トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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大変長らくお待たせいたしました。


地中海海戦 中盤戦です。


それではどうぞ!


振り上げられる巨人の鉄槌 VS 超兵器

   + + +

 

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

 

弁天を執拗に攻撃していた超兵器二隻の突然の被弾に、真冬は驚愕していた。

 

 

 

「か、艦長!ヴィントシュトース速力68ktに低下!更に、パーフェクトプラッタがいると思われる地点から黒煙並びに航跡を確認!此方も速力が落ちている模様!」

 

 

 

「知名か!?尾張を狙っていたんじゃねぇのかよ…。だか、これはチャンスかも知れねぇ。噴進魚雷を準備!超兵器にカマしてやれ!」

 

 

 

「了解!」

 

 

 

艦内は安堵と共に慌ただしさがまして行く。

 

 

一方のもえかは、タカオに向かって大きく頷いていた。

 

 

 

「上手く行ったわね!」

 

 

「まだ油断はできない。引き続き潜航してチャンスを伺おう!」

 

 

「了解!」

 

 

ゴオオ…!

 

 

 

タカオのエンジンが唸りを上げて再び動き出す。

 

 

 

もえかの発案した作戦は見事に成功していた。

 

 

 

勿論、尾張打倒はもえかの頭にある最重要問題であることは言うまでも無いだろう。

 

だが、弁天に張り付いた超兵器を振り払わない限り、後世への憂いを残しかねないのもまた事実であった。

 

 

しかしながら、簡単に浮上させてくれる程相手もバカではない。

 

 

故にもえかは、海中に閉じ込められた現状を逆に利用しようと考えたのだ。

 

 

 

先ず第一段階として、アクティブソナーを打ちながら尾張から距離を取り、弁天へと向かって行く。

 

 

これにより、尾張周辺の航空機を引き付け、メアリースチュアートの負担を軽減すると共に、弁天を攻撃している二隻の超兵器の目も引き付け、こちらを攻撃させることで弁天への負担も同時に軽くすることができる。

 

 

 

第二段階として、もえかはタカオにミサイルキャニスターの製造を指示し、それを遠隔操作して所定の位置へと移動させ攻撃のチャンスを窺う。

 

 

 

存在感を露にし、対潜弾が大量にばら蒔かれた事で、海中に爆音が轟いてキャニスターの居場所を巧みに隠蔽することに成功したのだ。

 

 

 

もえかはそのタイミングですかさずアクティブソナーと機関を停止させる事を指示し、姿を眩ませる。

 

 

 

だが、隠れる事が目的で行ったわけではなかった。

 

 

 

潜水艦である401とは異なり、水上艦であるタカオは海中での行動に向いていない。

 

 

故に相手からの攻撃は直ぐに再開されたことからみても明らかだろう。

 

 

 

彼女の本来の目的は、一瞬でも姿を眩ます事で、敵にタカオからの奇襲ないし逃走からの浮上、そして弁天への救援と見せかけての超兵器尾張に対する超重力砲での一発逆転の一手を匂わせ、動きに迷いを生じさせる事にあったのだ。

 

 

 

案の定、タカオに向けられた対潜弾の数は先程からの比ではない。

 

 

 

獲物が餌に掛かったこと確信したもえかは、更に深く敵が針に掛かる為、攻撃の再開と同時にエンジンを始動させ、クラインフィールドに穴を開けて敢えて騒音を振り撒いた。

 

 

これによりタカオの位置を特定した相手の目は、此方に集中する。

 

 

 

このタイミングで彼女はキャニスターに込められた侵食弾頭の発射を指示、これには超兵器も全く対応できず被弾を許す事となったわけだ。

 

 

 

更に付け加えるなら、もえかが狙っていたのは、超兵器の推進装置であった。

 

 

巨大な船体を有する超兵器を一撃で撃沈することは事実上不可能であり、小笠原ではれかぜを苦しめた高機動戦闘艦であるシュトゥルムヴィントが、推進装置を破損したことで撃沈出来た教訓を生かして、超兵器二隻の足を奪う作戦に撃って出たのである。

 

 

 

それに付け加え、姿が見えないパーフェクトプラッタに対しては、侵食弾頭を2発使用し、片方を推進装置へ、もう1発を後部にあるアンテナに向かって発していた。

 

 

パーフェクトプラッタの特徴とも言える長いアンテナは、周囲の海面の映像を高度に編集し、投影することで、自身が発する航跡を巧みに隠蔽していた。

 

 

それを破壊することによって、弁天からの視認が可能になれば、対応する事も不可能ではなくなる。

 

 

 

彼女の目論みは的中し、超兵器二隻の速力は低下。

更に爆煙と航跡によって存在が露呈したパーフェクトプラッタの攻撃を弁天は見事に迎撃していたのだ。

 

 

 

だが、もえかに油断の二文字は存在しない。

 

 

 

「タカオ、次の作戦に移ろう。」

 

 

 

「解ってる。パーフェクトプラッタを狙うのね?」

 

 

 

「うん。でも¨あちら¨の様子も随時観測して!少しでもチャンスがあれば叩く!」

 

 

 

「了解。いつでも行けるようにするわ。」

 

 

 

二人は互いに頷くと、前を見据えた。

 

 

 

タカオは未だ潜航を継続し、超兵器への距離を詰めて行く。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「魚雷、攻撃始め!」

 

 

「了解!」

 

 

 

バシュ!バシュ!

 

 

 

弁天から短魚雷が発射され、足を失ったヴィントシュトースに水柱が複数上がる。

 

 

 

しかし、相手の応戦も激しい。

 

 

 

ミサイルや光学兵器、そして魚雷と今まで以上の苛烈な砲撃を弁天へと見舞って来た。

 

 

 

「ミサイルと誘導魚雷を優先的に迎撃しろ!油断するんじゃねぇぞ!速度は落ちたが、普通の艦艇よりも速い。馬鹿正直に殴り合ったら勝ち目はねぇ!」

 

 

 

「艦長!敵主砲が回頭中!此方を狙ってきます!」

 

 

 

「距離を取れ!魚雷装填準備!奴の左舷に攻撃を集中させろ!」

 

 

 

「了解!」

 

 

 

直後。

 

 

 

ボォン!

 

 

「あぐっ!」

 

 

ヴィントシュトースから放たれた主砲弾が、弁天の至近で炸裂し、防壁で軽減しきれなかった衝撃が艦を激しく揺らす。

 

 

 

「畜生…。」

 

 

真冬は歯を食い縛り、超兵器を睨み付ける。

 

 

 

まるで開き直ったかの様なヴィントシュトースの砲撃は、先程迄の比ではなく、被弾による動揺など微塵も感じられなかった。

 

 

 

クルー達も、その機械的な脅威を肌で感じる。

 

 

だが、敵は攻勢を決して緩めたりはしない。

 

 

 

更には…。

 

 

 

「艦長!正面から敵機多数!」

 

 

 

「ちっ!至急迎撃を…。」

 

 

「間に合いません!」

 

 

「クソッ!少しでも防壁を温存したいってのにっ!」

 

 

 

真冬が、やむを得ず防壁の展開を指示しようとしていた時だった。

 

 

 

ボボォオ!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

弁天に狙いを定めていた航空機の一機が爆発し、機体がバラバラに砕け散りながら海へと落下して行く。

 

 

 

危険を察知した敵機の群れは散開し、その後を一宮率いる航空隊が追撃して行った。

 

 

 

 

「今だ!一機ずつ確実に落とせ!深追いはするなよ!」

 

 

『はっ!』

 

 

 

彼の指示で、編隊が方々に散って行く。

 

 

 

「助かったぜ…。よし、油断せずにこのまま奴を叩くぞ!」

 

 

 

「了解!」

 

 

弁天は優れた旋回性能を生かし、超兵器を追い詰めて行く。

 

 

 

 

一方もえかはパーフェクトプラッタを追っていた。

 

 

 

「どう?追える?」

 

 

 

「バッチリね。さっきの攻撃の際に艦の静穏性が失われたみたい。」

 

 

 

「魚雷を中心に攻撃を続けて!尾張への警戒も怠らないで!」

 

 

 

「了解!」

 

 

バシュ!バシュ!

 

 

 

タカオから大量の魚雷が発射さられる。

 

 

対するパーフェクトプラッタも、迎撃に加えて対潜弾を海へと叩き込んでおり、互いの壮絶な殴り合いへと発展する。

 

 

 

しかし、もえかはある違和感を感じていた。

 

 

 

(パーフェクトプラッタの位置があまり変わっていない?……あっ!)

 

 

 

彼女は思わず天を仰ぐ。

 

 

「ど、どうしたのよ?」

 

 

 

「まずい…。」

 

 

「え?」

 

 

「ヨトゥンヘイムが発射の準備を始めてる。」

 

 

 

「そんな、だって…。」

 

 

《§∴8∂Y∝G327°‡412°Åф…。》

 

 

 

《╋、┻、┳、┫、┣、┼、┷!》

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

「タカオ?」

 

 

「アンタの予感、当たったみたいよ…。」

 

 

 

「!」

 

 

 

「キリシマが検知した超兵器のカウントダウンらしき通信を傍受したわ。…でも。」

 

 

 

「どうしたの?」

 

 

 

 

「キリシマの話だともっとノイズが入って聞き取りにくかったみたいだけど、今回は凄く¨鮮明¨に聞こえたわ。」

 

 

 

「…………。」

 

 

 

彼女は、次々と沸き上がる不安を拭い去る事が出来ない。

 

 

 

 

(何?…何なの?ダメ!考えなきゃ!思考を止めちゃダメ!)

 

 

 

もえかは、タカオと超兵器との応酬の雑音に惑わされぬよう意識を集中させ、相手の思考の先を追って行く。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

『ああっなんだよ!しつこいっ!アイツ速すぎて攻撃が当たらない!』

 

 

 

「此方も再び超兵器から攻撃を受けている。」

 

 

 

キリシマとハルナは、弾薬補給を終えたジュラーヴリクとヴィルベルヴィントに翻弄されていた。

 

 

いや、実際その二隻だけなら良かったのだろうが、駿河や小型艇からひっきりなしに飛んでくる攻撃が彼女達を苛立たせる。

 

 

更には、

 

 

 

『ヨトゥンヘイムがレールガンの発射体勢に入っているぞ!』

 

 

 

艦隊旗艦であるヨトゥンヘイムは、超巨大なレールガンの連結を完了し、発射のエネルギーを蓄積していたのだ。

 

 

 

 

「とにかく向こうに知らせろ。キリシマ、奴がさっきアレを放った時は何か予兆が有ったのか?」

 

 

 

『ああ…確かカウントダウンみたいな通信が有ったな。恐らくプラッタ級が位置を観測してそれを尾張がコイツに伝えてるんだと思うが…。』

 

 

 

「今は聞こえるか?」

 

 

 

『いや、¨聞こえない¨。と言うよりも妨害されているのかノイズが酷すぎる。これでは発射までどの位猶予があるのか解らないぞ。』

 

 

 

「妨害したい処だが、やはり手が足りない。せめて何か決め手が有れ良いのだが…。」

 

 

 

彼女が険しい表情をいっそう深めた時だった。

 

 

 

『ハルハル?聞こえる?』

 

 

 

「お前は…蒔絵か!」

 

 

 

蒔絵から来た突然の通信に、彼女は目を丸くする。

 

 

 

「どうした。そちらに何かあったのか!?」

 

 

 

『ううん、何もないよ。こっちは今、シュルツ艦長と群像艦長がニブルヘイムと戦ってるみたい。』

 

 

 

「はれかぜはどうした?」

 

 

 

『はれかぜは…ノーチラスを撃沈したみたいだけど、弾薬の欠乏と損傷で今は戦線を離脱してこっちに戻って来てるよ。』

 

 

 

「そうか…。」

 

 

 

ヒュウガや401からの通信で、敵が量子兵器を使用してきた事は知っていた。

 

 

だがそれよりも気になった事は、蒔絵が自分に対して連絡をよこした事だった。

 

 

デザインチャイルドである彼女は、見た目の幼さと比べて非常に頭が良い。

 

 

彼女の性能を理解している蒔絵は、常にハルナを信じて待ち続けているのが普通だと思っていた。

 

 

 

そんな彼女が連絡をよこしたと言う事は、自分を信じて貰えていないのかとハルナは少し不安になる。

 

それを知ってか知らずか、蒔絵は話を続ける。

 

 

『そんな事よりハルハル、今凄く困ってる?』

 

 

 

「あ、ああ。本当なら心配をかけたくない処なのだが…。」

 

 

 

『ううん。もしハルハルが隠してたとしても解るよ。だってトモダチだもん!』

 

 

 

「蒔絵…。」

 

 

 

『あっそうだ。話してる場合じゃないもんね…。あのねハルハル。今からそっちに新しい兵装のデータを送るから、使い時が有ったら使ってみて!』

 

 

「新しい兵器?」

 

 

『うん。え~っと…。それじゃあ送るね。』

 

 

 

チ…チ…。

 

 

 

ハルナは、自らのコアにデータが流れ込んでくるのを感じる。

 

 

 

『ちゃんと送られたかな…。』

 

 

「ああ、データの破損は無いようだ。いまから圧縮を解凍して閲覧する。」

 

 

 

チ…。

 

 

 

「!」

 

 

 

ハルナは目を丸くする。

 

 

 

「超音波振動魚雷?」

 

 

 

『うん。水にとある周波数の音波を照射すると、気泡に変化するの。それを広範囲にすることで、一時的にだけど千早艦長が小笠原のメタンハイドレートを利用したみたいに超兵器の足止めが出来る様になるよ!敵味方が狭い範囲に乱立するときは使えないんだけどね…。』

 

 

 

「いつの間にこんなものを…。」

 

 

 

『う~ん。日本を出る時から浮かんではいたんだけど、これはまだ完成じゃないんだ…。』

 

 

 

「完成ではない?」

 

 

 

『そう。本当は¨はれかぜに搭載する新兵装¨を開発している時に、副産物的に思い付いたものなの。ヒュウガが戻ってきたら新兵装の最後の調整に入りたいな。』

 

 

 

「………。」

 

 

 

『ハルハル?』

 

 

 

「蒔絵、この兵器…いや、はれかぜに搭載する新兵装には、お前が考えた¨振動弾頭¨の技術を使っているのではないか?」

 

 

 

『……!』

 

 

 

「答えてくれ!」

 

 

 

『そう…だよ。』

 

 

 

「何故だ!お前はあれほど、振動弾頭に関わること避けて来たではないか!まさか…誰かに強要されたのか?だったら私が…。」

 

 

 

『違うよハルハル…。私は自分で決めたんだよ。』

 

 

 

「!」

 

 

 

 

『あのね、私千早艦長に聞いたの、ハルハルに助けてもらった後硫黄島で…。もしかして振動弾頭以上の兵器を作るために助けたのかって…。』

 

 

 

「………。」

 

 

 

『【違うよ】って言ってくれた。でも私、どうしても不安で…ハルハルやその仲間を傷付けちゃう兵器を作った自分自身が怖くて、千早艦長に全てぶつけたの。』

 

 

 

 

彼女達がいた世界で、人類の脅威となる存在であった霧の艦隊への唯一の切り札、振動弾頭。

 

 

 

それを開発する事は、当時の¨人類¨では不可能であった。

 

 

であるなら、人類を超越した存在を¨造り出して¨しまえばいい。

 

 

 

そう考えた日本政府は、デザインチャイルド計画を立案し、蒔絵の産みの親でもある刑部藤十郎博士に研究を打診する。

 

 

 

振動弾頭の開発に頓挫していた刑部藤十郎はその計画を受諾し、デザインチャイルドを生み出して行く、その過程で多くの新たな命が失われ消費されていった。

 

 

 

そうした命を使った研究の果てに生まれたのが蒔絵なのだ。

 

 

 

彼女は藤十郎の期待に見事に答え、振動弾頭を完成させる。

 

 

しかし、それに対する政府は反応は冷淡であった。

 

 

藤十郎の下には、現デザインチャイルドの即時¨破棄¨並びに新たなデザインチャイルドの育成と更なる兵器の開発を指示する書簡が届いたのだ。

 

 

 

政府は、高過ぎる知能を有する蒔絵の存在が霧の反感を呼び、自らの都市が攻撃対象になる事が恐ろしかったのだろう。

 

 

まるで古くなり、厄介に為ったコンピュータを棄てるが如き対応に、藤十郎は愕然とせざるを得なかった。

 

 

彼は自らが生み出し、自分に笑顔を向けてくれる蒔絵を、本当の娘の様に愛してしまっていたのだ。

 

 

 

故に藤十郎は、自分を事故死に見せ掛けて行方を眩まし、蒔絵を唯一の存在として政府に保護させる道を選んだ。

 

 

 

蒔絵は政府から与えられた巨大な邸宅にて、一人過ごして行く事になる。

 

 

それが、身体は幼くともあらゆる事を理解できてしまう彼女にとって、如何に孤独であったかは想像にかたくない。

 

 

 

しかしある日、彼女は屋敷の近くにある港湾施設近くで歩いていたとき、自らの運命を左右する出合いを果たす事となる。

 

 

それが、人類の敵として絶対的な存在を誇る大戦艦ハルナのメンタルモデルとの出合いであった。

 

 

 

横須賀襲撃の際に不意を突かれて撃沈されたハルナとキリシマは、爆発の衝撃で吹き飛ばされて港湾施設で自閉モードに入っていた。

 

 

キリシマに於いては、メンタルモデルを形成するナノマテリアルすらも失ってコアのみの姿であり、身動きがとれない。

 

 

それを発見した蒔絵との出合いによって、彼女達はなし崩し的に蒔絵の屋敷へと入り込む事になる。

 

 

彼女との触れ合いにによって、ハルナのコアの中には今まで人類に抱いたことの無い感情が生まれて行く事になる訳だが、とある日の夜にハルナは屋敷に居たメイドにある部屋へと通される。

 

 

 

そこに居たの者とは、生命維持装置に繋がれた刑部藤十郎だった。

 

 

藤十郎はハルナに、今までの経緯と自らの命があと僅かである事を語り、そしてあるお願いをする。

 

 

それは、蒔絵を人類の都合でも、況して霧の都合で利用するのではなく、一人の人間の少女として生きさせて欲しい事、そしてハルナをそんな蒔絵の¨トモダチ¨になって欲しい事を託したのだ。

 

 

正直彼女は戸惑った。

 

 

兵器として生まれた彼女に、人類を守る事はおろか、トモダチになると言う概念自体が存在しなかったからだ。

 

 

しかし、その時彼女のコアが反復する数日間共に過ごした蒔絵の楽しそうな表情がどうしても離れてはくれない。

 

 

 

彼女が藤十郎にどう返答しようか迷っている時だった。

 

部屋のアラームが鳴り、屋敷に何者かが侵入した事を知らせてくる。

 

 

 

それは、屋敷の至るところに設置された監視カメラによって、蒔絵がメンタルモデルと接触したことを知った政府が、蒔絵を拉致して知識を利用する事を恐れ、彼女を殺害するために差し向けた陸軍の特殊部隊であった。

 

 

 

ハルナはナノマテリアルで蒔絵のイミテーションを造り、キリシマに彼女を護衛させて自らがお取りになるも、蒔絵が自分から出てきてしまったことで失敗に終わってしまう。

 

 

何故姿を現したのか彼女に問い質すと、蒔絵は陸軍の狙いが自分であり、ハルナ達に逃げて欲しがったと言う事、そして自らがトモダチであるハルナ達を傷付けてしまう振動弾頭を開発したことへの懺悔を口にするのであった。

 

 

 

それを聞いた彼女は、蒔絵を失いたくない大切な存在であると自覚する。

 

 

だが、陸軍の苛烈な攻撃によって彼女達は絶体絶命な危機に陥ってしまっていた。

 

 

 

だが、ハルナの危機を感知したイオナによって彼女達は救出され、ハルナは蒔絵に改めてトモダチになって欲しいと頼み、互いは共に歩むことになったのである。

 

 

 

その後、彼女達を伴った401は、蒼き鋼の本拠地である硫黄島に到着する。

 

 

 

そこでハルナは、群像に自分達を助けた理由を問うた。

 

 

 

【イオナが助けたいと言った…それではダメか?】

 

 

 

群像から帰ってきた言葉は、ハルナを拍子抜けさせる内容だったが、彼女はその言葉を信用できなかった。

 

 

 

確かにハルナが調べた401の通信ログには、政府関係者から蒔絵の殺害に介入しないよう通達がきており、彼等がそれを拒否したことは把握している。

 

 

 

だが、彼等が霧の艦隊に対する切り札である振動弾頭をアメリカに輸送していることは事実であり、それを決して破棄する事はないだろうと言うことも理解していた。

 

 

 

その上でハルナは、蒼き鋼が蒔絵を振動弾頭と¨セット¨でアメリカに身柄を引き渡して地位を得るか、若しくは振動弾頭以上の兵器開発を蒔絵自信に強いて来るのではと考えていたのだ。

 

 

でなければ、祖国の政府を裏切ってまでも蒔絵を助けるメリットが無い。

 

 

 

もしそれが事実であれば、ハルナは401と事を構える事になっても蒔絵を守り、逃亡しようと考えていたのだ。

 

 

巨大な力を有する兵器の開発は、蒔絵にとって最大の得意分野であり、そして最も彼女心を傷付けてしまう刃でもある。

 

 

 

ハルナは、彼女にそんな思いをさせるつもりは無かったのだ。

 

 

 

「蒔絵、私はお前に…。」

 

 

 

『千早艦長は言ったの、【君は自由だ。振動弾頭をどうするのか、ハルナ達とどうしたいのか。自分で好きに決めていいんだ】って。』

 

 

 

 

「千早群像がそんなことを…。」

 

 

 

『これは私が選択したことなんだよハルハル。トモダチはね、どちらが片方を一方的に守るものじゃないの。お互いに思い合うから…失いたくないって思うからトモダチなんだよ。』

 

 

 

「互いを…思い合う。」

 

 

 

『うん。私、今ハルハルがどんな顔をしてるのか解るよ。きっと哀しそうな顔をしてる。』

 

 

 

「………。」

 

 

 

『でも、私はハルハルやヨタロウと一緒に居たい。だから…あんまり役には立てないかもしれないけどこれを使って欲しいんだ。』

 

 

 

「蒔絵…。」

 

 

 

『時間を取らせてゴメンね…私、待ってるから!それじゃ…。』

 

 

 

「待ってくれ!」

 

 

 

『ハルハル?』

 

 

 

ハルナは決意に満ちた表情を浮かべた。

 

 

 

 

「蒔絵、あなたに誓おう。この半永久な者たる私が存在しつつける限り、あなたとトモダチであり、共に歩み続ける事を…。」

 

 

 

『ありがと…ハルハル。それじゃ、待ってるからね!』

 

 

 

蒔絵との通信を終えたハルナは、超兵器たちを一瞥する。

 

 

 

『通信は終わったのか?』

 

 

 

「キリシマ…聞いていたのか?」

 

 

 

『ああ…何だろうなこの気持ちは。』

 

 

 

 

「解らん。だが、これだけははっきり解る。蒔絵がコレをどんな思いで開発したのか、そしてどの様な顔だったのか。」

 

 

 

 

『………。』

 

 

 

 

「私は、一つの兵器として、また蒔絵のトモダチとして、彼女を傷付けた超兵器を決して許さん!」

 

 

 

『ああ、私も同様の結論を得た。奴等はこの手で必ず沈める!行くぞハルナ!』

 

 

 

「付き合おうキリシマ。」

 

 

 

 

二隻は同時に動き出す。

 

 

 

ヨトゥンヘイムの兵器の発射は目前であり、他の超兵器からの攻撃も激しい。

 

 

 

しかし、彼女達に迷いはなかった。

 

 

 

『ハルナ!蒔絵から送られてきた兵器情報を此方にも送れ!』

 

 

 

「了解。あと以前蒔絵が考案していた緊急に於けるクラインフィールドの効率的な運用に関する情報も添付しておく。」

 

 

 

チ…チ…。

 

 

 

二隻の大戦艦は速度を上げて、キリシマは小型艇群へ、ハルナはヴィルベルヴィントへと舵を切る。

 

 

 

「先ずは貴様等が邪魔だ!」

 

 

 

先程からハルナの後方に張り付き、ミサイルやレールガンを乱射してくるジュラーヴリクと、小型のプロペラ機程の速度を有するヴィルベルヴィントは、高速での一撃離脱を繰り返して彼女を翻弄していた。

 

 

 

ヨトゥンヘイムの主砲発射を妨害するためには、少なくともこの二つの超兵器からの攻撃を停止させ、小型艇を牽制しなければならい事は明らかだろう。

 

 

 

キリシマは、機関出力を上げて最大の演算を使用して効率的に小型艇を撃沈を開始している。

 

 

残るは超兵器のみ。

 

 

 

 

(回避能力の高いジュラーヴリクは次だ。先ずはヴィルベルヴィントを叩く!)

 

 

 

ヂ…!

 

 

 

ハルナは蒔絵からもたらされた情報を元に超音波振動魚雷をナノマテリアルで形造って行く。

その間、ヴィルベルヴィントとジュラーヴリクは絶え間なく彼女を痛ぶっていった。

 

 

だが彼女は表情を一切崩さず、魚雷の精製と敵の動向を注視し続ける。

 

 

 

ヂ…。

 

 

 

(魚雷の精製、装填、発射準備…完了。後は敵の動向を見極める!)

 

 

 

 

ハルナは事態を打開する為に一度ヨトゥンヘイムから意識を外し、ヴィルベルヴィントとジュラーヴリクへ全演算を集中させて行く。

 

 

 

ヴィルベルヴィントは猛烈な速度でハルナへと接近し、恐ろしい正確さであらゆる攻撃を僅かな時間でばら蒔いてきた。

 

 

彼女はそれを回避すること無く、敢えて貴重なクラインフィールドを稼働させて全て受けた。

 

 

再び視線を向けた時にはヴィルベルヴィントの姿はとても小さくなっている。

 

 

だが、ハルナは決心したように動き始めたのだった。

 

 

 

(今だ!)

 

 

ガガガガっ! バシュ!バシュ!

 

 

 

彼女は自身の持ち得る全ての発射官を開いて侵食弾頭を含んだ魚雷とミサイルを発射する。

 

 

 

 

100発を軽く超える弾頭群はみるみるヴィルベルヴィントへ殺到し、敵は迎撃に追われた。

 

先程比べると、明らかに単調な動きになっているのが解る。

 

 

 

そこへ…。

 

 

 

(蒔絵…使わせて貰うぞ!)

 

 

 

バシュ!

 

 

 

一発のミサイルが発射官から放たれて、ヴィルベルヴィントへと飛翔する。

 

 

蒔絵が開発した超音波振動魚雷だ。

 

 

 

それは途中で一段目が切り離されて海面に着水し、魚雷部分が更に敵へと進んで行く。

 

 

 

ハルナは敢えて回りくどい起動で他の弾頭を誘導し、ヴィルベルヴィントに迎撃させることで本命の超音波振動魚雷への注意をそらしているのだ。

 

 

 

魚雷は真っ直ぐに進んで行き、高速で航行するヴィルベルヴィントの向かう方向に先回りする起動で進んで行き…。

 

 

 

 

キィイイイイ!

 

 

 

起動した超音波振動魚雷が直径500mに渡って特殊な音波を撒き散らし、それと同時に…。

 

 

 

 

ゴボゴボゴボゴボゴボゴボ!

 

 

 

ある周波数の音波によって水分子が高速で振動を開始し、水温が一気に上昇。

それに伴って海中で大量の気泡が発生し、体積が上昇したことで気泡が海面へと飛び出して行った。

 

 

 

その様子に気付いたヴィルベルヴィントは、回避を試みようするが、ハルナの放った大量の攻撃を迎撃しようとしたが為に、直線的な動きとなり回避が間に合わない。

 

 

 

そして気泡の海へと船体が入り込んだ瞬間、ヴィルベルヴィントはまるで前につんのめる様に艦先が海へと沈み、回避しようと全力で舵を切っていた事が仇となって、思いっきり横転する。

 

 

 

気泡によって浮力を失った事が原因である事は明らかだった。

 

 

 

ハルナは、超音波振動魚雷を使用する事で海面に言わば落とし穴を作り、そこへ気付かれず誘導する為に大量の攻撃を繰り出して注意を引いていたのだ。

 

 

 

だが、彼女の追撃はまだ終わっていない。

 

 

 

横倒しになり、無様に船底を露にした超兵器が防御重力場を展開する隙を与えないため、残りの弾頭を一気に船底へと叩き込んで行く。

 

 

 

グゴォォ!ボォン!

 

 

 

侵食魚雷の命中であっさり船体に穴を開けられたヴィルベルヴィントに最早何も抵抗する術は残されていない。

 

 

 

ハルナは更に、攻勢を強めて行く。

 

 

ミサイルや魚雷に加え主砲であるレーザーも駆使し、間髪を入れず無慈悲な攻撃を超兵器に叩き込み続けた。

 

 

そして遂に…。

 

 

 

ドゴォオ!

 

 

 

超兵器機関が爆発し、日の落ちた暗闇が一瞬眩い光に包まれ巨大な船体が一瞬で粉々に爆散した。

 

 

 

遠く離れたハルナの周辺にも、今やどの部分に使用されていたのか全く解らない敵の焼けた残骸がボチャボチャと音を立てて降り注ぐ。

 

 

次に彼女は、背後にしつこく張り付いてくるジュラーヴリクを一瞥する。

 

 

 

(人間が乗っていないのだとしたら、視覚情報を頼りに回避しているのでは無いのだろうが奴の動きは厄介だ。ヴィルベルヴィントに使った戦法が使えない以上、無理に撃墜に固執すればヨトゥンヘイムに主砲の発砲を許してしまう。だが、奴の攻撃を無視する事も出来ん…ならば!)

 

 

 

ハルナは発射官を開いてミサイルを発射、ジュラーヴリクに向けて誘導を始める。

それと同時に、敵はハルナへの攻撃を中断して凄まじい起動で回避を始め、パルスレーザーでミサイルを迎撃しようと試みた。

 

 

 

しかし幾ら撃っても、ハルナが誘導し、複雑な軌道を描くミサイルは、簡単に撃墜されてはくれない。

 

 

だが不思議な事に、ミサイルはジュラーヴリクと一定の距離を保って追い掛けて来るのみで決して接触しようとはしない。

 

 

 

しかしこれがハルナの狙いであった。

 

 

3次元的な動きをするジュラーヴリクは、その複雑な軌道での回避途中に攻撃を仕掛けてこない。

 

これは、超兵器が自らの動きで砲撃の照準を合わせ難くなってしまう事が原因である訳だが、逆に回避させ続ける事が出来るならば、攻撃を受けにくくなる事と同義であった。

 

 

 

 

敵は迫り来る弾頭をパルスレーザーで撃ち落としにかかるが、撃墜を目的としないハルナのミサイルは、巧みに逃げ回り包も隙を見てジュラーヴリクに撃墜を思わせる軌道で圧力をかけている。

 

 

 

これは以前のハルナなら決して考えもつかないような判断であった。

 

 

 

 

彼女達【霧の艦隊】は、実際は¨艦隊¨とは似ても似つかない戦法を取る。

 

 

 

具体的には艦隊を組んで現れたとしても、人知を超えたセンサーで相手の位置を正確に炙り出し、個々の艦艇が、それも人知を超えた兵器を一方的に叩き込み、人類側の攻撃はクラインフィールドが有るため回避すらしないと言う極めて単純な攻撃パターンが大半であった。

 

 

 

最も、それだけでも人類にとっては脅威であったし、海に進出する全ての人類を排斥するよう命じられていた彼女達に、目の前の敵を全力で沈める以外の選択肢は無かった訳だが…。

 

 

 

しかし、超兵器と言う自らと同等の力を有した敵との遭遇を想定していなかった事は明らかであり、況して戦術を駆使してくる事も相まって、彼女達との相性は最悪と言わざるを得なかった。

 

 

 

 

¨彼女達がメンタルモデルを有していなければ¨…だが。

 

 

 

人間の思考を理解する目的で、総旗艦ヤマトからメンタルモデルを形成する事を命じられた彼女達だが、人間との接触機会が多い401は、他のメンタルモデルよりも群を抜いて創意工夫に富んだ行動を見せる。

 

 

そしてハルナやキリシマも例外ではなく、群像達に保護されて以降、様々な思考に触れる機会を得ていた。

 

 

 

それにより、自分達だけで処理しきれない案件を、大勢で連携して解決していく手法に気付いたのだ。

 

 

 

 

「ジュラーヴリクは足止めした。キリシマ!」

 

 

 

『展開する小型艇の七割を撃沈した段階で奴等はデュアルクレイターと共に距離を取り始めた。今なら行けるんじゃないか?』

 

 

 

「了解した。念のため駿河にも注意を向けておく。」

 

 

 

『よし!では始めるぞ!』

 

 

 

ゴォオ!

 

 

 

キリシマの船体が展開され、中から円形の超重力ユニットが出現する。

 

 

 

超重力砲の発射体勢に入ったのだ。

 

 

 

「時間がない。演算を消費して不意を突かれないようにする観点からも、出力は30%程度で撃て。そうすれば、エネルギーの縮退に要する時間を短縮出来る。」

 

 

 

『出力が低下するから抜けるかどうかは解らないぞ?』

 

 

 

「構わん。手傷を負わせるだけでいい。最悪敵が無傷でも、発射を妨害出来れば次へ繋がる。不安なようなら、超重力砲の条線を細く絞り込んで、威力を上げろ。」

 

 

 

 

『了解。』

 

 

 

 

キリシマはエネルギーの蓄積を開始し、それと同時に、ハルナは周囲への警戒に全演算を費やして行く。

 

 

 

そこで彼女はある違和感に気付いた。

 

 

 

(駿河が、ヨトゥンヘイムから距離を取り始めた?)

 

 

 

 

確かにこのタイミングで艦隊旗艦から距離を取るのは不自然だった。

 

そして、先程まであれほど砲撃をしてきたのにも関わらず、今は牽制程度の砲撃しか行っていない。

デュアルクレイターにしても小型艇を引き上げさせ、自らもキリシマから距離を取っている。

まるで¨撃って下さい¨と言わんばかりなのである。

 

 

(………。)

 

 

ハルナは眉を潜め、コアに沸き上がるある種の警鐘の様なものを感じヨトゥンヘイムを見つめた。

 

 

 

(おかしい…キリシマの戦闘ログにあったヨトゥンヘイムの主砲発射に要する時間を超過している…まさか!)

 

 

 

彼女はその不穏な¨予感¨にとある確証を得る。

 

 

 

(奴は既にエネルギーの充填を終えて、発射可能な状態になっているのか?だとすればなぜ発射しない…。何か見落としがあったのか?)

 

 

 

ハルナがそう思った時だった。

 

 

 

『ハルナさん!』

 

 

 

「その声は…知名もえかか?一体どうして…。」

 

 

 

『そんなことより早く退避を!敵の…ヨトゥンヘイムの狙いはハルナさん、あなた達です!』

 

 

 

「!」

 

 

 

彼女の言葉にハルナのコアは、より一層強い警鐘をならすのだった。

 

 

 

   + + +

 

 

 

《╋、┻、┳、┫、┣、┼、┷!》

 

 

 

「いつまでカウントダウンしているつもりなのかしら…。キリシマの戦闘ログによると、とっくに撃ってきてもおかしくないわよ?」

 

 

 

 

「………。」

 

 

 

もえかは必死に思考を巡らせる。

 

 

 

ヨトゥンヘイムからの砲撃の可能性を各艦に伝えたことにより、異世界艦隊は動きを止めず動き回っている。

 

 

最も、それで防げる程あの攻撃は甘くは無いのだが、超兵器への攻撃を中断して動き回るこの状況はイタズラに時間を浪費してしまっている。

 

 

 

 

(時間がないって言うにっ…!)

 

 

 

もえかは苛立つ気持ちを何とか押さえ込んで、敵の思考を追って行くが、焦りがそれをどうしても邪魔をしてしまう。

 

 

 

(何か…何か情報が欲しい!)

 

 

 

彼女はタカオに視線を向けた。

 

 

 

「状況は芳しくないわ。何かあるならハッキリ言いなさい!」

 

 

 

「タカオ…うん。ありがとう。情報が足りないの。キリシマに連絡は取れるかな?」

 

 

 

「了解。」

 

 

 

チ…。

 

 

 

『なんだよ!今、超重力砲の制御中だから忙しいんだ!』

 

 

 

 

「キリシマ、お願い!ヨトゥンヘイムの状況を教えて!超兵器のカウントダウンが開始されてから随分たつけど、そっちで何か妨害してるの?」

 

 

 

『はぁ!?カウントダウン?何の事だ?確かに発射体勢になってそっちを狙っているようだが、そんなもの聞こえてないぞ?』

 

 

 

「え?タカオにはハッキリ聞こえてるって…。」

 

 

 

『距離が有るからな、私達に上手く届かないだけじゃないのか?』

 

 

 

有り得ない…。

 

 

もえかはそう思った。

そもそも、このカウントダウンは、シチリア島の向こうに展開するヨトゥンヘイムに、パーフェクト・プラッタが観測した異世界艦隊の位置情報を元に、尾張が発射タイミングを伝えるために発信しているものなのだ。

 

 

故に、ヨトゥンヘイムに届いて、付近にいるハルナ達に全く聞こえない事は有り得ない。

 

 

つまり、このカウントダウンは意図的に流されている可能性が出てきたのだ。

 

 

 

(これはブラフなの?いや、でもキリシマが観測したヨトゥンヘイムは、間違いなく此方を狙っている様な動きを見せている。じゃあ、わざわざ此方に発射を匂わせる通信を流してきた理由は何?まるで、【狙いはお前達だ】と知らせんばかりに…。)

 

 

 

ここへ来ての新たな疑問に、もえかは困惑を隠せない。

 

だが、躊躇している暇は皆無であり、疑問に対する解決の糸口を速やかに探し出す必要があった。

 

 

その為彼女は直ぐ様キリシマに声を張る。

 

 

「キリシマ、そちらに展開する敵艦艇の位置を観測してリアルタイムでマーキング!こっちに送って!」

 

 

 

『だから今、超重力砲を…。』

 

 

「早く!」

 

 

 

『あ、ああ。解ったよ!』

 

 

彼女の覇気を帯びた声に圧され、キリシマは渋々観測を開始する。

 

 

 

『送るぞ!』

 

 

チ…チ…。

 

 

 

「来た、今モニターに出すわ。」

 

 

ピッ!

 

 

 

「……。」

 

 

 

彼女はモニターを凝視する

 

 

画面に写し出された映像には、キリシマやハルナの位置だけではなく、超兵器や小型艇の位置が表情されていた。

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

彼女はハルナ同様の違和感を感じる。

 

 

 

(駿河の動きが不自然だ…何故このタイミングで?)

 

 

 

モニターの右下に表示された縦に三隻が連結したものがヨトゥンヘイムのマーカーであり、その本体と思われる戦艦部が赤く色分けされ【flag ship】の表示が成されている。その隣に位置していた駿河は、ゆっくりと後退しつつ方向を変え、艦首の先をヨトゥンヘイム最後尾である空母部へ向け、数百m離れた位置に停止していた。

 

 

 

巨大レールガン発射に際してエネルギーを充填し、防壁が多少なりとも薄くなるであろう状況に、護衛が離れるのは不自然と言わざるを得ない。

 

現にキリシマの言から、その隙をついて超重力砲を発射しようとしていることからも、敵が現在無防備になっている事が解る。

 

 

 

(何かがおかしい…考えなきゃ!超兵器の目的を……ん?目的?)

 

 

 

もえかの頭に、モヤモヤとした何かが形を作ろうとして行く。

 

 

 

 

(そうだ、超兵器の目的は全人類の滅亡。だとすれば、彼等の動きはもっと大きな理由で動く筈。大きな理由って…?)

 

 

 

《アレは現在、何らかの理由で調整中であり、身動きが取れない状況にあるのでしょう。》

 

 

 

「………。」

 

 

 

もえかは、以前のブリィーフィングで聞いた、ウィルキア関係者達の言葉を思い返す。

 

 

《もし奴が動き出せば、事態は一変します。何故ならあの艦は、¨単艦で全世界を相手にしうる戦力¨を有しているからです。》

 

 

 

 

「!」

 

 

 

彼女の顔がみるみる青ざめて行く。

 

 

 

(そうか…超兵器の行動は、全て北極海に展開する総旗艦の起動に繋がっている。だとすれば、他の超兵器の行動理念は必然的に時間稼ぎになるか、若しくは総旗艦にとって¨厄介な存在¨の排除になる。…ちょっと待って、厄介な存在?超兵器を知り尽くしたウィルキア?…違う。思い出して!この戦いで超兵器は最初何をしてきた?)

 

 

 

戦いでは、相手が自分のこれからの行動を懇切丁寧に説明してから行動を開始する訳ではない。

 

故に敵は、自らのカードの手札が明らかになっておらず、最も相手の虚を突ける最初の攻撃の意図を読む事こそが、勝敗の分かれ道となってくるのだ。

 

 

 

(最初の攻撃…。)

 

 

《煉獄作戦ヲ開始セヨ…。》

 

 

 

 

(そうだ、辺りを火の海にする攻撃…でも、あの攻撃の真の狙いは…キリシマだ!)

 

 

 

あの時、超兵器は幾重もの布石を打って、最終的にはキリシマへの奇襲を成功させていた。

 

 

 

(超兵器の情報は、今や当てに部分的なものしか当てはまらない。そう言う意味では、ウィルキアもブルーマーメイドも同じだと思う。それに¨人間¨が運用している艦は、食料の補給も必要だし、死んでしまっては替えが効かない。そう言う意味では蒼き鋼のメンタルモデルは超兵器にとっては厄介かもしれない。だとすれば大変だ!)

 

 

 

もえかは、それこそが超兵器の狙いなのではと確信を得る。

 

 

 

「タカオ!」

 

 

「な、なによ!いきなり大声だして!」

 

 

 

「フェイクだったの!」

 

 

「え!?何が?」

 

 

「ヨトゥンヘイムは私達を狙っていない。超兵器の狙いは…ハルナさんやキリシマなの!」

 

 

 

「!」

 

 

「急いで通信を繋いで!間に合わなくなる!」

 

 

 

「わ、解ったわ!」

 

 

タカオはハルナへと通信を繋ぐ。

 

 

 

もえかの胸騒ぎはどんどん激しくなって行くのだった。




お付き合い頂きありがとうございます。

地中海海戦も折り返しに差し掛かろうとしていますが、今回は蒔絵のアシストで1隻を何とか撃沈に漕ぎ着ける事が出来ました。


次回は出来るなら、数隻を…と行きたい所です。


それでは次回まで今しばらくお待ちください。

またいつか。




























とらふり!  



ハルナ
「あぁ…蒔絵!蒔絵に逢いたい!」



キリシマ
「なんだ?ホームシックか?」



ハルナ
「【ホームシック】故郷を離れ、違う風土・習慣になじめずに起こる、強い憂鬱状態。ならびに大切な者に対する強烈な依存中毒症状の発症。タグ添付…分類…記録。」




キリシマ
「間違っちゃいないが、ちょっと過保護過ぎな気もするぞ?【親バカ】でも実装したんじゃないのか?」




ハルナ
「過保護…だと?」



キリシマ
「な、なんだよ!」



ハルナ
「お前はいいさ!だって東進組が戦ってる間、演習の合間に蒔絵と連絡をとっていたのだからな!私なんかバミューダから地中海の戦闘を跨いでいるんだぞ!?それまで連載された期間を換算すると一年にもなる!一年だぞ!?」



キリシマ
「あ、あぁ…。」



ハルナ
「そこまで蒔絵をお預けにされて、更に通信で声だけだなんて余りにも殺生だ!」



キリシマ
「な、なんか…スマン。」



ハルナ
「蒔絵…もう我慢の限界だ!私は帰投させて貰う!」



キリシマ
「ま、まて落ち着け!な、なぁタカオ何とか言ってくれよぅ!」



タカオ
「愛は…人を盲目にするのよ!」



キリシマ
「ダメだ…401に助けを…。」



イオナ
「私は群像の艦…彼以外の事象には特段関知しない…きゅうそくせんこう~!」



キリシマ
「チッ!逃げやがった…最後の手段でヒュウガに…。」



ヒュウガ
「あ~ん♪早くイオナ姉さまの勇姿をアーカイブしないと…グヘヘ!」



キリシマ
「全く…ろくなメンタルモデルがいやしない…。」




一同
「クマに言われたくわない!」
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