トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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大変長らくお待たせ致しました。



ヴィルヘルムスハーフェン解放戦の中盤になります。



それではどうぞ。


灼熱の雷鳴   VS 超兵器

   + + +

 

 

「大丈夫…ミーちゃん生きてるよ!」

 

 

「あけ…の……」

 

 

 

明乃の腕の中でミーナは意識を失った。

 

 

彼女はミーナと、蒼白な表情でハルナに抱えられているテアを見つめた。

 

 

 

 

「ハルナさん二人は?」

 

 

 

「今の所死んではいないようだ。内蔵にも損傷はない。だが、体温が通常人体から発せられる者よりも低い。心拍数も同様だ」

 

 

 

「低体温症かな…他には異常は?」

 

 

 

「私は人体の平均値を起点に判断したまでであって、人体の専門家ではない。実際、何らかの異常があったとしても私には判断しかねる。ミナミなら出来るのだろうが……」

 

 

 

 

「早く運ばなくちゃ……!」

 

 

 

「艦長~!速いぞなぁ~!」

 

 

 

遅れてやって来た聡子が慌てた様子でやって来る。

 

 

 

 

 

 

「サトちゃん!急いで!」

 

 

 

「あっ、もしかしてミーナぞな!?どうしたぞな!」

 

 

 

「大丈夫、息はある。それよりもテアさんの容態が心配!急いで美波さんの所へ連れていって!」

 

 

 

「わ、解ったぞな!」

 

 

 

明乃は聡子と麗央に二人を任せ、ハルナと共に救助者を探しに行く。

 

 

 

 

 

「効率が悪いな…アケノ、スキッパーに端末を設置出来る場所はあるのか?」

 

 

 

「う、うんココに有るけど……」

 

 

 

「効率性を試算した。私も海の上を走って救助した方が速い筈だ。画面に表示された黄色のマーカーは私が、緑のマーカーはお前が救助しろ」

 

 

 

「解ったけど敵はどうするの?」

 

 

 

 

「心配するな。私の船体にアケノとサトコのスキッパーを最優先に護るよう設定した。後部にクラインフィールドの足場を構築するから、被災者をそこに乗せてサトコが戻ってきたら引き渡せ」

 

 

 

 

「ハルナさんは大丈夫なの?」

 

 

 

「私の事は気にするな。メンタルモデルとは言え¨あれしき¨の敵に遅れは取らん」

 

 

 

「…解った。あとはれかぜに救助者全員を収容するのは無理かもしれない。もし良ければキリシマさんに軽傷の被災者を収容するように伝えて貰えないかな?サトちゃんには私から話しておくから!」

 

 

 

「了解した…甲板上をうろつかれてはキリシマも集中出来ないだろうから、艦内に被災者を収容出来るスペースを設ける旨も伝えておく」

 

 

 

「ありがとうハルナさん!」

 

 

 

「気にするな。では…行くぞ!」

 

 

 

 

「は、ハルナさん!?」

 

 

 

ハルナは時速150km以上出ているスキッパーの後部から跳躍し、そのまま海面を猛スピードで駆けて行く。

 

 

 

呆気に取られていた彼女だが、端末を運転台の中央にセットし、直ぐに前を向いて走り出した。

 

 

 

画面には救助者の他に、障害物のマーカーや敵のマーカーが細かく表示されていた。

 

 

 

言葉数は決して多い訳ではないが、表示画面からはハルナの意思が伝わってくる。

 

 

 

(同じ様な場所に纏まっている人を私が、散らばって点在している人をハルナさんが…か。よし!)

 

 

 

 

明乃は表情を一層鋭くしてスキッパーのエンジンスロットルを全開にした。

 

 

 

   + + +

 

 

明乃と分かれたハルナは、海面上を疾走しながら漂流した者の下へ向かっていた。

 

 

 

チ…チ…

 

 

 

(そこか…)

 

 

 

漂流者を捕捉した彼女は一気に加速する。

 

 

 

だが…。

 

 

 

(!?)

 

 

 

構造物の残骸に捕まって漂流していた市民の向こう側から、一機の航空機が接近してくるのをハルナは見逃さなかった。

 

 

 

 

(狙いは漂流者か、それとも私か…いや、どちらでも良い。来るなら……)

 

 

 

バシュウ!

 

 

 

 

敵機からミサイルが発射された。

 

 

 

「ひっ!」

 

 

 

漂流者は悲鳴を上げ、死を覚悟する。

 

 

 

しかし…

 

 

 

「え!?」

 

 

 

ミサイルは漂流者の数十センチ手前でクラインフィールドに絡め取られて止まっていた。

 

 

ハルナは1秒にも満たない間に軌道を計算して弾き出し、即座に行動していたのだ。

 

 

 

「あうっ!?」

 

 

 

「暴れるな。直ぐに救命ボートに移送する。行くぞ!」

 

 

 

 

「うぐっ!?」

 

 

 

ハルナは漂流者を抱えたまま一気に加速し、捉えていたミサイルを反転させて放ってきた航空機に撃ち返し、爆音と共に航空機が粉々に四散する。

 

 

 

 

だが…

 

 

 

 

(チッ…次々とっ!)

 

 

 

 

 

10機以上の航空機がハルナに向かって接近し、一斉にミサイルやバルカン砲の雨を降らせてきた。

 

 

 

しかしこの状況に於いても彼女表情には一切の焦りは存在しない。

 

 

 

 

(私も舐められたものだ……)

 

 

 

 

チ…チ…チ…

 

 

 

 

ハルナは自身の真横にクラインフィールドを展開させ、それを蹴って自身の軌道を修正、殺到していた攻撃は海面に虚しく落下。

 

 

それと同時にハルナの船体から飛来したミサイルが、航空機達を粉々に砕いて行くのだった。

 

 

 

 

彼女は航空機達の事などまるで意に介さない様に疾走しながら、意識を戦闘海域へ移す。

 

 

 

 

(私が感知した生命反応は飽くまでも¨海上¨のものに過ぎん…沈没した艦船内の生存者の捜索は401の方が得意なのだが…。)

 

 

 

   + + +

 

 

 

「艦長、天照…攻撃を中止してムスペルヘイムの下へ戻って行きます!」

 

 

 

「させるな!杏平、1番に超音波振動魚雷装填、次、2番から5番!侵食魚雷装填、発射パターン任せる!」

 

 

 

「1番から5番!はいさー!」

 

 

 

 

 

401から次々と魚雷が発射され、天照はバルカン砲を乱射して魚雷を迎撃してきた。

 

 

 

 

「同じ手は何度も通じないか!」

 

 

 

 

「艦長!ムスペルヘイム内のエネルギー上昇率が高くなっています!」

 

 

 

 

「天照が旗艦に近付いているからだ。やはり牽引無しでは自身が巻き込まれかねないからだろう。」

 

 

 

 

「艦長やはりおかしいです……」

 

 

 

「どうした?静。」

 

 

 

「はい…この騒音の中、正確に迎撃できる筈は無いんですけど。」

 

 

 

 

「ドレッドノートか…イオナ、知名艦長に連絡を取ってくれ」

 

 

 

「うん…」

 

 

 

チ…チ…

 

 

『はい』

 

 

 

「知名艦長、そちらの状況はどうなりましたか?」

 

 

 

『それが…』

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

もえかは困惑の中にいた。

 

 

 

 

アームを接続して超兵器に張り付いていたタカオであったが、ドレッドノートはなんと¨航空甲板をパージ¨したのだ。

 

 

 

 

その後は音響魚雷で行方を眩ましたドレッドノートは沈黙を守っている。

 

 

 

 

 

『事情は理解しました。残念ながら敵はアームドウィング同様、装甲に探知されにくい材質を使用している様です。そこでですが、潜水艦である俺達がドレッドノートを追います。ですから知名艦長は浮上して天照の足止めをお願いします』

 

 

 

 

「合理的では有りますが、千早艦長は天照の相手をお願いできますか?」

 

 

 

『!!?』

 

 

 

「もえか!?」

 

 

 

タカオと群像は目を丸くする。

 

 

 

当然であろう。

 

 

 

適材適所の行動は基本なのだから。

 

 

 

しかし、重力砲発射への遅延行動こそが現状に於ける最善の策であるともえかは判断した。

 

 

 

 

「千早艦長は重力砲への遅延行動をお願いします!こちらは私達で食い止めます!」

 

 

 

 

『…解りました。気を付けて』

 

 

 

そうは言ったものの、実際苦手な相手である事は確かだ。

 

 

 

(どうしたものか……)

 

 

 

「どうするの?相手は潜水艦よ?水中戦闘は不利だわ!」

 

 

 

「うんそうだね…。相手はノーチラスと違って潜航時の戦闘に特化しているみたいだから」

 

 

 

 

「ノーチラスと違う?データでは同型艦になっているみたいだけど……」

 

 

 

 

「本当にそうかな?バミューダでの戦闘の記録からすると、ノーチラスは戦闘に特化した戦艦が潜航もできる艦艇ってイメージが沸くけど、ドレッドノートは潜水艦に戦艦並みの戦闘力を追加した艦艇に感じるんだ」

 

 

 

「一体その2つにどんな違いがあるの?同じな感じもするわよ?」

 

 

 

「ノーチラスは戦闘に特化している特性上、静穏性はまるでザルだった。逃げ隠れする必要が無いからだと思う。でもドレッドノートは…」

 

 

 

 

「うん…戦闘していると、まるで401と戦っているみたいな既視感に襲われるわ…何を考えているのか全く読ませない。」

 

 

 

 

「生粋の潜水艦なんだと思う。だから海中戦闘だけでなく海上にいる水上艦相手の戦闘にも馴れているんじゃないかな……」

 

 

 

「………。」

 

 

 

「でも…¨海中にいる水上艦¨相手の戦闘は不馴れな筈、このまま潜航して戦おう。」

 

 

 

「不利な状況には代わり無いわよ?」

 

 

 

「だからだよ。相手が私達に対して優位性を感じているなら、必ず狩りに来る。ムスペルヘイムの護衛に回られるのよりはマシだよ!」

 

 

 

「成る程…そう言う目的だったのね?解ったわ、指示を頂戴!」

 

 

 

「うん!」

 

 

 

二人はドレッドノートを引き付けるべく進んでいった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

海の上を、黒い雷雲が有り得ない速さで移動していた。

 

 

 

海上は波がうねり、暴風雨と大粒の雹が降り注ぐ正に嵐の様相を呈している。

 

 

 

 

その雷雲の中央には、爆撃音にも似た強烈な雷鳴すらも掻き消してしまう程の人工の轟音が鳴り響いている。

 

 

 

 

《……………》

 

 

 

雷雲に巣食う化け物は眼前を見詰めていた。

 

 

 

 

遥か海の向こうから輝く戦闘の光と、衝撃波の残響を感じながら…。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「ん……」

 

 

 

「どうした?イオナ」

 

 

 

「敵艦内部のエネルギーが再び上昇した」

 

 

 

「不味いな……」

 

 

 

群像の表情は険しい。

 

 

 

正直手詰まりな状況である事は確かだった。

 

 

 

たとえ401がフルバーストを使用したとしても、170kt以上の狂速を有する天照に追い縋る事は難しく、彼の艦がムスペルヘイムに到着した時点で次弾の重力砲が発射されてしまうのは必至であり、明乃達の救助が未だ半ばだと言う時に発射されれば、重大な被害を被り兼ねない。

 

 

 

群像は頭をフル回転させ、出した結論は…

 

 

 

「よし!いおり、¨フルバースト¨スタンバイ!」

 

 

 

『えぇっ!?さっき超重力砲使ったばっかなのに、まだ無理させるわけ!?』

 

 

 

「それにフルバーストを使ってもアイツには追い付けねんじゃねぇか?」

 

 

 

クルーが一様に疑問の目を群像へと向けるが、群像の目に迷いは無かった。

 

 

 

「このままでは埒が明かないなからな。天照を止めると言う発想自体が不可能であればムスペルヘイム本体に仕掛けるしか無いだろう?」

 

 

 

「ムスペルヘイムにって…まさか!」

 

 

 

「あぁ!そのまさかだ。これより我々は、ムスペルヘイムに対して奇襲をかける!」

 

 

 

 

全員の驚愕の眼差しが群像を見つめている。

 

 

 

勿論疑問を呈したのは杏平であった。

 

 

 

 

「まてよ!ムスペルヘイムに奇襲なんて出来んのか?」

 

 

 

「俺達は一度深く潜航し、天照を追撃する¨フリ¨をしてムスペルヘイムに突撃、杏平は天照の¨前方¨に超音波振動魚雷を撃って進路を妨害する」

 

 

 

 

「成る程…魚雷が発する泡を回避する為の潜航と突撃の同時敢行。重力砲の発射遅延に際しては正に一石二鳥ですね」

 

 

 

「しかしムスペルヘイムの強度は横須賀で戦った時よりも増していると思われます。一体どうやって攻めるんですか?」

 

 

 

「ふむ……」

 

 

 

彼は一呼吸を置いてから言葉を繋ぐ。

 

 

 

「防壁は超兵器全体の外縁にドーム状で発生する。つまり、空母部と本体との間は防御重力場の死角になるんだ。皆…ブラウン博士からの情報によると、ムスペルヘイム級超兵器には他の超兵器と決定的な違いがある…解るか?」

 

 

 

「超兵器機関の数…でしょうか?」

 

 

 

「静の言う通りだ。双胴であろうが単装であろが、搭載されている機関は一基のみとなる…しかし」

 

 

 

「そうか…ムスペルヘイム級は戦艦部の両脇にペーターシュトラッサー級超兵器空母2隻が接続されてる。つまりは実質大型超兵器3隻分の出力を持ってるって言いてぇんだろ?」

 

 

 

「あぁそうだ。そして小笠原での戦いで浮遊型超兵器が見せた超兵器機関の¨出力の譲渡¨とも言える行動がアレでは行われていると思われる。だが……」

 

 

 

「機関出力の譲渡には¨超兵器同士の物理的接続が必須¨…ですね?」

 

 

 

「あぁ。故に俺達は、フルバーストでムスペルヘイムの直下を通過し、出力を本体に送っていると思われるアタッチメント、計4ヶ所を侵食弾頭で同時攻撃。重力砲へのエネルギー供給を妨害する」

 

 

 

 

「「了解!」」

 

 

 

 

返答返した際には既に準備は始まっていた。

 

 

静が音波を、僧が潮流と敵の位置を分析、杏平が誘導パターンを導き、伊織が機関のリミッターを外す。

 

 

彼等は群像との会話の中から次なる行動を予測し、スタンバイに入っていたのだった。

 

 

 

 

そして全員の視線がイオナへと集まる。

 

 

 

 

「フルバーストモード、起動……」

 

 

 

チ…チ…

 

 

401後部の推進装置が展開し、重力子エンジンが唸りを上げた。

 

 

 

 

「フルバースト、エネルギー充電完了まで残り107秒……」

 

 

 

 

 

 

カウントダウンが始まるなか、群像は一同に自信に満ちた笑みを向けた。

 

 

 

 

「それじゃみんな…かかるぞっ!」

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「くっ…なんて数なんだっ!」

 

 

 

江田は額から汗が滲むのを感じていた。

 

 

 

 

ムスペルヘイムから発艦した航空機群は、陸に近い海上の救助をしていた真冬達だけでなく、スキズブラズニルにまで殺到しつつあった。

 

 

 

 

ウィルキアの上陸部隊は、トラックや重機を現場に搬入して瓦礫の下に埋もれた人の救出や怪我人の手当てを行っている。

 

 

 

そこへの攻撃は何としてでも阻止しなければならない。

 

 

 

 

ピィン!ピィン!

 

 

 

 

江田はセイランからレーザーを放ち、目の前の二機を瞬時に堕として旋回する。

 

 

 

眼下に見えるスキズブラズニルの回りにはヒュウガの船体が弾幕を張っていた。

 

 

しかし、大型艦を最大で10隻以上と多数の航空機と弾薬一式を格納可能で、尚且つ造船を始めとした各種製造施設、極めつけには多くの人員が寝泊まりできる居住区や軍の司令施設まで完備した巨大なスキズブラズニル全体をカバーするのは難しく、かと言って江田の一機で穴を埋めることも難しい状況であり、残るメアリースチュアートの航空部隊は真冬の護衛回っているとなると、最早手詰まりとしか言いようがない。

 

 

 

 

しかし…。

 

 

 

 

「ヒュウガさん…そろそろ限界です!お願いします!」

 

 

 

 

『了~解!』

 

 

 

 

スキズブラズニルにある屋外停泊場に白衣を靡かせたヒュウガが立っていた。

 

 

 

 

「フフっ…それじゃあ行くわよ!」

 

 

 

 

チ…チ…ヂ…

 

 

 

ガゴンッ!

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

江田はその様子に目を丸くしていた。

 

 

 

 

超巨大ドック艦スキズブラズニルの至る所からパルスレーザーの台座が顔を出し、更には数百以上にわたる垂直発射型のミサイル発射官のハッチがバタバタと音を立てて開いた。

 

 

 

次の瞬間…。

 

 

 

ピピピピピッ!

バシュオオオッ!

 

 

 

 

とてつもない数のレーザーと煙で巨大な船体を覆い隠してしまう程のミサイルが一斉に発射され、航空機達に向かって殺到した。

 

 

 

 

敵機は、急に放たれた攻撃に対処出来ず次々と爆散し、今の攻撃で堕ちた数百もの航空機の残骸が豪雨の様に海へと降り注いだ。

 

 

 

 

「す、凄い……」

 

 

 

『フフっ…珊瑚ちゃんと相談してスキズブラズニルを改造させて貰ったのよ。いい感じでしょう?』

 

 

 

―や、やり過ぎでは?

 

 

心の中での呟きつつ、彼はなかば呆れたように口を開いた。

 

 

 

「これ程の改造を良くガルトナー司令が許可なさいましたね…。」

 

 

 

『まぁ…期間限定って条件だけどね…場所も取るし。でも、ちょっとやり過ぎちゃったかしら。改造してたらなんか盛り上がっちゃって、当初の3倍位の武装を取り付けたから♪』

 

 

 

「さ、3倍……」

 

 

 

『でも、これで制空権は取った様な物だし、結果オーライよね☆』

 

 

 

(はぁ…司令の心労をお察しします……)

 

 

 

江田は深いため息を付き、ガルトナーに同情の念を抱きながら機体を旋回させ、残った敵の掃討に向かって行った。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「群像…フルバースト、エネルギー充填完了…行ける」

 

 

「よし!静、シュルツ艦長に連絡は済んでいるか?」

 

 

 

「はい!気取られないよう善処すると返答が帰ってきています!」

 

 

 

群像は大きく頷き、手を前へとかざした。

 

 

 

「準備は整ったな…行くぞ!フルバースト!!」

 

 

 

キィイイン!

 

 

 

けたたましい轟音と共に401が猛烈に加速し、一気に最大速度である100ktに達する。

 

 

 

同時に杏平が超音波振動魚雷を深めの深度で発射。

 

 

発射音を感知した天照のバルカン砲が火を噴くも、周到に計算された深度を進む魚雷には直撃せず、天照を通過し彼の艦の前方へと達した魚雷は急浮上して炸裂、辺りの海域を気泡が覆って行き、沈没を恐れた天照は、それを急旋回で回避する。

 

 

 

 

「敵艦急旋回を開始!速度が低下しました!」

 

 

 

「かかった!杏平、1番と2番に通常魚雷!3番に侵食魚雷を装填!こちらの狙いが天照であると誤認させろ!その次、もう一度天照の進行方向に超音波振動魚雷!」

 

 

 

「はいさー!」

 

 

 

401から放たれる魚雷に、天照はまるで苛立っているかの様にあらゆる兵装を乱射し、彼等にプレッシャーを与えてくる。

 

 

 

しかし、それこそ群像達の思うツボなのであった。

 

 

 

ギリギリまで天照の近くに接近した401は、音響魚雷を発射して自身の姿を薄くする。

 

 

 

勿論、フルバーストモードの401が発する騒音は相当なものでは有るのだが、天照からの対潜攻撃の爆音や、超音波振動魚雷の気泡が、彼等の存在感を消してしまっていたのだ。

 

 

 

 

401は気泡の海の下を通過し、本命であるムスペルヘイムへと直進した。

 

 

 

海上ではシュペーアが幾度となくラムアタックで超兵器の注意を引き付けている。

 

 

 

この状況は正に絶好の機会であった。

 

 

 

天照自身も、そして海中から様子を伺っているであろうドレッドノートも、401の狙いは飽くまでも天照だとそう感じているに違いない。

 

 

 

だからこそこの奇襲は成功するのだ。

 

 

 

そう…。

 

 

 

奇襲される【ムスペルヘイム自身がそれに気付いて居なければ】…だが。

 

 

 

ヴォン…!

 

 

 

 

「!」

 

 

 

「どうした?イオナ。」

 

 

 

「…来る!」

 

 

 

「艦長、敵艦の艦首部分に高エネルギー反応!重力砲と思われます!」

 

 

 

「何っ!?速すぎる!」

 

 

 

ブリッジは困惑につつまれつつあった。

 

 

 

 

 

 

「おいおい…何でだよ!これじゃ奇襲どころか逃げないと巻き込まれるぜ!?」

 

 

 

「気付いていたんだ…。」

 

 

 

「何だって!?」

 

 

 

 

「奴は自身を過大評価していなかったと言う事だ。総旗艦直衛艦という立場、そして戦況を左右する重力砲の重要性。それを考えれば、俺達の狙いが天照でなく自分自身だと推測することも可能だろう」

 

 

「油断は無いと言う事ですね。不味いです…杏平の言う通り、このままでは重力の奔流に巻き込まれ兼ねません!」

 

 

 

「……」

 

 

群像は額から汗が頬を伝うのを感じていた。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「艦長!重力砲が…!」

 

 

 

「くっ…速すぎる!」

 

 

 

ナギの悲鳴にシュルツの顔から血の気が引いて行く。

 

 

 

彼等が以前に戦った際のムスペルヘイムは、重力砲の再充填迄にかなりの時間を要していたからだ。

 

 

だが現在の彼の艦は、当時の1/3程度の時間で再発射を迎えようとしている。

 

 

 

このままでは、彼等も重力砲に巻き込まれる事は確実であった。

 

 

この事態には、流石の博士も冷静ではいられない。

 

 

 

 

「成る程、その手がまだ残っていましたか…。」

 

 

「どういう事です?」

 

 

 

「飽くまでも私見ですが、ムスペルヘイムは恐らく¨最大出力での発射を諦めた¨のでしょう」

 

 

 

「そ、そうか!出力を半分にすれば発射までの時間を稼げる。そして第一射でヴィルヘルムスハーフェンを壊滅出来なかった超兵器はプランBに作戦を変更、負傷者の救助に手を割かれれば戦力を分散を招き、ムスペルヘイム周辺には数隻の艦艇しかいなくなる」

 

 

 

 

「それだけでは有りません。現在の我々は、ムスペルヘイム周辺に集まりつつあります!この状況ならば、低出力で発射しても我々は重力に巻き込まれ、最悪は救助に当たっているブルーマーメイドの隊員や、護衛の航空機すら喰う事も可能です!」

 

 

 

 

「馬鹿な…無謀過ぎる!第一、牽引役である天照の到着を待たずに発射すれば自身も巻き込まれます!蒼き鋼の艦艇の多数が救助に回っているのであれば、ムスペルヘイムが消滅した超兵器など烏合の衆となってしまうと言うのに……」

 

 

 

シュルツが敵側の意図を理解できず困惑を露にした直後であった。

 

 

 

ナギが慌てて彼に駆け寄って来る。

 

 

 

その顔は蒼白になっており、新たな厄介事が転がり込んできたとシュルツに思わせるには十分過ぎた。

 

 

 

 

「ナギ少尉…何か?」

 

 

 

 

「かかっ、艦長!レーダーを…レーダーをご覧ください!」

 

 

 

「………!!?」

 

 

 

レーダーを覗いた彼はいよいよ参ってしまう。

 

 

 

 

北西の方向から接近するノイズは、新たな超兵器の襲来を告げるものであった。

 

 

 

そして何よりもその接近速度の速さにより、ソレが少なくとも¨航空機型超兵器¨は明白であり、はれかぜやスキズブラズニルが取った制空権すらも振り出しに戻ってしまう精神的なダメージが重なり、彼等を内側から疲弊させる。

 

 

 

「一体どんな超兵器なのでしょうか…?」

 

 

 

「考えなくても解る。あれは……」

 

 

 

 

視線の方向には黒い雷雲が見えていた。

 

 

 

いつの間にか周囲の海は荒れ、シュペーアは大きく揺れ始めている。

 

 

 

 

シュルツが記憶する限り、これらの気象現象を引き起こす航空機型超兵器は一つしか思い浮かばなかった。

 

 

 

そしてそれと同時に、頭に明乃の姿が浮かんだのだった。

 

 

 

 

(岬艦長…不味いな)

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「あっ…うわっ!」

 

 

 

明乃は急変した悪天候に翻弄されていた。

 

 

 

いかにスキッパーの操縦技術が優れていようとも、10mにまで達しようとする高波には太刀打が出来ない。

 

 

 

それでも懸命にスキッパーを波との狭間に滑り込ませ、転覆を防いでいた。

 

 

救助中の天候急変に対応する為の操縦訓練を習熟してからである。

 

 

 

 

(これじゃサトちゃん達も思うようには動けない…何とかしないと!)

 

 

 

 

ドサッ!

 

 

 

「は、ハルナさん!?」

 

 

 

ハルナが負傷者数名を抱えて戻ってくる。

 

 

 

先程迄なら直ぐに次の目標へと飛び出していった彼女が、そのまま明乃の後ろへと戻ってきた事が、¨何かあった¨事を鮮明に物語っていた。

 

 

 

 

「ハルナさんもしかして……」

 

 

 

「あぁ…重力砲が発射体勢に入ったようだ」

 

 

 

「!!!」

 

 

 

 

明乃の中で急激な焦りが渦巻く。

 

 

 

先程から端末に表示されているマーカーが幾つか消えていた。

 

 

それは、救助するべき生存者が2度と戻ってこれない領域へと逝ってしまったことを意味している。

 

 

そもそも、荒れるような天候でもなかった状況が一変した事自体も納得がいかない。

 

 

 

 

まるで¨あの時¨の様であった。

 

 

 

 

逝くべき人ではなかった人々の死。

 

 

 

自らが両親の手を離れ、海に飛び込んだ時の冷たく孤独に満ちた絶望。

 

 

 

 

そして両親の最期……

 

 

 

 

 

(!!!)

 

 

 

 

それを頭に浮かべた時、同時に彼女頭には少し先の未来が見える。

 

 

 

 

(…………)

 

 

 

明乃は雷雲が迫り来る彼方の空を見つめた。

 

 

 

 

黒い雲と紫色に光る稲光、それを掻き分けるかの様に、異形のソレは雷雲の中から姿を現した。

 

 

 

 

全体的に藤色を基調とした機体配色と、細長い胴体から延びる2対のエンジンに繋がるアームがトンボやドローンを思わせる形状。

 

 

 

そして本体から延びるアームの先端に取り付けられた巨大な円筒状のジェットエンジンと、胴体下部にブラ下がる様に設置され、機体全体の1/3はあろうかと言う巨大なレーザー発射装置。

 

 

 

 

間違える筈も無かった。

 

 

 

 

超兵器の意思から見せられた両親に死を与えた元凶…。

 

 

 

かつて日本に於いては、不気味な鳴き声と共に雷を呼ぶ雷獣とも、不吉を呼ぶ妖怪とも言われた鵺の名が付けられた超兵器。

 

 

 

 

「フォーゲル…シュメーラ!」

 

 

 

 

 

明乃はその災禍を呼ぶ凶獣の名を口にした。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

【超巨大攻撃機フォーゲルシュメーラ】

 

 

 

 

シュルツ達の世界に於いて、ハワイ奪還作戦時に相対した超兵器である。

 

 

 

当時、米国は解放軍が撃沈した超兵器であるヴィルベルヴィントをサルベージして復元てワールウィンドと改名し、自国の戦力として接収。

 

 

ハワイの奪還を始め、超兵器の運用による帝国支配地域の奪還を主導的に行い、戦後賠償やその後の世界に対する発言力増大を目指して動き始めていた。

 

 

 

アメリカ西海岸に展開する帝国艦隊をワールウィンド率いる艦隊で撃滅した足掛かりを気付いた米国は、帝国が謎の超大型超兵器を建造している情報を入手し、自国の領土奪還と建造中である超兵器の奪取に向けて出発を開始した。

 

 

 

ところが……

 

 

 

米国艦隊はハワイに辿り着く事は無かった。

 

 

 

 

米艦隊との連絡途絶による調査の為に訪れたシュルツ達は、そこで奇跡的に漂流していた生存者十数名から聞き取りを行う。

 

 

 

それによれば、米艦隊は突如雷雲と共に出現した飛行型超兵器の巨大レーザー砲によって、ものの¨数分¨で超兵器ワールウィンドを含む全艦艇が轟沈したと伝えられたのだ。

 

 

 

 

その内容に解放軍関係者は驚愕したものの、当時の司令部は米艦隊がハワイの超兵器の奪取が目的であったことから、襲撃した超兵器がハワイの防衛を主として差し向けられたのではと推測。

 

 

 

同時に、世界規模でハワイに向けて物資が搬入されていた事から、建造されていた超兵器が帝国の切り札である可能性を危惧した司令部は早急に調査を開始。

 

 

敵の無線の傍受によってハワイから超兵器を日本の呉にて完成させるために輸送するとの情報を得たシュルツ達はハワイ攻略を命じられた。

 

 

 

しかし……

 

 

 

 

情報は帝国が意図的流したものであり、超兵器の輸送は既に完了。

 

 

 

そして解放軍の襲来を予見していた帝国によって、超兵器フォーゲルシュメーラがハワイへと差し向けられたのである。

 

 

 

 

ジュラーヴリクやヴリルオーディン同様、三次元的で不規則な飛行と、超大型レーザー砲、通称【ホバー砲】に苦戦を強いられつつも、博士の懸命の分析によって辛くも勝利に漕ぎ着けたのだった。

 

 

 

 

それが今、戦線に加わったのである。

 

 

 

 

異世界艦隊の同様は計り知れないだろう。

 

 

 

 

なにせ、

 

 

 

・新たな超兵器の増加。

 

 

・自戦力の分散

 

 

・嵐による救助の難航

 

 

・重力砲の発射

 

 

 

これらを同時に対処しなければならないからである。

 

 

 

 

 

だが明乃に於いては、それに加えてもう一つ困難が待ち構えていた。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「うっ…くっ…あっ!」

 

 

 

明乃は猛烈な吐き気に苛まれていた。

 

 

 

理由は先程から頭の中で響く…。

 

 

 

 

《憎クカロウ?》

 

 

 

超兵器の意思からの声だ。

 

 

 

だが今回はソレだけではなかった。

 

 

 

 

《オイデ…オイデ…私ト遊ボウ…》

 

 

 

 

まるで、もの悲しげにヒィーヒィーと鳴く鳥の様な脳に響く不気味な声色、にも関わらず言葉からは惨禍に見舞われるこの状況を楽しんでいるかの様な不快さを感じる。

 

 

 

彼女には解るのだった。

 

 

これはフォーゲルシュメーラの意思なのだと。

 

 

 

そして同時に思うのだ。

 

 

 

十数年前のあの日、あのフェリーに乗っていた人達や両親は、そんな¨遊びの様な感覚¨で命を奪われたのか…と。

 

 

 

 

(………!)

 

 

 

明乃のオーシャンブルーの瞳が赤く濁って行き、抑えきれない程の強烈な怒りと憎しみに彼女はどうにかなってしまいそうだった。

 

 

 

 

《憎カロウ…お前の心をみたぞ…》

 

 

 

 

(黙れ…!)

 

 

 

 

《私ト遊ボウ…【アノ時】ノヨウニ》

 

 

 

 

「黙れぇええ!!」

 

 

 

 

「アケノ!?」

 

 

 

怨瑳の叫びを上げた彼女の異変をハルナは感知した。

 

 

 

 

 

(脈拍、血圧の上昇を検知…これは!)

 

 

 

チ…チ…

 

 

 

ハルナは急いで彼女の異変をはれかぜに伝えた。

 

 

 

 

その様なやり取りすら解らなくなってしまう程、明乃は我を失っていた。

 

 

 

 

 

《アァ…素晴ラシイ。コレ程迄ノ憎シミ、正ニオ前ハ超兵器ダ、岬明乃》

 

 

 

 

 

(私は人間だ!お前達と同じにするな!)

 

 

 

 

《果シテソウカ?》

 

 

 

(何が言いたい!)

 

 

 

 

《オ前ハイツノ間ニカ麻痺シテイルノダ。感ジタ事ガアルダロウ。助ケル者ヤ、ソノ死。ソレガマルデ【物】ヲ扱ウヨウニ感ジタ事ガ……》

 

 

 

 

 

(!!!?)

 

 

 

 

これは流石に効いた。

 

 

 

 

確かに、救助者やその死に関して、一つ一つ感傷に浸るわけにはいかない。

 

 

現場に於いては心を殺す事だってあった。

 

 

 

だが、自身は常に助けるべき人に寄り添って来た…。

 

 

 

《【ツモリ】ニナッテイルダケダロウ》

 

 

 

 

常に助けるべき者の顔を見て来た……

 

 

 

《ソノ顔ヲ見テ、助ケタ自分ニ酔ッテイタダケダロウ?》

 

 

 

 

(ち、違う!)

 

 

 

 

《オ前ノ抱イタ感情ハ、全テ欺瞞ニ過ギナイ。人ヲ殺ス兵器デスラモ、見方ニヨッテハ人民ヲ護ル神器ノ様ニ崇メラレル事モアロウ。オ前モ同ジダ……》

 

 

 

(や、やめて…!)

 

 

 

 

《人ヲ本心デ助ケテイル訳デハナイ。オ前ハ、人ヲ助ケル事デ己ノ価値ヲ引キ上ゲヨウト躍起ニナッテイタノダ》

 

 

 

 

(あ…あぁあAあアァa!)

 

 

 

憎しみや怒りを遥かに超える不安や恐れが彼女の心を喰って行く。

 

 

 

勿論そんなつもりは微塵も無かった筈なのだ。

 

 

 

しかし、¨もしかしたら自分は…。¨と言う僅かな心の揺らぎに付け入られてしまった。

 

 

 

《ソノ恐怖ヲ取リ去リタイカ?》

 

 

 

 

(……っ!)

 

 

 

 

《教エテヤロウ…。恐怖ヲ克服スルニハ、¨自ラガソノ恐怖ヨリ強大ナ恐怖ニナル¨シカナイ。知ッテイル筈ダ。先程モ私ニソノ感情ヲ向ケタダロウ?》

 

 

 

(うっ…グゥ…ガァッ!)

 

 

 

《ソウダ…。ソノ憎シミヤ怒リコソガ恐怖ヲ凌駕スル。サァ…身ヲ委ネヨ》

 

 

 

「あっ、アァ…」

 

 

 

 

本能のままに、怒りの赴くままに破壊する事を想像した時、明乃の全身に鈍い電流が流れた様な快感が走る。

 

 

 

もうこのまま、全てを委ねてしまっても良いと思えてしまう程に……

 

 

 

 

だが

 

 

 

 

「艦長ぉおお!」

 

 

 

 

(誰?どこかで聞いたことがある様な…)

 

 

 

 

虚ろな目で彼女は声の方角を見た。

 

 

 

 

ザッパァアン!

 

 

 

一隻の小さな艦が明乃の目の前に現れて停船し、艦橋の見張り台から一人の女性が身を乗り出してきた。

 

 

 

 

「艦長…み、岬さん!解りますか!?私です!宗谷…いえ、シロです!」

 

 

 

 

「シ…ロ…はっ!シロちゃん…!」

 

 

 

 

彼女の瞳から赤みが引いて行く。

 

 

 

 

(私いま、シロちゃんや皆の事も忘れて…)

 

 

 

 

冷静になると同時に、強烈な罪悪感と不安が彼女を再び襲う。

 

 

 

本来ならば、その隙を超兵器の意思に突かれる所でもあろう。

 

 

 

だが

 

 

 

「シロちゃん…私っ!」

 

 

 

 

「大丈夫です!岬さんは私達を忘れたりはしない。失わせたりもしない!だって…!」

 

 

 

 

「…!」

 

 

 

「私達は貴女の【家族】であり、【ここは貴女の帰る場所】だから!」

 

 

 

 

「!!!」

 

 

 

急に視界が開けた気がした。

 

 

 

体から力が湧き出し、感覚が研ぎ澄まされ、雨の一粒すらも鮮明に見える気さえしてくる。

 

 

 

彼女の心はまだ生きていたのだ。

 

 

 

明乃はオーシャンブルーの瞳を真白へと向けた。

 

 

 

 

「ありがとうシロちゃん。ううん…ありがとう、皆!」

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

二人は互いに笑顔を向け、そして救助を再開しようと動き出そうとした時…。

 

 

 

ヴォン…!

 

 

 

 

「なに!?」

 

 

 

最凶の兵器が再び放たれたのだった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

 +

 

 

「シュルツ艦長!重力砲の発射を確認!」

 

 

 

「401は!?」

 

 

 

「間に合いませんでした…」

 

 

 

「くっ…!等海域を一次離脱する!総員、準備急げ!」

 

 

 

 +

 

 

「群像…」

 

 

「ああ…。弾頭の発射を中断。このまま速度を維持して一次撤退する。」

 

 

 

 +

 

 

「真冬艦長!航空機を一次撤退させます!あなたも避難を!」

 

 

『ふざけんなっ!すぐそこで救助を待ってる奴がいるのに目の前で置き去りにしろってのか!?』

 

 

 

「既に救助した方も巻き添えにするつもりですかっ!?早く逃げるんです!」

 

 

 

『畜生っ!』

 

 

 

 

 +

 

 

「マジかよ!?おい一宮!聞いたか!?」

 

 

 

『あぁ…重力の範囲外まで撤退する』

 

 

 

「良いのか?俺達が離れりゃ下の奴らが…」

 

 

 

『モーリス、俺が何も思っていないとでも思っているのか?だが、命令は絶体だ。世界に未来が訪れる為にはな…』

 

 

 

「クソッたれがっ!」

 

 

 

 +

 

 

 

「ヒュウガさん!」

 

 

 

『待って…今、キリシマに準備させるわ』

 

 

 

『急に言われても超重力砲がそんな簡単にポンッと撃てるわけ無いだろ!?』

 

 

 

 

『演算を補助するからとっとと準備しなさいよ!でないと姉さまがっ!』

 

 

 

 

 

 +

 

 

 

「もえかっ!」

 

 

 

「解ってる…でも」

 

 

 

ドドォン!

 

 

 

「くっ…逃がさないつもり?魚雷が止まない!何とかしないと私達も引き摺られる!」

 

 

 

「ああっもう!早く艦長の所に助けに行きたいのにぃ!」

 

 

 

 +

 

 

 

方々で焦りや苛立ちの声が上がった。

 

 

その間、発射された重力砲は海へと着弾し、凄まじい力で周囲を巻き込み始める。

 

 

 

 

海上を漂流していた被災者の顔に絶望と諦めの色が浮かんでいた。

 

いや、もしかしたらこの場にいる者の大半がそうであったのかもしれない。

 

 

 

はれかぜの乗組員や明乃を除いて…。

 

 

 

 

「シロちゃん!」

 

 

 

「はいっ艦長!」

 

 

 

「救助を続けよう!スキッパーの後ろにいる人達をはれかぜに収容して!」

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

「なっ…」

 

 

 

ハルナは思わず言葉を失う。

 

 

状況はどう考えても不利であるからだ。

 

 

 

「何故だ…重力砲が発射されたんだぞ?お前達だって危険だ!…なのに」

 

 

 

 

 

「私は諦めないよ。」

 

 

 

 

「何?」

 

 

 

 

「皆がこの瞬間、命を賭けてる。ウィルキアも蒼き鋼も、そして私達や助けを待っている人も、だから私は…。」

 

 

 

明乃はムスペルヘイムの方角を見据えた。

 

 

 

彼の艦はフォーゲルシュメーラから伸ばされたワイヤーに牽引され、重力の範囲外に逃れようとしていた。

 

 

天照の到着を待たずして発射に踏み切った理由はそれだったのだ。

 

 

 

しかし今は彼女にとってそれは些末な事であった。

 

 

自分はすべき事をする。

ただそれだけに集中すれば良い。

 

 

明乃はハッキリとした口調で声を上げた。

 

 

 

「私は人間であることも、欺瞞だと言われても助ける事も決して諦めない!」

 

 

 

 

彼女が心の底から宣言した直後であった。

 

 

 

《私がアレを抑えます》

 

 

 

「誰?」

 

 

 

とても美しい透明度の高い落ち着いた気高い雰囲気を思わせる女性の声。

 

 

だが、その声にはとてつもない絶望と悲しみ、そして諦めが含まれており、まるで明乃にすがるようなものさえ感じる。

 

 

 

しかし不思議と、明乃の心は恐怖を感じなかった。

 

 

その声が響いた瞬間、事態は急変を向かえる。

 

 

 

 

「なっ…重力が収まって行く?」

 

 

 

 

思わず声を上げたシュルツだけではなく、一同が驚愕を露にした。

 

 

 

「群像…今なら。」

 

 

「ああ…行けるぞ!杏平!」

 

 

「解ぁってるって!いつでも撃てるぜ!」

 

 

 

 

「航空隊引き返せ!弁天を援護するんだ!」

 

 

 

 

『有りがてぇ!是が非でも助けてやる!』

 

 

 

「タカオ!」

 

 

 

「了解!敵の位置はバッチリ把握したわ!」

 

 

 

事態の沈静化に呼応するように、異世界艦隊が息を吹き返す。

 

 

 

《貴様…マサカ私ヲ¨逆ニ侵食¨シテ来タト言ウノカ…》

 

 

 

《理解出来ナイ…カツテ主ニ最モ深イ寵愛ヲ受ケタ貴女ガ…》

 

 

 

あらゆる意思が明乃の頭に飛び交う中、その声だけは明乃に向かって放たれる。

 

 

 

《また…■■■■■に抑え込まれる…。その前に、完全に私の意識が■える前に辿り着いて北■■へ…そして》

 

 

 

 

(………)

 

 

 

《お願い…。私ヲ■めて、全てを■らせて…》

 

 

 

 

 

声はそれきり途絶えてしまう。

 

 

 

しかし…。

 

 

 

 

「特異点…完全に消失!」

 

 

「401に作戦の継続を伝えろ!」

 

 

 

『既に行っております。任せて下さい!』

 

 

 

「千早艦長!」

 

 

 

事態は¨重力球の不発¨と言う奇跡的な状況によって、動き出していた。

 

 

 

フルバーストを掛けていた401がムスペルヘイムに追い付き、直下で侵食弾頭を発射、空母を本体と繋いでいるアームを完全に破壊した。

 

 

 

 

これにより、ムスペルヘイムの重力砲発射までの充填時間が大幅に遅れる事になる。

 

 

 

これは、救助を急ぐ明乃達ブルーマーメイドには正に朗報であった。

 

 

 

 

「シロちゃん急ごう!次の発射までに全員を救助する!」

 

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

彼女達は再び動き出す。

 

 

 

 

先程の声の主が誰なのかは解らない。

 

 

 

だが、明乃は思うのだった。

 

 

自分は必ずあの声の主と会わねばならいのだと。

 

 

 

ヴィルヘルムスハーフェンを舞台にした戦いは後半へと突入して行く。




お付き合い頂きありがとうございます。


重力砲発射で場が荒れている中でのミケちゃんの仇、フォーゲルシュメーラの登場や、黒ミケの再来など色々詰め込んだ回にになりましたが、鋼鉄ファンの間で超兵器と言われた超巨大ドック艦…いや、超巨大水上要塞と言われたスキズブラズニルを活躍させることが出来ました。




果してミケちゃん達の今後は如何に…。



次回まで今しばらくお待ちください。




業務連絡ですが、今まで虫食い状に投稿していた【とらふり!】を今回と1.5章を除く本編後書きの全てに書きましたので、宜しければご覧ください。


今回のとらふりについては次話の投稿時に掲載させて頂きます。




それではまたいつか。



























とらふり!  1/144ちょうへいきふりいと



シュトウルムヴィント
「流石はフォーゲルシュメーラ。敵は混乱の真っ只中ですよ!」



アルケオプテリクス
「まぁ奴は航空機型でも異質だからなぁああ!そう簡単には落とせんぞぉぉ!」



シュトウルムヴィント
「あなたも随分変わっていると思いますが……」


アルケオプテリクス
「なんだとぉおおお!」



シュトウルムヴィント
「ギィヤアア!」



播磨
「まっ…それは置いといて、なんか敵の中にヤバイ奴がいたね……」



荒覇吐
「スキズブラズニルって奴ね?只のドック艦だけど、前の世界でも私達がいる海域にいながら悉く無傷だしね……」



近江
「初期の頃と比べると随分巨大になったわね。2倍……いや、3倍位の大きさじゃないかしら」



ナハトシュトラール
「各国からの支援と、その要望に答えるために継ぎ足して多様な施設を増設したからかしら。更に、対空や対艦装備を実装したことで超巨大水上要塞艦と化したみたいね……」




グロースシュトラール
「第二次大戦中の工作艦や補給艦の撃破は、ある意味戦艦撃破よりも重要だったって話よ?私も何度も解放軍の拠点であるアレを沈めようとしたのだけれど、何故か無傷なんだよねぇ……」




播磨
「もうある意味超兵器だよねアレ……」



荒覇吐
「そうね……私も途中から沈める気力すら無くなったわ。だってアイツ異常に堅いし……」


近江
「沈めた私達の一部から、防壁や装甲の一部を継ぎ足したのかもね」



播磨
「やっぱり超兵器じゃん!」



グロースシュトラール
「そう言う認識で良いのかもね……まぁそれでも直衛旗艦がいらっしゃるわ。私達はドンと構えて事態を見守ろうよ」



一同
「は~い!」



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