ちなみに何故数ある童話の中から赤ずきんを選んだのかというと、個人的には童話と言ったら赤ずきんが浮かぶからです。普通はシンデレラとか白雪姫とかだと思いますけど、何故か私の中では赤ずきんなので……。
――ギィン!
諦めから瞳を閉じて劇の終幕を待っていたジャックは、突如として弾けた金属音を耳にした。
未だ照明の光が目蓋を照らしていることも含めて疑問に思い、恐る恐る目蓋を開ける。
そして瞳に映ったのは全く予想だにしていなかった驚きの光景だった。
「……ジャック、怪我は無い?」
「あ……アリス?」
それは身の丈ほどもある巨大に過ぎる剣を握り、赤ずきんと鍔迫り合いを行うアリスの姿。
どうやらジャック一人では修正不可能と判断したらしく、登場人物を増やすというアドリブによって助けにきてくれたようだ。見れば頭の上にはジャックのものと同じオオカミっぽい付け耳が揺れている。
アリスのおかげで劇はまだ続けられそうだが、元の展開に戻すのは相当難しいだろう。登場人物が増えた上に何故か戦いが始まりそうな緊張感がそれを如実に物語っていた。
「不意打ちなんてずいぶん卑怯な真似するんだね。あんた一体何者?」
「私はアリス。彼の……恋人よ。私の恋人に手出しはさせないわ」
『赤ずきんに退治されかけたオオカミを、その恋人のオオカミが間一髪の所で助けにきました……だいぶ話が脱線してきたようね。ここから物語がどう展開していくのか、とても楽しみだわ』
グレーテルの他人事の語りはさておき、アリスたちは台詞の上では険悪なものの様子自体はそうでもない。
赤ずきんは予想外の展開にわくわくしているようだし、アリスは恋人という設定が恥ずかしいのか微かに頬を染めている。舞台上の設定とはいえ、ジャックとしても子供達にそういう関係と思われるのはちょっと気恥ずかしい。
「ふーん、恋人ね。あんたがこいつとどんな関係だろうと、こいつはあたしの大好きなおばあさんを食べたんだ。絶対に仇は取らせて貰うよ」
「そう。どうしても敵を取りたいのなら、私を倒してからにしなさい」
「……上等! 言われなくたってやってあげるよ!」
啖呵を切ると共に赤ずきんが素早くアリスへと飛び掛った。
そのまま巨大なハサミを水平に振り抜き、アリスの身体を断ち切るような鋭い一撃を放つ。
とはいえ日々メルヒェンと戦う姿を目にしているジャックには、手加減していることが分かる一撃だった。
しかしそれを知らない子供たちにとっては本物の戦いが始まったように見えるだろう。実際子供たちは完全に目を丸くしている。
「甘いわね。その程度の動きでは私には勝てないわ」
片足を僅かに後ろへ下げ、後退するだけであっさり攻撃を避けるアリス。
その後も続く赤ずきんの攻撃を二撃、三撃と打ち合うこともなく軽いステップで避けていく。実に危なげなく優雅な動作で。
その踊るような動きに魅了されたというわけではないのだろうが、子供たちからは興奮の声が上がった。
「……なかなかやるじゃん。狼だから尻尾を巻いて逃げるのだけは得意ってことだね」
「ええ、その通りよ。だけど私には尻尾の他に鋭い牙と爪があるわ」
僅かな回避動作だけを行っていたアリスが、初めて大きく後方に飛び退り距離を取った。
そして足がついたと同時に床を蹴り、ハサミを振り切った状態で隙のできた赤ずきんへと襲い掛かる。
身の丈ほどもある大剣が風を切り裂き唸りを上げ、首を刈り取るが如き一撃が走る。
「おっと。危ないなぁ……」
それを赤ずきんは軽口を叩きながら僅かに屈むだけで避けた。
返す刀で繰り出される一撃も上体を仰け反らせてひやひやするようなギリギリのタイミングで避ける。
たぶん子供たちを楽しませるための演技なのだろうが、一歩間違えば凄惨な光景が待っているので全く穏やかな気分になれない。
だがジャックの心情を知らぬ子供達は大喜びで歓声を上げていた。
男の子たちは手に汗握るカッコイイ戦いに瞳を輝かせ、女の子たちは自分と同じ女の子が戦う姿に尊敬の眼差しを向けている。
だいぶ当初の物語から外れてきているものの、結果的には子供たちがみんな楽しめているようなので大成功と言えないこともないかもしれない。
問題はここからどうやって話を進め、できる限り元の話の展開へと修正するかだ。
互いに攻撃と回避を繰り返しせめぎ合うアリスと赤ずきんの雄姿を目にしながら、ジャックは何とかその方法を見つけ出そうとした。
「――はぁっ!」
「うわっ!?」
そんな中、突然アリスの一撃が鋭さを増した。
霞んで見えるほどの速度で大剣を足元から振り上げられ、完全に油断していた赤ずきんが大慌てで後ろへと跳ぶ。
しかし不意を突かれた上にハサミを振り切っていた状態で無理に後ろへと跳んだので、体勢を崩しかけてたたらを踏んだ。
「ふっ――!」
「ちょ、アリス!? 何で本気出してるのさ!?」
その一瞬の隙に一気に距離を詰めたアリスが、大上段からの容赦のない一撃を繰り出した。
よろめき倒れかけている上にちょっと慌て気味の赤ずきんにはそれを避けることができない。
「っ!」
だからこそ赤ずきんはここで初めて防御を選んだ。
身体を縦に真っ二つにする勢いで振り下ろされた大剣を、剣で言えば腹に当たる部分に手を添えてハサミで防ぐ。
火花と共に甲高い金属音が弾け、今まで回避と攻撃を繰り返していた二人の動きが初めて止まった。
「っ! うあっ、重っ……!」
更には予想以上にアリスの一撃が重かったのか、赤ずきんはその状態で片膝をつく。
『負けないでー!』という声援が上がるも、上からじりじりと力をこめてくるアリスの鬼神の如き気迫に押され気味だ。
「ジャック! 今よ!」
「――っ! ありがとう、アリス!」
「あ、ヤバッ!」
アリスの意図を読み取ったジャックは、すぐさま飛び上がって全力で駆けた。
こちらに背を向けて押し込まれている、無防備な赤ずきんに食らいつくために。
「――ガブッ!」
「うあああぁぁぁぁぁ! ジャックの卑怯者ぉー!」
『……赤ずきんは善戦しましたが隙を窺っていたオオカミに背後から襲われ、おばあさん同様食べられてしまいました』
擬音つきで噛み付く真似をした所ですぐに照明が落とされ、赤ずきんの個人的な断末魔が闇の中に響いた。
「流石においたが過ぎましてよ。ジャックさんが可愛そうですわ。ほら、行きますわよ」
「ちょっ、シンデレラー!? フード引っ張らないでー! 子供達は楽しんでたんだから別に良いじゃんかー!」
すぐさま駆け寄ってきたシンデレラの手によりフードを掴まれ、舞台袖へと連行されていく赤ずきん。大切なフードを傷つけられたくないのだろう。言葉はともかく抵抗は示さず大人しく引きずられていく。
「……アリス、今度は負けないよ?」
ただしその途中でジャックとアリスに向けて不適な笑みを向けてきた。
主役が悪役のような笑みを浮かべつつ強制排除される不思議な光景を見送ったところで、照明操作係のかぐや姫へと手振りで合図を送る。しかしどうも実際に合図を受け取ってくれているのは白雪姫で、かぐや姫はそれを伝え聞いて照明を弄っているだけのようだ。面倒くさがりのかぐや姫が合図なしに絶妙なタイミングで照明を落としてくれてることを不思議に思っていたので、からくりが分かって幾分スッキリしたジャックだった。
「ありがとう、アリス。もう駄目かと思ってたから、本当に助かったよ……」
舞台上に灯りが戻ると共に、ジャックは深く溜息をついてその場にへたり込む。行動も台詞も本心からのものなので、真に迫った演技に見えることだろう。
事前の打ち合わせなく劇を再開するのは、アリスなら間違いなく良い方向に話を持っていってくれると確信しているからだ。
ただ赤ずきんの表情と言葉がまだ少し気にかかっているのだが、今現在はオオカミのお腹の中にいる設定なので何もできないはずだ。幾らなんでも内側から突き破って這い出てくるなどというとんでもないアドリブはしないだろう。
「良いのよ、ジャック。お互い助け合って生きて行こうって、約束したでしょう?」
「……うん、そうだったね」
優しく微笑みかけて手を差し伸べてくるアリス。
ジャックは素直に頷くとその手を取って立ち上がった。
アリスもアリスで演技なのかどうか判断がつかないものの、だからこそ自然に話を進めていける。
「だけど、僕はいつもアリスに助けられてばかりだね。えっと、その……頼りない恋人で、ごめん……」
「い、いえ……そんなことはないわ。あなたが傍にいてくれるからこそ、私は強くなれる。
あなたは私のかけがえのない、大切な人だもの……」
「ア、アリス……」
「ジャック……」
恋人という言葉を意識してしまっているらしく、頬を赤らめて答えるアリス。
何だかジャックも妙に顔が熱くて堪らず、気恥ずかしさから二の句が告げなくなってしまった。
アリスも同様に言葉に詰まってしまったようで、舞台上には気まずい沈黙が流れていく。
「見つめ合ってないで真面目にやりなさいよ、あんたたち! 話が進まないでしょうが!」
「っ! さ、さぁ、行きましょう、ジャック。腹ごしらえは済んだでしょう?」
舞台の裏手から親指姫に一喝され、驚きに飛び上がってしまうジャック。
アリスも同様の反応を示したが小さく咳払いして気を取り直し演劇を再開してくれた。
確かここはおばあさん(眠り姫)と女の子(赤ずきん)を食べたオオカミは満腹で動けないので一眠りする場面だ。
アリスもそれは分かっているはずなので、自然に話を合わせてくれるだろう。
お腹がいっぱいだということを示すためにジャックは再び床へ尻餅をつき、お腹を摩った。
「あ、でも僕はここで休んでから行くよ。さすがに二人も食べたらお腹が重くて……」
「食べすぎは身体に悪いっていつも言っているでしょう? 全く……ジャックはどうしようもない食いしん坊ね」
溜息混じりに呆れの台詞を口にしているアリスだが、声音は優しげで表情には微笑みさえ浮かべている。
世話が焼ける恋人に呆れつつも愛しくて堪らないとでも言うような完璧な演技だ。実際の恋人ではないとはいえ、まるで本当にそう思われているかのように感じて何だか恥ずかしくなってきてしまうジャックだった。
「分かったわ。私は先に行っているからジャックはしばらくここで休んでいて」
「う、うん、そうするよ。それじゃあ……おやすみ、アリス」
「ええ。おやすみなさい、ジャック」
その微笑みを浮かべたままおやすみを口にすると、アリスは踵を返しておばあさんの家を出て行く。去り際に行儀良くドアを閉めかけ、慌ててドアノブから手を引く様子はなかなか可愛らしかった。
頬の緩みを感じながらベッドへと潜り込み、シーツに包まるジャック。ただしシーツは首元までで留めておいた。まだ眠り姫の甘い残り香が消えていないので、頭まで包まると変な気分になってしまう。
『……オオカミが昼寝を始めてしばらくすると、おばあさんの家の前を猟師が通りかかりました。おばあさんの家の扉が開け放たれているのを目にして、足を止めます』
特に場面を切り替える必要性が無かったのか照明は落とされず、グレーテルの語りが入る。
そして舞台袖から舞台上へと妙に軽い足音が近づいてきた。まるで楽しくてスキップでもしているかのように軽い足音だ。もしかすると先ほど一喝してきたのはジャックたちが真面目にやっていなかったからではなく、自分の出番が待ち遠しくて堪らなかったからなのかもしれない。
「何よあの家、ドアが開けっ放しじゃない! 全く無用心ね。泥棒が入ったらどうするのよ」
猟師役の親指姫が若干わざとらしく台詞を口にしながら、家の住人に呼びかけもせず容赦なく家に上がりこんでくる。そういえば親指姫も演劇を面白おかしくさせようとする赤ずきんと同じ側である。いよいよ二人が揃ってしまうこの場面、果たして無事に乗り越えられるのだろうか。
「あ、狼が寝てるわ! しかもこのお腹の膨れ具合、人を食べたのね! 今ならまだ間に合うかもしれないわ! 助けないと!」
ベッドで眠る演技をするジャックを見下ろし、やはり少々わざとらしい驚きの表情を浮かべる親指姫。そのちょっとした可笑しさに頬の緩みを抑えられず、ついつい笑いを零してしまう。
「っ……ああ、ちょうど良い所にハサミがあるじゃない。これで狼のお腹をバッサリ切り開けば間に合うかもしれないわね」
「ご、ごめん、親指姫……馬鹿にしたわけじゃないんだ……」
笑われたことがムカついたのだろう。親指姫は赤ずきんの置き土産である巨大なハサミを掲げ、頬を引きつらせて見下ろしてくる。照明で顔が影になっているせいか演技でなく本当にバッサリいかれそうな迫力を覚え、ジャックは怯えからすぐさま小声で謝っておいた。
「……今度笑ったら本気でぶったぎるから覚悟しときなさい」
「う、うん……」
照明が落とされて舞台上に闇が満ちたと同時、親指姫も怒り交じりの声を小さく返してくる。しかし少々複雑そうな顔をしているのは、自分でも演技が下手だと思っていたからなのか。
とりあえずもう笑ったりしないように反対側へと身体の向きを変えると、ちょうど舞台袖から赤ずきんと眠り姫が駆けてくるところだった。
「さーて、またあたしの出番だ。子供達のために頑張らないとね!」
「あ、赤ずきんさん……一体何するつもりなの?」
ニヤリと笑いかけてくる赤ずきんに何を企んでいるのか尋ねるも、答えは返って来なかった。その前に照明が灯され劇が再開してしまったからだ。
『猟師はオオカミのお腹をハサミで切り開き、赤ずきんとおばあさんを助け出しました。オオカミはとても深く眠っているので、お腹を切り開かれても起きませんでした』
「良かった、何とか間に合ったわね! 二人とも大丈夫!?」
「ふー……助かったよ、猟師さん。別の狼と戦ってる所を後ろからバクッといかれちゃってさ、もう駄目かと思ってたよ……」
「ん……ありがとう……」
「女の子を後ろから襲うなんて最低な奴ね。二人とも、こいつどうするのが一番良いと思う?」
三人のそれぞれ種類の違う視線がベッドで横になっているジャックに集中する。
眠り姫の眠たげな視線はいつものことなので特に感じることはない。
親指姫の鋭い睨みはちょっと怖いが、やはり少しわざとらしいので感じるのは微笑ましさくらいだ。
しかし赤ずきんの明らかに何か含みのある視線には、例えようのない不安をはっきりと感じた。
「……お腹に……石を、詰める……」
親指姫の問いに眠り姫が途切れ途切れの答えを返す。
眠り姫はグレーテルの台本どおりの展開へ進めようとしてくれているようだ。
お腹に石を詰められたオオカミは喉が渇いたので湖に水を飲みに向かい、お腹の重さでバランスを崩して湖に落ちて溺れ死ぬ。というのがその後の展開だ。聞き忘れていたがグレーテルはどの程度まで童話を参考にしたのだろうか。
ともかく眠り姫はまともに演じてくれている。
その事実にジャックは心から安堵の吐息を漏らした――
「――ちょっと待って、おばあさん。こいつのことはあたしに任せて」
「……ん……?」
「え……?」
――のも束の間、不意に赤ずきんが妙に凛々しい顔で眠り姫を諭した。
「……さっきの戦いであたしは確かに負けたけど、それはこいつに邪魔されたせいなんだよ。一対一で邪魔が入らなければ、絶対あたしが勝ってた。このまま負けっぱなしなんて我慢できない。だから――」
一旦言葉を切り、親指姫からハサミを受け取る赤ずきん。
そして舞台を眺める子供たちに知らしめるように、片手でハサミを掲げて高らかに言い放つ。
「――こいつを利用して、あの女の狼をおびき出す。今度は負けない。一対一で戦って、今度こそあたしが勝つんだ!」
「えぇっ!?」
「ん……ん……!」
『カッコイイ!』や『頑張れー!』という子供たちの声援を一身に受け、満更でもなさそうな笑みを浮かべている。
確かに勇ましくてカッコイイとジャックも思った。
とはいえよりにもよってこんな状況で発揮して欲しいカッコ良さではなかった。
「カッコいいわね、赤ずきん。なら早く狼のお腹を縫い合わせてふんじばってやりましょ! むかつくけど人質は丁重に扱わないといけないわ」
「ありがとう、猟師さん……見てて、おばあさん! おばあさんの敵は今度こそあたしがとるから!」
『赤ずきんはこのオオカミを人質にしてもう一匹のオオカミを誘き出し、今度こそ自分が勝利するためにもう一度戦うことを決意しました……ふふっ、意外な展開ね……』
「ん……んー……」
姉である親指姫がノリノリな上に間違いなく子供たちが楽しそうな様子を見せているせいか、この場面唯一の味方である眠り姫もいさめるべきか戸惑っているようだ。ベッドで横になっているジャックと力いっぱい素振りを始め声援を受けている赤ずきんを交互に瞳に収め、小さく困ったような声を零している。
どうするべきか少し迷ったが、子供達の表情を覗き見てジャックは心を決めた。
「……良いよ、眠り姫。もう赤ずきんさんは誰にも止められないだろうし、このまま行こう」
戸惑う眠り姫に若干諦めにも似た心地で微笑みかける。
正直もう話の道筋を修正するのは不可能なほどに脱線してしまったし、何より子供達の期待に満ち溢れた笑顔を見てしまったのだから仕方が無い。
ジャックの言葉に安心したようにほっと一息つく眠り姫の姿を目にしたところで、場面転換のための暗闇が満ちた。
「……それでさ、ジャック。次の場面って誰が出て何をするべきかな? あたしそこまでは考えてなかったんだよね……」
「あ、赤ずきんさん……せめてそれくらいは考えてからやって欲しいな……」
一旦舞台袖に引っ込むにあたり、申し訳なさそうな顔で紡がれるまさかの考えなし発言にジャックも戸惑うしかなかった。
流石にここまで派手に話がずれると次の展開を考えるにも時間が要る。しかし照明が落ちた中で時間をかけるわけにはいかない。ここはひとまず時間を稼ぐのが得策だろう。
「ジャック、次の場面は私が出るわ。その間に無理の無い展開を皆で考えておいて」
同じ結論に至ったのだろう。舞台袖へ戻ると同時に、アリスがそう提案してきた。その整った顔立ちに、どことなく楽しげな笑みを浮かべて。
「ありがとう、アリス。何だか、アリスも結構楽しそうだね」
「ええ。本当は出番の無い私がジャックと一緒に出演できて力になれるのだから、嬉しいだけでなくとても楽しいわ。それに赤ずきんさんのやり方に問題はあるけれど、子供たちが心から楽しんでいるのは事実だもの」
指摘されても笑みを隠そうとはせずに答え、一人舞台の暗闇へと消えていくアリス。
やはりアリスも参加したかったのだろう。力になりたくてもなれない歯痒い気持ちは痛いほど分かるし、皆(主に赤ずきん)が楽しんでいるのに自分は見ているだけなど不公平だ。もしかすると白雪姫とラプンツェルも同じ気持ちを抱いているのかもしれない。二人だけ参加できないのはちょっと可愛そうだ。
ジャックはそんなことを考えつつ、アリスが時間を稼いでくれている今の内に手の開いている皆で集まった。
「それでこれからどうするのよ、ジャック。赤姉とアリスの戦いはやるとしてその後の展開はどうなるわけ? ちゃんと面白い展開考えなさいよ」
「とりあえず決着はあたしの勝ちでお願いするよ。何たってあたしは主役だからね」
「ワレはお嬢との共演を要求するぞ! ワレとお嬢で最強のオオカミコンビを実現するのだ!」
「わらわはどのような展開になろうと構いませんよ~。できる限り早く劇が終わる展開ならの話ですけど~」
「じゃっくー! ありすがでたんだからラプンツェルもでたーい!」
「と、とりあえず何とか良い話に纏めるのはどうかな? 流石に劇を楽しんでる子供達に残酷な結末を見せるのはどうかと思うし、ハッピーエンドとまでは言わないけどスッキリした終わり方が良いと思うよ」
矢継ぎ早に繰り出されるわがまま――もといお願いの嵐に、一旦引きつった笑みを返しておくジャック。
具体的な展開について触れないのは台詞を考える余裕が無いというのが大きな理由だが、もう一つは予想外のアドリブへの予防線である。台詞を用意しても赤ずきんと親指姫がそのまま口にしてくれるという保障がないせいだ。
とはいえ子供たちが楽しんでいるのは確かだし、すでに破綻したと言っても差し支えないほど話がおかしくなってきているので、二人のアドリブなどもう些細な問題でしかない。
「皆さん完全にジャックさんに丸投げですわね……」
「えっと、あの……ジャックさんはとっても頼りになりますから、仕方ないと思います!」
「ん……んー……?」
傍若無人極まる五名に最早呆れて言葉もないらしいシンデレラと、どちらかと言えば赤ずきんたちのフォローをしてしまっている白雪姫。そして同意しつつもフォローになっていないことに気付いたのか首を傾げる眠り姫。
味方は今現在舞台上で一人時間を稼いでくれているアリスを除けばこの三人だけである。流石にそろそろ三人の力を借りなければならない。赤ずきんたちに毒されたわけではないが、今はジャック自身がどうしても実現したい展開があったからだ。
「えっと、実はシンデレラたちに一つ頼みたいことがあるんだけど……引き受けてくれるかな?」
「もちろんですわ。ジャックさんだけに負担はかけさせませんことよ?」
「はい! 白雪たちにできることなら何でも言ってください!」
「ん……何でも……!」
「ありがとう。それじゃあ、三人には僕らが次の場面に出てる間に――」
快く頷いてくれたシンデレラたちに、ジャックはそのお願いを口にした。
一瞬シンデレラたちだけでなく赤ずきんたちにも驚かれたが、皆その反応をすぐに期待に胸躍る笑みへと変えてくれた。
たぶん皆もジャックと同じ気持ちを抱いてくれたから。
「分かりました! 任せてください、ジャックさん!」
皆の中でも一際輝く笑みを浮かべた白雪姫が、ジャックのお願いに力いっぱい頷いてくれた。
段々原型がなくなってきたような気がする今日この頃。
ほんの少しでしたけど実は初めて戦闘シーンを書いた記念すべき作品。でも初めて戦闘シーンを書いた作品が演劇を行っているお話とは一体どういうことだ……。
綺麗に終わるかはともかく、次回でやっと終わります。赤姉以外の童話も書きたいんですけど、続くかは分かりません。色々並行して書いていますし、ジャック×親指姉様のカップリングものを書きたい衝動が徐々に強まってきていますしし……書きたいものがいっぱいあるのに時間と執筆速度が足りない……!