トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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大変長らくお待たせいたしました。

今回は、はいふり要素多目でいきます。


それではどうぞ。


名誉欲さず生を欲せ   vs 超兵器

   + + +

 

 

「侵食魚雷!?此だけの力を生む兵器がか?」

 

 

杏兵は、驚きを口にした。

 

 

「うん…。侵食魚雷を始めとした侵食弾頭兵器は、着弾点に発生した特異点が引き起こす重力で対象に無限の圧縮をかける兵器。敵の使用したモノは此に類するもの…。」

 

 

「それにしても規模が大き過ぎますよ…。侵食魚雷と同様と言われてもにわかには信じ難いものでは有ります。」

 

 

「成る程…。霧の目的は飽くまで¨海洋に進出してきた人類の駆逐¨。陸上にいる人類や、海洋生物は対象外に成るために、弾頭の作動範囲をクラインフィールドで覆い、周囲に不用意な影響を与えない一種のリミッターが有るんだな?それに比べて超兵器の使用した兵器は…。」

 

 

 

「うん…。群像の考えた通りだと思う。超兵器の使用した重力兵器は、素粒子を利用した量子兵器に近い。起動と同時に特異点が現れ、その中心に発生した強力な重力にあらゆるモノを巻き込む。弾頭の効果範囲を設定していない、侵食魚雷と比べたら粗雑な物。でも広範囲に渡る大量殺戮を成すには有効。」

 

 

 

「量子魚雷…と言ったところか。厄介だな…威力が侵食魚雷並みで、周囲の全てを巻き込む追加効果を持つ兵器か。艦隊の中心で使われれば、霧の艦艇でなければ即、死が待ち受けている訳だ。」

 

 

「………。」

 

 

艦橋が静まり返る。

無理もなかった。

 

現在まで401が受けた兵器の中で、最も強力な兵器であり、核を上回る戦争兵器の枠を遥かに超えた凶悪な代物。

 

此なら、いくら霧の艦隊と言えど、下手をすれば重巡洋艦クラスより下の艦艇ならば、容易に撃沈しうる威力を持つ兵器を超兵器は獲得していることは明らかだったからだ。

 

動揺を隠せないクルーを前に、群像は至極冷静な表情をイオナに向けた。

 

 

「イオナ、量子魚雷への対策はあるか?」

 

 

「量子魚雷の起動前に、侵食魚雷をぶつければ、消滅は出来ると思うけど、敵の所持している弾頭の数が多い。まともに撃てば勝ち目はない。」

 

 

群像は考え込んでいた。

 

そして…。

 

「調べて貰いたいことがある。いいか?」

 

 

 

   + + +

 

 

 

「はい…はい。解りました。気を付けます。そちらも健闘を祈ります。」

 

 

ナギは深刻な顔で通信を終えた。

 

 

「情報は得られたか?」

 

 

シュルツからの問いに、ナギは蒼き鋼からの情報を伝える。

 

それを聞いたシュルツの顔色が青ざめてしまった。

 

 

「馬鹿な!それはつまり、¨魚雷型の重力砲¨と同義と言う事か!?」

 

 

「はい、そうなります。艦長…。」

 

 

「弱気な顔をするなナギ少尉。で?千早艦長は他には何と?」

 

 

「此方の事は構わず、ニブルヘイムに集中されたし…それと出来るだけ此方には近付くなと…。」

 

 

 

「…そうか。」

 

 

シュルツはそれだけ答えると、眼前のニブルヘイムに視線を移す。

 

 

超兵器は、先程から此方をΩレーザーの射角に捉えるため回頭を続けていた。

対するペガサスも必死に動き回り、砲撃を加え続けていた。

 

 

(千早艦長…。敵は最早戦争兵器の枠を超え、新たな段階に突入しつつあります。どうかご無事で…。)

 

 

冷静な表情を取り繕いつつも、彼の拳にはジトッと汗が滲んだ。

 

 

 

   + + +

 

 

ボォオン!

 

 

ノーチラスは暴れていた。

 

その弾幕はアルケオプテリクスを彷彿とさせるには十分過ぎる程の切れ目の無い手数。

 

奇しくも、真白の予想は当たっていた。

浮上したことにより、砲と光学兵器をも使用可能になったノーチラスは、機関が損傷し思うように動けない中でも、得意分野である雷撃とミサイルと合わせてはれかぜを翻弄し続けている。

 

 

(くっ…ついてない。)

 

 

真白は思わず心の中で呟いた。

 

何に対してついてないのか。

自分達だけが最前線にいることか、それとも今この海域にいる超兵器の中で国家を相手にしうる力を持つノーチラスが相手だからなのか。それともその両方か…。

それは彼女自身しか知り得ない。

 

 

しかしながら、事ここにあって彼女の反応は至極正常であろう。

 

 

RATt事件の絡みで偶然実戦慣れしてまっただけで…偶然超兵器に対応出来る勢力が日本に現れただけで…偶然超兵器と繋がりのあった岬明乃と同級生だっただけで…。

 

 

(何を考えているんだ私は…。)

 

 

真白は一度頭の思考をリセットする。

悔やんでも仕方がなかった。

もし、自身が陸上で待機であったら、明乃も同級生達に対しても何一つ出来る事はなかっただろうし、海上や陸上で駆け回る自身の母や姉達を置いて自分一人だけが安全な所にいるのは、元々優秀すぎる家族を持ち、劣等感に溢れていた彼女自身は堪えられなかっただろう。

 

 

真白は、目の前で指示を飛ばし続ける明乃に視線を向ける。

 

 

(凄いな…岬さんは。いつも純粋で真っ直ぐに物事にあたれるんだから。…眩しいよ。)

 

 

いつだって羨ましかった。

何でも挫けずに立ち向かい、そして乗り越えられる彼女が。

 

自分はそうはいかない。

 

いくら立ち向かっても乗り越えられない事だってあるし、挫けて挫折することだってある。

彼女は良くも悪くも一般の代表の様な人物なのだ。

 

 

《真白は良い子だね。》

 

 

(!)

 

 

何故だろう。

戦闘の最中だと言うのに、真白の頭に暖かく大きな背中と優しい言葉が思い浮かぶ。

 

(父…さん。)

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

いつの日かの夕暮れ

 

幼い真白は、海辺を歩く父 征人の背中におぶさっていた。

前には、真雪と並んで歩く真霜と真冬がいる。

 

 

「真白は良い子なの?」

 

 

の言葉に真白は疑問を呈する。

 

「私、本当に良い子なのかな…。だってお母さんみたいに格好良くないし、お姉ちゃん達みたいに人と上手く話せないし、足だって遅いんだもん…。」

 

 

ムスッと頬を膨らませて真白は拗ねていた。

子供ながらに、優秀な母や姉達をとても羨んでいたのだ。

 

 

「これじゃ私、人魚になれないよ…。」

 

 

本音だった。

いつもなら決して言わない本音を、真白は吐露する。

それは、何でも話を聞いてくれる優しい父だからこそなのかもしれない。

 

 

しかし、そんな父からは意外な言葉が帰ってくる。

 

 

「それじゃぁ、人魚になるの辞めちゃいなさい。」

 

 

「え?」

 

 

真白は、驚いて言葉を失った。

征人は構わず続ける。

 

 

「だって父さんは人間だよ?だったら真白も無理に人魚に成ること無いんじゃないかな。そうだ!父さんと陸のお仕事をして、一緒に母さん達を待とうよ。そうすれば…。」

 

 

 

「嫌だ…。」

 

「真白?」

 

真白は泣いていた。

彼女は泣きながら征人の背中で足をバタつかせている。

 

 

「私…グスッ、人魚に成りたいよ!だって格好良いんだもん!エッ…ブルーマーメイドは、皆を笑顔にする正義のヒーローなんだもん!で、でも…私じゃ、お母さんやお姉ちゃんみたいにはなれないし…。」

 

 

「う~んそうかなぁ。」

 

 

征人は首を傾げた。

 

 

「真白はさぁ。¨本物の人魚¨が人間を助けたいって本気に考えると思うかい?」

 

 

「…え。」

 

 

「父さんはそうは思わないなぁ。だってそうでしょ?海にいるイルカさんやクジラさんだって仲間がいるわけだし、人魚だってそうさ。仲間が大事だからわざわざ人間を助けたりなんかしないと思うんだよ。」

 

 

 

「でもお母さんは…。」

 

 

「そう!よく気付いたね。重要なのはさ、上手く話せるかとか足が速いとか、況してや格好良い事じゃないんだ。」

 

 

「じゃあなぁに?」

 

 

「心だよ。」

 

 

「ココロ?」

 

 

真白は首を傾げた。

征人は、真白に聞き取りやすいよう、努めてゆっくりとした口調で続ける。

 

「ははっ!真白にはちょっと難しかったかな。でもね、それが一番肝心なのさ。いいかい?人間を助ける正義のヒーローに成る為にはね、¨人間の心¨が必要なんだ。こうしたら相手は喜ぶかなぁ悲しむかなぁとかさ、自分が楽しいなぁとか怖いなぁと思う事。それを誰よりも知っている人だけがヒーローになれるんだよ。」

 

 

「………。」

 

 

「だってそうじゃないかい?不安で助けを求めている人の気持ちが解らなくちゃさ、助けを求めている事すら気付けないし、助けようとも思わない。そんなのはヒーローとは言えないんじゃないかな。」

 

 

「じゃぁお母さんも人の心を知らないの?だって人魚だもん。」

 

 

「あははっ!そう来たか!こりゃ父さんも一本とられたなぁ!でもね、母さんは誰よりも人の心を持った人魚だよ。だって真白やお姉ちゃん達の為に、魚の尻尾を捨てて、人間の足を手にいれてね、必ず家に帰って来てくれるんだもの。」

 

 

それを聞いた真白は、安堵の表情を見せる。

だが、その表情はまた直ぐに曇ってしまった。

 

 

「じゃ、じゃあ私も将来人魚に成ったら心が…。」

 

 

「ん~?あれあれ~?真白は忘れちゃったのかなぁ~?真白は、誰と誰の子供だっけ?」

 

 

「あっ…。」

 

 

真白は目を丸くした。

 

 

「そうさ。真白はね?人魚の母さんと…。」

 

 

「力持ちで優しい¨人間のお父さん¨!」

 

 

「ははっ!力持ちっ!こんなかなぁ~。」

 

 

征人は、真白を支えていた片方の腕を持ち上げ、力こぶを作って見せる。

真白は「わぁ~‼」と目を輝かせた。

 

 

「そう、真白は人間と人魚の間に生まれたんだ。それはもう、人間の心を持った人魚と一緒なのさ。それにね、真白はお姉ちゃん達と自分を比べて落ち込んでいるみたいだけどさ。越えられない壁に当たった数が多い人程、一杯考えて成長していくんだよ?ほぉら!真白程ヒーローに近い子なんているかい?」

 

 

先程迄曇っていた真白の瞳が、今度は宝石の様に輝く。

 

 

「本当?私、ヒーローに成れるの?」

 

 

「………。」

 

 

「お父さん?」

 

 

「ん?あぁ、本当さ!真白ならきっとなれる。父さんが保証するよ!」

 

 

「わぁ~い!」

 

 

真白は征人の背中で、今度は嬉しさの余り足をバタつかせている。

すると突然、征人は真白を背中から降ろした。

キョトンとする彼女に、征人はしゃがみこんで真白と同じ目線に顔を持ってくる。

山に沈み行く太陽からの光で父の顔はよく見えなかったが、いつも笑顔である父が見せた真剣な表情に、真白は思わず黙り込んだ。

 

 

「だからね真白。」

 

「なぁに?」

 

「きっと、沢山の人を助けて、そして…。」

 

 

征人は意を決したように、確かな口調で真白に言った。

 

 

「辛いことがあったら、いつでも人魚の尻尾を捨てても良い。だから…必ず無事に帰っておいで。約束だよ?」

 

 

「うん!」

 

真白は、大きく頷いた。

すると、征人はいつもの優しい笑顔を娘に向け、大きな掌で彼女の頭を撫でた。

 

 

「やっぱり真白は良い子だね。」

 

 

「えへへ〃〃。あっ!そうだ!」

 

 

「ん?どうしたんだい?」

 

 

「え~っとねぇ。約束するときは、指切りするんだよ!」

 

 

真白は小指を差し出した。征人はそれに自分の小指を絡める。

そして、

 

「「ゆ~び切りげんまん嘘ついたらはりせんぼん飲~ます。ゆ~びきった!」」

 

 

指切りが終わると二人は互いに笑顔を向けた。

 

 

「お父さ~ん!真白~!」

 

 

二人が呼び声の方向に顔を向けると、真雪と二人の姉が駆け寄ってきた。

 

 

「父さんもシロも遅ぇよぉ~!早く帰ってごはん食べようぜぇ!」

 

 

「全く真冬ったら、本当に食い意地が張ってるんだから…たまには父さんからも何か言ってやってよ!」

 

 

「しょうがねぇじゃん!減るもんは減るんだからよぅ!」

 

 

「そう言えばもうこんな時間か…そうだね!帰って皆でごはんにしようか!」

 

「そぉこなくっちゃ!」

 

「もう…父さんたら、真冬に甘いんだから!」

 

 

そんな二人を見ながら征人は目を細めている。

 

 

「あなた…。」

 

「母さん。」

 

 

言い争いをしている二人の後ろから真雪が近付いてきた。

 

 

「随分ゆっくり歩いていたわね。真白と何を話していたのかしら?」

 

 

「ははっ!ちょっとね。」

 

「お父さんと真白だけのヒミツ~!ね~?」

 

「ね~!」

 

「…ふぅん。」

 

真雪は彼を半目で見つめるが、征人は意に介さず真白と繋いだ手を一緒に降っていた。

 

 

「…まぁいいわ。それより早く帰りましょう。でないとまた真冬が暴れだすわ。」

 

 

二人が視線を向けると、「飯~!」と絶叫している真冬が見えた。

 

 

「うんうん!育ち盛りに食べるのは良い事だね!」

 

「全くあなたは…。」

 

 

「綺麗だね…。」

 

 

「え〃〃〃?」

 

思わぬ不意打ちに真雪は、頬を染めて狼狽える。

だが征人の視線は彼女にではなく、茜色に染まる海に向けられていた。

真雪は少し呆れていた様だったが、彼の表情を見て少し驚いていることが見て取れた。

彼は少し寂しそうな顔をして海を見つめていたからだ。

真雪を仕事に送り出す時でさえ、笑顔を絶さない征人にしては珍しい表情だった。

 

真雪は滅多に見ない彼の顔を見て、少し心配になった。

 

 

「…あなた?」

 

 

「本当に穏やかで綺麗な海だね…ずっと…ずっとこんな海が続けば良いのにね…。」

 

 

真雪は何も答えず、真白は何時もより強く手を握っている父の大きな手を、同じく強く握り返すのであった。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

(父さん…。)

 

 

砲撃で揺れの走る艦橋で、真白は父の言葉を思い返していた。

 

《人魚の尻尾を捨てても良い。だから…必ず無事に帰っておいで…。》

 

 

《ずっと…ずっとこんな海が続けば良いのにね…。》

 

 

 

(今思えば、父さんはこうなる事を見越して…いや、流石にそこまではないと思う。)

 

 

征人の言葉は、確かに超兵器によって混沌と化した現在を言い当てているようにも聞こえる。

だが、真白には解っていた。

父が、何よりも家族を大切に思う人物だと言うことを。

 

 

(ブルーマーメイドは、職業の中では花形だ。でも同時に危険も伴う。もしかすると、四人がいっぺんに海で…と言うことも有り得る。海のヒーローであるブルーマーメイドは、海で何かが起きるからヒーロー足り得るんだ。父さんのあの言葉は、《ヒーロー成れなくても良い、海が荒れなければ危険を冒す必要はない》そう言う事なのかもしれない。)

 

 

だが、海難事故の処理だけがブルーマーメイドの仕事ではない。

海賊や違法操業を行う船舶、そして国際法を無視して他国に対して軍事的圧力を行使しようとする艦艇への取り締まりも業務に含まれているのだ。

もし、そこで偶発的な衝突が起これば無傷では済まされない。

 

暗にその事を示していたであろう父の言葉と優しさを真白は今更ながら痛感していた。

そして彼女は明乃を見つめる。

 

 

(…岬さん。そう言えばあなたは少しだけ父さんに似ている気がする。)

 

 

 

顔の話ではない。

内面の所々が征人と似ていると真白思ったのだ。

 

 

家族をいつも思ってくれている所も、優しい所も、そして何よりも自らの事を余り語らず、胸の内に隠している所も似ている気がした。

 

 

実のところ、真白は征人が真雪の両親と会った所を見たことがないし、逆に彼の両親とも真白は会った事がない。

征人はそれについて多くは語らないし、あの優しさについ甘えてしまって、彼の過去について余り深く考えてこなかった事もあった。

 

明乃だってそうだ。学生時代、彼女はRATt事件の中盤まで両親を事故で亡くしていることを隠しており、彼女が受けた差別や扱いに付いても、明乃自信の素性が明らかにされるまでは話さなかった位だ。

 

 

だが二人には決定的に違う点がある。

 

 

(父さんはとても優秀だったと聞いている。きっとヒーローにだってなれた筈だ。だが、父さんは敢えて日の当たらない陸での仕事を選んだ。私達と時間の許す限り一緒に居る為だったんだと思う。しかし艦長は…。)

 

 

過去をあまり語らなかった征人の心にも、現在には家族と言う大切な存在が居る。

対して明乃には、心を形成していく幼少期にそれらを失ってしまっているのだ。

 

 

(そもそも艦長は、一人で行こうとしていた。自身の命に対するあの希薄さは、恐らくこういう所から来ているんだろう。)

 

 

 

《副長。艦長を救うことが出来るとすれば、それは副長を含め数人しか居ないだろう。今後の為にも、あの人を¨普通の女性¨に戻してやってくれないか?》

 

 

 

真白はかつて美波から言われた言葉を思い返す。

その意味が漸く理解出来た気がした。

 

 

 

(そうか…。超兵器と戦う英雄。この世界の代表として戦うはれかぜの艦長として、岬さんは各国に注目されている。もし、岬さんの素性がバレてしまえば…。)

 

 

 

確かに、超兵器によって世界が危機に貧している間は、明乃は英雄だろう。

しかしそれらが終結した時、彼女のいや、未知なる兵器を使用して戦った彼女達はれかぜクルーは、同時に各国の懸念に繋がって来るのだ。

無理もない、現在に於けるはれかぜの兵装だけでも、世界のパワーバランスを左右しかねない程の戦力が有るからだ。

 

それを¨日本のブルーマーメイド¨だけが知っているとなれば、当然各国からの日本に対する態度は一変する。

 

祖国日本に於いてもそうだろう。

各国からの圧力を回避する為彼女達を生け贄として差し出し交渉のテーブルに着くか、その知識や経験を流出させない為に、在りもしない罪をでっち上げて身柄を押さえ、軟禁してしまうか。

 

いずれにしてもろくな目にあわない事だけは確かだろう。

 

 

(艦長はそれらを¨はれかぜの代表¨として全て一人で受け持つつもりだったのか?美波さんの言葉は暗にそれを示しているようにも聞こえる。いずれ問い質して説得するべきか…いや、その事に関して艦長の意思が変わることはないだろう。)

 

 

 

《艦長を普通の女性に戻してやってくれないか?》

 

 

 

(!!!。そうか…普通ならこんな戦争じみた事、誰だって怖いに決まってる。大切な存在に永遠に会えなくなってしまうからだ。だとすれば…。)

 

 

真白は明乃に視線を向ける。

 

 

(私が艦長にとって特別な存在になるしかない。)

 

 

だが自身の気持ちを言えばきっと彼女は困惑するだろう。

だからは今は…。

 

 

(艦長を…全力で支える!)

 

 

真白は動く。

全体を把握し、見張りや攻撃の隙を見つけては指示をだして、明乃の負担を減らすと同時に、はれかぜ全体の危険を減らしていく。

コミュニケーション能力に秀でており、士気を向上させ、長所を活かしていく明乃と、対照にミスやリスクを減らし、短所を補完していく真白。

 

 

二人の息は自然とはれかぜ全体に染み渡り、循環して行く。

 

 

お互い限界が近い。

 

はれかぜの動きが更に機敏さを増す。

 

『艦長!主砲が熱を帯びてる。少し間をちょうだい!』

 

 

「主砲撃ち方止め!主兵装を光学兵器に切り替えて!芽衣ちゃん、魚雷発射用意!敵の魚雷を撹乱するから使用弾頭は音響魚雷!」

 

 

「了解!」

 

 

『敵艦、主砲回頭!』

 

 

「面ぉ舵!機関最大、急速加速。超兵器推進装置可動。出力は25%!」

 

 

「よ、ようそろう!」

 

 

「了解ぞな!」

 

 

『艦長!流石にヤバイ!釜が逝っちまう!』

 

 

「解ってる!でももう少しだけお願い!」

 

 

『ちっ…解ったけどよ。もう何時間も暴れっぱなしだ!熱であちこちガタが来てる。何とか早く決めちまってくれ!』

 

 

「解ったよ。」

 

 

『敵艦、魚雷発射官開きました!いらっしゃいます!』

 

 

「音響魚雷、発射始め!」

 

 

『艦長!照準装置にエラー、誘導兵器のロックオンが出来ません!』

 

 

 

「ECCM装置を作動させて復帰してみて!」

 

 

「敵主砲…くる!今!」

 

 

ブォオン!

 

 

砲弾と迎撃レーザーがぶつかり空中で爆発が起きる。

他にも、ノーチラスがばら蒔いた魚雷が音響魚雷によって行き先を見失い起爆。

 

超兵器とはれかぜの間には猛烈な爆圧と水柱が上がっている。

だが、互いの殴り合いは一向に止まらない。

手数の多いノーチラスは、電波の妨害をしてミサイルを牽制しつつ砲雷撃を継続、はれかぜは急加速と旋回で敵の攻撃を交わして反撃を続けている。

 

 

 

一見膠着状態の戦闘ではあるが、実ははれかぜは追い込まれていた。

 

 

それは火災や浸水等による二次災害や、況してや士気の低下などではない。

最もシンプル且つ致命的な問題。

それは…。

 

「ヤバ…弾薬の数がいよいよ足りなくなりそうかも…。」

 

 

「え…ほんと!?まずいじゃん…。」

 

 

「光学兵器を併用して節約はしてたけど、流石に危険な時は砲弾使っちゃうよね…。」

 

「的も大きいし…。」

 

光の一言に、美千留や順子も焦りが滲む。

 

そう、弾薬の欠乏である。

 

 

「りっちゃん、かよちゃん。そっちの魚雷とミサイルでカバーできない?」

 

 

『う~ん。難しいかも…。前半は超兵器が沈んでたから噴進爆雷砲メインだったけど、航空機迎撃に多目的ミサイルを使っちゃったのが大きいかもしれない…。』

 

 

『それに魚雷は、対潜兵器としては有用だから、前半から結構消費しちゃったしね…。やっぱり光学兵器でカバーするしかないんじゃないかな。』

 

 

 

「さっきの機関部がそろそろヤバイみたいな話してたじゃん?。機関に負担を掛けない為に、こっちの光学兵器に割くエネルギーの供給を絞っちゃってるんだよねぇ…。」

 

 

「どうしても超兵器の方が強力な兵装持ってるから、防壁へのエネルギー供給は止められないしね…。推進装置を止めちゃうのは論外だし。」

 

 

「でもさっきから、超兵器への攻撃が徐々に通る様になってる気がしない?」

 

 

「あっ!それ、私も思った。なんか理由は解らないけど、超兵器が弱ってるのかな?」

 

 

「んじゃ、何とか遣り繰りしてもう一踏ん張り行きますか!」

 

 

「「了解!」」

 

 

順子と美千留が拳を揚げた。

 

 

一方の機関部では、慌ただしくメンバーが動く。

 

 

 

「テメェら、何とか釜ァ持たせろよ!」

 

 

「無理言わないでよ麻侖!あらゆる所にエネルギーを送るには、機関を全力で動かさなくちゃならないわ。そんなのいつまで持つか解らないわよ!もし配管の一本でも逝ったら…。」

 

 

 

「わぁってるって!だから光学兵器へのエネルギー供給を絞ったんだろぉが!」

 

 

 

「機関長~暑い…この服装何とかなんないの?」

 

 

「あぁ?我慢しろぃ!もし、こんな狭ぇ所で放射能が漏れ出てみろ!それ着てなきゃ即死だぞ!」

 

 

「うへぇ~。」

 

 

「やっぱり、全エネルギーを一つの機関で賄うのは無理があるのかなぁ…。この戦いが終わったら、蓄電池の増設を提案してみたら?」

 

 

「空ちゃんそれフラグだから…。」

 

 

「超兵器推進装置に喰うエネルギーが意外に大きいのかも…。」

 

 

 

「えぇい!無ぇもんを嘆いてもしょうがねぇ!今は、この釜をぶっ飛ばさねぇように目の前の仕事に集中しろぃ!」

 

 

 

「「は、はぃい!」」

 

 

麻侖の檄が飛び、メンバーは汗だくで持ち場を守る。

 

 

だが、慌ただしいのはここだけではない。

 

主計部や応急員も対応に追われていた。

 

 

 

「ヒメ、そっちはどうッスか?」

 

 

「やっぱり防壁の薄い艦底に歪みが大きいね。火災に関しては、自動消化装置、浸水には応急注排水装置の指導マニュアルを確認しとこう。あと万が一装置が作動しない時に備えて、消火器と排水ポンプの準備もしよう!」

 

 

「了解ッス!」

 

 

 

「皆お疲れ様!」

 

 

「あれ?美甘ちゃんどうしたの?それにあっちゃんとほっちゃんも…。」

 

 

「うん。弾薬が残り少ないから、あまり手伝うこと無くなっちゃって。」

 

 

「だから何か手伝うこと無いかなぁって!」

 

「なぁって!」

 

 

「丁度良かったッス!今から二次災害に備えて色々準備をしようかと話していた所だったんス。」

 

 

「本当?じゃあ手伝うよ!二人とも良いよね?」

 

 

「「うん!」」

 

 

「ありがとう三人共!でも、こんなに働いてからご飯の支度なんてやって大丈夫なの?」

 

 

「こんな時位インスタントでも良くないッスか?」

 

 

「そ、そんなこと出来ないよ!こんな時だからこそ皆に一杯食べて元気になって貰わなくちゃ!」

 

 

「でも美甘ちゃんかなり拘るから、メニュー考えてる間に寝ちゃうかもしれないよ。ここは私の革新的な料理で…。」

 

 

「あっちゃんは攻めすぎだよぅ~。でも、確かに私達だけじゃ辛いかも…。」

 

 

「う~ん。それじゃ藤田さんにも手伝って貰ってやろうか。」

 

 

「「そうだねぇ。」」

 

 

「そう言えば主計長はどうしたっスか?」

 

 

「ミミちゃんは、各部所からの要望で、改善点や整備部品なんかの発注書を急いでピックアップしてるみたい。ほら、もしかしたら連戦になるかもしれないでしょ?接弦したら直ぐに杉本さん達に作業に入ってもらった方が効率がいいし。」

 

 

 

「裏方も大変ッスね…。」

 

 

「まぁね…。じゃあ、早速始めちゃおうか!案内よろしく!」

 

 

「了解ッス!」

 

 

艦内で彼女達が必死に動き回る中、マチコは敵の異変に気付いていた。

 

 

 

 

「超兵器が傾斜してきている!?それに攻撃の手数が減って…。」

 

 

マチコの抱いた違和感は、艦橋メンバーも気付いていた。

 

 

「攻撃の数が減っている?」

 

 

「まぁ、正確に言うなら主砲の攻撃が明らかに減っていますね。もしかして…。」

 

 

幸子の分析に、明乃は確信を得たように頷いた。

 

「うん。超兵器の船体が傾いて来てるんだと思う。」

 

 

「しかし何故?敵の応急注排水装置は作動しているようにも見えますが…。」

 

 

「主砲を使ったせいだよ。」

 

「主砲?」

 

 

「うん。40cmを超える主砲の反動は凄まじい。あの武蔵ですら、艦と垂直方向に一斉射撃をすれば船体が只じゃ済まない位に…。それを実現するには、強靭な船体強度が必要なんだと思う。多分超兵器¨播磨¨と荒覇吐が大口径砲を平然と撃てたのはそのせいも有るんじゃないかな。」

 

 

「あっ…。そうか!」

 

 

真白も、明乃と同じ結論に至った。

 

 

「ノーチラスは潜水艦という特性と起動力上昇の為に装甲を更に薄くした。尚且つ、防御重力場が無い状態の海中で私達の攻撃に曝されている。そんな常態でもし50cm砲なんて撃ったら…。」

 

 

 

「船体はボロボロになる!そこで超兵器の最大の欠点が顕になるんだよ。」

 

 

「ええ。¨無人¨と言う点ですね?」

 

 

明乃は頷く。

 

 

「超兵器は、無人であるが故に無理も利く、怪我人とかの手当てに人員を割かれる必要がないからなんだけど…。」

 

 

「同時に、応急修理をする人員がいなければ、いくら優秀な二次災害防止装置があっても意味がない。そもそもそれは、応急修理を行う上で、人員の負担を軽減するために存在しているような装置だから…。」

 

 

「持久戦になれば折れるのは超兵器の方…だよ。」

 

 

ボォォン!

 

 

突如轟音が鳴り響き、ノーチラスの甲板の一部が吹き飛ぶ。

 

 

『敵艦艦首付近で爆発を確認、炎上!傾斜角度が更に増しています!』

 

 

 

「艦長、これなら行け…。」

 

 

「え!?」

 

 

「どうされましたか?艦…。」

 

 

「攻撃止め!機関最大!防壁を展開して!」

 

 

明乃がそう叫んだ直後。

 

『敵艦、主砲発砲!更にミサイル数8、こちらに向かう!光学兵器ジェネレータ発光確認!』

 

 

『魚雷発射音多数!いらっしゃいますわ!』

 

 

「なっ!」

 

 

全員の顔に戸惑いの色が浮かぶ。

 

(馬鹿な…あんな状態で攻撃を仕掛けてくるなんて!無人であるからこその強みと言うわけか!)

 

 

真白はギリッと歯噛みする。

 

 

「ミサイルと魚雷の迎撃を自動に切り替えて!総員、対衝撃防御!」

 

 

 

はれかぜメンバー全員が、その場に伏せる。

そのなかで最後に伏せたマチコは迫り来るミサイルを視界に捉えていた。

 

ボフッ!ボフッ!ボフッ!

 

(着弾前に爆発した?)

 

 

彼女が安堵の表情を浮かべようとした時。

 

 

爆煙の中から、先程とは比べ物にならない数のミサイルがはれかぜへと殺到してくる。

 

 

(一つのミサイルが六つに分裂した?8×6だから48発!?)

 

 

青ざめた彼女は慌てて床に伏せる。

それと同時に、自動で作動した迎撃システムによって、対空パルスレーザーとCIWSが作動した。

 

しかし、至近距離で分裂したミサイル全てを捌ききることは出来ず、数本が防壁に衝突。

直後に、こちらも迎撃しきれなかった魚雷による水柱と主砲弾による爆煙、ほぼ不可避であるレーザーが同時に防壁に殺到し、辺りの海を引っ掻き回した。

 

 

「うぁぁぁ!」

 

「きゃぁあっ!」

 

 

艦内に悲鳴が轟く。

 

 

 

「あっ…くっ。被害…被害を報告して!」

 

 

明乃の指示で真白が報告を取りまとめる。

 

 

「各部所人的並びに二次災害等の報告は無し。しかし…。」

 

 

「防壁に割くエネルギーが無いんだね…。」

 

 

「はい…。数発ならともかく、先程と同様の攻撃が来れば、間違いなく¨死者¨が出ます。」

 

 

「………。」

 

 

明乃の表情が一段と険しくなる。

 

死者が出ると言う言葉に、心臓の音が呼応したのが感じ取れるほどに脈打った。

 

 

決断しなければならない。

 

その場にいる全てのメンバーが彼女に視線を向けていた。

 

 

 

「総員…離…。」

 

 

 

『艦長!敵艦にで大規模な爆発を確認!炎上しています!』

 

マチコからの報告に明乃と真白は、慌てて外を見る。

 

 

ノーチラスの艦尾付近から炎が上がっている。

弾薬が爆発したのだろう。

それが原因か、船体は艦尾から急激に沈降している。

 

 

『艦長!やろうよ!』

 

『超兵器機関ってさ、かなりタフだって聞いたよ。超兵器についてはまだあんまり解んないけどさ、海底から引き揚げる技術だってあるかもしれないじゃん?』

 

 

『復活されたら厄介だもんねぇ…。』

 

 

 

「皆…。」

 

 

明乃は周りを見渡す。

 

まゆみと秀子が明乃を見つめ、頷いた。

 

他の者も続いて頷く。

 

彼女はもう一度、眼前の超兵器に視線を移した。

 

沈み行き、灼熱の炎に巻かれながらも、その化け物はいまだ砲を動かし、はれかぜを狙い続けている。

 

 

 

決断しなければならない。

 

 

彼女は深く目を閉じる。

 

 

《仲間がどういう存在のか考えて見てください。》

 

 

《強いあなたの思いを貫きなさい。》

 

 

異世界から来た二人の艦長の言葉が浮かんでくる。

 

 

(シュルツ艦長…千早艦長…。二人の様には成れないかも知れないけど…それでも、私は…。)

 

 

 

彼女は決断を下した。

 

 

「残りの弾薬と種類を報告して!」

 

 

「艦長!では…。」

 

 

「待って。」

 

 

明乃は真白の言葉を遮った。

 

 

『残弾は多目的ミサイル5、新型超音速魚雷3、主砲弾14、あと光学兵器はパルスレーザーならあと数分なら撃てるよ。』

 

 

「他には何かある?」

 

 

『超兵器の暴走を引き起こすミサイルが一発と…あぁ、噴進爆雷砲なら結構余裕有るけど…使い所ある?』

 

 

「解った…タマちゃん!主砲を一発、超兵器の艦尾付近に行ける?」

 

 

 

「うぃ!…お安い御用!」

 

 

「艦長、一体何を…。」

 

 

「確かめなきゃいけないから。」

 

 

真白は頭が追い付いていかない。

 

いや、真白だけでなくはれかぜ全員が明乃の考えを理解できずにいた。

 

彼女はまだ、明確な指針を示していなかったからだ。

 

 

半信半疑の中、はれかぜの主砲が超兵器に向けられる。

 

志摩が明乃に振り返る。

 

「艦長…今!」

 

 

「うん!主砲、攻撃始め!」

 

 

「撃てぇ!」

 

 

ボォォン!

 

 

主砲が火を吹き、砲弾がノーチラスへと飛翔していく。

はれかぜクルー達はその動向を見守っていた。

 

そして…。

 

 

ドゴォォオ!

 

砲弾は、沈み行くノーチラスの艦尾付近に着弾し炸裂した。

 

「超兵器の防御重力場が…消滅した?」

 

 

立ち上る煙の本数が増えた超兵器を見据えていた真白は、目を丸くしている。

立ち尽くす彼女達の意識を覚醒させるかのように、明乃は叫んだ。

 

 

「多目的ミサイル、及び新型超音速魚雷発射用意!主砲は攻撃を継続!狙いはさっきの主砲の着弾点!超兵器機関を攻めよう!出来るだけ穴を広げて!」

 

 

『りょ、了解!』

 

 

「続けて、電子撹乱ミサイル改め、対超兵器機関ミサイルを用意!」

 

 

 

「か、艦長!?」

 

未だ状況を把握しきれていない真白に、明乃は答える代わりに指示を飛ばす。

 

 

「皆!聞いて欲しいんだ。私達はこれより、超兵器ノーチラスに対して¨最後¨の攻撃を行う。それが成功しても、失敗しても本艦は当該海域を離脱、スキズブラズニルと合流する!」

 

 

「艦長!撤退なさるおつもりですか?」

 

 

「防壁も砲弾も無い現状で留まるのは自殺行為だよ。悔しいけど、皆を無駄死にさせるわけにはいかない!」

 

 

これが彼女の下した決断だった。

 

砲弾をペガサスから分けてもらう事は物理的には可能だろうが、超兵器を目の前にしては現実的ではない。

 

明乃は引き際を見定めていた。

だが同時に、超兵器への対処も忘れた訳ではない。

 

火だるまに成っても可動し続ける超兵器は、この海域に残していく他の艦艇に何をしでかすかは未知数だった。

 

故に、一か八かの最後攻めで、少しでもノーチラスに傷を負わせる。

上手くいくかは賭けに近かったが、明乃は勝負に出た。

 

 

「リンちゃん。対超兵器機関ミサイルの着弾を確認し次第転舵して!麻侖ちゃん、転舵終了と同時に機関全速!超兵器推進装置も稼働するけど大丈夫?」

 

 

『光学兵器と防壁の回復に使うエネルギーをカットすれば、出来ねぇこたぁねぇが…。』

 

 

「ありがとう!あと転舵して超兵器推進装置を稼働するまでの間に、撃てる限りの噴進爆雷砲をノーチラスに撃ち込んで!」

 

 

 

はれかぜの指針は決まった。

 

艦内が一気に慌ただしさを増す。

 

 

明乃の指示はまだ終わらない。

 

 

「ミミちゃん、不足している弾薬と、艦内の修繕に必要な物資のリストアップは出来てる?」

 

 

『勿論、1483秒前に完了!』

 

 

「解った。つぐちゃん、めぐちゃん。ペガサスにはれかぜの離脱の意思を伝えて!更に、スキズブラズニルの杉本さんに連絡をとって、ミミちゃんの纏めたリストを下に、直ぐ物資の積み込みと応急修理に取り掛かれるように伝えて!」

 

 

『了解!』

 

 

「艦長!まさか!」

 

真白は明乃の意図を察した。

 

 

「戻られるつもりですか?ここに…。」

 

 

「間に合うかは解らない。でも、もし少しでも力になれたら…。」

 

 

 

『艦長、攻撃準備よし!』

 

 

光の声で二人は我にかえる。

 

ギリギリの現状では、最早残された時間は僅かしかなかった。

 

 

彼女は静かに、そしてしっかりとした声で言葉を発する。

 

 

「皆…。」

 

 

誰が始めたのかは解らない。

だが、はれかぜの各所でクルー達は頷いた。

 

まゆみや秀子、そして艦橋の皆が頷いた。

 

明乃はそれに答えるように頷くと、大きく息を吸い叫んだ。

 

 

「行こう!攻ぉ撃始めぇ!」

 

 

カチャン…ブシュォォォ!

 

 

ボォォン!ボォォン!

 

 

ミサイルと主砲が超兵器へと飛翔する。

 

 

ドゴォォオ!

 

 

超兵器の艦尾付近に穴が開く、だが相手もただでは終わらない。

傾いた甲板上で主砲の仰角が動く。

 

 

「撃ってくるぞ!」

 

 

「急速加速!小刻みに蛇行して狙いを絞らせないで!ECM装置生きてたら最大出力で使って!」

 

 

「りょ、了解!」

 

 

ボォォン!…ブォォン!

 

 

『うっ、くっ…敵砲弾、本艦左舷前方に着弾!更にミサイル発射官開きました!』

 

 

「多分、多弾頭ミサイルです!ECMを使っても数発はこっちに来ます!」

 

 

「対空パルスレーザーを使って、ミサイルが分裂する前に撃墜して!メイちゃん、新型超音速魚雷発射始め!超兵器機関周辺の装甲がまだ抜けない!」

 

 

「了解!全弾命中でいっちゃうよ!」

 

 

『敵艦、ミサイル発射!数6!』

 

 

「迎撃始め!絶対に通さないで!順ちゃんお願い!」

 

 

『了解!ズキューンっと撃墜!』

 

 

キュキュキュキュ!

 

 

ボボボボォォン!

 

 

『はぁ…はぁ。や、やったぁ!』

 

 

順子は半ば無理矢理笑顔を見せるが、直ぐ様迎撃出来るよう準備を進め、

その額には汗が滲んでいた。

 

今まで彼女達を守っていた防壁は、次の攻撃で飽和、もしかすれば被弾も有り得る。

 

死を直ぐ身近に感じるこの状況に、誰もが極限の緊張を強いられていた。

そんな中、表情を変えずに立ち続けている者がいる。

 

岬明乃だ。

 

彼女は艦長だ。ブレる訳にはいかない。

どんな状況でも決して取り乱した様子を晒してはならないのだ。

 

 

「魚雷の発射、いつでも行けるよ!」

 

 

彼女は頷く。

 

 

「新型超音速魚雷、発射始め!」

 

 

「行っけぇぇ!」

 

 

パシュ!パシュ!パシュ!

 

魚雷が着水し、みるみる加速、超兵器へとひた走る。

 

 

「対超兵器機関ミサイル発射準備!」

 

ここから先、魚雷が超兵器機関を露出させられるかどうかは正直賭けでしかない。

 

だが、もう後戻りも出来ないのだ。

 

 

「対超兵器機関ミサイル、攻撃始め!」

 

 

「対超兵器機関ミサイル、発射始め!」

 

 

ガチャン…ブシュォォォ!

 

 

ミサイルが発射され超兵器へと向かう。

その直後、横倒しになったノーチラスに、先程放った魚雷が主砲が着弾した甲板付近へと立て続けに衝突。水柱が上がる。

 

 

 

「噴進爆雷砲、発射始め!リンちゃん、面ぅ舵一杯!超兵器推進用意!転舵終わり次第全速前進!」

 

 

「よ、ようそろ!」

 

 

はれかぜは、超兵器に噴進爆雷砲を撃ちまくりながら転舵を開始する。

同時に、艦両舷に設置された超兵器推進装置のブースターが可動に向けて音を大きくしていった。

 

ミサイルは一直線に、魚雷の穿った穴へと向かう。

そして、

 

ボォォン!

 

 

『対超兵器機関ミサイルの着弾を確認!』

 

 

「リンちゃん!」

 

 

「もう…少しぃ!か、艦長、いいよ!」

 

 

 

「戻ぉせぇぇ!全速前進、超兵器推進装置可動!出力75%に固定!噴進爆雷砲は射程圏外になるまで継続!総員、加速の衝撃に備えて!」

 

 

はれかぜが一気に加速する。

 

 

「か、艦長!超兵器が!」

 

まゆみの叫びに、明乃は外に飛び出してノーチラスを見据える。

 

炎上を続けるノーチラスの船体は、いよいよ海中へと没しようとしていた。

しかし、超兵器機関が消滅するときの凄まじい波動は感じられない。

 

 

(やっぱり駄目だったの?)

 

 

明乃が内心諦めかけた時だった。

 

 

ギュィィィン!

 

 

海中に没した超兵器機関付近から、暗い紫色のオーラ滲み出し、船体を包み込んで行くのが見えた。

 

 

(来た!)

 

 

明乃は急いで艦橋へと戻り、叫ぶ。

 

「噴進爆雷砲、攻撃止め!超兵器ノーチラス、暴走!衝撃波が来る。皆備えて!」

 

 

はれかぜは更に加速を続ける。

 

 

その頃、海中で爆雷が引き起こす衝撃波の奔流に晒され、尚且機関の暴走による自壊も始まっていたノーチラスは、足掻いていた。

 

ギ…ギ…ギギギィ!

 

 

船体は所々千切れ、分解され、バラバラなっていく。

 

 

《逃ガ…サナイ…アノ艦ハ危険ダト…判断ス…。》

 

ノーチラスは最後の抵抗に出る。

 

 

魚雷の発射官に、今まで¨撃たなかった¨魚雷を装填した。

 

ギギギィ!

 

軋みを上げ魚雷発射官が開く。

 

 

「急いで!早く離れて!」

 

 

明乃は叫び、はれかぜの加速は続く。

 

 

 

《逃ガサナイ…逃ガサナイ!》

 

 

そしてその魚雷は放たれた…。

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます!


もう少しで決着だったのですが、字数が間に合いませんでした…。


はれかぜ無念の一次撤退…。

ゲームだと無限装填装置(弾薬が無限になる装置)が有るのですが、無限に弾薬が有るのはやはり現実離れしすぎているので、制約をつけた結果の撤退です。




次回、ノーチラス戦は決着します。

今しばらくお待ちください。

それではまたいつか。





























とらふり! 1 /144ちょうへいきふりいと



播磨
「こっわ~!ノーチラス恐すぎだよ!トラウマだよ~!」



近江
「彼女は潜水艦の中でも異質な存在だから…。でもああ見えて結構寂しがりなのよ?」



荒覇吐
「そうなの?暴れ狂ってる様にしか見えないけど…。」



近江
「隠密行動が基本の潜水艦、しかも戦闘能力が高いと単艦での出撃が多くなるから…でも喜んでいたのよ。艦隊で出られるぅって。」



シュトゥルムヴィント
「結局は単独行動になっちゃいましたけどね…。これはゴネそうです。」



近江
「そうねぇ…彼女はアレを持っているから、もしかしたら使っちゃうかもしれないわ。」



播磨
「マジで!?とうとう使っちゃうの?」


近江
「解らないわ。アレは私達にとっても諸刃の剣だから…。まぁあの子を応援しましょう。」



荒覇吐
(アレかぁ…まぁいいわ。少なくとも人類の心くらいは折って頂戴ね…ノーチラス。)
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