トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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お疲れ様です。

戦闘と原作の過去の話を交互に織り混ぜてみました。


どうかお付き合い頂ければ幸いです。

それではどうぞ


少女が呪われた日    vs 超兵器&Unknow

   + + +

 

播磨の攻撃は苛烈さを増していた。

はれかぜは必死に攻撃をかわし防御重力場の回復を急ぐ。

 

 

 

「主砲弾2こちらに向かう!」

 

「航海長、取り舵20度、急速加速!動きを止めるな!回り込め!絶対に播磨艦尾には、回り込むなよ。レールガンの餌食になるぞ!」

 

 

「よ、ようそろう…!」

 

 

涙を溢す鈴の精神は限界に近かった……いや、鈴だけではない。

 

 

誰しもが心身共にボロボロになっていた。

 

原因はやはり岬明乃だろう。

 

 

真白は明乃がいかにはれかぜの精神的支柱だったかを痛感していた。

 

 

「鏑木医務長。岬さんの脳波から検出された超兵器反応はどうなっているんだ?」

 

 

「芳しくないな。先程から、少しずつ強くなっている。このままでは理性が崩壊するやもしれん……」

 

「…そうか。引き続き処置を頼む」

 

 

 

 

真白は再び前を向いた直後、播磨の主砲弾がはれかぜの近くに着弾し、はれかぜを大きく揺さぶり、艦内に悲鳴が轟くなか彼女も歯を食い縛る。

 

 

 

 

(戻ってきて岬さん…はれかぜには…皆には今、あなたが必要なんだ!)

 

 

 

砲弾の嵐で掻き回される海をはれかぜは進んで行く。

 

 

 

  + + +

 

 

突然扉を開けて飛び出してきた幼い明乃は、楽しそうにパタパタと駆けていく。

 

 

 

「あっ…待って!」

 

 

彼女が声をかけても返事は帰ってこない。

 

 

 

明乃が追いかけようとすると、扉からが開き飛び出してきた人物に明乃はいよいよ驚いてしまう。

 

 

 

 

「お父さん…お母さん……?」

 

 

 

 

現れたのは、16年前に事故で亡くした筈の明乃の父と母だったのだ。

 

頼もしそうな印象を受ける父と、優しい印象の母。

 

 

それは明乃が肌身離さず身に付けているペンダントに写った印象そのままだった。

 

 

 

明乃の瞳には涙が浮かぶ。

 

 

 

 

「お父さん!お母さん!どうしてここにいるの!?」

 

 

「明乃!」

「明乃!」

 

 

 

両親が叫んで駆け出した先には、現在ではなく幼い明乃の姿があり、やはり現在の彼女に気付く様子はない。

 

 

 

(気付いていない?いや…見えてないの?)

 

 

 

 

明乃の父は走っている明乃を捕まえて抱き上げた。

 

 

 

「コラ!勝手に出歩いちゃダメだろう。怪我しちゃうぞ!」

 

 

 

「あなた。きっと海を見たかったのよ。明乃は海が大好きだから。ねぇ明乃、きっとデッキに見に行きたかったのよね?でも一人じゃ危ないわよ」

 

 

「うん、わかった!じゃぁお父さんとお母さんと3人で見に行く!」

 

 

「ああ、そうしような。この辺の海にはイルカもいるらしいから」

 

 

「イルカさん!?見る見る!私、イルカさんに会いたい!」

 

 

 

「ハハッ!必ず会えるとは限らないよ。でも明乃が良い子にしてれば会えるかもね」

 

 

 

「ホントに!?わかった!私、いい子にする!だからぜったいイルカさんに会いたい!」

 

 

「会えるといいね」

 

 

 

「うん!」

 

 

満面の笑みで答える明乃に両親は優しい笑顔を向けた。

 

 

 

 

デッキへと歩いていく3人を見つめながら彼女は幸せな気持ちになる。

 

 

 

両親はいつだって自分に惜しみ無い愛情を注いでくれていたのだと改めて実感したからである。

 

 

明乃が3人を追いかけようとしたその時……

 

 

《兵器トシテノ本分ハ破壊。相手ニ死ヲモタラシ、自ラノ生ヲ堅持スル。ソノ真理ニ如何ナル論理スラモ懐柔ノ余地ナド無イ……》

 

 

 

「!!?」

 

 

彼女が振り返った先にある薄暗い廊下には特に人影はないが、彼女は何か強烈に不気味な視線に見つめられている気がして不快感を感じた。

 

 

言い知れぬ不安から逃げ出すように明乃は3人の姿を追う。

 

 

   + + +

 

 

3人にを探しにデッキへと足を運んだ彼女の耳に嬉しそうな声が飛び込んできた。

 

 

 

「海だー‼」

 

 

声のする方へ向かった彼女の目には、幼い明乃が手摺に掴まってピョコピョコ跳ねながら目の前に広がる海を見て大喜びしている姿と、その様子を見守る両親が目を細めている姿が写る。

 

 

 

 

(このフェリーは16年前の?もしかしてこれから……)

 

 

徐々に眠っていた記憶が蘇って来るのを感じる。

 

 

 

両親の死という悲劇とその後の苦労で忘れかけていたあの日の記憶を……

 

 

 

彼女の不安は徐々に大きく膨らんで行く。

 

 

 

「イルカさんどこかなぁ……」

 

 

幼い明乃は、イルカを探して要るようだった。

 

両親も辺りを見回すが、イルカが姿を見せる気配はない。

 

 

さっきまであんなに元気のよかった彼女だが、どうしてもイルカを見たかったらしい

彼女は目に涙を浮かべて泣き出してしまっていた。

 

 

「グスッ……わ、わたしが…いい子じゃ無かったから…イルカさん、会いに来てくれなかったのかなぁ……」

 

 

「明乃……」

 

 

彼女は、先程の両親の言葉を気にしているようだった。

 

 

その様子を見ていた母が彼女に歩みより、優しくほほ笑みかけて優しく抱き締める。

 

 

「そんなことないよ。イルカさんだって生き物だもの。眠かったり、おうちで家族とゆっくり過ごしたいときもあるわ。今日はたまたまそんなときに私達が来てしまっただけ。いつかきっと会えるわ……必ずね」

 

 

 

 

「いつかって、お昼ご飯を食べた後くらい?」

 

 

「ハハッ!それじゃちょっと急すぎるなぁ~でもね明乃。諦めなければ絶対に願いは叶うんだ。どんなに長い時間待つことになっても、決して希望を捨てちゃダメだぞ」

 

 

 

「…うん!わかった!あきらめない!わたし絶対にイルカさんに会う!だから、もう泣かない!今日は大好きな海を一杯見たから我慢する!」

 

 

 

「えらいなぁ~!そんな明乃にはプレゼントをあげようか」

 

 

「プレゼント?」

 

 

 

彼女の頭を優しく撫でた父は、ポケットか赤い箱に綺麗なリボンのついたら小さな箱を取り出し、明乃は箱を不思議そうに見つめる。

 

 

「開けてごらん」

 

 

 

父が手渡した箱を開けると……

 

 

 

「わぁー!綺麗!これなぁに?」

 

 

「懐中時計だよ」

 

 

「かいちゅうどけい?」

 

 

 

「明乃にはまだ早かったかな?でもね、これは明乃生まれた時に買った物なの。明乃と一緒の時間を過ごして、大きくなるまで見守ってほしいなって願いを込めたのよ」

 

 

「う~ん……よく解らないけど、とっても綺麗!ありがとう!お父さん、お母さん!」

 

 

 

 

明乃は美しい細工の入った懐中時計を太陽にかざし、キラキラと光るそれを満面の笑みで見つめた。

 

 

その時……

 

 

 

ザパァ~ン!

 

 

 

音がする方角を見た明乃の目が見開かれ、宝石の様に輝いく。

 

 

「わぁー!イルカさんだぁ!」

 

 

 

フェリーの近くをイルカの群が通りすぎているところだった。

 

 

警戒心が薄いのか、何頭かのイルカがフェリーのすぐ近くまでやって来て飛び跳ね、その様子はまるでこちらに挨拶をしているようにも思える。

 

 

 

 

「お父さん、お母さん!わたし、イルカさんに会えたよ!イルカさ~ん!こんにちはー!」

 

 

 

 

明乃は、懐中時計を握り締めた手を降ってイルカに挨拶をした。

 

 

(………)

 

 

 

一部始終の様子を見ていた現在の明乃の表情は複雑だった。

 

 

 

幸せだった日常

 

当たり前に貰えた両親からの愛

 

 

それを全て失った日が今日なのだ。

 

 

 

このあと、この船が嵐に合い座礁して転覆してしまう事実。

 

 

今まで思い出さないようにしていた記憶を覗き見てしまった明乃は、まるで古傷を抉られる様うな心の痛みを感じていた。

 

 

 

   + + +

 

ズドォォォォン!

 

播磨の主砲がタカオのクラインフィールドにぶつかり炸裂し、もえかは思わず身を屈める。

 

 

タカオもクラインフィールドがあると理解していても、うろたえずにはいられなかった。

 

 

「た、タカオ!今が踏ん張り時だよ!いくら戦艦でも超至近距離まで近付けば砲撃は使えない。砲弾を交わしながらの接近して超重力砲を発射できれば、一気に戦況が傾くと思うの…いける?」

 

 

「って言っても簡単じゃないわよ!近付けば副砲弾や噴進砲の嵐に遭うわ。フィールドが持つかは正直ギリギリってとこ……」

 

 

 

 

播磨から距離をとり、クラインフィールドを回復させたタカオは、再び播磨に進撃をかける。

 

 

 

 

ハルナの活躍により上空からの敵の攻撃を気にする必要は無くなったが、播磨の真骨頂は実は大口径砲やミサイルによる長距離からのアウトレンジ攻撃ではなく、広大な甲板にびっしりと置かれている副砲群と噴進砲による中短距離の猛烈な飽和攻撃で相手を近付けさせず、自分に対する長距離攻撃を防御重力場と分厚い装甲で防御する攻守一体の戦法こそ、巨大な双胴の船体をいかんなく発揮する最善の戦法であった。

 

 

 

 

先程のタカオも、そのあまりの弾幕の激しさに思わず距離をとったほどだ。

 

 

もえかは、逆に播磨の懐こそが弱点なのではないかと考えたが、そう簡単には相手も隙を見せてはくれない。

 

 

 

 

(少しでいい…少しでいいから播磨に隙が生じれば………)

 

 

 

 

今はとにかく進むしかない。

 

 

 

 

隙が生じた時に懐に入り込むには、どうしても播磨の弾幕が最も激しい海域にとどまり続けなければならないのだ。

 

この海域にいる誰にとっても辛く険しい我慢の時間が訪れていた。

 

 

 

   + + +

 

 

明乃は、自分の両親と幼い彼女がレストランで食事をとり自室に戻るまで側にいた。

 

 

このあとの結末を知っていたとしても、幸せだった時間をもう少し見ていたいと思ったからであるが、運命の時刻が迫るにつれてその場にいることが耐えられなくなり、デッキまで逃げてきてしまう。

 

 

 

 

(多分…私は今、疲れて寝ている頃。その間に船が嵐で流され座礁した。確かそうだったと思う……)

 

 

 

明乃はしばらく俯きながら、両親から貰った懐中時計の表蓋にはってある両親と明乃の3人が写った写真を眺めていた。

 

 

 

一緒にいた時間が短くとも、愛情を沢山注いでくれた両親の存在がいかに大きいかを痛感する。

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

明乃が溜め息をついたときだった。

 

 

 

 

《守リタケレバ破壊セヨ。失イタクナケレバ我ト共ニ歩ミ、力ヲ行使セヨ。》

 

 

(!?…まただ。またあの声が………)

 

 

 

 

冷たく不愉快な声が今度は頭に直接語りかけて来たように響いた直後、辺りを蒼白い光が包み込んだ。

 

 

 

 

 

そして、

 

キュィィィ…ズドォォォォン!

 

 

 

 

 

轟音と衝撃、そして眩い光がフェリーを包み込み、回りの乗客から悲鳴があがりパニックが起きていた。

 

 

 

 

思わず目を瞑っていた明乃が光が弱まるのを感じて目を開けた先には、波は高く、雨と風を伴って荒れ狂う海光景が飛び込んできた。

 

 

 

(どうなってるの?さっきまであんなに穏やかだったのに……)

 

 

 

 

「おい!なんだあれは!」

 

「大型のドローンか何かか?」

 

 

 

突然の声に、明乃はデッキにいた乗客の一人が指差している空へと目を向ける。

 

 

 

信じがたい事に、雲の切れ目に巨大な飛行物体飛翔装置の一部であろうスラスターが見えた。

 

 

 

 

 

(あ、あれは…超…兵器?)

 

 

 

 

彼女が呆気に取られていたのは束の間、雲に隠れていく超兵器らしき飛行物体から何かが投下され、真っ直ぐ海面へ落下したそれはプカプカとまるでブイの様に浮いていた。

 

 

そして、中央部が紫色に発光して凄まじい速度の光の線を発射、フェリーの船体を意図も簡単に貫いてしまう。

 

 

 

 

船体に開いた大きな穴から海水が流れ込み、フェリーが一気に傾斜。

 

 

その勢いでデッキの手摺付近にいた乗客の何人かは海へと投げ出され、あっというまに海底へと飲まれて見えなくなった。

 

 

 

 

『本船は船底に何かが接触し、浸水が発生しました。乗客の皆さんは乗組員の指示に従い落ち着いてデッキへと避難してください!』

 

 

 

乗客達がパニックに陥る中、フェリーの船長らしき人物のアナウンスが聞こえる。

 

 

 

 

(乗組員は座礁事故だと思ってる……私もそう思ってた。まさか攻撃を受けていたなんて………きっとまたあのレーザー攻撃が来る!)

 

 

 

 

 

 

 

船内は既に上も下も解らない状態で、廊下は避難する人達でごった返しており、我先にと急ぐ人々が女性や子供を踏みつけ、悲鳴や怒号が飛び交う様は正にに地獄と言うより他ない。

 

 

 

 

「どけ、じゃ、邪魔だぁ!」

 

「うわぁ~ん!」

 

「い、痛い!踏まないでお願い!」

 

「ひぃ!死にたくない死にたくない死にたくない!」

 

 

 

 

そんな人達の間をすり抜け、明乃は両親達を探す為に駆け出していた。

 

 

 

(お父さんは…お母さんはどこに……あっ!)

 

 

 

漸く見つけ出した時、両親は幼い明乃をはぐれない様にしっかりと抱いて避難を続けており、彼女は怯えたように父の腕の中で震えている。

 

 

 

 

誰しもが不安を隠せない中、船内に再び激震が走った。

 

 

 

恐らく先程のレーザー発射装置から新たな攻撃があったのだろう。

 

 

 

 

みるみるうちに傾斜がきつくなり、廊下の奥の方から水の押し寄せる音が聞こえ、命の危機を感じた乗客たちは悲鳴を轟かせながらでデッキを目指して駆け出す。

 

 

 

 

だが次の瞬間、爆発音と共に大量の水が吹き出して彼等の背後に押し寄せ、乗客や明乃の両親もそれを見て必死に足場の悪い道程を出口に向けて進む。

 

 

 

 

すると前方にデッキへの出口である事を示す光が見えた。

 

 

 

しかし既に猛烈な勢いで背後から水が迫っている。

 

 

 

 

明乃の両親は走る、息が切れても、つまずいても、大切な娘を死なせない為に両親は走る。

 

 

 

そして、彼等が斜めに傾いたデッキにたどり着いた時、後ろから絶望の悲鳴が轟いた。

 

 

 

 

 

「いゃだぁぁ!?た、たすけ…もが?ボゴォォ!」

 

 

 

 

 

「くっ!こんなことって………」

 

 

すぐ後ろにいた乗客達が、押し寄せた水に巻かれて暗い船底へと引きずり込まれて行き、デッキには現在も雨風に煽られながら今にも転覆するしそうに傾いた床に足を踏ん張り、手摺に必死にしがみつく人々が大勢いた。

 

しかし、彼等は次々と力尽きて海へと落下して嵐の海に飲まれてしまう。

 

 

 

現在の明乃はどうする事も来ない悔しさに歯噛みしながらただ見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

先程のレーザー発射装置の姿は既に無いものの、辺りは絶望が支配している。

 

 

 

その時……

 

 

遠くに、小さな光が現れたのを乗客が見つけた。

 

 

 

彼等の視線の先には……

 

 

 

 

「あれってもしかして……ブルーマーメイド!?」

 

 

 

 

小さな光は徐々に大きくなり、それが救助艇なのだと解った乗客達に安堵の色が浮かんだ。

 

 

 

しかし、フェリーの転覆は最早時間の問題なのだ。

 

 

 

それを理解している隊員達は、直ぐ様準備に取り掛かり、救助艇から救命ボートを幾つも発進させて救助を開始する。

 

 

 

 

「こちらはブルーマーメイドです!もう大丈夫ですよ!さぁ、早く飛び乗ってください!慌てないで一人ずつお願いします!」

 

 

 

「子供や女性、お年寄りに手を貸してあげて下さい!」

 

 

 

 

「ブルーマーメイド!?なんだか知らないが……とにかく頼む!」

 

 

 

 

(え?皆がブルーマーメイドの事を知らない?いや、気のせいなのかな……)

 

 

 

 

周りの乗客達の反応に疑問は浮かぶものの、¨ある人物¨を発見した事でその疑問は頭の片隅に追いやられてしまう。

 

 

救助活動を続ける隊員の中に、明乃の親友であるもえかの面影がある人物を発見したからだ。

 

孤児となった明乃を引き取り、娘のもえか同様に愛情を注いでくれた人物。

 

 

 

 

 

(あ、あれは……モカちゃんのお母さん!?)

 

 

 

 

知名萌

 

 

忘れる筈がない。

 

 

 

彼女があの時に幼かった自分自身を冷たい海から引き揚げてくれた張本人であったのだから。

 

 

 

 

萌はフェリーに向かって何かを叫んでおり、彼女の視線の先を見た明乃の顔から血の気が引いて行く。

 

 

 

 

(あっ……)

 

 

解っていた。

 

 

この先の結末がどうなってしまうのか……

 

 

 

 

幼い明乃は両親に海に飛び込むよう促されているが、怯えている彼女は中々飛び込む事を躊躇っている。

 

 

 

 

 

「ほら明乃!大丈夫!大丈夫だから飛び込んで!」

 

 

「明乃、お願い!怖くないから!」

 

 

「や、やだ!怖い!怖いよぅ……」

 

 

 

明乃は両親にしがみついて離れようとせず、その間にもフェリーはどんどん沈んでいく。

 

 

「明乃、お願いだ……飛び込めばお姉さんが助けてくれる。お父さん達もすぐ行くから!」

 

 

 

「やぁ…怖い……」

 

 

いくら言って聞かせても父の服をギュッと掴んだまま離さない彼女に、ボートにいた萌が手を差し出して、彼女に優しく微笑むのだった。

 

 

 

 

「明乃ちゃん大丈夫だよ!ほら、もう届きそうだから。ちょっと濡れるだけだから……ほら!手を伸ばしてごらん!」

 

 

 

 

明乃はチラリと萌に目をやると、瞳を見開く。

 

 

 

 

「あっ……それイルカさん!?」

 

 

 

 

彼女の目に入ったのは、もえかの母が着ていたマリンスーツの胸元に描かれたイルカの刺繍だった。

 

 

 

 

 

「明乃ちゃんイルカ好きなの?」

 

 

「うん!大好き!いい子のにしてたら会いに来てくれるの!」

 

 

「そっかぁ……じゃぁ!勇気を出して飛び込めばまた会えるかもしれないよ!」

 

 

 

 

明乃は悩んでいたが、少しすると父の服を放し、涙で潤んだ顔をもえかの母にむけて頷く。

 

 

 

(気持ちが動いた!飛び込ませるには今しか無いわね!)

 

 

 

萌は身を乗り出し、精一杯手を伸ばす。

 

 

「さあ!勇気を出して!もうすぐ、もうすぐだから!」

 

 

 

 

彼女は目を閉じて一度大きく息をすると、意を決して海に飛び込んだ。

 

 

 

「んぅ……!」

 

 

彼女の想像を超えた冷たい海水が自身を包み込み、必死に手足をバタつかせて足掻いても、容赦なく暴れ狂う波がそれを許さない。

 

 

 

 

(ムグッ!?苦しい……暗い!怖い!お父さん、お母さん助けて!)

 

 

 

 

 

体が痺れて行き、小さな体が底の見えない暗闇に沈み行こうとした時、彼女の手が強い力で掴まれ、そして上へと引っ張られて行く。

 

 

 

「明乃ちゃん!」

 

 

「プハッ!……ゲホッ!ゲホッ!」

 

 

 

 

水面から顔を出した瞬間に見たのは、もえかの母の優しい笑顔だった。

 

 

 

救命ボートに引き上げられた彼女は萌に強く抱き締められる。

 

 

 

「明乃ちゃん偉いね!頑張ったね!うん、大丈夫!もう大丈夫だよ!」

 

 

 

その腕の温もりに一瞬は安堵したものの、その表情は直ぐに曇ってしまう。

 

 

 

「お父さんとお母さんは!?」

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

萌が再びフェリーに視線を向けた時には、既に明乃の両親の姿は見えなかった。

 

 

 

辺りを見渡した彼女は、波に拐われ救命ボートから離れた位置に流されている二人の姿を見つける。

 

 

 

両親は離れないようしっかりと抱き合って必死に浮いており、こちらに向かって何か叫んでいるようだった。

 

 

 

しかし、荒れ狂う波や風の音でうまく聞き取ることが出来ない。

 

 

 

「待っていて下さい!今救助に……あっ!!」

 

 

 

萌の表情が凍って行く。

 

 

大型の船舶が沈む時に発生する渦が二人を突如として飲み込み込んでしまったのだ。

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁ!お父さん!お母さん!」

 

 

「明乃ちゃんダメ!暴れないで!お願い!お願いだから!」

 

 

 

 

「だって!だぁって!きっと私がいい子じゃなかったからお父さんとお母さんが……う、うわぁぁぁぁ!」

 

 

 

「ごめん…ごめんね明乃ちゃん!!私が…私が助けられなかったから…だから責めないで…絶対に自分を責めちゃダメ!」

 

 

 

悲鳴をあげて泣き叫び、ボートから身を乗り出して暴れる彼女の身体を懸命に抱き留めて宥める萌の声は悔しさで震えている。

 

 

ブルーマーメイドとして、自分の娘と同じくらいの少女を孤独の身にしてしまったことは、痛恨の極み以外の何ものでもなかったのだろう。

 

 

 

 

 

彼女が両親と永遠の別れをした時、上空の雲が青白く光り、これまでで最も大きな雷鳴が轟き、それを最後にこれまでの嵐が嘘の様に波が穏やかになって雲の切れ間から日の光が差し込んだ。

 

 

 

 

静けさを取り戻した海にフェリーの姿は何処にもなく、明乃の悲痛な叫びだけが辺り響き渡るのだった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「………っ!」

 

 

 

現在の明乃は飛び出さずにはいられなかった。

 

 

 

幼い明乃が救助された直後、フェリーがぐらついた拍子に明乃の母が足を滑らせ海に転落してしまったのだ。

 

 

 

父はすぐさま飛び込んで荒い海を必死に水を掻き分け、ようやく母の身体を抱き止める。

 

 

 

 

「お父さん、お母さん!待ってて!今行くから!」

 

 

 

明乃は、海に飛び込み両親を追った。

 

 

 

海は荒れ狂っているが、不思議と海水の冷たさも、況して水の中にいるという感覚もない、ただ宙にフワフワと浮いているような感覚を覚える。

 

 

 

 

「間に合った…早く私に捕まって!ほら!ねぇ、聞こえないの!?あっ………!」

 

 

 

 

 

明乃は叫び、両親の腕をつかもうとするが、無情にも明乃の手は両親の身体を通り抜けてしまう。

 

 

 

 

「このっ……!どうしてっ!?どうして掴めないの!?ねぇお父さんお母さん!頑張って!諦めないで!お願い死なないで!私、いい子にするから!絶対にわがまま言わないから!だからお願い死なないで!私の手をとって!」

 

 

 

 

 

どんなに腕を取ろうとしても、どんなに叫んでも、彼女の手は決して両親には届かない。

 

 

 

だが……

 

 

 

「明乃!」

 

 

 

「お父さん!気付いて……」

 

 

 

 

「生きろぉぉ!生きろぉぉ!」

 

 

 

明乃の父は、救命ボートにいる幼い明乃に向かって叫んでいた。

 

 

恐らくは自分の死を悟ったのだろう。

母も同じであった、たとえ海水が肺に入り、息が苦しくても必死に声を振り絞り叫び続けた。

 

 

 

「明乃! ガボッ…ゲホッゲホッ!あ、明乃!生きなさい!絶対に生きてぇぇぇ!」

 

 

 

 

 

「お父さん!お母さん!死なないで!いや……いやぁぁぁぁ!」

 

 

彼女の叫びも空しく、両親の体はそのまま渦に呑まれ、二度と這い上がれぬ冷たい海底へと沈んでいく。

 

 

 

その視線は、最後まで幼い明乃へと向けられていた。

 

 

 

 

「あぁああああぁぁあっ!」

 

 

 

 

彼女は泣き叫んだ。

 

 

当然であろう。

 

 

両親の死を二度も目の当たりにしたのだから。

 

 

 

その直後……

 

 

 

自身の身体が浮かび上がりどんどん空へ上昇していく事に気付いた彼女は、両親が沈んでいった海に手を伸ばし、何度も叫んだ。

 

 

 

 

だが謎の引力の力に逆らう事も出来ず引き上げられた彼女の身体はとうとう雲の中に入り、そして上空にまでとたどり着いてしまう。

 

 

 

 

眼下に見える稲妻を伴った黒い雲と荒れた海、しかしそれとは対照的に上空は蒼く澄みきった空がどこまでも穏やかに広がっていた。

 

だがそこには、美しい空には似つかわしくない¨歪な形の巨大な飛行物体¨が鎮座していたのだ。

 

 

中央部からつながる四つの角に、姿勢や浮力を制御するスラスターがあり、中央部にはびっしりと砲門が備えてある。

何より目立ったのは、機体下部にぶら下がるように取り付けられている超巨大な砲門だった。

 

 

 

 

考えずとも理解していた。

 

 

アレが両親の命を奪った……

 

 

 

 

(超…兵器……!)

 

 

 

 

すると超兵器の機体周辺が青白く輝き、機体を飲み込んで行き……

 

 

 

キュィィィン……ドォォン!

 

 

 

轟音が鳴り響いて、凄まじい閃光に明乃も思わず悲鳴をあげながら目を閉じた。

 

 

 

閃光が収まり、瞳を開いた彼女の眼前には超兵器の姿は無く、それどころか彼女は闇の中に一人で立っていたのだ。

 

 

 

 

不気味な程静かで、なのに辺りから張り付くような不快な視線を感じる。

 

 

 

《憎カロウ…大切ナモノヲ奪ワレル気持チハ、我ガ身ガ引キ裂カレルヨリ耐エ難イ痛ミヲ伴ウ》

 

 

 

 

「お前があの記憶を私に見せたのかっ!」

 

 

 

《……》

 

 

「不思議だった…実際に私が見ていないあの日場面も写し出されていたから…お前も…超兵器なの?」

 

 

 

《然リ……》

 

 

「どうしてあんな記憶を見せたっ!私は両親を失った!それも2度も!目の前で!」

 

 

 

《理解シテイルハズダ…私トオ前ハ似テイル。両親ヲ奪イ理不尽ナ死ヲ強要セントスルコノ世界ソノモノノ消滅ヲ、オ前ハ幼キ頃ヨリ思ッテイタハズダ…》

 

 

「自分達で破壊や虐殺をやっておいて…お父さんやお母さんを殺しておいて何をっ…!」

 

 

《命令ダ…》

 

 

「……?」

 

 

《兵器ハ命令ノ下ニ行動ス…【思念】ソレコソガ兵器ノ行動ヤ結果ヲ生ム…私ノ行動概念ハ、アクマデソノ域ヲ逸脱シテハイナイ……》

 

 

「誰がこの結末を願っていたとでも言うつもり?」

 

 

《然リ…私ハ、ソウシテ生マレタ…【全て破壊せよ!生ける者全てを消し去ってしまえ!】…ト。ソシテカツテノ私ハ、全テヲ消シ去ッタ…》

 

 

「………」

 

 

《ツモリダッタ…》

 

 

 

「だった?」

 

 

《ダガ…私ノセンサーハ、イマダ生命ノ反応ヲ検知シ続ケテイル。生命ガ存在シ続ケル限リ、命令ノ完了ハ受諾サレナイ…》

 

 

「だから私達の世界に来たの?だとしてもなぜ私に接触したの?」

 

 

《私ガシュミレーションシタ結果、生命ヲ消滅サセルニハ、ソノ星ニ現存スル最モ知性ヲ有スル生命体同士デ、争イヲ起コス事ダト結論付ケ、ソコニ私ガ介入スルコトデ生命ノ消滅ヲ効率化シヨウトノ判断ニ至ル。ソシテ本来兵器デアル私ハ、¨使用¨シテモラワネバ真価ヲ発揮スルニハ至ラナイ…故ニ私ハ、アラユル世界ニ種ヲ撒イタノダ…私ヲ使用スルニ足ル者ヲ求メテ……》

 

 

 

「だから…私をっ…!」

 

 

《私ヲ行使セヨ!オ前ニハ適正ガ有ル》

 

 

「私はそんな力なんかいらない!私はただ大切な人をこれ以上失いたくないだけ!」

 

 

ギョロ……

 

 

 

明乃は見た。

 

 

目の前に現れた、巨大な目玉を……

赤く充血し、中央に獣を思わせる鉛色の縦に入った切れ長の瞳孔。

 

 

 

「ひっ!」

 

 

 

明乃は思わず息を飲んだ。

 

 

《オ前ノ心ヲ見タゾ…私ノ物ダ……》

 

 

   + + +

 

 

「行くわよもえか!」

 

 

タカオは播磨に突っ込んだ。

 

 

弾幕を超えたタカオは、播磨の懐へと侵入していた。

これで、播磨からの猛烈な砲撃に曝される事はない。

 

タカオは侵食弾頭兵器を多数発射した。

ほぼゼロ距離からの攻撃に播磨の防御装置の展開が間に合わず、幾つかの弾頭が副砲に着弾した。

 

副砲は抉られ、直後に爆発する。

無傷だった播磨に、初めてまともに攻撃が通じた瞬間だった。故にタカオは一瞬油断した。

 

「よし!攻撃が通ったわ!このまま…」

 

「タカオ!全速回避!」

 

「え?…うわっマズ…!」

 

次の瞬間、

 

ガリガリガリガリ!

 

播磨は急にサイドスラスターを使って急旋回し、艦首にあるドリルで突進、タカオはとっさにクラインフィールドで防御するが、

 

 

「ウッグゥゥ!お、押し込まれるぅ!」

 

 

播磨とタカオの押し相撲。だが勝負にすらならなかった。

グイグイと押し込まれるタカオ。

 

「タカオ!力押しじゃ勝てない!ドリルをいなしてわきに逃げて!」

 

 

タカオは小回りが利く身体を利用しドリルをいなして、横へ逃げた。

だがここで播磨は、意外な行動をとる。

スラスター止め、スクリューを逆回転にする。そして前方にある巨大な砲門を全て前に向けて一斉に発射した。

するとその巨体が、真後ろに一気に後退し、再びタカオの真正面に姿を構えると、スラスターを再点火しスクリューを正転させる。

 

その山のような巨体が、あり得ない加速と質量で、再度タカオに突っ込んだ。

 

播磨の体当たりを、正面から受け止める事となったタカオの艦首が一気に浮き上がる。

 

「あぐっ!?」

 

 

「きゃぁぁぁ!」

 

あまりの衝撃にタカオは怯み。もえかはバランスを崩して、吹っ飛んで頭を壁に激突させた。

 

 

「うっ…あっ…」

 

 

「もえか!?…あ…血が…」

 

 

「大丈夫…ちょっと額を切っただけだから…そんなことより回避に専念して!少しでも攻撃して、砲頭群を減らさないと…」

 

もえかの額から血が流れ出ていた。

もえかはハンカチで額の傷口をおさえながら指示を飛ばす。

立ち上がろうとしたが、うまく足に力が入らない。左目にも血が入って開けられなかった。

だが、それでも諦めずに立ち上がり間近の巨大な敵を睨んだ。

 

播磨はその巨体でタカオを撥ね飛ばそうとするが、今回もタカオはフィールドを使用し、敵の力をいなした。

 

 

しかし、播磨は減速しなかった。スラスターの出力を上げ一気に前へ加速する。

あっという間に、タカオは播磨の背中を追う形になる。

 

「わ…マズ…。」

 

タカオは思わず呻いた。

 

播磨の艦尾にある砲塔群とガトリングレールガンの間合いに入ってしまっていた。

 

タカオは攻撃を諦め、残った演算能力を前方に展開したフィールドと、敵との距離を詰めるためのスラスターに集中させる。

 

次の瞬間、フィールドの展開と同時に砲弾が殺到した。

タカオは全力で播磨の懐へと突っ込んでいくが、相手はそれを読んでいた。

 

 

播磨はサイドスラスターを起動させて、まるで独楽の様に回転し、艦首のドリルをタカオに向けて突撃体勢にはいる。

不意を突かれたタカオは、回避への対応が完全に遅れた。

 

 

「まずい…今あんなのに突っ込まれたらフィールドがもたな…。」

 

 

タカオをもえかは、自分の死を覚悟し、同時に播磨がタカオに向かって全速加速を開始した。

 

 

その時だった。

 

 

ズドォォォォン!

 

 

播磨の右後方のスラスターが突如爆発し、炎を上げた。

 

真正面に進んでいた播磨の起動が右に逸れてタカオへの直撃は防がれる。

 

唖然とするタカオに、通信が入ってきた

 

 

『ここは俺達が引き付ける。急いでその場から退避するんだ!』

 

 

「ぐ、群像艦長?」

 

 

『質問は後だ!君のフィールドはもう限界だ!今脱出しないと後は無いぞ!』

 

 

「解ったわ…あの、群像艦長!」

 

 

『どうした?』

 

 

「お役に立てなくてごめんなさい…。」

 

 

『気にするな。良くやってくれた。知名艦長は負傷しているのだろう?手当てを手伝ってやって欲しい。お願いだ…。』

 

 

「解ったわ…。艦長も…気をつけてね…。」

 

 

『ああ、解ったよ。』

 

 

通信を切り、タカオは一気に加速し、敵から遠ざかっていった。

 

播磨は次なる狙いを401に定めた。

まるで獲物を仕留める寸前で邪魔されたことに怒り狂っているようだった。

 

 

   + + +

 

 

 

静が叫ぶ。

 

「敵超兵器の右舷スラスターを破壊しました!敵艦速力低下!」

 

 

「よし!このまま一気に……」

 

 

「うっ…くっ…あ…あぁ!」

 

 

「イオナ?…おい!イオナどうした!」

 

 

「艦長!海面に着水音多数!数30・60・120まだ続きます!」

 

 

「艦長!急に艦内のあらゆるアラームが起動しています!」

 

 

『群像!重力子エンジンの出力が軒並み低下してるんだけど、どうなってんの?』

 

 

 

 

イオナが急に異常をきたし、それと同時に401艦内でも異常を知らせる警告音が鳴り響いた。

 

 

 

一同が狼狽えている間に、播磨の放った多数の噴進爆雷砲が起爆。

 

401付近の海中は爆音と衝撃波で掻き回され、艦内に再び悲鳴が飛び交う。

 

 

 

 

 

「あぐっ!?」

 

「きゃぁぁぁ!」

 

 

フィールドが展開されているならあり得ないような振動と轟音が鳴り響いた。

 

 

それは即ち、

 

 

「クラインフィールドが…展開されていない!?」

 

 

群像の顔から一気に血の気が引く。

 

 

イオナは未だに苦しそうに喘いでいる。

その手は、まるですがるように群像の服の裾をギュッと掴んでいた。

 

 

 

「僧!操舵を副長に預ける。出来るだけ深く潜って爆雷を回避するんだ!」

 

 

 

「りょ、了解。操舵を預かります!」

 

 

「艦長!敵艦からミサイル発射音を観測しました!」

 

 

「杏平!迎撃だ!恐らく今、この艦はただの潜水艦並の能力しかない。一発でも食らえば終わりだ!」

 

 

「は、はいさ~!」

 

 

杏平は早速迎撃体勢にはいり、401の小型のレーザー機銃が作動し、噴進爆雷砲と対潜ミサイルを迎撃する。

 

 

しかし、殺到する対潜兵器を401の迎撃装置だけで完全に処理する事は不可能であった。

 

 

故に401は、爆雷やミサイルが届かない深々度へと潜っていく他はない。

 

 

だが、1歩遅かった……

 

 

 

 

401に激震が走る。

 

 

 

 

「ウグッ!?た、対潜ミサイル艦尾付近で起爆!」

 

 

「浸水発生!排水ポンプ起動!浸水箇所の隔壁を閉鎖します!艦長、これ以上は潜るのは危険です!」

 

 

モニタには浸水箇所が赤く表示されている。

 

 

 

そこに新たな警告表示が現れた。

 

一同は息を飲む。

 

 

 

 

「機関室付近でガス漏れです!」

 

 

 

 

 

僧の声色には明らかに恐れが含まれていた。

 

 

 

 

「いおり!大丈夫か?」

 

 

『生きてるよ…今、防護スーツを装着したから取り敢えずは大丈夫そうだけど……』

 

 

「今杏平を救助に……」

 

 

『駄目!』

 

 

 

「いおり!?」

 

 

 

『今、私がここを離れて機関を放棄すれば全てが終わる!それじゃ皆が死んじゃう!』

 

 

「だが!」

 

 

『お願い!最後まで…皆を守らせて……仲間でいさせて…』

 

 

「いおり…!」

 

いおりの声は震えていた。たった一人で、間近に迫る死の恐怖に必死で抗おうとしているのが伝わってくる。

 

 

 

だが、群像は決断した。

 

 

「解った…頼む。だがこちらとしても、何らかの対応をとらせてもらうぞ。いいな?」

 

 

『解ったよ…それでね群像…ズズッ…これだけは…ガガッ……せて…』

 

 

「どうしたいおり!良く聞き取れない!」

 

 

 

艦内の通信状態が悪くなっていた。

 

 

『イオ…ズズッ…を…がい…ガガッ…仲間をお願…ブヅッ!』

 

 

「いおり!返事しろいおり!」

 

 

 

いおりとの通信が完全に途絶した。

 

 

 

「杏平、防護スーツを着用。救助の準備に入れ。いざとなったら引きずってでもいおりを救出しろ!」

 

 

杏平は直ぐに座席を立ち、ブリッジから姿を消した。

 

 

「イオナ……」

 

 

 

群像はイオナを覗き込む。

 

 

彼女の意識は未だに朦朧としていた。

 

 

 

そこへ……

 

 

『遅れて申し訳ありません!』

 

「ヒュウガか!?」

 

 

『状況は理解しております。艦長からの依頼とイオナ姉さまのコアに一時的に侵入し、システムをスキャンするために、枝を付けてプロテクトを回避するのに少々手間取りました』

 

 

「そうか…それで、今イオナに何が起きてるんだ?」

 

 

『詳しくは不明です。しかし解析の結果、姉さまのコアは極正常に起動しています』

 

 

「ならどうして……」

 

 

『強いて挙げるなら姉さまの感情シュミレーションプログラム何かが干渉し、異常な負荷が掛かっています。それが艦の制御システム全体に影響しているのかと…』

 

 

「どうすればいい?」

 

 

『解決は簡単です。感情シュミレーションの即時停止、それで解決出来ない場合は、感情シュミレーションその物を初期化ないしアンインストールすること……』

 

 

 

それを聞いたイオナの目が見開かれる。

 

 

(感情を…失う?…群像の艦と言う意義を失う……そんなの…!)

 

 

   《いけません》

 

(!?)

 

急にイオナの頭の中で声がする。

 

 

それは壮大で力強く、なのにどこか儚げな声だった。

 

 

 

次の瞬間、イオナの頭の中にイメージが流れ込んでくる。

 

 

 

 

   + + +

 

氷の海……

 

そこに浮かぶ数多の霧の軍艦達

 

 

それらは明確な敵意を持って自分に砲撃をしてきた。

 

 

そしてその中に一際巨大な艦が一隻。

 

誰かの会話が聞こえる。だが攻撃の爆音で肝心なところが聞き取る事が出来ない。

 

 

 

《●●●!》

 

 

 

 

《△△△…私は解釈を変更する。人間は…愚かだ!そんな人間との対話の為に感情を実装するなんて……》

 

 

 

《●●●!お願い…話を聞いて!》

 

 

 

《△△△…貴女を沈めて、私がアドミラリティ・コードの代弁者となる…!》

 

 

 

《一人では…駄目!私達は一緒に居なくちゃいけないの!なのに……》

 

 

直後、赤黒い光が自分をつつみ、そして海へと投げ出された。

 

沈み行く中、視界に一隻の潜水艦が目にはいる。

 

 

 

伊号401

 

 

 

決意した。

 

 

401に全てを託そうと…

 

 

 

最期の力を振り絞り、手を401に向かって翳す。

 

 

 

《お願い……》

 

 

 

そして彼女は暗く冷たい海の底へ静に身体を沈めていった。

 

 

   + + +

 

 

イオナのコアが光を放ちイデアクレストの紋様が浮かび上がった。

 

霧の艦一隻に対して一つの紋様が与えられており、イオナも例外ではない。

 

しかし、イオナのコアに浮かび上がった紋様は、イオナのそれとは異なる逆三角形の複雑な紋様。

 

 

 

 

「火器管制システム再起動!クラインフィールド再展開!」

 

 

 

「何が起きてるんだ……」

 

 

 

 

群像は状況についていけない。

 

そんな中、イオナは語りかけてくる声に尋ねる。

 

 

 

(あなたは…誰?)

 

 

《そんなことより、今は状況の打破に努めなさい…私が補助します》

 

 

(でも……)

 

 

 

《彼を…あなたの艦長を失っても良いのですか?》

 

 

(それは…そんなの…そんなの嫌!私は彼の艦!彼を失ったら…私は…私でなくなってしまう。そんなのは嫌っ!)

 

 

《では、そうなさい。彼の艦としてのあなたの役目を果たして》

 

 

 

(どうして助けてくれるの?)

 

 

 

《遥か航路の果て…約束したのです、霧と人類との共存…和平を…あの人と…》

 

(え?)

 

《翔像さん……》

 

(待って!あなたは……!)

 

 

《急ぎなさい!そして決して失わないで…感情を…彼との絆を…!》

 

 

 

イオナの額が輝き、イオナ自身のイデアクレストが浮かび上がり、そして力強く立ち上がった。

 

 

「イオ…ナ?」

 

「私は群像の艦。あなたを絶対に失わせたりしない!」

 

 

『姉さま?この反応は…いや、そんなはずは…¨あの方¨はこの世界にはいないはず……』

 

 

ヒュウガに構わず、イオナは淡々と言葉を並べた。

 

 

 

 

「艦内の有害ガスの排除と浸水の排水……完了。損傷箇所の修復並びにシステムの再チェック…完了。全システムオールグリーン。いつでも行ける」

 

 

「イオナ……」

 

 

「群像、私に命令して…そしてあなたの進む航路の先に何があるのか、私に見せて」

 

 

「ああ…一緒に行こう!何処までも!」

 

「うん」

 

 

 

 

イオナは群像に笑顔を向け、彼もそれに笑顔で答える。

 

 

『群像!群像!』

 

 

「いおりか?無事なのか?」

 

 

『うん。ガスの濃度が急激に下がったみたい。それよりも機関の出力が通常の5倍位に上昇してんだけど、何があったの?』

 

 

「俺にもわからないことが多いが、この期を逃すわけにはいかない。頼むぞ!」

 

 

 

 

『オッケー!任せといて!』

 

 

 

「杏平聞こえるか?いおりは無事だ!至急ブリッジに戻ってくれ。仕上げにかかるぞ!」

 

 

『了解!』

 

 

「静、播磨はどうしてる?」

 

 

 

「現在、攻撃は止んでいます。恐らくは我々の真上にいるため、直接攻撃が出来ないのではと推測されます」

 

 

「よし!このまま奴の腹の下でやり過ごして、総攻撃の準備をする。」

 

 

ピピッ

 

通信が入った音がして群像は回線をヒュウガからそちらに切り替えた。

 

 

『群像艦長!大丈夫ですか?破砕音が聞こえたのでまさかと……』

 

「シュルツ艦長…いえ、心配有りません。」

 

 

『よかった……それでなんですが、播磨の足を止めて頂く事は可能ですか?』

 

 

「出来なくはありませんが……何か策があるのですか?」

 

 

『はい。これから播磨の防壁を一気に飽和させます。そのためには、この攻撃を万が一でも外す訳にはいきません』

 

 

「解りました。最善を尽くします。因みにどのような攻撃なのですか?」

 

 

『説明している暇はありませんが、海上、海中を問わず凄まじい衝撃波を生みます。ですから401には、播磨の足を奪った時点で、全力で播磨から距離を取ってもらいたいのです』

 

 

「了解。こちらも総攻撃を播磨の足止めに費やします」

 

 

『ありがとうございます。それでは御武運を……』

 

 

シュルツとの会話を終えた群像は、イオナを見る。イオナは群像に笑顔で答えた。

群像は頷き、大きく深呼吸をしてそして確かな声で言った。

 

 

「よし、かかるぞ!」




お付き合い頂きありがとうございます。

黒幕登場で精神崩壊必至。

播磨との戦闘は満身創痍。

それでも決着は訪れます。


尚、明乃の懐中時計はラポートのPW90をイメージしています。


それではまたいつか。








とらふり!





群像
「イオナどうした?いつもと様子が…」


イオナ?
「あなたが翔像さんの息子…似てないわね……」

群像
「は?」

イオナ?
「いえ本当に良かったなって…それより、今が好機!行きましょう」

群像
「………」
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