むかしからRPGにおいて皆さんが疑問に思っているだろうことを、じぶんなりの独自設定を加えて書いてみました。
なぜラスボスはボスのダンジョンに剣を置くのか、などの疑問が少しでも解消できればなあと思います。
最後の砦である、エドガーがやられた。
勇者率いる4人に。
水晶玉でその戦闘の様子を眺めていた俺は、息を短く、ほう、とついた。
恐らく、勇者たちがここにつくまでに、数分とかからないであろう。
ぐるり、と周りを見渡す。
ただ広い事だけが取り柄であるこの広場に、一つの、穴の空いた大きな木がある。
その穴の中には、恐らく入ったら二度と出られないであろう空間が広がっている。
これを勇者に見つかるわけにはいかない。そしたら…すべての計画が、終わる。
「…魔王、クリス。」
唐突に、後ろから重い声をかけられる。振り返らなくてもわかる。
勇者だ。
「なぜ、このようなことをした。」
少し考えてからこう答える。
「我が一つの野望のためだけに。」
努めて低い声を出し、魔王を
ボロを出していないだろうか?魔王を演じきれているだろうか?
心の中で、何度も確認する。
「野望のために、多くの人を殺したのか!!」
悲痛な、そして怒気の大きくこもった声を出し、激昂する勇者。
その様子には、最初に会った甘さ、子供らしさが抜け落ちている。皮肉なことに、戦争が彼を成長させたのだ。…胸が痛む。魔王らしくもないな、と苦笑しながら
「…そうだといったら?」
その様子は、自分を嘲り笑っていると、感じさせたようだ。さらに怒気を含ませた声で、宣言する。
「…殺す。」
そして、勇者達は一斉に戦闘体勢に入る。
自分からもっとも近い距離にいるのは、格闘家である。
そして、中距離に勇者。いつでも格闘家を援護できるようにと、剣を構えている。今にも飛びかかってきそうだ。
遠距離には魔法使い。
勇者軍の軍師を務め、さらに魔法の類まれな才能を持つ人物。自分が一番彼女の実力を知っている。
一番遠くに、僧侶。一番潰さなければいけない存在だが、僧侶への道のりは格闘家が塞いでいる。格闘家の相手をしなければならない。なんて面倒なのだろう。
先に動いたら確実に負ける。それほどまでに、格闘家は優れた体術使いだ。
一番最初に動いたのは、やはり格闘家だ。血の気の多い彼にとっては、先程までの発言が許せなかったのだろう。
だが…単調だ。彼らしくもない。
こちらに踏み込み重い一撃を食らわせようとする格闘家。
その軸足をすかさず足で払う。
「!!」
すぐに何が起こったのかを悟った格闘家。しかし、もうおそい。
その胸をつかみあげる。そして、振り返り自分の盾とする。
そこには勇者が迫っていた。
慌てて攻撃をキャンセルしようとする勇者。
格闘家を前方へと放り投げ、右手を掲げる。
「 」
素早く詠唱する。
技名も決まって居ない雷属性の魔法が、勇者達を襲う。
だが、勇者達を薄い透明な膜が多い、その魔法を弾く。
すぐさま目標を僧侶に変える。
態勢が立て直せない勇者と格闘家。
魔法使いも魔法を使ったことによる反動で動けない。
障害物がない状態なため、僧侶のもとへと邪魔するものはいない。
殴りかかろうとしたその時、僧侶の口元がわずかにあがる
…罠か!!!
僧侶は格闘家へと姿を変え…いや、元に戻ったという方が正しいだろう。
格闘家の姿へと戻った。
おそらく僧侶のサポート魔法の一つである、幻術魔法を使ったのだろう。
おそらく背後では僧侶が体勢を立て直していることだろう。
僧侶の幻術によって姿を変えていた
格闘家の重い一撃を腹に食らい、思わず呻き声をあげる。
しかし、休んではいられない。
魔法使いと勇者が背後から追撃を加えてくるのだから。
目の前には格闘家、背後には勇者と魔法使い。絶望的だ。
…普通ならば、な。
格闘家を正面に位置どらせる。俺の読みだと、このあとすぐに…
…ほらきた。彼女の最大の威力の黒魔法。食らえばただではすまない。
だが…俺はわざと受ける。
「!!」
俺が相殺させることを前提にしていたのだろう。背後の勇者の動きが止まった。空気の流れでわかる。
そのまま俺は黒魔法に飲み込まれる。格闘家を巻き添えにして。
…これで格闘家は戦闘不能だ。格闘家は魔法に対する耐性がない。自分もかなりのダメージを負ってしまったが、魔法に対する耐性はある。まだ戦える。
勇者達からしてみたら想定外の事態だろう。
そして…
格闘家が居なくなったということは、僧侶を守る存在がいないということだ。
すかさず無防備の僧侶にむかって片手で最大火力の黒魔法を放つ。
「くっ…」
魔法使いは僧侶に対して防御壁を張る。彼女の額には大量の汗が見える。
相当の量の魔力を消費しているのだろう。
だが…忘れているのだろうか?俺には二つの手があるということを。
もう片方の手ですかさず魔法使いに対して放つ。
あまりの速さと威力に、勇者は動けない。
魔法使いは、なすすべもなく魔法に飲み込まれていく。
それと同時に、僧侶への防御壁も切れた。僧侶も魔法に飲み込まれていく。
残っているのは…
「勇者、君だけだ。あきらめて投降したまえ。」
「やだね!!この身が塵になるまで、あきらめるものか!!それに俺には、この剣がある。」
そう言い、勇者は大きく剣を掲げた。魔剣ゴッドイーター。神すらも切るといわれ、魔王の体に傷をつけることができるとされているという剣。
だが、俺はその剣を勇者が手に入れていることには驚かない。
…俺が、その剣をこの魔王の城のなかに
勇者が俺にとびかかる。
一合、二合。次元から呼び出したまがまがしい剣を手に取り、勇者の相手をする。俺が持っている剣は、闇に包まれ、絶望に満ちているかのようだ。対して勇者の剣は、光り輝き、希望に満ちているかのようだ。同じ作り手なのに、魔力のこめかたを変えるだけで性質が真逆になる。それを体現している。
「…なぜ君は、あきらめない。」
「お前に殺された魔導師クロウリーさんの、そして…戦争で死んでいった人々のためにも、俺はあきらめない!!」
そして、その持ち主も真逆の性質を持つ。
片方は全てを救おうとし、全てを守り、民の希望となる英雄となる素質のある人物。
もう片方は一つの目的のために多くの犠牲を払い、民の絶望となる魔王の素質を持つ人物。
まさに、真逆だ。最後に立っているのは、どちらか片方だけになるだろう。
一瞬の考え事。それが魔王に大きな隙を作り出す。
「はあっ!!」
勇者がその隙を逃さず果敢に攻めてくる。
冷静にその一撃を剣で振り払うと、勇者から距離をとる。
だが忘れていた。勇者には、大切な仲間がいることを。
背後でまたもや人が動く気配。おそらく蘇生アイテムを使ったのだろう。
振り返ると、目の前に格闘家が迫る。
「ちっ!!」
いったん受け流そうと、構えをとる。
だが、
「!!」
受け流しているはずの拳は自分の鳩尾に突き刺さっていた。
フェイントだった。
さらにラッシュによって魔王に休ませる隙を与えない。
そして僧侶は傷を癒すのをいつでもできるよう、詠唱を続けている。
中途半端な一撃ではダメージを与えられない。
ダメージ覚悟で、思い切り格闘家を吹き飛ばそうと助走をつけて蹴りを放つ。
吹き飛ぶ格闘家。
しかし…勇者の仲間は一人だけではない。
突如、自分に黄色い雷光が迫る。
蹴った後のモーションのまま、俺は動けなかった。
「ぐわっ!!」
まともに喰らってしまう俺。
そのまま
…麻痺効果だと自分が認識するのに、数秒もかからなかった。
「今だ!!勇者!!」
格闘家が背後から迫り、僧侶が傷を癒し、魔法使いが魔王の隙を作り出し、勇者がとどめをさす。敵ながらあっぱれのコンビネーションだと、他人事のように考えていた。
勇者の剣が俺に向かって振り下ろされる……!!
「……見事だ、勇者。」
心臓に剣が突き刺さり、ぽたり、ぽたりと血が垂れる。
完敗だった。
だが、負けるだけでは不完全だ。魔王は、最後の捨て台詞があってこそ、魔王なのだから。
「…見事だ、勇者。だが、これで世界は永遠に平和になったと思うなよ…!
お前達が戦争や、国家が分裂したりして隙を一瞬でも見せれば、俺は何度でも蘇る。
そして、世界を恐怖に陥らせるだろう…!ふっ、ふはははは…!」
意識が遠のく。
最後に見たのは、勇者達が喜んで肩を抱き合う姿だった。
目が覚めた。
起き上がり、周りを見渡す。戦闘の余波でところどころ地面が抉られている以外は特に変わりはない。…ある人物がそばに居ること以外は。
「起きた?」
当然のように言葉をかけてくるのは、先程まで戦闘していた魔法使いだった。
「…おいおい、勇者のそばにいなきゃあやしまれるんじゃないか?」
当然の疑問を発する。
「身代わりを置いてきたから平気。」
淡々と俺…いや、自分でいいか。もう
ともかく、自分の質問に淡々と答える魔法使い。
「…終わった、な。」
「最初から勝ち負けは決まっていたけど、ね。」
勇者軍の軍師である魔法使いと、魔王軍の指揮をしている自分。
最初から、結託していた。
魔王軍と勇者軍の戦争の際、最初から戦術をお互いに伝え合い、どちらが勝つのかを決めていた。
その八百長まがいのことをしているうちに一つわかったことがある。
…軍師は、非常につらいのだ。通常でさえ、一つの作戦ミスが多大な犠牲につながる。
さらに、自分たちがやっているのは、結果がわかっていて出てしまう犠牲だ。
戦場に出る兵士は負けのことなど考えていない。しかし、自分たちはわかっている。…戦場にでていき、散って行った兵士のことを思うと、非常に申し訳なく感じる。
悩んでいた。自分が戦争を起こしたのは間違いだったのかもしれないと。もちろん、起こしてしまったのだから悩んではいけないこと、戦争で散って行った兵士のためにもあとから考えてはいけないと。
自分は人を捨てていない。真の魔王にはなっていない。人であるからこそ、罪の意識に悩んでいた。
「後悔先に立たず、よ。」
自分の心を見透かしたかのように、いやおそらく見透かしているのだろう。魔法使いは口にする。
「この戦争の目的は何?」
「…世界を平和にするため、この地球の自然を修復するため、だ。」
「確固たる信念があれば、戦争はそれでいいのよ。」
…わかっている。でも、謝らずにはいられないのだ。心の中で、犠牲になった人々に。
いつも戦場に出るとき、必ず謝っていた。
怪我をした人を見たとき、必ず癒していた。
もちろん、罪滅ぼしにはならないし、絶対に自分の罪は消えない。
だから、自分は最後の仕事にとりかかろう。
犠牲になった人々が無駄死にと化さないように。
…さて、どこからかは知らないが自分の心のなかとこの光景を目撃している君たち。
自分がなぜ戦争を起こさなきゃいけなかったか、説明しよう。
…なに、ただの道楽だ。もし道楽だと信じられなかったら、言い訳だとこの言葉を置き換えてもいい。
百年前、自分は魔法を創った。ただ一人の女性を助けたいと。大怪我だった。
どうやっても科学では治すことが不可能だった。どのように自分が魔法を発動させたのか、それは覚えていない。いまではあたりまえとなっているその魔法は、のちに自分が一般の人にも使えるようにと、改良したものだ。
奇跡と呼ばれた。だが、完治はしていなかったため、それだけでは納得せず、強力な治癒魔法を開発していった。だが、一つ問題があった。壁に当たってしまったのだ。そのため、自分は開発するのをためらっていた黒魔法を創ることになってしまう。……なぜかって?基本的に魔法は、開発するときには強力なものになればなるほど反対属性の魔法も開発しなければならないからだ。開発する際、魔法の属性は表裏一体の関係にある。使用する際はこの限りではないが。自分が開発するのをためらっていた理由はあとで説明しよう。
そのことが功をなし、自分はその女性のことを完治させることができた。
すると、その噂をどこで聞いたのか、二人の男が訪ねてきた。
名前を、エドガーとクロウリーと名乗った。本当にどこで聞いたのかは知らないが、二人は、科学では助けられない人を助けたいと、頭を下げてきた。どちらも聡明そうな男だったため、自分は一瞬考えた後、承諾した。
魔法を教えるのは順調だった。二人とも力をつけていき、科学では助けられない人を助けるのを覚えた。
そろそろ卒業させてもいいかな、と自分が考え始めていた時だった。
クロウリーが、パンドラの箱を解き放ったのだ。
厳重に保管しておいた黒魔法の術式を、盗んでしまったのだ。
恐怖した。黒魔法が人を傷つける凶器となることを。一度世間に広がれば黒魔法に対する対処法としてさらに威力の高い魔法が開発され、人が戦争でさらなる犠牲者がでることが容易に想像された。
眠れない日々が続いた。だが、妻となった女性に諭され、物事を前向きに考えるようになった矢先、悲劇が起こった。
戦争が始まったのだ。
科学の技術力の差があまりなかったため、抑止力となり戦争は起きなかった国家間に戦争が起こった。
欲にくらんだクロウリーが一方に魔法を伝えたことで、戦争が始まった。
もう一方もどこからか魔法が伝えられ…おそらくクロウリーが伝えたのだろうが…戦争は泥沼状態へと入った。
それから数十年、異変が起き始めた。徐々に大地が枯れ始めたのだ。
しかし、原因はすぐに分かった。
地上を覆う魔力に問題が発生したのだと自分は感じた。
地上を覆う魔力は、人の感情によってその性質を変える。地上に正の感情があふれれば自然を豊かにし、負の感情があふれれば自然を破滅させる。戦争によって憎しみ、悲しみで満たされるようになった地球は、破滅への道を進み始めていた。
そして自分は戦争を決心したのだ。次に挙げる目的を達成するために。
(1)戦争に介入し、負の感情だらけの地上を世界征服をたくらむ魔王を倒したという正の感情に変えるため。
(2)争いを続けている国家間を、魔王を倒すために同盟を結ばせ、国家間の仲をよくするため。
(3)すべての元凶であるクロウリーを混乱に乗じて抹殺するため
これを達成するために自分は50年もの間準備を重ね、実行したのだ。
だが、弟子であるエドガーは巻き込みたくなかった。だから自分は戦争のことを伝え、逃げるようにと頭を下げて頼み込んだのだが、断固として首を縦に振ろうとはしなかった。
「クロウリーを止められなかったのは私の責任。」
そういって断り続けた。絶対に死ぬことになると伝えても、
「本望です。」
熱意に負け、私は配下に加えた。
それから、勇者が現れた。自分はすぐに各地に武器を置き、死んでも勇者たちが復活できるよう各地に
以上が戦争の流れである。そして今に至る。
空を見上げた。先ほどまでどんより曇っていたはずの空は、地上の人々の正の感情により青く澄み渡っていた。歓喜の声が城内にまで聞こえる。
「…私は行くわ。」
「…ああ。」
わかっていた。世間から見たら彼女は勇者軍の魔法使いアリスなのだ。
そして彼女には二度と国家間に戦争を起こさないよう努めてもらわなければいけない。
英雄の一人である立場を利用して。
「浮気してもいいんだぞ?」
からかうように口にする。しかし、本心だった。自分のことなど忘れて幸せになってもらいたかった。
「……私はいつまでもあなた一筋よ。」
そういって、彼女はテレポートをして、消えていった。
「………。」
アリスの仕事はいったん終わった。しかし、自分にはまだやらなければいけない仕事がある
妻にも、エドガーにもいっていない仕事が。
「………。」
無言で木の前に立つ。
この穴の先には、魔力の源となる場所がある。そこに飛び込もうとしているのだ。おそらく、もう帰ってこれないだろう。
だが、自分はやらなければいけない。
この戦争で犠牲になった人のために。どんな理由があっても自分は黒魔法を開発してしまったのだから。
このなかに自分が飛び込むことによって、魔力の安定度が揺らぎ、しばらくの間魔法が使えなくなる。
だが、安定度が揺らいでも自分の魔力は強大だ。おそらく大丈夫だろう。
「……いくぞ。」
そう言って、穴の中に飛び込む。
(……妻に一言、謝っておきたかったな。)
最後に浮かんだのは……自分の妻、アリスの笑顔だった。
自分は、戦闘シーンや地の文が非常に苦手です。それを解消するという目的もあって書いてみました。修正するべき点などありましたら感想へどうぞ。