トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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大変永らくお待たせいたしました。



シチリア南西部の戦い、決着です。


それではどうぞ


鶴の恩返し  VS 超兵器

   + + +

 

 

 

「!」

 

 

ハルナは、目を見開く。

 

 

事態は急激に進行していた。

 

 

双胴戦艦 駿河は、自身の出せるだけの速度で、ヨトゥンヘイムの最後尾に位置する空母部に向かって突進を開始したのだ。

 

 

そして…。

 

 

 

ガゴウン!ギリギリ…。

 

 

 

衝突した。

 

駿河はそのまま、空母部を押して行く、不愉快な金属の摩擦音が、辺りに響き渡る。

 

すると、ヨトゥンヘイムの船体が急激に旋回を始めた。

 

 

ある意味で、一つの巨大な砲台と化したヨトゥンヘイムは、この形態の時、極めて旋回性能が低下する。

 

 

そんな鈍重な船体を駿河に押させる事で無理矢理方向を変えてきたのだ。

 

 

 

「まずい…あの巨体をまさかあんな方法で!キリシマ!超重力砲の発射を中止しろ!」

 

 

 

『嘘だろ!?全力でないとは言え、蓄積した超重力砲のエネルギーは膨大なんだぞ!下手に中断したら暴走する。発射シークエンスを中断するにはそれなりに手順と時間がかかる!』

 

 

 

「では、中断処理を行いながら、潜航しろ!このまま直撃を喰らうよりマシだ!」

 

 

 

『クラインフィールドの制御も同時進行してるんだ。演算が追い付かない!』

 

 

 

「くそっ!」

 

 

 

ハルナはコアの演算をフル回転させて思考する。

 

 

 

(私も余り余裕があるわけではない…そうか!)

 

 

 

チ…チ…。

 

 

ハルナは、急ピッチで蒔絵が開発した¨超音波振動魚雷¨を精製する。

 

 

そして、

 

 

バシュッ!

 

 

一発をキリシマに向けて発射した。

 

 

 

『お、おい!私に向かって何を!』

 

 

 

ビギィイン!

 

 

キリシマの真下で超音波振動魚雷が起動すると共に大量の気泡が発生し、浮力を失った船体が急激に沈んで行く。

 

 

 

 

『おわっ!?』

 

 

 

 

「慌てるな。そのまま沈んだら超重力砲のエネルギーを解放して、クラインフィールドを張れ。」

 

 

 

『は、ハル…。』

 

 

「時間がない。私も潜航する。」

 

 

 

ハルナは自らの船体を沈降させつつ、ジュラーヴリクへのミサイルの誘導を解除し突撃させが、敵はそれらを巧みに回避し、レーザーで次々と撃墜して行くのだった。

 

 

 

ハルナの船体が完全に海中に没し、姿が見えなくなる。

 

 

 

それから僅か数分も経たぬ内に、それは発射された。

 

 

 

ギィイン…ギョォン!

 

 

 

ヨトゥンヘイムが、レールガンを発射したのだ。

 

 

砲弾は文字通り¨目にも留まらぬ¨猛烈な速度で先程までハルナ達がいた海域にの海域に瞬時に到達し、勢いは衰える事無くそのまま海中をひた走り海の底へ突き刺さって炸裂、凄まじい水柱が、立ち上る。

 

 

ここまで発射からほんの数秒の出来事である。

 

 

 

そして、

 

 

 

ブゴォォオン!

 

 

凄まじい轟音が鳴り響いた。

 

 

だがそれは砲弾が放った爆音ではない。

 

 

 

ヨトゥンヘイムが放つ、余りにも過剰に加速された砲弾が砲身を通過する際、内部の空気が過圧縮され超高圧になる。

 

 

 

それが砲弾と共に砲身の外へ押し出されて、圧力が解放された瞬間に一気に膨張し、辺りの空間に暴力的な音波と衝撃波を周囲に撒き散らしていた。

 

 

 

それは遠く離れたシチリア島、北西部に位置するパレルモの街にも及ぶ。

 

 

 

 

独特の風土が生み出した歴史的な建造物が立ち並ぶパレルモは、普段なら多くの人が行き交う賑やかな街であるが、超兵器接近の報を政府から受けて、皆地下や内陸のシェルターに避難をしていた。

 

 

 

そんな静まり返った街に、超兵器の放った兵器の衝撃波が到達する。

 

 

 

建造物の窓ガラスが一斉に割れ、弾丸の様な速度で破片が周囲に突き刺さる。

 

 

建物はグラグラと揺れ、棚から物が落ちる音が地下室に避難した住民の気持ちを一層不安にさせた。

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

衝撃波は海中を強く伝播しなかったものの、ハルナは驚嘆する。

 

 

(キリシマのデータ通りか…この距離だと視認すら難しい速度だ。もし相手の意図が解らなければ今頃…。)

 

 

 

 

彼女がそう思ったとき…。

 

 

 

ゴボォン!

 

 

 

「!?」

 

 

 

未だヨトゥンヘイムの攻撃の余波が残る海面に、ハルナは何かの着水音を検知する。

 

 

 

最初はただの対潜弾だと思った。その弾頭が通常の対潜弾よりも余りに巨大である事に気が付くまでは…。

 

 

 

(なんだ、これは…?)

 

 

 

巨大な弾頭は、直ぐには炸裂せず、ゆっくりと沈降してくる。

 

そして、

 

 

 

カチッ……グゥオオ!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

弾頭が起動した瞬間、ハルナの船体が急に起動地点に向かって引き摺られる。

 

 

 

チ…チ…。

 

 

 

(この異常な重力は…ヒュウガが送ってきた敵潜水艦が発射した量子兵器と酷似している。だが、ヨトゥンヘイムにこんなもの発射する余裕は……ジュラーヴリクか!)

 

 

 

 

彼女の推測は当たっていた。

 

 

ジュラーヴリクは、ヨトゥンヘイムがレールガンを発射した直後に、超絶な重力で周囲のものを引きずり込む¨量子兵器¨を投下し、起動前に全力で距離を取って重力の作動範囲から脱していたのだ。

 

 

 

もえかの推測通り、敵の狙いはハルナとキリシマだった訳だが、彼女の推測は超兵器の意図を完全には把握出来ていなかった。

 

 

 

 

敵は通信内容を敢えて漏らす事で、ヨトゥンヘイムの主砲がもえか達を狙っていると匂わせ、シチリアの南北に分断された双方の異世界艦隊を混乱させる。

 

 

 

だが、それが看破されることは承知の上だった。

 

 

 

敵の真の意図は、ハルナとキリシマを¨潜航¨させる事にあったからだ。

 

 

 

地中海に展開する超兵器艦隊に、潜水艦型超兵器がいなかったのは偶然かもしれない。

 

 

だが、その事が今回は敵に有利に働いていた。

 

 

 

混乱に乗じて、足の遅いデュアルクレイターを重力の作動範囲から移動さ敵は、同時に移動していた駿河にヨトゥンヘイムの船体を押させて、レールガンの矛先をハルナ達へと向ける。

 

 

 

 

先の発砲で、物理的に回避が不可能だと悟ったハルナ達は、必然的に敵の存在しない海中へと身を潜めるだろう。

 

 

 

超兵器艦隊はそれを見通していた。

 

 

 

デュアルクレイターに着陸して補給を行ったジュラーヴリクは、通常の弾頭を少なく搭載し、変わりに量子兵器を積み込む。

 

 

そして、魚雷やミサイルを吐き出しつつ自重を軽くしていった。

 

 

 

その後、潜航の為の時間を稼ぐために、ハルナは侵食弾頭を含んだミサイル群を操作し、ジュラーヴリクは逃げ回るフリをして機会を狙っていたのだ。

 

 

そして遂に、ハルナ達が潜航したのを見計らって量子兵器を投下したジュラーヴリクは、起動前に重力の作動範囲から脱していたのだ。

 

 

 

 

グゥオオ!

 

 

 

「くっ…あ!」

 

 

 

ハルナはスラスターを起動させて抗うが、強烈な引力に逆らう事が出来なかった。

 

 

 

(あの重力の中心に引きずり込まれたら、クラインフィールドも持たない。どうすればいい…。)

 

 

 

彼女は必死に思考を凝らすが、一向に浮かばない。

 

 

その間にも、船体は徐々に重力の中心へと引き摺られ、クラインフィールドにかかる負荷も大きくなっていった。

 

 

そして遂に…。

 

 

 

ジジッ…。

 

 

「くっ!」

 

 

度重なる砲撃で、ダメージが蓄積したクラインフィールドの一部に孔が開き、船体装甲の一部が剥がれる。

 

 

 

 

(まずい…引きずり込まれる!)

 

 

 

何故かは解らない。

 

 

だが、この様な時にも関わらず、コアは蒔絵と過ごした日々を何度も再生した。

 

 

 

 

(くそっ!必ず帰ると…蒔絵に約束したと言うのに!)

 

 

 

万策尽き果て、彼女は険しい表情を浮かべるしかない。

 

 

そこへ…。

 

 

 

『ハルナぁぁぁあ!』

 

 

 

「キリシマ!?」

 

 

 

ハルナが振り返ると、そこには超重力砲の光を纏ったキリシマが此方に向かって猛スピードで突っ込んで来た。

 

 

スラスターによる加速と、重力の影響で信じられない様な速度に達している。

 

だが、演算に余裕が無いせいかまともなフィールドすら張れていない。

 

 

ハルナはそんなキリシマに向かって叫ぶ。

 

 

 

「キリシマ!何故来たんだ!超重力のエネルギーを解放してフィールドを張れと言っただろう!これではお前まで…。」

 

 

 

『あの着弾地点じゃ、いずれにしても巻き込まれる!だったら賭けに出るしか無いだろう!』

 

 

 

「賭けだと?」

 

 

 

『現在蓄積した超重力砲のエネルギー全てをアレにぶつける!』

 

 

 

 

「なに!?やめろ!アレを相殺出来る保証は無い。それにお前はクラインフィールドもまともに張れていない。自殺行為だ!」

 

 

 

『だったら、ただ黙って引きずり込まれろって言うのか!?』

 

 

 

「だが…。」

 

 

 

『ハルナ…人間はこう言う時足掻くんだよ。そして、可能性が限りなくゼロに近い状況から糸口を見出だす。401や千早群像はそうやって格上の私達と渡り合ってきた。』

 

 

 

「……。」

 

 

 

『私達は見てきたじゃないか。ハルナや私の演算でも導き出せなかった結末を…私はもう、後悔したくないんだ!』

 

 

 

「キリシマ、お前…。」

 

 

 

『行くぞ!』

 

 

 

「ま、待て!」

 

 

 

ゴォォオ!

 

 

 

キリシマの重力子エンジンが唸りを上げ、艦尾のスラスターが最大に展開する。

 

 

そして量子兵器の引力にのって加速し、重力の奔流が渦巻く中心へと突っ込んで行った。

 

 

 

 

『ぬ…オォおオぉぉオ!』

 

 

 

「キリシマァァァ!…ぐっ、ぁぁあ!」

 

 

 

超絶な重力の中心に近付くにつれ、船体の装甲がベリベリと剥がれて行く。

 

 

 

キリシマはそれに構わず、超重力砲の矛先を重力の核に向けた。

 

 

 

『止まれぇぇ!』

 

 

 

ピカ…ゴォォオ!

 

 

キリシマは、自身の船体がバラバラになる直前に、超重力を発射する。

 

 

 

「蒔…絵。」

 

 

ハルナのコアが再び蒔絵の映像を写し出す。

 

その表情は、何故か全て笑顔であった。

 

 

 

 

その頃の海上では、量子兵器の影響で出来た巨大な渦が巻き起こっている。

 

 

そして、海中から激しい光が輝き一瞬海面を照らした後…。

 

 

 

ブゥウオオオオン!

 

 

 

水柱が500m以上立ち上ぼり、海は滅茶苦茶に荒れ狂った。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「!?」

 

 

 

「タカオ?」

 

 

 

「シチリア北西部で巨大な重力震を感知。信じられない値だわ…。」

 

 

 

「ハルナ達が超重力砲を使ったって事?」

 

 

 

「そう…いや、でも違う?何なの?この特殊な波形は…。」

 

 

 

「二人に連絡は取れる?」

 

 

 

「………ダメね。全く通じない。超重力砲の発射に演算を取られているとしても、全くコンタクトを取れないなんて事は有り得ないわ。考えたくは無いけど、ハルナ達に何かあったって考えるのが自然ね。」

 

 

 

「そんな…。」

 

 

 

「私だって大戦艦が沈むなんて想像出来ないわ。でも私の演算は、ハルナ達が撃沈されたと判断している。」

 

 

 

「………。」

 

 

 

もえかの険しい表情に、タカオはこれ以上何も言い出すことが出来なかった。

 

 

しかし

 

 

 

「…てる。」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「きっと生きてる。キリシマ達は絶対生きてる!」

 

 

 

「何の根拠があってそんなことが言えるのよ!」

 

 

 

「科学的な根拠なんて無いよ!…でも、解るの。あの二人には蒔絵ちゃんが…護るべき大切な人がいる。だから絶対に沈んでない!敵が何をしたかは解らないけど、きっと攻撃をやり過ごしているんだと思う。」

 

 

 

「そ、そんな理由で…。」

 

 

 

「でもタカオだって、逢いたい人がいるんでしょう?」

 

 

 

「うっ…そ、それは…そうだけど。」

 

 

「私だってそうだよ!その為なら、恥をかいても何でもいい、やれるだけの手を尽くして生き残る。違う?」

 

 

 

 

「そう…ね。」

 

 

 

「だから今は信じようよ!たとえ今は反撃に出られるような状況じゃないとしても、きっと無事だよ!」

 

 

 

「……。」

 

 

 

自分はどうだろうとタカオは思う。

 

 

 

自分を自分以上に理解してくれる群像の下へ向かう為、喩えどの様な絶望的な結論をコアが導き出したとしても、自らは抗うのだろうかと。

 

 

 

答えは決まっている。

 

 

 

yesだ。

 

 

 

相手が超兵器だろうが総旗艦だろうが、死力を尽くして足掻いて生き残り、そして群像の下に辿り着く。

 

 

 

その選択肢以外はあり得なかった。

 

 

 

故に彼女はもえかと相対し、大きく頷く。

 

 

 

「解ったわ。私もハルナ達を信じる。」

 

 

 

「ありがとうタカオ。それじゃあ…。」

 

 

 

二人が向けた視線の先には、異世界艦隊と超兵器の位置を映したモニターがある。

 

 

「尾張を叩いてここを突破しなきゃ!」

 

 

「ええ。そうね!」

 

 

 

ゴォォオ!

 

 

タカオのエンジンが唸り、速度を上げて行く。

 

 

 

手負いになれど、未だ沈まぬ超兵器を追って…。

 

 

 

   + + +

 

ドゴォォオ!

 

 

轟音が鳴り響き、砲弾がヴィントシュトースの側面を抉る。

 

船体からは幾つもの炎と黒い煙が立ち上ぼり、浸水が発生している為か、状態は傾きつつあった。

 

 

 

弁天は味方航空機の支援を受けつつも、超兵器との壮絶な撃ち合いを経て、敵を大破まで追い込んでいたのだ。

 

 

 

しかし、無人で動く超兵器はいかに自らの船体が炎に巻かれても、決して攻撃を止めることは無く、一見して弁天が優位に戦いを進めているにも関わらず、クルーは精神を磨り減らせていた。

 

 

ヴィントシュトースは、船体の傾斜に伴ってミサイルを発射することが出来なかったが、代わりに主砲や魚雷を発射して今も弁天を苦しめていたのだ。

 

 

通常なら、転覆が確定した時点で主砲の使用は選択肢に入る事は無いし、乗員が乗っているなら退艦を判断するため攻撃は止む筈だ。

 

 

 

だが、相手は攻撃の手を緩めるどころか、逆に砲弾を撃ち尽くさんとするかのように弁天に砲撃を仕掛けてくる。

 

 

 

真冬は、今更ながら超兵器の異常性を再認識せざるを得なかった。

 

 

 

 

(何なんだアイツは!砲撃もした。魚雷だって散々当てた。航空機からの攻撃だってある。なのに何で止まらねぇんだ!何がアイツにそこまでさせる!)

 

 

 

彼女は心に沸き上がる不安を必死に抑え込み更なる攻撃の指示を飛ばして行く。

 

 

 

その度に砲撃が行われ、ヴィントシュトースに立ち上ぼる煙の数は増えていった。

 

 

船体は完全には横倒しになり、攻撃の手数が明らかに減っている。

 

 

 

しかし敵は主砲を回転させて、尚も弁天を砲撃してきた。

 

 

(それにしてもタフ過ぎる。あのクラスですら俺達の装甲より厚いのか…。)

 

 

 

彼女は超兵器に対して、ブルーマーメイド艦の相性の悪さを痛感する。

 

 

 

船舶型超兵器は、その多くが旧対戦時に見られる形式の艦艇にオーバーテクノロジーを駆使した兵装を使用してくるタイプが多く、喩え小型の超兵器だとしても、装甲はブルーマーメイド艦よりも分厚いものが大半だった。

 

 

 

対するブルーマーメイド艦はと言うと、高命中を誇る兵装と機動力を有しているとは言え、速度は超兵器程高速とは言えず、海賊に対する威嚇発砲の際、誤射を防止しつつも威圧を与える為に、敵の周囲に正確に着弾させる意味合いで命中精度の良い兵装を装備しているに過ぎず、既存の兵装にミサイルを加えただけの攻撃力しか持ち合わせていなかった。

 

 

加えて装甲は、救出活動に際しての機動力を重視している為極めて薄く、防壁が無ければ脆弱であると言わざるを得ない。

 

 

 

ウィルキアや蒼き鋼の技術をある程度加えた弁天ですらコレなのだ。

 

 

超兵器による最初の同時多発的な襲撃の際、世界中のブルーマーメイド艦隊がいかに無力であったかは言うまでも無いだろう。

 

 

 

しかしながら、この世界での彼女達の操鑑技術の高さは、ウィルキアや蒼き鋼の関係者を唸らせた事は事実であり、そしてウィルキアから借与されたはれかぜを勘定から除外するならば、純粋にこの世界の艦艇では初めて超兵器を追い込んだ事もまた事実であり、それは賞賛されるべきであろう。

 

 

 

だが、国や世界を相手にしうる超兵器が後に控える中で、この艦艇で敵と対峙し続ける事は不可能に近い。

 

 

 

真冬は、異世界艦隊でも軍でもなく、ブルーマーメイドが世界を救うと言う構図が重要である事は重々承知し、それを異世界艦艇ではなく、この世界の艦艇で成すべきだとも考えていた。

 

 

しかし、現状は理想とは程遠いものであるとその身で痛感してしまった。

このまま意地を通していては、無駄に死人が増えてしまうと言う事も…。

 

 

 

彼女は今後の身の振り方を考えつつも、直ぐに目の前の敵へ意識を集中させる。

 

 

 

そう、全てはこの戦いで自分が¨死ななければ¨の話なのだ。

 

 

 

そう思わずにはいられない程、超兵器との戦いは死と隣り合わせである事を意味している。

 

 

 

故に彼女は、指示を飛ばし続けた。

 

 

 

 

 

相手が撃ってこなくなるまで。

 

 

相手が粉々になるまで。

 

 

相手が沈んで見えなくなるまで。

 

 

 

ひたすら撃って撃って撃ちまくった。

 

 

 

 

そして最早、ヴィントシュトースは完全には上下が逆さまになり、底を天へ向けながら沈んで行く。

 

 

だが、弁天は攻撃の止めなかった。

 

 

 

魚雷を放ち、更に船体を穿って行く。

 

 

 

まるで自分の内の最も深い所から沸き上がる恐怖や防衛本能を剥き出しにするかの様に…。

 

 

 

 

『真冬艦長!』

 

 

 

「…はっ!」

 

 

 

真冬はもえかからの通信で我に帰る。

 

 

 

「あ、ああ…。どうした?」

 

 

 

『早くそこから離れてください!超兵器機関が爆発するかもしれない!』

 

 

 

「わ、解った。撃ちぃ方やめ!取り舵一杯!ここから離れるぞ!」

 

 

 

弁天は漸く攻撃を止め、反転して行く。

 

 

 

後方には既に超兵器の姿は無く、ただ海面にブクブクと音を立てる気泡と、ヴィントシュトースの残骸が浮いているだけだった。

 

 

 

 

そして弁天が離れてから約数分後…。

 

 

 

ブゥウオオ!

 

 

ヴィントシュトースが沈んでいった海域で巨大な水柱が上がり、それと同時に弁天のレーダーに写し出された超兵器ノイズが消失した。

 

 

 

 

「ノイズ消失。超兵器…撃破!」

 

 

 

 

平賀の言葉に弁天の艦内はしばしの静寂に包まれ…。

 

 

 

 

「やったぁあ!」

 

 

 

至る所で歓声が上がる。

 

 

だが、

 

 

 

バンッ!

 

 

真冬が机の上を思いきり叩き、艦橋内は再び静まり返った。

 

 

彼女の表情は険しく、怒りに満ちている。

 

 

 

 

平賀は何かを察した様に慌てて口を開いた。

 

 

 

「ゆ、油断しないで!まだ超兵器は残ってる。引き続き警戒を怠らないで!」

 

 

 

「は、はい!」

 

 

 

慌てて自分の役割に戻っていくクルーから視線をはずし、彼女は真冬に近づいた。

 

 

 

「か、艦長?」

 

 

 

「ああ。すまねぇ…。艦を尾張に向けろ。残弾を確認してメアリースチュアートの支援にまわれ。」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

平賀は敬礼を返し、指示を送り始める。

 

 

 

そんな彼女の声や、周りの喧騒が耳に入ってこない程に、真冬は怒りに満ちていた。

 

 

誰に?

 

 

 

浮かれた表情を見せたクルー達にか?

 

 

いや、

 

 

 

彼女は自身に対して怒っているのだ。

 

 

 

(クソッ!呑まれてた。完全に相手を沈める事に呑まれちまった!俺達は軍人じゃねぇってのに!)

 

 

 

 

沈めなければ自分が殺られる。

 

 

そのシンプルかつ逃れ難い感情が彼女達を突き動かしていたのだ。

 

 

 

だが真冬は思うのだ。

 

 

 

もし相手が¨有人¨の艦艇であったなら…と。

 

 

 

海賊の追い上げとは訳が違う。

 

 

不明な点は有れど、明確な殺意をもった人間に対して、本能のままに攻撃して撃滅する。

 

 

一人でも動いていれば、自分を殺しに来るかもしれないから殺傷する。

 

 

 

それではただ武器を持つこと許された野性動物と同じだ。

 

 

救助を主とする彼女達ブルーマーメイドは、生物なら誰でも持ちうるその精神に決して没してはならないのだ。

 

 

 

だが、堕ちてしまった。

 

 

 

彼女の心には悔しさが込み上げてくる。

 

 

 

しかし同時にこうも思うのだ。

 

 

 

戦乱に満ちた世界に済むウィルキアや蒼き鋼の人員なら理解できるが、100年の平和を享受したこの世界の住人に、この死を前にした戦闘で平静を保てる人間が果して幾ら居るのだろうかと。

 

 

 

 

しかしその時、真冬の頭にはある艦の事が頭に浮かんだ。

 

 

 

フリーゲート艦はれかぜ

 

 

 

はれかぜのクルーは、超兵器を前にしても果敢に戦い、そしてそれを人々を護ることが第一の心情としている。

 

 

 

彼女達は正にブルーマーメイドのあるべき姿なのだろう。

 

 

客観的見ればそうかもしれない。

 

 

 

しかし、一度でも超兵器と対峙したものが彼女達を見れば、この様な状況で目的を明確にし続ける事が如何に難しく異常であるか解るだろう。

 

 

 

そして、その異常の中心にいる人物こそが艦長である岬明乃なのだ。

 

 

 

普段は抜けたような所も見せる彼女は、一度艦に乗ると驚異的なカリスマ性を発揮する。

 

 

 

部下である筈のはれかぜクルーも、彼女の期待に十分応えていた。

 

 

 

だが彼女達にしても、未知なる兵器との戦いで、いきなり期待通りの動きを見せる事は異常と言う他無い。

 

 

 

それは彼女達の若さ故なのか?

 

 

否…。

 

 

真冬は直ぐ様結論を出す。

 

 

艦長である明乃の人柄が、皮肉にも彼女達を惹き付け、戦場へと走らせているのだと考えた。

 

 

それと同時に¨危険¨であるとも…。

 

 

 

 

明乃の本心がどうなのかは解らない。

しかし理由はどうであれ、はれかぜは結局戦場のまん中へと飛び込んで行ってしまうのだ。

 

 

まるで¨誰かの意思に導かれる¨様に。

 

 

 

真冬は、背筋にゾクリとするような感覚と戦闘で生じた危険な高揚艦を押さえ付けて尾張へと進んでいった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「回り込め!絶対に攻撃の手を緩めるな!」

 

 

 

ヴェルナーの声が響き渡り、乗員達が慌ただしく動き回る。

 

 

 

尾張と対するメアリースチュアートは、敵の周りを全力で回りながら、攻撃を加えて行く。

 

 

 

これは武装の少ない尾張の艦尾を取る為でもある訳だが、敵の旋回性能は異常であり、背後を取ることは叶わなかった。

 

 

 

本来ならば、多数の艦隊で尾張を撹乱しつつ、本命である部隊が背後を突くのがセオリーであるのだが、何より手が足りないのが現状だ。

 

 

 

そして、もっと緩急をつけた動きで相手を揺さぶるべき処を全力で敵の周りを周回すると言う単調な動きはもえかからの要請であったが、それ故に被弾の確率が上昇し、防壁は今にも消失寸前にまで追い詰められていた。

 

 

 

 

「艦長!これ以上は流石に…。」

 

 

 

「知名艦長を信じるんだ!必ず隙が生まれる。我々はそれを必ず成し遂げなければならない。」

 

 

 

エミリアの悲痛な声に何とか虚勢を張ってみたものの、彼の額から滲む汗は状況の苦しさを伺わせるには十分であっただろう。

 

 

 

尾張は航空機だけでなくAGSやミサイル、光学兵器と言った高命中率を誇る兵装を多様しているだけでなく、主砲や副砲も大口径のものを使用しており、尚且つ双胴ならではの防御も相まって戦艦としての能力も高い。

 

 

 

特に主砲である50.8cm砲の直撃は、防壁を一気に飽和させ乗員の精神を疲弊させていた。

 

 

 

 

更に、ヴェルナー達には別の懸念もある。

 

 

 

ヨトゥンヘイムの主砲の事だ。

 

 

 

ハルナ達からの連絡が途絶えた事は承知している。

 

 

問題なのは、彼女達が超兵器を留めておけない事で、次なる標的になるであろう自分達へ向けられる超砲撃を、誰も妨害することが出来なくなっている事なのだ。

 

 

 

それを防ぐ為には、最早一刻も早くこの場にいる超兵器を全て撃沈するしかない。

 

 

 

弁天が撃沈したヴィントシュトースを除くと残り二隻。

 

 

 

どう考えても次の砲撃には間に合わない。

 

 

 

 

乗員に焦りと苛立ちが募って行く。

 

 

 

 

「艦長、もう光子榴弾砲を放つしか…!」

 

 

 

「決定力に欠ける。尾張を一撃で沈めるにはタカオの超重力砲が必要だ。知名艦長はそれを狙ってる。超兵器が隙を見せるタイミングを!」

 

 

 

「それと私達が尾張の周りを周回するのには何か訳が有るのですか?」

 

 

 

「僕にも解らない。だが、知名艦長が意味もなくこんなことを要請するとも思えない。今は耐えるんだ!」

 

 

 

ドゴォオ!

 

 

 

「あぐっ!」

 

 

「きゃあああ!」

 

 

 

メアリースチュアートに再び砲撃が直撃して、艦が激しく揺さぶられる。

 

 

 

 

一見すると無意味な行動とも思える状況に、乗員達の苛立ちもピークを迎えつつあり、これ以上ヴェルナーが押さえ込むのも限界に近付いていた。

 

 

 

 

(知名艦長…まだですか?)

 

 

 

内心の焦りを何とかごまかしつつ、ヴェルナーは艦の指揮を取り続けた。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「まだ動いてる。完全に足を止めて!」

 

 

 

「解ってるわ…よ!」

 

 

 

バシュ!

 

 

タカオから、大量の魚雷がパーフェクト・プラッタへ殺到し、巨大な船体に孔を穿って行く。

 

 

 

しかし、敵は中々沈んではくれない。

 

 

 

速度を殺す代わりに船体に注水して安定性を保ち、浮力をある程度犠牲にして防御重力場を展開する。

 

 

 

つまり敵は防戦に徹して来た…いや、時間を稼ぎ始めたと言うべきだろう。

 

 

ヴェルナー同様、もえかも敵の意図を理解しついた。

 

 

 

「急がないと主砲が来る!」

 

 

 

「でもこいつ硬いのよ!」

 

 

 

バシュバシュ!

 

 

タカオは、渾身の力で責め立てるが、敵は完全に攻撃を止め、迎撃に終始している。

 

 

決定打が無いままなのかと思われたその時…。

 

 

 

ボォン!

 

 

 

「!」

 

 

 

海上から複数の爆発音が聞こえた。

 

 

 

 

『知名艦長。援護に来ました!』

 

 

 

「一宮さん!?航空機は?尾張は大丈夫なんですか?」

 

 

 

 

『航空機は掃討しました。メアリースチュアートのへの援護は弁天が向かっています。それより今はあなた方の力が必要だ。海上からも攻撃を加えれば、敵は防御重力場を全面に展開せざるを得ない。防壁を飽和させていち早く敵を討って下さい!』

 

 

 

「はい!ありがとうございます!…タカオ!」

 

 

 

「了解。温存しておいた侵食弾頭を使う時が来たいみたいね。」

 

 

 

ガゴン…!

 

 

タカオの船体の至る所でハッチが開き、内部から侵食弾頭が現れ、同時に海上では一宮率いる航空機隊が一斉にパーフェクト・プラッタにミサイルを発射した。

 

 

 

 

「上は始まったみたいね。行くわよもえか!」

 

 

 

「お願い!」

 

 

 

「128発の侵食弾頭、全部避けられる?」

 

 

 

 

バシュバシュバシュバシュ!

 

 

 

自信に満ちた表情のタカオが手を翳すと、一斉に侵食弾頭が発射され、超兵器へと殺到していく。

 

 

 

ビィュン!ビィュン!

 

 

 

(お願い!通って!)

 

 

 

次々と防御重力場に衝突して消えて行く侵食弾頭にもえかは焦りを感じる。

 

 

 

だがその時。

 

 

 

ビィュン…ボォン!

 

 

 

「!」

 

 

海上と海中の両方から爆発音が聞こえた。

 

 

 

「通った!タカオ、そのまま超兵器機関を狙って!」

 

 

 

「了解!」

 

 

 

チ…チ…。

 

 

 

タカオは侵食弾頭の全てを使って、パーフェクト・プラッタの船内を穿ち、心臓部である超兵器機関を狙った。

 

 

 

「残り30発…思ったより弾数を使ってしまった…届いて!」

 

 

 

侵食弾頭が、超兵器機関へ近づいて行く。

 

 

内部を食い荒らされたパーフェクト・プラッタは、砲を左右に動かしながら足掻くが、防御重力場を失った者に最早なす術などある筈もなく、ただひたすらに状況を受け入れるしかない。

 

 

 

そして遂に…。

 

 

 

グゥオオン!

 

 

 

超兵器機関を覆っている分厚い装甲が破られ、侵食弾頭が内部の本体に次々と直撃し、握りつぶして行く。

 

 

 

それと同時に、パーフェクト・プラッタは完全に動きを止め、火災と弾薬庫の誘爆によって、その巨体をバラバラにしながら海中へと没して行った。

 

 

 

「次!」

 

 

 

もえかは叫ぶ。

彼女達に余韻に浸る暇など無いのだ。

 

 

 

 

タカオは直ぐ様体勢を尾張へと向ける。

 

 

一方のヴェルナーは、尾張からの集中砲火に耐えつつ全速で艦を走らせている。防壁は飽和寸前であり、エミリアだけでなく筑波ですら苦い表情を隠しきりれていない。

 

 

 

 

戦闘能力が高いとは言え、メアリースチュアートは飽くまでも空母なのだ。

 

 

防壁が無ければ、装甲は決して厚い訳ではなく、飛行甲板が破損すれば航空機が着艦できず、パイロットの運命も決してしまう。

 

 

 

一度作戦を練り直すべきとの考えが彼の頭を過り始めた時…。

 

 

 

グゥン…。

 

 

 

「!?」

 

 

 

彼は目を見開く。

 

 

駒の様な凄まじい旋回性能を有した尾張が急に止まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「き、来た…。チャンスが来た!ジーナス少尉、至急タカオに連絡を!」

 

 

 

「りょ、了解しました!」

 

 

 

エミリアがタカオと通信を試みるとほぼ同時に、タカオでも尾張の異変に気付く。

 

 

 

「もえか!海中から破砕音を検知!」

 

 

 

「超重力砲、用意!備えて!」

 

 

 

「了解!」

 

 

 

グゥオオン!

 

 

 

タカオの船体が超重力砲の発射に向けて展開して行く。

 

 

 

『知名艦長!こちらメアリースチュアート!超兵器が今、動きを止めました!』

 

 

 

「此方でも超兵器の異音を確認。これより超重力砲を発射します。弁天はどうしていますか?」

 

 

 

『砲撃や魚雷で此方の援護をして貰っています!』

 

 

 

「至急この場から退避するよう伝えてください!それからメアリースチュアートも、出来るだけ攻撃を加えながらこの海域から離脱。シチリア島西部に移動している補給艦フンディンと合流して補給をお願いします!」

 

 

 

 

『知名艦長はどうされるのですか?』

 

 

 

「私にはまだやることが残っています!急いでください!超重力のエネルギーが間も無く限界に達します!」

 

 

 

『はい!御武運を!』

 

 

 

メアリースチュアートからの通信を受けて弁天が退避を始め、ヴェルナー達も牽制の砲撃を超兵器に放ちながら海域を去って行く。

 

 

 

 

「敵の位置は?」

 

 

 

「バッチリ!縮退限界!

 

 

 

「超重力砲…発射!」

 

 

 

 

蒼白い閃光が海中を照らし、上空から見た辺りの海がスカイブルーに輝く。

 

 

尾張はそこで漸くもえか達の意図を悟った。

 

 

しかし、巨大な船体を有した尾張は中々動き出すことができない。

 

 

 

何故なのか?

 

 

 

それはタカオが尾張に突撃して吹き飛ばされ、潜航を余儀無くされた時、苦し紛れにタカオが撃った侵食魚雷が超兵器の巨大なスクリューに命中していたのだ。

 

 

 

しかし、大型超兵器のスクリューシャフトを破損させる迄には至っていなかった。だがその歪みは大きく、巨体が駒の様に旋回する際に生じる水の抵抗を永遠に受けきる事は叶わなかったのだ。

 

 

スクリューの異音に気付いたもえかは、タカオを弁天の援護に向かわせる事で尾張の注意をメアリースチュアート1隻に集中させ、ヴェルナーに超兵器の周りを一定方向に周回するよう要請した。

 

 

 

艦尾側の武装が薄い尾張は、艦首をメアリースチュアートに向けたまま駒の様に旋回するを始めるだろう。

 

 

そうする事でスクリューシャフトにかかる負荷を更に上昇させて破損させ、怯んだ隙を突いて超重力砲を撃ち込む作戦を立てていたのだ。

 

 

 

だが、問題はここからだった。

 

 

 

超兵器の行動が未知数なだけに、尾張を除外した残り二隻の超兵器を残して超重力砲を使うのには懸念が残っていたからだ。

 

 

 

 

故に尾張への奇襲は、敵のスクリューシャフトが破損する前に、ヴィントシュトースとパーフェクト・ プラッタを撃沈し、尚且つヨトゥンヘイムの主砲に邪魔されないタイミングで超重力砲を放たなければならない。

 

 

 

それだけに、ヨトゥンヘイムを引き付けているハルナとキリシマが消息を断った件は響いた訳だが、時間が稼げた事もまた事実だった。

 

 

 

 

ビィゴオオン!

 

 

 

超重力砲が、超兵器に向けて発射される。

 

 

 

尾張は片方のスクリューをフル回転させて回避を謀るが、双胴ゆえの欠点か、動き出しが鈍くとても回避できる状況ではない。

 

 

 

その間にも、超重力砲は尾張を目掛けてひた走り、弁天とメアリースチュアートからも長距離ミサイルが殺到し続ける。

 

 

 

 

超兵器は最早、迎撃すらもままならず、ただそこで足掻き続ける鉄の塊に過ぎなかった。

 

 

そして遂に…。

 

 

 

バシュウウ!…ボォン!

 

 

 

超重力砲が尾張の超兵器機関ごと貫通、双胴の船体が横から真っ二つに割れ、艦尾はあっという間に海中に没し始め、艦首側も横倒しなり、みるみるうちに海へ沈んで行く。

 

 

だが、残りのエネルギーを振り絞り、尾張は主砲の仰角を最大まで上げてメアリースチュアートに向け発砲した。

 

 

 

ボォン!

 

 

 

砲弾は、メアリースチュアートの手前で虚しく着水する。

そしてそれが尾張の最後の攻撃となった。

 

 

 

「もういい…尾張。二度と這い上がれぬ深き処で眠れ…光子榴弾砲、撃て!」

 

 

 

眩い光球が尾張へと飛翔し、着弾と同時に凄まじい衝撃と熱が超兵器の船体を粉々にしつつ焼き払う。

 

 

 

海は荒れ狂い、残骸と化した尾張の船体はその熱を冷ましながらゆっくりと暗い海底へと沈んで行った。

 

 

 

 

異世界艦隊の誰もが複雑な表情を浮かべている。

 

 

無理もない。これ程苦戦を強いられた相手を更に上回る強敵と次は相対さなければならないのだから…。

 

 

 

「呆けている時間はない。シチリア島西武のフンディンと合流し、補給を行う。修繕箇所は応急修理を急げ!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

ヴェルナーの指示で再び艦内が慌ただしくなる。

 

 

 

一方の弁天も、クルーが慌ただしく動いていた。

 

 

だがその表情には余裕がない、まるで忙しくすることで心の奥底から沸き上がる恐怖を必死に忘れようとしている様だった。

 

 

勿論、真冬もその例外ではない。

 

 

しかし、相手は別格と言われる敵の総旗艦や総旗艦の直衛艦に比べると実力的には劣ると聞く。

 

 

 

それですら次元の違いを思い知らされていると言うに、これ以上の敵と相対さなければならない現実に、彼女は内心の途方にくれてしまうのだった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「くっ…は!」

 

 

「タカオ大丈夫?」

 

 

 

「え、ええ…撃った後は反動で少し身体の制御が利かなくなるだけよ。それよりもこれからどうするの?向こうに行くんでしょう?」

 

 

 

「ううん。私達はここでもう少しだけ留まる。」

 

 

 

「え?」

 

 

 

彼女の意外な言葉に、タカオは唖然とする。

もえかはそんな彼女に構わず話を続けた。

 

 

 

「恐らくこのまま向かっても勝ち目は無いと思う。攻めてヨトゥンヘイムの主砲を沈黙させないと…。」

 

 

 

 

「策は有るの?」

 

 

 

「在るけど、それにはハルナとキリシマがどうしても必要なの。」

 

 

 

「でも…。」

 

 

 

「解ってる。ただ呼び掛けは続けて欲しい。」

 

 

 

「解ったわ。ただ…今後敵がどう動くかに掛かっているんじゃない?」

 

 

 

「うん。恐らくだけど、ジュラーヴリクが動いてくると思う。ヨトゥンヘイムの主砲を発射するためには私達の位置を観測する必要が有るから。」

 

 

 

「成る程ね。ウィルキアの艦長は気付いているのかしら?」

 

 

 

「うん。恐らく接敵は補給を行うシチリアの西側になると思う。」

 

 

 

「フンディンを護り、補給をしながらの超兵器せん…か。厄介ね。」

 

 

 

「今は信じるしかないよ。タカオは浮上して引き続きハルナとキリシマに呼び掛けを続けて。」

 

 

 

「了解。」

 

 

 

タカオは船体を浮上させつつも通信を継続する。

 

 

 

もえかは、そんな彼女から視線をはずし、モニターを見つめる。

 

 

 

未だ合間見えぬ敵の強大さに不安を覚えながらも…。

 

 

 

戦局はいよいよ、ティレニア海へと移ろうとしていた。

 




お付き合い頂きありがとうございます。


次回からは、戦場がシチリア西部や北西部へと移って行きます。



未だ3隻と1機の超兵器との戦いがどうなって行くのか…。


次回まで今しばらくお待ちください。


それではまたいつか



























とらふり!


真霜
「唐突だけど…ケンイチくぅ~ん♪お姉さんが抱っこしてあげる☆」



江田
「本当に唐突ですね…。一体どうしたんですか?」


真霜
「だぁってぇ!妹達ばっかり出番が有ってズルいんだもん!私だって皆とキャッキャウフフしたいの!」



江田
「いや…皆さん命懸けで戦ってるんですが…。」




真霜
「そんな細かい事はいいのっ!それよりぃ~ん。……ね?」



江田
「ね?とは?」




真霜
「そんなの決まってるじゃなぁい!お姉さんと、キャッキャウフフ…しましょ♪」



江田
「お、お断りします!大体私にはメイさんが…。」



真霜
「どぉしてぇ~?原案だと、私と君が…って案も有ったのよ?今更恥ずかしがる事無いじゃなぁい!それに西崎さんは原作でも人気キャラなのよ?交際するなんて世の男をみんな敵にするだけだわ!だったらぁ~!」



江田
「だ、ダメなものはダメなんです!」




真霜
「そう…やはり実力行使しか無いのね…。」




江田
(なんだ!?この尋常じゃない覇気はっ?)




真霜
「フフフッ…合意の上でない事は残念だけど、観念して頂戴!お姉さんにおねショタホールドされて、チュッチュされてパフパフされなさい!えぇい☆」




江田
「なっ…速い!…しかし!」



ビギィイイン!



真霜
「!!?」



江田
「ふう…なんとか貞操は死守したか…。」



真霜
「クラインフィールドなんて卑怯よ!」



江田
「こんな用途でフィールドを使うなんて…でも、今程このカラダに感謝したことは有りません。不本意ですが…。」




真霜
「むぅ…。」



江田
「拗ねてもダメです!それにあんまり突飛な事ばかりすると¨あの人¨の心象が悪くなりますよ?」



真霜
「ななっ、なんの事かしら?」




江田
「図星の様ですね…。貴女は実は甘えん坊で、異性に甘えたい願望が有りますね?」




真霜
「酸いも甘いも知らない坊やが知った様な事を言うのね…。」




江田
「私は、戦友達の色々な男女模様を見たり聞いたりしていますので、¨知らない¨には当たりませんよ?貴女は歳に関する拘りが無い変わりに、精神的に大人な人間を求めて居ますね?」



真霜
「……!」



江田
「達観した観念を持つ各艦の艦長、若しくは外こ……。」



真霜
「あぁああ!聞こえない聞こえないぃ!もう解ったわよ!…だからゆ・る・し・て♪」



江田
(本当に解って貰えたんだろうか…念のため夜は部屋のセキュリティを倍にしておこう…。)





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