第2章です。
いち早く超兵器を撃退出来るよう善処して参ります。
それではどうぞ。
保身性猜疑心
もし、目の前に誰しもを屈伏させられる兵器が有ったなら……
それを手に取れば状況を打開出来る兵器が有ったなら……
きっと人間は藁をも掴む思いでそれにすがるに違いない
それを手にする事で、いかに多くの血が流れるとも知らずに……
それ程までに過ぎ足る力は、人に取り憑き魅了する
だが人間は面白い
なんでも叶えてしまえる程の力であっても、それを手にする事を何より嫌悪する者達がいる
その者達はきっと、その兵器が悪魔の誘惑であると気付いているのだろう
過ぎた力が自らの身体を焼き尽くすと解っているのだろう
だが人類の大半は力の魅力に抗う事も、その術も知らない
過ぎ足る力の恐ろしさに気付いた者達の本当の敵は、強大な力を持った悪魔ではなく、それに取り憑かれた同族である人間なのだから………
+ + +
「ヴェルナー……別れよう!」
「……え?」
ヴェルナーはその言葉に唖然とする。
シュルツはその様子に少し呆れた表情を見せるも再び真剣な表情でヴェルナーに続けた。
「やはり少し酔っているようだな……別れるとはつまり、艦隊を二つに分けて、東と西へ向かうと言う事だ」
「あっ、いや。そう言う事だったんですね……」
「他にどう解釈するんだ?……まぁいい。補給を受けたばかりの我が艦隊が一度硫黄島に戻り、再補給を受けたのはその為だ。明日には沖ノ鳥島付近まで南下するだろうから、そこで艦隊を二つに分ける」
「し、しかし艦隊の編成は以下になさるおつもりですか?」
「正式な発表は明日だが、お前には伝えて置こう」
シュルツは、艦隊の編成はを伝えた。
東方面に進む艦隊
ウィルキア
双胴戦艦出雲
航空戦艦ペガサス
ドリル戦艦シュペーア(修理中)
ドッグ艦スキズブラズニル
艦長 シュルツ
副長 ブラウン博士
蒼き鋼
潜水艦イ401
大戦艦ハルナ
艦長 千早群像
副長 織部僧
ブルーマーメイド
はれかぜ
艦長 岬明乃
副長 宗谷真白
西方面に進む艦隊
ウィルキア
空母メアリースチュワート
御召し艦フンディン
艦長 ヴェルナー
副長 筑波
蒼き鋼
重巡タカオ
大戦艦キリシマ
艦長 知名もえか
ブルーマーメイド
沿岸警備船弁天
艦長 宗谷真冬
副長 平賀倫子
「以上の割り振りになる。フンディンは改装により、補給艦としても工作艦としても使えるし、弁天には、出力は控えめだが防壁も取り付けたから問題は無い筈だ」
「やはり、超兵器が分散を?」
「ああ、これを見てくれ」
シュルツはタブレット端末をヴェルナーに手渡した。
「これは、世界での超兵器の目撃情報や、艦船が行方不明になった箇所をまとめてありますね。主に欧州や大西洋に集中していますが……」
「見事に黒海とバルト海に分かれている。同時多発的に攻撃を開始されては打つ手がない。それに気になる事もある」
「気になる事?」
「超兵器分散のタイミングだ。艦隊の欧州派遣は当初より確定していた、このデータは我々が播磨を撃破し、本格的に欧州に向かう事を公言したタイミングで発表された。即ち超兵器は¨敢えて姿を晒し¨て我々を欧州に釘付けにしたい理由があると見ている」
「成る程……ヴォルケンクラッツァーですね?」
「うむ。宗谷副長が見たと言う北極海で撮られた写真に写っていた巨大艦は、間違いなくヤツだろう。そして恐らく、今は調整中と思われる」
「では、今こそ北極海のヴォルケンクラッツァーを叩くべきでは?」
「お前の言うことは尤もだ。たがそう上手くはいくまい。先程も言ったな、超兵器は我々が欧州に向かう事を¨公言したタイミング¨で動き出した……と」
「まさか……!」
「内通者の存在を疑わざるを得ないだろう。それも恐らく¨ブルーマーメイド¨の誰か……だな。多分我々が北極海に向かった時点で、¨人質¨である北米たいりくや欧州の人々を虐殺するというメッセージなのだろう」
「まさか岬艦長ですか?彼女は超兵器と何らかの¨絆¨があると……」
「一理あるな。だが可能性の一つに過ぎん。現に私も超兵器との絆の一つとして奴等の声を聞いた事がある」
「え?」
「【もっと破壊したい もっと殺したい 軍人のお前もそうなのだろう?】そう語りかけてくるんだ……だが否定した。そんなのは許容出来る筈もない!」
「………」
「きっと岬艦長も同じな筈だ、それに401もな。だから奴等の誘惑を拒絶出来たんだと思う。そう言う意味に於いては、¨死と破壊を拒絶する確固たる意思¨が超兵器との絆への最終防壁として機能するんだろう。だとすると、超兵器へと内通する者の条件となるのは――」
「超兵器と何らかの形で関わり、且つ惨劇への拒絶意志が薄いブルーマーメイドの誰か……ですか?」
「そうなるな。だがブルーマーメイドと迂闊に事を構える訳にもいかない以上、正面切って調べるわけにもいかん。よってこの件は蒼き鋼と共同で調査し、暫くは宗谷室長には報告は上げない。疑いが晴れた時点で協力に回ってもらう事になるだろう」
「その件は了解しました。しかし、そうなってくると欧州に出没する超兵器は必然的に高出力艦である可能性が高まりますね」
「そうだな……若しくは、航空戦力がない現世界に於いてであるなら、航空機型超兵器か、空母能力を有する超兵器の存在も無視できん。そして恐らく¨アノ3隻¨の内のどれかは必ずいる」
「超兵器ムスペルヘイム テュランヌス そして…リヴァイアサン」
「超兵器級の中でも特に異質な連中だ。【破壊を義務とする存在】である超巨大航空戦艦ムスペルヘイム テュランヌスそして、【破壊そのもの】である化け物…超巨大航空戦艦リヴァイアサン…対地・対空・対艦・対潜と全てに壊滅的な攻撃が可能な艦であり、速力防御も高く航空戦力もある。正に超兵器を束ねる超兵器として、この世に災禍をもたらす忌むべき存在だ。もし対峙することになれば必ず沈めなければならん」
「茨の道になりそうですね……」
「元より覚悟の上だ。お前達は、インド洋を抜けスエズを目指せ。地中海に出れば、内通者に動きが有るだろう」
「超兵器の配置が変更されると?」
「恐らくな……まとめて東に艦隊を進めた場合、分断に効果的な超兵器の配置は、バルト海と黒海に超兵器を配置することだ。だが艦隊を2手に分けた場合、スエズを通るお前を確実に潰し、我々との合流を防ぐ為に、地中海と大西洋を繋ぐジブラルタル海峡付近にも超兵器が配置される可能性が高い」
「厄介ですね……黒海に向かう我々を挟撃、ジブラルタルに向かえば、黒海の超兵器が近隣を蹂躙……更に私の艦隊の撃沈に成功すれば、北海からバルト海に向かう艦長達を挟撃……実に合理的です。逆に全員で東に向かった方が良いのでは?」
「それではスエズからの超兵器によるアジアへの侵攻を止めることは出来ん。イタチごっこになってしまう。極めて危険度の高い賭けだが無策ではない。それも蒼き鋼と極秘に話を進める事になるだろう。決して作戦を気取られぬよう注意してくれ。」
「了解しました。しかし艦長。弁天の武装は――」
「心配するな。既に準備済みだ。博士と刑部蒔絵、そしてヒュウガが新型の防壁を開発し取り付けも完了している。電磁防壁と防御重力場を合わせた、超重力電磁防壁と、局所的にクラインフィールド発生させる簡易装置も取り付けた」
「準備は万端……と言うわけですね」
「そう言う事だ」
シュルツは、再び海を眺めた。
「ふぅ…明日からまた忙しくなるな……」
+ + +
その頃、陸ではもう一つの戦いが幕を開こうとしていた。
「ふぅ……いよいよか」
大湊は目の前を見つめ、翻訳ヘッドホンとマイクを装着すると同時に部屋が暗くなり、直後に複数の画面が空中に表れる。
最後に現れたモニターに映る。黒人で白髪頭の老人が話を切り出した。
『それでは始めますかな。その前にこの映像は各国首脳も拝見している。これは世界にとって重要な会議であることを各国とも自覚した上で嘘偽り無く発言して貰いたい。宜しいですな?』
『『異議無し』』
白髪頭の老人、即ち国連事務総長のロバート・クレメンスの釘を刺す発言に各国首脳も肯定の返事を返す。
クレメンスは、それを確認すると、早速議題に入った。
『さて、皆さんがご存知の通り、世界は今重大な脅威に曝されている。謎の大型兵器群……即ち【超兵器】によって世界中の多くの人命や財産が失われた。これは、平和に対する重大な挑戦である。我々は超兵器を最も強い言葉で非難し、これを排するものである。異議はないか?』
『『異議無し』』
『うむ……まずは超兵器への非難に関する議案を全会一致で可決する。次に超兵器に対抗する手段についてだが――』
『事務総長』
挙手をして発言を求めたのはロシアの大統領ヨシフ・アリャドフだ。
『この度の襲撃、は正に虐殺に等しい行為である事は言うまでもなく極めて遺憾だ。しかし、私が更に遺憾と思うのはブルーマーメイドだと思うのだよ。彼女達は、海の安全や海より自国へ害をなさんとする存在から、国土を守るために組織されたのだろう?今回の一件で彼女達がその役割を充分発揮したとは言い難い。やはり、自国の民を守るためには、軍備を増強することが急務であると考えるのだがね』
『私も同感だ』
意外にもロシアの意見に賛同したのはアメリカだった。
その70代位で体格の良い風貌のアメリカの大統領ハワード・フィリップ・トランスは、モニターに映る、60代位の銀髪の女性、国際ブルーマーメイド連合の代表者である、クリスティアーネ・アスペルマイヤーを睨み付ける。
『全く……決まりとはいえ、自国に展開するブルーマーメイドの活動経費の約75%を国費で賄わなければならない決まりがあると言うのにこの体たらくでは損失でしかない……もし私に権限があるなら、君達に一言【クビだ!】と怒鳴り散らしたいくらいだ』
アスペルマイヤーはトランスの言葉にあからさまに苛立った表情を浮かべる。
『確かにブルーマーメイドは、元々海軍力に秀でた国では、そもそも無意味な存在ではありました。だが、彼女たちの存在が軍拡競争を抑制し、戦争の芽を積んできたことは確かでしょう。経済の停滞やテロ組織の横行でで各国の極派が勢い付いていたのは承知している。超兵器の襲撃で更に勢いが増すことは必定だ。超兵器打倒後に、世界対戦が起これば、それこそ文明レベルが100年は後退しかねない。それを抑止するためにはやはりブルーマーメイドには存在してもらわなければ困る』
ブルーマーメイドの存在をある意味否定とも肯定とも取れる発言をしたのは欧州連合代表のアーサー・オズワルドだった。
その言葉に不満があるのか、トランスは屋外にいたなら唾を吐き捨てそうな程あからさまに不機嫌な表情になる。
その表情に親米で知られる大英帝国首相のロナルド・オーデンや最近、保守派の政党に議席を圧迫されつつあるフランスの大統領サミュエル・ジョブワは複雑な表情を浮かべた。
『静粛に!今は、特定の組織を非難する暇はない!超兵器打倒の糸口について話し合わなければならない』
クレメンスが注意を促し、場が静まり返る。
その様子を確認したクレメンスは続けた。
『今回の超兵器の襲撃と時を同じくして現れたという二つの異世界の艦隊についてだが…これは初めに接触した日本の大湊首相に話を聞いた方が早いな。大湊首相、頼めるかね?』
「お答えします」
場の視線が自分へと集まって来て、大湊はふぅと息を吐いた。
「既に各国の皆さま方には国連を通じて資料を伝えてありますので大まかにはご存知かと思いますが。彼らのうち、ウィルキア共和国の軍人の方は、かつて超兵器と対戦した経験もあり、技術も我々より遥かに上です。世界を超兵器の脅威から救うには、彼等の協力は必要不可欠かと…。これから超兵器戦での彼らの戦いを記録した映像をお伝えします。それを見ていただければおのずと解るでしょう」
大湊の秘書は記録映像をパソコンに接続し、各国のモニターに超兵器達との戦いが写し出された。
『ほぅ……これは』
『素晴らしい!』
様々な反応がおこる。
「ご覧の通り、単艦で国家を揺るがしかねない力を持つ超兵器と拮抗する戦力は、現在世界では彼等しかいない。各国の皆様には今正に欧州に向かっている彼等の補給活動を支援していただきたい」
『ちょっと待ってくれ』
トランスが切り出した。
(やはり来たか……)
『この映像を見る限り、彼らの船舶を日本のブルーマーメイドの隊員が乗艦して使用しているようにも見えるが?』
「その通りです。彼女達は最初に彼等と接触した。故に政府と彼等との橋渡し役になってもらったのです」
『そんなことを聞いてるんじゃない。私が言いたいのはね。日本が超兵器と拮抗しうる彼等の戦力を¨保持して使用している¨のかと聞いてるんだ。これは、超兵器以前に脅威な事だと私は思うがね』
『極めて遺憾だ!』
声を荒げて口を挟んできたのは、中国の国家首席 黄栄九だった。
『彼等は、100年前の旧日本軍時代における軍国主義を今なお踏襲し続けており、我が国は日本の過剰な武力の保持と、我が国を含めた周辺各国に対する、下劣且つ挑発的な暴挙に断固反対する!』
『その通りだ、日本は現在保持している戦力を即時国連に譲渡、管理を委任するか、各国にその戦力を等分配することを強く要求する。また同じく、異世界艦隊の処遇に於いてもその兵器データを国連に提出し、然るべき協議の後に各個管理され供与されるべきである』
『日本と異世界艦隊の間に何か癒着があるのでは?超兵器打倒後も日本が異世界艦隊の兵器データを保持していた場合、これは世界にとって重大な脅威足り得る。フランスは日本に全ての防衛データの開示を要求する』
アリャドフやジョブワも、日本の戦力の破棄と異世界艦隊の兵器技術の供与を求めてきた。
誰が見ても大湊は追い込まれている。
こうなることは、エドワードが大湊を訪れたときに既に解っていた。
故に¨準備¨は抜かりはない。
『貴国らの言うことは至極もっともだが、一つ忘れていないか?彼等の艦に乗っているのは確かに日本人ではある。しかし彼女達はブルーマーメイドだ。日本が自衛の為に組織している自衛隊ではないのだよ。多種多様な海洋事情に即座に対応するために、加盟国に支部を作り政府と連携こそあるが、飽くまでブルーマーメイドに属している艦船の所属は国家ではない。即ち、¨国籍の無い艦船¨なのだから、彼女達がこの世界のどの国にも属していない艦船に乗ることは、ある意味妥当であると言える』
ドイツの首相ミハエル・ラングラーは、ブルーマーメイドの異世界艦隊への参加を認める発言をした。
至極もっとな意見に首脳陣も怯む。
大湊はこの会議に望む前、ドイツと協議を行い対策を練っていた。
現在、ドイツと日本は非常に親密な関係を築き上げている。
しかし、最初から親密であったわけではないのだ。
日露戦争終決後各国の圧制により、軍備の更なる拡張に難航した日本は、ブルーマーメイドにドイツより先に加盟することで列強各国の圧制を緩和することに成功。
そしてその後勃発した第一次世界大戦ではドイツと日本は敵同士となった。
長期化した戦争の終決は意外にもドイツのキールで発生した水兵の反乱であり、呆気なく大戦は終わった。
しかしドイツは、密かにポーランド侵攻を企てており、思想の近いイタリアと工業技術力の高い日本にも、占領した資源の一部を譲渡することを条件に同盟を結ぶよう打診する。
緩和されているとはいえ、未だ列強の風当たりの強い日本にとっては、資源の確保は急務であり、ドイツからの申し出は正に天からの恵みであったことは確かだろう。
国会に於いても、陸軍出身の首相がしきりに列強各国に撃ってでようと等と言う狂弁がまかり通るくらいだ。
しかし、それに立ちはだかったのは、日本ブルーマーメイドの母たる宗谷セツである。
彼女は、夫であり海軍に影響力を持つ宗谷厳冬に働きかけ、ドイツに同調する一部の海軍上層部の動きを押さえた。
海軍の同意なしに敵地に乗り込む事が出来ない陸軍は、足踏みを余儀無くされる事になる。
日本との同盟に失敗し、勝算が見込めなくなったことにより、イタリアもドイツとの同盟に難色を示した。
これによりドイツのポーランド侵攻計画は頓挫し、さらに国連がその下部組織であるブルーマーメイドの本部をキールに置きブルーマーメイドに半ば強制的に加盟させることで動きを封じ込め、第二次世界大戦の勃発は阻止されたのである。
尚、国連がブルーマーメイドを使ってその後各国の軍拡競争の抑制や過剰な戦力の没収、国の軍事に介入を開始したことにより、航空技術に力を入れていた各国は、技術の流出を恐れ、航空機や空母の図面を破棄。結果として航空技術の停滞を招いた事はまた別の話だ。
話を元に戻そう――
国連やブルーマーメイドの監視が強化されたことにより、日本と同様に他者の圧制に苛まれる結果となったドイツに対し、日本同様に工業技術が発達している彼の国に対して、 政府は工業技術の交流を申し出た。
国連の監査を受けつつ、建設機械や工作機械等々の技術を交換した両国は、軍事技術に投入される筈だった予算を工業製品に投入。
結果として軍事力に頼らざるを得なかった、列強よりも先んじて経済を発展させるに至ったのである。
それ以来両国は、互いに親密な関係を築き、今日に至るわけであった。
しかし、今のドイツの立場で出来る援護射撃はこれが限界だった。
勿論大湊も完全にドイツに頼りきっているわけではない。
飽くまでラングラーの発言は各国の非難ラッシュを一度止めるための布石でしかないのだ。
本当に日本を救うべく大湊が連絡を取っていた人物、それは――
『各個の皆さんは誤解されているようですね』
話を切り出したのは、今まで一言も言葉を発していなかった国際ブルーマーメイド連合の代表、クリスティアーネ・アスペルマイヤーだった。
『日本はブルーマーメイドの規定に従い、異世界艦隊の兵力を¨提供¨する為に、ウィルキアや蒼き艦隊を欧州にあるブルーマーメイド本部に¨案内¨する任をワザワザ引き受けてくれたのです。勿論、日本支部のブルーマーメイドにその任を託したと¨事前に¨国連とブルーマーメイド本部に連絡を貰っている。その上で、その途中に超兵器と接敵した場合は、それを撃破する許可も既に取ってある。よって今回の件で各個首脳の皆さんが日本に抱く懸念には当たらないと断言しておきましょう。そうですね?事務総長』
『勿論だ。異世界艦隊との友好的関係の構築とその迅速な国連への連絡や行動は、一刻を争うこの状況に際しては賞賛に値すると言わざるを得ない。それで……だ。先の映像から超兵器を世界を壊滅しうる脅威として世界各国で協力して対応に当たると共に、超兵器に対抗しうる異世界艦隊を、海洋事情に長けている国際ブルーマーメイド連合預かりとし行動することを皆さんに提案したい。どうだろうか?』
先のアスペルマイヤーの言とクレメンスの提案に各国は悔しさや苛立ちを滲ませる表情を浮かべる。
しかし、至極真っ当な提案だけに、迂闊に否定すれば超兵器打倒後の自国の立場が低くなる可能性も十分有る為、提案は全会一致で承認される事となった。
正直なところ、国連や国際ブルマー連合と日本は親密な関係を築いているわけではない。
しかし大湊は、近年経済の停滞やアフリカ大陸で横行しているテロ組織との対応で、各国のタカ派や保守的な政党が支持を伸ばし、国連決議の遵守がいまいち励行されない事態が続き、国連やその下部組織である国際ブルマー連合の存在意義が薄れてきている事態に気付いていた。
そこで今回の超兵器の出現である。
この件でリーダーシップや結果を捻出する事が出来れば、組織の体制は盤石となるのは必定だったからだ。
故に互いの利害の一致を感じ取った大湊は、異世界艦隊との接触後すぐに、国連に対してブルーマーメイド主導での超兵器打倒と、日本がその戦力を保持しない確約を既に済ませていたのである。
更に大湊は続ける。
「因みに彼等は、この世界に新たな軍拡競争を起こさない為、彼等の所持している兵器の詳細を、如何なる国家にも提供はしないと断言している。しかしながら、超兵器打倒にはブルーマーメイドだけでなく各国の協力が必要不可欠であるという認識を示していた。故に、彼等の所持している航空迎撃システム及び、光学兵器をある程度無効化できる防壁を、連合を通じて各国に提供すると、我が国との会談で明言している。この案件が会議で承認されれば、直ぐに異世界艦隊から国連や国際ブルーマーメイド連合に情報が提供されるだろう」
『異世界の最新鋭迎撃システムが手に入るとは願ってもない。民間人の生命を守る上では拒否する理由がない。皆さん如何かな?』
各国首脳陣は渋い顔を覗かせた。本来求めている強力な兵器の情報を得ることが出来なかった事が納得出来ないようだ。
しかし、航空機の迎撃の技術の無い現世界に於いては、ウィルキアの迎撃システムは必要不可欠である事は間違いない。
故に首脳陣の答えは――
『『異議なし……』』
その答えに納得したように、クレメンスが会議を締めくくった。
『了承して頂けて何よりだ。超兵器の影響で世界には予断を許さない状況である事から、防衛に関する情報は速やかに提供するよう異世界艦隊には要請を行う。此にて会議を終了する。世界に健やかな明日が訪れん事を……』
クレメンスの言葉に目の前のモニターに写し出された各国首脳陣の顔が次々と消えて行き、大湊は深い溜め息をついた。
彼の表情には未だ曇が見て取れる。
その理由は直ぐに訪れたのだった。
プルルルルル!
電話の呼び鈴が鳴る。
(来たか……)
大湊は受話器をとった。
『やぁ大湊君!先程は各国に対する見事な対応を見せてもらったよ。本当に御苦労様だった』
「恐縮ですトランス大統領」
電話の相手は、アメリカのトランスからであり、厚顔不遜の態度を微塵も隠そうとしない彼の声に、大湊は疲労感を覚えた。
『国連の規定したルールに従う、その従順さには賞賛を送ろう。……しかし、私は君に失望したよ』
「………」
『アメリカと日本は、重要なパートナーだ。言わば¨TOMODACHI¨な訳だ。それなのに、私に一言も相談も無く、国連や国際ブルーマーメイド連合に相談とは頂けないな。いいかね?これはアメリカにとって最高のビジネスチャンスなのだよ。異世界艦隊の技術の全てが我が国の物となれば、名実共にアメリカが世界で実権を握ることが出来る。恐れをなした世界中の国々が、我が国の商品を高値で買ってくれる訳だ。だって誰しも自分の生活を焼き尽くされたくはないからね』
「ブルーマーメイド連合がそれを容認するとは思いませんが?」
『はぁ……君ね、わざわざ我が国の手を煩わせる気かね?ブルーマーメイドに気取られずに、異世界艦隊の情報をこちらに提供するのは君達日本の役割なのだよ。なにせTOMODACHIなんだからね。……まぁいい。いずれにせよ我が国をうろつく人魚共を駆逐しないことには話にならないしね。よし解った!異世界艦隊にハワイに寄って貰い、我が国の艦隊に中を¨見学¨させてやってはくれないかね?航路上の何も問題から気取られる心配もない。近日中に本国から艦隊を派遣するから、君はハワイに駐留する人魚どもを何とかしてくれたまえ』
「しかし……」
『しかし……ではない!いいかね?君達の国は大半を我が国からの輸入に頼っているんだ。君達の国に輸出する製品を値上げし、我が国に輸入する君達の製品に高い関税をかけてもいいのだよ?勿論各国に呼び掛けて君達日本に経済的圧力をかけることも可能だ。どうかね?大湊君』
「……善処致します」
『そう!そうだよ!それでいいんだ。今後とも【日本は我が国の従順なる消費者】として共に歩めることを期待しているよ。何せTOMODACHIだからね。HA HA HA!』
トランスの耳をつんざくような下品な笑い声に耐えかねた大湊は、受話器を置いた。
(クソ!【柿も青いうちはカラスもつつき申さず候】……か。美味しく熟したから寄ってきたと言う訳だ)
大湊は心の中で舌打ちをした。
苛立ちが顔に出ていたのだろう。秘書が気まずそうに声をかけてきた。
「総理、この後の予定ですが……」
「ああ、解っている」
ここの所、大湊はろくに眠る暇もなかった。
対策本部にて襲撃を受けた横須賀で活動を続ける公的な機関への指示。
そして今回の襲撃の直後から、政府の対応を質すという大義名分の下に、内閣不信任案の提出を視野に攻勢を強めつつある野党に対する対応。
そして、先程のアメリカからの圧力。
問題は山積していた。
中でも大湊がアメリカの問題に次いで懸念している問題は、与党内のタカ派の抑え込みである。
現防衛大臣の早稲田朋子は、以前より自身の講演会で――
《国民の一人ひとりが自分の国は自分で守る。そして自分の国を守るためには、血を流す覚悟をしなければならない!》
《靖国神社というのは不戦の誓いをするところではなくて、¨祖国に何かあれば後に続きます¨と誓う聖域でなければならない!》
《真のエリートの条件は、いざというときに祖国のために命をささげる覚悟がある事。そういう真のエリートを育てる教育をしなければならない事は急務であり、靖国に行って人殺しの戦争に参加することを誓い、さらに国のために命を捧げる。これこそが真のエリートの条件である!》
《教育過程若しくは22歳未満の全ての国民を対象に、約一年から二年の自衛隊への仮入隊を義務付けるべき!》
などの過激な愛国発言で知られる軍国主義の人物だ。
勿論、普通なら相手にもされない人物ではあるのだが、彼女には強力な後ろ楯が存在する。
かつての総裁選で前首相であった國枝と争い、現在は与党の幹事長のポストに座っている、安芸晋一郎である。
安芸は、國枝の経済と雇用に対する問題の対応に真っ向から対立しており、諸外国に対する強気の対応と、ブルーマーメイドへ支払う事になる予算の削減を公約に掲げている。
狙いは勿論、大湊を失脚させて早稲田を次期総理大臣に担ぎ上げ、自身も重要閣僚に就き政権を掌握する狙いがあることは明らかだった。
場合によっては、離党と野党のタカ派を集めた新党の結成も視野にいれていると思われる。
この¨大湊降ろし¨が吹き荒れる中で、野党からの内閣不信任案が提出されれば、重鎮と言われる安芸の一声で一気に大湊は窮地にたたされるだろう。
議会の解散による総選挙
または、大湊の辞任による総裁選
いずれにせよ、横須賀の復興や経済の不満が高まる中での国政の空白は、諸外国へ隙を見せる行為であることは明らかだ。
そして仮に、安芸や早稲田が率いるタカ派が政権を掌握したとして、なんの準備も無いまま世界に撃って出ても返り討ちに遭うのが関の山だった。
大湊は内心、国内外での公人の対応にあきれ果ている。
トランスにしても安芸にしても、行っているのは自身の権力や利益上昇と自己保身であるからだ。
だがそれは、飽くまでも¨明日が訪れれば¨という前提があるからだろう。
しかし、異世界艦隊からもたらされた情報や超兵器戦での映像を見た大湊は、¨明日¨という単語を恐らく世界で最も疑問視している人物であるに違いない。
(全く……平和ボケもいいところだ)
大湊は心の中で悪態をつくと、まず対策本部へと向かう。
その後はいよいよ正念場である、与野党の代表が集まる委員会に出席する事が決まっていた。
既に野党は、大湊降ろしの兆候を察知しており、内閣不信任案の提出をちらつかせながら、自らの政党の要求を突きつけ、それを呑ませた上で内閣不信任案を提出、そこで事実上大湊降ろしの流れも完成である。
その中で大湊が考えうる最も最良な結果とは、【野党の要求を呑まず、且つ内閣不信任案の提出を阻止】する事であった。
「はぁ……」
針の穴を通す様な状況に、大湊は溜め息をつき席を立った。
+ + +
対策本部にて、公的機関への指示を行った大湊は、与野党の党首達が集まる委員会に出席していた。
心なしか、周囲の人間達がほくそ笑んでいるようにも見える。
大湊と首相の右腕である官房長官の石井利晴を除いた全員が、彼の退陣を願う者ばかりであり、この場に大湊を支持する者は一人も存在しなかった。
実際はこのような状況になった時点で¨詰み¨であろうが、大湊には事態を打開する切り札が存在した。
負けるわけにはいかない。
何故ならここで野党や幹事長の安芸の顔を潰せば、与党に勢いが付くばかりか、安芸派の議員と、まだ支持を決めかねている与党議員の支持を纏めて得られるからである。
「それでは委員会を始めましょう」
石井が切り出すや否や、早速野党が牙を剥いた。
「総理!今回の超兵器襲撃の政府の対応の甘さについて明確に回答を伺いたい!」
「そうだ!異世界艦隊の力が無ければ。この国は焦土化していたかもしれないんだ!これは今まで自国の防衛費をブルーマーメイドに割いてきた政府の怠慢意外に他ならない!最早総理には、亡くなった方への責任取る覚悟すら無い!総理は議会を解散し、自ら国民に自分の愚行に対する信を問うべきだ!」
「もし拒否されるなら、我々が国民の民意を代表して現政権に対し、不信任決議案の提出を断行せざるを得ない!」
野党は次々と罵声や野次を飛ばして大湊を追い詰める。
そして、今度は本来味方であるはずの閣僚からの攻撃が開始された。
「残念ながら敵の戦力に対し、ブルーマーメイドは無力であったことは認めましょう。しかし、それは我が国の責任ではなく飽くまでも我々にろくな防衛力を与えようとしない列強各国や国連、そして国際ブルーマーメイド連合の責任です!本来、我が国の技術力は列強と比較しても遜色なはないと私は明言出来ます。故に、総理の様にブルーマーメイドに予算を割かず、自国に強力な軍が存在すれば超兵器だけではなく、列強各国からの圧制から脱却出来ると言えるでしょう!」
「それは総理の退陣と言うことに聞こえるがよろしいか?」
「そうは言っていません!話をすり替えないでください!私はやり方を代えれば、日本はまだまだ成長の余地があると言ってるんですよ!」
早稲田は野党の批判を否定しつつも、大湊の政策を否定する。
大湊は、この期に及んで現状を把握していないこの議会そのものに失望を覚えた。
ただでさえ時間がないのに、これ以上無駄な話を聞きたくはない。
故に大湊は、仕掛けた。
「ふぅ……まず皆さんにこれを見ていただこうか」
大湊は、秘書に資料を配らせた。
一同はその内容を見てどよめく。
「ば、馬鹿なっ!たった一隻で世界各国の数千の軍艦を一瞬で……」
「で、出鱈目だ!こんなの嘘に決まってる!」
「嘘だと思うなら、後でウィルキアから提供された映像をお渡ししよう。調べてもらっても構わない」
辺りは静まり返る。
「皆さんにお伝えしたい。横須賀を壊滅させた超兵器や、小笠原諸島に現れた超兵器はこれの足元にも及ばない。通常の超兵器が単艦で国一つを相手に出来る力が有るとして、この超兵器は単艦で世界を相手に出来る力を持っている。政権や軍事力は最早なんのアドバンテージにもならない。その時、失われるであろう国民の生命の責任を一体誰が取るおつもなのでしょうか?政権交代した野党の党首のどなたかですか?それとも私の変わりに首相になる与党の誰かですか?ならむしろとって頂きましょう。もし本当に明日が訪れればの話ですが――」
「………」
一同はなにも言い返す事が出来なかった。所詮は、自分の権力を振るいたいだけの烏合の衆であり、いざ現実を目の当たりにすると自己保身しか出来ない集団。
正にこれが国家の中枢の現状であった。
「いいですか?現状を打破しうる力を有しているのは、異世界艦隊とその管理権限を有するブルーマーメイドなんですよ。我々日本の役割は、最初に異世界艦隊と接触した国として、彼等と各国との橋渡し役をリーダーシップをもってきちんとこなす。これこそが国内外で支持を伸ばし、生き残る唯一の手段です。皆さんには、ブルーマーメイドへの支援に際し、予算の計上の審議においては建設的な対応を日本の最高責任者としてお願い申し上げる次第であります。そして誠に遺憾ながら、皆さんには拒否権は無い。理由は異世界艦隊の外交官よりもたらされた資料だ。彼等は既に、その驚異的なハッキング能力で、我が国を含めた全世界の防衛情報とスキャンダルを掌握しており、超兵器打倒に協力していただけない場合はその公開も辞さない考えだ」
「そんな…それは脅迫では――」
「は、ハッタリだ!」
「嘘ではないし、たとえ脅迫でも、もし公開されれば与野党を問わず国民の信頼を失い議会は死ぬ。嘘ではない証拠に異世界艦隊の外交官から私の手元に、全ての防衛情報とスキャンダルがまとめられた資料が届けられた。ここは彼等に従うしかない。だが、我が国の情報を他国やブルーマーメイド連合に譲渡しない代わりに、支援や超兵器の情報提供をすることは確約させた」
「し、信用できない!」
「なら、私の呼び掛けで各国に彼等に対する食料の補給を絶つように要請するまでだ。何せ彼等には帰るべき国がない。永遠に海の上にいるわけにはいかない以上、必ず食料だけは必用になる」
「な、成る程……」
「お分かり頂けたかな?では次回開かれる予算委員会では、与野党を問わず、採決に協力していただくようお願い申し上げる。私からは以上」
「他に質問や異議は?無いようならここで委員会を終了します」
石井が会議を締め、早稲田や野党党首陣は面白くなさそうに退出していく。
大湊の秘書が、心配そうに駆け寄ってきた。
「いかがでしたか?」
「まぁまぁかな。少なくともしばらくは大人しくしてくれると思うよ」
「そうでしたか……よかった……」
秘書は安堵の表情を見せたのに対し、大湊の表情は優れない。
国内の反対勢力を押さえても、アメリカをはじめとした列強の動きはそう簡単に止められるとは思えなかったからだ。
「【その思念の数はいかに多きかな。我これを数えんとすれどもその数は沙よりも多し】か……」
「何です?」
「いや、何でもない」
大湊は席をたち、窓の外を見つめた。
(結局、超兵器にしろ各国への対応にしろ、彼女らに運命を委ねるしかないのか……。あの【呪われた子】にも――いや、彼女に呪いをかけたのは我々なのかもしれん……)
外は、大湊の不安を表すような、曇天が広がっていた。
お付き合い頂きありがとうございます。
まるで全く別の作品になってしまったかのように、はいふりのメンバーが出てこない状況になってしまいましたが、次回は登場していきます。
それではまたいつか。
とらふり!
ヴェルナー
「何で先輩の艦隊ばかりまともな人の割合が多いんですか!こっちは変態ばっかりですよ!」
もえか
「その変態に私もはいっていると言うことですか?」
ヴェルナー
「い、いや知名艦長はまだ……特に黒い艦の艦長とそして…クマですね」
真冬
「畜生!何でこっちには尻の固そうな野郎ばっかりいやがんだ!こうなったら…知名でするか…いや平賀か、タカオも捨てがたい…ヒッヒヒヒ」
キリシマ
「はっはっは!見よ!この洗練された私の肉体を!」
タカオ
「クマじゃない……」
ヴェルナー
「ほらぁ~!」
シュルツ
「良かった…これで平和に過ごせそうだ」