トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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大変永らくお待たせ致しました。

南欧戦線 後半戦です。


それではどうぞ


双角の鬼 再び VS 超兵器

   + + +

 

 

 

シチリア島 西武

 

 

 

補給艦フンディンに接舷した弁天とメアリースチュアートは、不足した弾薬を補充する。

 

 

 

物資の量的にもこれが最期の補給となるだろう。

 

 

 

その様子を見守るヴェルナーの表情は険しいままである。

 

 

 

(嫌な空気だ…。一端戦局が途切れた事で、我々や弁天のクルー達が集中を保ちにくくなっている。僕が超兵器ならいま攻めるだろう。そして敵が此方によこすのは間違いなくジュラーヴリクだ。)

 

 

 

だが彼には疑問が残る。

 

 

ジュラーヴリクは異世界艦隊が補給を行う直前か、若しくは補給中で中である今を狙ってくるだろうと読んでいたからだ。

 

 

 

絶好のチャンスである今を逃しても敵が攻めて来ない理由は…。

 

 

 

(ハルナとキリシマか…。先程のタカオのよこしたデータからは、恐らくあの2隻対して超兵器が量子兵器を使用した事を意味しているが、超兵器は彼女達の撃沈を疑って旗艦の護りに着いているか、撃沈を確認している最中と言ったところか。いずれにせよ有り難い。無補給で残り3隻と1機を相手は厳しいからな。)

 

 

 

残された時間を有効に使うと言う意味ではヴェルナーと真冬はどう意見だろう。

 

 

しかしながら、真冬はより長時間この戦いに拘束されるのは危険だとも考えていた。

 

 

軍人ではない彼女達は、救出の現場での長丁場には慣れているものの、今回の様な未知なる兵器相手の¨戦闘¨となれば話は別だ。

 

 

 

死の恐怖から一時的に解放された現在に於いても、状況が終了しない限り不安は無限に沸き上がり、彼女達の精神を確実に削って行く。

 

 

 

クルーの表情を見渡す真冬は、それを実感していた。

 

 

 

(皆の表情が硬てぇ…無理もないが、なまじ超兵器を知っちまっただけに余計に緊張してやがる。)

 

 

 

適度な緊張なら良い。

だがろくに休息もとらず、いつ我を失ってもおかしくない極度の緊張に長時間晒されれば、ミスを発生させかねない。

 

 

 

かといって冗談を言う状況でもない。

 

 

 

彼女達が本当に解放される為には、次なる戦闘を生き残るほか無いのだ。

 

 

 

最も、ヨトゥンヘイムを打倒した処で、超兵器との戦いが全て終わる訳では無いのだが…。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

シチリア島 北西部

 

 

 

未だに荒い波が立つ海の上空をジュラーヴリクが旋回を続けている。

 

 

 

理由はヴェルナーが推測した通りだった。

 

 

 

もし全てを巻き込む量子弾頭兵器が起動したとすれば、辺りの回数が渦を巻くように重力の中心へと引き込まれて行く筈だ。

 

 

 

しかし、等海域で観測されたのは巨大な水柱。

 

 

 

つまり、量子弾頭兵器の重力を、ハルナとキリシマが何らかの方法で¨相殺¨したとしか考えられない。

 

 

 

故に超兵器艦隊は、ハルナとキリシマが完全に撃沈されたのかを疑っているのだ。

 

 

 

 

だがここで、超兵器艦隊は選択を迫られる事になる。

 

 

 

 

もし、ハルナ達が撃沈されているにも関わらず、捜索を無意味に続ければ、補給を終えた異世界艦隊の到着を許してしまう事になる。

 

 

 

しかし、この艦隊に於いて絶対的機動力を有するジュラーヴリクを、異世界艦隊の疲弊ないし撃沈の為に動かし、もしハルナ達が残存していたならば、彼等は不意を突かれる事になり、状況は向こうに一気に傾くだろう。

 

 

 

そう言う意味合いに於いては、高機動を有する高速巡洋艦を初期に失ったことは彼等にとって痛手であろう。

 

 

 

しかし…。

 

 

 

チカ…チカチカ!

 

 

 

旗艦であるヨトゥンヘイムから発光信号が点滅を始める。

 

 

 

他の超兵器もそれに呼応するかのように信号を発した。

 

 

 

そして、しばらくそれを続けた後に彼等は動き出し、陣形を組始める。

 

 

 

ヨトゥンヘイムを真ん中にして背後にデュアルクレイターを、先頭を駿河が勤め、ジュラーヴリクがヨトゥンヘイムの周囲を警戒しながら旋回し、デュアルクレイターから発艦した小型艇約40隻が周囲を固めてそれぞれの艦艇からアクティブソナーの音が鳴り響き、水中に潜んでいるかもしれないハルナとキリシマを警戒しつつも、艦隊は前へと移動を開始した。

 

 

 

彼等は前進することを選んだのだ。

 

 

 

数が有利が無くなってきた以上、隙が出来る補給のタイミングで強襲し、戦況を確実にしたい狙いがあるのだろう。

 

 

 

しかしこの選択が、この戦いで彼等にとって初めてとなる¨大誤算¨に繋がった。

 

 

 

 

《!?》

 

 

 

上空を旋回するジュラーヴリクの動きが止まった。

 

 

 

何かを察知したのだ。

 

 

 

不審に感じたジュラーヴリクが機体をシチリア島の方角へと向けた直後だった。

 

 

 

グゥィイイイン!

 

 

 

夜の¨シチリア島から¨眩い閃光が凄まじい速度で迫ってくる。

 

 

 

 

彼等はそれが蒼き鋼の¨超重力砲¨であると直感した。

 

 

 

ヨトゥンヘイムは、6つあるスクリューをフル回転させて、前方へと加速する。

 

 

しかし、

 

 

 

ビギィイイイン!

 

 

 

 

超重力砲は直列に並んだヨトゥンヘイムの最後尾である空母部を貫通。

 

直後、先頭に連結していた戦艦部は直ぐ様連結を解除し、さらに加速しながら防御重力場を全開ににした。

 

 

 

それから僅か数秒後。

 

 

 

猛烈な爆音と衝撃波が戦艦部に襲い掛かる。

 

 

 

最後尾の空母にあった超兵器機関が爆発し、二番目に連結していた空母を巻き込んだのだ。

 

 

 

 

その衝撃波は、周囲に展開していた超兵器艦隊にも及ぶ。

 

 

ジュラーヴリクはローターを破損、バランスを失って近くにいたデュアルクレイターの甲板へと墜落した。

 

 

衝撃でデュアルクレイターの甲板に設置されていた兵装はグニャグニャに湾曲して使い物にならなくなり、発艦した小型艇の大半が轟沈してしまう。

 

 

 

ヨトゥンヘイムの甲板には、無惨に焼け焦げたレールガンの砲身が虚しく鎮座している有り様だ。

 

 

唯一、損傷が軽微であったのは爆心地から最も遠い地点にいた駿河だろう。

 

 

船体は少しすすけてしまったものの、兵装に目立った損傷は見られなかった。

 

 

 

 

ヨトゥンヘイムは、暫しの間沈黙すると、チカチカと再び発光信号を発し、それを受け取った残りの超兵器は再び動きを見せ始めた。

 

 

 

ヨトゥンヘイムとデュアルクレイターは、暫く航行した後にその場に停止、駿河は足を止める事なく異世界艦隊の下へ単艦で進んで行く。

 

 

 

 

敵のこれ以上の進撃を許さぬ為に…。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「ちっ…!」

 

 

「どうだったの?」

 

 

険しい表情のタカオに不安を隠せぬ彼女は思わず訊ねずにはいられなかった。

 

 

 

 

「外れたわ…。本体に直撃しなかった。でも後続にいた空母2隻は撃破したみたい。残りは爆発で観測出来なかったわ。どうやら敵は、エネルギー攻撃対する感知能力が優れているようね…。」

 

 

「ううん。それで十分だよ。これで少なくともヨトゥンヘイムのレールガンは使えなくなった。これから私達は皆と合流しよう。」

 

 

 

 

「ええ…。」

 

 

 

 

尾張を撃沈した直後から、彼女達は次なる動きを見せていた。

 

 

 

それは、超重力砲の射線を細くして、射程による威力減衰を軽減させ、艦隊旗艦であるヨトゥンヘイムを¨この場所から狙撃¨することだったのだ。

 

 

しかし、シチリア島の向こう側にいる超兵器を狙撃するには、直線的に発射される超重力では島を貫通し、街や民衆に甚大な被害を及ぼす危険がある。

 

 

そこでもえかは、ヨトゥンヘイムがシチリア島の山に穿ったレールガンの穴を利用する作戦を立てていたのだ。

 

 

 

更に彼女は賭けに出た。

 

 

多数の味方を失った敵が補給中の異世界艦隊を狙ってくる事は確定だとして、取る方策は大きく分けて2つ。

 

 

 

 

1つ目は、足の速いジュラーヴリクのみを異世界艦隊とぶつけ、残りはその間にイタリア方面へと北上して再起を謀る事。

 

 

 

2つ目は、ハルナとキリシマが撃沈されていない可能性を敵が考慮した場合だ。

 

 

この場合、敵は今回の超重力砲の発射点から、タカオが未だシチリア島南部にいると断定するだろう。

 

 

そしてハルナ達が一時的にでも戦闘に参加できない状態だとすると、残るはメアリースチュアートと超兵器戦に不馴れな弁天の2隻のみとなり、彼等としては、異世界艦隊に打撃を与える絶好のチャンスを得た事になるのである。

 

 

従って超兵器艦隊は、全員でシチリア島西部へと移動し、補給中の異世界艦隊を強襲する可能性があるわけだ。

 

 

そしてもえかは賭けに勝った。

 

 

異世界艦隊に向けて出発したヨトゥンヘイムは、先程自らが開けたシチリア島の穴の前へと現れたのだ。

 

 

 

そこを狙っていたタカオは、超重力砲を発射して山に開けられた穴を通し、狙撃を行う。

 

 

 

ただ、敵がこちらの攻撃を予想以上に早く検知した為、本体である戦艦部に直撃させる事が出来なかったのだ。

 

 

二人は悔しさに表情を歪ませる。するとタカオが突如としてよろめいた。

 

 

「うっ…。」

 

 

 

「タカオ!?」

 

 

 

 

彼女の身体を慌ててもえかが受け止め、彼女は辛そうな表情を浮かべつつも、顔を上げた。

 

 

 

「大丈夫…よ。連続で超重力砲を発射したから反動が来ただけ。少しすれば動けるわ。」

 

 

 

「無理はしないで…。少し休んでから出発しよう。今ので少しは時間が稼げたと思うから。」

 

 

 

「解ったわ…。」

 

 

 

もえかはタカオを壁に寄り掛けると、海へと視線を移す。その目には、未だ不安の色が浮かぶ。

 

 

 

(残る超兵器は3隻と1機。対するこちらは3隻だけど、事実上私達が接敵に間に合う可能性は低い…どうする?)

 

 

 

超兵器の実力は数では計れない。

 

 

況して、小笠原で彼女達を散々翻弄し、恐怖を植え付けた播磨を遥かに凌ぐ力を持つ方面統括旗艦が相手なのだ。

 

 

 

蒼き鋼の艦艇無しでの戦いは非常に厳しいものとなるだろう。

 

 

 

もえかは自分の無力さを改めて噛み締めるのだった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

ピカッ!

 

 

 

 

20分程前に、シチリア島北西に位置する辺りの空が突如として明るく光を放ち、それは補給の最中である異世界艦隊の乗員達を不安と緊張に陥れていた。

 

 

 

 

ヴェルナーも勿論その一人だ。

 

 

 

 

(なんだ今のは…超兵器の新たな攻撃か?)

 

 

 

嫌な予感ばかりが頭を過る。

 

 

 

しかし、

 

 

 

『ヴェルナー艦長!』

 

 

 

「知名艦長!?付いてこられなかったので、どうされたのかと…。」

 

 

 

『報告が遅れて申し訳ありません…。つい先程、超兵器艦隊旗艦であるヨトゥンヘイムに超重力砲による狙撃を敢行していました。』

 

 

 

 

「なっ…!」

 

 

 

驚愕の事実に彼の表情は固まる。

 

 

 

当然であろう、戦争とは一手一手を慎重に熟考し事を進めることが常識だ。

 

 

 

しかし、彼女達は軍人ではないし、況して先の戦争から100年以上が経過した平和の中の住人なのだ。

 

 

 

彼等の常識は彼女達には解らない。

 

 

更にそこに常識を超えた艦艇を操るとなれば尚更だろう。

 

 

 

しかも彼女は、その道なる能力を持つ兵器に素早く順応して見せた。

 

 

 

ヴェルナーはそこに、頼もしさを感じつつも、同時に¨危うさ¨を感じる。

 

 

 

 

戦争とは言わば、人間の奥底に潜む破壊衝動の産物だ。

 

彼等の世界の様に、それを発散し続けていたのであれば、人々は戦争などたくさんだと思うのだろう。

 

だが、戦争をひたすらに抑止され続けたこの世界に於いて、超兵器やそれに類する技術はどれ程甘美な物か知れない。

 

 

 

もし、超兵器やそれらの技術がこの世界に拡散してしまったのなら…。

 

 

 

ヴェルナーはそれを、無垢な子供の前に差し出された¨新しい玩具¨に感じた。

 

 

 

玩具を使う子供に悪気などないし、それを使った末に何が起こるかも深くは考えないだろう。

 

 

 

それが玩具なのか、核兵器なのか。

 

 

それとも、全てを巻き込む¨重力兵器¨か¨大陸を消し飛ばす兵器¨の違いに過ぎない。

 

 

 

ヴェルナーは蒼き鋼の超重力砲がどんなものかを理解している。

 

故に彼は、恐らくもえかがこれ以上ヨトゥンヘイムの暴挙を許さぬ為に、シチリア島の住民を犠牲にして、島を貫通させた超重力砲を敵に命中させたに違いないと考えたのだ。

 

 

 

しかし、

 

 

 

『超重力砲は敵のレールガンが開けた山岳の穴を利用した事と、タカオの解析にによって人的な被害は皆無です。 』

 

 

 

「!」

 

 

 

彼の心中をもえかが察したのかは解らないが、彼女は彼の予想を上回る回答を返してきた。

 

 

 

ヴェルナーは、遥か海の彼方にいるシュルツの事と想う。

 

 

 

彼は最初から彼女達ブルーマーメイドを信用に足る組織と考えていたのだ。

 

 

厳密に言うならば、岬明乃と彼女を取り巻く人物達を…。

 

 

 

 

彼女達は、超兵器を前にしても怯まず、世界を牛耳れる甘美な誘惑にも屈せず、ただひたすらに平和を望んでいた。

 

 

 

それを感じたシュルツや群像は、はれかぜを貸し与え、タカオへの乗艦を許したのだろう。

 

 

 

きっと彼女は、力の使い方を誤りはしないと確信して…。

 

 

 

ヴェルナーは表情を元に戻すと、冷静にもえかの言葉に耳を傾るける事に注力した。

 

 

 

『…それで、超兵器艦隊が今後どの様な動きを見せるのかは予測できません。こちらはタカオが超重力砲の連射による反動で暫くは身動きが取れない状況ですし。』

 

 

 

「下手をすると我々2隻で、超兵器3隻と1機を相手にしなければならないのですね?」

 

 

 

『はい…。力になれず申し訳ありません。』

 

 

 

「いいえ。ヨトゥンヘイムのレールガンと付随する空母が破壊されているのは大きい。知名艦長は、そのままタカオが回復するまで休んでください。こちらは何とか対処します。」

 

 

 

『解りました。お気をつけて…。』

 

 

 

通信を終えたヴェルナーの表情は再び険しいものとなる。

 

 

 

この2隻だけでヨトゥンヘイム1隻を相手に出来るのかと言う状況の中で、残りを相手に出来るとは思えない。

 

 

 

そこへ、エミリアがタブレット端末を手に彼に近付いた。

 

 

 

「艦長。航空偵察隊からの報告が来ました。現在敵艦隊は、シチリア島北西部に停止中。こちらには駿河が単艦で向かってきている模様!」

 

 

 

 

「単艦で…か。旗艦に何かあったと見るべきか?」

 

 

 

 

「解りません…。航空隊は、確認前に対空砲火に遭遇し帰還していますので…。」

 

 

 

 

(解せないな…。駿河単艦での進行は明らかに時間稼ぎである可能性が高い。知名艦長の報告が確かなら、敵はレールガンを発射できない筈だ。超長距離狙撃が無いならば、敵は今、何をしているというんだ…。)

 

 

 

 

いまだ不穏な動きを見せる超兵器に、ヴェルナーは胸騒ぎを覚えるのだった。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

一方、駿河を分離した超兵器艦隊は、次なる動きを見せていた。

 

 

デュアルクレイターの飛行甲板に墜落したジュラーヴリクからノズルが延びてヨトゥンヘイムへ接続され、おぞましい紫色の光が注入されている。

 

 

そして…。

 

 

 

ヴォン…!

 

 

 

夜の海を、ヨトゥンヘイムの船体が放つ紫色のオーラが妖しく照す。

 

 

 

機関を暴走させて一気にカタを着けるのだろうか…いや。

 

 

船体を包む光は徐々に減少し、まるで船体に吸い込まれる様に消えていった。

 

 

 

 

辺りが夜の静寂に満たされ、不自然な程に穏やかな波が巨大な船体をゆっくりと揺さぶる。

 

 

 

 

ガゴン!

 

 

 

その静寂を破ったのはデュアルクレイターであった。

 

 

 

デュアルクレイターの飛行甲板の左右が一部を展開し、内部から巨大なクレーンらしき支柱が2本立ち上がり、の先端にはフック以外に円柱状の棒や、瓦礫撤去などで使用されるハサミの様なものもあり、自由に取り替えが出来るようになっている。

 

 

 

 

 

そして、最早残骸と化したジュラーヴリクを2本のハサミが掴み、甲板を引き摺って行き、

 

 

 

 

ガチャン…ゴパァアン!

 

 

 

ジュラーヴリクを海へと投棄したのだ。

 

 

超兵器の亡骸は、大きな波を立てて海中へとその身体を没して行く。

 

 

 

 

次にデュアルクレイターは、パウスラスターでヨトゥンヘイムへ横付けし、それと同時に、最早意味を成さなくなった巨大なレールガンからプシューと言う音と共に蒸気が上がった。

 

 

 

 

デュアルクレイターは巨大なクレーンで、艦尾部分から艦橋を貫通するように艦首へと延びているレールガンの砲身を吊り上げて、ジュラーヴリク同様海へと投棄、ヨトゥンヘイムの船体が一気に浮き上がる。

 

 

 

 

 

 

場所を取っていた砲身が取り除かれ、必要最低限の迎撃兵器と、巨大な砲搭がはまっていたであろう窪みのみが存在する殺風景な甲板が露になり、至近での爆発による衝撃で船体が少し歪み、浸水が発生していたのか、側面からは海水が噴き出して見えた。

 

 

 

 

デュアルクレイターは、先程使用した2本のクレーンの先端を円柱状に切り替えると、浸水が発生している亀裂部に押し当てる。

 

 

ジジィジジジ!

 

 

夜の海に激しい光が拡がり、それらが収まると亀裂は綺麗に¨溶接¨され、浸水が停止している。

 

 

更に、デュアルクレイターの甲板の一部が開き、中から多数の兵器がエレベータに乗って現れ、それらをクレーンで吊り上げヨトゥンヘイムへと装着していった。

 

 

 

 

彼の艦は強襲揚陸艦であると同時に、本体も戦艦並の戦力を持つ戦闘艦であり、補給そして修理までこなす¨多機能艦艇¨だったのだ。

 

 

戦争に於ける補給艦や工作艦は、戦闘能力に秀でていなかったとしても、資材が豊富にある港湾施設とは違い、限られた資材を節約して使用しなければならない軍艦にとって、どれ程重要な存在なのかは理解に難くない。

 

 

 

況してこの度は、超兵器は特定の国家に依存しておらず、修復不能な損傷を負うことは即、撃沈を意味している。

 

 

 

そこで超兵器艦隊は、ある程度の自衛が可能であり、揚陸と言う役目を負わなくなったデュアルクレイターを¨戦闘工作補給艦¨として改装し、各超兵器への弾薬の補給や装備の調整などを担わせ、その事により超兵器艦隊は、以前の世界の様に他者からの通商破壊や、物資寸断による弱体化を気にする事無く、常に全力で活動出来る体勢を整えたのだ。

 

 

 

 

彼の艦は、その能力を遺憾なく発揮し、さながら¨お色直し¨の様にヨトゥンヘイムをレールガンだけに頼らない、本来の超巨大戦艦へと昇華させて行く。

 

 

 

そして、デュアルクレイターの甲板には次々と兵器が現れ、ヨトゥンヘイムは決戦の準備を着々と進めて行くのだった。  + + +

 

 

補給を早急に終えた異世界艦隊の2隻は、シチリア北西部へ足を進めようとしていた。

 

 

 

作業が早めに終了したのは、駿河の接近と敵旗艦の行動の不気味さが、乗員達の切れかけた緊張感を再び高めた事が要因である。

 

 

しかし、彼等の蓄積された疲労が消える筈も無く、相手が小笠原で異世界艦隊を単艦で翻弄した播磨の二番艦であることもあり、再び訪れた死の恐怖が、こうしている間にも彼等の精神を蝕み続けていた。

 

 

 

 

(駿河…か。正直ウィルキアや蒼き鋼の連中の戦力は、俺達が束になっても敵う相手じゃねぇ。そいつらを単艦で相手をした播磨の二番艦が相手だ。しかも今は蒼き鋼の艦艇はこの場にはいねぇ。どうする…。)

 

 

 

額に滲む汗を拭いつつも、真冬は自らの不安と戦い続けていた。

 

 

しかし、

 

 

 

「か、艦長!前方に艦影!形状から駿河と思われます!」

 

 

 

「ちっ、考えさせてもくれないって訳か…。」

 

 

 

 

彼女は歯噛みをして眼前を睨み付ける。

 

 

 

 

大和型戦艦を彷彿とさせる3本のアンテナと船体形状、そしてそれらを横に2つ繋げた双胴の船体。

 

 

 

何よりも、その広い甲板上にびっしりと配置されている砲搭群や各種兵装は、まるで針の山にも形容でいる異様な姿であ。った。

 

 

 

逃げも隠れも許さぬ、力の化身。

 

 

 

もう一匹の【双角の鬼】

 

 

 

言い方など何でも良い。

 

 

ただ確かな事は、目の前の艦は自分達を塵芥にするまで止まらないと言う事だけだ。

 

 

勿論、彼女達が沈めば次は罪の無い民衆をもその牙にかけるだろう。

 

 

 

 

真冬は拳を握り締め、吼えるように指示を飛ばした。

 

 

 

「気合いを入れろ!こいつを止めなきゃ、欧州の未来は無ぇ!」

 

 

 

弁天が再び動きだし、砲搭の先を駿河へと向けた。

 

 

 

一方のメアリースチュアートでも、ヴェルナーの指示によって慌ただしく乗員が動いている。

 

 

 

駿河に手間取っている暇などある筈も無いのだ。

 

 

 

相手は、南欧州を統括できる能力を有するヨトゥンヘイム。

 

 

時間を与えすぎれば、不利になるのは目に見えていた。

 

 

 

「航空機、発艦せよ!弁天と共にミサイルで駿河を牽制し光子榴弾砲を撃ち込む。準備急げ!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

ボォン!

 

 

弁天とメアリースチュアートから牽制の砲弾が放たれ、発艦した航空機からは順次ミサイルが駿河へと殺到して行った。

 

 

 

出来るだけ防壁を消費させてケリをつける算段ななのだろう。

 

 

しかし、

 

 

 

パカンッ…ボォン!

 

 

「!!?」

 

 

一同はその異様な光景に驚愕する。

 

 

多数の弾頭が超兵器へと着弾する寸前に、彼の艦の甲板上に分厚い鉄の壁が現れ、まるで蛾の繭の様に内部を覆ったのだ。

 

 

 

 

砲弾はその壁に衝突すると炸裂して破片となり、爆煙が晴れた時、そこには無傷の装甲が現れたのだ。

 

 

 

「装甲が一瞬で展開された?一体どうやって…いや、それは問題じゃない、問題なのは…。」

 

 

 

「これ程の攻撃を¨防御重力場無し¨で受けても、装甲に大した損傷が見られなかった事ですな?」

 

 

 

「ええ…。」

 

 

 

筑波ですらも唖然とする中、ヴェルナーは思考をフル回転させる。

 

 

 

(あれは以前、どこかで見たような気が…まさか!)

 

 

彼は近くにいるエミリアへ視線を向けた。

 

 

「ジーナス少尉!至急、超兵器に関するデータベースにアクセスしてくれ!調べて欲しい事がある!」

 

 

「は、はっ!しかし…どの超兵器に関する内容を開けば良いのですか?」

 

 

 

「ヴォルケンクラッツァーだ。」

 

 

 

「!」

 

 

「!?」

 

 

彼の言葉に、エミリアだけではなく筑波も驚愕した。

 

 

二人の反応に構わずヴェルナーは言葉を続ける。

 

 

 

「ヴォルケンクラッツァーの¨装甲¨に関する記述があるか調べてくれ!」

 

 

 

「そ、装甲ですか?」

 

 

「急げ!」

 

 

 

「は、はっ!」

 

 

彼女は慌てて端末から情報を閲覧する。

 

 

「どうだ?」

 

 

「あ、ありましたが、ヴォルケンクラッツァー本体が大陸を沈める兵器の暴走によって消滅している事と、帝国から奪取した機密文書にもヴォルケンクラッツァーに関する記述が少ない為、あまり要領を得たものではないかと…。」

 

 

 

「それでも良い。話してくれ!」

 

 

「はっ!超兵器ヴォルケンクラッツァーには、他の超兵器とは異なり、¨特殊防御装甲¨と呼ばれる装甲が実装されているとの記述が有ります。後述のブラウン博士による考察では、非常に重さがかさむ代わりに、¨防御重力場や電磁防壁を使用せずとも損傷を受けにくい機構の装甲¨であるとの記述が有りました。」

 

 

 

 

「やはりか…。」

 

 

 

「厄介ですな…。先程の様子では、実弾はほぼ無効化されている様にも見えましたが、光学兵器対する防御はあまり優秀ではないように感じました。」

 

 

 

「と言う事は、あれは特殊防御装甲の廉価版、¨実弾防御装甲¨とでも呼称すべき物だと?」

 

 

 

「でしょうな。しかし、敵は防御重力場に使用するエネルギーを電磁防壁に割く事が可能になります。防御の面で言うなら播磨よりも性能は上でしょう。奴等が【双角の鬼】と言われる理由は、播磨と駿河が本来¨2隻で一対¨の運用を目的としていたのではないかと推測します。」

 

 

 

「成る程。攻撃に特化し播磨と防御に特化した駿河を同時運用する…ですか、小笠原で奴が現れなかった事は幸いですね…。」

 

 

 

 

「いえ、寧ろあの時撃沈出来ていたなら、これ程苦戦は無かった。奴がここにいる理由は、ヨトゥンヘイムがそれ程に重要であると言えましょう。」

 

 

 

筑波の言う事は尤もだった。

 

 

 

て重要度の高いヨトゥンヘイムの護衛としてこれ程適任はいないだろう。

 

そして駿河が現れたタイミング。

 

 

それが意味するのは…。

 

 

 

(実弾防御装甲に最も効果を発揮するのは、蒼き鋼の侵食弾頭兵器か、光子兵器の様な反応熱を利用する兵装だ。そして今、蒼き鋼の艦艇はこの場にはいない。その隙を突かれる形になった訳だが…。)

 

 

 

 

ヴェルナーは駿河を一瞥する。

 

 

 

 

「想定内だ!」

 

 

 

もう一匹の鬼との戦いが幕を開ける。

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


デュアルクレイターの新規性能

そして駿河の実弾防御装甲の登場となりました。


ストーリーの折り返しまでもう少し。


これからも地道に諦めず進めて参ります。


尚、お気に入りが100を突破致しましたこと、本当に感謝致します。


30話程度で簡素に完結させようと始めたこの小説を、ここまで育てていただいたのは、目を通して下さった全ての方々のお陰と思っております。


この場をお借りしまして、厚く御礼申し上げます。



これからも、【とらふり】を宜しくお願い致します。
































とらふり!


真白
「ふぅ…久しぶりの風呂は気持ちが良いな!」



もえか
「ズルいよ宗谷さん!私達もう汗まみれなのにっ!」



真白
「だって次の編までは楽屋待機で暇なんだから仕方ないじゃないか!」



エミリア
「でも確かにシャワーだけでも浴びたいですよねぇ。西進組は女性比率低いですし…。良いなぁ~メンタルモデルの皆さんは汚れなくて羨ましいです…。」



真白
「私達が戦っていた時、遠慮しないで幾らでも入っておけば良かったじゃないのか?」



もえか
「まぁ…そうなんだけどね。」


エミリア
「ですねぇ…。」



真白
「どうした?歯切れが悪そうだが…。」



もえか
「うん、西進組にはスキズブラズニルみたいな大型ドック艦が無いし、浴室を男女兼用にする訳にもいかないから、フンディンにお世話になってたんだけど…。」



真白
「だけど…?」



エミリア
「はぁ…真冬さんが毎日浴室の近くをうろついて根性注入の機会を伺ってるんですよ…自分は弁天の浴室があるにも関わらず。」



真白
「……。」



もえか
「なんか…《弁天の奴らのは飽きたから、知名や異世界人の尻を…グフフ》とか言ってたかな…。足腰立たなくなるまで根性注入されると思うと、あっ今日くらい良いかなってなって…。」



エミリア
「ですよねぇ~。」



真白
「なんか、本当にすまん…。」

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