無責任野郎! 武蔵丸 清治   作:アバッキーノ

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恥ずかしながら帰って参りました!


F10 な〜んか不気味

 無人の荒れ野と化した、かつては市街地であった三門市の一角を、清治は目的の人物のいる方へ向けてバイクを疾走させていた。

 つい先程、高速道路から三門市へ向かうインターチェンジを降りた清治は、予想はしていたものの目の前に広がる光景にさすがに言葉を失った。

 荒れ地だ。全く何も無い荒れ地が目の前に広がっている。とても日本国内の光景には見えなかった。

――― ここは確か…

 清治の記憶が正しければ、インターチェンジから降りてきてすぐの辺りが警戒区域の北限に近いはずだった。そして、そのエリアから基地に向かう土地がものの見事に更地になっているのである。

 ケースがケースでなければ、ここに郊外型の大店舗が建つのではないかとワクワクするところだが、警戒区域となれば話は別だ。

 現在アフトクラトルと思われる(この時点で確定していたが清治はまだ知らない)敵と警戒区域の各所で交戦している最中である。これは土木工事のたまものではなく作戦行動の一環であることは間違いなかった。

――― それにしても、改めてみると凄ぇのぉ…

 驚嘆せずにはいられなかった。警戒区域とはいえ、この辺りはまだ比較的『街』の姿をとどめていたはずだ。

 以前、いわゆる演習を繰り広げた区域もそうだったが、警戒区域とされた地域からは一般の人間はすべて退去した。立ち入れるのはボーダーの関係者だけだが、それも基本的には戦闘員に限られている。

 そんな状態だから、そこにあった建物も、4年の歳月のうちに崩れたり、外観はともかく内部は散々に荒れたりしていた。

 それも区域によって進み具合はまちまちで、北側の地域は比較的近年に開発が始まり、多くの住宅や店舗が作られていた。

 建物が新しいということは、それだけ耐久性も古いものよりは高い。また、技術的にも新しい技術で作られているので、朽ちるまでには相当時間がかかるはずである。

 この地域の開発には大手不動産グループと共に、やはり大手の住宅メーカーが関与していた。彼らは自身の戸建て住宅の宣伝文句に『200年は保つ家』というフレーズを使っていた。

 それだけ少なくとも外壁や屋根などは国内メーカーはおろか、世界の住宅メーカーにおいても屈指の耐久度を誇っていた。そうした家が立ち並んでいたはずである。

 ところが今は、まさに見渡す限りの平地だった。とても同じ地区の風景とは思えないほどだ。

 整地が成されているわけではないので徒歩では大変かもしれないが、道順がどうのこうのちうことを考える必要もなく、ただただまっすぐ目的地に向かえば良いだけの状態になっている。

 こんな真似ができるのは、ボーダーの中では彼一人しかいない。トリガー以外の方法でこれを成そうとするのであれば、MOABかデイジーカッターが必要だろう。

――― うん?

 ふと清治は、西部方面に敵が集まりつつあるのを視界の隅に捉えた。どれほどの距離があろうと、トリオン兵である限り清治の視界から逃れるのはほぼ不可能である。

 ところで、あちらは確か清治の親友である暗躍エリートが受け持つ区域のはずだ。数こそまだ少ないが、彼がそれに対処しないというのはいかにもおかしい。

 この場合、迅がそこにいないと考えるのが妥当だろうと清治は思った。

――― 何ぞ理由があって、あの場から離れる必要があったらしいの。

 良いこととは言えない出来事に清治も少々渋い顔をする。

 もともとこの作戦は、迅と天羽がある意味防衛線の肝として機能することを前提としていた。

 迅本人も当然ながらそのことは重々理解していたはずである。にもかかわらず、彼は持ち場を離れた。ということは、そうせざるを得ない事態に物事が進んでしまっているということである。

 幸いなことに、清治が二宮隊に敵の足止めを依頼した影響で、敵の集まりは思った以上に多くはなかった。だが、それでも放置しておくことはできそうにない。

 見れば、北西エリアはもう何もすることは無さそう見える。であれば、やはり彼に西エリアにも出張ってもらうしか無さそうだった。

 

 自らが築いたと言って良い、無人の荒野の真ん中で天羽 月彦が佇んでいる。なんともそぐわない姿である。

 というのも、彼はまるで近所のコンビニにでも行くかのうような格好で座っているのだ。市街地であればそれも不思議ではない。いや、ここも彼が『こう』するまでは市街地とほぼ同じ姿ではあったが。

 だが、今はそうではなかった。見渡す限りの平地である。このそぐわない状況こそが、彼のトリガーの特異性を物語っているとも言えた。

 ところで、彼としては彼の任された仕事は終わった。とはいえ、他の隊員がまだ戦闘中である以上、その場を離れるのはともかく帰るわけにはいかない。

 つまりは暇を持て余すことになる。彼は退屈だった。

 そんな彼の耳に、轟くようなバイクの走行音が聞こえてきた。ずっと遠くに聞こえるそれは、徐々に自分の方に近づいてきている。

 やがて走っているバイクの姿が見えると同時に、乗っている人物の『色』も見えてきた。天羽の持つサイドエフェクトだ。彼はこれによって、視ている対象の強さを色で選り分けることができるのである。

――― 相変わらず不気味な色だなぁ。

 先の通り、彼は色で相手の強さを読むことができる。どうやら先程現れた人型近界民(ネイバー)の中には、戦ってみたいと思うような色をした者もいるようだった。

 強い色と弱い色。それは彼の中でははっきりしていた。そして、先程まで自分の周りをうろついていたトリオン兵などは、どれもこれも弱い色の雑魚ばかりだった。

 当然ながら、ボーダーの中にも彼が『強い』と感じる色の持ち主がいる。本部長の忍田はその筆頭だし、他にも現役でならば迅や太刀川、二宮なども強い色の持ち主だ。

 その中にあって、清治はそれほど強い色の持ち主ではなかった。ボーダー全体で見れば強い方に入るが、彼の感覚では『強い』というほどでもない。しかし、彼にとって清治の色は、分類できる色ではないのである。

 多くの場合、どんな人でも何色なのかを言うことができた。強さをそう呼ぶのは彼独特の感覚としか言いようがなかったが、とにかくほとんどの場合において、その色が何色であるという風に彼には分類ができた。

 だが、清治においては全く表現のしようのない色だった。既存の色の名前ではどうも分類できないのだ。

 だからと言って、新しい色の名前をつけるのも難しかった。つけてしまうと、それよりもふさわしい名前があるのではないかと思うような不思議な、表現のし難い色なのである。

 ただ1つ確実に言えるのは、その色についての感想はどんな名前をつけようとも『不気味』以外の表現はできなかった。もっと言えば『怖い』色かもしれない。

 そんなわけで、天羽は当初清治を苦手としていた。だが、ほどなくこの不気味な人物が、不気味なほどにのんき者でお人好しで、少なくとも敵対するような態度を示さない限りは馬鹿にされようが悪口を言われようが気にしないらしいことに気がついた。

 以降は距離を詰めるでもなく、ともかく当たり障りのない付き合いをしていた。

「ぃよう。だいぶ派手にやっとるのぅ」

 近くにバイクを止め、いつものような気軽な感じで清治が声をかける。

「ムサさん…」

 彼もまた、いつもの通り物静かに清治に応える。

「相変わらずすげぇのぉ。加減とかできりゃ、もっと遊べるじゃろうに」

「やだよめんどくさい…」

 これも彼らのいつものやり取りである。

 天羽の黒トリガーは、トリガーを起動するとその姿が一変する。見た目の破壊力も、物理的な破壊力も。多くの黒トリガーの中でも彼のそれは超常的と言えた。

 以前清治は、メテオラを上回るトリオン爆弾の話を三輪としたことがある。天羽のそれは、研究すればそうした爆弾の開発につながる可能性がある。良いか悪いかは別にして、だ。

「どいつもこいつもつまんない()のザコばっか。全然やる気起きないよ…」

「そりゃお前さんから見れば、大概のやつが雑魚なんじゃろうけどな」

 そう言って苦笑する清治に

「あんたは雑魚だけど怖いよ」

と言いたくなる衝動を、天羽はとっさに押さえ込んだ。なぜそうしたのかは彼自身にも分からなかったが、どういうわけかそれは言わない方が良い気がしたのである。

「ま、それはそれとして、悪いんじゃが、西っかわも見てやってくれんかね」

「ええー… なんで…?」

 彼の記憶が正しければ、そちらは迅の受け持つエリアだ。わざわざ自分が出張る必要などないはずだ。

「それがの。どうも担当者が席外しとるみたいなんじゃ」

 清治は端的に、敵がその辺りに再集結していることと、迅がその場になぜかいないことを告げた。

「あんにの事じゃけぇ、何らかの事情があって持ち場を離れとるんじゃろう。とはいえ、戦況が膠着しとる中であそこを放っとくこともできんしの」

「しょうがないなぁ…」

 清治の言う通り、迅がこうした場合に不必要に持ち場を離れるような人間ではないことを知っている。その彼がその場にいないということは、そうせざるを得ない状況に今現在なっているということなのだろう。

 あるいは先程ちらっと見えた『強い色』の敵と関係があるのかもしれない。そして、おそらく清治の懸念は、そいつらと今がら空きの西側エリアに集結している敵が有機的結合を図ることなのではないかと天羽は感じた。

 雑魚であっても敵であることには変わりないし、彼にとっての雑魚が他の隊員にとっても雑魚であるわけでは当然ながらない。強い色の敵が西側にいる雑魚たちを使って、本部が考えている以上の脅威になりはしないかという懸念は確かにある。

「わかったよ。面倒だけど…」

「すまんの。おおそうじゃ。お礼というわけではないが、出先でもらったこれをやろう」

 そう言って清治が取り出しのは、ご存知うまい棒の詰め合わせである。

 もっとも、これは以前清治がゲームセンターでゲットした同じ味の詰め込み品ではない。プレミアム商品も含めたいろいろな味のものが40本も入っている代物である。

「ありがと…」

「それとな。この手のもん食うと喉がかわくじゃろ」

 そう言ってペットボトルに入ったお茶も手渡した。

「じゃあの。よろしく~~~」

 そう言って手を振って走り去る清治を見送りながら

――― ああ。やっぱり不気味だ…

と思いながら、テリヤキバーガー味のうまい棒を取り出してかじってみる。

「…うまい」

 こちらは不気味でも何でもないようだった。




でもまだ戦闘には出番なし(^^;

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