トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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大変長らくお待たせ致しました。


地中海編の完結と、新編突入であります。


それではどうぞ。


ほろ苦い再会の味 VS 超兵器 & not encounter weapon 

   + + +

 

 

終わりの告げる弾頭が空を飛翔する。

 

 

勿論、各員が針の穴を通すような完璧なタイミングで完璧な動きを見せる事が出来るなら……だが。

 

 

 

(――!)

 

 

 

一同の額には汗が滲んでいた。

 

 

 

 

視線の先には光を纏った反物質ビーム砲を光子弾頭へと向け、紅蓮の炎に巻かれるおぞましい超兵器の姿が目に写る。

 

 

 

常人が見たならば、何故海面に浮かび戦闘を継続できるのか理解不能に陥ってしまう程に……

 

 

 

 

「タカオ!」

 

 

 

「了解!」

 

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

 

タカオの操作により本体とメアリースチュアートから砲弾が放たれ、今にもビームを撃ち出さんとする超兵器へと一直線に飛翔する。

 

 

「ハルナ、まだか!?」

 

 

 

「焦るなキリシマ。いま重力子エンジンの出力を上げて船体を展開させれば事態を気取られるかもしれん。ビームと砲弾が接触した瞬間に動くぞ」

 

 

 

「了解!」

 

 

 

チ…チ……

 

 

彼女達は演算を極限まで高めて事態を待ち、そして遂にその時は訪れた。

 

 

 

チカ!ドゴォォオ!

 

 

 

光子弾頭を迎撃しようとした反物質ビームに二隻の砲弾が接触して対消滅による爆発が発生し、それによって光子弾頭も同時に反応した事で、ヨトゥンヘイムの周囲は凄まじい爆圧の奔流に支配された。

 

 

 

 

「ここまでか……機関全速!ここから離れるぞ!」

 

 

 

役目を終えた弁天が海域から離脱して行くと同時に、ハルナ達は超重力砲の発射体制に入る。

 

 

 

「超重力ユニットの展開完了。超重力砲発射に伴い、大戦艦キリシマより演算リソースの57%を一時的に委譲――完了。重力子バラストによる艦の姿勢制御――完了。艦前方へのクラインフィールドを開放」

 

 

 

 

「重力子エンジン、出力最大。エネルギーライフリング起動開始。目標座標を敵艦【ヨトゥンヘイム】に固定。重力子圧縮、縮退域へ……」

 

 

 

機械的な調子で放たれる言葉と共に、海面にフワリと浮かんだ船体が空中で展開して超重力砲が姿を表し、最大出力に至った重力子エンジンが放つ波動の影響で海は荒れて白波が立って、ロックビームが海を割ってヨトゥンヘイムの船体へと延びていった。

 

 

 

爆煙の中から姿を見せた超兵器の姿に最早かつての姿は見受けられない。

 

 

暗闇色の船体が、度重なる対消滅反応で発生した高温によって紅く妖しい色に染まり、溶けて螺曲がった砲身が彼の艦をより不気味に演出する。

 

 

ガ…ガガ……

 

 

【執念】

 

 

そう言葉にする以外に無いだろう。

 

 

 

最早攻撃すらままならぬ状態になりながらも、彼の艦は熱で溶け落ちそうな砲身をハルナ達へと向けようと試みるているのだ。

 

 

しかしそれすらも、未だ続いている爆圧の奔流によって敢えなく脱落してしまっていた。

 

だが尚も、ヨトゥンヘイムは止まらない。

 

 

超兵器機関から黒いオーラが染みだし、紅蓮の炎と混じりあって夜の海を照らし続ける。

 

 

 

「意図的な機関の暴走か?化け物め!」

 

 

 

 

 

ヴェルナーの額には大粒の汗が滴る。

この状況にあっても、彼は自分達の優位性を微塵も感じられなかった。

 

 

それを振り払うには方法は一つしかない。

 

 

 

「頼みます!」

 

 

祈るような視線はハルナ達へと注がれる。

 

 

 

ヂ…ヂ……

 

 

「演算リソースの委譲により、エネルギー蓄積効率向上……残り28%」

 

 

 

「超重力の威力はハルナと船体の一部を共有した事より通常時の137%にて発射」

 

 

 

ゴオオオ!

 

 

 

黄緑色と黒い光が海域を支配して行く。

 

 

 

「超兵器中心部から機関の暴走に伴う時空の歪みを検知。リスク試算……不能」

 

 

 

「コアによるリスクアセスメントにより警告が発令。安全装置作動。超重力砲発射シークエンスに干渉……重力子エンジンの出力抑制を進言―cance―進言cance―error error error」

 

 

機械人形の様な無感情の声を周囲の轟音が打ち消して行った。

 

そして、超兵器の脅威を認識した彼女達のコアが、超重力砲の発射を停止させて退避を促し始めた。

 

 

 

だが、彼女達はその命令を拒み続けたのだ。

 

 

 

彼の艦が沈んだ先に¨必ず護り通す¨と誓った友へ続く航路が待っているのだから。

 

 

ヂ…ヂ……!

 

 

 

「errorの除去を完了。システム最適化。超重力砲の緊急停止システム解除。発射シークエンスを継続――」

 

 

彼女達の船体が再び光に覆われる。

 

 

 

退くわけには行かない。

 

 

彼女達を行動に突き動かすこの衝動は、最早¨論理¨と言う壁を超えた先に位置していると言って良いのだろうが、彼女達にそれを自覚する余裕も指摘してくれる者もいない。

 

 

だが悲観は無用であろう。

 

 

¨経験¨が伴っている以上、それは雨が土に染み込むが如く遅効的に浸透し、定着して行く。

 

 

 

だがそれには、ヨトゥンヘイムの撃破は必須なのだ。

 

 

故に今こそ彼の艦を討たねばならない。

 

 

 

「縮退……限界!」

 

 

 

「ハルナ、撃つぞ!」

 

 

「ああ!思いきりやれ!」

 

 

ピカッ……

 

 

 

一瞬の閃光の後に――

 

 

 

グオォオオオオ!

 

 

超重力砲が発射され、瞬く間にヨトゥンヘイムへ直撃する。

 

 

筈だった――

 

 

 

「!!?」

 

 

ハルナは、眼前の状況に驚愕する。

 

 

黒いオーラは、超然たる威力を誇った超重力砲を¨受け止めて¨おり、まるで攻撃を阻む壁がそこに存在しているようだった。

 

 

ヂ…ヂ……

 

 

彼女は演算の殆どを消費して、事態を観測する。

 

 

 

 

「アレは時空の歪み――いや、¨時空の断層¨か!?超兵器の機関は、それにすら干渉してしまうと言うのか!」

 

 

 

布石は存在する。

 

 

彼等超兵器は、異世界からの来訪者である可能性は既に謳われていたからだ。

 

 

もしその事と今回の事象が無関係でないとするなら、超重力砲が通じないのも頷ける。

 

 

 

「くっ……!エネルギーが持たない!」

 

 

 

苦悶の表情をうかべるキリシマを余所に超兵器は尚も超重力砲を拒み続ける。

 

 

 

 

だが異世界艦隊の面々はある事に気づき始めていた。

 

 

 

「超兵器ノイズが縮小して行く!?はっ!あれは!」

 

 

 

彼等の視線に映っていた漆黒のオーラが縮小して行き、それに反比例するように超重力砲の光が増して行く。

 

 

しかし――

 

 

 

「あ、アガッ!は、ハルナ!ダメだ……もう!」

 

 

 

 

蓄積していたエネルギーが間も無く枯渇する。

 

 

 

一同の表情に浮かんだ焦りの色が一段と濃くなり、そしてそれは絶望に変わる。

 

 

 

「………」

 

 

 

 

黒と黄緑色の閃光が消え、荒れた海が静まり返る。

 

 

そこには超重力砲の発射を終えて船体から湯気を上げるハルナ達の姿と、無惨な姿になりながらも未だ衰えぬ威圧を放っている漆黒の艦艇が鎮座していた。

 

 

 

 

「そんな……」

 

 

 

タカオは驚愕の表情で固まっている。

 

 

無理もない。彼女達が最も事の深刻さを理解しているのだから。

 

 

 

大戦艦であろうとも、超重力砲の直撃を受けることは自らの運命を決する事と同義であり、故に戦闘では常に相手の様子を注視して超重力の回避または発射の妨害に努めるのは定石と言えよう。

 

 

だが超兵器はそれを真正面から受けきって見せたのだ。

 

 

 

事は既に¨大戦艦級では対処しきれない¨と言うヒュウガの私見を、彼女達は身を以て知ることになったのである。

 

 

 

ドタッ……!

 

 

 

「もえか!?」

 

 

 

その場に崩れる様に膝をついた彼女の表情は落胆と絶望に満ちていた。

 

 

いや、この海域にいる誰もがそう思っただろう。

 

 

しかし次の瞬間、ハルナはとてつもない¨何か¨を検知する。

 

 

 

 

 

「急いで防壁を最大に展開しろ!衝撃波が来るぞ!」

 

 

 

 

 

彼女は各艦に向かって叫ぶと超重力発射の反動で満身創痍のコアにムチを打ってクラインフィールドを展開した。

 

 

 

 

次の瞬間――

 

 

 

ドゴォォオ!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

とてつもない爆発が発生し――いや、爆発と言うには煙も炎も見えない猛烈な大気の振動と言える何かが超兵器の周囲に巻き起こり、轟音と共に周囲に撒き散らされたのだ。

 

 

 

ヨトゥンヘイムは、まるで巨大なハンマーを上から叩き付けられたかの様にくの字に折れ曲がり、巨大な船体が軋みを上げ、バラバラになりながら瞬く間に海中へと沈んで行く。

 

 

 

ゴオオオ!

 

 

 

「あ゛っ!がっ!防壁に全てのエネルギーを送れ!手の空いている者は手近な物に捕まるんだ!振り落とされるぞ!」

 

 

 

猛烈な衝撃波と高波が彼等の船体を滅茶苦茶にもて遊んで行き、艦内には悲鳴が轟いた。

 

 

《我レガ朽チ 朝ノ光ヲ見レズトモ  浮世ノ月ニ未練ナシ……残リシ焔ハ 其ノ身ヲ焦ガサン……》

 

 

 

 

「「!!?」」

 

 

 

暗く不快な声がもえかやヴェルナー、そして真冬の脳に響き、彼等は超兵器へと視線を向ける。

 

 

 

そこには沈み行く鉄の残骸がこちらを見つめていた。

 

 

 

《我ガ犠牲ヲ以テ、耐エ難キ常闇ニ身ヲ置ク御身ニ光ヲモタラサン事ヲ……》

 

 

 

 

「「………」」

 

 

 

超兵器で¨あった¨残骸が海へと没し、海は静けさを取り戻す。

 

 

 

彼等は暫くその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

「本当に終わったのかな?」

 

 

「ええ、超重力砲を打ち消す為に機関の過出力によって生み出された次元の断層が元に戻ろうとする反発力、それが最終的にアイツ自身に止めを刺したってとこかしら。超兵器ノイズも観測されない。私たちは……勝ったわ」

 

 

 

「勝った……」

 

 

 

もえかの表情は優れない。

 

勝利の実感が湧かない訳では無いのだ。

 

しかし彼女の――いや、残る二隻の艦長もあの言葉が頭から離れなかった。

 

 

 

 

《残リシ焔ハ 其ノ身ヲ焦ガサン……》

 

 

 

 

理解はしている。

 

 

 

方面統括旗艦は通過点に過ぎないのだ。

 

 

 

これより先には、ヨトゥンヘイム並みの相手――いや、それ以上の艦艇が待ち構えている。

 

 

 

彼の艦の言葉はそれを暗に示しているのだ。

 

 

 

故に、彼等の表情に勝利の余韻など微塵もある筈も無かった。

 

 

 

だが唯一彼等の心に浮かんだのは大切な者は達との再会である。

 

 

 

今回の戦いに関してはそれらをもってして完遂となろう。

 

 

 

『大戦艦ハルナ。逃走したデュアルクレイターに追随することは可能でしょうか?』

 

 

 

 

『無理だろうな。超兵器との戦闘に時間を割きすぎている。更に弾薬や小型艇を吐き出している分、重量が軽く足が速くなっているだろうし、私達の補給の間にジブラルタルを越えられてしまえば、捜索に時間を取られる。尤も、奴は十中八九私達が向かう方角とは反対の南へ向かうだろうが』

 

 

 

『俺達の最終目標は飽くまでもキールに辿り着く事だ。余計な時間は取れねぇぞ?』

 

 

 

『合流を優先させるなら諦める他ないか……解りました。我々はフンディンで補給を済ませ次第ジブラルタルを超え、大西洋で待つスキズブラズニルに合流します』

 

 

 

『『了解』』

 

 

「了解……」

 

 

 

もえかは彼等の会話を聞きつつ逸る気持ちを抑えて海の彼方にいる親友の顔を思い浮かべていた。

 

 

 

(ミケちゃん。もうすぐ……もうすぐ逢えるよ)

 

 

 

   + + +

 

北海 シェトランド半島沖

 

 

 

 

ブゥオオオン!

 

 

 

 

霧が立ち込める海に一機の無人飛行船が浮かんでいる。

 

 

風船の部分にはブルーマーメイドの紋章が刻まれており、機体の下部には360°を見渡せる高性能カメラが装着されていた。

 

 

 

しかし、要救助者を発見するために開発されたカメラの視線に映っているものは、救助者とは似ても似つかない巨大な船体が複数捉えられているのであった。

 

 

 

   + + +

 

 

 

濃い霧を掻き分けて、巨大な船体が前へと進んで行く。

 

 

 

中央の戦艦が二隻の空母によって挟み込まれるその異様な船体は、異世界艦隊を散々苦しめたニブルヘイムとヨトゥンヘイムを彷彿とさせる。

 

 

 

しかし彼の艦の形状は、あの二隻とは決定的に異なる点が存在した。

 

 

戦艦部分を丸ごと挟み込む二隻とは異なり、巨大な空母が艦橋から前の部分のみを挟んで前に突き出た様な形状。

 

 

 

明乃達にとっては忘れたくとも忘れられない恐怖を刻み、彼女達が再び死を覚悟して出航するきっかけとなった始まりの超兵器。

 

 

 

総旗艦直衛艦

 

 

超巨大航空戦艦【ムスペルヘイム】

 

 

 

そのとてつもない威圧感は、周囲に生きる動物達すらも寄せ付けなかった。

 

 

 

ヴォン……

 

 

 

突如、ムスペルヘイムはその場に停止し、方を追随するもう一隻も彼の艦に倣って動きを止めた。

 

 

 

辺りは静まり返り、船体に打ち付ける波に揺られてその巨体がゆっくりと上下する。

 

 

 

 

そこへ――

 

 

 

ザッパァァン!

 

 

 

 

海中から巨大な船体が浮上し、辺りの波が一際ざわめく。

 

 

 

海中からから現れた事から潜水艦である事は明白ではあるのだが、彼の艦の上部には、航空機発艦用の飛行甲板が存在する。

 

 

 

【勇敢なる者】の名とは対照的に海中に潜み、潜水艦故に航空機による攻撃など無いだろうと予測していた異世界艦隊の虚をついてハワイを奇襲、人々を蹂躙した卑劣な超兵器。

 

 

 

 

超巨大潜水戦艦【ドレッドノート】

 

 

 

ウィルキアのリスト上では未だにそうなってはいるが、事実上は潜水空母と呼称すべきであろう。

 

 

 

 

ドレッドノートは、ゆっくりとムスペルヘイムへと接近して動きを止める。

 

 

 

《報告:バミューダ及ビ地中海デノ作戦ハ失敗。我ガ艦隊ノ次ナル指針ヲ示サレタシ……》

 

 

 

 

チカチカチカッ――

 

 

 

ムスペルヘイムから発光信号が発せられる。

 

 

《了解。進路ヲ¨ヴィルヘルムスハーフェン¨二確定。本艦ハ此レヨリ潜航シ目標地点ノ北北西250海里地点ニテ再浮上、航空機ヲ発艦スル事トス――以上》

 

 

 

 

 

 

ドレッドノートはその場で潜航して海中深くへと姿を消して行った。

 

 

潜航に際する波が治まると、彼の艦は対空レーザーの矛先を遥か遠くで覗いているであろう飛行船へと向ける。

 

 

 

 

しかし発射成されず、彼の艦はチカチカと発光信号を後方に控えるもう一隻に送ると再び移動を開始し、舵を切った巨大な船体が引き起こす長い航跡が海に長い尾を描いて行った。

 

 

 

   + + +

 

 

北海 オランダ沖

 

 

 

近隣国に所属するブルーマーメイド艦隊との合流を果たしたインディペンデンス級艦艇【ノイッシュバーン】

 

その艦長であるテア・クロイツェルは険しい表情を見せていた。

 

 

 

理由は先程入った超兵器に関する事柄である。

 

 

 

当初、異世界艦隊とブルーマーメイド艦隊との合流を阻止するべく南下するであろうと予測されていた超兵器がドイツ方面へと転進したのである。

 

 

 

一般人を巻き込む心配のない洋上にて異世界艦隊を交えての戦闘を望んでいたブルーマーメイドの思惑は見事に打ち砕かれる形になったわけだ。

 

 

 

更にだ、2つに分かれて戦闘を行い、合流を果たさんとする異世界艦隊の位置よりも超兵器の方が陸地へ近い距離に位置している。

 

 

 

尤も、超兵器の目標はキールを目指す上で重要な拠点でもあるユトランド半島の入り口、ヴィルヘルムスハーフェンを標的にしている事は明白なのだが……

 

 

 

だがそれは、異世界艦隊を含めたブルーマーメイド艦隊にとって更なる懸念要素となるのだった。

 

 

 

 

 

(超兵器の進路の変更……くっ!わざわざ偵察の飛行船を撃ち落とさずに進路を見せたのも、私達を誘き出す為だと言うのか!)

 

 

このまま合流を待てば、間違いなく超兵器によって都市は破壊されるだろう。

 

 

 

故に各国のブルーマーメイド艦隊に在席する艦長達が集まって話し合いを行い、ヴィルヘルムスハーフェンへ異世界艦隊の合流を待たずに出発する事が決定したのだ。

 

 

 

もちろん反対意見も噴出し、中には自殺行為だと怒りを露にする艦長もいた。

 

 

だが、超兵器の動きを把握していたのにも関わらず襲撃に間に合わなかったとなれば、国際情勢に於けるブルーマーメイドの立場は失墜する事は明白であろう。

 

 

 

そして同時に、今まで抑え込んで来た各国の軍が動きを活発化させる事に繋がり、最悪の場合ブルーマーメイドの所有する艦艇を含めた物資が没収の対象になりかねない。

 

 

 

それで超兵器を打倒し、滅亡への歩みを止められるのであれば、今現在に於いて苦汁を舐めるのも享受出来よう。

 

 

 

だが100年以上も自国の自衛のみに専念し、実戦という名の経験がない軍が正面から挑んだとしても勝ち目が有るとは考えにくい。

 

 

そうなれば、彼等の全滅が必然的に超兵器に対する世界の防衛力の消失に直結するのだ。

 

 

数隻からなる異世界艦隊だけで事に当たるのは事実上不可能であることも合わせるなら、それはこの星に住まうあらゆる生物の絶滅をも意味している。

 

 

 

 

解っていても動くしかなかった。

 

 

 

彼女達ドイツとイギリス、そしてオランダと新たに加わったフランスの艦艇を入れた50数隻の艦隊。

 

 

数で言うなら大規模なのだろうが、インディペンデンス級の艦艇が少数であり、残るは学生艦を――しかも航洋艦や巡洋艦がメインの急ごしらえで形成された艦隊は、各国が本土の防衛に注力している事が窺えるお粗末なものである事は言うまでもなく、この局面に至っても自国の利益を重視し、超兵器の戦力を過小に評価していると断じざるを得なかったのである。

 

 

 

テアはこの事態を最初の襲撃以来、超兵器があえて攻撃を加えななかった事、そして異世界艦隊の超兵器撃破の朗報が皮肉にも各国警戒心を希薄にさせたのではないかと推測していた。

 

 

 

だが、異世界艦隊の活躍を抜きにしたとしても、超兵器の今までの行動が本当に人類側の油断を誘うものであったとするならば、敵は嫌気がさす程人類を熟知している事になる。

 

 

 

それも無人であるにも関わらず……

 

 

 

テアはその推測に妙な不気味さと不安を禁じ得なかった。

 

 

 

 

(我々が失敗しても、はれかぜと共に戦っても結果は……もし、相手がそのシナリオまで描いていたとしたら……)

 

 

 

 

「テア?」

 

 

 

「!」

 

 

 

テアが振り向くと、いつの間にかミーナが此方を覗き込んでいた。どうやら彼女が近付いた事にも気付けない程余裕がないらしい。

 

 

 

 

そんな彼女を察してかミーナが更に一歩テアへと近付く。

 

 

 

ギュッ…!

 

 

 

「あ……」

 

 

「明乃達を信じよう。私達は時間を稼げばいいんだ」

 

 

 

「かっ…!いや、何でもない。ああ、そうだな!」

 

 

 

「簡単に言うな!」と叫び出しそうになる衝動を彼女は抑えた。

ミーナは、現状を理解できない程バカではない。

 

 

 

 

きっと浮かない顔をしているであろう自分を励まそうとしているのだと彼女は解釈した。

 

 

そして先程から握ってくれている手から伝わるミーナの体温と何よりもその気持ちが堪らなく彼女の心を穏やかにして行く。

 

 

 

「出発の時間だ……」

 

 

 

「ああ、宜しく頼むぞ¨艦長¨」

 

 

二人は名残を惜しむかのよう手を離し、表情を引き締める。

 

 

 

汽笛が鳴り、艦隊がゆっくりと動きだした。

 

 

 

この世で最も【死】に近い戦いに向かって……

 

 

   + + +

 

 

大西洋 スキズブラズニル

 

 

 

 

ドックの中を落ち着かない様子で歩き回る明乃に、複雑な表情で真白が声をかけた。

 

 

 

「艦長……お気持ちは解りますが、少し落ち着かれては如何ですか?」

 

 

 

「え!?あっ、ああ~ゴメン……」

 

 

 

(やはり自覚は無かったか……)

 

 

 

真白は表情を元に戻し、諭すように彼女を覗き込む。

 

 

 

「大丈夫ですよ。地中海での勝利報告は入りましたし、ジブラルタルも無事に超えたとも連絡を受けています。周辺に超兵器の姿も無い事ですし、もう少しで再会できます」

 

 

 

 

「う、うん…そうだね。ゴメンねシロちゃん。艦長の私がこんなじゃ、皆に心配掛けちゃうね。ホントいつまでたってもダメだなぁ私……エヘヘ」

 

 

 

「艦長……」

 

 

 

無理に笑っているのは明白だった。

 

 

 

 

彼女にとって最も身近な存在であるもえかが、如何に大きな存在かを真白は知っている。

 

 

 

6年前のRATtウィルス事件の際には冷静さを失って自分の艦を捨てて駆け出して行ってしまう程に……

 

 

 

それを知っていながらも、真白は眉を潜めずにはいられなかった。

 

 

 

嫉妬である事は理解している。

 

 

しかし、両親を失った心の穴を互いに埋めてきた関係であったとしても、¨はれかぜ艦長¨の肩書きを背負っている間だけは仲間や、そして自分の事を何よりも思って欲しいと願ってしまうのだ。

 

 

 

だがその思いは、目の前に立つ彼女の表情をこんなにも悲しく造り物の様な笑顔に変えてしまう。

 

 

 

真白はその事が堪らなく嫌だった。

 

 

 

皆は――いや、自分は彼女の重荷になるつもりで付いて来たのでは無かったと言うのに……

 

 

「……」

 

 

「………」

 

 

 

 

居心地の悪い沈黙が二人の間を流れて行く。

 

 

 

 

そこへ――

 

 

 

「か、艦長!知名さん達が戻ってきたよ!」

 

 

 

「!!!」

 

 

 

息を切らせて駆けてきた芽衣の言葉に明乃の瞳が大きく開かれた。

 

だが、彼女はチラリと真白の方を窺うと、直ぐに表情を戻してしまう。

 

 

 

「あっ……う、うん。今向かうよ。メイちゃんは皆に知らせてあげて」

 

 

 

「うん!じゃあ外でね!」

 

 

明乃は走り去る芽衣に手を振って見送った。

 

 

 

「か、艦長、私――」

 

 

 

「シロちゃん。私達も手分けして皆に知らせよ!」

 

 

 

「え……は、はい」

 

 

 

「じゃあ私は向こうに行ってくるね!」

 

 

 

「……」

 

 

 

走り去る明乃に真白は何も言えなかった。

 

 

残ったのは鈍い嫉妬の疼きと罪悪感のみ……

 

 

 

 

「岬さん、私は貴女のそんな表情、見たくないよ……」

 

 

 

彼女は暫くその場に立ち尽くしてしまうのだった。

 

 

 

 

 

  + + +

 

 

「え!?ハルハル帰ってきたの?」

 

 

知らせを受けた蒔絵の瞳が一気に輝きを増した。

 

 

 

「ハルハル!」

 

 

 

「ちょっ…蒔絵!?走ったら危ないわよ!」

 

 

 

「だってハルハルが!」

 

 

「心配しなくてもハルナは蒔絵を一人にしないわよ。だって¨友達¨の約束は絶対だもの」

 

 

 

「ヒュウガ……」

 

 

 

「さぁ、私と一緒に行きましょう」

 

 

 

「う、うん……解った」

 

 

 

ヒュウガと蒔絵は研究ラボから外へと向かう。

 

 

 

一方の群像達も、地中海から帰還してくる艦隊に気付いていた。

 

 

 

 

「群像……」

 

 

 

「ああ、解っている。タカオ達に損傷は?」

 

 

 

「今のところは見られない」

 

 

 

「そうか」

 

 

 

イオナの言葉と群像の安堵した表情にクルー達の表情も緩む。

 

 

 

「取り敢えずタカオ達の話を聞きに行こう。データは送られてきているが、此方の得た超兵器の情報と向こうの情報との擦り合わせは重要だ」

 

 

 

「了解……」

 

 

「「了解!」」

 

 

 

彼等もまた401の外へと向かって行く。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「……ヴェルナー」

 

 

 

眼前をシュルツの瞳は険しいものだった。

 

 

スキズブラズニルに接近してくるメアリースチュアートは所々が黒く焦げた痕が見られ、甲板の一部も補修の形跡がみられる。

 

 

 

弁天の戦力が他艦より低かったとしても、蒼き鋼の艦艇を3隻と超兵器戦闘に熟知しているウィルキア艦艇1隻で事にあたったのにも関わらず、これらの損傷を受けた事実は看過出来るものではなく、超兵器の更なる強化は最早異世界艦隊だけの問題では無くなりつつある現実を改めて突き付けられる結果となってしまった。

 

 

 

しかし、超兵器の戦略によって分断を余儀なくされたとはいえ、死者が出なかった事は奇跡に近い。

 

 

 

彼は一刻も早く彼等から超兵器に関する情報を聞き取る必要があると確信した。

 

 

 

「ナギ少尉。ブリーフィングルームで互いの情報を共有する。準備を頼めるか?それとラボにいるブラウン博士にも連絡を頼む」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

ナギは敬礼をすると足早に艦橋を後にする。

 

 

 

シュルツはもう一度接近してくる帰還部隊に目をやると、ゆっくりと艦橋を後にした。

 

 

 

 

 

  + + +

 

 

ガタンッ!

 

 

艦船が次々とスキズブラズニルへ接舷する様子を大勢の人々が見守った。

 

 

 

そしてメアリースチュアートからタラップが下ろされ、降りてくるヴェルナーに対してウィルキアの人々から歓声が上がる。

 

 

 

彼が船へと降り立つと、人込みの中からシュルツが歩いてくるのが見えた。

 

 

 

「先ぱ――シュルツ艦長」

 

 

 

 

戦争において苦楽を共にしてきた仲間と再会できる可能性は決して高くはない。

 

 

況して相手が超兵器ともなれば尚更だろう。

 

 

 

彼は、いかなる時でも自身を信じ続けてくれたシュルツの顔を見ると思わず感極まってしまう。

 

 

しかし、大衆の面前で感情を露にする事を彼が良しとしないのは理解できていた。

 

 

 

故にヴェルナーは涙を堪え、毅然とその場に直立して彼に敬礼をする。

 

 

対するシュルツも、彼の目の前で立ち止まると返礼を返し、ヴェルナーの下へと歩み寄って肩へと手を伸ばす。

 

 

 

「よく戻って来てくれた……感謝する」

 

 

 

「艦長……」

 

 

 

言葉は少なかったが、ヴェルナーには彼の思いが十分に伝わっていた。

故に彼は大きく頷きシュルツに答える。

 

 

 

一方の蒔絵は、人混みを掻き分けてハルナへと向かっていた。

 

 

 

「ハルハル!」

 

 

ヒュウガの制止も聞かず、彼女は兎に角前に向かって進み続けた。

 

 

 

 

「ん?今のは蒔絵の声か?」

 

 

 

「蒔絵……!」

 

 

 

甲板に出てきたハルナとぬいぐるみ姿にもどったキリシマが彼女の姿を探す。

 

 

 

「ハルハル!」

 

 

 

「蒔絵!」

 

 

 

声の方向に視線を向けたハルナは、一際小さな少女の姿を捉える。

 

 

 

「蒔絵……蒔絵!」

 

 

 

「おいハルナ!お前ちょっと感情シュミレーションを抑えて――わっ、ちょっ!」

 

 

 

何故かは解らない。しかし、彼女のコアは沸き上がる衝動を抑える事が出来なかった。

 

ハルナはキリシマを抱きかかえて甲板から一気に跳躍する。

その速度は、大衆から見れば彼女の姿が消えたように感じてしまう程だった。

 

 

 

「ハル――!」

 

 

 

蒔絵は目の前にフワリと翻る外套と目の覚めるような金色の髪、そして宝石の様なエメラルドグリーンの瞳をもつ人物が現れる。

 

 

 

二人は暫し見つめ合い、自身の気持ちを口にしようとするが、心が感情で溢れ上手く言葉を紡ぐ事が出来ない。

 

 

そんな二人を見て、焦れったくなったのだろう。

 

キリシマがハルナの腕を振りほどいて蒔絵の前へと着地した。

 

 

 

「ハッ……ハッハッハッ!どうした?蒔絵!そんな顔をして。大戦艦である私達がそう簡単に負ける訳が――」

 

 

 

ギュッ!

 

 

 

「ウグッ!?」

 

 

 

「ヨタロウ!」

 

 

 

蒔絵は大粒の涙を流しながらキリシマを抱き締めた。

 

 

 

「良かった……私、ハルハルもヨタロウも大切なトモダチで…心配で――!」

 

 

 

「ま、蒔絵……」

 

 

 

「もう会えないんじゃないかって…ひどい目に逢ってるんじゃないかって心配で私――」

 

 

 

「蒔絵!」

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

ハルナは蒔絵を抱き寄せた。

 

 

相手が超兵器である以上、スキズブラズニルとて安全と言うわけではない。

 

 

にも関わらず、彼女は嫌悪していた筈の兵器開発をハルナ達の為に行い、ここまで心を痛めて彼女達の帰りを気丈に待っていたのだ。

 

 

 

ハルナにはそれが堪らなかった。

 

 

 

彼女の気持ちが堪らなく嬉しく。

 

 

また、んな彼女にこんな顔をさせてしまった自身に堪らなく怒りが沸いてくる。

 

 

【自身の存在に駆けて、あなたを護り通す】とあの日彼女の涙を拭って誓いを立てたと言うのに……

 

 

 

「蒔絵……済まない。お前にそんな顔をさせないと約束したのに……」

 

 

 

「ううん…いいの。ハルハルが無事に帰ってきてくれれば私は良いの。それにね、ハルハル」

 

 

 

「?」

 

 

首を傾げる彼女に、蒔絵は涙で潤んだ顔を笑顔に変えた。

 

 

「帰ってきたら¨ただいま¨!済まないじゃなくて¨ありがとう¨だよ!」

 

 

 

ハルナは膝を着いて彼女と目線を合わせ、指で涙を拭うと優しい笑顔を蒔絵へと向けた。

 

 

 

「ああ…そうだな。ただいま蒔絵、そして待っていてくれてありがとう」

 

 

 

「うん!」

 

 

 

二人は再び固く互いを抱き締める。

 

 

(お、おい……苦しいぞ蒔絵、ハルナ。でもなんか言い出しづらい……)

 

 

 

勿論キリシマも一緒に……

 

 

 

 

  + + +

 

 

「真冬!」

 

 

タラップを降りてきた真冬に眞霜が駆け寄った。

 

 

「姉さん済まねぇ。こんな湿気たツラを見せるつもりじゃ無かったんだが……」

 

 

 

彼女の表情をみた眞霜は全てを悟る。

 

 

 

「解ってるわ。使用した兵器については報告は受けてる。辛い役割を押し付けてしまって本当にご免なさい……」

 

 

 

「……」

 

 

 

「でもね、これだけは言わせて。室長としてでもブルーマーメイドとしてでもなく、姉として……お帰りなさい」

 

 

 

 

「姉……さん」

 

 

 

互いに涙を見せないのは、トップを張る者の意地なのであろう。

 

 

 

しかし、常に過酷な現場へ赴く事になる彼女達にとって、帰る場所と待つ者がいることがどれ程救いであるのかは言うまでもない。

 

 

 

二人は暫しの間、¨家族¨としての再会を心に刻んで行く。

 

 

 

「ふぅ~漸く着いたわね」

 

 

 

「うん……」

 

 

 

「か、艦長は私を出迎えてくれるかしら〃〃」

 

 

 

「うん……」

 

 

 

「ちょっと!なんでそんなに暗い顔をしてるのよ!」

 

 

「うん……」

 

 

 

「はぁ~ダメね……」

 

 

 

一方、もえかの様子を見たタカオは思わず溜め息をつき、彼女に構わず群像の姿を探した。

 

 

 

「あっ!か、艦長〃〃」

 

 

 

多くの大衆の中から彼の姿を見つけたタカオは思わず瞳を輝かせ、一直線に此方を見詰める群像の目に、コアが一気に熱を帯びて行くのが解る。

 

 

 

ハルナの様に思いきり飛び付きたいと思う反面、¨もう一人の艦長¨の暗い表情が過って躊躇する。

 

 

 

「ああっもう!」

 

 

彼女は群像の視線に踵を返すともえかの下へと駆け出す。

 

 

そして――

 

 

 

トンッ!

 

 

「あっ!」

 

 

タカオはクラインフィールドで足場を作るともえかの背中を軽く前へと押した。

 

 

目を丸くして此方を見詰める彼女に、タカオは言い放つ。

 

 

 

「しっかりしなさいよ!この為に帰って来たんでしょう?まさか¨肝心な時に隣に居られなかった¨とか考えてるんじゃ無いでしょうね?」

 

 

 

「それは……」

 

 

 

「アンタは帰ってきた!そしてこれからも想い人と一緒に戦える。それじゃ不満?自信持ちなさいよ!あっ、アンタは¨仮にも¨私の艦長を務めたんだから、そんな顔して凱旋されたら私が不憫になっちゃうでしょ!?」

 

 

 

「タカオ……」

 

 

 

「ホラッ!とっとと行ってやりなさいよ!」

 

 

 

「うん……あのねタカオ!」

 

 

「まだ何か用なの?」

 

 

 

「ありがと……」

 

 

 

「ふ、フンッ!別にアンタの為に言った訳じゃ無いわ!そんな顔のアンタを差し置いて私だけ艦長と再会なんて目覚めが悪くなるから¨仕方無く¨……よ〃〃」

 

 

 

「それでも……ありがとうだよ」

 

 

 

もえかはタカオに笑顔を見せると足場を降りて行く。

 

 

 

「ホント…世話の焼ける艦長サマね。それより――」

 

 

 

タカオは再び群像へと視線を向け、そしてフワリと跳躍すると彼の前に着地する。

 

 

彼は穏やかな笑みをタカオへと向けた。

 

 

 

「良くやってくれた。ありがとう」

 

 

 

「ふ、フンッ!どう?私が居ないと超兵器にもさぞかし苦戦したんでしょうね!」

 

 

 

「ああ。やはり俺には君達が必要だ。だからこれからも宜しく頼む……重巡タカオ」

 

 

 

「!」

 

 

 

群像は手を差し出して握手を求めた。

 

 

彼女は内心激しく動揺するも、飽くまでそれを悟られぬ様、自然に手を彼の手と交えて行く。

 

 

 

「フンッ!漸く私の真価に気付いた見たいね。良いわ!これからもアンタの為に私が一肌脱いであげるわ!(うわぁ!わ、私…いま艦長と握手を…!)」

 

 

 

 

高鳴り続ける彼女の気持ちを知ってか知らずか、群像は自信たっぷりに胸を張る彼女と少しばかり長い握手を交わすのだった。

 

 

 

 

  + + +

 

 

「……」

 

 

明乃は複雑な表情で降りてくるもえかの事を見つめていた。

 

 

そんな彼女に対して、芽衣が言葉をかけてくる。

 

 

「あれ?ミケ艦長行かないの?」

 

 

 

「う、うん……シュルツ艦長がブリーフィングルームで情報交換をするって言ってたし、話はそこで聞けるかなって」

 

 

 

「そう言う意味じゃ無かったんだけど……まぁ艦長がそう言うなら」

 

 

 

「うん、じゃあ皆行こうか」

 

 

 

「待って!」

 

 

「し、シロちゃん?」

 

 

もえかに背を向けようとした彼女を真白が腕を掴んで呼び止めた。

 

 

 

「な、何かな?い、痛いよシロちゃん……」

 

 

「行ってください!」

 

 

 

「え、え?ブリーフィングルームの事だよね?それなら今――」

 

 

 

 

ゴッ!

 

 

「あイタッ!」

 

 

真白は彼女の額に自らの額を押し付ける。

 

 

互いの顔が息を感じられるまでに近付き、真白は真っ直ぐ明乃瞳を見詰めた。

 

 

今まで深く詮索した事は無かったが、明乃の瞳は日本人が持つ黒い瞳ではなく、珊瑚礁が広がる美しい海の様な透き通るオーシャンブルーの色合いを持っていた。

 

 

今、目の前にある彼女の目は驚きと戸惑いの色が見てとれる。

 

真白はそれに構わず、少し息を吸って気持ちを整えてから口を開いた。

 

 

 

「行って岬さん……《行きたい》って顔に書いてあるよ」

 

 

 

「シロ……ちゃん」

 

 

 

 

《行きたいって顔に書いてあるよ》

 

 

 

覚えている。

 

 

これはRATtウィルス事件で武蔵が暴走し、晴風がそれを止めた直後に真白から言われた言葉だ。

 

 

 

幼馴染みであるもえかに会いたかったが、艦長と言う立場上その場を指揮しなければならない。

 

そんな彼女に対して、真白はもえかに合いに行くよう明乃の背中を押したのだった。

 

 

 

未だに疑問に思う。

 

 

 

何故、あの時の真白の瞳は潤んでいたのかと……

 

 

そして今も、自分を真っ直ぐ見詰める真白の瞳には涙が滲んでいた。

 

 

 

きっと傷付けてしまったのだろうと眉を潜めた彼女に、真白はあの時言えなかった自分の気持ちを吐き出した。

 

 

 

「岬さん私ね、悔しかった。¨家族¨だって言っていた私達よりも、本当の¨家族¨である知名さんを選んでしまうあなたに嫉妬していたのかもしれない」

 

 

 

「……」

 

 

 

「でもね、そんな事よりも家族である私達に気持ちを偽られる方が悔しかったんだ」

 

 

 

「!」

 

 

 

「お願い。私には……ううん、はれかぜの皆にはあなたの気持ちを偽らないで欲しい。仕事だけじゃない……心も!あなたに皆が預けた様に、私達にもあなたの気持ちを預けて欲しいんだ!」

 

 

 

「シロちゃん……」

 

 

 

明乃は激しく後悔した。

 

 

今まで、艦長として彼女達を信頼しているつもりだった。

 

しかし、自分の負の部分を預けないと言う事は、表面上は綺麗だとしても、その実は相手を全く信頼していない事と同義なのだ。

 

 

彼女はその罪に気付いたのだった。

 

 

 

「し、シロちゃんゴメ――」

 

 

謝罪を口にしようとした彼女の口を真白の指先が制し、首を横に降る。

 

 

謝罪が欲しい訳ではないのだ。

 

 

彼女達が何故、【死に最も近い海】へ明乃と共に付いてきたのか。

 

 

 

それは、明乃自身が目の前にある困難に真剣に向き合い、そして助けた者達の笑顔を純粋に喜ぶ事が出来る人物であるからに他ならない。

 

 

まるで本当の家族の様に……

 

 

 

そう、彼女達は時には無鉄砲と思える行動取っていても、心は常に仲間や助けるべき者へ向けてくれる彼女をとても好きだったのだ。

 

 

 

そしてそれを、¨いかなる時¨でも貫いて欲しいとも思っていた。

 

 

それが、【艦長 岬明乃】に預けた彼女達の想いでり、シュルツや群像が明乃自身に課した課題でもある。

 

 

 

それは超兵器が存在するこの世界に於いては酷く残酷な事なのかもしれない。

 

 

しかし、その想いの果てに誰かの笑顔が有る限り、彼女は歩みを決して止めたりはしないだろう。

 

 

 

明乃は何かを決心し、そしてオーシャンブルーの瞳を真白へと向けた。

 

 

 

「ありがとう……シロちゃん。私、行ってくるね」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

明乃はもえかに向かって駆けて行く。

 

 

「あっ――!」

 

 

真白はその背中に向かって思わず手を伸ばした。

 

 

しかし、姿が小さくなる明乃をその手が握ることは無い。

 

 

 

彼女を行かせたのは半分は¨隣に居る者¨の意地であるわけだが、どんなに割り切ろうとしても出来ない想いがそこに現れしまう。

 

 

 

ずっと隣にいるのに果てしなく遠い存在……

 

 

 

そこで彼女は明乃の駆けて行く先へと視線を向けた。

 

 

【知名もえか】

 

 

明乃の幼馴染みにして、幼少期に苦楽を共にしてきた¨家族¨である。

 

 

そんな彼女に対して、真白は考える事を止められなかった。

 

 

 

(知名さん……岬さんとずっと近くで歩んで来た貴女も、私と同じようにあの人を遠く感じているのだろうか……)

 

 

 

しかしその思考は泡の如く消えて行く。

 

 

 

たとえどんなに遠くても、一歩づつ確実に前へと進むと彼女と共に再び海へ出る時に決めたのだから……

 

 

 

  + + +

 

 

 

「はぁ…はぁ……モカちゃん!」

 

 

「ミケちゃん……」

 

 

 

息を切らせて駆けてきた明乃は呼吸を整え、二人は見詰め合う。

 

 

 

互いを想わない日は一日足りとも無かった。

 

 

2度と会えないイメージが幾度となく頭を過り悪夢でうなされた。

 

 

 

両親を失った彼女達にとって、再会までの期間がどれ程長く苦痛に満ちたものであったかは言うまでもないだろう。

 

 

だが、いざ互いを目の前にしてもまだ、再会した現実の実感を二人は得られていなかった。

 

 

 

「モカちゃん……」

 

「ミケちゃん……」

 

 

 

声は聞こえる。

 

間違いなく目の前にいる幼馴染みは本物だ。

 

 

だが理解はしている筈なのに実感はまるで伴わない。

 

 

――怪我してない?

 

 

――無理はしなかった?

 

 

言いたい事は幾らでもあった。

 

 

――だがどれも違う

 

 

彼女達が互いの存在を確かめる術は最早言葉だけでは足りなかった。

 

 

 

「モカちゃん……モカちゃん」

 

 

「ミケちゃん……」

 

 

二人は互いの事を呼び合い距離を詰めて行く。

 

 

歩調はどんどん速くなり、呼び声も大きくなった。

 

涙で視界がボヤけ、互いの顔が見えなくなり、それすらも二人を不安にさせた。

 

 

 

「モカちゃん…モカちゃん!モカちゃーん!」

 

 

 

「ミケちゃん!」

 

 

 

 

声の方向に駆け出し、そして二人は遂に互いを抱き留めた。

 

 

片方の手で涙を拭い、それでももう片方の手は相手を離さない。いや、離してはいけないと思った。

 

 

はっきりした視界には見慣れた幼馴染みの顔がある。

 

 

彼女達は互いの名を呼び、そして固く抱き締め合うのだった。

 

 

 

「も、モカちゃん!モカちゃ…うっ…ああ!」

 

 

「うっ……ミケ…ちゃん!」

 

 

 

互いの声 体温 そして心臓の鼓動。

 

 

その全てが存在の証であり、二人はそれを確かめるように暫く互いを離す事は無かった。

 

 

 

二人の様子を一同が見詰め、中には涙を流す者までいた。

 

 

もしかすると彼等はたった今 【生き残った】と実感したのかもしれない。

 

 

 

「艦長。少しお話が……」

 

 

事態を見守っていたシュルツにナギが声を潜めて近付く。

 

 

「何か?」

 

 

「はい……此方をご覧ください」

 

 

 

 

手渡された端末に目を通した彼の表情が一変する。

 

 

 

「ブルーマーメイド艦隊が、進路を変えた超兵器を追ってヴィルヘルムスハーフェンに向かっただと!?何故止めなかった!」

 

 

「止めました!しかし《これがブルーマーメイドの使命》だからと……」

 

 

「くっ――!至急スキズブラズニルの進路をヴィルヘルムスハーフェンに取れ!」

 

 

「はっ!」

 

 

 

 

シュルツは再び抱き合う二人へと視線を向ける。

 

 

 

――無粋だな

 

 

一時の再会の喜びすらも妨害する超兵器に対し、彼は怒りを抑える事が出来なかった。

 

 

 

 

異世界艦隊は大西洋にて合流を果たし、彼等の様々な想いを乗せて一路ヴィルヘルムスハーフェンへと舵を切った。




お付き合い頂きありがとうございます。


今回の後半より欧州解放前哨戦 最終編であります、ヴィルヘルムスハーフェン解放戦編と成りまして、事実上この話で、ストーリーの折り返しに成ります。


原案だとこの話が15話付近に来る筈だったので随分と回り道をしてしまいましたが、此からも邁進して参ります。



次回まで今暫くお待ちください。


それではまたいつか。




























とらふり!  はれかぜのトライアングル関係




真白
(ハァハァ……艦長の顔がこんな近くに…あ、あぁっ!)



もえか
(久しぶりのミケちゃん……温かいよう。連載の間隔を考えると実質季節が一周する間離れ離れになっちゃって…もう我慢できなくなっちゃう!)



真白&もえか
「………」




真白
「譲らん!あの時は確かに譲ったが、今日艦長と寝るのはこの私だ!」



もえか
「私だよ!だって連載の絡みで事実上一年もミケちゃんをお預けにされたんだよ?一晩くらい一緒でもバチは当たらないよ!」



真白
「なにおぅ!知名さんは超絶美人のタカオさんと毎日■■■■■してたじゃないか!」



もえか
「デタラメ言わないで!そんな宗谷さんこそ毎日ミケちゃんをオカズにして××××してたじゃない!」




真白
「なっ――!言いがかりだ!」




もえか
「否定しきれてないよ?」



真白
「ち、違う!」



タカオ
「ちょっとあんた達!さっきから聞いてたら会話が不毛よ?それに私、初めて全てを見せる(エンジンとか……)のは艦長って決めてるんだから!とんだとばっちりだわ!」



真白
「ではタカオさんに決めてもらおう!」



タカオ
「え?」



もえか
「そうだよ!どっちが今日ミケちゃんと寝んねするかタカオに決めてもらう!」



タカオ
「ちょっ――待ってよ!急にそんな……」




真白&もえか
「じ――」



タカオ
「え?え!?困るって……そんな〃〃」



明乃
「シロちゃ~ん!モカちゃ~ん!」



もえか
「ミケちゃん!?」

真白
「か、艦長!?」




タカオ
「あ、あぁホラ!やっぱり当の本人に聞くのが一番じゃないかしら?」




真白&もえか
「確かに……」



タカオ
(セーフ!)



真白
「かかっ、艦長!」



もえか
「ミケ……ちゃん」




明乃
「???」



真白
「今日、あの~私と……」


もえか
「夜、私と……」




明乃
「二人ともそろそろ出航だよ!急いで!」




真白&もえか
(あぁ……)



真白
「行こうか知名さん……」



もえか
「うん…そう言えば決戦前だったね。ミケちゃん真面目だから本編進行に忠実なんだよ」




真白
「そこも艦長の魅力なんだが……ただ」


もえか
「うん……そうだね」



真白&もえか
(報われない……)




タカオ
「上手いことオチを作ったみたいだけど、一番報われないの私じゃないの!?」


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