+ + +
スキズブラズニル
ブリーフィングルーム
「どういうことだ!」
シュルツがナギに叫ぶ。
彼女は動揺しながらも説明を続けた。
「解りません。しかし、超兵器探知レーダーにノイズが観測されたことは確かです」
「ハワイとの連絡は?」
「宗谷室長が繰返し呼び掛けていますが、混乱していて要領を得ないそうです」
「まさか今まで気付けなかったとは……」
「超兵器ノイズがかなり微弱だったようですからね……」
「だとすれば、相手は潜水艦クラスか!?だから、今まで太平洋上では目撃されていなかった……機関を停止してノイズを消し、行方をくらましていたんだ」
悔しさを滲ませるシュルツに、ナギが心配そうに覗き込んで来た。
「艦長、我々はどうすれば……」
「こうしていても事態が悪化するだけだ。ナギ少尉、至急出撃の準備だ!ペガサスを出す。千早艦長と岬艦長にも戦闘配備につくよう至急知らせてくれ!それと、蒼き鋼の江田に偵察を頼んで欲しい。セイランなら我々の航空機よりも早く現地にたどり着ける筈だ!」
「はっ!」
シュルツは険しい表情で窓の外を一瞥すると、自艦へと向かった。
(潜水型か……【レムレース】か、【ノーチラス】か……いや、私達が潜水艦だと容易く見破るのは解っていた筈だ。だとすれば、そうと解っていて少数での部隊を率いるとすれば……¨
+ + +
ハワイは辺りが黒い煙で包まれる地獄と化していた。
急降下爆撃を想定していた艦隊は、低空で接近した雷撃機への対応が遅れてしまったのだ。
更に、最初の襲撃で撃沈されたオクラホマをはじめとする艦艇を引き揚げていないため、湾内での魚雷の回避は、極めて高度な技術を要求される事になり、混乱はあっという間に広がっていく。
しかし、ブルーマーメイドの戦闘艦トーマス・ワグナーの艦長カトリーナ・スミスは、いち速く冷静さを取り戻し、自艦や各艦に指示を飛ばしていく。
「総員落ち着きなさい!雷撃機は必ず私達に狙いを定めて真っ直ぐ飛んでくる筈。その時を狙って撃ち込みなさい!戦闘機や急降下爆撃機にも注意を払うのよ!」
激を飛ばしながら周りの様子を見渡すスミスの瞳には、辺りが黒い煙で覆い尽くされる様子が入ってくる。
しかし彼女達も、最初の襲撃の様に一方的にやられているわけではない。
猛烈な銃弾が空に舞い上がり、航空機達を襲い、避けきれなかった航空機が煙を噴きながらクルクル回転し海面に激突して粉々になる。
(よし!やはり我々の武器や戦闘技術が劣っている訳じゃない!……でも)
スミスの懸念は別のところにあった。
それは――
ズドォォォォォン!
艦に激震が走った。
将来ブルーマーメイドになるべく実習を重ねていたサンディエゴ海洋学校の生徒の一部は、不足した人員補給を兼ねて、ハワイに来ている。
勿論戦闘をするためではない。復旧作業や実際の救助作業の一端を手伝う事で、将来海の平和を守る為の経験を積ませる事が目的であった。
しかしながら、学生に実際の作業や遺体の運搬をさせるのは倫理に反する行為にも思う。
だが、彼女達はそうせざるを得なかった。
日本に於いては、異世界艦隊の登場により、超兵器による被害は横須賀のみに留まっていた。
だが他の国々は違う。
港湾施設を悉く蹂躙された各国に残る艦船は襲撃当時、外洋に巡視や実習などにに出ていて難を逃れた船舶のみであった。
国土が日本よりも広い国々が主であり、本土の防衛に軍や本職のブルーマーメイドを当てて終うと、必然的に人手が不足してしまう。
よって日本とは違い、各国では、ブルーマーメイドの卵である学生にもてを借りる必要性があったのだ。
リリー・レビンソンとリタ・ウィトビッキーも、人手不足の為にハワイに遠征してきた学生だった。
金髪のショートアップを後ろで小さくまとめ、茶色い瞳とそばかすが特長のリリーが不安そうに呟く。
「は、始まっちゃったよ。ねぇリタ、アリー大丈夫かな……」
「あんたは自分が死なない事だけ考えてな!これは普通じゃない……私達の生死を賭けた戦争なんだから!」
タンクトップを着たトレッドヘアの黒人で、背が高く少し筋肉質な少女のリタがリリーを叱りつけた。
だがリリーは、別の艦に乗っている友人のアリソン・ベインの安否が気になっているようだった。
彼女達3人は親友同士であり、親元を離れ辛い実習に明け暮れる海洋学校の生活の中で互いに絆を深めていった。
リリーとリタが戦艦メリーランド所属で、アリソンが戦艦アリゾナである。
その他、戦艦カリフォルニアや工作艦ベスタルも応援に駆けつけていた。
本来はもっと多くの艦船が応援に来るはずだったが、本土の防衛を疎かにも出来ない。
前回の襲撃で、沈没や座礁した艦艇をはじめ、破損艦の引き揚げや修理、復旧作業を中心に行う予定であり、戦闘になるなど微塵も考えていなかった彼女達の動揺は計り知れない。
「あなた達!早く銃座について迎撃を始めなさい!」
二人は教官に怒鳴られ、慌てて迎撃の準備をする。
辺りは怒号と悲鳴が鳴り響き、怪我をしている生徒もいた。中には既に死んでいる生徒も……
「ひっ!」
リリーはその情景に青ざめる。
リタは既に銃座につき、目の前を低空で通りすぎる雷撃機に向かって撃ちまくっていた。
ズガガガガガ!
けたたましい銃撃の音が頭に響く。
リリーも訓練通りに銃座につき、狙いを定める。
「う、うわぁぁぁぁ!」
リリーは恐怖を振り払う様に叫びながら銃の引き金を引く。
凄まじい反動が、女性である彼女の体を激しく揺さぶった。
しかし残念ながら航空機の速さにまだ対応しきれず、撃ってもなかなか当たらなかった。
「リリー!よく狙いな!出来るだけ単調な動きの奴に狙いを定めるんだ!」
リタから叱咤され、リリーは涙目になりながらもう一度周りを見渡し、そのなかの一機に狙いを定める。
そして――
ズガガガガガ!
再び引き金を引き、勢いよく弾が飛び出す。
(お願い!当たって!当たって!当たって!)
リリーは心の中で何度も叫んだ。
すると――
ズドォン!
エンジン付近に弾が当たったのか、雷撃機は火を噴きながらバランスを崩し、海面に激突して爆発した。
「や、やった……」
リリーが喜んだのも束の間。
「みんな!伏せなさい!」
教官が叫び、彼女達は訳もわからないまま、反射的にその場に体を伏せた。
次の瞬間、
ズガガガ! キューン! ガン! ガン!
銃撃音と共に、猛烈な早さの銃弾が彼女達のいた付近一帯を襲う。
「あ!……ぎひ!?」
「う…べぅ!」
反応が遅れた何人かが、悲鳴をあげて倒れ、グネグネと不気味にもがくと動かなくなった。
更に――
「ぐぅ……い、だい!痛い!」
「たっ、たす…け……」
銃撃を逃れた筈の何人かも手足や腹を押さえ呻き声をあげていた。
敵の銃弾が周囲の物に跳弾して、彼女達を襲ったのだ。
リリーは頭が真っ白になる。どうしていいか解らず、教官に指示を仰いだ。
「きょ、教官!みんなが……みんなが怪我を!私、どうしたら……教官?」
先程までけたたましく指示を飛ばしていた教官の姿がない。
辺りを良く見渡す彼女の瞳には――
「あ…あぁあ!」
そこに倒れていた¨頭の無い¨遺体の制服は、確かに先程までそこにいた教官のものだった。
指示を出していて伏せるのが遅れた彼女の首は、敵の航空機関砲の直撃を受けて吹き飛び、粉々になってしまっている。
「きゃぁぁぁぁ!」
指揮官を失った生徒達は悲鳴をあげ、持ち場を離れて各々に逃げ惑う。こうなれば最早有効な反撃もままならない。
だがリタだけは必死に機銃を放ち、航空機への迎撃を続けており、恐怖で身体が痺れるリリーはその場にへたり込んでしまう。
「もぅ……嫌だよ!嫌だよぉぉ!」
10代半ばの彼女達にとっては、あまりにも過酷で、そして無情な戦場であった。
+ + +
その頃ハワイの東の海上では、敵の巨大艦が次なる艦載機の発信準備をしていた。
その甲板上に並ぶ機体は、最初に発艦したプロペラ機ては明らかに様子が違う。
機体先端が尖った細く薄いボディーに、機体後部にある二つのジェットエンジン、主翼の下に多数のミサイルを搭載したジェット機であった。
そう、この襲撃は初めから二段構えだったのだ。
雷撃機中心の部隊によって浸水を発生させ、動きを止めた後にミサイルで止めを刺す。
ろくに抵抗も出来ないハワイは、超兵器本体の投入すら無く、人々は根絶やしにされるだろう。
そうなるとは知らないハワイの人々を他所に、艦載機達は次々と発艦を開始し、更なる絶望を与える為にハワイへと飛び立ち、発艦を見送った巨大艦はなんと¨潜行¨していく。
巨大艦は超兵器潜水艦だったのだ。
敵の超兵器潜水艦は、その巨体を海の中に隠すと、ハワイに背を向け東へと去っていった。
+ + +
艦の近くで魚雷が炸裂し、轟音が鳴り響いた。
海が掻き回され、その衝撃波で艦が激しく揺さぶられる。
スミスが指揮するトーマス・ワグナーは、依然として目立った損傷もなく、迎撃を継続している。
学生が乗っている戦艦よりも、少し大きな駆逐艦若しくは軽巡洋艦程の大きさしかないトーマス・ワグナーは、沈没艦で身動きが取りにくい湾内を巧みに操舵し、魚雷や爆撃をかわし続けていたのだが――
「スミス艦長!迎撃に当たっていた何人かがやられました!このままでは――」
副長が、額に汗を光らせながら沈痛な面持ちでスミスに告げる。
「主計部がいるでしょう?修繕に割いている人員の何人かを迎撃にまわしなさい!」
「はっ!速やかに手配致します」
彼女の指示を受けた副長は、直ぐ様艦橋を去って行き、スミスは再び周りの状況を見渡した。
「あの3機……爆撃しようとしているわ。狙いは――アリゾナ!?まずい!只でさえ練度も低く、小回りの利かない艦に……砲術長!アリゾナ直上の3機に銃撃を!少しでも軌道を逸らさなければ!誰か早くアリゾナに急降下爆撃の警告を!」
スミスはすかさず指示を飛ばす、迎撃も開始された。
だが、トーマス・ワグナーとアリゾナとの距離が遠く、彼女達の攻撃は爆撃機への牽制には成りえず、通信や発光信号を送っても、学生中心の艦であるアリゾナの内情は相当混乱しており、こちらを見る余裕などある筈もなかった。
そうこうしているうちに、爆撃機は機体を翻し、アリゾナへと急降下を開始する。
「ま、まずい……あの下には弾薬庫が!アリゾナ!早く回避を!」
スミスは、まるですがる様に叫んだ。
それと同時にアリゾナが漸く回避運動を開始し、爆撃機への銃撃も始まり、爆弾を抱えて急降下体勢を取る敵は、姿勢を立て直す事が出来ず銃撃を受け、1機が炎を吹き上げてアリゾナから逸れた位置の海面に叩きつけられる。
もう1機は完全に急降下する前に爆撃を切り離し、その場から離脱。
切り離された爆弾も、アリゾナには当たらずに海面に着水する。
しかし――
最後の1機だけは、しぶとく銃撃を掻い潜り、急降下を続け――
ガチャン!
爆撃を切り離した。
ギリギリまで降下した爆弾機は、上昇しきれずアリゾナの艦橋の根本に激突して粉々になる。
「アリゾナァァァァ!」
スミスは叫ぶが、無情にも爆弾は、アリゾナの前方にある主砲の少し前の甲板を貫通して弾薬庫まで達し――
+ + +
ズドォォォォン!
凄まじい轟音と共に、アリゾナの船体が一瞬大きく浮かんで波打ち、内部からの爆発により甲板が割け、爆風は嵐のように艦内を荒らし回って衝撃波と熱波が引っ掻き回し、更に酸素の急激な消費によって艦内のあらゆる命を奪っていく。
それに、先程からの雷撃により浸水が発生していた事も重なったアリゾナの船体はゆっくりと傾きつつあった。
「嘘…だろ……?」
「アリィィィ!」
メリーランドの二人は、目の前で起きた惨劇に絶望するも、無情な事に敵は攻撃を止めてはくれない。
湾内には、最早まともに動ける艦は僅かになっていた。
当然であろう。
この世界の船舶は自動化の技術の進歩により、少人数での船の運用が可能だ。
だが――
そのせいで迎撃に割くはずの人員が絶対的に少ないのである。
況してや、これ程の敵の数を相手にするには、役不足も良いところだった。
動けなくなった艦艇を爆撃機に任せた敵は、雷撃機の残りを全て動ける艦艇へと差し向ける。
あらゆる角度から押し寄せる全ての魚雷を、メリーランドは迎撃しきれる筈もなかった。
ズドォォォォン!
攻撃を掻い潜った、魚雷がメリーランドの艦底に穴を開け、瞬く間に艦内に侵入した海水は艦を傾けて更なる迎撃を困難にしていた。
+ + +
スミスは、異世界艦隊の調査も兼ねてハワイに向かっているアメリカ本国の艦隊に連絡を試みていた。
「こちらハワイブルーマーメイド艦隊旗艦トーマス・ワグナー艦長 カトリーナ・スミスだ!応答願う!繰り返す、応答願う!」
『こちらアメリカ艦隊。フロイド・マッケンジー少佐だ。ブルーマーメイド艦隊、状況を報告されたし』
「こちらは現在、敵超兵器から発艦したと思われる航空機により攻撃を受けている。至急救援に来ていただきたい!尚ハワイ周辺には超兵器が潜伏している可能性があり――」
『スミス艦長、我々は現在サンディエゴに¨帰航¨している。そちらの状況は、ハワイ駐留のブルーマーメイド及び、アメリカ艦隊により¨自力¨で対処されたし』
「なっ……!」
意外な返答にスミスは愕然とする。
「帰航ですって!?馬鹿なっ!何を考えているの!?此方にはもう、ろくに敵と戦う戦力は残されていない!人が大勢死んでるのよ!?少しでも人手が必要なの!一刻も早い救援を――」
『誠に遺憾ながら、貴殿の申し出は承服しかねる』
「何故!」
『先程、我が艦隊に対し即時の帰還を通達する¨大統領命令¨が下された。理由は、これ以上の戦力の損失による本国の防衛能力低下への懸念に対する払拭及び、アメリカ艦隊の敗北をロシアをはじめとした各国に知らしめる訳にはいかないとの判断だ』
「こんな時に人命よりも自国のプライドを守ろうと言うの?同じアメリカ人でしょう!?あなたは人の命と命令と、どちらが大切なのよ!」
スミスは彼に食い下がるが、マッケンジーは至って冷徹に言い放った。
『感情的だなスミス艦長。とても正気の沙汰とは思えない発言だ。いいかね?たかだか数万人の人間と数十億人の人間と、どちらを軍や政府が¨優先¨するのか。そんなことも理解出来ないほど、君は狂ってしまったのかね?』
「数の問題だじゃない!これは――」
『やめたまえ!これ以上我がアメリカ艦隊に対する¨過剰な干渉¨は、ブルーマーメイドの我が国に対する敵対行動であると判断せざるを得ない!』
「……くっ!」
『ご理解頂けて幸いだよスミス艦長。¨余力¨があれば、ハワイの我が同胞の¨脱出¨にも手を貸して頂けると有り難い。諸君らの多大なる健闘を切に願う。以上』
「ちょっ…待っ――クソッ!」
スミスは悔しさで顔を歪ませる。
しかし、彼女の絶望はまだ終わらなかった。
「艦長!」
副長が、艦橋へと飛び込んできた。
「アメリカ艦隊が!」
外に視線を向けたスミスは驚愕した。
アメリカ艦隊はなんと、真珠湾から¨離脱¨しようとしていたのだ。
「逃げるつもりなの?私達を囮にして――¨手伝い¨ってそう言う事?どこまで……どこまで私達を馬鹿にすれば気が済むのよ!」
激昂する彼女に副長が気まずそうに告げる。
「か、艦長?どうなさったのですか?本国からの増援は――」
「……い」
「え?」
「無い!本国からの増援は無いのよ!ハワイのアメリカ艦隊も我先に逃げてしまっている。私達は……いえ、私達も含めたハワイの人々全員が見捨てられたのよ!他でもない、自分の母国にっ!」
「そんな……それじゃ!」
「艦長!」
副長の言葉を遮って見張り員が報告を告げる。
「雷撃機が本艦に殺到してきています!」
「回避を!迎撃も急いで!」
「だめです!あらゆる方向から多数接近中!避けきれません!」
「迎撃に割いた人員も先程……」
「敵機、魚雷を投下!数7来ます!」
「総員、対衝撃防御!急いで!」
スミスが叫んだ直後――
ズッドォォォォン!
凄まじい衝撃が次々と襲ってくる。
艦内にいる誰もが体勢を崩して転倒した。
「被害状況は?」
『機関損傷、並びに浸水発生!水位上昇中!』
『艦内各所で火災発生!死傷者多数!』
『自艦の自動運用システムが故障!』
「なんて事……」
スミスは愕然とする。
最初の二つだけでも充分致命的な訳だが、最後の艦の運用システムの破損は更に致命的だった。
このシステムにより、現世界の艦艇に要する人員は極めて少ない人数で運用されているため、システムの破損は、そのまま艦の運用が事実上不可能になったことを示している。
更に――
『浸水が止まりません!艦が傾いていきます!』
立て続けに受けた雷撃での浸水は、小型化されている現代艦にとって正に脅威であることは言うまでもなく、スミスは苦渋の決断を下さざるを得なかった。
「副長……総員に離艦を通達して。このままでは皆艦と運命を共にすることになってしまう」
「は、はっ!」
副長は急いで、艦内の隊員に離艦の指示を出し、隊員達は次々と海へ飛び込む。
その間にもトーマス・ワグナーは艦尾からみるみる沈み続けていった。
「艦長!あとは我々艦橋要員だけです!誠に遺憾ながら……殉職者の遺体は放置しました!」
「解ったわ……では行きましょう」
彼女達は、甲板に出て次々と海へ飛び込む。
「あとはわたしと艦長だけです!」
「……そうね」
「艦長?」
副長は眉をひそめる。
スミスはとても沈痛な面持ちで周りを見つめていた。
煙と炎に包まれた湾内、多くの死体、市街地の方にも煙が立ち上っているのが見える。
そして海には、岸を目指して必死に泳ぐ隊員や学生達の姿が見えた。
それを狙って、戦闘機が機銃を放ち、彼女達の命を刈り取っていく。
彼女は目を閉じ、そして決意した。
「か、艦長!私達も早く脱出を――」
副長が急かす様に、スミスに叫ぶ。
「デイジー・トンプソン副長」
「はっ!なんでしょうか?」
スミスはいつもの厳しい表情ではなく、とても穏やかに笑う――
「後を頼むわね」
ドン!
「え?……うわっ!」
副長を海に突き落とした。
急に海に落とされ、必死にもがいて海面に顔を出した彼女は、上を見上げて叫んだ。
「艦長!スミス艦長!駄目です!早く、早く飛び込んでっ!」
「戦闘機が来るわ!私が少しでも時間を稼ぐから、なんとか岸まで辿り着いて!」
「艦長!お願いです!お願いですから脱出を!」
「これからはあなたが……いや、あなた達が皆を導きなさい!だから必ず生きるの!生き残るのよ!生きて明日を見届けるのよ!」
「艦長!待って、待って!あなたには¨家族¨も居るんですよ!行かないで下さい艦長!艦長ぉぉぉ!」
泣きながら叫ぶ副長の声は、身を翻し甲板へと消えていくスミスに届く事はなかった。
彼女は走る。
艦長帽も上着も脱ぎ捨て、身軽格好になった彼女は、まだ沈んでいない艦首にあった機銃の銃座につく。
(壊れては……いないようね。昔の腕が鈍っていないと良いのだけれど……)
傾いた甲板で彼女は、1機の戦闘機に狙いを定め――
ズガガガガガ!
思いきり撃ちまくった。
戦闘機は雷撃機や爆撃機よりも、身軽で機動性が高く、航空迎撃に馴れていない現世界の住人がぶっつけ本番で撃ち落とすのは至難の技だった。
しかし――
ボン!
敵機の複雑な軌道を正確に予測した彼女の銃撃は、見事に命中して戦闘機を射殺す。
(皆を殺させはしない!1機でも落として血路を開く!)
スミスは次の標的に狙いを定めた。
だが、炎を上げ沈み行く艦の上にいる以上、彼女に残された時間は僅しかない。
+ + +
リリーとリタは走っていた。
つい今しがた、艦に複数の魚雷が命中し、浸水が発生したのである。
更に――
「うわっ!此方にも火の手が!」
「うぅ…これじゃ進めないよ」
火災が発生して火の手が迫っていたのである。
あの場での迎撃を諦めた二人は、脱出を計る為に、救命ボートのある地点に向かおうとしていたが、二人の予想よりも遥かに火の回りが速い。
二人はもと来た順路を引き返す、辺りには酷く損傷した遺体がそこら中に転がっていた。
「もう、嫌だよ……」
「確かにこのままじゃ逃げ切れないな……どうするリリー?このまま海に飛び込んじゃおうか?」
「嘘でしょ?こんな高さから飛び降りたら怪我しちゃうよ……」
「死ぬよりマシだろ?ほら、行くよ!」
「あっちょっと……待っ、引っ張らないで!……あれ?ねぇ……あれって」
「ん?どうしたのさ。そんなことより早く飛び込んで――」
「アリーだよ!」
「なんだって!?」
リリーは海を指差した先には、湾内の海を陸地に向かって泳いでいる隊員や学生達の集団が見えた。
その中に、特徴的な赤毛の女性がいる。
彼女達の親友であるアリソンだ。
彼女はアリゾナの沈没から逃れ、陸地を目指して必死に泳いでいた。
リリーとリタは、親友の姿に安堵し、そしてアリソンに手を降って叫んだ。
「アリー生きてたんだ!アリー!こっちよ!」
「おーい!アリー!」
すると彼女が一瞬こちらを向いた。二人は必死に手を振る。だが彼女の視線は直ぐに別な方向へ向けられ――
次の瞬間
ズガガガガガ!
アリソンが泳いでいた付近を何機かの戦闘機が機銃掃射をしながら通過する。
「「アリー!」」
二人は叫びながらアリソンの姿を探す。
「あっ!あれは……アリーだ!」
リタが指差した方向には確かにアリソンらしき赤毛の学生服を着た女性がいる。
だが、
「動いてない!?……まさかっ!」
アリソンは死んでいた。
先程の機銃掃射が腹部に命中したのだ。白い制服が彼女の髪の色と同じ赤に染まっていく。
その顔は、まだ自らの死を理解していないという表情のまま固まっていた。
「う、嘘だろ……そんな事」
「アリー……嫌ぁぁぁぁぁ!」
リリーは、目の前での親友の死に号泣し、リタはみるみる目を血走らせていた。
「こんのぉ…クソッタレ共がぁぁぁぁぁぁ!」
「リタ!?」
リタは近くにあった機銃の銃座につき、錯乱したかのように撃ちまくった。
ズガガガガガ!
「畜生!皆殺しにしてやる!落ちろ落ちろ落ちろぉぉぉ!」
「り、リタ危ないよ!それより私達も早く逃げないと!」
「落ちろぉぉぉ!」
リタは、怒りで完全に我を失っていた。
銃撃に気付いた1機の戦闘機が、機体を翻して此方に向かってくる。
それに気付いた彼女は狙いを定め、銃弾を放った。
「うぉぉぉ!落ちやがれこの野郎!」
戦闘機は巧みに銃弾を避けていたが遂に――
ボンッ!
炎を噴き上げクルクル回転しながら、艦の頭上を通過した戦闘機は、そのまま港湾施設にあるクレーンのアームに激突し、粉々になった。
「見たか!このクズ野郎が!さぁ、どこからでも来やがれ!あたしが全部叩き落としてやる!」
「リタ!もう……!」
「うるさい!あんたは黙って隠れてな!」
「ひっ……!」
リタの常軌を逸した表情に思わずリリーは怯える。
そんな彼女を尻目に、彼女は次なる獲物に照準を合わせた。
「次はあんただよ!」
ズガガガガガ!
機銃が火を噴き、戦闘機を襲う。しかし敵は身軽な体で銃弾を交わし続け、此方に向かってきた。
だが――
ボンッ!
戦闘機は再び火を噴き上げ――
「リタ!あいつ此方に突っ込んで――」
「う、うわぁ!落ちろ落ちろぉぉぉ!」
リタは機銃を乱射し、何とか戦闘機を落とそうする。
だが敵はそのまま突っ込んでくる。自らの体が如何に砕かれようとも……
リリーは本能的に危険を感じ、その場から全力で離れた。
「リタァ!早く逃げて!」
「ち、畜生!畜生畜生っ!」
リタは未だに撃ち続けていた。先程とは違い、顔には焦りの色がはっきりと浮かぶ。それでも彼女は、撃つのを止めなかった。機銃が放たれる度に、汗で光る彼女の筋肉質の肌が小刻みに振動する。
「リタお願い逃げて!」
炎を纏った戦闘機はすぐそこまで迫っている。
そして――
「あ…ああ…あっあっあっあっ!……あぁぁあぁぁあぁ!」
それがリリーの聞いた最後の彼女の声になった。
リタは最後まで銃撃を続ける。
だが、戦闘機は止まらず、突っ込んできた敵は、前方にあるプロペラで彼女の肉体を細切れにし、そのまま壁へと激突してミンチにしてしまう。
遂には――
ズドォン!
機体が爆発して炎に包まれ、彼女が存在していたのか疑いたくなるレベルまで粉々にした。
「キャァァァァ!」
リリーは、爆風によって海へと投げ出され、彼女は必死に足掻いて水面へと顔を出す。
「うっ…うぅ」
親友を無惨に失い、未だに自分も危機的な状況にあるリリーの精神は最早限界に達しつつあった。
+ + +
同刻
江田はハワイ付近に到着していた。
近付くに連れて黒いが見えてくる。
「くっ!間に合わなかったか……超兵器はもう湾内に侵入しているのか?」
江田は速度を上げて島へと近づいて行くにつれ、見えてきた光景に唖然とした。
「こ、航空機!?そんな馬鹿な……空母級や航空戦艦級は海域に存在しない筈じゃ……」
江田は、直ぐ様異世界艦隊の共有回線で、シュルツと連絡をとる。
現在、蒼き鋼所属の江田は、本来なら群像に連絡を取るべきなのだろうが、超兵器に関しての知識が豊富なシュルツに指示を仰いだ方が早いと判断したのだろう。
「此方蒼き鋼、江田です。ペガサス応答願います!!」
+ + +
シュルツは驚愕した。
「航空機だと!?報告されたノイズの大きさからすると、超兵器の空母や航空戦艦は居ない筈だ。なのに……」
『割り込みですみません』
「千早艦長……どうされましたか?」
『我々のレーダーにハワイ周辺の超兵器ノイズの他に、新たなノイズを検知しました』
「なんですって!?まさか超兵器の超巨大空母が?」
『ソレなんですが……徐々にノイズが縮小しているようなんです』
「縮小?と言うことは潜航型?そ、そうか!潜水艦の空母化。つまり潜水空母!しかしその様な超兵器は私にも……」
『そちらの方のノイズは徐々に遠ざかっていますが……追いますか?』
「いえ……ハワイの救援が先です。江田!敵の航空機の種類はどうか?」
『レシプロ機が中心の部隊ですね。ですがレーダーに第二次攻撃隊と思われる反応が接近しています。この接近速度からすると、恐らくはジェット機である可能性が高い。私一人では……』
「心配するな。もうすぐモーリスの部隊がそちらに到着する。それまでお前は、爆撃や雷撃を行う航空機を中心に撃墜してくれ。くれぐれも無理はするな」
『了解』
江田は通信を切るとセイランを一気に加速させ、戦闘体勢に入った。
一方のシュルツは、少し考え込んだあとに、ブルーマーメイド及び、蒼き鋼に同時に通信を入れる。
「こちらペガサス。千早艦長、岬艦長聞こえますか?」
『ええ、聞こえます』
『どうされましたか?』
「どうやら、ハワイは既に襲撃を受け、甚大な被害を被っているようです」
『……』
『そんな……』
事前に江田と通信した群像はともかく、明乃は動揺を隠せなかった。
シュルツはそれに構わず続ける。
「蒼き鋼のイ401とペガサスは、ハワイの東に展開しているであろう二隻の超兵器を叩きます。はれかぜの皆さんは、大戦艦ハルナと共に、真珠湾の救助活動に専念して頂きたい。尚、市街地の救助はスキズブラズニルより小型艇を数隻出して、人員を陸地に送ります。」
『で、でもそれじゃ……』
「あなたはブルーマーメイドだ。救助に関してはあなた達の方が遥かに詳しい。今救えるべき人を助けるのがあなた方の役目だ。露払いは軍人である我々が行います。岬艦長……お願いします」
『……解りました。至急準備に入ります。シュルツ艦長、千早艦長も気を付けて』
「解りました。ハワイの敵航空部隊は、あなた方のが到着する迄に必ず排除します。それでは」
シュルツは、明乃との通信を切ると、群像へ再び話しかける。
「千早艦長……」
『解っています。敵は潜水艦です。我々が相手をしますので、シュルツ艦長は出来るだけバックアップをお願いします』
「助かります。宗谷室長指揮の下、我が陣営からかなりの人数を救助に向かわせていますので、我々も手が足りない状況なのです」
『二手に人員を割いたことが裏目に出てしまいましたね……』
「やむを得ません……それにやはり、ジブラルタルに動きがあったようです」
『超兵器が目撃されたのですか?』
「いえ……現段階では大西洋からジブラルタルに接近するノイズが観測されたに過ぎませんが」
『いますね……内通者が』
「……間違いなく」
『どうやって我々に気取られずに通信をしているのでしょうか?』
「それも含めてパナマ迄に結論を出さなくてはならないでしょう。西進組にも調査員を送りましたので。少なくとも容疑者の絞り込みは迅速ではないかと」
『解りました。それでは此方も戦闘体勢に入ります』
「ええ、お気を付けて」
シュルツは通信を終了し、深く息を吸うと、目を見開き自艦に指示を出す。
「総員、対潜水艦戦闘準備!砲撃戦や対空戦になる可能性もある。準備を怠るな!」
シュルツの指示で艦内が一気に慌ただしくなる。
前回程の規模ではないにせよ。不足した人員の中での戦闘に、シュルツの不安は募るばかりであった。
お付き合い頂きありがとうございます。
たった2隻の超兵器登場ですが、欧州と大西洋でドカンと一気に登場させたいです。
それではまたいつか
とらふり!
ハルナ
「………」
キリシマ
「どうした?黙っていては概念伝達空間に集まった意味がないだろう」
ハルナ
「いや、少し考え事をしていてな」
キリシマ
「お前がそこまで悩むとは余程の事か?」
ハルナ
「ああ、ここのところ私の出番が少ないと思ってな」
キリシマ
「そんなことかよ!こう言っては何だが、一度ヒュウガに頼んでオーバーホールしてもらったらどうだ?」
ハルナ
「!!!解ったぞ!」
キリシマ
「嫌な予感がする…」
ハルナ
「あの帽子でいつも目が隠れているウィルキアのムッツリ艦長か、妙に私達のコアに訴えかける声の持ち主のブルマーの室長に声を掛ければ…こうしてはいられない!早速行ってくる!」
キリシマ
「おい、ハルナ!ハルナさぁ~ん!…行ってしまった。やはりメンタルモデルも人間に近付くと¨ストレス¨って奴を実装していくのやもしれん。今後対策が必要だな…タカオはどう思うんだ?」
タカオ
「いや…クマに真剣な話題ふられても対応に困るわよ」
キリシマ
「そ、それは言うな(泣)」