし飛龍からそう思われたら、自分の心は立ち直れないくらい傷つきそうで、そう思われたくなくて気が気じゃない。

 

 だから、飛龍と出かけるときはいつも加来に頼み込んで子供たちを連れてきてもらっていた。

 

 顔見知りの子供たち相手なら気負うこともなく素の自分が出せるし、それに飛龍も子供好きということもあって自然体で付き合うことが出来たからだ。

 

 しかし、その子供たちは、今日は他の艦娘たちに取られてしまった。これは拙い。飛龍と二人きりでは間が持たない。

 

「ねえ見て、きれいな色の魚だよ」

 

「そうだな」

 

「ここ、深海魚コーナーだって。もしかして深海棲艦とか居ないかな?」

 

「そうだな」

 

「って、居るわけないよね~」

 

「そうだな」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 この沈黙が、深海の水圧並みに重い。

 

 気の利いた言葉の一つも返そうと思ってはいるのだが、それを考えている内にタイミングを失ってしまって、会話が続かないのだ。

 

 これでは飛龍もつまらないだろう。そう思って彼女の様子を横目で伺った。

 

 水槽の淡く蒼い光に照らされた飛龍の横顔がそこにはあった。多門丸の視線に気づいたのか、彼女もこちらを向き、目と目が合う。

 

 ニコリ、と飛龍がほほ笑む。

 

 その表情に心臓がどきりと跳ねた。顔が赤くなり、それを自覚して思わず目を背けてしまった。

 

 この至近距離での彼女の笑顔は、魅力的過ぎて正視できない。

 

 しかし自分のこの反応がまた飛龍を落胆させるのではないかと不安になって、多門丸は内心で独りよがりな葛藤に身をよじっていた。

 

 その一方で、飛龍もまた似て非なる葛藤を内心に抱えていた。

 

(う~ん。今日の多門丸は、いつにもまして固いなぁ)

 

 飛龍のことを女性として強く意識しているが故の反動みたいなもの、と加来や白雪たちからアドバイスをもらっていなければ、嫌われていると勘違いしてしまいそうだ。

 

 だけど、そうと理解した上で彼の反応を観察していると、結構楽しい。

 

 目を合わせると顔を赤くして目を逸らそうとする様子など、カワイイとさえ思えてきて、ついついからかいたくなってくる。

 

 ちょうど人気スポットの大水槽の前なだけあって、辺りは大混雑だ。

 

 そこで、飛龍はちょっとしたことを思いついた。

 

 飛龍は先へ進もうとする人波にわざと押されたフリをして、多門丸に触れ合う程度まで距離を詰めた。

 

 途端に、多門丸の全身が硬直した。

 

(ふふふ、ちょっと触れただけなのに、すごい反応)

 

 しかし、彼の全身が力んだ状態で棒立ちになってしまったために、二人は人波に逆らう形で立ち止まる格好になった。

 

 そのため、飛龍はちょっとくっつくだけだったつもりが、

 

(へ? わ、わ、転んじゃう!?)

 

 本当に人波に押されて多門丸の胸に飛び込む形になってしまった。

 

(おおお、これラッキーじゃん? 多門丸って胸板厚いし肩幅広いし、うわ、心音まで聞こえちゃってる。むっちゃドキドキしてる~!)

 

いや、どきどきしているのは私も一緒か。と飛龍は上気した頭で思った。

 

 人波の中で図らずも抱き合う格好になってしまったことに恥ずかしさと同時に、このままずっと触れ合っていたいという葛藤もあって、飛龍もそのまま動きが止まってしまう。

 

 多門丸の胸に寄り添いながら、飛龍はその時、周囲の時間が止まったような錯覚を覚えた。

 

 音も何も聞こえない、感じるのは同期したように早打つ二人の心音と、彼の体温だけ。

 

(・・・よし)飛龍は心中で決断を下した。(ラッキーチャンスは活かさないとね。このまま引っ付いてよ~っと♪)

 

 恋に恥じらう乙女時代はとっくの昔に卒業した。人目を気にしない図太さと行動力こそが、今の時代に求められているイイ女の条件だ。

 

 そうやって腹を据えてしまうと、当惑はすっと消えて、後は惚れた男の胸に抱かれている心地よさだけが残った。

 

(にひひ、極楽極楽)

 

 飛龍はすっかり夢見心地だが、一方で多門丸はと言えば、こちらはパニックに陥っていた。

 

 飛龍が人波に押されて触れ合うほど近づいた。これは理解できる。それに自分が過剰反応して立ち止まってしまったために、さらに押されて胸に飛び込む格好になってしまった。ここまでは因果関係は明白だ。

 

 だが飛龍が離れてくれない。

 

 周りには既にスペースが出来ているのに、胸に顔を押し付けるようにして、離れてくれない。何故だ。

 

 この疑問を解こうと頭をフル回転させようとしたが、しかしそれを妨げるものがあった。

 

(や、柔らかいっ!)

 

 ぴったりとくっついているので、飛龍の凹凸のはっきりした身体の感触がダイレクトに感じとれてしまう。それも主に上半身の凸の部分がダイレクトヒットしているのだから堪らない。

 

 さらに飛龍は多門丸より頭一つ背が低いので、彼女の髪の香りが鼻腔を通じて理性にこれでもかと攻撃をしてくるのだから、冷静に思考が働くはずも無かった。

 

 しかしそこはストイック戦術管制官・多門丸である。

 

 そんじょそこらの男とは朴念仁の度合いが違う。彼の脳内辞書に「据え膳食わぬは男の恥」という言葉は無かった。

 

 多門丸は荒ぶろうとする本能を理性で押さえつけながら、飛龍の両肩に手を置いて、彼女をそっと離した。

 

「およ?」

 

 飛龍は意外だという顔をしたが、多門丸は残念ながら彼女の顔を見ていなかった。この距離では正視できないので目を逸らしていたからだ。

 

「だ、大丈夫か、飛龍」

 

「なにが?」

 

「な、何って、転びそうだっただろう」

 

「あ、うん」そういえば、そういう設定だった。「全然平気だよ。支えてくれてありがとうね」

 

「いや・・・気にしなくてもいい・・・」

 

 言いつつ、多門丸は目を逸らしたまま飛龍から手を離した。その横顔は耳まで赤く染まっていた。

 

 多門丸はそのまま、人波に合わせて先へと歩みだす。

 

「あ、待って待って」

 

 飛龍も少し遅れて、ついて歩いた。

 

 ちなみに水槽沿いに歩く二人の立ち位置は、飛龍が水槽側、多門丸が反対側だ。

 

 なので飛龍が水槽を見ようとすれば、必然的に多門丸から顔をそむけることになる。

 

 なるはずだが、

 

「・・・じ~」

 

 多門丸が水槽に目を向けたとき、なぜか飛龍と目が合った。

 

「・・・飛龍、どうしたんだ」

 

「ん~、どうしたって訳じゃないんだけどね」

 

 考え込む素振りを見せながらも視線を外そうとしない飛龍に、多門丸は羞恥心を堪え切れなくなって、先に目を逸らした。

 

(彼女の視線の意味はいったい何だ!? まさか、俺の顔に何かついているとでも言うのか!?)

 

 しかし髭は今朝ちゃんと剃ったし、洗顔もしっかりしてきたから目ヤニもついてないはずだ。寝ぐせだって念入りに直してきた。

 

 思い当たる節は無いが、しかし飛龍の視線は相変わらずこちらを向いている。

 

(じゃあ、いったい何なんだ!?)

 

「つんつん」

 

「うわっ!」

 

 飛龍にわき腹をつつかれ、思わず声が出た。

 

「あ、ごめんごめん。コバンザメがくっついていたからさ」

 

「ああ、そうだったのか」それなら納得だ。「――って、そんなモノが顔にくっついている訳ないだろう!?」

 

「へ? 顔? 違うよ、水槽だよ」

 

 ほら、と飛龍が水槽を指さした。

 

 そこには確かにコバンザメがのっぺりとした腹を見せてくっついていた。

 

 なるほど、そりゃそうだ。バツの悪そうな顔をした多門丸を見て、飛龍が可笑しそうに笑った。ただ、それは嘲るような笑いではなく、親しみを感じる微笑みだった。

 

「ほら多門丸、こっちこっち」

 

 彼の羞恥心を振り払うかのように、飛龍が腕を取って別の水槽の前へと引っ張ってくれた。

 

「見て、チンアナゴだって。かわいい~」

 

 水槽の中には白砂から縞模様の細長いアナゴがひょっこりと半身を立たせて、微かな水流にその身を揺らしていた。小さな頭に黒目がちの大きな瞳が愛らしい不思議な生き物だ。

 

「ねえ、多門丸。チンアナゴの“チン”ってどういう意味なのかなぁ?」

 

 小首を傾げながら答えづらい質問を投げかけてくる。

 

 “チン”の由来だって? そりゃ、こう長い棒状のモノがそそり立っているのだもの、アレに決まって――

 

「――い、言えるわけないだろっ!?」

 

「え~、どうして?」

 

「だ、だって公衆の面前で、しかも君みたいな女性に対して、そんな、卑猥な・・・」

 

「ひわい? ――あっ、“チン”ってそういう」

 

「待て! それ以上はいけないっ!?」

 

「あ、説明書きに由来が書いてある」

 

「なぬ?」

 

「え~っと・・・“チンアナゴは漢字で【狆穴子】と書き、この狆とは犬のことを指します。顔つきが犬のようなので名付けられました”・・・だってさ」

 

「い・・・犬?」

 

「言われたら、確かに似てるよね~」

 

 ところで、と飛龍がニヤッと笑いながら多門丸に目を向けた。

 

「卑猥って、どんなこと考えたのかなぁ~」

 

「ぐっ・・・」

 

 その問いは卑怯だぞ飛龍。多門丸はその叫びをなんとか胸に押し留めた。

 

「あはは、ごめんごめん。実は私もさ、もしかしたらソッチかなぁって、ちょっとは思ったんだよね」

 

 そうなのか。少しほっとした多門丸に、飛龍は続けた。

 

「でも長さはともかく、こんなに細いのは無いよねぇとも思ったけどさ」

 

 あけすけにそう言って笑う飛龍に、多門丸は思わず足がもつれて転びそうになった。

 

 可愛い顔をして何を言い出すんだこの娘は。

 

 いや、飛龍はこういうあっけらかんとした娘だった。と多門丸は思い直す。こういう性格だから、似た者同士の加来ともよく気が合うのだ。

 

 しかし似た者同士だからといって、多門丸としてはいつも加来に接してるような適当で割と邪見な扱いを彼女に対してする訳にもいかない。気になる異性にはなるべく好印象を与えたいのが人情というものだ。

 

 しかし、そのために変に挙動不審になっていては世話が無いのだが。

 

(いったん落ち着こう)

 

 多門丸は静かに深呼吸をして、意識的に歩みをゆっくりとしたペースに落とした。

 

 飛龍に気づかれないように自然に行ったつもりだったが、しかし、飛龍はもちろん彼の僅かな変化を見逃さなかった。何しろ恋する乙女だ。惚れた男のことはいつだって気にかけている。

 

 多門丸の視線が水槽以外に向けられ、辺りを見渡した。

 

「はぐれてしまったな」

 

「ん?」

 

 阿武隈や霞たちとはぐれたのだと、飛龍もすぐに気づいた。落ち着きのない子供たちに引っ張られ、先へ先へと進んでしまったのだろう。

 

 混雑する混雑する水槽側から離れて空いている壁際を歩きながら、二人は次の展示コーナーへと足を踏み入れた。

 

 照明が落とされた広い空間に円筒形の水槽が幾つも立ち並んでおり、その中ではクラゲたちが色とりどりのネオンを浴びながら、ゆうゆうと漂っていた。

 

「綺麗だね~」

 

「ああ」

 

 幻想的な、とか、まるで異空間のよう、といった印象だが実際口から出る感想は割とありきたりな言葉だった。

 

 それでもイルミネーションのように揺らめくクラゲの水槽の空間を好きな男と散策するというのはロマンチックなシチュエーションだわ、と飛龍は思う。

 

 飛龍は、その雰囲気に身をゆだねながら、並んで歩く彼との距離をまた少し縮めた。

 

 多門丸もまた身を強張らせるかと思ったが、そんなことはなく、むしろ自然にそれを受け入れてくれたようだった。

 

(お? やったぁ)

 

 微かな満足感を得ながら、それとなく多門丸の横顔をうかがうと、彼は真剣な表情をして壁にかかった説明パネルを読みふけっていた。

 

「多門丸?」

 

「飛龍、この説明書きに面白いことが書いてある。クラゲというのは実はプランクトンの一種らしい」

 

「へー、そうなんだ。でも、プランクトンって、海を漂っているちっちゃな粒みたいな生き物のことでしょ?」

 

「プランクトンは“浮遊生活をする生き物”のことだそうだ。サイズじゃなくて生活様式で呼ばれているから、クラゲはある意味その代表のようなものかもしれない」

 

「へー」

 

 知らなかった~、と飛龍は適当に相槌を打つ。正直、クラゲがプランクトンの代表であるかどうかに興味は無かった。

 

 ただ、多門丸が恐らくチンアナゴの時のような勘違いを繰り返さないように注意深くなっているのはよく分かったし、そして飛龍が魚の名前の由来やちょっとしたトリビアに興味を持っていそうな素振りを見せたので、それに頑張って応えようとしてくれているのもよく分かったので、それが飛龍には嬉しかった。

 

(私はね、あなたが傍にいて、笑ってくれたら、それだけで嬉しくて楽しいんだよ)

 

 多門丸、あなたはどうなのかな?

 

 飛龍はそれとなくそう訊こうとしたが、それよりも先に多門丸が言葉を続けた。

 

「この説明書きに、もうひとつ興味深いことが書いてある。意外なことに、クラゲは“眠る”らしい」

 

「眠る? そりゃまあ、クラゲちゃんだって眠たいときはあると思うけど?」

 

 何がそんなに意外なのやら、という顔をした飛龍に、多門丸が向き直った。薄暗い展示室でも、その目が好奇心で輝いているのが分かった。

 

「睡眠は、心身の休息、身体の細胞レベルでの修復、また記憶の再構成など高次脳機能にも深く関わっているとされる。しかし、見ての通り、クラゲには脳が無い」

 

「無いねぇ」

 

「しかし代わりに全身に神経網が張り巡らされているそうだ。これは、つまり脳そのものが水中を漂っていると言っても過言じゃないと思う」

 

「さすがに過言じゃない? どうみても何も考えずに、ふよふよと漂っているだけだよ?」

 

 言いながら、そういえば世間ではクラゲを自宅で飼うことが密かなブームになっているらしいという噂を聞いたことを思い出した。

 

 ストレス社会に生きる人間にとって、脳の無い波に漂うだけのクラゲはさぞかしお気楽に見えて癒されるのだろう。

 

「いや、クラゲにも考えはあると思う。弱肉強食の自然界は食うか食われるかだ。ストレスを感じないのは眠っているときだけかもしれない」

 

「クラゲも大変なんだねぇ」

 

「眠るという行為は“忘れる”という機能に重要な役割を果たしていると考えられる。眠ることで生きるストレスを忘れ、神経系に溜まった情報負荷を整理するんだ。クラゲにもこの機能があるんだろう」

 

「クラゲちゃんも夢を見るのかな? そんなことないか」

 

「いや、見ているのかもしれない。夢を誘発するレム睡眠は、最も古い睡眠の形態と言われている。生物は脳の進化によって、夢を見ないノンレム睡眠を獲得したんだ」

 

「なんで?」

 

「脳が複雑化したことで、レム睡眠のような浅い眠りでは脳が回復できなくなったんだ。だから意識をほぼ完全に手放すレベルの深い眠りを必要とするようになった」

 

「へー」

 

 話しながら、二人はクラゲの展示コーナーを出て、次のコーナーに移った。

 

「睡眠の機能は、AIにも活用できるかもしれない」

 

「はい?」

 

 まだこの話題を続けるんだ、という思いと同時に、AIが眠るかもしれないという意外性にも興味を惹かれた。

 

「それってさ、AIもストレスを感じているから眠って忘れたいってこと?」

 

「まあ、そんなところだ。もう少し別の言い方をすると、さっきも言った“情報整理”の部分の方に重点を置いている。人間は眠ることによって情報を感情と分離し、意識野から無意識野へ整理しなおしていると考えられているんだ」

 

「どゆこと?」

 

「情報の組み換えと偏在化だ。俺たち軍人を例に挙げると、戦場で得た経験、これが情報だが、ここには必ず感情が付きまとう。死の恐怖と言ったものだな。脳は睡眠を繰り返すことで、この経験から感情を分離し単なる“記憶”として残す。そうすることで冷静に物事を判断できるようにするわけだ。この機能がうまくいかないと、とある症状を発症してしまう」

 

「発症・・・あ、もしかしてフラッシュバック? PTSD(心的外傷後ストレス障害)だね。確かに、昔のことを思いだすたびに感情までフラッシュバックしてたら、堪らないわ。・・・でも、AIに感情は無いから関係なくない?」

 

「そう、だから注目されているのは偏在化の部分だ」

 

「情報を薄っぺらくして拡げるってこと?」

 

「面白い表現だ。なかなか的を得ている」

 

「自分で言っといてなんだけど、さっぱり意味が分からない」

 

「また人間を例に挙げよう。さっきのクラゲの展示を見て、飛龍はどんな感想を抱いた?」

 

「綺麗だな~って」

 

「そこだ」

 

「どれよ?」

 

「既存のAIは、クラゲを見ても“クラゲである”としか判断しない。色とりどりに輝いていても、“光が当たっているだけ”なんだ」

 

「感情が無いから、そうなるよね~」

 

「感情ではなく、“クラゲ”と“綺麗”との間を橋渡しする情報を持っていないからだ。しかし人間はそれを持っている。これまでに得た情報を偏在化し、どんな状況にも応用できるように加工して無意識野に保存しているからだ」

 

「なるほど~・・・」分かったような、分らんような。「・・・つまりAIが眠れるようになると、もっと人間らしくなるってことでオッケー?」

 

「人間らしいというのは語弊があるな。脳とは構造が異質過ぎて、まったく違う感情や思考が生まれる可能性の方が高い」

 

「あのさ、仁淀ちゃんっているでしょ。ウチの業務支援AI。あの子とか、もう人間にしか見えないんだけど、それでも全然違うの?」

 

「UN-Aタイプの対人インターフェイスは非常に完成度が高いが、構造の限界上“そのように見えるよう振る舞っている”だけだな。哲学的ゾンビだ」

 

 ゾンビとかまた変な専門用語が出てきたが、聞くのはやめておいた。だんだん話が複雑になり、ついていけるレベルじゃなくなってきた。適当に相槌を打つのもそろそろ限界だろう。

 

なんとか軌道修正しないと。

 

「そういえばさあ、深海棲艦も眠るのかなぁ?」

 

「ふむ、それは興味深い質問だ」

 

 よかった、興味を持ったようだ。深海棲艦の話題なら、なんとかついていける。

 

「しかし、実は深海棲艦に脳は無いんだ」

 

「は? それホント?」

 

「本当だ」

 

「うそぉ」

 

「だから本当だと言っている。案外知られていない事実だが、被害観測を行っている航空部隊の飛行職種の人間なら、一度くらいは自分の目で見たことがあるはずだ。頭部に損傷を負った深海棲艦は、どれも必ずその中身は空っぽだった」

 

「えー」

 

 今度は適当な相槌じゃない。割と本当に驚いた。飛龍にとっては初耳である。

 

「誰も教えてくれなかったよ、そんなこと。艦娘たちはみんな知らないんじゃないかなぁ」

 

「知ったところで謎だらけの深海棲艦にまた一つ謎が増えるだけだから、実働部隊の人間にとってはさほど必要な問題でもない。だから敢えて教える必要も無いのだろう。研究職の人間以外にとっては、知っても役に立たない雑学と見做されているんだ」

 

「世間話のネタにはもってこいだね」

 

 デート中の話題にふさわしいかはともかく、少なくとも退屈はしない。多門丸なりに飛龍と会話を続けたい意思の表れなのだとしたら、むしろ可愛げがあると思う。

 

 だから、飛龍はもう少しだけ、この話題にのってあげることにした。

 

「深海棲艦に脳が無いっていっても、クラゲだってないんだし、眠らないことには関係ないよね。それに深海棲艦って生物じゃなくて機械かもしれないって説もあるんでしょ。だったら、さっき多門丸が言ってた“眠れるコンピュータ”とか積んでるかもしれないし」

 

「眠れるコンピュータ・・・か」

 

 今度は多門丸が、意外だ、という顔をした。

 

「そうか、よく考えたら生物かどうかもわからないんだ。ならAIに似た構造を持っていたとしてもおかしくは無いか」

 

「そうだよ。そもそも電子戦を仕掛けてくる生物って時点でおかしくない?」

 

「電気ウナギは1000ミリアンペアもの電流を放出できる。電磁波を発生させられる身体構造をもった生物がいてもおかしくは無い。それよりも機械的、コンピュータ的と思われる部分がある。そのことに今、気が付いた」

 

 多門丸はそう言って、腕を組み、うつむき気味になって、

 

「そうだ。・・・あのときの新型機の解析データの計算値・・・いや、もしかするとそれ以前から・・・」

 

 と、ぶつぶつと独り言を呟き始めた。

 

「え、多門丸? わ、危ない」

 

 飛龍は慌てて多門丸の腕を引いて通路の脇に移動した。何しろ人波の中で周りに気を遣わずに歩きだしたのだ。危うく人にぶつかるところだった。

 

 だが多門丸は相変わらず思索にふけったままだ。腕を引いた飛龍がそのまま腕を組んでいるにも関わらず、である。

 

「・・・やはり、その可能性は高いな。試してみる価値はある」

 

 多門丸はそう呟き、飛龍に組まれていない方の手でポケットから携帯端末を取り出した。一般の端末とは違う、軍専用端末だ。

 

 ある一定以上のレベルの軍人なら非常連絡用として公私を問わず携帯しているが、身分証カードとパスワードと指紋認証とさらに顔認証を行うことによって、軍のネットワークに接続することもできた。

 

 彼は片手で器用にすべての認証をパスすると、すぐに自分のオフィスにある業務用端末を経由して、第二航空戦隊の業務支援用AIにアクセスした。

 

「サポートAI、こちら第二航空戦隊 無人機戦術管制官 海軍大尉 多門丸 歩だ。戦術支援を乞う」

 

「ちょ、ちょっと多門丸、こんなところで!?」

 

「そうだな、ここは少し電波が弱くて接続が不安定だ。屋外へいこう」

 

「え・・・えぇ!?」

 

 飛龍と腕を組んだまま、多門丸はずんずんと先へと進みだした。まだ続く展示エリアをさっさと抜けて、屋外の喫食エリアまで出てしまった。

 

 腕を組みながら歩く二人は、傍目からは紛れもなく仲睦まじいカップルに見えた。案の定、先に子供たちを連れて喫食エリアに到着していた二十一駆の四人の目にもそう見えていた。

 

「見て見て」と阿武隈が指さす。「あの二人、すごい進展したみたいだね。良かった」

 

 霞も頷きつつ、少し首を傾げた。

 

「意外ね、もっと時間がかかると思っていたわ」

 

「飛龍さんが痺れを切らして告白でもしたんじゃねえの?」と、朝霜。

 

「でも」と初霜。「少し様子がおかしくないですか。多門丸さんは、飛龍さん以外のことに気を取られているような・・・」

 

 その疑問に、他の三人も「そう言われれば・・・」と、改めて多門丸と飛龍の様子をうかがおうとしたが、その時になって、

 

「あ、こら、勝手に離れちゃダメだってば!」

 

 面倒を見ていた子供たちがてんでばらばらに飛び出してしまったので、皆、そっちに気を取られてしまった。

 

 多門丸はそちらの様子には気にも留めずに空いていたベンチに腰掛け、改めて携帯端末を取り出した。

 

 彼は二航戦サポートAIに対し、これまでの戦闘データに複数の条件を付けて計測しなおし、解析するよう指示を始めた。

 

 その条件はあまりにも専門的過ぎる上に多岐にわたり、またそれに対するAIからの質問や提案を受けてさらに複雑怪奇に変化していく有様で、

 

 つまるところ多門丸は、隣で腕を組んだまま座っている飛龍のことなど完全に眼中にない様子で端末に向かい合っていた。

 

 飛龍は多門丸と腕を組んだまま、その真剣な横顔をしばらく眺め続けていたが、彼がまったく注意を向けないことに堪えかねて、

 

「ねえ」と声をかけた。「飲み物でも買ってこようか」

 

「・・・ああ」

 

「なにがいい?」

 

「・・・なんでも」

 

「・・・ん~っと、コーヒー? お茶? コーラとかフルーツジュースもあるよ」

 

「・・・どれでも」

 

「・・・」

 

 完全に上の空な多門丸の対応に、飛龍は不機嫌な表情になったが、すぐにあることを思いついて、にやりと笑った。

 

「じゃあさ、私と一緒でいい?」

 

「ああ」

 

 してやったり。飛龍は内心でほくそ笑みながら席を立ってジュース売りの屋台へ向かった。

 

 屋台の客の列に並ぶ直前、飛龍は二人組に阻まれた。

 

 阿武隈と霞だった。

 

「飛龍ちゃん、ちょっとこっち来て」

 

「あ、阿武隈さん、私これからジュース買いに――」

 

「いいから、話があるって言ってんの!」

 

「わわ、霞ちゃん急に引っ張らないで~」

 

 そのまま多門丸から見えない位置まで移動させられた。ちなみに子供たちは朝霜と初霜が面倒を見続けている。

 

 飛龍は、二人から「いったいこれはどういうこと!」と怖い顔で詰め寄られた。

 

「どうって・・・見ての通りだよ」

 

「意味わかんない」と霞。「腕を組んでいる彼女をガン無視して端末にかかりきりになっているとか、ありえないわ!」

 

「なんかクラゲとか観てるうちに深海棲艦について何かひらめいちゃったみたいでさ」

 

「クラゲ?」阿武隈の頭上にハテナマークが見えた気がした。「どんなアイデアか理解できないし、できる気もしないけど、ここで仕事するほど重要なことなの?」

 

「多門丸は笑顔が素敵なんだけどね。でも仕事しているときの真剣な顔もカッコよかったよ♪」

 

「そこ惚気るところ!?」と霞。

 

「ダメダメ、許しちゃダメだよー」阿武隈も両肩を掴んで揺さぶってきた。

 

「あはは、まあ半分冗談だけどね。やっぱりちょっと癪だから」

 

 ちょっとからかってやろうと思いまして。と、飛龍は、阿武隈と霞を相手にひそひそ話を始めた。

 

 一方その頃、子供たちの面倒を朝霜と一緒に観ていた初霜は、子供の一人、加来の長女が多門丸の方をじいっと眺めていることに気が付いた。

 

「どうしたの?」

 

 と、声をかけると長女は多門丸の方を指さした。

 

「たもおにーちゃん、ひりゅおねーちゃんをほっといて、なにやってるの?」

 

「え・・・っと、お仕事、かしら」

 

「たもおにーちゃん、デートちゅうになんでお仕事やってるの!?」

 

「う~ん、本当に何をやっているのかしらねえ」

 

 これには初霜も苦笑せざるを得なかった。

 

「デート中は、お仕事の話をしちゃダメだって、パパ言ってたよ!」

 

「え、だ、ダメなの・・・!?」

 

「そだよ!」

 

「・・・そう・・・なんだ」

 

 どうしよう、私、仕事の話ばっかりしていたわ。初霜の内心の後悔など知る訳もなく、長女は憤慨した様子で言った。

 

「ちょっと、たもおにーちゃんに、おせっきょーしてくる!」

 

「あ、ちょっと待って!?」

 

 初霜が止める間もなく、長女は多門丸のもとに駆け出して行ってしまった。

 

「たもおにーちゃん!」

 

「ん? ・・・ああ、君か。どうした?」

 

「めっ!!」

 

「は?」

 

「ひりゅおねーちゃんをほったらかしてお仕事なんかしてるから、めっ、なの!」

 

 そういうことか、と多門丸はようやく気が付き、そして飛龍がなかなか戻ってこない上に姿も見えないことに気が付いて、バツが悪そうな表情になった。

 

「もしかして、怒らせてしまったかな」

 

 この言葉は、長女を追って傍にやってきた初霜に対する問いかけだった。

 

「怒ってはなかったと思いますが・・・」

 

 苦笑で答えた初霜だったが、長女から駄目出しされた。

 

「おこってなくても、あれはダメなの! ちゃんとゴメンナサイするの!」

 

「まったくもってその通りだな」

 

 多門丸は深くため息を吐きながら端末の接続を切ってポケットに戻した。

 

 意外と素直なのね、と初霜が感心する傍で、長女がまた、

 

「ダメなの!」

 

 と、ベンチから立ち上がろうとした多門丸を留めた。

 

「おこらないひりゅおねーちゃんもわるいの! だから、たもおにーちゃんはまだここにいるの!」

 

「はぁ」

 

 多門丸は首を傾げつつベンチに座りなおす。

 

「で、はっしーはここにすわるの!」

 

「はい――はい?」

 

 初霜も意味不明ながら、言われるがまま多門丸の隣に腰かけた。

 

「それで、ふたりでなかよく、おはなしするの!」

 

「「なんでっ!?」」

 

「ひりゅおねーちゃんにヤキモチやかせるの! そしたら、ひりゅおねーちゃんもあせって、せっきょーてき・・・せえきょ・・・えっと」

 

「積極的、かしら?」

 

「それ! それになるの!」

 

「誰にそう言われた」

 

「パパ!」

 

「だろうな」

 

 多門丸は先ほどとは別の意味でまた深いため息を吐いた。

 

 加来のやつめ、いつもは騒がしいあいつが今日はやけに影が薄いと思ったら、最初からこうなることを見越して娘に入れ知恵しておいたわけか。

 

 辺りを見渡しても加来夫妻の姿は見えないが、子供を置いていなくなるはずも無し、おそらくどこかの物陰から様子をうかがってほくそ笑んでいるはずだ。

 

「いいね、ちゃんとみせつけるんだよ!」

 

 念入りに念押しして長女は去って行った。

 

 そのまま街路樹の影にむって「パパ~ちゃんとできたよ~、ほめてほめて」なんて言ってる。なるほど、あそこに隠れていたか。あとで石でも投げてやろうか。

 

 そんな物騒なことを考えて、すぐに大人げないと取り消したその傍らで、残された初霜が口を開いた。

 

「あの・・・どうしましょうか」

 

「まあ好きにさせといていいんじゃないか。この分なら飛龍もどこかで足止めをくらっている可能性が高そうだ。それにしても、巻き込んでしまって申し訳なかった」

 

「い、いいえ。私たちこそ勝手について来た身ですから文句は言えませんよ」

 

「そうか・・・」

 

「はい・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 沈黙。

 

 飛龍と違って別に意識している相手ではないが、日ごろ接点のない相手だけに気まずさがある。

 

 さて、どうしようか。と多門丸が思案している内に、初霜が先に口を開いた。

 

「ええと・・・さ、最近の子供って考えがしっかりしているんですね」

 

「しっかり・・・いや、あれは加来の――父親の入れ知恵だ」

 

「でも、しつけとしては悪くないと思いますよ。・・・正直、私も思い当たる節が多すぎて、耳が痛いです」

 

「それは、仕事の話ばかりしていた、というやつかい?」

 

「ええ。私も以前、気になる人が居たんですけど、意識するあまりうまく話せなくて、結局仕事がらみの話題ばっかり・・・今にして思えばつまらない女と思われていたでしょうね」

 

「そうか・・・同じだな」

 

 ため息混じりに自嘲気味に笑う初霜に、多門丸は親近感を抱いた。

 

「お仕事の方は、もうよろしいんですか?」

 

「まあね」

 

「別に私はデート相手じゃないのですから、気にすることも無いですよ」

 

「いや、いいんだ。そもそも冷静に考えてみれば、そんな急いで取り掛かるほどのモノじゃないんだ。ただ、ひらめいた仮説に夢中になってしまった。俺の悪い癖だ」

 

「どんな仮説をひらめいたんですか?」

 

「深海棲艦の知能が、人間よりも人工知能に近いのではないかという仮説だ。それも現行のAIではなく、量子コンピュータのなかでも極まれに発見されるエヴァレットタイプAIが示す未解明定理に近い傾向がある。もしこれが正しいと証明できるなら、深海棲艦の行動原理の解明にもつながるかもしれない」

 

「エヴァレットタイプ。たしか多元世界相互解釈でしかその振る舞いを説明できないコンピュータ、でしたっけ」

 

「世界でも珍しい“忘却とひらめき”を可能とするAIだ。他の量産型AIと構造は同じはずなのに、極低い確率で出現する。その原理はいまだ発見されていないから、量産もできない。既存AI一台一台を特殊な試験にかけて地道に探すしかない」

 

「でも、入力したデータはすぐに変容してしまって共有不可能ですし、出力される結果も独創的過ぎて証明が不可能なものばかりで、とても実用AIには使えないシロモノと噂では聞いたんですが」

 

「だから、これまで誰もやってこなかった。試す価値はある」

 

「突飛な発想ですね。私なら試す前に、有り得ないと思って検証しようとも思いません」

 

「皮肉かな」

 

「いえ、素直に感心しているんです。本当、ですよ?」

 

「いや、あきれてもしょうがない。正直、これの検証には膨大なデータをその定理に従って解析しなおす必要があるし、それは一朝一夕で終わるような仕事じゃない。今日はじめたところでどうにかなるはずが無いんだ。飛龍には悪いことをしてしまった」

 

「そうですか。・・・でも、飛龍さんがそんなに怒っていなかった理由も、少しは分かった気がします」

 

「え?」

 

「お仕事の話をされている時の真剣な表情がカッコいい・・・と」

 

 その言葉に、多門丸の顔がまた赤くなった。

 

一瞬遅れて、これが初霜自身の言葉ではなく飛龍がそう言っていたという意味だと気づき、少しだけ冷静になったが、

 

 すぐに、飛龍のあけすけな好意の表し方に、彼の頭はまた茹だった。

 

「その・・・それは・・・あ」

 

 どう言葉を返していいか分からなくなって、どもってしまった多門丸の様子に、初霜は静かに「ふふ」と笑みをこぼした。

 

 意外と感情豊かな人なのね。と初霜は思う。

 

 ロジカルなリアリストだと聞いていたのでもっと冷淡な印象を勝手に抱いていたのだが、どうやらロジカルに処理できない問題――つまるところ恋愛感情――にはとことん振り回される性質らしい。

 

(私と同じね)

 

 そう理解して、初霜もまた多門丸に対して親近感を抱いた。

 

 だからだろう、最初は仲間の悪ノリに適当に付き合うだけのつもりだった初霜が、初めて多門丸と飛龍の関係に興味を持った。

 

「あの、多門丸さんは飛龍さんのことをどう思っているんですか?」

 

「ど、どうって、その・・・」

 

 赤くなったまま口ごもる多門丸に、初霜は興味本位で軽率な質問をしたことを恥じた。

 

「ごめんなさい。私ったら不躾な真似をして」

 

「いや、いいんだ。即答できない俺の曖昧な気持ちが悪いんだ」

 

「曖昧、ですか」

 

「彼女を意識しているこの気持ちが、本当に恋愛感情なのか、それとも異性への友情を勘違いしているだけなんじゃないのか。そう思ってしまってな・・・いや、それこそ違うか。そうだ、きっと俺は、傷つくのが怖いんだ」

 

 多門丸は話しながら、自分の言葉に納得したかのように頷いた。

 

「俺は、飛龍からの好意がもし恋愛感情じゃないとしたら・・・そう思って怯えていたんだ。彼女に好きだと言ったとき、もしも彼女から違うと言われたら、ただの友情を勘違いしないでといわれたら・・・それが、怖いんだ」

 

「だから、自分の感情も素直に認められなかった?」

 

「そうかもしれない。だから、もう認めるべきなんだろうな。・・・いや、はっきり認めよう。俺は、飛龍が好きだ」

 

 そう口に出した瞬間、多門丸は自分の心がスッと軽くなった気がした。今まで胸の内にすくっていたもやもやとした気持ちが、すとんとあるべき場所に落ち着いた気がした。

 

「その言葉が聞けて安心しました」

 

 初霜も安堵の笑みを浮かべていた。

 

「君のおかげかな」と多門丸。「話を聞いてもらったおかげで自分の感情と落ち着いて向き合うことが出来た。感謝するよ。ありがとう」

 

「そんな、私はただ聞いていただけですから」

 

「聞き上手なのだろうな。カウンセラーの素質はあると思う。・・・で、そのカウンセラーにもう一つ相談に乗ってもらいたいことがあるんだが」

 

「えぇ~・・・」

 

 困惑気味だが聞く姿勢を崩さなかった初霜の好意に甘えて、多門丸は言った。

 

「自分の気持ちははっきりしたが、それでも彼女に振られるのが怖くて告白できそうにない」

 

「ヘタレですね」

 

 初霜から即座に真顔で突っ込まれてしまったが、そのとおりだから仕方ない。

 

「そう、俺はヘタレだ。だから相談しているんじゃないか」

 

「色々と開き直りましたね。その調子で肝心なところまで開き直ったらどうですか? ・・・といっても、私もその気持ちは理解できますけどね」

 

「やっぱり、君なら分かってくれると思っていた」

 

「だからって、私が代わりに飛龍さんの気持ちを聞いてくるとか、そういうのは無しですからね」

 

「そうだな。それもなんだか卑怯な気がする」

 

「こういうのは当たって砕けろ、ですよ」

 

「他人事だと思って簡単に言ってくれる。勝算のない作戦行動は外道の戦法だぞ」

 

「負けても死ぬわけで無し。いいじゃないですか。自分の気持ちがハッキリしているなら、早く伝えるべきですよ。でないと・・・」

 

「・・・?」

 

 言い淀んだ初霜の雰囲気が微かに変わったことに多門丸は気が付いた。

 

 それはまるで、何かを後悔しているような、そんな哀し気な気配が微かに彼女を覆っていた。

 

(ああ、そうか)

 

 多門丸は察した。普段、人の感情の機微に疎い彼が、なぜだか確信をもって気づけてしまった。

 

 初霜は、伝えられなかったのだ。

 

 多門丸がそれを察したことを、初霜もまた察した。

 

「私たちは軍人です。・・・別れは、いつ来るか分かりませんから」

 

「そうだな」

 

 お互いに、微かに笑った。話はこれで終わりだった。

 

 二人はしばらく沈黙の時間を過ごしたが、そこに気まずさは無かった。友情や恋愛とはまた違う、親近感と信頼感がお互いにあった。

 

 それから少しだけ間をおいて、飛龍が戻ってくる姿が見えた。

 

「私の役目も終わりですね」

 

 初霜はそう言って席を飛龍に譲った。

 

「初霜ちゃん、ごめんね。迷惑かけて」

 

「いいえ、そんなことありませんよ。・・・楽しかったですから」

 

「え・・・」

 

「ふふ」

 

 一瞬、不安げな表情を見せた飛龍に対し、初霜は悪戯めいた微笑みを漏らした。たまにはこうやって、からかう側にまわるのも楽しいものだ。

 

 それに、と初霜は飛龍の手元にあるジュースの容器を見て思った。

 

(飛龍さんもなかなかイジワルね)

 

 飛龍のからかいに多門丸がどんな反応を見せるか。それが容易に想像がついて、初霜はくすくすと笑いながら、

 

「それじゃあ、お邪魔しました」

 

 そう言って、飛龍とすれ違ってその場から立ち去った。

 

「あんな初霜ちゃん、初めて見た・・・」

 

 しばし初霜の後姿を見送った飛龍だったが、

 

(まさか、多門丸のことを!?)

 

 はっとして彼の方へ向き直った。

 

「ひ、飛龍、そ、その・・・」

 

 彼女と目が合ってあわあわと慌てる多門丸の様子に、妙に心がざわつく。

 

(あー、どうしよう。私、あんなあからさまな罠に見事に引っかかってる)

 

 初霜ちゃんにヤキモチ焼いてる。と、悔しさを自覚する。

 

 だから、いつも以上に強引に行くことにした。

 

「た~も~ん~ま~る~。お待たせ」

 

「ああ、色々とその、すまなかった。ちゃんと謝ろうと思っていたんだが・・・」

 

「いいよ別に、な~んにも、怒ってないから」

 

「そうなのか。じゃあその、聞きたいんだが」

 

「なぁに?」

 

「君の手元にあるジュースは、なんだ?」

 

「なにって、ミックスフルーツジュースだよ」

 

「一個しかないな」

 

「大きめのカップだから二人分はあるよ」

 

「ストローも一本だな」

 

「よく見て、吸い口は二つあるでしょ? ほら」

 

「ああ、確かに・・・」

 

 二本のストローがより合わさって、途中でハートマークを描きながら両側へ分かれている。

 

「私と一緒で良い、多門丸そう言ったよね~」

 

「言った、な・・・」

 

 にや~っと、飛龍が小悪魔的な笑みを浮かべながら、カップを多門丸の前に捧げ持った。

 

「はい、どうぞ」

 

「うっ!?」

 

 惚れた女からここまでされて嬉しくないわけが無い。だが、ここは衆人環視のど真ん中である。

 

 辺りを見渡せば、二十一駆は言うまでもなく、加来夫妻もいつの間にか姿を現して携帯端末を構えている。

 

 間違いなく動画撮影されている。それも拡散前提だ。奴ならやる。容赦なくやる。

 

「待て、ちょっと待ってくれ!」

 

「だぁめ、待たない」

 

 ほら、と飛龍はカップをわずかに押し出し、少しだけ開いた唇の隙間にストローを差し込まれてしまった。

 

 しかもすぐに、彼女自身も素早くもう片方のストローを咥えた。

 

 多門丸のすぐ間近に、飛龍の顔があった。魅力的過ぎて正視できない彼女の顔が。

 

 周囲では歓声にも似たどよめきと多数のシャッター音が響き渡った気がしたが、そんなことを気にする余裕は多門丸にはもうなかった。

 

 ジュースの味さえわからなかった。

 

 彼はただ、激しく高鳴る動機と、血が上った頭に痺れたような感覚を味わいながら、焦点の定まらない目で飛龍を見つめることしかできなかった。

 

「ねえ、多門丸」

 

 すぐ目の前で、飛龍がストローを咥えながら、少し舌足らずな言葉で喋った。それはひどく甘いささやきとなって多門丸の耳をくすぐった。

 

「今日は、手を繋いで帰ろ?」

 

「あ、ああ・・・」

 

 ショート寸前の頭では言葉の意味も分からず、彼はただ反射的に同意してしまっていた。

 

 そこから先のことは、多門丸はよく覚えていない。気が付いたら加来夫妻を含め、全員そろって水族館を出ていた。

 

「じゃあ、約束だよ。多門丸、ほら」

 

 そう言って飛龍から差し出された手を、意味も分からずぼけっと見つめていたら、飛龍から露骨に不機嫌な顔で睨まれた。

 

「約束、もう忘れたの?」

 

「え?」

 

 訳が分からない、といった様子の多門丸に、周りのみんなが待ってましたとばかりに各自の携帯端末を取り出した。

 

「証拠はここに、ばっちりあるぜ」

 

 加来が悪魔的な笑みと共に見せつけてきた動画には、一杯のジュースを分け合って飲む二人の様子がしっかりと撮影されていた。

 

「な・・・なっ・・・」

 

「大人しく飛龍ちゃんの要求に応えた方が身のためだぞ。でなきゃこの動画が俺のSNSに載っちまうかもなぁ」

 

「加来、貴様ぁ!」

 

「私は拡散されても平気だけどな~。っていうか、むしろ拡散希望だよ」

 

 なんだこれ、逃げ場なしか。

 

 絶望する多門丸は、最後の砦とばかりに初霜に目を向けた。

 

 彼女なら、きっと俺の窮状を理解してくれる。助け舟をだしてくれるかもしれない――

 

――多門丸の目に映ったのは、自前の携帯端末を彼に向かってかざす初霜の姿だった。その画面には当然のように二人の恥ずかしいまでに仲睦まじい様子が写っていた。

 

(この裏切り者ぉぉ!)

 

(なに言ってるんですか。というか飛龍さんがここまでしているのに、何を今さら迷っているんですか!)

 

(うっ・・・けど、こんな人前で・・・)

 

(頑張ってください!)

 

 声なき目と目の会話、というより、初霜の気迫に押されたといった方が正しいか。

 

(そうだな・・・ああ、そうだ)

 

 多門丸は腹を据えると、深呼吸を一つして、

 

「飛龍!」

 

「ふぇっ! あ、はい・・・わっ」

 

 差し出された手を、しっかりと握った。もちろん握手の形じゃない。彼女が差し出した左手に、右手を重ねる、いわゆる“恋人繋ぎ”だった。

 

「その、い、一緒に帰ろう。・・・別ルートで」

 

「は、はい・・・」

 

 いいんだな、飛龍。君がどう言おうと、俺は今夜、君を俺のものにするぞ。

 

 さすがにそんなことは言えなかったが、見つめた彼女の瞳が、心なしか微かに頷いたような気がした。

 

 きゃーっとまた周囲で歓声が揚がり、シャッター音がいくつも響き渡ったが、多門丸はもうそれを気にしなかった。好きにしろ、だ。

 

 

 

 

 

 

 

「いやーめでたいなぁ。明日は赤飯かな」

 

「加来、お前の携帯をよこせ。今すぐこの場で叩き壊す」

 

「おいバカ止めろお前本気だろ。やめろやめろ、やめてお願いだからぁぁぁ」




次回予告

新たな関係を迎えた二人、新たな気持ちで飛ぶ男と、待つ女。

いつもと変わらぬ海と空、そう見えたは幻か。

隣国と秘められた野望と、情報部の隠された意図、不穏な気配が渦巻く戦場で、多門丸と加来は信じられない事態に遭遇する。

「第二十二話・人工知能は多元宇宙の夢を見るか」

「深海棲艦は・・・AIは・・・人類の予想をとっくに超えているのか・・・!?」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。