トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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大変永らくお待たせ致しました。


ヴィルヘルムスハーフェン解放戦の続編に成ります。


それではどうぞ


灼熱の吐息  VS 超兵器

   + + +

 

 

 

ヴィルヘルムスハーフェンは一度めの超兵器襲撃の際に市街の4割程を破壊されていた。

 

 

 

だが、超兵器はブルーマーメイドの支部や街を完全には破壊していなかった。

 

 

 

頑丈な建物に於いては無傷の処さえある。

 

 

 

しかし、¨半端な破壊¨はかえって人類側に不利益をもたらしていた。

 

 

 

ブルーマーメイドを始め軍や警察、そして消防や医療関係者は避難すらままならない住民の対応に追われ、結果として電磁防壁や防空システムの構築を後手にせざるを得なかった。

 

 

 

その結果がこれだ。

 

 

 

 

更に――

 

 

 

 

ヴィルヘルムスハーフェンを襲撃した航空部隊は、初めの襲撃の際にブルーマーメイド基地を含めた街に存在する頑丈な建物を殆ど破壊していなかったのである。

 

 

 

勿論、住民の心理からすれば一度目の襲撃に耐えた建物に避難しようと考える筈だ。

 

 

 

だがもし、それこそが超兵器の狙いであったとするならば……

 

 

 

ガチャン!

 

 

 

B-3が放った爆弾は、より頑丈な造りの建物が密集する中心市街地のど真ん中へと投下された。

 

 

 

ビルに逃げ込んだ住民達はそうとも知らずに寄り添い、空爆が過ぎ去ればなんとかなると安堵感を抱く。

 

 

 

しかし敵の兵器はそんな安直な心理を容易に打ち砕いて来るのだった。

 

 

 

ドゴォオオ!

 

 

 

「え……?」

 

 

 

彼等が最期に発する事が出来た唯一言葉はそれだった。

 

 

 

起爆と同時に内部の炸薬が猛烈な化学反応を引き起こし、凶悪な熱と衝撃波を辺りに撒き散らしたのだった。

 

 

 

 

それらは微々たる隙間から建物の内部に意図も容易く侵入し、避難していた彼等を焼き尽くす。

 

 

 

しかし、多数の人物がこれ程までに死に絶える事が有るのだろうか?

 

 

 

いや、この爆弾になら可能であった。

 

 

 

【サーモバリック爆弾】

 

 

 

通常使用される破片にて相手を死傷させるものとは一線を画し、爆風によって衝撃波と炎を拡散させて対象の肺を一瞬にして奪い呼吸器器官を停止、運良くそれから逃れられたとしても炎によって酸素を奪い尽くす事で呼吸困難を誘発して確実に止めを刺す悪魔の兵器である。

 

 

 

 

B-3が投下した一発の爆弾によって辺りはたちまち地獄絵図と化してしまった。

 

 

 

事態に気付いた関係機関が、B-3が去って行くと共にサイレンを鳴らして現場に駆け付けてくる。

 

 

勿論、炎や熱に支配された地獄に屈しない勇敢な住民達も救助に加わった。

 

 

 

「とにかく火を消せ!」

 

 

 

「おい!こっちの瓦礫の中から声が聞こえる!誰か手を貸してくれ!」

 

 

 

「ドクターこっちです!お腹に破片が刺さっています!早く!」

 

 

 

「さっきの爆撃で幹線道路が破壊された!避難する住民を迂回させてくれ!」

 

 

 

各所で怒号が響き、懸命な救助と避難が続けられていたが――

 

 

 

 

 

 

ゴォオ!

 

 

 

空に再び雷鳴にも似た轟音が迫ってくる。

 

 

 

B-3は去ってなどおらず、¨攻撃は継続¨していたのだ。

 

 

 

 

【ダブルアタック】

 

 

 

一度めの攻撃で負傷した救助者を¨餌¨に、救出に関わる専門的な技術を有した人物や、自主的救出に手を貸す勇敢な人物を炙り出し、去ったフリをして再度現場に戻って空爆を敢行、集まった人々を殺傷し尚且つ救助者に止めを刺す卑劣極まりない戦法である。

 

 

 

これはハワイでドレッドノートが使用した戦法であり、シュルツ達の世界に於いては主にソビエト連邦が好んで使っていた。

 

 

 

そして今、B-3のハッチには¨本命¨の爆弾が装填されている。

 

 

 

 

弾頭に¨核¨を搭載した【特殊弾頭爆弾】である。

 

 

 

2つの異世界に於いての核兵器の位置付けは、¨抑止力¨的な意味合いが強かった。

 

 

 

理由は放射能汚染である。

 

 

当初、¨威力の高い爆弾¨としか認識されていなかった原子爆弾は広島と長崎に投下された後に、人体に有害な影響を長期に渡って及ぼす放射線を放つことが解ったのだ。

 

 

勿論、原子で構成された物体は微量な放射線を放つのだが、核反応によって生じたそれは人体に影響を与える。

 

 

最も身近な核反応による放射線は太陽光であるが、地球を覆うオゾン層によって遮られていた。

 

 

 

話を戻そう。

 

 

 

つまり、占領や敵地利用を目的とするならば、土地を汚染する核兵器の使用はご法度である筈なのだ。

 

しかし相手は人類ではなく¨兵器そのもの¨であり、目的が命の灯火を消し去る事であるなら話は別であろう。

 

 

 

護衛のF-41cから地上の情報を受け取ったB-3は、高度を少し下げて投下に向けて狙いを定めた時――

 

 

 

 

 

 

ドゴォン…ボォン!

 

 

 

突如B-3の機体が粉々に砕けて空中で四散してしまう。

 

 

 

「私達人類を……あまり舐めてくれるなよ!」

 

 

 

 

ノイッシュバーンの主砲の砲身が天を向いていた。

 

 

¨手動¨による砲撃によっての撃墜

 

 

 

まずもって現実味が無い方法ではあるが、彼女達には出来てしまうのだ。

 

 

かつて、RATtウィルスによって暴走した武蔵に主砲を向けられた晴風は、砲術長である志摩の指示によって、相手の砲撃を¨砲撃でもって¨撃ち落としている。

 

 

 

 

それは志摩自身の天才的な観察力によって、武蔵の砲撃手の癖や夾叉の際の相手が放った弾道を緻密に予測した上での話である、勿論狙って出来るものではないが、航空機の速度であるなら砲撃の速度よりはもちろん遅い。

 

 

 

彼女達欧州のブルーマーメイドは、密集する国々との複雑な事情により救助訓練よりも戦闘訓練に重点を置いていた事が今回の対処に一役かっていたのだった。

 

 

 

 

航空機や誘導兵器が存在しない世界に於いての彼女達の砲撃精度は最早狙撃に近く、2つの異世界では得られなかった強みでもある。

 

 

 

それを知り得ず油断したB-3は、不用意に高度を落としすぎていたのである。

 

 

 

 

冷静さを取り戻したブルーマーメイド艦隊によって航空機は次々と撃墜されて行く。

 

 

 

とりわけ、B-3と電波妨害をしていたF-41cは真っ先に狙われ、高度を取る間もなく撃墜された。

 

 

 

 

電波妨害さえ無くなってしまえば後は言うまでもなく、対空ミサイルの嵐によって残存している航空機達はハエの様に堕ちて行くしかない。

 

 

 

 

「よし!このまま敵を掃討して――何!?」

 

 

 

本当に一瞬だけ、蒼い閃光がテアの視界に入り、彼女は驚愕と混乱に陥る事となる。

 

 

 

ドゴォン!

 

 

 

先程B-3が爆撃した付近で砂煙が巻き上がる。

 

 

 

彼女達には直接見えている訳では無いが、¨何か¨が着弾したその跡には数十メートル程のクレーターが出来ていたのだ。

 

 

 

勿論、そこにいた人々の運命は言うまでもない。

 

 

 

 

「――っ!」

 

 

 

テアは振り替えって眼前を睨み付けた。

 

 

 

その視線の先は空でも、況して陸地でもない。

 

 

 

 

水平線の彼方――

 

 

 

 

この現象の¨元凶¨がそこに佇んでいた。

 

 

 

 

「超……兵器!」

 

 

 

彼女は歯を噛み締める。

 

 

 

爆発物による物とは別な砂煙の上がり方から、今の攻撃は¨砲撃¨によるものである事は明らかだったが、テアの視点から見ても超兵器は未だ親指の爪程の大きさにしか見えていない。

 

 

 

即ち、敵はそれ程の遠距離から正確に狙撃を行って見せたのである。

 

 

 

それも敢えてテア達ブルーマーメイドを一切狙わずに民衆のみを殺すやり方で――

 

 

 

「化け物めっ!ミーナ、各艦に通達!超兵器が現れた!もう狙われてるぞ!」

 

 

 

「な、なに!?一体どんな兵器で狙っているんだ!?」

 

 

 

「恐らく¨レールガン¨だろう。詳しい仕組みわ解らないが、凄まじい発射速度と威力を有した砲だ」

 

 

 

「砲だと!?敵はあんなに離れているんだぞ!」

 

 

 

「ムスペルヘイムの所持しているレールガンの射程は¨視界に入るモノ全て¨だそうだ。姿が見えている以上、この場に安全な場所など無い!急げ!情報を共有しないと皆殺しになるぞ!」

 

 

 

「は、はい!」

 

 

 

「防空能力に長けた艦艇を7隻残して、我々は超兵器に向かうぞ!このままでは住民を巻き込んでしまう!」

 

 

 

テアが指示を飛ばし、彼女達は一斉に海へと動き出した。

 

 

 

 

一方のブルーマーメイド基地は混乱に陥っていた。

 

 

戦闘を目撃した住民達が建物の入り口を破壊し、中へとなだれ込んで来たのである。

 

 

 

「急げ!この建物なら頑丈だ。もっと奥に逃げろ!」

 

 

内部は瞬く間に人で埋め尽くされ身動きすらろくに取ることができず、隊員達も指揮など出来る状況ではなかった。

 

 

 

しかし、恐怖に支配された住民は建物に入れる数を大幅に上回っていたのだ。

 

 

「頼む!俺も中に入れてくれ!殺されちまう!」

 

 

「せめて子供だけでも!」

 

 

「押さないで!お願い!押さないで!」

 

 

「く、苦しい……押すな!もうこれ以上は――!」

 

 

 

入り口では怒号が響き、建物の中は悲鳴と呻き声で充満する。

 

 

 

凄まじい圧迫によって呼吸すらままならず、意識が薄れた数人が階段付近でバランスを崩し、大規模なドミノ倒しが起きた。

 

 

苦しむ人を助ける者はおらず、苦しさで呻く彼等を¨肉の足場¨として人が次々と彼等を踏みつけた。

 

 

「フグッ!?………ウムッンッ!ンンッ~!」

 

 

「すまない……許してくれ!許してくれっ!」

 

 

 

 

自分の足元に感じる体温と肉の感触、そして呻き声に彼等は罪悪感と同時に¨自分だけは助かった¨と安堵を抱いてしまう。

 

 

 

しかし、彼等の安堵はそう長くは続かない。

 

 

 

 

「な、なんだあれは?」

 

 

 

 

入り口付近にいた住民の一人が海を指差す。

 

 

そこには8本の緑色の光線が空へと放たれ、それらは屈折しながらヴィルヘルムスハーフェンへとまるで触手を伸ばすかの様に迫ってくるのが見て取れた。

 

 

 

「不味いぞ……おい!直ぐここから離れろ!来るぞぉ!」

 

 

 

中に入れずにいた住民は直ぐ様走り去る。

 

 

 

しかし、中の者はそうはいかない。

 

 

 

「は、早く出て!このままじゃ私達……!」

 

 

 

「クソッ!押すな!はっ、早くしてくれぇ!死にたくない!」

 

 

 

 

 

 

出口は狭く、多人数が一気に抜け出す事が出来ず、その間に光線の内の一本がブルーマーメイド基地へと進路を変える。

 

 

焦る住民達は再びバランスを崩し、次々と出口を前にして折り重なる様に倒れていた。

 

 

彼等は悶える住民が織り成した肉の床を這いつくばって出口へと向かって行く。

 

 

 

「嫌だ嫌だ嫌だぁ!」

 

 

「ぐっ…ぐるじぃ……ゲッ!ゲェェ!」

 

 

押し潰された住民達は苦しさからグネグネと蠢き、口から撒き散らされる吐瀉物の悪臭も相まって、出口へ向かう人々の行く手を阻んでおり、最後の屈折を経て加速している緑の閃光から彼等が逃げ切れる可能性は――

 

 

 

 

「イヤァァ!」

 

 

 

ビギィ!

 

 

 

 

(ゼロ)

 

 

 

基地に直撃したレーザーは建物のほんの一部を残して内部にいる人間ごと瞬時に¨蒸発¨させてしまう。

 

 

 

更にだ――

 

 

 

内部にあった弾薬が強烈な熱によって反応して爆発し、残った建物を完膚なきまでに吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

「あ゛っ!」

 

 

 

「ぎぇっ!?」

 

 

 

雨の様に降り注ぐ冷蔵庫大の瓦礫が彼等を次々と押し潰していく。

 

 

 

 

生き残った者達は周囲に漂う血と脂が混じった赤い煙から来るであろう悪臭と不快な皮膚のベタ付きに怯えながら逃げ惑う。

 

 

 

正に地獄が溢れた光景が広がりつつあった。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「くっ……間に合わなかったか!それで状況は?」

 

 

 

シュルツは最悪の情況に歯噛みする。

 

 

通信を遮断したブルーマーメイド艦隊であるが、ヒュウガによるハッキングによって通信システムに枝を張り、彼女達の会話をリアルタイムで盗聴していた。

 

 

 

 

『シュルツ艦長。こうなれば最早ブルーマーメイド艦隊を、我々が到着するまで持ちこたえさせるしかありません。超兵器の中の一隻は姿がリストとの物とはかなり異なっている。闇雲に突っ込まれたりすれば全滅は必至です』

 

 

 

群像の提案にシュルツは頷く。

 

 

 

こうなってしまった以上、一刻の猶予も無いのだ。

 

 

 

 

「私も同感です。では大戦艦ヒュウガに通信の枝から超兵器の情報をブルーマーメイドに流布してください」

 

 

 

『解りました』

 

 

 

『あっ、あのっ!私達だけでも先行して牽制だけでも――』

 

 

 

「いけません」

 

 

 

 

彼女がそう言うであろう事は解っていた。

 

 

 

 

現在のはれかぜは異世界艦隊の中で最高の速度を誇っており、現場に最も早く到着出来る可能性が高い。

 

 

しかし相手が相手なのだ。単艦で突撃しても意味がない事は明白だった。

 

 

 

 

今は彼女自身に自制を促して行くしかない。

 

 

 

「岬艦長。今回あなた方の戦闘は副次的なものです。怪我人が出る可能性がある以上、敵を撃滅する役目は私達で負います。後は解りますね?」

 

 

 

『はい……』

 

 

 

「ですが――」

 

 

シュルツは言葉を繋ぐ。

 

 

それは¨岬明乃¨と言う人物の本質を呼び覚ます言葉でもあった。

 

 

 

「正直な処、はれかぜは我々の中で¨最も¨困難な任務に就く事になるでしょう。私達は救出のエキスパートではありませんので。故に岬艦長………頼みます!」

 

 

 

『!』

 

 

 

 

――戦場の真っ只中での救出

 

 

 

それは超兵器のいるその海域で、機動力を持ち味としているはれかぜが¨停船¨しながらの救出を強いられる事を意味しており、それも他艦より防御の薄い艦艇で救出に人員を割かなければならない状況になる事は明白であった。

 

 

 

¨自殺行為¨と誰もが考える任務に彼女達は挑んで行く。

 

 

 

しかし…二人の会話を聞いているはれかぜクルーに怯えの表情など無い。

 

 

 

何故ならば――

 

 

 

【はれかぜに良き風が吹き続ける限り艦は沈まない】

 

 

 

【岬明乃と共に歩む限り私達は死なない】

 

 

 

そう彼女達が信じているからだ。

 

 

 

勿論、恐怖を克服する為の自己暗示かもしれないが、彼女達は自らを¨家族¨と呼ぶ明乃が自分達を死へ誘う事を望んでいない事だけは確信しているのだ。

 

 

 

 

「はい!」

 

 

 

明乃の返事は全てを物語っており、クルー達にはそれで十分であった。

 

 

 

 

はれかぜは異世界艦隊と足並みを揃えて進む。

 

 

 

 

¨救う¨と言うこの世で最も困難な命題を背負って――

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「くそっ!だからやめておけと言ったんだ!」

 

 

 

フランスの艦艇【ルイ・アントワーヌ】艦長ルイーズ・ヴィジェ=ルブランは激昂していた。

 

 

 

 

理由は、超兵器への自殺行為に近い戦闘を強いられた事に間違いは無いだろう。

 

 

 

異世界艦隊の到着を待とうと提案したドイツとフランスに対し、イギリスとオランダが異を唱えたのだ。

 

 

 

生粋の海軍国家である2つの国は、その威厳を維持するべく主体的に行動する道を選択させた。

 

 

それは超兵器打倒後に於いて、欧州での立ち位置を確立したい狙いが有るのだろうが、それは同時に超兵器の戦力を過小に評価している結果とも言える。

 

 

 

その結果が――

 

 

 

ボォン!

 

 

 

ルイ・アントワーヌの隣を並走していたイギリスのインディペンデンス級護衛艦【ウィリアム4世】が紅蓮の炎をあげていた。

 

 

 

何が起こったのか理解が追い付かない。

 

 

 

ただはっきりしていることは、これを成した超兵器は潜水艦型である事と、魚雷による攻撃である事の2つだろう。

 

 

 

しかし敵の魚雷射出音が聞こえてから僅か¨数秒¨で到達した事が艦隊に更なる混乱を招いていたのだ。

 

 

未知の魚雷だけでも十分脅威なのだが、それよりも脅威なのは――

 

 

 

 

「敵¨ドリル超兵器¨艦隊に接近してきます!敵速は――¨176kt¨!」

 

 

 

 

「なっ……何!?計測の間違いではないのか!?」

 

 

 

「い、いえ間違いありません!」

 

 

 

 

「私は夢を見ているとでも言うのか!?」

 

 

 

ルブランは唇を噛んだ。

 

 

敵は艦首部分に¨2本¨のドリルを装着していたのだ。

 

 

ウィルキアから送られていた超兵器リストには荒覇吐の他にもう一隻の同型艦の存在が記載されていたが、形状は荒覇吐と同様であり性能も多少違いでしかない筈だが、目の前に存在するそれはリストの物とは全くの別であったのだ。

 

 

 

大和型を基準とした形状をとる荒覇吐とは異なり、細長い四角形の形状の船体と巨大な艦橋の後部にそびえるパラボナアンテナがついた鉄塔、甲板にずらりと並ぶガトリング砲を含めた多種多様な兵装、そして――

 

 

キィイイイイン!

 

 

 

艦首に備え付けられたドリルと穴を拡張するときに使用される¨リーマ¨と呼ばれる工具を合わせたような尖ったドリルが2本横並びにあり、更に左右の側面前方に水平に設置された円盤形のソー、そして側面の後方には大型の¨チェーンソー¨の様な物が高速で回転していた。

 

 

 

 

そこに高速巡洋戦艦に匹敵する高速機動と大型超兵器の重装甲を併せ持った抜け目の無い性能が加わるば、ルブランが辟易するのも無理はなかった。

 

 

 

ドリル艦は一発も砲弾を放つ事なくその狂速で一気に距離を詰めて来る。

 

 

 

 

「艦長!超兵器ドリル艦がこちらに接近!」

 

 

 

「回避行動を取れ!」

 

 

 

『ガガッ………こちら……ズズッ…ウィ…4世…ガガッ!至急救援を…求…!』

 

 

 

「それどころではない!」

 

 

ルブランは、直ぐ様艦の軌道修正を行い、回避行動を取るも――

 

 

 

 

 

 

ガリガリガリガリッ!

 

 

 

炎上するウィリアム4世に高速回転する超兵器のドリルが衝突したと同時に艦首部分が千切れて吹っ飛び、残りは押し潰されるように海へとその船体を没してしまった。

 

 

多くの隊員が悲鳴をあげる間も無く肉片へと摺り潰され、最早それがヒトであったのかすら疑わしい憐れな姿に成り果てる。

 

 

 

「ひっ!」

 

 

副長が目の前の惨劇に腰を抜かしてしまう。

 

 

 

「何をしている!早く立て!もたもたしていると死神に首を跳ねられるぞ!」

 

 

 

艦橋に怒号が響き、ルイ・アントワーヌは機関を全開にしてドリル艦から距離を離そうと足掻くその傍らで――

 

 

 

 

 

「か、艦長!れ、レジスタンスが――!」

 

 

 

ギリギリギリギリッ!

 

 

 

ウィリアム4世の後ろをついてきていた、イギリスの巡洋戦艦レジスタンスであったが、ドリル艦側面にある円盤形のソーによって¨スライス¨されていた。

 

 

 

切削によって生じる火花と摩擦熱で瞬時に高温になった船体内部で隊員達は炙られ、熱による弾薬の誘爆が熱さに喘いでアオムシの様に体をくねらせる隊員達を引きちぎって行く。

 

 

 

 

「おのれ化け物がっ!もっと速度をあげられないのかっ!」

 

 

 

「限界まであげています!」

 

 

 

「チッ!」

 

 

 

ルブランは焦りと苛立ちを抑える事ができなかった。

 

 

 

とてつもない狂速に加え、コマの様にくるりと方向を変えてくる敵に対して、思うように距離を開く事が出来なかったからである。

 

 

 

 

ギィィ!

 

 

 

不愉快な音を立てながら接近するソーと言う名の死神の鎌。

 

 

 

 

「一杯だ!目一杯舵を切れぇ!」

 

 

 

ルイ・アントワーヌは舵が破損することも厭わずに全速で舵を切ってソーを回避する。

 

 

 

 

「よし!奴の背後に回れ!そうすれば勝機が――何!?」

 

 

 

ガゴン…フィイイイイ!

 

 

 

 

彼女達は戦慄した。

 

 

 

 

円盤形ソーの後方にあったチェーンソーが、まるで翼を広げるかのように¨展開¨されたのだ。

 

 

 

ルイ・アントワーヌの前方に超高速回転する巨大なチェーンが立ちはだかる。

 

 

 

 

「か、艦長ぉ!わ、私…私は……嫌ぁあ!」

 

 

 

死が近付き、恐怖に怯えて泣きじゃくる副長を余所に、ルブランは諦めの笑みと怨嗟の眼差しを超兵器に送る。

 

 

 

「ハッ……アハハハハ!おしまいだっ!何もかもっ!」

 

 

 

次の瞬間――

 

 

 

ゴォオン!

 

 

 

「え゛……ギィッ!?」

 

 

 

ルイ・アントワーヌの艦首がチェーンに触れた瞬間、ルブランを始めとした隊員達の体に凄まじい横凪ぎの衝撃が走り、壁に叩き付けられてグチャリと潰される。

 

 

 

艦は一瞬で折れて吹き飛ばされ、宙を舞った艦の一部が数百メートルも先の海面に叩きつけられて沈み、残された部分もチェーンソーによって粉々に粉砕されてしまっていた。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

テアは思わず唇を噛んだ。

 

 

既に多大なる犠牲が出ているにも関わらず、敵はこちらの実弾を全く受け付けていなかったからだ。

 

 

先程より、ムスペルヘイムが不気味な沈黙にはいり、それを補うかのようにドレッドノートとドリル艦が攻勢を強めている。

 

 

 

(太刀打ち出来ない!数の問題では無いと言うのか!)

 

 

 

テアが眼前を睨んだと同時に、ミーナが通信員から受話器を渡された。

 

 

 

 

「え!?あなたは――」

 

 

 

『始めまして、私は大戦艦ヒュウガ。そちらの通信網に割り込ませて貰ったわ。そっちの状況は把握してる。もう少しで到着するから持ち堪えなさい』

 

 

 

 

「しかしこちらの攻撃は通じていない。味方も半数は殺られた!」

 

 

 

『ええ。とにかく今は凌いでとしか言えないのだけれど、超兵器に関する新たな情報だけは伝えておくわ。まぁ知ったところでどうこうと言う訳では無いのだけれど。ドリルを使ってくる超兵器がいるでしょう?あれは恐らく超巨大ドリル戦艦【天照】の強化版ね』

 

 

 

「天照!?異世界に於いて¨極東方面の統括旗艦¨を務めていたと言う奴か!?」

 

 

 

『そうよ。ドリルによる格闘戦が可能な事に目が行きがちだけど、日本艦ならではの大鑑巨砲と防御、それに加えて多数の光学兵器と素早い機動性。正直言って軍艦に存在するあらゆる欠点を克服した天照にはこれと言った弱点は無いと言って差し支え無いわ』

 

 

 

「そんな……私たちはどうすれば――!」

 

 

 

『弱気になっている暇は無いわよ?重要なのはソイツじゃない』

 

 

 

「ムスペルヘイム……か?」

 

 

 

『そうよ。通信の傍受だけじゃ状況を把握できないわ。現在のムスペルヘイムの様子を話して頂戴』

 

 

 

「市街地への攻撃の後は沈黙しているが……」

 

 

 

 

『!!!』

 

 

 

ミーナはヒュウガの反応に不穏な空気を感じた。

 

 

 

確かに、総旗艦を守護する超兵器としては動きが無さ過ぎるのだ。

 

 

 

これなら現在暴れまわっているドレッドノートや天照の方がまだ脅威に感じるくらいだ。

 

 

 

 

しかし、次のヒュウガからの叫びに彼女の緊張は臨界を突破する。

 

 

 

『急いで砲撃をムスペルヘイムに集中させて!』

 

 

 

「な、何故!?」

 

 

 

『敵は¨重力砲¨発射の為のエネルギーを内部にある巨大な蓄電池に蓄積している可能性があるからよ』

 

 

 

「なっ……!」

 

 

 

重力砲に関する理解は資料から把握はしていたが、いざ言葉にされてもイメージが沸かなかった。

 

 

 

【重力砲】

 

 

¨破滅級大規模破壊兵器¨

 

 

着弾点に強力な特異点を発生させ、強力な重力によってあらゆる物体を特異点の中心まで引き寄せて無限に圧縮する兵器。

 

 

 

 

確かに言葉では理解できた。

 

 

しかし、それには彼女達の現実での実感と言うのが伴って来ないのである。

 

 

必然的に彼女を含めたブルーマーメイド艦隊の注意は差し迫った脅威であるドレッドノートや天照に向いていた。

 

 

 

ムスペルヘイムと言う存在が、世界を一隻で相手しうる超兵器の総旗艦を守護する【総旗艦直衛艦隊】の¨旗艦¨である事を失念して――

 

 

 

 

『重力砲は通常、発射態勢に入るとチャージにかなりの時間を費やすことになるの。勿論その間は防壁の展開や他の攻撃も停止されるわ。でももしあらかじめエネルギーを蓄積しているとなれば――』

 

 

 

 

「発射迄の隙を大幅に短縮出来る?」

 

 

 

『そうよ。一発でも発射されれば最早事態の収拾は確実に不可能になる。その混乱は奴に¨2発目¨を撃たせる隙を作ってしまうわ。そうなれば――』

 

 

 

ゴクリ……

 

 

彼女は思わず息を呑んだ。

 

 

 

『あなた達を含めたヴィルヘルムスハーフェンは地図から消え、そこに存在する生物の数は¨ゼロ¨になる』

 

 

 

 

「!!!」

 

 

 

ミーナだけではない。

 

 

テアを含め、通信を聞いていた全ての者が事の重大さを認識していた。

 

 

 

「全砲門をムスペルヘイムに向けろ!照準は関係ない!当てれば良い!あれだけ巨大ならどこかに当たる筈だ!急げ!」

 

 

 

 

ボボォン!

 

 

 

テアの指示でノイッシュバーンが一斉に砲撃を再会、残る艦艇もての空いた者は砲門をムスペルヘイムへと向けていた。

 

 

 

 

「大戦艦ヒュウガ!アケノは…異世界艦隊の到着はあとどれ位で――」

 

 

 

 

『わ…ズズッ!…分…ガガッ!…う少……ら…踏…ガガッ……さい!』

 

 

 

「良く聞き取れない!もう一度――」

 

 

 

 

「ミーナ!」

 

 

「どうした!?」

 

 

「遅かったみたいだ……」

 

 

 

「!!?」

 

 

 

青ざめた表情を見せるテアの視線の先に目を向けたミーナは、自身の顔からも血の気が引いて行くのを感じた。

 

 

 

 

《主ヨ。御身カラ賜リシ力ヲ、下卑タル存在二使用スル我ガ愚行ヲ赦タマエ……》

 

 

 

「なんだ!?この声は!」

 

 

 

とても深く暗い、そして憂いを帯びた声がテアとミーナの脳に響き渡る。

 

 

 

そして辺りを見渡した彼女はある事に気付いたのだった。

 

 

 

「天照はどうした!?」

 

 

 

先程まであれほど暴れまわっていた天照は、いつの間にかムスペルヘイムの背後へと後退している。

 

 

アクティブソナーの発信源からするとドレッドノートも同様かもしれない。

 

 

 

本来護るべき旗艦を差し置いた2隻の行動は極めて不可解であったが、彼女達は最早それら2隻に目もくれてはいなかった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

――ヴォン!

 

 

 

どす黒いオーラがムスペルヘイムを包んでいる。

 

 

 

そして中央に位置する戦艦部の艦首に備え付けられた細長い三角形のフィンが付いた一際巨大な装置が立ち上がる。

 

 

 

その装置の中央には鈍く光る何色もの光が輝き、それに呼応するかの様に厚い雲がムスペルヘイム直上に渦を巻き、雷鳴と共に雲が本来ある筈の無い不気味な色あいを写し出していた。

 

 

 

 

ゴォォオ!

 

 

 

装置の機動音が大気を揺らし、隊員達の恐怖を増大させる。

 

 

 

無情にも今さら何をしても彼女達にアレを止める術は存在していなかった。

 

 

 

《罪深キ存在ニ、死ト言ウ名ノ救済ヲ与エタマウ主ノ慈悲深キ恩情。アァ……ナント言葉ニスレバ良イカ。人間達ヨ、赦タマエ……ドウカ我ヲ赦シ、主ノ慈悲ヲ心安ラカニ受ケ入レタマエ……》

 

 

 

 

装置の先端に深淵の闇と形容すべき球体が出現する。

 

 

 

《アァ……ドウカ》

 

 

 

それはみるみる巨大になり――

 

 

 

《下卑タル全テノ存在ニ……》

 

 

 

そして――

 

 

 

 

《永遠ノ祝福()ヲ与エタマエ……》

 

 

 

 

ビギィイイイ!

 

 

 

 

放たれた。

 

 

 

 

遂に放たれてしまった。

 

 

 

 

その闇がもたらす絶望を、この直後に全ての者が目の当たりにすることになるのである。




お付き合い頂きありがとうございます。


補足に成りますが、天照の形状はアラハバキ2に準じており、スペックはガンナー2の【あら、葉巻?】仕様になっております。


いよいよ重力砲発射となりました。



果たしてテアやミーナは生き残れるのか。


明乃達は間に合うのか。



次回まで今しばらくお待ちください。

























とらふり! 1/144ちょうへいきふりいと



播磨
「ヒュー!天照やるじゃん!どっかの即殺られたバカ姉とは一味も二味も違うね!」



荒覇吐
「何ですって!妹の駿河の方がどっかの大鑑巨砲主義の砲撃バカ姉より1000倍活躍してたじゃない!」




播磨
「なにおぅ!」


荒覇吐
「何?やろうっての?」



近江
「いい加減になさい二人とも!ホント懲りないわねぇ…。」



駿河
「懲りないのが我が姉の最大の強みであり、弱さ」


播磨
「さっすが我が妹!わかってるぅ!」



尾張
「決して誉めているわけでは無いようですが……」



グロースシュトラール
「そんな事よりも君たちは疑問に思わないかい?」



ノーチラス
「何がですか?」



ナハトシュトラール
「天照の性能の事よ。あの子ってあんなに目立つ子だったかしら……」



パーフェクトプラッタ
「       」






アルウス
「そう言われてみれば、彼の艦は我々よりも存在感が無かったような……」




ヴィルベルヴィント
「確かに……」



荒覇吐
「我が妹ながら散々な言われようね……」



アルケオプテリクス
「だが艦隊旗艦の仰る事に間違いは無いぃぃ!」



播磨
「じゃあ一体何だって言うのさ!」





グロースシュトラール
「あっ!そう言えば総旗艦直衛艦隊旗艦ムスペルヘイムよりの伝言を預かっていたのだった」



一同
「え!?」



近江
「あの方からの伝言書とは一体どんな内容なんです!?」



グロースシュトラール
「ふむふむ……成る程そう言う事か!」



ナハトシュトラール
「勿体ぶらずに早く言いなさい!報連相は艦隊の基本よ!」



グロースシュトラール
「君はホント真面目だなぁ。で……だ。内容を要約すると、『天照は実際荒覇吐の中途半端な強化版位のスペックしかないから、変わりに超絶な能力差のある【あら、葉巻?】を変わりに本編に出しま~す』って事みたいだね」




播磨
「え?じゃあアレ実際には【あら、葉巻?】なの!?何で天照だなんて嘘付いたのさ!」



グロースシュトラール
「まぁ直衛艦隊旗艦であるムスペルヘイムが登場するシリアス場面に艦名【あら、葉巻?】なんて締まらないじゃない?なんか名前だけで艦隊旗艦の存在感を喰っちゃいそうだし」




荒覇吐
「じゃあ本当の天照は……」



グロースシュトラール
「うん。恐らく¨補欠ルーム¨で【あら、葉巻?】として待機させられてるんじゃないかな」



荒覇吐
「不憫な子……本編に出して貰えない上に【あら、葉巻?】にされてしまうなんて……」

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