トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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大変長らくお待たせ致しました。

ノーチラスとの決着です。

それではどうぞ


美女達と怪物   vs 超兵器

   + + +

 

 

 

ガチャン…バシュゥゥゥ!

 

 

船体がバラバラになりながらもノーチラスは最後の魚雷を放つ。

 

 

 

「!?」

 

 

楓は水中の音に違和感を感じていた。

 

 

(何?今、魚雷の発射音のような何かが…。船体の加速音で上手く聞き取れませんわ…。)

 

 

忍び寄る魚雷に未だはれかぜは気付いていない。

 

 

 

   + + +

 

 

「艦長、はれかぜから補給の為、一次撤退したいとの通信が入りました。尚、はれかぜ乗員に死傷者は無し、超兵器に於いては暴走状態であり、未だ健在とのこと。」

 

 

「解った。至急了解したと返答してくれ。」

 

 

「はっ!」

 

 

シュルツはれかぜに返答を送るナギからニブルヘイムへて視線を移す。

 

 

 

(生きていてくれたか…。まずはそれを喜ぶべきだろう。其にしても単艦での戦闘で、撃沈はおろか死傷者すら居ないとは…。)

 

 

ノーチラスと対戦したことのある彼だからこそ、はれかぜ生存の報は驚くべき事だった。

 

 

 

かつてシュルツは、諸外国とウィルキア解放軍との連合艦隊100隻余りで、味方艦隊が消息を絶った海域へと向かった。

 

 

消息を絶つ前の友軍からの情報により、超兵器が発するノイズが微弱であることから敵が潜航型であると判断、対潜水艦装備を万全にした上での進軍だった。

 

 

しかし、敵の能力は解放軍の力を遥かに凌駕していたのだ。

 

当時、まだミサイルや防壁の開発が進んでいなかった解放軍は、ほぼ第二次世界対戦当時の対潜装備に毛が生えた位の装備と航空機しか所持していなかった。

 

 

対するノーチラスは、防壁こそ所持してはいなかったものの、

 

艦対艦多弾頭ミサイル

 

艦対空ミサイル

 

誘導魚雷

 

超音速魚雷

 

感応式機雷敷設魚雷

 

等の最新の装備と、50ktを超える高速で解放軍を一方的に蹂躙。

 

味方に多大な犠牲を払いつつも、当時最新だった対潜兵装、噴進爆雷砲と新型対潜ロケットを使用して、敵を浮上させることに成功。

 

しかし、悪夢はまだ終わってはいなかったのだ。

 

浮上したノーチラスは降伏すると見せかけて、戦艦大和を超える大口径砲と、彼等が初めて目にすることとなった光学兵器を使用して再び攻撃を再開、解放軍艦艇を次々と海に沈めていく。

 

 

その後、浮上と潜航を繰り返しつつ彼等を蹂躙したノーチラスは、苦戦の果てに撃沈されることとなったわけだが、最終的に連合艦隊100隻とノーチラスとの死闘で生き残った艦艇は僅かに7隻。

 

 

その7隻も、全てが大破ないし中破に追い込まれた。

 

 

シュルツの指揮していた艦艇も深刻な被害を受け、多数の死傷者を出すこととなり、大量の兵力を失った解放軍は、戦力を再集結させるためにかなりの時間を浪費することになったのである。

 

 

対するはれかぜが、たとえ兵装や防壁が最新だったとしても、ノーチラスを相手に一対一の戦闘に挑み死傷者一人すら出さなかったことが如何に驚愕すべき事であるかが解る。

 

 

だが、彼の不安は払拭されなかった。

 

数多の人間を海へと引きずり込んできた化け物が、そう簡単に獲物を逃がすだろうかと。

 

 

(何もしてこなければいいが…。岬艦長、どうか無事に逃げ切ってくれ。)

 

 

「ニブルヘイム、Ωレーザーの発射準備を開始しました!」

 

 

「急速加速!奴の正面には絶対に入るな!」

 

 

ナギの悲鳴にシュルツは即応する。

超兵器の相手をしなければならない以上、はれかぜの応援にはまわれない。

今はただ、はれかぜを信じるしかなかった。

 

 

「はれかぜ現速度は110kt!」

 

 

「超兵器機関の暴走が始まってる!急いで離れよう!」

 

 

はれかぜは海を走る。

 

 

その遥か後ろの海中では、暴走を引き起こしたノーチラスがいた。

 

 

ゴゴ…。

 

 

(!?…あ、あぁ…。)

 

 

楓はようやく、ソナーから発せられる音の違和感に気付く。

 

どうして気付けなかったのかと激しい後悔が沸き上がった。

しかし、罪悪感に浸る暇など有りはしない。

 

楓は通信機に向かって悲鳴に近い声を上げる。

 

 

『魚雷、感1!後方よりいらっしゃいます!』

 

 

艦橋の雰囲気が一気に重くなる。

 

 

その時、明乃の頭に少し先に起こるであろう情景が写し出された。

 

 

「え!?嘘…でしょ?」

 

 

「どうされました?艦ちょ…。」

 

 

「総員に通達!至急艦尾側の壁に避難して!目の前に物があるときは挟まれないように退けるか、その場所は避けて!早く!¨壁が床¨になる!」

 

 

 

「は?」

 

真白を始め、はれかぜ乗員全ての頭に?マークが浮かんだ。

 

 

「ねぇ…今のミケ艦長なりのジョークって事はないよね。」

 

 

「壁が床?どゆこと?」

 

 

口々に話すクルー達には、未だ危機感はない。

明乃を除く艦橋メンバーも同様だった。

 

 

ただ、みるみる青ざめていく彼女の表情にただならぬ雰囲気を感じてはいたが…。

 

そこへ、クルーの疑問代表するかの様に真白が口を開く。

 

 

「あ、あのう艦長。仰っている意味が良く解らないのですが…。」

 

 

「量子魚雷が来る。」

 

 

彼女の一言に一同の表情が初めて状況を理解し始めた。

 

量子魚雷が、先程の戦闘中に401の居たと思われる海域での渦を巻く黒雲と何か関係が有ることは明白だったからだ。

 

 

だが、元々超兵器級艦船との戦闘が可能な蒼き鋼やウィルキア艦隊の人員とは違い、彼女達は¨本当の意味での超兵器との戦い¨を知らない。

 

不穏の空気を感じ取ってはいても、事の深刻性を十分に理解できていないのだ。

 

 

唯一岬明乃を除いては。

 

 

彼女は一度気持ちを落ち着かせ、頭をフル回転させて状況を噛み砕いていく。

そしてそれを、はれかぜ全員に即座に理解できるような言葉で吐き出した。

 

 

「シロちゃん、艦橋の会話を皆に繋げて。」

 

 

「は、はい。」

 

「ココちゃん、量子魚雷の詳細を簡潔にもう一度お願い。」

 

 

「ええ…。量子魚雷は、仕組みは省きますが、要は起動地点に超絶な重力の力場を発生させる魚雷みたいですね…。その中心付近には、はれかぜを一瞬でペチャンコにしてしまうような凄まじい圧縮力が働いているとか。そう言う意味では、蒼き鋼の侵食魚雷に似ていますが…。」

 

 

「ありがとう。そう、でも量子魚雷には侵食魚雷とは明らかに違う作用がある。」

 

 

「そ、それは何ですか?」

 

 

「シロちゃん、私達が床に足を付けていられるのは、地球の重力に引っ張られているのは解るよね?」

 

 

「はい、理科の授業で習いましたが…それが何か?」

 

 

「じゃあもし、地球の重力より強い重力を持つものが空にあったとしたらどうかな?」

 

 

「綱引きの要領で考えれば、強い方に引き寄せられますから、私達は空に向かって落下する事に…まさか!」

 

 

 

「うん、量子魚雷の発する重力は恐らく地球のそれより遥かに強い。もしそれが起動したら…。」

 

 

「はれかぜが、いや私達乗組員もそれらに引き摺られる!まずい!」

 

 

真白の言葉を皮切りに艦橋の会話を聞いていた全てのクルーが動き出した。

 

 

 

もう先程までの余裕はない。皆が一様に事に備えた。

 

 

「ヤバイよ!早く壁際に体を寄せなきゃ!」

 

 

「待って!そこじゃ、向こうの置物がこっちに来て潰されちゃうよ!別の場所を選んで…。」

 

 

「テメェら急げぃ!工具箱みてぇな重量物の前にはぜってぇ行くな!」

 

 

「おい!済まないが誰か手を貸してくれ!薬品棚を移動しておきたい。中身が散乱したら不味いことになる!」

 

 

「どうしよう…炊飯器とか壊れないように、閉まったほうが良いのかな…。」

 

 

「美甘ちゃん、炊飯器よりも身を守らないと…。それに調理場にいたら危ないよ!包丁とかも飛んでくるかもしれないし…。」

 

 

艦内は騒然となるなか、明乃は焦りを募らせていく。

イメージとしては見えていても、彼女の実体験でない以上、量子魚雷の影響を完全には理解出来ていないのが大きかった。

 

しかし、手をこまねいている隙はない。

 

 

「サトちゃん!超兵器推進装置の出力を100%に上げて!」

 

 

「え?そんなことしたら…。」

 

 

「急いで!」

 

 

「わ、解ったぞな!」

 

 

「艦長!そんなことしたら艦が転覆してしまいます!」

 

 

「超兵器との距離を開けないと大変な事になる!」

 

 

「どうしたんです!?一体何を見たんですか!」

 

 

「このままいけば、はれかぜはかなり引き戻される。良くて量子魚雷から逃げられても、暴走した超兵器機関からの爆発には巻き込まれる可能性が高い。シロちゃんも知ってるでしょ?播磨の最後を…。」

 

 

 

「くっ…。」

 

 

真白の脳裏を、播磨が爆発した時の様子が過る。

 

あの時は、フルバーストモードの401に牽引される形で何とか脱出することが出来たが、今は401もウィルキアもいない。

 

彼女達は自らの力で超兵器から逃げ切らねばならないのだ。

 

 

超兵器推進装置がフル稼働の唸りを上げ、はれかぜは更に加速していく。

 

 

 

 

そして遂に。

 

 

カチン…。

 

 

超兵器を超兵器足らしめている兵器が…。

 

 

グゥウウォォォン!

 

 

彼女達に襲い掛かる。

 

 

 

「な、なんだあれは!」

 

 

「…来た。」

 

 

遠くの水中で鈍い光が見えた。

 

 

次の瞬間。

 

 

ヴォン…。

 

 

「うぐっ!?」

 

 

はれかぜクルー全員の体に、重石を乗せられたような圧が掛かった。

 

 

『ほ、報告!はれかぜ後方にてちょ、超兵器の兵装がき、起動…。あ゛ぐぁ、空には、暗雲が…あ゛あ゛…海、には渦が…!?』

 

 

 

「見張りは良いから、早く伏せて!あ、あ゛ぁ゛!」

 

 

明乃も必死で立とうとするが、体が重く踏ん張るのがやっとだった。

 

他のクルー達も、不意に訪れた感覚に体が付いていかない。

 

だが、これはまだ序の口に過ぎなかった。

 

 

「う…速度90ktに…低下!まだ下がります!」

 

 

「何故…超兵器推進装置は全開なのに…。」

 

 

「引き…寄せられてる?」

 

ヴォォォン!

 

 

「!?」

 

 

「あ゛あ゛ぁ…。」

 

 

体に掛かる重みが更に増していく。

だが、それだけではない。

 

「う、後ろに引っ張られる?」

 

 

明乃達はその場に踏ん張った。

 

艦が傾いているわけでもない。

彼女達は、まるで急な坂道を転がり落ちないように片足を後ろに突き出して耐える。

 

 

 

「う゛…こ、こりが、量子…魚雷か!」

 

 

「皆、今の内に壁際に避難…しよう。この体制じゃ…危ない!」

 

 

明乃達は、艦橋の壁へと移動する。

背中が壁に支えられルため先程よりは楽だった。

だが、

 

 

「り、リンちゃんも早く!」

 

 

「だ、ダメ!陀輪を離し…たら、艦が!あ、ああぁ!」

 

 

「リンちゃん!」

 

 

「な、なんだ?」

 

 

一同は唖然とする。

 

陀輪を握り締めた鈴の脚が、後ろの壁の方に向かって¨宙に浮いた¨のだ。

 

 

 

「い…や、嫌!何これ!?怖いよぉ!」

 

 

「リンちゃん落ち着いて!」

 

 

「いや…いやぁぁぁ!」

 

 

完全にパニックに陥った鈴に、明乃の声は聞こえていない。

 

 

明乃は意を決した。

 

 

「か、艦長?」

 

 

明乃は立ち上がった。

それも艦橋の¨壁¨からだ。

 

「リンちゃん落ち着いて!私に身体を預けて!」

 

「ひっ!か、艦長?」

 

そして、陀輪にぶら下がる鈴の腰に腕を回した。

 

「早くこっちに!」

 

「うぅ…解った。」

 

 

鈴は、漸く陀輪から手を離し、明乃に身体を預ける。

 

そこで二人が見た景色は、常識を根底から覆す光景だった。

 

 

「何…これ…。」

 

「ねぇ艦長…わわ、私、頭おかしくなっちゃったのかなぁ…。」

 

 

「大丈夫…私も多分、リンちゃんと同じものを見てるから…。」

 

 

二人は今にも目眩を起こしそうな衝動に駆られる。

 

それは普段、正面にある艦橋の窓が真上にあったからだ。

更に、左右を見ると海の水平線が¨縦¨に見えている。

と言うよりも、空へと伸びる海に乗って、はれかぜが昇っていくような感覚に近いものだった。

足元には、真白や芽衣達がいる。

実際には壁に寄りかかっているだけなのだが、二人には¨壁に寝そべっている¨ようにしか見えなかった。

 

 

「もう、頭がグチャグチャだよぅ…。」

 

 

そう言って泣きじゃくりながら明乃の手を握り続けている鈴を、何とか落ち着かせようとしながらも自分自身もまだ混乱の渦中にいる彼女の額にはジト…と汗が滲んでいた。

 

 

一方の艦内に於いても、混乱は広がっていた。

 

   +

 

「な、に?…どうしよう。もうワケわかんない…。」

 

「物も散乱してるし、身体は重いし…。」

 

「ねぇ…何か頭がボーっとする感じがしない?」

 

「私も…。」

 

   +

 

「…う~ん。」

 

 

「どうしたの機関長?壁で胡座をかいて。」

 

 

「何かすごい光景だね…SF映画の世界みたい。」

 

 

「テメェら何か感じねぇか?」

 

 

「麻侖も気付いた?」

 

 

「あぁ…どんどん身体に掛かる重みが増してやがる、それに…。」

 

 

「うん…それになんか身体がダルい?のかな…。」

 

 

   +

 

 

「薬品棚、崩れなくて良かったね。」

 

 

「いや…事態はより深刻になっているのやもしれん。」

 

 

「どういう事?」

 

 

「私達の身体は、飽くまで地球の重力に適応した身体だ。もし、それ以上の重力が掛かれば…。」

 

 

「ど、どうなるの?」

 

 

「潰れるだろうな、確実に。だが、その前に意識が無くなるだろうが…。美甘、お前も気付いているだろう?身体の重さ以外にな…。」

 

 

「うん。なんかボーっとするみたいな…。」

 

 

「脳に血液がうまく行き渡っていないんだ。身体を上手く動かして循環させれば大丈夫だが、これ以上重力がきつくなれば自由も利かなくなる。」

 

 

「ど、どうなっちゃうの?」

 

 

「脳にある血液が偏れば、血液に含まれている酸素が行き渡らない脳細胞は壊死する。そうなれば、至る所に機能障害が残るか、植物状態や記憶、精神の意味消失、最悪死に至る事もある。」

 

 

「そんな…。大丈夫だよね?きっと乗りきれるよね?」

 

 

「………。」

 

 

美甘の問いに美波は答えなかった。

 

 

 

   +

 

 

マチコは見張り台に垂直にしゃがみ込みながら周囲の様子を観察していた。

 

 

(海がまるで壁の様だな…。)

 

 

重力の影響で天地が90度回転してしまった状況にも関わらず、彼女は未だに冷静に観測を続けている。

 

そんな彼女が下を覗き込むと、はれかぜの遥か後方に巨大な渦が見えた。量子魚雷が作り出した大渦巻きである。

あれが発生して以降、はれかぜの速度はみるみる低下していった…と言うよりも、今はむしろ後退しているようにも思える。

 

 

ジリジリと渦に近づくにつれ、波が更に高くなり、身体が重くなっていくのを感じた。

 

 

 

(!!!?)

 

 

 

マチコはそこで気付く。巨大な渦の更に後方に、不気味な紫色の光を見たからである。

 

 

「くっ…!」

 

 

彼女は見張り台に飛び込み、急いで明乃へと通信を繋いだ。

 

 

「か、艦長!」

 

 

一方の艦橋では。

 

「はれかぜ、現在の速力は-18kt!引き摺られています!」

 

 

『か、艦長!』

 

 

「どうしたの?」

 

 

『超兵器が…超兵器が接近してきました!』

 

 

「え…。」

 

 

「馬鹿な…あれほどの攻撃と暴走による自壊があって、尚も動けるのか?」

 

 

真白は、愕然とする。

ふと見ると、明乃は険しい顔で拳を強く握り締めていた。

 

 

「ど、どうされました?」

 

「甘かった…。」

 

 

「何がです?」

 

 

「引き寄せられているのは私達だけじゃない。¨超兵器自身¨も量子魚雷の重力からは逃れられないんだよ!そしてそれを利用したんだと思う。」

 

 

「利用…ですか?」

 

 

「うん!超兵器は、量子魚雷を使うことで、私達と超兵器自身を近付けて¨自爆¨するつもりなんだと思う。」

 

 

「!」

 

 

超兵器の真意を理解した一同は驚愕した。

 

 

「ど、どうすれば良いの?」

 

 

「………。」

 

 

「艦長!」

 

 

「解らない…。」

 

 

「え?」

 

 

いつも困難な時、最善の解を最短で導き出してきた明乃の口から溢れた言葉に、一同は一瞬聞き間違えなのではと困惑した。

 

しかし、彼女はその考えを否定するかのように口を開く。

 

 

「解らない。どうすれば良いのか解らないよ…。」

 

 

「そんな…。うっ!」

 

 

「メイちゃん!?」

 

 

「急に…意識が…遠くなって…。」

 

 

「重力が…更に強くなっ…くそ!頭が…割れそうに痛い…。」

 

 

「身体が…重い…うぅ、怖いよぉ…。」

 

 

一同が、強烈な重力に頭を抱え、苦しみに悶える。

 

艦内の至る所でも呻き声が上がっていた。

 

明乃の自身も、身体の重みに堪えかねてその場にしゃがみこむ。

 

「うっ…くっ!」

 

堪え難い苦痛と、どうすることも出来ない悔しさが込み上げてくる。

 

 

強烈な重力と暴走した超兵器機関の爆発。

 

正に絶対絶命のピンチであった。

 

明乃は意識が遠くなるような感覚に襲われる。

脳に血液が上手く循環していない証拠であった。

 

(もう…ダメ!)

 

 

 

明乃の意識が今、正に途切れようとした時だった。

 

 

「うぅ…。あ、あれ?」

 

 

「身体が、軽くなっていく?」

 

 

真白は手足を動かしてみた。

先程まで、縛り付けられていたかの様な事感覚が徐々に薄れていく。

 

明乃も額に玉の様な汗を光らせながらも立ち上がった。

 

「はぁ…はぁ。量子魚雷の効果が…切れた?チャンスかもしれない。出来るだけ距離を稼がなきゃ!マロンちゃん大丈夫?」

 

 

『ああ…何とかな。だが、ソラとサクラが気絶しちまった。レオとルナが手当てをしてる…。』

 

 

攻撃の影響で行動不能になった人員がいることに、明乃は内心動揺しながらも言葉を繋ぐ。

 

「命に別状は?」

 

 

『多分…無い。で?何がやりてんでぃ。』

 

 

「加速している時間が惜しいの。急加速装置で一気に加速したい。頼める?」

 

 

『解った。だが人手が足りねぇ。三分…いや、二分くれ。』

 

 

「解った、お願い。美波さん、怪我人の状況を確認できる?」

 

 

『………。』

 

 

「美波さん!大丈夫!?返事して!」

 

 

 

『うぅ…どうしよう艦長!』

 

 

「ミカンちゃん?」

 

 

『美波さんが…美波さんが起きないよぉ!』

 

 

美甘はパニックになっているのか、泣きじゃくりながら捲し立てた。

 

 

「え!?何があったの?」

 

 

『急に…美波さん、う…うぅ、倒れちゃって。私…何も出来なくて…。』

 

 

「落ち着いてミカンちゃん!息はある?脈は?」

 

 

『え?あっ…だ、大丈夫。息はあるみたい。』

 

 

明乃は一先ずほっとする。

 

「美波さんは倒れる前に何か言ってなかった?」

 

 

『え、えっと…あ、もしかしたら重力の影響で、脳に血液と酸素が行き渡らないかもとか言ってた。』

 

 

「解った。美波さんは多分大丈夫。ミカンちゃんは平気?」

 

 

『何とか…ちょっとフラフラするけど…。』

 

 

「よく聞いて!はれかぜは、これから急速加速に入る。今艦橋は、状況の把握をする暇が無いの。ミカンちゃんは加速の前に皆と手分けして、怪我をした人の確認と衝撃に備えて安全な所で伏せるように伝えてほしいんだ。」

 

 

『わ、解った。』

 

 

美甘は慌てて走り出す。

 

 

キィィィィ!ギィィィイ!

 

 

はれかぜが離脱に向けて動き出す中、超兵器機関の暴走は臨界に向けて唸りを上げていた。

その不気味な紫色の光は艦橋の艦橋からも伺う事が出来る程に強く輝く。

 

 

明乃は超兵器の自爆の事をクルーに伝えてはいない。更なるパニックを起こさない為でもあった。

 

だが動ける者の顔は、まるで死神に追い立てられているかの様な必死の形相をしている。

 

 

彼女達の勘が、ここに居ては危険であると本能的に警鐘を鳴らしているのだ。

 

 

「クロちゃんまだか!?」

 

「もう少…し!よし、良いわよ!」

 

 

『艦長!いいぜ!』

 

 

 

「解った!総員、衝撃に備えて!急速加速!」

 

 

キュィィン!

 

 

「うぉ!」

 

 

真白は凄まじい加速に思わずよろけ、明乃がその身体を受け止める。

 

 

(間に合って…間に合って間に合って間に合って!)

 

 

明乃は祈った。

誰も失いたくない、そう言う気持ちの表れでもある。

 

 

はれかぜは、矢の如く突き進む。

転覆の危険も顧みず突き進む様は、彼女達がどれだけ追い詰められているのかをものがっていた。

 

 

超兵器とはれかぜの距離がみるみる開いていく。

 

 

(もう少し…もう少し離れれば。)

 

 

だが…。

 

 

ギィィィイ!

 

「超兵器ノイズ極大化!臨界に達している模様です!」

 

 

(くっ…間に合わなかった!?)

 

 

明乃を含めた誰もがそう思ったとき。

 

 

《アナタ■マダ沈ン■■イケナ■。》

 

 

「え?なに?」

 

 

突如頭に聞こえたきた声に明乃は動揺する。

だがそれは、超兵器ノイズを観測していた幸子からの声に描き消された。

 

 

 

 

「超兵器ノイズが弱まっている?」

 

「どういう事だ?」

 

「解りません…解りませんが…。」

 

 

「今のうちに距離を稼いだ方がいいな。」

 

 

 

 

 

真白の意見に反対の者は皆無だった。

だが、明乃の心はざわつく。

先程の声は、以前感じたはれかぜの魂とも、超兵器の意思とも違う雰囲気を感じたからであった。

それは確固たる義務感とそれと同量の苦痛に近いものだった。

 

 

《必ズ辿■着イテ。北■海ヘ…ソシテ…。》

 

 

(まただ…。)

 

明乃は聞き逃すまいと意識を集中させるが、何故か何かに邪魔をされているかのように上手く聞き取れない。

 

 

 

《オ願■。私ヲ■■テ、全テ■■■■セテ…。》

 

 

(誰!?あなたは一体誰なの?)

 

 

《抑エ…キレナイ…。》

 

 

声はそれきり途切れてしまう。

 

 

「艦長!超兵器ノイズ再び極大化!爆発します!」

 

 

ギィィィイ!

 

 

辺りがみるみる光に包まれていく。

 

「ま、巻き込まれるぞ!」

 

 

「皆!伏せて衝撃に備えて!手が空いていたら、耳と鼻を塞いで口を閉じて!」

 

 

明乃が叫び、全員がその場に伏せた直後だった。

 

 

ギィィィ…

 

ブゥゥオオオオン!

 

 

凄まじい衝撃波と爆音がはれかぜに襲いかかった。

 

波は掻き回され、艦が激しく揺れる。

 

「う、あああああああ!」

 

 

耳を塞いでいても意味を成さない程の轟音と激震に、誰もが悲鳴を上げた。

そして、超兵器の爆発によって生じた水蒸気がはれかぜを覆い、大海原に揺れる小さな船の姿を完全に隠してしまったのだった。

 

 

   + + +

 

 

ゴクリ…。

 

シュルツは思わず唾を呑み込んだ。

 

 

遥か彼方の空には黒い雲が渦を巻いており、はれかぜに向かって量子魚雷が放たれた事は明白だった。

更にだ。

 

 

ピカッ!…ゴォォオオ!

 

 

その後に起こった光は、暴走した超兵器が大爆発を起こしたことを窺わせている。

 

 

「な、ナギ少尉!はれかぜとの連絡はどうか?」

 

 

「だ、駄目です!量子通信をもってしても全く通じません!」

 

 

「大戦艦ヒュウガに連絡をとれ!彼女のセンサーなら或いは…。」

 

 

『無駄よ。』

 

 

「大戦艦ヒュウガ…。」

 

 

『量子通信が通じない理由は二つあるわ。一つは超兵器機関の引き起こす爆発は、一時的にだけど時空をも歪ませるレベルの規模で発生するの。その歪みが収まらない限り、私のセンサーですら感知は難しいわ。二つ目だけど、はれかぜが完全に…。』

 

 

「………。」

 

 

 

ヒュウガはその先を言わなかった。

 

だが、シュルツですら予想していた事態でもある。

 

 

ドン!

 

 

「くそ!」

 

 

シュルツは、思わず壁に拳を叩き付ける。

 

 

(アームドウィングは潜水艦だ。同じ潜水艦なら量子魚雷を装備している事くらい予想できたと言うのに…。)

 

 

後悔の念が彼に大きくのし掛かる。

 

はれかぜの乗員は軍人ではない。

 

粉々になった死体の山など見たこともない普通の女性なのだ。

 

本来それを守る筈の自分達解放軍が、むざむざ尊い命を失わせてしまった事は、恥以外の何物でもなかった。

 

 

「超兵器…貴様らは一体、幾つ命を奪えば気が済むんだ!」

 

 

ギリッ!

 

 

シュルツはニブルヘイムを睨み付ける。

その鬼気迫る形相に、回りにいる者は誰も話し掛けることが出来なかった。

 

 

 

   + + +

 

 

「嘘…だろ?」

 

 

遠くの空に見える黒雲を吹き飛ばした超兵器の爆発を目撃した江田は、思わず唾を呑み込む。

 

 

「芽衣…さん。」

 

 

彼は力無く呟いた。

 

まだ彼女が、死んだとは決まっていない。直ぐにでも安否を確認したい。だが、確認した果てに彼女の死を観測してしまえば、否応なしにそれを認めることになってしまう。

昨日まで隣にいた戦友が明日には居なくなることが珍しくなかった江田にとって死はとても身近なものなのである。

 

 

芽衣は江田が超兵器に特攻を掛け、撃墜された時にショックで泣き叫び、意識を失ったと聞いていた。

 

 

今なら彼女の気持ちが解る。

操縦桿を握る手足が痺れ、言うことを聞いてくれない。

真っ直ぐ飛んでいる筈なのに視界が歪むような錯覚に陥り、今にも絶叫し錯乱しそうになる。

 

 

「うぅ…くそっ!」

 

 

だが江田は目尻に滲む涙を堪えつつ前を向く。

 

 

(しっかりしろ!生きていていることだけを考えろ!自分に生きろと言ってくれた人を信じろ!)

 

 

そう自分の心を叱咤し、彼はセイランのスロットルを上げていく。

 

 

そうして数分もせぬ内に爆心地付近に辿り着いた江田は、はれかぜを探す。

 

辺りは凄まじい水蒸気の湯気で視界が思うように取ることが出来なかった。

 

 

(くそ…思うように見渡せない。はれかぜは…芽衣さんは無事なのか…ん?)

 

 

 

江田は目を凝らす。

一瞬、何かの構造物らしきものが見えた。

彼はセイランの機体をそちらに向けて接近する。

 

 

「あっ!あれは!」

 

 

視線の先、水蒸気の中から一隻の艦が姿を現した。

 

 

 

「はれかぜ…無事だったんだ!はれかぜ!こちら江田、応答願います!岬艦長!応答願います!」

 

 

 

   + + +

 

 

「ん…私、生きてる…の?」

 

 

意識を取り戻した明乃は手足の痺れや耳の痛みと目眩に苛まれながらも、立ち上がる。

 

 

見渡すと、辺りには仲間達が倒れており、外はもやに覆われなにも見えなかった。

 

 

(う…フラフラする…どの位気絶してたんだろう。そ、そうだ私達は超兵器機関の爆発に巻き込まれて…。)

 

 

彼女は朦朧とするなか、近くにいた真白に歩み寄る。

頬に手を当てると「んっ…。」と反応が帰ってきた。

 

 

 

(大丈夫…息はあるし、目立った怪我もない。超兵器推進装置は…セーフティが作動して止まっちゃったのかな。)

 

 

一先ずは安堵するが、状況は芳しくない。

 

恐らくは、艦内にいる仲間達も気絶しているのだろう。

 

事実上、はれかぜは漂流しているのだ。

 

これ以上事態を放置し、絡を途絶させた状態では、スキズブラズニルとの合流も難しくなる。

 

 

「み、皆起きて!」

 

 

「うっ…ん…。か、艦長?はっ!艦長!私達は一体?」

 

 

真っ先に目を覚ました真白が、動転したように捲し立てた。

明乃は笑顔を向けて彼女を落ち着かせる。

 

 

「落ち着いてシロちゃん!とにかく皆を起こそう。それから状況を把握して、スキズブラズニルと合流しなきゃ。」

 

 

「あっ、はい!」

 

 

二人は急いで仲間を起こす。

其々が頭を抑えたりフラつきながら何とか立ち上がった。

 

 

その後、真白を中心とした数人が艦内を回り、怪我人無や設備の破損の有無を確認する。

 

幸いな事に、死者や重傷者はいなかったが、何名かは倒れた際に怪我をした者や、耳に異常を訴える者は居た。

破損も軽微である。

 

 

明乃は美波に怪我人の治療をお願いし、機関部に点検の指示を出してから

、鶫にスキズブラズニルへの連絡を頼んだ。

 

 

一息つく間も無く、辺りを見渡すと、未だにもやの中からは脱出出来てはいない。

 

明乃は内心悔しさを噛み締めていた。

こうしている間も、シュルツや群像は死地に立ち続けている。

 

そこへ支援に行けないばかりか、仲間に怪我を負わせてしまったのだ。

 

 

超兵器は消滅した。

形から見れば明乃達の勝利なのであろう。

 

だが、ソレが放った未知の兵器は、彼女達の心に大きな傷を残す結果となった。

 

 

「あ、あうっ!?き、ひっ…ひっ…。」

 

 

「!!?」

 

 

「知床さん!」

 

その苦しそうな声と幸子の悲鳴に明乃は慌てて振り替えると、鈴が喉や胸を抑えその場にへたり込んでいた。

 

 

「リンちゃん!リンちゃんどうしたの?大丈夫?」

 

 

「み、さき…さん…ひっ…ひっ…かはぁ…くるし…こわ…い。」

 

 

「リンちゃんしっかり!今美波さんを呼ぶから!」

 

 

『その必要はない。もしや航海長は呼吸が早くて苦しそうにしているんだろう?』

 

 

「美波さん!?そ、そうなの!お願い助けて!」

 

 

『落ち着け。周りがパニックになると更に症状を悪化させるぞ。それは過度のストレスによる過呼吸だ。こっちも今、何人か対処してる。』

 

 

「過呼吸!?どうすればいいの?」

 

 

『呼吸のバランスの乱れだ。大概は数分で収まるが、あの攻撃の後だ。そう上手くはいかない。周りにいる者は出来るだけ手を出すな。航海長に口の回りを空間を開けて手で覆うよう指示しろ。くれぐれも、ピッタリ抑えるなよ。窒息の危険がある。』

 

 

明乃は美波の指示通りにリンに口の回りを覆うよう促した。

彼女は震える手で何とか口元を抑えている。

目に涙をうかべ苦悶の表情を見せる姿は痛々しかった。

 

 

「その後はどうするの?」

 

 

『息の吸うと吐くの一サイクルを十秒間かけてゆっくりと行え。吸う:吐くが1:2の割合だ。出来るだけ息を吐く事を意識させるんだぞ。もしそれでもパニックになるようなら、胸や背中をゆっくり押して、呼吸をゆっくりするように促し、声を掛けて気分を落ち着かせてやれ。』

 

 

 

「解った!ココちゃん、リンちゃんを後ろから支えて!」

 

 

「わ、解りました。」

 

 

「リンちゃん、大丈夫。もう大丈夫だよ。だからゆっくり息をして。息を吐くことを意識して。」

 

 

「知床さん、ほら吸って、吐いて~。」

 

 

明乃はリンの額に自分の額を当てて深呼吸をしつリンに同じリズムで呼吸するよう促す。幸子も、背中をゆっくり押して介助しつつもう片方の手で肩を擦って落ち着かせた。

 

 

「ひっ…かはっ…はぁ…はぁぁ…。」

 

 

彼女は漸く落ち着き、呼吸が安定した。

だがまだ手足が痺れているのか、幸子に背中を預けたまま虚ろな目で明乃を見つめる。

 

 

(リンちゃんあんなに苦しそうに…きっと怖かったんだ。)

 

 

彼女の心に、なにも出来なかった自分と、超兵器に対する怒りが沸々と沸き上がってくる。

 

 

 

その時だった。

 

 

「か、艦長!もやから抜けるみたいだよ!」

 

 

芽衣の声に我に帰った明乃が外を見ると、視界が徐々に開けてきた。

 

 

『はれかぜ!こちら江田、応答願います!岬艦長!応答願います!』

 

 

「江田さん!?」

 

 

「健一くん?どうしてここに?」

 

 

『良かった…無事だったんですね?連絡が途絶したので心配になって…。』

 

 

「そうだったんだ。ゴメンね…心配かけて。」

 

 

『いいえ。生きていてさえくれれば…あっ、すみませんでした〃〃。えぇっと、シュルツ艦長も心配しておられます。一応報告をお願いできればと。』

 

 

「解りました。此方から伝えます。」

 

 

『はい。それでは私は…。』

 

 

「健一くん!」

 

 

『はい?』

 

 

「健一も、無理しないで…。」

 

 

『ありがとうございます。必ず帰ります。』

 

 

「ん。」

 

 

江田を乗せたセイランは、はれかぜから離れていく。

 

それを見届けた明乃は、シュルツへと連絡をとった。

 

 

「こちらはれかぜ。」

 

 

『岬艦長!?ご無事だったのですか?』

 

 

「はい。軽傷者は居ますが、全員無事です。機関に問題が無ければ、私達はスキズブラズニルと合流し、補給と応急修理の後にそちらの支援に当たります。」

 

 

『………。』

 

 

「シュルツ艦長?」

 

 

『誠に遺憾ながら、承服出来ません。』

 

 

 

「え?」

 

 

思わぬ返答に明乃は、動揺する。

 

 

 

『はれかぜ及び乗員の皆さんは、恐らく満身創痍な筈です。このまま戦線に復帰されても足手まといになるだけです。』

 

 

 

「でも!」

 

 

『岬艦長。私の話をよく聞いてください。かつて超兵器が放った未知の兵装を初めて受けた我々は、精神をかなり疲弊しました。あなた方もそうなのでは無いですか?』

 

 

「………。」

 

 

『お気持ちは解ります。自らの世界を他世界の人間に一任してしまうことは、さぞ悔しい事でしょう。ですが、冷静な状況判断を下せない者を現場に出すことは出来ません。解りますね?』

 

 

「…はい。」

 

 

戦場にいるとは思えない程、穏やかな声で話すシュルツに、明乃はぐうの音も出なかった。

 

 

 

『岬艦長。世界を守るためには、必用なものが最低二つは要る。一つは、立ちはだかる障害を排除する存在。そして…。』

 

 

シュルツはまるで子供を諭す様に努めてゆっくりと明乃に語り掛けた。

 

 

『障害に怯える者達と心を同じくして寄り添う存在です。』

 

 

「!」

 

 

明乃は目を見開いた。

 

 

『傷付いた世界を癒すのは、武力ではない。あなたならそれを理解している筈だ。ブルーマーメイドのあなたなら。』

 

 

「シュルツ…艦長。」

 

 

『解りますね?武器を取らなければ大切な者を守れない、しかし武器を手に取ったままでは大切な者に寄り添えない。決して忘れてはいけません。今は体制を整え、来るべき時に備えて下さい。』

 

 

「来るべき時?」

 

 

『はい。この戦いは飽くまで前哨戦に過ぎない。恐らく、真の戦いはこの先にある。その時、罪無き民衆に降りかかる灼熱の業火を払い、海に流れる血を減らし、心を癒せるのはあなた方だけです。それまでは、私達を信じてこの場を任せて頂きたい。』

 

 

明乃は、悔しさを滲ませながらも頷く。

 

 

「…解りました。この場をお任せします。どうか気を付けて下さい。」

 

 

『…ええ。必ず、超兵器を打倒して帰ります。それと岬艦長。』

 

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 

『申し訳ありませんでした…。』

 

 

「…え?」

 

 

『はれかぜの皆さんを助けられず怖い思いをさせてしまった事、此からもその様な戦いに巻き込んでしまう事、そして何よりも…人に寄り添えと言っておきながら、結局はあなた方にはれかぜを与え軍人の様な事をさせてしまった事。本当に後悔してるんです…優しくて、誰よりも他者を思いやれる心を持った方達なのに…。』

 

 

「そんな事有りません!後悔してるだなんて言わないで下さい!だって私達は…。」

 

 

『いえ、良いのです。では、どうか待っていてください。あなた方の進む道を切り開いて来ます。』

 

 

「待って!シュルツ艦長!」

 

 

通信が切れる。

明乃はその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

実際、明乃の表情は普段とはあまり変わらない。

それは、彼女自身が心を抑えているに他ならなかった。

 

元々、周囲へ当たり障りの無い対応をする明乃は、自身の本音をなかなか吐露することは少ない。

更に、現在彼女は負の感情を強く抱くと、超兵器の意思から干渉を受けてしまう事も相まって、自身の心を強く抑えているのだ。

 

 

「岬…さん。」

 

 

「り、リンちゃん!?」

 

 

立ち尽くす明乃に、鈴が弱々しい声で語りだした。

 

 

「どうしたの?まだ無理しちゃ…。」

 

 

「岬…さん。我慢…しないで…私達、仲間だよ?辛い時も…悔しい時も、一緒じゃなきゃ…ダメ。だから…岬さんが辛いなら…苦しいなら、我慢せずに言って欲しい…私達、受け止める…から。どんな感情でも…受け入れるから!…ケホッ…ケホッ。」

 

 

「知床さん。まだ無理しちゃダメです!」

 

 

「一体何が起きたんだ?」

 

 

「シロちゃん…。」

 

 

「な、何でしょう?」

 

 

「気付いてたんだ…私。」

 

 

「何をです?」

 

 

「超兵器が私達に手加減してた事、本当はペガサスや401が本命で、私達は足留めされてただけだって事。」

 

 

「そんな…だって我々だって散々超兵器を追い詰めてきたではありませんか!」

 

 

「だったら、どうして初めから量子魚雷を撃たなかったの?」

 

 

「そ、それは。」

 

 

「超兵器達の真意は解らない。だけど此だけははっきりしてる。超兵器にとってウィルキアや蒼き鋼は邪魔な存在で、私達は取るに足らない存在だった。何時でも倒せるって…少なくともノーチラスを追い込むまでは。」

 

 

 

「どういう事ですか?」

 

 

「最後の方は明らかに私達を仕留めに来てた。量子魚雷も多分そう。恐らくは超兵器としても私達の健闘は誤算だったんだと思う。だからこの際、始末しようとしたんだよ。」

 

 

「ですが私達は、ノーチラスを打倒しました。」

 

 

「そうかな…。」

 

 

明乃はうつ向きながら続ける。

 

 

「確かに、ノーチラスは倒した。でも超兵器はまだ残ってる。それも今回以上の相手が…。」

 

 

「……。」

 

 

「それにシロちゃんも見てきたんでしょう?皆の様子どうだった?」

 

 

「ショックを受けて怯えている者もいました…。」

 

 

「うん…。きっとそうだと思う。もしかしたら怪我は軽くても、もうはれかぜには乗れないかもしれない。ううん、もしかしたら次に陸上がったら二度と海には戻れないかもしれない。艦は一人で動かすものじゃないから、結果としたら超兵器の思惑通りだったのかもしれないね…。」

 

 

「…艦長。」

 

 

「シロちゃん、皆…。悔しい…悔しいよ!今もシュルツ艦長や千早艦長が戦ってるのに、私…何も出来ない!それに皆にも、こんな怖い思いをさせちゃった!本当に大切な【家族】なのに。」

 

 

明乃は涙を抑えきれなかった。

 

普段はクルーに不安を与えない為に冷静を装っていた彼女の心が溢れてしまったのだ。

 

 

「うぅ…あ…ああぁ!」

 

 

声をあげて泣く明乃に、周りの仲間達も、死と隣り合わせの状況下からの開放と、超兵器の恐怖が蘇り、艦橋内に啜り泣く声が聞こえた。

いや、艦橋だけではない。

はれかぜ艦内の至るところで、同様に仲間達が泣いていた。

彼女達とて、志しを同じくしてはれかぜに乗ると決心した者達だったからだ。

 

 

だが、超兵器の攻撃は彼女達の心を意図も簡単に打ち砕いてしまった。

 

 

 

ダンッ!

 

「ま、麻侖!?」

 

 

「くそっ!」

 

 

麻侖は壁に拳を叩き付ける。

いつもならここで明乃に檄をいれるところであるが、身体が恐怖を覚えてしまっているのだ。

 

 

(何でだ!何で艦長に《そんなことねぇ!くよくよしねぇで前を向きやがれ》って言えねぇんだよ私は!)

 

 

 

ダンッ!ダンッ!

 

 

「麻侖!もうやめてよ!それじゃ手が…お願いだから!」

 

 

目に涙を浮かべながら洋美が止めようとするが、麻侖は一向に聞かなかった。

 

 

「くそっ!…ちっくしょうぉぉぉぉ!」

 

 

涙を流し、悔しさを露にしているのは皆同じだった。

 

 

 

彼女達を乗せ、はれかぜは進む。

 

 

彼女達の涙を乗せて。

 

 

その悔しさの味は、皮肉にも海の味と似ていた。

 

 

 

はれかぜ

 

当海域より撤退す…。

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。

あえなく撤退となったはれかぜですが、それを説得するのが軍人であるシュルツと言うところが、個人的に書き込みたい場面となりました。


ミケちゃんは飽くまでもブルーマーメイド。



100年以上の平和な世を過ごすとつい忘れてしまいがちですが、シュルツは戦争で疲弊した世界から来ていますので、ミケちゃん達にだけは、戦争に馴れて欲しくないと考えていたのかもしれません。


次回まで今しばらくお待ちください。





























とらふり!



真白
「艦長…。」



芽衣
「何々?リンちゃんに艦長へのセリフ取られて意気消沈してんの?」



真白
「な、違っ!急に何を言うんだ!」


芽衣
「でも惜しかったねぇ~。艦長に起こして貰う時、副長じつ実は起きてたでしょ?」


真白
「お、起きてない!だから艦長の顔が私に急接近した事も知らない!てか一部始終見てたのか?」



芽衣
「さぁ~♪でも、あんなに顔を赤くしてたら誰でも気付くんじゃないかな。艦長以外は。」



真白
「え?私、そんなに顔に出ていたのか?平静を保ったつもりが…。」



芽衣
「やっぱり起きてんじゃん。」



真白
「ぐっ…。わ、私だってたまには殺伐した関係じゃなくて甘あ~い雰囲気になっても良いじゃないかぁ!」


芽衣
「何も泣かなくたって…でもそこが副長の良いところだと思うよ。ファイト、副長!」





それではまたいつか
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