ある日、パチュリーは夢を見た。まだ幻想郷があった頃の夢を。

 長いこと文章を書いてなかったのでリハビリがてら書きました。制作時間6時間程度なのですが、これ以上進展しそうにないので投稿しました。

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死ぬまで〜記憶の在り処〜

 「よ、パチュリー」

 

 その日あの子は突然現れた。

 

 「あら、黒白の泥棒さんはこんな幻想郷の存続に関わる大異変の最中にも現れるのね」

 

 「おいおい、最近は返却期限ちゃんと守ってるだろ?」

 

 「泥棒していってたのは事実でしょ。それで、今日は今回の異変についての調べものかしら?それなら………」

 

 そこまで言ったところであの子は手で制した。

 

 「いや、今日は借りてたものを返しに来たんだ」

 

 私は首を傾げた。ここ二月ほどここの本は持ち出されていない。

 

 「気のせいじゃ無いの?最近は来てなかったし」

 

 「気のせいじゃ無い。返却期限は今日だぜ」

 

 そう言って帽子から一冊の本を取り出した。最初は思い出せなかった。だけど思い出した。

 

 「これ、お前が書いた本だろ?私から見ても幼稚な内容だ。いつ書いたんだ?」

 

 「この屋敷に来てすぐ。私が初めて書いた本よ。本の管理システムも整っていなかった頃にだからタグも付いてないでしょう?………ずっと見てなかったから無くしたと思ってたし、もっと効率のいい方法も考え付いてたから要らないと思って探しすらして無かった。何処で?」

 

 「初めてここに来たとき偶々な。適当に袋に詰めてたから覚えてないが本棚の奥に落ちてたんじゃ無いか?あの時借りた他の本は無理矢理返還させられた時のメモに書いてあったから返してたんだがこれは書いてなかったから返しそびれてた。私も今日家の片付けしてて見つけてようやく思い出したし」

 

 「貴女が片付けなんて珍しいわね。まぁ、元々私のだし返してもらえるなら返してもらいましょうか」

 

 「あぁ、………迷惑かけたな」

 

 「迷惑なんていつもでしょ」

 

 手を伸ばし受け取る。いつもより本が重く感じた。体力が衰えたのかと思った。だけど今から思えば多分違う。無意識に気が付いていたのだと思う。

 

 「じゃ、要は済んだし私は行くぜ」

 

 そう言って、後ろを向きゆっくりと扉に向かって歩いていく。次第にその歩みは速くなり最後は走るように扉に辿り着く。

 

 「だけどあの時返却期限なんて………」

 

 その時思い出した。最近言わなくなったから忘れていた彼女のセリフを

 

 

 

 「魔理沙!!貴女!!」

 

 

 

 「じゃぁなパチュリー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………死ぬまで………借りたぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「待って!!」

 

 その瞬間図書館全体に彼女が飛び立つ反動が突き抜ける。

 

 箒から星をバラ撒き、彼女は屋敷の外に向かって飛び立って行く。

 

 

 

 

 

 「待って!!」

 

 無駄だと分かっているのに繰り返す。

 

 

 

 「待って!!」

 

 走り出そうとするも運動不足のせいなのか動揺の現れなのか、直ぐに足に足を引っ掛け転んでしまう。

 

 

 

 「待って!!」

 

 私はまだ貴女の為に何もしていない。

 

 

 

 「待って!!」

 

 迷惑をかけていたのは私の方………地下から怨霊が湧いたときに調べる為に貴女を使ったのは私。

 

 

 

 「待って!!」

 

 謝らないといけないのは私の方………本当は嬉しかったのに鬱陶しそうに扱っていたのは私。

 

 

 

 「帰ってきてよ!!魔理沙!!!!!」

 

 

 

 無人の図書館に虚しく声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………………チェ、パチェ?大丈夫?パチェ!!」

 

 「………………レミィ?」

 

 辺りを見回すとそこはいつものボロボロな小屋。幻想郷が無くなってから館の生き残りで暮している小さな小屋。

 

 「夢?」

 

 「凄くうなされて居たから。辛そうだったけど、どうしたの?………パチェ?」

 

 寝ているフランを起さない様にそっと歩いて自分の荷物を開く。そうして何故か大切にしている一冊のボロボロな本を取り出す。とても幼稚な内容の私が書いた本。

 

 「ねぇ、レミィ………………

 

 

 

 

 

 ………………魔理沙って誰だっけ?」

 

 

 

 

 

 「………………知らないわ」

 

 「返事に間があった。さっきの間は自分を責める時のレミィの癖よ」

 

 じっとレミィの目を見ようとすると顔を伏せる。

 

 「ねえレミィ、教えて!魔理沙って『フラン!!』……え?」

 

 振り返るとさっきまで寝ていたはずのフランがこちらに向かって手を伸ばしていた。

 

 「ゴメンねパチュリー。私もお姉様ももうあんなパチュリー見たくないの………………。だからその記憶はまた壊すよ」

 

 咄嗟に防壁を貼ろうとするもの間に合わない。

 

 「キュっとしてドカン!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 記憶を壊されたことで気を失ったパチュリーを再び寝かせる。

 

 「お姉様の運命操作でもやっぱり思い出しちゃうんだね。それもだんだん思い出すペースが速くなってる」

 

 「パチェは昔から絶対に答えを出すまで諦めない娘だからね。切れた運命の糸も結び直してしまう」

 

 フランの言葉にそう返す。

 

 「この本を焼けば何か変わってくるかもしれない………けどその先は私にも分からないし………それに………」

 

 「出来る訳無いよね」

 

 「そうね」

 

 本を机の上に置く。そして頭を下げる。

 

 「ごめんね。またフランを巻き込んでしまった」

 

 「いいの、私も同じ考えだし。それにあの日言ったでしょ?私は『悪魔(レミリアお姉様)の妹』だって。例えお姉様が自分を『永遠に(ずっと)紅い(血濡れた)幼き(幼稚な)(吸血鬼)』と呼んだとしても………って」

 

 「………ごめん」

 

 「いいよ、お姉様も休んで。全部お姉様が背負わなくてもいいんだから」

 

 「………ありがとう」

 

 「だから大丈夫だって。ほら、また自分を責めてる。お姉様は優しすぎるんだよ………。大丈夫。絶対一人にはさせないから」

 

 「………ごめんね………ありがとう」

 

 気が付いたら私は泣き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おはよう、レミィ。わざわざ私に合わせて無理に朝起きなくてもいいのよ」

 

 いつもの様に先に起きた私は料理をしながら起きたレミィに呼びかける。

 

 「おはよう、パチェ。そうは言ってもいつも料理作ってくれてるじゃない」

 

 「そうね」

 

 「そうよ」

 

 「ところでレミィ。今日寒くない?」

 

 するとレミィは何故か怯えたような顔をした。

 

 「寒くなんかないわ。全然」

 

 「そう?でも私は寒いわ。………えっと何か燃やすもの燃やすもの」

 

 ふと、机の上にボロボロの本があるのが目についた。

 

 「あぁ、それどうせ要らないし」

 

 魔力で本を引っ張ってくる

 

 「アグニシャイン」

 

 本に火をかける。

 

 「駄目!!!」

 

 レミィが突然妖力をむき出しにして、その勢いで火をかき消す。

 

 「ちょっと何するの!!」

 

 「それだけは駄目よ!!」

 

 「………どうして?」

 

 妙に必死なので訊ねてみた。

 

 「そ、それは………それは………えっと………魔法使いが商売道具の本を焼くなんてもってのほかだからよ!!!!」

 

 「………それもそうねかしら」

 

 「そうよ!!!」

 

 レミィはどうせ言い出したら聞かないから火が少し付いた事でよりボロボロになった本を机に戻す。

 

 「ま、まぁパチェが寒いなら何か持ってくるわ。待っててね。」

 

 そう言って日傘をさしたレミィは外に飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 「………とは言ってもやっぱり寒いわね」

 

 

 

 

 

 やっぱり、無駄なものをいつまでも置いとくのは無駄よね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アグニシャイン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「パチェ。ただいま………………。パチェ?」

 

 パチェが居たはずの台所には誰も居ない。

 

 「パチェ。暖まれるもの取ってきたわよ〜〜〜。パチェ〜〜〜」

 

 その時何かを踏んだ気がして足元を見た。

 

 「灰?………まさか!!」

 

 その時近くで爆発音が聞こえた。

 

 考えるよりも先に駆け出していた。

 

 近くの木々の生い茂った場所がその音の中心だった。

 

 「お姉様!!!」

 

 「フラン!!!何があったの!!!」

 

 よく見ると少しずつ再生しているが、両腕の肘から先が無くなっていた。フランは圧倒的な力を有する代わりに吸血鬼としての力だけ見れば他の吸血鬼の平均より劣る。多分普通に再生仕切るのは一日かかる。

 

 「パチュリーが!パチュリーが!!」

 

 「ロイヤルフレア!!!!」

 

 咄嗟にフランを抱えて横に飛ぶ。

 

 振り返るとさっきまで私とフランがいた場所が大きくえぐれていた。

 

 「パチェ………………」

 

 「悪いわね。一撃で仕留められなくて。レミィ………いえ、レミリア・スカーレット」

 

 「なんで!!『なんではこっちのセリフよ!!!』………パチェ」

 

 「私の記憶を壊していたのは貴女達でしょう!!!あの本を燃やしたときに全て思い出したわ!!!貴女達は私が相次いで知り合いを失ったショックで死のうとしていたのを止める為に片っ端から私の記憶を壊していった。何?私は貴女達の好きなように中身を弄られる愛玩人形なの!!?もうそんなことはさせない。私は私の記憶を持って死ぬ。その為に貴女達が邪魔なの!!!」

 

 「違うよ私達はただパチュリーに生きて欲しかったから『黙りなさいこの悪魔!!』………パチュリー」

 

 「咲夜と美鈴も守れなかった貴女達なんて知らない!!!消えて!!!ロイヤルフレア!!!!!!!!!」

 

 「スピア・ザ・グングニル!!!!!!」

 

 槍を投げ、ロイヤルフレアを消滅させる。

 

 紅い霧を出してフランを光から守る。

 

 「お姉様、ゴメン。すぐにまた壊すから」

 

 「………駄目よ」

 

 「狂気側で回復してから手でならすぐだし、それが駄目なら足でも能力は『フラン!!!』」

 

 「分かってるんでしょ?記憶っていうのは他の記憶と関連付けて覚えるもの。その関連性に壁を築ける様な能力でないといつか記憶っていうのは復活する。そして、運命は意志で軌道修正出来る。このままパチェの記憶を壊し続けても解決しない。そのうち毎日パチェはこうなる様に成ってしまう。………………そんなの誰も望んでない」

 

 「ならどうするの!!」

 

 「………フラン。………あなたは悪くない。………悪いのは全部私」

 

 「お姉様?」

 

 「………………私は………永遠に(ずっと)……紅い(血濡れた)……幼き(幼稚な)……(吸血鬼)

 

 「お姉様!!そんな!!まさか、違うよね!!」

 

 「………フラン、………これは………親友である私の仕事。………それに巻き込んだ私が悪いの………フランは悪くない」

 

 

 

 霧から抜け出しパチェの前に飛び出す。

 

 さっきの爆風で傘は飛んでしまったから日が少しずつ顔を焦がす。

 

 「出てきたわね。けりをつけましょう。レミリア」

 

 「えぇ、パチュリー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ロイヤルフレア』

 

 『スピア・ザ・グングニル』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 範囲攻撃のロイヤルフレアと一点突破型のグングニル。

 

 

 

 

 

 病弱な魔法使いと種族内トップクラスの吸血鬼。

 

 

 

 

 

 幻想の要素が無い場所での力を借りる精霊魔法と自身の力で放つ妖力槍

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦う前から共に結果は分かりきっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「わがままに突き合わせてごめんね。レミィ」

 

 私の足を枕にしたパチェが呟いた。

 

 「いつも振り回していたのは私だもの。最後の頼みぐらい聞いてあげないとね。パチェ」

 

 「みんなに伝えとくけど何かある?」

 

 「そうね………なら『あんたらが死んだせいでこっちは迷惑した』って言っておいて」

 

 「ふふふ、相変わらず傲慢ね………………いえ、弱さを隠そうとするあなたの癖。親友だもの分かるわよ」

 

 「そうやって落ち着いた感じをする時は不安なときの癖。私だって分かるわよ」

 

 「そうかもね」

 

 「そうよ」

 

 「パチュリー!!!」

 

 霧からフランが飛び出してくる。霧を動かし太陽を隠す。

 

 「嘘だよね!パチュリー!本当は全部ドッキリって奴なんでしょ?だって………だって………」

 

 違う。フランは賢い娘だ。本当は全部分かっている。

 

 「フラン、貴女はレミィをお願いね。お目付け役は私の仕事だったのが全部貴女に行くかもしれないから大変かもしれないけどね」

 

 「………………うん。分かったよ。だけど、私じゃお姉様が変なこと言い出したら止めきれないからたまに化けて出てきてね」

 

 「まぁ、善処するわ」

 

 「ふふふ………………。走馬灯って本当にあるのね。向こうに言ったらこれを使った魔法でも考えようかしら?」

 

 「もう、パチェはずっと魔法ばっかりね」

 

 精一杯の強がりなんだと理解しながらもそう返す。

 

 「そうね………………。あぁ、レミィに会えなかったら私死んでたんだったわね。そう、そうやってレミィはフランの為に極東まで行って美鈴を連れて帰ってきた。その間に私はこあに出会って………………。咲夜が来たときは驚いたわね。そして幻想郷に………最初はあんなだったのに最後はあんなに愛着が湧くとわね………………」

 

 スッと目を閉じる。

 

 「レミィ、ありがとう。楽しかった」

 

 「私も楽しかった」

 

 「フラン、色々苦労させてごめんね」

 

 「いいよ、私はみんなが居たから生きてられた」

 

 

 

 

 

 「さよなら………」

 

 

 

 

 




 当初は魔理沙主体の予定だったのがこうなってました。何故だ。

 基本的に僕がメインの『東方覚醒録』以外で書く話は幻想郷消滅後に成ると思います。何故かは伏せますが(察しの良い人はそのうち分かると思う)。

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