トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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お疲れ様です。


引き続き、西進組の戦いになります。


それではどうぞ。


巨人の足音  VS  超兵器

   

   + + +

 

 

 

空母メアリースチュアートの通信員、エミリア・ケイト・ジーナスは極限の緊張を強いられていた。

 

 

 

彼女はかつて、自らの世界に於いてウィルキア解放軍の別動隊に所属しており、超兵器ヴィルベルヴィント討伐の先鋒を勤めるべく出撃した。

 

 

しかし、未知なる技術を有した超兵器と初めて遭遇した艦隊は早々に壊滅、何とか敵の機関を損傷させたものの、残るはエミリアが乗る一隻だけになり、超兵器や周りに展開している敵艦隊に完全に囲まれてしまう。

 

 

そこへ駆けつけたのがシュルツ達であった。

 

 

艦長が戦死し、機関も故障して動けなくなった艦から彼女は必死に助けを呼び掛ける。

 

 

 

シュルツは、超兵器撃沈と仲間の救出の二者択一を迫られるが、卓越した指揮によりその二つを同時に完遂した。

 

 

 

その後彼女は、同期であり親友でもあるナギと再開し、共に出口の見えない戦いに身を投じて行く事になる。

 

 

 

あの時も死を覚悟したが、今の状況はそれを上回っていた。

 

 

人間はあらゆるものに慣れる。

 

 

彼女自身もそう思っていた。

 

 

しかし、

 

 

麻痺しているだけで、自らに訪れる死の恐怖をそう簡単に拭える者などそう居るわけではない。

 

 

 

 

(ナギ…あなたも今、私と同じ様な怖い思いをしているの?私は…怖い。)

 

 

 

再び蘇ってしまった恐怖を振り払うかのように、彼女は首を横に降って前を向き続けた。

 

 

いずれにせよ、世界の…いや、次元を超えた先ですらも、追ってくる超兵器を打倒しない限り、差し迫った死からは決して逃げられないのだから…。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

超兵器艦隊のミサイル発射菅が次々と開かれて行く。

 

 

 

そして…。

 

 

 

ブッシュォォォ!

 

 

 

数百ものミサイルが異世界艦隊の元へと殺到した。

 

 

 

「迎撃急げ!弾頭が何か解らない以上、何が起きるか解らない!」

 

 

 

メアリースチュアートと弁天。

そして、プラッタ級を追っていたタカオやキリシマも空を覆い尽くすミサイルを次々とと迎撃していった。

 

 

そこでもえかはあることに気付く。

 

 

 

「な、何?何か降ってきてる。」

 

 

迎撃されたミサイルから、黒い液体のような物が雨の様に海面に降り注ぐ。

 

 

 

「タカオ、あの黒いモノは何?」

 

 

 

チ…  チ…。

 

 

 

「重油…かしら。」

 

 

 

「重油?なんでこんな事を…。」

 

 

青く澄んだ海が、ドス黒く汚されて行く。

 

 

もえかは心に怒りを覚えつつも、超兵器のここへ来ての行動の意味が理解できずにいた。

 

 

 

いや、もえかだけではない。

 

 

この場にいる全ての者が、超兵器艦隊の真意を計りかねていた。

 

 

 

ヂ…。

 

 

「!!?」

 

 

 

「タカオ?」

 

 

「パーフェクト・プラッタがこっちに来る。ううん…三隻いるプラッタ級全てが、重油の撒かれた所へ接近しているわ!」

 

 

 

「タカオ、もう一度ウィルキアから提供されたプラッタ級の情報を出して貰えるかな?」

 

 

 

「了解。」

 

 

チ…。

 

 

 

もえかは表示されたモニターを見つめる。

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

超巨大光学迷彩戦艦【リフレクト・ブラッタ】

 

対46cm砲防御

 

速力 37kt

 

兵装

60口径50.8cm砲

60口径25.4cm砲

88mm連装バルカン砲

ミサイル発射機

新型火炎放射砲

小型レーザー

エレクトロンレーザーⅡ

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

「速度の強化はこの際置いておくとして…。他には……あっ!」

 

 

 

「もえか?」

 

 

タカオはもえかの表情から血の気が引いて行くのを感じた。

 

 

 

「タカオ!急いで全艦に伝えて!今すぐこの重油の海から離れてって!」

 

 

 

「え、え?急になにを…。」

 

 

「急いで!」

 

 

「わ、解ったわ。」

 

 

 

もえかの切迫した様子に、彼女は直ぐ様従い各艦に連絡をする。

 

 

彼女はその間も、怯えたような表情を浮かべていた。

 

 

タカオの連絡によって、異世界艦隊が動き出す。

 

 

 

『知名艦長…この攻撃に何かを見たのですね?』

 

 

 

「ヴェルナー艦長!兎に角急いでください!敵は…プラッタ級は火炎放射器を使って重油に着火し、辺りを¨火の海¨にするつもりです!」

 

 

 

『なっ…!』

 

 

 

彼女の言葉に、ヴェルナーも事の深刻さを漸く理解した。

 

 

 

「重油の拡散範囲が広い。今なら火の手が回る前に逃げられます!」

 

 

『解りました。此方も急がせます!』

 

 

 

通信を終えると、もえかはタカオと向き合う。

 

 

「私達も一度、重油の海から離れよう。念のため、一番足の遅い弁天を援護出来るよう準備して!何となくだけど、超兵器艦隊の策が見えてきた気がする。」

 

 

 

「了解。速度を上げるわ!」

 

 

 

タカオのスラスターが唸りを上げ、速度を上げて行く。

 

 

そこでもえかは気付いた。

 

 

 

 

「あれ?キリシマは?」

 

 

 

『私なら心配ない。フィールドがあれば熱も関係ないし、我々は酸素が無くても活動できるしな。それよりも今、シャドウ・ブラッタが一隻になってる。やるなら今しかない。』

 

 

 

「大丈夫なの?」

 

 

 

『心配するな。早く行け。』

 

 

「解った。気を付けてね。」

 

 

 

もえかはタカオに急ぐよう指示する。

 

 

艦は更に加速し、重油の海からの脱出を謀ろうとした時だった。

 

 

 

ヂ…。

 

 

 

「!?」

 

 

 

「タカオ?」

 

 

「尾張に動きがあったわ。何かするみたいね…。」

 

 

「やっぱり…。」

 

 

 

正直、不自然だとは思っていた。

 

 

現海域に展開する超兵器の中で、艦隊旗艦クラスの超兵器は尾張しかいない。

 

 

しかし尾張は、強大な戦力を発揮することなく。

 

 

部隊の後方で鎮座し続けていた。

 

 

航空機型超兵器の発艦を妨害されているとしても、全く動きがないのはかえって不気味さを醸し出していたからである。

 

 

 

(お願い…間に合って!)

 

 

もえか達は、祈るように黒い海を進んで行く。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「艦長、尾張甲板上にあるミサイル発射官が開きました!」

 

 

エミリアから悲鳴にも似た叫びが艦橋に響き渡る。

 

 

 

ヴェルナーは険しい表情のままだ。

 

 

「嫌な予感がする…。敵の目的が辺りを火の海にする事ならば、使用兵器は必然的に…。」

 

 

 

「¨焼夷弾頭ミサイル¨ですな?」

 

 

 

「ええ…。重油は中々燃えませんからね。プラッタ級の火炎放射砲を使用しても、辺りを火の海にするには少々時間を掛けすぎてしまう。そこで、燃焼温度が高く、着弾地点の周囲数百メートルを瞬時に炎で包み込む焼夷弾頭ミサイルを使用すれば…。」

 

 

 

「熱せられて発火点を超えた重油が、加速度的に燃焼し、あっという間に火の海…笑えませんな。」

 

 

 

「迎撃ミサイルの準備はどうか?」

 

 

 

「ダメです!間に合いません!」

 

 

 

「仕方がない…。機関全速を維持。もしかすると超兵器が我々の動きを予測して待ち伏せているかもしれない。引き続き警戒を怠るな!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

焦りが募る中、メアリースチュアートのエンジンが唸り、黒く変わり果てた海を進む。

 

 

 

   + + +

 

 

「何だってんだよ…。」

 

 

 

真冬は苛立ちに満ちた表情を浮かべる。

 

 

正直言って、この戦いが始まってからこれといった反撃が出来ていない。

 

 

その上一度、敵と距離を置かなければならない状況になっては、苛立つのも当然だった。

 

 

だがそれと同時に、ある種の感心に近い感情を覚えたことも確かである。

 

 

 

(敵ながら天晴れと言ったところか…相手の出方を見つつ、中の人間だけを殺す策を幾つも練ってやがる。中に人間は居ないらしいが、かつて人間に使われていた時代に得た事を実戦してんのか?)

 

 

 

真冬は、重油で満たされた海域を抜けるよう指示を出しながら、怒りで興奮する脳を緩やかに冷まして行く。

 

 

艦長である以上、私的な感情で部下を失わないよう、常にメンタルを一定に保つ訓練は怠らなかった。

 

 

そして、熱が覚めて行くと同時に視界が開け、あらゆる情報を頭で瞬時に整理して行く。

 

 

 

(となると、俺達は超兵器よりも、寧ろ小型艇の掃討に回るべきか…。だが、気掛かりな事が無い訳じゃねぇ…。もし奴等が全てを読んでいたとしたら…。)

 

 

 

長年、気まぐれな海の天候の中で、過酷な救出任務に従事してきた真冬は、背筋がゾクリとするような嫌な感覚に襲われる。

 

 

 

 

 

 

 

今回の重油の散布。

 

そしてそこからのプラッタ級による火炙り作戦。

 

 

確かに驚異的な作戦であることは間違いないだろう。

 

 

しかしながら、真冬には複数の疑問が浮かんできていた。

 

 

ひとつ目は、この火炙り作戦は¨奇襲攻撃¨を目的としていたのではないかと言う事である。

 

 

考えてみれば不自然だった。

 

 

姿だけではなく、発砲音や砲煙すら知覚出来ないのであれば、端から重油の散布が終わるまでの間、動かずにいれば良かったのである。

 

 

であるにも関わらず、プラッタ級は発砲し、それが結果的に蒼き鋼に存在を露呈させる結果になってしまったのだ。

 

 

 

そして二つ目の疑問。

 

 

人間には有効だとしても、そもそもメンタルモデルにこの作戦は有効なのか…という点である。

 

 

 

簡易クラインフィールドやクラインフィールドを所持しているため、異世界艦隊が火の海の中で直ぐ様焼け死ぬ事は無いだろう。

 

 

 

しかしながら、フィールドが飽和すれば話は別だ。

 

 

故に、弁天やメアリースチュアート、そしてもえかを乗せたタカオは、重油の海域を脱しようとしている。

 

 

しかし、

 

 

弁天のレーダーに写っているキリシマは、等海域に留まり、火炎放射砲を放とうとしているシャドウ・ブラッタを追っていた。

 

 

 

それはこの程度の火炎では、キリシマに目立った損傷は与えられない事を意味している。

 

 

 

そう、この作戦にはそもそも¨意味が無い¨のだ。

 

 

 

真冬は、この作戦の顛末を予測する。

 

 

(さっきの声…あれはウィルキアの艦長や岬が聞いたとか言う超兵器の意思ってやつか?確か奴は…。)

 

 

 

彼女は、直前に耳にした声を思い出す。

 

 

《【Fegefeuer作戦】ヲ開始セヨ…。》

 

 

 

 

(Fegefeuer…ドイツ語で¨煉獄¨…か。暗に火炙り作戦を意味している様にも聞こえる。だが、作戦そのものには意味が無い。だとすれば…。)

 

 

 

真冬はもう一度レーダーに視線を向ける。

 

 

 

 

(俺達とキリシマとの分断…それか必ず重油避けて来るだろう俺達を待ち伏せ、若しくはその両方だが…。)

 

 

 

彼女はレーダーを見た後、双眼鏡を覗いて超兵器を観察する。

 

重油の海から離れた超兵器達に此方を襲う様子は見られない。

 

 

彼女からしてみれば、それも疑問だった。

 

 

 

(何故だ?待ち伏せるには絶好の機会なのに…。と言う事は目的は分断だろうが…ん?待てよ、そう言えば超兵器の奴、その他にも何か言ってたよな…。)

 

 

 

彼女は必死に敵の言葉を思い出そうとする。

 

《ze…艦…イc…j…退…セy…。》

 

 

 

 

(かなり不明瞭だが、大方《全艦、一時退避セヨ》ってとこか?待ち伏せもせずにただ待機…。まさか何かを仕掛ける気じゃ…。)

 

 

 

「艦長!」

 

 

 

真冬は平賀の声に我に帰る。

 

 

 

「尾張の甲板上で動きが!」

 

 

 

「やはり来やがったな…。」

 

 

 

真冬は彼方の超兵器を睨み付けた。

 

 

 

   + + +

 

 

「おかしい…。」

 

 

「おかしいって何よ。」

 

 

首を傾げるもえかに、タカオは疑問を投げ掛けた。

 

 

 

「てっきり私達を分断して各個撃破を狙うと思ってたんだけど、超兵器達に動きはないし…。」

 

 

 

「尾張がキリシマ辺りに何か仕掛けるんじゃないの?」

 

 

 

「さっきヴェルナー艦長から通信があったでしょう?焼夷弾頭ミサイルでキリシマが沈むとは思えない…。私達への待ち伏せも考えたけどそれもない…。」

 

 

 

「じゃあ相手は何をしようって言うのよ。ただの陽動だって言いたいわけ?」

 

 

 

「………。」

 

 

 

どこかにミスリードが有ったのか…と考えるが、答えが見えてこない。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

ブッシュォォォ!

 

 

尾張からミサイルが発射され、キリシマが相手にしているシャドウ・ブラッタ以外の二隻から火炎放射砲が発射された。

 

 

 

「始まった!急がなきゃ!」

 

 

「解ってるけどこれが限界よ!」

 

 

 

タカオは最大船速で海を走る。

 

 

 

非情にも、焼夷弾頭ミサイルが重油の海の真ん中に着弾して炸裂。

 

炎がと熱波が猛烈な勢いで海面を駆け出した。

 

 

もえかは、焦る気持ちを必死に押さえる。

 

 

 

(焦ってもどうにもならない。今は、ここからの脱出と、超兵器の真意を探らなくちゃ…。)

 

 

 

誰かの知恵を借りるか…。

 

 

彼女は真っ先にタカオを見詰める。

 

 

しかし、直ぐに視線を外した。

 

 

(タカオの思考回路はまだ発展途上。恐らく今は答えを出すのは無理だと思う。やっぱりヴェルナー艦長に…いや、逆に超兵器を知り過ぎているから固定概念に囚われてしまうかもしれない。ここは…。)

 

 

 

もえかは、通信を弁天に繋ぐようタカオに指示する。

 

 

 

『知名か?』

 

 

「真冬艦長!私何か…。」

 

 

『腑に落ちねぇ…ってか?』

 

 

「はい!」

 

 

『俺もだ…パズルのピースが一つ足りねぇ様な気持ち悪さを感じるぜ…。』

 

 

「何か見落としが有るのでしょうか?」

 

 

 

『解らねぇが、状況を整理する必要が有る。なぁ知名、俺達の艦隊を超兵器が撃破するとして、まず最初に狙われるのはどの艦だと思う?』

 

 

 

「総合的に見れば、弁天…でしょうか。」

 

 

『当たらずも遠からずだな。』

 

 

 

「えっ…何故です?」

 

 

 

『単純な問題だ。先ずは弁天。これは戦闘力的な問題と政治的問題の両面の意味合いがある。』

 

 

「政治的な…ですか?」

 

 

『ああ。弁天は優秀な艦だが、他の艦の様に特筆したものがねぇ。更にだ、ブルーマーメイドの艦がホイホイ撃沈されて、異世界の連中にオンブに抱っこ、こんな醜態を曝しちまったら諸外国が黙っちゃいねぇ。』

 

 

 

真冬の言いたいことはこうだ。

 

 

 

世界の国々が、燻る戦争の火種を大きくしていないのは、ブルーマーメイドによって海を管理する事で、不用意な軍拡競争を抑え込む狙いがある。

 

 

しかし、超兵器がいかに強大と言えど、ブルーマーメイドに世界の防衛が任せられないとなれば、諸外国は防衛の大義名分で、自国の軍備を増強していくに違いない。

 

 

それは同時に、米露を中心とした列強による戦争を助長しかねないものだったのである。

 

 

真冬の言う政治的な問題とはそれの事だった。

 

 

『まぁ最も、奴等に政治の云々が解るかどうか定かじゃねぇがな…。次はメアリーとキリシマだが、これはシンプルだな。』

 

 

 

「メアリースチュアートは艦隊旗艦であり、超兵器を知るウィルキアの人達がいる事、キリシマはこの艦隊で最も戦力が高い…ですか?」

 

 

 

『その通りだ。そう言う意味じゃタカオは対象から除外だな。』

 

 

 

「今の話ではやはり弁天が最初に狙われて…。」

 

 

 

『俺も最初はそう考えた。超兵器二隻もしつこく付きまとって来てたしな…。だが、そうとは限らないんじゃねぇか?』

 

 

 

 

「どういう意味です?」

 

 

 

『戦場を将棋盤に置き換えて考えてみろ。今戦場には、重油を撒き散らされた事で空白地帯が出来てる。その空白の中にはプラッタ級と闘うキリシマ一隻のみ。俺はてっきり、敵が最大戦力であるキリシマと俺達を分断して重油の海の外へ誘導し、こちらに対して何かを仕掛けると思っていた。』

 

 

 

「私も同じ意見でした。」

 

 

 

もえかは、将棋盤の上に架空の駒を置き、第三者の視点で戦場を見詰める。

 

 

『だがな、俺達に何かを仕掛けたいなら、空白地帯の¨内側でなく外側¨に仕掛けるべきだろう?だが、奴等は内側に火を放った。これが意味する事は…。』

 

 

 

「超兵器の狙いはキリシマ?でも炎じゃキリシマは…。」

 

 

 

『そうだ。十中八九キリシマが狙われると俺は見てるが、そこが解せねぇ。奴等にはまだ何か奥の手が有るのか?』

 

 

 

 

「………。」

 

 

 

もえかは再び思考する。

 

 

 

(狙いはキリシマ…もしこれが将棋だとして、攻撃する為には、必要な駒を移動して配置に着かなきゃならない。¨配置¨か…そう言えば、戦線が徐々にシチリア島付近に移動してきたのは解ってだけど、もしかして何か関係が?)

 

 

 

 

もえかは答えが喉まで出掛かっている様なもどかしさを感じていた。

 

 

 

(何か…何か見落としは…。あっ!)

 

 

 

彼女の中のモヤモヤしたものが晴れて行く。

 

しかしそれと同時に、急激な焦りがもえかを襲った。

 

 

 

 

(将棋は盤上の駒だけで行うものじゃない。盤外にある取った駒を使うことも出来る。)

 

 

 

 

彼女は、もう一度超兵器の言葉を思い出していた。

 

 

《目標地点ヘノ到達ヲ確認。【Fegefeuer作戦】ヲ開始セヨ…。》

 

 

 

 

 

(そもそもあれは¨どの超兵器¨の言葉だったの?尾張…ううん、恐らくは敵の艦隊旗艦…。そして重要なのは、Fegefeuer作戦の開始じゃない。¨目標地点ヘノ到達ヲ確認¨の方だったんだ!)

 

 

 

将棋に於いて攻撃をする為の条件は大まかに二つある。

 

 

一つ目は、自らの駒を移動させ配置に付くこと。

 

 

二つ目は、敵が自らの攻撃範囲に入ってきた事。

 

 

そこで初めて敵の駒が取れる。

そう言うゲームだ。

 

 

 

超兵器の言う目標地点への到達とは、この二つの条件を満たした事を暗に示していた。

 

 

 

後は、敵の駒が逃げられないように詰めて行く事だけ。

 

 

 

現在キリシマは味方から離れ、シャドウ・ブラッタとの戦闘に躍起になっている。

 

 

 

看過できない事態だった。

 

 

 

 

「キリシマ!聞こえる!?」

 

 

『ああ。もう少しでコイツを沈められる!』

 

 

 

「一旦離れて、シチリア島に面する方に全力でクラインフィールドを貼って!」

 

 

 

『何でだよ!もう少しで奴を撃沈出来るに…。』

 

 

 

「従いなさい!」

 

 

 

「タカオ!?」

 

 

『!?』

 

 

 

タカオが有無を言わせない口調でキリシマに言い放つ。

 

 

 

「キリシマ、これが人間の戦術よ。例え合理的に見えなくても、その結果が全体の勝利に繋がるわ。超兵器の戦術が人間に近い以上、迂闊な行動は危険よ。」

 

 

 

『だが、タカオ!』

 

 

 

「忘れたの?今の艦長はもえかよ。それにこれは、異世界の人間の戦術を取り入れるチャンスでもある。もう一度言うわ、キリシマ。指示に従いなさい!」

 

 

 

『ああもう!解ったよ!』

 

 

通信が切れる。

 

 

もえかはタカオに笑顔を向けた。

 

 

 

「ありがとうタカオ。」

 

 

 

「い、良いわよお礼なんて〃〃。当然の事をしたまで!」

 

 

 

 

彼女はプィとそっぽを向いてしまう。

 

 

もえかは苦笑いを浮かべながらも、心の中では不安を拭い去ることは出来なかった。

 

 

そしてその不安は、直ぐ様現実のものとなる。

 

 

 

ドォォォォォォン!

 

 

 

 

「あっああぁぁぁぁあ!」

 

 

 

何の前触れも無く訪れた凄まじい衝撃と荒れ狂う波に、彼女は悲鳴を上げた。

 

 

 

   + + +

 

 

謎の襲撃の少し前…。

 

 

 

キリシマは、炎の海を駆けて行く。

 

 

 

目的は、三隻のプラッタ級のうち、最も近くにいる超兵器シャドウ・プラッタの追撃と撃沈である。

 

 

 

 

「見えてしまえば此方のものだ!行くよ!」

 

 

 

ゴォオオ!

 

 

キリシマの重力子エンジンが唸り上げ、獰猛な瞳と開いた口許から見える長めの犬歯が獲物を狙う肉食獣のそれを思わせる。

 

 

チ… チ… チ…。

 

 

 

(敵の行動パターンを分析……完了。回り込んで距離を詰める!)

 

 

 

史実に於いて、高速や機動性の高さを誇っていた金剛型を模したキリシマは、言うまでもなくその性能を遺憾無く発揮していた。

 

 

対するシャドウ・ブラッタは、触角を思わせるアンテナが艦尾に設置されている為か、まるで害虫が高速で後退している様に極めて奇妙な姿で逃げ回る。

勿論、火炎放射砲で辺りを火の海にし、キリシマに対するミサイルやレーザー、砲撃等で牽制する事も忘れない。

 

 

しかしながらキリシマは、生物が決して生きて行けない低酸素や高温の中を、攻撃をいなしながら突き進み、敵の動きをよんでみるみる距離を詰めて行く。

 

 

 

(素早い動きに、機動性。それにこの灼熱の環境…。人間では到底敵わないだろうな。全く…不便なものだ。その緻密過ぎる体構造とあらゆる環境への適応性に反し、逆にあらゆる極端な環境変化には驚く程脆い。私がいなければ、今頃は全員機能を停止していただろうな。)

 

 

 

 

戦闘に際し、比較的熱く成りやすいキリシマも、今回は比較的冷静に物事を注視していた。

 

 

それは超兵器播磨による撃沈から学んだ事でもある。

 

 

故に彼女は戦闘を行い、敵の撃沈を第一に掲げて演算をしつつも、かつて自らを撃沈に追い込んだ超兵器の事を同時に思考する事で、単調に成りがちな攻撃パターンを幾つか変えて行く。

 

 

 

ビィイン!

 

 

 

(はぁ…自慢の高出力レーザーも跳ね返すのか…。どうやらコイツは、見た目や攻撃パターンから見て、電磁戦や電子戦に特化した¨支援タイプ¨らしいな…。見えないのは確かに人類には脅威かもしれんが、それだけだ。コレと言った決定力のある艦じゃないし、防御も比較的薄い。大方、潜伏による情報収集や、奇襲で敵を混乱に陥れ、その隙に乗じて本命に敵を叩かせたりするのが役割ってとこか?まぁ、我々霧の艦艇には小細工でしかないが…。)

 

 

 

ガシュン…ボォン!

 

 

 

エネルギー攻撃が不利であると、見越したキリシマは、展開していたレーザー主砲を通常主砲へと置換し、実弾への攻撃にシフトする。

 

 

 

その砲撃演算精度により、ミサイルや砲弾が次々とシャドウ・ブラッタに着弾した。

 

 

ビィイン!ビィイン!ドゴォ!

 

 

 

「よし!」

 

 

 

彼女の読み通り、見つからない事を想定した敵の防壁は意外に脆弱であり、通常艦艇を遥かに上回る彼女の攻撃にいとも簡単に飽和してしまう。

 

 

「まだだ!」

 

 

ドゴォ!ドゴォン!

 

 

 

キリシマは攻撃の手を緩めない。

 

 

 

次々と着弾する砲弾に、敵もレーザーや砲撃、そして火炎放射砲で答える。

 

 

しかしながら、鉄壁のクラインフィールドに阻まれキリシマには決して届かない。

 

 

ボォン!ボォオオ!

 

 

そして、火炎放射砲に砲弾が着弾した事により、砲身がねじ曲がり、噴射された炎がその奇妙な船体を包み込む。

 

 

 

「これで終りだ!」

 

 

 

キリシマが最後の一撃である侵食弾頭を撃ち込もうとした時だった。

 

 

 

《§∴8∂Y∝G2∫‡4ΘÅф…。》

 

 

 

《╋、┻、┳、┫、┣、┼、┷!》

 

 

 

 

 

(な、なんだ!?奴等が発する妨害電波の隙間から何かが聞こえた…。聞いたことの無い言語だが誰かと連絡をとっているのか?だが無駄だ!)

 

 

彼女の全砲門が開き、シャドウ・ブラッタに止めを刺そうとした…。

 

 

 

『キリシマ!聞こえる!?』

 

 

もえかからの通信に水を差され、彼女はすこし苛立ちを覚える。

 

 

 

「ああ。もう少しでコイツを沈められる!」

 

 

 

『一旦離れて、シチリア島に面する方に全力でクラインフィールドを貼って!』

 

 

 

「何でだよ!もう少しで奴を撃沈出来るに…。」

 

 

もえかの指示は、キリシマとって全く意味不明な内容だったに違いない。

 

それは数の不利がある以上、一隻でも多く超兵器を撃沈する事は急務であり当然だったからである。

 

 

しかも相手は虫の息、これ以上のチャンスは無く、キリシマの反論は誰しもが頷けただろう。

 

 

だが、

 

 

『従いなさい!』

 

 

「!?」

 

 

タカオが有無を言わせない口調でキリシマに言い放つ。

 

 

 

『キリシマ、これが人間の戦術よ。例え合理的に見えなくても、その結果が全体の勝利に繋がるわ。超兵器の戦術が人間に近い以上、迂闊な行動は危険よ。』

 

 

 

「だが、タカオ!」

 

 

 

『忘れたの?今の艦長はもえかよ。それにこれは、異世界の人間の戦術を取り入れるチャンスでもある。もう一度言うわ、キリシマ。指示に従いなさい!』

 

 

 

「ああもう!解ったよ!」

 

 

キリシマは乱暴に通信を切ると、納得のいかない様な表情を浮かべつつ、敵から距離を取る。

 

 

 

しかし、

 

 

 

「な、何!?」

 

 

 

先程まで、ひたすら逃げ回っていたシャドウ・ブラッタは、今度は逆にキリシマに追い縋ろうと突っ込んでくる。

 

 

 

「チッ!何なんだよ!」

 

 

 

彼女は、砲撃の嵐を超兵器に喰らわせる。

 

しかし、敵は装甲が剥がれようと、炎に巻かれようと怯むこと無く突っ込んでくる。

 

 

 

彼女は苛立ちの余り、もえかからの命令を失念しそうになっていた。

 

 

 

 

彼女コアが、急に警告を発するまでは…。

 

 

 

ヂ…ヂ…ヂヂ…ヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!

 

 

 

「!?」

 

 

 

彼女は、コアの警告に動揺し、超兵器に対する反撃が一瞬緩んだ。

 

 

《┥、┝、┰、┸、┃、━、……ОООООО!》

 

 

 

「うっ!」

 

 

けたたましい叫び声の様な言語が聞こえ、キリシマの反撃が完全に停止する。

 

 

 

それと同時に、今まで聞こえて来たどの超兵器とも異なる第三の声が響いてきた。

 

 

 

《殲メ…ガガッ…ヲ…ズズッ…始ス………。》

 

 

 

 

 

「!!!!!」

 

 

 

キリシマは反射的にクラインフィールドを展開しようと動いていた。

 

 

 

ノイズのせいなのか、極めて聞き取りづらい声ではあったが、最後の一言だけはハッキリ聞き取れた。

 

 

 

《死》

 

 

 

(まずい…!)

 

 

 

周りの景色が白黒になり、あらゆる物体の動きがスローモーションの様に見える。

 

 

この感覚には覚えがあった。

 

 

超兵器播磨によって撃沈された時。

 

 

 

 

その時同様、今まで蒔絵とハルナと共に過ごしてきた日々の残像。

 

自らが消滅することにより思い出が無へと帰す事。

 

そして、彼女達とこれから送るであろう未来が失われる事。

 

 

それらに対する、否定や嫌悪感。

 

そして何よりも、形容し難い恐怖がキリシマのコアを襲う。

 

 

 

ヂヂヂヂヂヂ!

 

 

 

「うっ…かっ…!」

 

 

 

キリシマから表情が消える。

 

 

 

最早表情に費やす演算すら惜しかった。

 

 

 

クラインフィールドが、キリシマの船体を覆って行く。

 

 

 

彼女の視界には、突進してくるシャドウ・ブラッタの姿がスローモーションで見えていた。

 

 

 

敵はいつの間にかドス黒いオーラで包まれ、その形状も相まって不気味な化け物へと変貌している。

 

 

キリシマは口を大きく開き、天を仰いで叫んだ。

 

 

「ああぁぁぁぁあ!」

 

 

 

 

叫んだ所で状況は流転しない。

 

 

しかし、フィールドの展開が間に合って欲しいと言う彼女の思いが声に溢れていた。

 

 

 

その悲痛な叫びが終わらぬうち、シャドウ・ブラッタがフィールドに衝突すると同時に、それは訪れる。

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォン!

 

 

 

凄まじい爆圧がキリシマを覆い尽くし、海は荒れ狂い、水蒸気によって辺りは一面は真っ白に埋め尽くされる。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「あっ…くぅ…。」

 

 

 

キリシマを中心に発生した謎の衝撃は、遥か離れたタカオにも容赦なく巻き込んで行く。

 

 

 

荒れ狂う波によってデタラメに揺れる船体の中で転倒したもえかは、頭を押さえつつ必死で状況を理解しようとする。

 

 

そんな彼女に、タカオは直ぐ様駆け寄ってきた。

 

 

「もえか!しっかりして!大丈夫なの!?」

 

 

「う、うん。大丈夫…それよりタカオ…皆は?キリシマは?」

 

 

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 

チ… チ…。

 

 

 

「弁天とメアリースチュアートは取り敢えず大丈夫みたい。キリシマは…ダメ、海が荒れていて上手く観測できない。」

 

 

 

 

「そんな…キリシマが…。」

 

 

 

『…すな。』

 

 

 

「!!?」

 

 

 

『勝手に殺すな!』

 

 

 

「キリシマ!無事だったの?」

 

 

 

『ああ。だが船体を失った。言い訳にしかならないが、全ての演算を消費してフィールドを張らければ消滅していた。すまない…。』

 

 

 

「ううん、いいの。今から助けに…。」

 

 

 

『待て。』

 

 

 

キリシマの感情の無い声に、もえかは思わず顔をしかめた。

 

 

 

『幸い、超兵器は私の存在には気付いていない。今、お前達が来れば間違いなく狙われるし、私の存在もバレてしまう。メンタルモデルも無事だ。お前達は、超兵器の撃沈を優先しろ。後で必ず合流する。』

 

 

 

「でも!」

 

 

 

『いいから行け。通信も長くは持たない。コアにエラーが山積しているせいだ。自閉モードで処理したい所だが、それでは身体が無防備になってしまう。覚醒下での処理には少々時間がかかる。いずれにせよ足手まといだ。』

 

 

 

「ほっとけないよ!」

 

 

 

『ザザッ…から、敵の情報を…ズズッ…カオに送信する。後は頼…ぞ。』

 

 

 

 

「ちょ、キリシマ!?ねぇ!返事して!キリシマ!」

 

 

 

「通信が切れたみたいね…もえか?」

 

 

 

「………。」

 

 

彼女は辛そうに歯を食い縛り、目には涙が滲んでいる。

 

 

厳しい選択が迫られていた。

 

 

現場でも良くある。

 

 

要救助者を、自らの命を危機に晒してでも救出するのか。

 

 

救助をする人物が犠牲になっては、他の救助者を救えなくなるため、救出を断念するのか。

 

 

 

幾度となく立ち合って来た命題である。

 

 

だが、もえかは未だその答えを見つけられてはいない。

 

 

 

世界を脅かす超兵器の打倒か。

 

 

それとも一人の仲間か。

 

 

 

(そんなの私に選べるわけ無いよ!)

 

 

 

彼女は首を振り、必死で悩むが、一向に答えは出てこなかった。

 

 

 

その時、

 

 

 

ガバッ!

 

 

 

「!?」

 

 

 

タカオはもえかを抱き締めていた。

 

 

彼女はゆっくりと諭すように、もえかの耳元で囁く。

 

 

 

「大丈夫。キリシマならきっとこの状況を切り抜けるわ。それにねもえか、機会を待つことが出来るのも仲間を信じてるって証しなのよ?」

 

 

 

「信…じる?」

 

 

 

「ええそうよ。あんたは心の何処かでキリシマが死ぬとか、もうダメだって思ってるんじゃない?それって、アイツを信じてない事と同義よ。あんたは、まだ信じられない?キリシマや、今はあんたの艦である私の事も…。」

 

 

 

「そんなこと無い!私はタカオやキリシマの事を…。」

 

 

 

「じゃあ、今はアイツを信じて進むわよ。いい?」

 

 

彼女の目の前に自分を信じて見つめるタカオの顔ある。

 

 

白い肌に、宝石アクアマリンを思わせる青い瞳。

 

 

綺麗だな…と思った。

 

 

彼女は自分を微塵も疑ってなどいないことも。

 

 

 

自分はどうだろうか…。

 

 

 

彼女は自問する。

 

 

 

救出の現場で、自分は要救助者を無意識に死んでいると決めつけてはいないか、諦めてはいないかと…。

 

 

 

そんな事はあり得なかった。

 

 

 

知名(めぐみ)

 

 

 

かつてブルーマーメイドの隊員であり、職務中に殉職したもえかの母親だ。

 

 

 

彼女の最期を、もえかは当時救助隊員から聞いている。

 

 

 

彼女は、負傷した救助者を抱え、酸素ボンベを手に持った状態で見つかったらしい。

 

 

 

浸水が酷く、脱出出来ずに沈んだ船内で、彼女はボンベを救助者と分け合いながら救助を待っていたのだろう。

 

 

彼女は、仲間を信じていたのだ。

 

 

必ず助けに来ると…。

 

 

だが、間に合わなかった。

 

 

幼いもえかが、どれだけ打ちのめされのかは想像にかたくない。

 

 

 

だが彼女は、母と同じ道を選んだのだ。

 

 

母を奪った職業

 

母を奪った海

 

 

本来なら憎んで然るべきこの海へ彼女が進んだのは他でもない。

 

 

 

遺された自分と同じ孤独や悲しみを、他の人に味わって欲しくなかったからだ。

 

 

そして、他の隊員を信じて待ち続ける人を、いち早く救出出来るようになりたい。

 

 

その思いが今の彼女を、困難の犇めく海に立たせているのだ。

 

 

 

もえかはもう一度タカオの瞳を見つめる。

 

 

彼女はもえかを信じていた。

キリシマも彼女を信じて託してくれている。

 

 

 

(もう、迷わない!)

 

 

 

答えは既に決まっていた。

 

 

「うん、信じるよ。タカオもキリシマも。ううん、それだけじゃない。弁天もメアリースチュアートも、そして海の向こうで戦うミケちゃん達も、私は信じる!」

 

 

 

「さぁ、私に航路を示して。もえか!」

 

 

 

彼女は大きく頷く。

 

 

 

「キリシマとは後に合流。私達は、引き続き超兵器の撃沈に注力する!」

 

 

 

「了解!いくわよ!」

 

 

 

タカオの船体が再び速度を上げ、超兵器へと向かっていった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「くっ、今のは一体何だったんだ…。」

 

 

 

ヴェルナーは、突如訪れた衝撃に険しい表情を浮かべる。

 

 

 

「ジーナス少尉。大戦艦キリシマやタカオから何か報告は無いか?」

 

 

 

「い、いえ何も有りません…。」

 

 

 

 

「願わくば、蒼き鋼が今の攻撃を解析してくれていることを祈るしかありませんな…。」

 

 

 

「ええ…。」

 

 

 

ヴェルナーは先程まで火の海だった海域に視線を移した。

 

 

 

謎の衝撃により、海の炎は完全に掻き消えている。

それが、敵の攻撃の凄まじさを物語っていた。

 

 

 

エミリアも心の中で恐怖が増大していくのを感じる。

 

 

そんな中、筑波の口から思いもよらぬ言葉が飛び出して来た。

 

 

 

「しかし…予定外の事態はありましたが、概ね¨予定通り¨ですな。」

 

 

 

「!!?」

 

 

 

エミリアは筑波の言っている意味が全く理解できなかった。

勿論、それに頷いているヴェルナーに対してもだ。

 

 

無理もない。

 

ここまでの戦いは、超兵器ペースで進んでいる事は明らかだったからだ。

 

 

彼女は、沸き上がる疑問を留めて置くことが出来なかった。

 

 

 

「あ、あのう。お話中失礼致します。」

 

 

 

「どうした?ジーナス少尉。」

 

 

「予定通りとは一体どういう事なのですか?」

 

 

 

 

彼女の問いに二人は顔を見合せると、筑波が口を開いた。

 

 

 

「貴君は、この戦場に於いて¨最悪な状況¨とは何だと考える?」

 

 

 

「最悪な状況…ですか?」

 

 

「そうだ。」

 

 

 

彼女は少しの間考える。

しかしながら、超兵器と戦闘と言う時点で既に最悪な状況な為、これ以上の答えが見つけられなかった。

 

 

 

「も、申し訳ありません。私には解りかねます…。」

 

 

「うむ、そうか。」

 

 

 

怒鳴られる…彼女は一瞬そう思ったが、筑波の表情は逆だった。

 

 

彼はニッと口許をつり上げる。

 

 

 

「解らない事を素直に認める事は良い事だぞ、ジーナス少尉。戦場で解ったフリなぞ自殺行為だからな。」

 

 

 

「は、はぁ。」

 

 

 

「いいか?この戦場に於いて最も懸念すべきは、¨敵航空機の群れ¨と相対することだ。」

 

 

 

「航空機ですか?」

 

 

「そうだ。ムスペルヘイム級及び尾張の航空機保有量は驚異的だ。まともに発艦されれば、小型艇数十隻よりタチが悪い。更に、尾張が格納しているであろう航空機型超兵器の発艦を許せば、こちらの航空部隊など相手に並んだろう。つまりだ…。」

 

 

 

ゴクリ…。

 

 

エミリアは思わず唾を呑み込む。

 

 

 

「本来ならば我々は、現海域に展開してる敵艦隊と、数百機の航空機。それに航空機型超兵器を加えた圧倒的戦力をたった四隻で迎える事になっていたのだ。」

 

 

 

 

「そんな…。な、何故今の状況を作り出せたのです?」

 

 

 

「内通者だよ。」

 

 

ヴェルナーが前へと進み出る。

 

 

 

「君は、戦闘開始前のブリィーフィングを覚えているかい?」

 

 

 

「ええ…。航空戦力に乏しい我々を敵は遠方から航空機を使って攻める筈だから、先ずはそれを壊滅させ、それから水上艦を叩く…ですか?」

 

 

 

「そうだ。間違ってはいない。弁天が対航空機戦に不馴れな以上、三隻で航空機と超兵器を同時に相手取るのは不可能だからね。」

 

 

 

「……。」

 

 

 

 

「だから敢えてあの場で発言をしたのさ。内通者が実際にいるかどうかは正直賭けだったけどね。」

 

 

 

 

「どういう意味ですか?」

 

 

 

「私達は敵が航空機と言うカードを後出しにするよう誘導したのさ。敵は先ず始めに、我々の艦船の内の誰かに的を絞って撃沈に掛かるだろう。恐らくは弁天以外のどれかだろうけど…。案の定敵はそれに乗ってきた。」

 

 

 

 

「……。」

 

 

 

「そして、本来ならば奥の手であっただろうプラッタ級の存在と大量の小型艇発艦による新たな超兵器の存在、そして先程の謎の攻撃と言うカードを先に切ったんだ。」

 

 

 

「戦争と言うのは裏の掻き合いですからな。いかに相手の手札を開かせ、それに伴って作戦を組んで行くのかは重要です。内通者によって、此方の動きが筒抜けになっている可能性がある以上、此方もいち早く敵の情報を把握しなければ勝機はない。」

 

 

 

「そ、そうだったのですね…。」

 

 

 

「しかし…。」

 

 

 

ヴェルナー達の表情は堅い。

 

 

 

「予想以上の威力ですね…。」

 

 

 

「ええ…。これ程の攻撃です。間違いなくムスペルヘイム級の仕業でしょうな。」

 

 

 

「奴はネームシップだと思いますか?」

 

 

 

「いえ…恐らくは違うでしょうな。これ程の威力を持つ兵器です。かなり大規模な装置を搭載しているとなると、重力砲を搭載している可能性は低い。」

 

 

 

「と、なると…。」

 

 

 

「奴は、超兵器ナハトシュトラールを改装したもう一隻のムスペルヘイム級【ヨトゥンヘイム】である可能性が高いかと…。」

 

 

 

「ヨトゥンヘイム…。巨人族ヨトゥンが暮らす国ですか。茨の道になりそうですね…。」

 

 

 

「基より覚悟の上です。」

 

 

 

二人はまだ波の荒い海を見詰める。

 

 

 

エミリアは二人から言い知れぬ不安が伝わって来るのを感じる。

 

 

それはまるで、遥か彼方にまで及んだ、巨人の足音に怯える小人の様に見えるのだった。

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


なんと、今までの【超兵器地中海艦隊】の話全てが敵の仕掛けた大掛かりなブラフだったと言う話でした。


異世界艦隊も、戦略に疎い霧のメンタルモデルに対して、真冬ともえかの機転。
そして、軍属ならではの考えが複雑に交じり合う展開になっていました。


初めから殴って来た、バミューダ艦隊に対して、動きが見えづらい地中海艦隊の動きが、超兵器の不気味さをより顕著出来ていれば幸いです。



次回まで今しばらくお待ちください。



それではまたいつか。




























とらふり!  1/144ちょうへいきふりいと




播磨
「ヒュ~♪流石は統括旗艦!痺れるぅ~!私もあんなのやってみたいよ!」



グロースシュトラール
「アレの発射に至るまでの仮定も素晴らしいね。あの子はとても真面目で年密に計画を立てるから。」



荒覇吐
「勿論、単艦での戦闘も群を抜いてらっしゃるのですよね?」



グロースシュトラール
「勿論さ。攻撃の特色は統括旗艦でも様々有るけど、ナハトは色んな兵器をバランス良く装備しているからね。」



播磨
「へぇ~。例えばどんなモノ?」



近江
「播磨、あんまり質問して統括旗艦を困らせてはダメよ!」



グロースシュトラール
「まぁまぁ、良いじゃないか。そうだなぁ、君には特別に教えてあげよう。」



播磨
「やった~!」



グロースシュトラール
「それでね。あの凄まじい砲撃はゴニョゴニョ…。」



播磨
「うわぁ!」



グロースシュトラール
「まだまだ序の口さ。そして、奥の手としてヒソヒソ…。」



播磨
「ひゃあああ!」



グロースシュトラール
「ははっ!驚いたかい?」



播磨
「う、うん!ありがとう統括旗艦!」



荒覇吐
「一体何を聞いたの?」



播磨
「ヘヘェン!教えてあげないもんね!」



荒覇吐
「なんかムカツク…。」



近江
「まぁまぁ。何れ判明することだわ…もし彼等がヨトゥンヘイムに本気を出させる事が出来るならね…。」
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