無責任野郎! 武蔵丸 清治   作:アバッキーノ

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本来は明日アップの予定でしたが、諸々の事情で今日アップします。
また、これまで月2のアップを心がけてきましたが、今後は月1以下になるやもしれません。
ここに投稿されている人は若い人が多く、テストだったり部活だったり色々忙しいと思います。
が、わしはおっさんなのです。おっさんにも色々忙しいことがあるのですょ(´;ω;`)


C06 迅と清治

 空閑が最上との『邂逅』を果たし、林藤からの入隊要請に答えているころ、食事が終わったリビングでは宇佐美と雨取、清治が話をしていた。雨取がボーダーへの入隊を希望しているのだ。

「… 気持ちはわからんでもなぁが、正直おすすめはできんの」

 清治がいつにない真面目な表情、口調でそう言う。

「え〜。アタシ的には大歓迎なんだけどなぁ」

 宇佐美は清治とは反対に雨取の考えに肯定的だった。

「いや、入隊すること自体は個人の自由ぢゃから何とも言えんが… おチカちゃんは2つの理由で『戦い』に向いてないとわしは思う」

 清治はひと呼吸おくと、彼の雨取に対する所感を述べ始めた。

「まず第一に、おチカちゃんは優しすぎる。例えそうしなければならん状況にあっても相手を直接斬ったり撃ったりはできんぢゃろ」

 雨取がうつむく。確かに、彼女は自分のことで人を巻き込むことを恐るような人柄だ。そんな彼女が敵とはいえ相手を攻撃する姿なぞ想像もできない。

「第二に、わしとしてはこちらの方が問題ぢゃと思うのぢゃが、おチカちゃんは自分が逃げにゃぁならん状況でも他人がピンチぢゃったら、自分ぢゃのぉて、そんにを優先するぢゃろ。自分を平気で捨て駒にするモンと戦場に立つのは、同じ防衛隊員としては御免被りたいの」

 これもまた当を得ていた。彼女はまさにそうした考えから、これまでボーダーにすらも自らの保護を求めずに一人で逃げまわっていたのだ。

「う〜ん… でもさ。そういうことなら、修くんも同じようなタイプじゃん」

 宇佐美の発言もまた、当を得ていた。清治や雨取から、三雲がどのような人間なのかをうっすら聞いていた宇佐美らしい意見だった。

「イタいところをついてくるなしおりん。ま、確かにその通りぢゃ。ぢゃけぇ、わしとしてはチョイとうまく逃げまわる方法をメガネくんに教えたつもりなんぢゃが、ね」

「そんなら、千佳ちゃんもムサさんが教えてあげればいいじゃない」

 言われて、今度は清治がうつむく。もしかして、自分に教えるのは嫌なのだろうかと、雨取は心配そうに清治を見る。

「… それ、画的にヤバくね?」

「は?」

 意外な言葉に、宇佐美と雨取は異口同音に同じセリフを口にして清治を見る。

「いや、だからさ。わしこんなナリぢゃん。おチカちゃんに色々教えよったら、傍から見とる人に通報されたりせんかね?」

 そんなことを気にしていたのか。といった感じで宇佐美が額に手を当てながら軽くため息をつく。

「ムサさん。そんな画的なことよりも、むしろいつものムサさんのセクハラの方がよっぽど問題だと思うよ」

「え?」

 雨取が驚いたような声を上げ、目を丸くして清治を見る。

「千佳ちゃんも気をつけた方がいいよ〜。高校生以上のボーダー所属の女子で、この人に胸触られたことない人なんていないから」

「あ。それ言わんといて恥ずかしい」

 珍しく狼狽する清治の姿に気をよくしたのか、宇佐美がさらにまくしたてる。

「恥ずかしいのは触られる方。まったく。千佳ちゃんも気をつけてね。って千佳ちゃんはまだ中学生か」

 かくして清治の悪行のいくつかが宇佐美によって暴露されている頃、迅に自分の生い立ちの話をしていた空閑が今度は迅の話を聞きたがった。

「今度は迅さんの話を聞かせてよ。武蔵丸さんとのこととかさ」

「ムサさんとの話か…」

 

 先の大侵攻から1年半ほど経過したある日のことだった。

 迅とひとつ年上のライバル、太刀川との競り合いがようやく五分になって来たこの時期に、忍田から一人の少年を紹介された。

 その人物に対する迅の第一印象は『異様』だった。彼がそれまで出会った人たちとは完全に異質な存在だと感じたのである。

 自分をまっすぐ見つめる彼はまったく瞬きをしない。生身であればありえないことだった。生身であれば、瞬きをしなければ眼球がすぐに乾いてしまう。つまり、目の前にいる人物は平常時であるにもかかわらずトリオン体に換装しているということになる。

 さらに、最も印象的だったのは彼の纏う『気配』だった。有り体に言えば気配を感じることができないのである。

 迅は師である最上 宗一の薫陶を受け、徹底的に鍛え上げられた戦士だ。そんな戦士である彼をして、目の前の人物の気配を感じることができないのである。そう。それはまるで目の前に『いない』かのように。

 こうした完全に異質な雰囲気を持っている相手に対して、さしもの迅もいつもの通り接することができずに戸惑ってしまっていた。

 ふと、相手が懐から何かを取り出す。

「うまい棒食う?」

 この時、差し出されたうまい棒を戸惑いつつも受け取ったのが、迅と清治の出会いであった。

 二人はすぐに親しくなった。互いに好物のぼんち揚げとうまい棒をやり取りし、古流剣術の使い手でもある清治が、あえて弧月を使って『仮想太刀川』を演じて迅の訓練に付き合ったり。

 親しくなっていく過程で迅は清治がボーダーに入隊した経緯を知ったり、(この時初めて彼がS級であることを知った)最上の黒トリガー化による争奪戦があったりしたが、二人はずっと親しい交流を続けて来たのである。

「ただな。一回だけけっこうマジな仲違いをしたことがあったんだよ」

 まだ迅がA級隊員であり、S級の清治と二人で一部隊として、太刀川の部隊と当時の風間隊(オペレーターは宇佐美だった)、現在はB級中位の柿崎隊の隊長を務める柿崎が所属していた頃の嵐山隊が遠征隊としてネイバーフットに出向いていた。

 訪れた国はダソスと言い、到来したボーダー遠征隊と友好関係を築いた。彼らは遠征隊に自分たちのテクノロジーを提供する一方で、ボーダーの複数のトリガーを使用する技術に深い興味を抱いた。

 というのも、彼らは国境を接するレオフォリオという国から侵略を受けており、散発的な戦闘が国境地帯で頻発していたのである。

 厄介なことに、レオフォリオはその頃、イルガーに似た航空タイプのトリオン兵の開発にある程度成功しているらしく、それを使って空から別のトリオン兵を直接ダソスの都市に降下させて攻撃を仕掛けてくることもあると言う。

 そこで、太刀川、風間両隊はダソスの首都防衛に手を貸し、迅と清治、嵐山隊が国境にある砦の援軍に向かうことになった。

 援軍と言っても、実際は砦に駐留する部隊の撤退戦の手伝いだった。敵の攻勢に加えて老朽化していた砦では戦線を支えることは不可能であった。そのため、後方に新たな砦を設営し、部隊をそこまで引かせるのが目的であった。

 清治が立案した基本戦略は、まず一戦して敵を動揺させ、しかる後に撤退を開始するというものだった。撤退の方法についても細かく考えられており、後にこの戦いで追撃を行ったレオフォリオの司令官が

「これは… 戦術の教科書に掲載すべき、手本のような見事な撤退戦だ」

と述べたほどのシロモノだった。

 さて、新造の砦まで全線を引き下げることに成功こそしたものの、数に劣る味方の部隊、しかも長くロートル砦で守備を続けていたために士気が低下している隊を率いて戦いを継続させることは困難なことだった。

 そこで、砦の守将であるエリオットは、ダソスにおける最初の戦闘で活躍したミデンの戦士の1人である迅に実戦部隊の指揮を任せ、嵐山が別働隊を率いて敵部隊を攻撃する作戦を取ることにした。

 これには少々不幸な偶然が重なった。本来であれば別働隊である嵐山隊と清治の部隊が敵の本隊と一戦し、当然勝ち目はないのでさも慌てる態で撤退。敵本隊を別働隊から引き離すといったものだった。

 だが、迅率いる本隊の進撃線上にたまたま敵の本隊がいたのである。この遭遇戦はただの偶然であったが、迅は素早く別働隊に連絡を取るように指示し、自らはまさに獅子奮迅の活躍で戦線を支えたのである。

 だが、いかに迅が奮戦しようとも多勢に無勢。じりじりと包囲されはじめたのであった。

 本隊からの救援要請を受けた嵐山率いる別働隊は、しかし本隊の救援には向かわなかった。清治が反対したのである。

「ここは敢えて敵の別働隊ではなく補給部隊を襲う」

 清治は敵の補給部隊を壊滅させてその情報を敵に流すことで、兵糧攻めを恐れた敵が撤退すると進言したのである。

「だが、それだと本隊はどうする?」

「ゆういっちゃんがおる。持たんということはあるまいて」

 親友のことを心配しないわけがない。だが、清治は迅を信頼していたのだ。大丈夫だ。迅であれば必ず切り抜けてくれると。

 この作戦は成功したが、本隊にも別働隊にもかなり深刻な被害が出た。戦闘が終了して砦に帰投した後、迅は今回の作戦について清治を問い詰め、清治も特に申し開きのようまことは言わず、むしろ被害が出ることもやむを得ないと発言したために殴り合いの喧嘩になったのである。

 その場は嵐山と柿崎のおかげで収まったものの、以降は遠征隊が帰還する直前まで全く二人は口をきかなかった。

 遠征隊の引き上げが近づいて来たことを受け、ダソスは嵐山に率いられていた砦の防衛部隊を、本国で休養していた部隊と交代させようとした。だが、新しい砦を持ってしてもレオフォリオ軍の攻勢を凌ぐのは難しく、砦はすっかり包囲されていた。

 ある夜、それまで絶交状態だった清治が何の前触れもなくぶらりと迅の元を訪ねてきた。

「包囲してる連中を引かせるから、ゆういっちゃんの指揮で砦からずらかってくれ」

 以前と全く変わらない、飄々とした態度でそう言う清治に対し、迅は普段人には見せない険悪な笑みを浮かべた。

「また効率優先で人命はどうでも良い作戦なんだろ?」

 珍しく毒づく迅を、清治はしばらく興味深げに見つめたあと

「ほうぢゃね。ま、今回は敵に突入すんのわしだけじゃし」

と事もなげに言い放った。

「細かい話はカッキーやじゅんじゅんと詰めてくれ。二人にゃもう話してある。撤退を開始するんは夜中ぢゃけぇ、じゅんじゅんらと話したらとっとと寝た方がえぇで」

 驚く迅を置いて清治は去って行った。

 砦内の作戦室には、エリオットと嵐山・柿崎が迅を待っていた。

「先程武蔵丸から話は聞いたが、本当に可能なのか?」

 迅に声をかけてきたのはエリオットだった。ダソスの驍将とも言われるこの人物は、軍事的才幹こそ平凡だがどのような場面でも冷静な対応をすることができ、誰もが浮き足立っている状況にあっても堅実かつ的確な作戦指示を下すことができる。

 勝利ではなく防衛を主目的とするこの砦を守るにはうってつけの人物だった。やや細身の体つきはどこか頼りなく見えなくもないが、若いころはきっと女性に人気があったであろう端正な顔立ちと、上品な扇型の鼻ひげといった容貌は、軍服を纏えば高級軍人とした毅然とした印象を。宮廷服に身を包めば上級貴族の気品を感じさせる人物である。

「俺は詳しい話は聞いてないけど」

 やや憮然とした表情でそう応える迅に嵐山は苦笑した。

「まだ怒ってるんだな」

「当たり前だ!」

 珍しく声を荒らげた迅にエリオットは驚いた。彼は戦場では苛烈な将官だが、普段は極めて温厚な紳士である。

 場の雰囲気がどことなく重く、悪くなってきたのを感じた柿崎は、言うのを一旦躊躇したが、やはり迅に言うべきだと考えていたことを口にした。

「なあ迅。ムサさんはあの決定を嵐山に進言した後、俺に言ってたんだ。もしお前が敵本隊との遭遇って未来を『読み逃して』いたんなら、今回の損害はこうした進言をした自分に責任があるって」

 柿崎の言葉に迅はハッとなった。確かに、彼のサイド・エフェクトにはあの遭遇戦は『見えて』いなかった。

 敵はともかく、味方の未来を『読み逃した』のだ。彼の感覚からすれば、それは『自分の責任』である。

 清治は柿崎に言ったのだ。

「カッキー。ゆういっちゃんは自分のせいでないことでも自分の責任として背負い込んでしまう。仮にこのままわしらが救援に向かったら、多分わしの進言通りに動いた場合と損害の規模はそう変わらんぢゃろう。そんならその責任、わしがまとめて引き受けよう。ま、知っててやるってのはなかなか非人道的かもしれんが、ね」

 この時、迅は初めて自分が清治に対してでなく、起こってしまった『出来事』とそれを防ぐことができなかった自分に対して腹を立てていることを知ったのだった。

「その日の夜、ムサさんが一人で敵の中に入り込んで何かしたんだ。破壊工作だって言ってたけど、結局何をやってたのかは分からず終いだったな」

 迅は知らないことだが、実はダソスには『灰色幽霊(グレイゴースト)』と呼ばれる伝説があった。ダソスの森に棲む魔物で、ダソスの人間を襲うことはないが他国の人間が夜の森に入ると現れ、『死の沼』にその人間を引き入れてしまうというものだ。

 また、その姿を目にした者はダソスの者であっても同じような運命をたどるという。

 よくある子供が夜遅くまで起きていることを戒めるタイプの童話で、ダソスだけでなく周辺の国にも伝わっていた。清治はこれを利用したのだ。

 カメレオンを巧妙に駆使して、哨戒に出ている敵兵を一人ずつ消していく。兵が帰って来ないことに気づいた哨戒部隊はさらに警戒を強める。周囲への警戒を強めるということは前哨地の警戒が薄くなるということだ。

 これを、敢えて周囲に警戒に出た兵士が戻って来そうなタイミングで襲う。騒ぎを聞きつけて戻ってきた兵士は、般若の面をつけた清治が虚空へ姿を消す態を目撃することになる。

 こうした襲撃を、包囲する敵の外周の小さな部隊に次々に仕掛ける。当然ながら恐怖とともにそうした情報が敵に伝播していくことになった。

 そうした中で、ダソスの民話を耳にしたことのある兵士が『灰色幽霊(グレイゴースト)』のことを口の端に登らせる。こうして姿が見え隠れする敵に対して恐慌をきたしたのである。

 こうして、圧倒的優位な状況にありながらたった一人の奇策によって、目の前の敵をほぼ無傷のまま見送ってしまったレオフォリオは、本国がダソスから遠ざかるのを潮に侵攻を取りやめたのであった。

 遠征隊はその前後に三門市へと帰還。迅が『風刃』を得てS級となったのは遠征から帰還してすぐのことである。

 この時迅はあえて空閑に話さなかったが、この話には実はもう1つエピソードがあった。実際に遠征隊がダソスを離れる前日のことである。

「それが最善と思っていることであっても、自分の考えで『誰か』が犠牲になるのを目の当たりにするのは、知っていてやってたとしても辛いもんぢゃね。いやはや。ゆういっちゃんはこんなことをずっとやっとったんじゃなぁ」

 労るような優しい口調で言った清治の言葉に迅は涙を流した。報われたと思ったわけではないし、当然悲しかったわけでもなかった。嬉しいというのとも少し違った。ただ、理解してくれる人がいた。それも身近に。

 この時迅は誓った。例えどのような結果が待っているにせよ、この人を裏切るようなことだけは絶対にすまいと。

 また、清治もこの時誓った。例え自分の意に反するものであったとしても、迅の信じる『最善』を、自分もまた信じることを。

 この事は互いに相手に伝えたわけではなかった。また、そんなことをする必要もなかった。

 以来、二人は自らの誓いを忠実に守りつつ付き合いを続けているのである。




評価・感想・誤字脱字の指摘(笑)お待ちしています。4649!

追記です。レオフォリオはともかく、ダソスは原作には登場していない国です。いわゆるオリジナル。
おっさんの記憶が正しければ、確かギリシャ語で「森」って意味だったはず。
また、文中に登場するレオフォリオの空飛ぶトリオン兵もオリジナルです。
ムサさんによれば、モナカのお化けだそうです。
さらに、最上が黒トリガーになった時期や旧嵐山隊の遠征参加はおっさんの妄想です。個人的に嵐山と柿崎は気に入りのキャラなもんで(^^
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