トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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何とかまとめ増したが
今後の展開に悪戦苦闘は必至です


とりあえず今回からオリジナルキャラが入ってきますが、存在感は無いので悪しからずです。

それではまたお付き合い下さいます

どうぞ


決意の抜錨

   + + +

 

 

 

午前中の横須賀での情報交換後、宗谷真霜は東京に居た。

 

正確には6人と一匹?となるが、メンバーは真霜と福内、そしてウィルキア艦隊から

 

エドワード・クランベルク

フリッツ・ハイネマン

江田健一

 

 

蒼き艦隊から

 

 

 

重巡洋艦タカオ

 

クマ…のぬいぐるみ姿の大戦艦キリシマだった。

 

 

エドワードはウィルキアの外交官であり、帝国の軍事蜂起の際首脳陣と共に艦隊に同乗して各国への根回しを行い、元ドイツの陸軍情報部の特殊部隊出身であるフリッツは、帝国から追われる身であったブラウン博士と共にシュルツに救助され、艦隊への同乗後は首脳陣の護衛や敵地へ潜入し、機密情報を調査するエージェントとして超兵器に関する情報をウィルキアに入れてきた。

 

 

 

 

江田は、日本帝国海軍航空部隊に所属する若手の軍人で、反帝国派により拘束されていたシュルツ達の救出を手助けし、そのまま解放軍として日本を帝国の傘下から脱するために尽力した一人であった。

 

 

 

 

キリシマは僚艦のハルナと共に横須賀を急襲したものの、群像の策にはまり船体を消失。キリシマ自身は霧の心臓とも言えるコアのみの状態となったが、付近に居た少女¨刑部蒔絵¨に保護され、ハルナのナノマテリアルを分けてもらい、蒔絵の所持していたクマのぬいぐるみ¨ヨタロウ¨に入り込む事で当面の身体を得た。

 

 

しかし刑部蒔絵は、霧に対抗しゆる知能を持っており、その存在が霧に奪取されることを恐れた人類から処分の対象となるのである。

 

 

差し向けられた陸軍を途中までは圧倒したものの、船体を失い本領を発揮できず追い込まれてしまう。

 

そこに401のメンタルモデルイオナが現れ、3人を救助した。それからハルナとキリシマは、蒔絵の保護を名目に401と行動を共にしている。

 

 

重巡タカオは401に、横須賀沖で敗北喫した後、兵器として新たなる次元へと至るため艦長と言う人間のユニットに興味を示し、イ401の艦長である千早群像を自らの艦長として迎える為、蒼き艦隊の本拠地である硫黄島に先回りし、その後なし崩し的に行動を共にしている。

 

 

この世界への移動時に自分の船体を硫黄島に置いてきてしまい失意に明け暮れていたが、群像から日本政府に蒼き艦隊からのメッセンジャーとしての役割を与えられ、それまでの落ち込み様がまるで嘘のように表情を明るくし、渋々を装いつつも実はノリノリでやって来たのである。

 

 

そして、憂鬱な表情の真霜は、シュルツから日本政府に対して事情の説明と、各国領海内での戦闘の許可と補給などの支援の根回しを要請され、エドワードと共に首相官邸を訪れていた。

 

 

 

その際、江田がヘリで官邸近くの駐車場に着陸した為、辺りは一次騒然となった事は言うまでもない。

 

 

無理もない反応だろう。

 

巨大艦からの砲撃で主要な道路が破壊された事と、航空機用の滑走路が存在しない為ヘリで移動することになった訳だが、襲撃余韻が冷めてもいない内にこの様なものが空から来れば、周囲が脅威に感じる事は当然なのだ。

 

 

況して、それに乗っていた真霜や福内は生きた心地がする訳もなく、二人がヘリから降りた時にはすっかりグッタリしていた。

 

 

しかし、こんなところで怯んでいるわけにはいかない。

 

 

真霜はエドワードとタカオを連れて官邸へと向かい、フリッツと福内は東京のある大学へと赴く。

 

 

 

江田はヘリ周辺での待機となった。

 

 

 

 

 

  + + +

 

 

 

 

官邸内は騒然としていた。

 

理由は付近にヘリが着陸しただけではないことは確かだろうが、先日の横須賀襲撃での被災地への対応や、日本の自衛の脆弱さが露呈した今回、対策本部が設置された官邸は最早パニック状態だったことは言うまでもない。

 

 

そんな慌ただしく動く政府関係者の間を掻き分け、真霜とエドワードはある部屋へと向かう。

 

 

その部屋は他の部屋より美しい装飾がなされた木製の観音開きのドアだった。

 

真霜が少し緊張したように扉の前に立つ。

 

 

コンコン!

 

 

「どうぞ」

 

 

部屋の中へと進んた二人を出迎えたのは、日本の政治家のトップであった。

 

 

「派手な登場だったね。ブルーマーメイドの宗谷真霜さん」

 

 

一見気さくな挨拶の様だが、独特の低いトーンのゆっくりしたしゃべり方には、国のトップとしての威厳を感じる。

 

 

 

彼は内閣総理大臣《大湊清蔵》

 

 

 

事の重大さが通常のそれとは一線をかくしている為、首相自ら話を聞こうと、この度真霜と直接会う事にしたのである。

 

 

年齢は五十代半ばだが見た目はそれよりも大部若く見える。更にその目はギラギラとした肉食獣の様な目をしており、油断すればこちらが殺られてしまいそうな獰猛で野心家な一面が垣間見える人物でもあった。

 

 

 

「それで?隣の方々をご紹介して頂けるかな?」

 

 

「は、はい、しかし説明の前に此方の資料と映像を拝見して頂き、ご説明いたします。目を通して頂けますか?」

 

 

「うむ……」

 

 

大湊は真霜から提出された資料やタブレット端末の映像に目を通し、深く息をついた。

 

 

国のトップとしての資質なのか、真霜達の様に表情を目まぐるしく変わることはなく、狼狽えた様子もない。

 

 

 

大湊はエドワードとタカオに視線を向けた。

 

 

 

「成程、それで君達が来たと言うわけか。それで?何が望みかね?」

 

 

 

「話が早くて助かります。私達はこの世界での超兵器撃破の為に世界各国へ赴かねばならないでしょう。その際、各国領海での私達の活動の容認、そして物資の支援などの根回しを日本政府に行って頂きたい」

 

 

 

 

「また、この世界で私達が活動するにおいて一時的に硫黄島を拠点としたいの」

 

 

 

 

「うむ…出来んね」

 

 

 

即答で拒否の意思を伝えてきた大湊に真霜は食い下がる。

 

 

「なぜです総理!このままでは、あれらの兵器に我が国民が蹂躙されてしまうかもしれないのですよ?」

 

 

 

「君もまだまだ青いね宗谷君。ここは政治の中枢だよ?君達の様なリスク以外なんも持ち合わせていない者が、一方的に要求ばかりして、それで動くほど政府は暇ではないし。そもそもそこの二人が、もし異世界から来たと言うならば、この国の…いや、この世界の法は適応されないと考えるのが自然ではないかね?しかも片方は人間ですら無いのだから尚、法の対象外だ。つまり君達は我々から一方的に搾取されても文句は言えないのだよ」

 

 

 

 

「総理!そんなことを仰ってもし何かあれば…」

 

 

 

「¨我が国を滅ぼす¨かね?あの巨大な艦と同等の力で…そもそもあの兵器を此方の世界に招き入れたのは君達では無いのかね?だとしたら責任を取るならいざ知らず、要求を突きつけるなど極めて遺憾と断じざろう得ないと思うが?」

 

 

大湊はあくまで態度を変えない。

 

 

それはエドワードとタカオも同様であるが、真霜は明らかに焦りを隠しきれていない。

そんな彼女の様子を見て、大湊はさらに追い討ちをかけるように、タブレット端末を真霜に渡す。

 

 

「それにね、それを見たまえ」

 

 

端末に流れた映像を見た真霜は愕然とした。

 

 

 

「それは昨日の世界各国の主要都市の映像だよ」

 

 

 

 

 

映像からは世界各国の主要都市の様子が伺える。

 

 

それは、完膚無き¨蹂躙¨であった。

 

そこら中から立ち上る炎、泣き叫び逃げ惑う人々、そしてその惨禍の中心には¨彼等¨が居た。

 

 

横須賀を襲撃した超兵器とは形状や性能は異なるものの、その異常とも言える巨大さと、異形とも言える姿と性能。勿論、各国は兵力を総動員するが悉く撃破され、無惨な鉄屑と貸している。

 

 

「解ったかね?我が国を含めた各国は、君達を支援したくないのではなく¨出来ない¨のだ。皆自国の事で手一杯だからね。それに問題はそれだけじゃない」

 

 

 

大湊は表情を少しだけ険しくする。

 

 

 

「超兵器に対応出来る君達の力は、実際大したものだろう。与野党問わず、自国に軍を設ける事が長年の悲願とする右派の人間にとっては喉から手が出るほど欲しい力だろうからね。だが、資源の大半を列強各国に依存せざろう得ない我が国に、世界に対して喧嘩を売るほどの力は無い。下手に強大な力は持っていては、他国に我が国を侵攻する大義名分を作り出しかねんのだよ

 

 

「………」

 

 

「また君達との繋がりが強すぎてしまえば、各国は君達の兵器技術を我が国に伝わっている疑念を抱かれ、それを理由に各国は本当に日本に強力な兵器技術が伝わっていないか情報の開示を迫るだろう、勿論経済や安全上に関する機密のことも全てね…。応じれば、我が国の情報が丸裸にされ、諸外国から経済上や軍事上の介入を招く事になり、我が国は国家としての機能を事実上を失う。また応じなければ、自国の安全という大義名分の下に各国の軍事侵攻を許す結果と成るだろう。これらのリスクをクリア出来ない限り。日本政府として公的な支援は出来ない」

 

 

大湊の言う事は至極正論であったが故に覆すこと至難であろう。

 

それは真霜は反論も出来ずにその場に立ち尽くしてる事からも良く解った。

 

 

(どうすればいいの?)

 

 

超兵器により滅びるのか、または他国の介入により滅びるか、いずれにしても破滅の二文字が真霜の頭に浮かぶ。

 

 

 

「やはり…そう言うだろうと思っていました」

 

 

「やはり…だと?」

 

 

今まで黙していたエドワードが口を開き、大湊が眉を潜める。

 

 

「ええ、あなたを含めこの世界のあらゆる情報は既に取得済みです。あなたの過去や思考、この国の機密や汚職等のスキャンダルに至るまで全部です」

 

 

 

「そんなこと…」

 

 

 

「出来ないと?確かに¨通常の手段¨では極めて困難でしょう。しかし我々には蒼き艦隊所属のメンタルモデルがいる。彼女達は何も海でしか真価を発揮できない訳ではありません。あくまで海に進出した人類を駆逐せよと命令を受けているだけなのです」

 

 

 

「勿体ぶらずにはっきり言ってはどうかね?」

 

 

 

「はい、つまり彼女達は物理的な攻撃だけでなく、ネットワークに対しても攻撃が可能です。その力でそちら側の情報を覗かせて頂きました。信用できないなら此方にあなた方の情報をまとめた資料をお見せします」

 

 

エドワードは鞄から封筒をだし、大湊に差し出すが、彼は少し呆れた様に首を横に振る。

 

 

 

「いや、必要無い。この状況で嘘はあり得ないだろうしね。これが違法なことだと分かっているかね?」

 

 

大湊は封筒の開封もせずエドワードを睨んだ。

 

 

「本来なら違法でしょう。しかしあなたも先程仰ったはずだ。我々は異世界人であり¨法の対象外¨だと」

 

 

互いの間に沈黙が流れる。

真霜は二人の間の沈黙がまるで真剣で武装した二人が相対しているように見えた。

 

真霜はあまりの緊張にゴクリと唾を飲み込む。

 

 

 

「ぷっ、ふははははは!」

 

 

大湊は突然、笑い始めた。これには流石にタカオも呆れた表情を見せる。

 

 

(何?人間ってこう言うとき爆笑するのがセオリーな訳?私にはさっぱりわからないわ…)

 

 

呆れるタカオを尻目に大湊は続ける。

 

 

「あぁ、すまないすまない、いやぁ一本取られたね。面白い!面白いよ。これで私を通じこの国を意のままに操作出来る訳だが、それで?…まさかさっきの話では終わりではあるまい?。君は優秀だが、政治をやるには些か善人過ぎるようだね。まるで嘘が下手だ。さっきの資料から察するに君達の艦隊は、超兵器から人々を護ることじゃない。人々を無意味な死から護る。違うかね?」

 

 

「………」

 

エドワードは答えない。しかし大湊は構わず続けた。

 

 

「だから、最初からおかしかった。どちらの選択を取っても日本が破滅。そんな選択肢をわざわざこんな所まで来て直接言うのはあまりにも不自然だ。言いたまえ。私がその理不尽な要求を飲んで余りある何か¨土産¨が有るのだろう?」

 

 

エドワードは大湊の問いに頷き、タカオに視線を送った。

 

彼女は頷た後、エドワードの鞄から一台の端末とUSBを取り出し、大湊に手渡した。

 

 

「それはヒュウガが作った特別製なの。少なくともこの世界の技術ではハッキングされる心配はないわ。その端末にはね、世界各国の機密情報や弱味が入っている、あなた程の政治手腕があれば効果的に各国に対して圧力をかけられるんじゃない?」

 

 

 

タカオに代わりエドワードが続ける。

 

 

 

「もう一つUSBには本来この国の技術に無い技術情報が入っています。特にあなたが進めてきた。列強各国からの資源エネルギー依存の脱却と新エネルギーの開発、それらを土産に開発途上国に売り込み条約を結び、エネルギーの押し売りで儲けている列強と肩を並べる大規模かつ新たな経済の枠組みの構築を、列強に気取られずに構想しておられますね?これはそれをある程度は可能とするものであると確信しています」

 

 

 

それを聞き大湊は薄く笑みを浮かべる。しかし目は獲物を見つけた肉食獣の如くギラリと輝いた。

エドワードはそれを見逃さない。

 

 

(ようやく釣れたか…だが勝負は此れからだ)

 

 

エドワードは努めて冷静な口調を心掛けた。

 

 

「先程あなたが仰った、私達の兵器技術が日本への供与されたとする疑惑に関しての懸案事項についてですが、あなたは我々が世界の超兵器討伐を成している間に国連に対して、¨我々の所有権¨ について議案を出して頂きたい。世界で超兵器撃沈を目の当たりにした各国は自ずと、我々の所有権を主張するでしよう。日本は、その所有権争いから一線を引くことで各国からの疑念の視線を反らすことが出来る筈です」

 

 

 

「だが、我が国が君達と最初に接触した事実は報告せなばなるまい。そうなれば、国連を招集しておきながら、所有権を主張せず降りると言うのはやはり疑念の対象となるのではないかね?」

 

 

 

「それは私が答えるわ」

 

 

タカオが二人の会話に割って入る。

 

 

「私達にはこの世界の法は適用されないわ。だから連中にこう言ってやるのよ。『私達の身の安全の為に、ハッキングで各国の機密全世界にバラす。私の国もそう脅しをかけられ、それを各国へ通達しろと言われ強要されている。他の皆さんもそうなりなくなければ、従って欲しい。全てが終われば、皆で奴等を叩いてしまえば良い。』と言えば良いだけの話よ。別に私達は悪者でもいいのよ、英雄の様に崇められたい訳でもないしね…」

 

 

 

「それでは君達は超兵器から世界を救った後、その世界から付け狙われる事になるのではないかね?君達の軍事技術がどこか一国に集まるのは危険とも思えるが?」

 

 

 

「まぁその時は私達はこの世界からオサラバしてるわ。私達だって自分の世界の事情が有るもの、いつまでもこの世界に留まるつもりはないわ。今元の世界に戻る為に色々探っていて、まだ結論は見えてないけど、ヒュウガならきっとやってくれるわよ」

 

 

大湊はタカオからの解答に暫く考え込む。

そして、結論は出たようだった。

 

 

「分かった。要件を飲もうじゃないか。但し、必ず超兵器を討伐してくれ。全てはそれからだ。私が言うのもなんだが、日本は今現在も列強各国の従順な消費者として日々理不尽な搾取を受け続けている。国民の笑顔もそれゆえかどこか作ったように薄っぺらい。私はね、昔の活気溢れた笑顔溢れる国民を見たい。本来なら私が背負わなければならない荷を君達に負担させてしまうのは日本の首相として痛恨の極みでは有るが、どうか頼む…」

 

 

 

大湊は先程の態度とは違い、真剣な顔で深々と頭を下げた。

 

 

「勿論です。これ以上無意味な犠牲は出さぬ様善処して参ります」

 

 

そんな大湊にエドワードは手を差し出し、彼もそれに握手で答えた。

 

無事に政府とウィルキア、蒼き鋼との協力関係の締結が成り、真霜はホッと胸を撫で下ろした。

 

 

 

一方の都内

 

フリッツと福内、そしてキリシマの3人はとある大学病院の研究棟の研究室のまえに居た。

 

超兵器についての考察や、今後起こるであろう戦闘での負傷に対処する為に優秀な医者が必要不可欠であったためだ。

 

ここにはかつて天才とうたわれた細菌研究の第一任者の教授がいると言う。

 

 

コンコン‼

 

福内がノックをすると中から返事が帰ってくる。

 

「どうぞ」

 

福内達が入るとそこには一人の白衣姿の女性が居た。

 

 

(女性か…それも思ったより若いな。ブラウン博士と同じか少し下くらいか…)

 

そう思案するフリッツを他所に、白衣の女性が口を開いた。

 

 

 

「あなた方がここに来た理由は大体検討がついている。昨日の横須賀の襲撃の件だろう?大方医者が足りず猫の手でも借りようとここへ来た。そんなところか?」

 

 

「猫の手だなんてそんなことは思ってないわ鏑木美波さん。いえ…今は鏑木¨教授¨とお呼びした方が良いかしら?」

 

 

 

 

【鏑木美波】

 

 

元【晴風】クラスの最年少メンバーであり、12歳にして飛び級で大学の博士号を取得する才女でもあった。

 

 

晴風での海洋実習当時は、医療要員として艦内の衛生面だけでなく、艦と言う閉鎖された空間で長期間抑圧された共同生活を強いられる学生のメンタルケアも一手に引き受けおり、更に6年前のRATtウィルス事件の際には、限られた設備の中でワクチンを製作してしまう程の実力を有している。

 

 

その独特の口調や雰囲気から、暫し年上に見られる事が多いが、その実RATtウィルス事件から6年過ぎた現在は18歳であり、メンバーでは唯一の未成年なのだ。

 

 

美波は少し不機嫌そうにビーカーとアルコールランプで温めたココアを口に含んでから視線を彼等に向ける。

 

 

 

「いや、別に教授の地位に愛着があるわけではない。私は研究や実験が出来ればそれでいいんだ。だから名前は普通に読んでもらって構わない。それより…」

 

 

 

美波の興味はキリシマへと向いていた。

 

 

 

凝視されたキリシマは、少し怯みつつも意を決して前へ出る。

 

 

「お、お前はこの国で医術だけでなく、まだ見ぬ未知の事柄に関する研究をしている優秀な研究者らしいな。お前には私達、超兵器の討伐隊の一員として一緒に行動を共にしていもら…モガ!?」

 

 

「興味深い!AIか…それともロボットか。いずれにしてもこれ程の技術は見たことがない。一体どういう仕組みなんだ?」

 

 

 

彼女はキリシマをつまみ上げていじくり回す。

 

 

フリッツは、彼女の腕の中でもがき助けを求めるキリシマを無視して、持っていた異世界艦隊と超兵器の資料を美波に見せた。

 

 

 

「ソレは、こう見えて知的生命体だ。超兵器に関しても人智を越えた未知の要素が絡んでいる可能性が高い。貴女には部隊の医療を賄って貰いつつ、此方の研究員と共に超兵器に関する調査にも参加して頂きたい。貴女を退屈させない内容だと思うが?」

 

 

フリッツは、彼女瞳がみるみる輝いて行くのを感じる。

そして、

 

 

 

「素晴らしい……こんなに興味深い事は、初めてだ!」

 

 

「快諾して頂いたと考えても?」

 

 

「あぁ、是非とも!」

 

 

美波はすっかり気に入ったキリシマを拘束しつつも、彼の提案を承諾する。

 

 

 

「む!!!むぐぅ…はっ離せ!」

 

 

キリシマは美波の腕を振りほどいてフリッツの後ろに隠れ、顔だけを出して美波を威嚇している。

 

 

 

そんなキリシマから美波一切の視線を外さず、ニタリと口許を吊り上げて見つめていた。

 

 

 

(いつか解剖して調べ尽くしてみたい…)

 

 

 

その表情にキリシマだけでなく、福内やフリッツも思わず顔をひきつらせるのだった。

 

 

 

 

  + + +

 

 

横須賀基地内

 

明乃ともえかは曇った表情を浮かべる。

 

数時間前、真霜に呼び出された二人は、真霜から異世界艦隊の超兵器討伐部隊に入るよう命令されていたのである。

 

勿論その申し出を固辞した二人だが、真霜は有無を言わせなかった。

 

 

さらに真霜は明乃達に衝撃の事実も伝える。

 

それは、もえかと晴風メンバーの事であった。

 

本来は全員が横須賀基地所属となるはずが、なぜ各地の基地にバラバラに所属する事となったか。それは、政府の息のかかった組織、つまり海上安全委員会からの圧力があったからだったのだ。

 

 

ウィルスが原因とは言え、6年前の事件はある意味武装した¨生徒の反乱¨と呼べるべきものであり、それを口実に政府内の右派勢力が勢いづき、軍設立への気運が高まりつつあったのだ。

 

 

それに危機感を覚えた当時、防衛大臣だった大湊が海上安全委員会を通して、ウィルス事件の際に極めて機知に富んだ行動をとり、その後実戦を経て脅威的な成長を見せた晴風メンバーやもえかを分散させるよう圧力を掛けさせていたのだった。

 

そうすることによって、まだブルーマーメイドが政府によってコントロールが可能であり、軍の設立は不要であると示す狙いがあったのが大きいだろう。

 

 

更に真霜は、硫黄島にて異世界艦隊との演習を数日間行うこと、そしてそれが終了次第、呉と佐世保に散りじりになった元晴風の仲間を出来るだけメンバーに引き入れる事を指示した。

 

 

明乃ともえかが特に心配しているのは、後者の命令だ。

 

自分は兎も角、共に学び笑いあった大切な仲間を、恐らくこの世で最も死に近い海へと連れ出す事は出来よう筈がない。

 

 

 

「ミケちゃん…」

 

 

 

 

今にも泣き出しそうな明乃をもえかは心配そうに覗き込む。

 

彼女は震える声を絞り出すように言葉を発した。

 

 

 

「解ってるつもりだった…。海の皆を護るためには、時にとても危険な事に立ち向かって行かないといけない。でも…でもねモカちゃん…友達をいつ死ぬかもしれない航海になんて連れていけないよ。だから…私は…」

 

 

 

「自分一人で行く?」

 

 

「え?」

 

 

「ミケちゃんならそう言うと思った。だって町の皆が…当たり前に幸せな生活をしていた皆があんなことになった。もしかしたら他の町の皆や世界のどこかでもこんな事に…そんなのミケちゃんがほっとける訳がないよね?でもねミケちゃん。大切な人を失いたくないのは私も同じなんだよ。私も…ミケちゃんを失いたくない」

 

 

「モカちゃん…」

 

 

 

「だから、私もミケちゃんを失わせないように隣で一緒に戦わせて欲しいの。ミケちゃんの力になりたいの!ダメ…かな…」

 

 

「少し…考えさせて…」

 

 

明乃は憔悴したようフラフラと歩き出す。

 

もえかはそんな彼女を引き留められず、ただ立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

明乃が基地内を歩いていると、一人の少年に出くわす。

 

 

 

蒼き艦隊の艦長である千早群像。

 

明乃は今回の討伐隊編成において蒼き鋼とウィルキア両陣営の情報を知らされている。

 

 

 

「千早艦長?」

 

 

「あぁ、あなたは確かあの時の…」

 

 

「はい、岬明乃です」

 

 

「今回の討伐隊に参加されるそうですね」

 

 

「そうなんです。でも…」

 

 

「何か?」

 

 

「実は…」

 

 

彼女は群像に自分の悩みを吐露し、そして彼が同世代の仲間と共に霧の艦隊と戦う上で、自分と同じ心境にならなかったのかを訪ねたのだ。

 

 

 

彼は少し考え、顔を上げる。

 

 

「最初は俺も、一人で世の中に風穴を開けてやると意気込んでいました。でも皆は俺の艦に乗った。俺達の世界で海に出ることは、即…死を意味する事だと言うのに…」

 

 

彼は自笑気味な表情で明乃を見つめる。

 

 

 

「俺はその時に気付いたんです。自分のやっている事は、只の子供の我が儘なんじゃないかって…。だから俺は信じてみることにしたんです。仲間を信じて対話を重ねていけば、イオナ達のような存在ともきっと共存出来ると信じて」

 

 

 

 

「信じる…」

 

 

 

「ええ、全てが信じられないと言うのは、同時に自分を信じられないのと同義なのです。確かに無理強いはいけないと思いますが、あなたを信じて付いて行きたいと言う仲間を信じてみても良いのではないでしょうか?」

 

 

「………」

 

 

 

「俺達の世界の海はまだまだ狭く、停滞が支配しています。だが、仲間と出会った事で少しは開けたような気がするんです。あなたにとって海とはどんな存在か、仲間とはどんな存在か考えてみてください」

 

 

「海の仲間とは…」

 

 

群像は会釈をすると自分の艦へと戻ってしまう。

 

 

そんな彼を見送りながらも明乃は結論を出すことが出来なかった。

 

 

 

 

悩み続けた彼女は自らの部屋へ戻る気になれず、俯きながら横須賀基地の船舶の停泊場を歩いていた。

 

そこに停泊していたのは、ウィルキアの超巨大な海上ドック艦【スキズブラズニル】

 

 

明乃はそれを眺めながら先程の群像との会話を思い出していた。

 

 

 

(私にとっての海、私にとっての仲間とは…か)

 

 

 

「岬明乃さんでしょうか?」

 

 

 

「あなたは…ウィルキア共和国のシュルツ艦長?」

 

 

 

「はい。討伐隊の編成の件ですが、ブルーマーメイドの艦艇の大半が先日大破したとの事でしたので、此方で艦を貸すことに成りまして、あなた方の乗る艦の整備の状況を確認しに行くところなんです」

 

 

「その件なんですが…私、仲間をわざわざ死にに行くような所に連れていく事がどうしても嫌なんです。それでずっと悩んでいて…シュルツ艦長は自分の世界で超兵器との戦争をしてきたと言っていましたが、仲間を死なせかねない超兵器との戦争で何も思わなかったのですか?」

 

 

 

彼女の話を黙って聞いていたシュルツは顔を上げ明乃に真っ直ぐ視線を向けた。

 

 

 

「何も思っていないと言えば嘘になるでしょう。元々、世界に宣戦布告したのは自国の人間ですし、死んだ部下も倒して死んでいった敵も、元は同じ国の同じ軍の戦友なのですから」

 

 

 

「だったら!!」

 

 

 

「だとしても!今現在苦しんでいる人々を助けない理由にはならない。あと私は軍属です。軍属である以上、最も優先されるべきは命令なのです。それに私に部下はいても仲間は存在しない」

 

 

「そんな事って…シュルツ艦長は冷たい過ぎますよ!」

 

 

 

彼にむかって思わず声を荒げてしまい明乃は顔が青ざめてしまう。

しかしそれを聞いたシュルツは厳しい顔つきが少し緩み、自笑ぎみな顔になった。

 

 

明乃はその顔を見て少しだけ群像の姿を重ねる。

 

 

 

「冷たい…ですか。確かに勝利の為に味方を見捨て、敵であっても自国の兵に砲を向けるよう命令したのは私なのですから無理も無いでしょう。あなたは私を冷たいと言ったが、少し違います。私は卑怯で最低な人間です。もうあんな戦いをしなくて済む、皆を失わずに済む、誰かを失うかもしれない命令をしなくて済むと逃げて。大きな犠牲を増やさない為に小さな犠牲を強いた。もっと…もっと良い方法を見つけて、敵味方を問わず犠牲を減らせたかもしれないのに…。楽な道を選んでしまったと思わない日はありません…」

 

 

 

「シュルツ艦長…。ご免なさい!私…」

 

 

「良いのです…。あなたは優しい人だ。私はたまに思うのです。軍属であり強力な兵器を扱っても、心までは兵器になってはならないと…。ですが実戦で敵を殺せば殺す程、その心は少しずつ削がれていく。あなたには…いや、あなたの信ずる仲間にはきっとどんな苦境にも心を失わない強さがあると信じています。私達はこの世界の海を知らない。超兵器と戦う為には、どうしてもあなた方の協力が必要なのです」

 

 

シュルツは深々と頭を下げるが、明乃は曇った表情で俯いてしまう。

 

 

 

 

「我々は明日の昼には出航します。それまで良く考えて判断してください」

 

 

「解りました」

 

 

「あっ!あとこれを…」

 

 

「これは…」

 

 

シュルツは彼女に艦長帽を手渡す。そして去り際に、今までとは違うとても優しい口調で、明乃に語り掛けた。

 

 

「今は沢山悩みなさい。そして出来ればあなたのその優しく強い思いを貫きなさい。先程はああ言いましたが、私はどのような結果に成ろうとも、それを受け入れます」

 

 

 

彼が去った後、明乃は仮設テントの中で横になり、考えていた。

 

 

 

(私は…どうすればいいの?)

 

 

 

夜が更けても、明乃は¨家族¨を戦場に巻き込む事への結論を出すことが出来なかった。

 

 

 

 + + +

 

 

 

翌日

 

 

 

(はぁ、あのまま寝ちゃったのかぁ。結局どうすればいいのか決められなかったな…)

 

 

彼女は疲れの残る表情で寝袋から出て着替えを始める。

 

そこへ…。

 

 

「ミケ艦長いる~?」

 

外から見知った声が聞こえ、彼女が慌てて飛び出すと、そこには晴風メンバーの横須賀組と鏑木美波の姿があった。

 

 

 

「皆…それに美波さん?…。どうしてここに?」

 

 

 

「私が皆に言ったの」

 

 

もえかが前に進み出る。

 

 

どうやら彼女が、晴風メンバーに明乃の事情を説明したらしい。

 

 

「水臭いじゃん艦長~なんで何も相談してくれなかっのさ!」

 

「うぃ!」

 

 

芽衣と志摩が明乃に詰め寄る。

 

 

「そ、それは、皆を危険な目にあわせたくなくて…」

 

 

「だからって、全部一人で抱え込むことないじゃない!」

 

 

「そうだよ!私達いつだってミケ艦長の事信じてるよ!」

 

 

 

「つぐちゃん…ミカンちゃん…」

 

 

「今回の航海、晴風メンバーを集める意味合いもあんだろ?なら勿論クロちゃんも居るんだよな?クロちゃんが噛んでて俺が一枚も噛んでねぇなんてぇのはいけねぇ!」

 

 

「それに、わたくし達だって、大切な家族や大切な人が傷付くかもしれないのに、黙って見ていられませんわ。わたくし達にはその力があるのでしょう?なら、わたくしも艦長と共に参りますわ!」

 

 

「私も医者だ。たとえどの様なことがあっても、誰も死なせるつもりはない」

 

 

「マロンちゃん…まりこうじさん…みなみさん…」

 

 

「ホント…あなたは私達が居ないと優柔不断ですね。そんなんじゃ誰も守れやしませんよ。」

 

 

振り向くとそこには真白がいた。

 

 

「し、シロ…ちゃん?」

 

「6年前に言いましたよね。私は…いや、私達はあなたの力になりたいと。この6年で何か変わったと思いますか?何もです!だから今回だって、どんなに危険でもあなたの側で力になりたい!ダメですか?」

 

 

「シロちゃん…」

 

 

「皆ね、そういう風に私達を思って一人で悩んでくれるミケちゃんだからこそ、一緒に行こうって思うんだよ。だって皆ミケちゃんの事、¨家族¨だって思ってるんだもの」

 

晴風の皆ともえかの言葉を聞き、明乃の頭の中に群像の問いがよぎった。

 

 

【あなたにとって海とはどういう存在か】

 

 

(海は皆との出逢いや絆を与えてくれた場所!)

 

 

【あなたにとって仲間とは】

 

 

 

(そんなの決まってる!¨家族¨)

 

 

彼女は仲間達の顔を見渡した。

 

真白ともえかがゆっくりと頷き、皆もそれに続く。

 

 

 

彼女の意は決していた。

 

明乃は艦長帽を目深にかぶり、顔を引き締める。

 

 

「私は、超兵器から全ての人を守りたい!全て!世界の人も、この国の人も、皆も、そして私自身も!でも一人じゃ何も出来ない。だから…皆の力を私に貸して欲しい!」

 

 

 

もう迷いはない。明乃達一同は自分たちの乗艦する艦があるスキズブラズニルへと向かって行った。

 

 

   + + +

 

 

スキズブラズニル前には、群像とシュルツが待っている。

 

明乃達が到着すると二人は何も言わずただ頷いた。

 

 

「意思は決まったみたいですね。では硫黄島でまた…」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 

群像が401に乗り込む。

 

 

「協力感謝致します」

 

 

「いえ…此方こそ」

 

 

401を見送った明乃達は、スキズブラズニルに乗り込み、シュルツに自分達の艦を見せて貰う事にした。

 

 

「試運転は、硫黄島に着いてからにしましょう。色々と説明したいこともありますので。こちらになります」

 

 

シュルツが指を指した方向には、明乃達が想像していたよりも小さな艦があった。大きさ的には航洋艦クラスだろう。

巨大な超兵器と戦う為に、比較的大型の艦艇に乗艦すると思っていた彼女達は、少し拍子抜けしてしまう。

 

 

「これ…ですか?」

 

 

 

「ええ、フリーゲート艦です。小数での操艦を想定していたのでこちらを用意しました。駆逐艦程の大きさですが、性能はとても良いと思います。完成したばかりなので名前はまだありませんが、岬さん…いえ、岬艦長。この艦に名前を付けて頂いても良いですか?」

 

 

 

 

明乃は少し考え、顔を上げた。

 

 

 

「【はれかぜ】!はれかぜが良いです。6年前も晴風は私達を最後まで守ってくれた。今回も皆を守って必ずここへ返してくれる。だから私ははれかぜが良い…ダメですか?」

 

 

 

「いえ、良い名前です。今日からこの艦は、【はれかぜ】です。名の通り、きっとあなた方に良い風をもたらしてくれますよ」

 

シュルツはそう言うと笑顔を明乃に向けた。

 

明乃は、はれかぜを見つめる。

 

 

(はれかぜお願い。あの時みたいに皆を守って…)

 

 

彼女は心からそう思う。

 

 

外の天候は曇天。

 

しかし水平線の彼方の雲の切れ目から光が差し込む。

 

 

 

【エンジェルラダー】

 

 

 

果たして天使達は、はれかぜにどんな試練をもたらすか、今は誰もわからない。

 

 

スキズブラズニルは重い錨を上げ、 401と共に硫黄島へと舵を切るのだった。   




お付き合い頂きありがとうございます


設定は原作のミケちゃん達が大人になったというものですが、20代前半って色々な社会の影響をうけて行く時期かと思います。

そんなミケちゃん達が様々な時代の価値観をうけて彼女たちならではの答えを導くかを見守って頂けたら幸いです



次回は硫黄島です。
戦闘まではかなり時間がかかりそうで申し訳ありません。


では次回まで今しばらくお待ちください。



















とらふり!

筑波
「こりゃ鍛えがいがあるわい!」


シュルツ
「張り切るのは良いですが、腰には気を付けて下さいね…」


筑波
「だ、黙らっしゃい!年寄り扱いするんじゃないわい!」




ゴキ!




筑波
「ハグッ!?」

シュルツ
「ほらぁ~」
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