トライアングル・フリート   作:アンギュラ

61 / 74
大変永らくお待たせいたしました。


ヴィルヘルムスハーフェン解放戦の最終話になります。



それではどうぞ


灼熱のinterlude  VS 超兵器

   + + +

 

 

 

 

海中を進むタカオに激震が走った。

 

 

 

見失っていたドレッドノートは、先程のムスペルヘイムの重力砲発射を妨害しようとした401を支援しようと舵を切ったタカオに魚雷を発射した事で位置を完全に特定した¨筈¨だった。

 

 

 

ところが…

 

 

タカオが魚雷の発射地点へ撃ち込んだ多数の弾道は、巨大であり被弾面積が大きい筈の超兵器に直撃する処か、海中を虚しく進んで行くばかりだったのである。

 

 

 

これらの意味する事は一つしか考えられない。

 

 

 

 

「ドレッドノートはソコには居ない…」

 

 

 

「どうしてよ!」

 

 

 

「待って、冷静にならなきゃ…タカオ、千早艦長に連絡を取れる?」

 

 

 

 

「かかっ〃〃、艦長と!?」

 

 

 

「うん」

 

 

 

顔を真っ赤にするタカオに構わず、もえかは思考を回転させて行く。

 

 

 

 

『知名艦長、何か?』

 

 

 

「はい。私には潜水艦のノウハウが足りない…あなたの知恵を貸してください!」

 

 

 

 

『解りました。詳しい状況を教えて頂けますか?』

 

 

 

事ここに至るまでの経緯を聞いた群像は過去の経験を思い起こす。

 

 

 

『どうですか?』

 

 

 

「敵の使ってくる魚雷の種類を、我々は完全に把握はしていませんが、相手はあなた方が出す音を正確に記録して攻撃している様ですね」

 

 

 

『音…ですか?』

 

 

 

「はい。魚雷の種類の中には特定の周波数を放つ音波に反応して誘導するタイプの物が存在します。機関出力高いタカオの重力子エンジンの騒音は、クラインフィールドだけで完全に消す事は困難でしょう」

 

 

 

『じゃあ、相手は私達のエンジンや航行音を記録して、攻撃を仕掛けてきていると?でも、それだけでは発射地点に相手が居ない理由にはならないのではないでしょうか?』

 

 

 

 

「魚雷発射官の注水音や射出音は聞こえましたか?」

 

 

 

 

『どうだった?タカオ…』

 

 

 

『いえ、聞こえなかったわ』

 

 

 

「成る程な…。これは専門家の杏平から説明してもらった方が良いでしょう。頼めるか?」

 

 

 

「ああ」

 

 

 

杏平はスピーカーに身体を向ける。その表情はいつもの飄々とした態度とは違い、砲雷長としての引き締まった顔であった。

 

 

 

「魚雷の使い方は千差万別だ。敵を沈める為ってのが大半の理由にはなるが、馬鹿正直に撃って当たるものでもねぇからな」

 

 

 

『………』

 

 

 

「つまり…だ。魚雷は陽動や撹乱にも使えるって話なんだ」

 

 

 

『陽動…?』

 

 

 

「そうだ。アンタら多分こう思ってるんじゃねぇか?¨魚雷の発射地点には必ず本体がいる¨ってな」

 

 

 

『え!?』

 

 

 

図星を突かれたもえかとタカオは一瞬狼狽える。

 

 

 

やっぱりな…

 

杏平は溜め息をついてからゆっくりとした口調で話を進める。

 

 

 

「魚雷には発射以外にも¨射出¨と言う手段があるんだ。発射官内部の圧縮空気圧を調整すれば、海中に魚雷を¨置いて行く¨事は可能だ。ここからは俺の私見だけどよ。その魚雷は射出だけじゃ走行はせずに、特定の音紋を検知するとスクリューが起動するように設定されているのかもしんねぇな…恐らく敵さんは、戦闘で発生した騒音の最中に姿を眩ましながら魚雷をバラ撒いたんだろうぜ。言うならば、音に反応する機雷みたいな物か?」

 

 

 

 

『成る程…だとすれば発射地点に撃ち込んでも反応が無い事に得心はいきますね…』

 

 

 

「今の杏平の言、そしてソナーに対して超兵器の反応が無い事推測するならば、ドレッドノートの居場所は…」

 

 

 

『反響音に紛れ易い海底付近ですね?』

 

 

 

群像は大きく頷く。

 

 

 

「そう考えるのが自然でしょう。どことまでは言えませんが、後は相手を誘き寄せる事が出来れば、攻撃を加える事が出来るかもしれません」

 

 

 

『解りました。やってみます。あっ、あの…』

 

 

 

「何か?」

 

 

 

『401はしばらくの間、フルバーストの反動で目立った動きは出来ないんですよね?』

 

 

 

「お力になれず申し訳ありません…」

 

 

 

『い、いえっ!そう言う意味ではなくて…潜水艦の401なら、海中に沈んだ艦艇から生存者を救助出来るのでは…と』

 

 

 

「成る程…解りました。こちらでも出来る限りの事はします。知名艦長もお気を付けて…」

 

 

 

『ありがとうございます』

 

 

 

通信を終えた群像にクルー達の視線が集まり、彼は頷く。

 

 

 

「聞いての通りだ。救出の完遂は、ハルナ達の戦線復帰や、こちらの高威力の兵装にも繋がる。イオナ、沈没艦内部へ侵入しての救助を頼みたい。出来るか?」

 

 

 

「うん…やってみる。」

 

 

 

「よしっ!ではかかるぞ!」

 

 

 

401はゆっくりと動き出した。

 

 

一方のタカオも、事態の打開に向けて姿を眩ましたドレッドノートの追撃を開始、群像達のアドバイスを受けた彼女達は不用意な動きを避けて機関を停止し、海中を漂っていた。

 

 

 

(ムスペルヘイムの本体が空母と切り離された今、重力砲をもう一度放つ時間を長時間作る必要がある…となると超兵器の動きは一つかな…。)

 

 

 

そう、単艦ですの重力砲の発射に時間を要する以上、他の超兵器は異世界艦隊に対して損傷を与えようと動き出すだろう。

 

 

何故なら、人的な被害や物理的損傷には人手が必要であり、旗艦にたいする攻撃が緩むと考えているからだ。

 

 

 

だとすれば、ドレッドノートが水中での騒音が激しい格好の的であるタカオを見逃す筈は無いのである。

 

 

潜水艦の乗艦実習が存在する男子校ならいざ知らず、水上艦での任務を主としているブルーマーメイドでは水中での戦闘は勿論想定しておらず、また仮に潜水艦の実習を受けていたとしても、100年以上もの平和は、実戦経験と言うものを完全に失わせてしまっている。

 

 

潜水艦に乗れたからと言って、水中戦闘をこなせる訳も無いのだ。

 

 

 

圧倒的な不利に置かれるもえかは、ある意味航空機との戦いよりも未知な状況の中で思考を広げて行かねばならない。

 

 

 

 

「海底と言っても範囲が広すぎる…タカオ、ドレッドを見失ってから今までの間、相手の最大速度や潜行速度を考慮して潜伏出来る範囲を絞り込める?」

 

 

 

 

「やってみるわ」

 

 

 

チ…チ…

 

 

 

モニターに表示された潜伏可能範囲を見つめながら、彼女は思考を巡らせて行く。

 

 

 

相手の姿が見える水上戦闘では、敵も味方も状況によって随時作戦を変更し、艦長は臨機応変な対応を迫られる。

 

 

しかし、相手の見えない水中ならどうだろうか…

 

 

先に音を発した方が負けとも言える状況で、いかに相手に痺れを切らせて動かせるかに勝敗は左右される。

 

 

だが、重力砲と言う縛りがある以上、必然的に仕掛ける側にまわってしまうタカオは不利以外の何者でもない。

 

 

 

であるならば、彼女達の一手は確実に相手の損傷ないし撃沈に直結していなければならないのだ。

 

 

 

 

(闇雲に撃っても、こっちが超兵器の位置を把握してない事を露呈するだけか…なら!)

 

 

 

彼女はタカオに、装備されている弾頭兵器全てのリストを表示させる。

 

 

 

 

「やっぱりコレしかないかな…」

 

 

 

「超音波振動魚雷!?」

 

 

 

タカオが疑問に思うのも無理はなかった。

 

 

この魚雷は水上艦を足止め、もしくは転覆を目的に作られている。

 

 

 

更に大量の気泡はソナーの感度を落としてしまう事を鑑みれば、ドレッドノートの居場所を探る為の行為としては不的確である事は言うまでも無かった。

 

 

だが、タカオには彼女が確かな糸口が見えている様にも感じていた。

 

 

 

 

「コレで超兵器をなんとか出来るのね?」

 

 

 

「うん…でもその前に下準備をしなくちゃ―頼める?」

 

 

 

「ええ、いいわ」

 

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

事態の急変は救出組にも影響を与え始めていた。

 

 

 

 

ムスペルヘイムが3つに分裂した事で、フリーになった天照がハルナやキリシマにも猛威を振るい始めたなのだ。

 

 

 

ビギィイイイ!

 

 

 

 

 

メンタルモデルのいないハルナの船体が発生させたクラインフィールドに、彼の艦のドリルやチェーンソーが接触して火花が散る。

 

 

 

「くそっ!は、ハルナ!まだ終わらないのか!?流石に私一人じゃ抑えきれないぞ!」

 

 

 

『目標の87%の救出を完了した。残り847秒…いや、私が戻る時間をいれれば1279秒は欲しい―稼げるか?』

 

 

 

 

「了解!」

 

 

 

とは言ったものの…。

 

 

 

キリシマは眉を潜めた。

 

 

 

被災者を内部に収容しているキリシマは、いつもの様な機動力を発揮できない状態でハルナの船体の防衛や救出組の支援、そして航空機の掃討を一手に引き受けなければならない。

 

 

 

 

攻撃一辺倒であった彼女には正直辛いものとなるだろう。

 

 

 

しかし…

 

 

 

「フンッ!私だって散々経験値を上げたんだ!少しばかりの時間なんとかしてやる!」

 

 

 

 

キリシマは、ハルナに食らい付く天照に有りったけの砲撃を喰らわせて行った。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

海底に潜むドレッドノートは、タカオの狩る機会を伺っていた。

 

 

 

完全に姿を眩ませてしまえば、重力砲の再発射と言う縛りのあるタカオは先手で動かざるを得ず、自分は動き出した瞬間に敵の位置を割り出して攻撃を加えるだけなのだから。

 

 

 

しかし……

 

 

 

 

カシュッ…フィイン!

 

 

 

 

複数の魚雷走航音が突如として聞こえた事に彼の艦は身構えた。

 

 

 

 

だがその憂いは、あらぬ方向に向かって行く音波を関知した瞬時に消え失せる。

 

 

 

タカオは自身の位置を完全に把握しておらず、自身を炙り出す為の陽動である事は明白だからだ。

 

 

 

そう、この魚雷が通常の魚雷ならば……だ。

 

 

 

次の瞬間、起動した魚雷は大量の気泡を広範囲に撒き散らし、ドレッドノートは聴覚を完全に掻き乱された。

 

 

 

 

しかし彼の艦は動じない。

 

 

 

これまでの自身の行動から、タカオが自身の位置を割り出していると言う根拠がまるで無いのである。

 

 

 

現にこうしている間も、魚雷やミサイルが襲ってくる様子は見られない。

 

 

 

だが相手が無意味な行動をするとも思ってはいなかった。

 

 

故に彼の艦は思考を巡らし、事の発端となった魚雷音波に存在する違和感に気付いたのだ。

 

 

 

正確に言うなら、¨有るべき筈の音が無い¨のである。

 

 

 

それは、魚雷発射官を開く音と発射音の二つだ。

 

 

 

 

彼の艦の分析が確かならば、あの魚雷は海中からいきなり動き出した事になる。

 

 

 

だとすれば、少なくともタカオは魚雷が走航音を発した付近には存在していない事を意味していた。

 

 

 

《………》

 

 

 

急浮上した懸念に彼の艦は疑心暗鬼に陥る。

 

 

既に狙われているのであれば今動くべきであろう。

 

 

だが陽動であるなら動いたら沈められる。

 

 

 

皮肉な事に、姿を潜ませた事によって彼の艦は現在の位置に釘付けにされてしまったのだ。

 

 

 

ドレッドノートは、魚雷とミサイル発射官の一部に量子弾頭を搭載した兵器に切り替える。

 

 

 

これならば、自身も特異点に引き寄せられる変わりに相手も重力の虜となり、必然的に互いの距離が近付いて動きが見えやすくなる。

 

 

場合によっては刺し違える事だって出来るであろう。

 

 

 

 

だが、相手は一向に撃ってくる兆しは無い。

 

 

 

彼の艦が、今回の魚雷攻撃を陽動だと結論付けようとした時、事態は動いた。

 

 

 

 

最後に起動した魚雷によってばら蒔かれた気泡がドレッドノート周囲にまで及び、彼の艦は急激に浮力を失って急激に落下した超兵器の巨体を海底の岩礁に思いきり接触させてしまったのだ。

 

 

 

ガゴンッ!

 

 

 

 

彼の艦は躊躇わなかった。

 

 

気泡による浮力の低下で海底に船体を接触させて位置を割り出すという敵であるタカオの真意だったのだ。

 

 

 

最早相手には自身の位置が完全に割れている以上、超兵器ノイズによる位置の露呈を顧みずエンジンを一気に全開にしてその場からの離脱をはかるより他はない。

 

 

 

だが……

 

 

 

浮力の低下した超兵器の巨体は一向に浮上する気配は無く、このままでは袋叩きになる事は必至であった。

 

 

 

ドレッドノートは、思考を全力で巡らせて事態の打開を模索する。

 

 

 

 

《……!》

 

 

 

最早この手しか残されてはいなかった。

 

 

 

彼の艦はミサイル発射官に装填された量子弾頭弾を自身の直上へと発射、弾頭は海面付近で起動し、強力な重力が超兵器の巨体を真上へと押し上げる。

 

 

 

だが、それだけではない。

 

 

 

これは言わば、タカオを葬る最後の好機となる。

 

 

 

 

状況からすれば、あらゆる攻撃をも捉えてしまう強力な重力に唯一対応しうる兵器である超重力砲をタカオは使わざるを得ない。

 

 

例え自身に大きな隙が生じてしまったとしてもだ。

 

 

 

であるなら、気泡や重力の奔流が発する騒音と、タカオ超重力砲発射直後の隙を突いて突撃を敢行するより他はない。

 

 

 

 

彼の艦は、大半のエネルギーを推進装置に集中させて機会を伺う。

 

 

 

 

ゴォオオオ!

 

 

 

 

《……!?》

 

 

 

彼の艦のセンサーが超重力砲の波長を検知する。

 

 

 

 

それによって相手の位置を完全に割り出したドレッドノートは、攻撃体制に入った。

 

 

 

 

《荘厳ニシテ勇敢ナル、コノ忠誠……。冷厳ナル魂ハ必ズヤ坑魔の剣トナッテ汝ヲ討チ果タスダロウ。今、ココニ我ガ宿命ヲ果タサン。アア…艦隊旗艦ノ騎士タル我レニ、主ノゴ加護ガアラン事ヲ……》

 

 

 

 

チャンスは超重力砲が発射され、量子魚雷の特異点が消失して彼の艦が重力の呪縛から解放される僅か時間に掛かってはいるが、その実タカオは対応しきれない筈だ。

 

 

 

 

ところが……

 

 

 

ビジィイ!

 

 

 

 

《!!?》

 

 

 

突如として、彼の艦の船体に何かが衝突し、その一部を完全に抉り取ってしまったのだ。

 

 

 

 

この攻撃は間違いなく侵食魚雷によるものである事は明らかだろう。

 

 

 

 

更に……

 

 

 

複数の侵食魚雷が、次々とドレッドノートの無防備な船体に着弾して船体を抉り、大量に入り込んだ海水によって身動きが取れなくなってしまう。

 

 

 

 

このままでは、自身が発射した量子魚雷の特異点に呑み込まれてしまう。

 

 

 

彼の艦は推進装置を全開で起動しようとした。

 

 

 

 

ところが、装置はまるで¨消滅¨してしまったかの様に起動どころか反応する気配すらない。

 

 

 

 

何が起こっているのか理解が追い付かないまま、ドレッドノートの船体が重力とタカオの攻撃による損傷で不快な軋みを上げながら瓦解して行き、対する敵の超重力砲の特異波長がみるみる大きくなって行く。

 

 

 

 

《……!》

 

 

 

彼の艦は、飛行甲板のパージ後に甲板に出現させた巨大砲塔をタカオへと向ける。

 

 

 

それが、護るべき旗艦に対する忠誠と勇敢さの証明であると言わんばかりに……

 

 

 

 

しかし、無情にも主砲の発射の直前に、重力によってくの字に折れ曲がった砲身の内部で砲弾が起爆し、爆圧がドレッドノートの艦内を引っ掻き回した。

 

 

 

次々と発生する誘爆と重力によっては船体は原形を留めない程にバラバラになり、瓦礫すらも残らず量子魚雷の特異点へと吸い込まれて行く。

 

 

 

直後……

 

 

 

タカオが発射した超重力砲によって、超巨大潜水戦艦ドレッドノートは原子レベルすら残らない程完膚無き迄に消滅してしまうのだった。

 

 

   + + +

 

 

(獲った……!)

 

 

レーダーから超兵器ノイズが消滅したのを確認したもえかは確信に満ちた表情で拳を強く握り締める一方、タカオは唖然とした表情を浮かべていた。

 

 

 

「凄い……」

 

 

 

彼女は、人間による戦術を改めて目の当たりにした。

 

 

 

もえかは、発射に際する音を超兵器に悟られない為、予め複数の超音波振動魚雷と侵食魚雷をナノマテリアルで¨艦外¨に精製することを指示し、そして超音波振動魚雷を遠隔操作で任意の位置に配置してから起動させた後に、浮力を失った超兵器が海底の岩礁に衝突するよう仕向けたのだ。

 

 

 

ここまでなら、彼女も対して驚きはしなかったであろう。

 

 

現に彼女は、超兵器が海底に衝突した音を関知し、その地点への攻撃準備に入っていた位だ。

 

 

ところがもえかは、海中に精製した侵食魚雷の発射を指示しないばかりか、彼女にいつでも超重力砲を発射出来る態勢を整えるよう指示したのだ。

 

 

 

彼女はもえかの考えが全く理解できなかった。

 

 

 

今回に於いては、力による突撃ではなく、きちんと手順を踏んだ上で自身の位置を露呈させずに敵をいち早く発見したのだ。

 

 

今攻撃せずしていつするのだと内心苛立ちすら覚える。

 

 

 

 

だが、もえかは更にその先の結末までも読んでいたのだ。

 

 

 

 

ドレッドノートは量子魚雷を使用して海底から浮上を開始し、タカオの船体も特異点の中心へと引き摺られる。

 

 

 

焦りがタカオを支配する中、もえかは至って冷静に状況を注視してその時を待つ。

 

 

 

そして、超兵器が重力から自力で逃げられる限界まで浮上した時、行動を開始した。

 

 

 

超重力砲の発射態勢に入ったタカオに、今まで海中を漂わせていた侵食魚雷を、ノイズの中心へ全て叩き込む様に指示し、騒音と超重力砲に気を取られていた超兵器を強襲したのだ。

 

 

 

 

バミューダでの戦闘を事前に記録された映像から分析を済ませていた彼女には、潜航型超兵器は自身が撃沈の危機に瀕した際に量子兵器を使用する確率が非常に高くなるとの確信があったからだ。

 

 

 

 

(これが人間の¨予感¨と言うものなのかしら。だとすればこれを実装すれば私も……)

 

 

 

想い人の隣へ行けるかもしれない。

 

 

 

だが、彼の隣には強い絆で結ばれたパートナーが存在する。

 

 

 

彼女が入り込む隙間すら無い程に……

 

 

 

であるなら、自身が彼を振り向かせる方法は、もっと経験値を上げて彼と共に並んで歩める様な存在に自分を高めて行く他はない。

 

 

 

 

(もえかとなら……)

 

 

 

群像と重なる部分のある彼女となら、それが可能なのかもしれないと思った。

 

 

 

 

二人は見つめ合い、共に前を見据える。

 

 

 

「行こうタカオ!」

 

 

「ええっ!」

 

 

 

船体を翻したタカオは、次なる戦場へと向かって行く。

 

 

 

   + + +

 

 

シュルツの表情に焦りの色が濃く現れ始めていた。

 

 

 

三つに分離したムスペルヘイムを追っていたシュペーアに対して、フォーゲルシュメーラが牙を向いてきたからだ。

 

 

 

縦横無尽に動き回り、攻撃を回避した超兵器から複数のブイのような物が投下される。

 

 

 

「敵機、レーザーユニットを投下!」

 

 

 

「それだけに気を取られるな!常に上空にいる奴の位置を把握し続けろ!」

 

 

 

 

フォーゲルシュメーラが投下しものはブイではなく、本体とは独立したレーザーユニットだったのであった。

 

 

 

この兵器こそ、幼い明乃が乗っていたフェリーを沈没させ、彼女の両親が命を失う原因となった兵器なのであり、同時に海上に浮遊する光学兵器と空中に滞空する本体との波状攻撃によって相手を撹乱する厄介な代物である。

 

 

 

だが、シュルツたちウィルキアに小手先の陽動は通用しない。

 

 

 

何故なら……

 

 

 

「敵機、ホバー砲のエネルギー充填を完了した模様。攻撃…来ます!」

 

 

 

 

「回避急げ!」

 

 

 

 

バミューダでニブルヘイムが放った超大型レーザー主砲¨ホバー砲¨の脅威を知っているからだ。

 

 

 

フォーゲルシュメーラの下部にぶら下がる様に設置されたホバー砲の砲身が赤黒く発光し、そして自身の真下からシュペーアの方向に角度を変えつつ放たれる。

 

 

 

とてつもないエネルギーの奔流が海水を瞬時に蒸発させて猛烈な爆圧を生む水蒸気爆発を発生させながら直進する様は、まるで海を叩き割っているようであった。

 

 

 

 

「敵機、レーザーユニットを投下しつつ移動を開始!……は、速い!」

 

 

 

 

「絶対に見失うな!見張りを強化し、奴の位置を直ぐに報告出来るようにしろ!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

四方八方から飛んでくるレーザーユニットからの攻撃を回避しつつ、シュペーアはフォーゲルシュメーラを追う。

 

 

その余りに不規則且つ俊敏な動き、それに悪天候による視界不良が相まって一瞬相手が消えたように見えてしまう。

 

 

そして気付いた時には、本体にずらりと搭載されているAGSからの砲撃の嵐と……

 

 

 

「敵機、ホバー砲の発射態勢に入りました!そんな……エネルギーの充填速度が速すぎる!」

 

 

 

「回避に専念しろ!急速加速!」

 

 

 

「艦長!!?それでは砲弾の雨の中へ突っ込む事になります!」

 

 

 

「アレを喰らうよりマシだ!急げ!」

 

 

 

「は、はっ!」

 

 

 

シュペーアはレーザーと砲弾が飛び交う無法地帯へと飛び込んで行き、その直後に彼等の背中のすぐ後ろを悪辣な巨大レーザー光が通り過ぎて行く。

 

 

炸裂した砲弾やホバー砲の生み出した衝撃波が彼等の船体を揉みくちゃにして艦内からは悲鳴が飛び交った。

 

 

 

「あ゛っ…く!は、博士!何か対応策は無いのですか!?」

 

 

 

「基本的には我々の世界での対応と同様ですが、何せ次の攻撃までのスパンが短すぎます!あれでは狙いが付けられません!」

 

 

 

「くっ……ムスペルヘイムを追わねばならないというのに……!」

 

 

 

 

シュルツは歯噛みする。

 

 

 

フォーゲルシュメーラの弱点は、ホバー砲の発射態勢に入ってから終了までの間、同じ場所に滞空し続ける点にある。

 

 

 

逆に言えば、切り札であるホバー砲を乱発すればするほど、自身が生み出す隙が大きくなる点において他の飛行型超兵器よりも対応に苦慮する事は無かった筈なのだ。

 

 

 

ところが……

 

 

 

主砲の発射を最小限に抑え、持ち前の機動力で翻弄してくるであろうとの予想を悉く裏切ってきたのだ。

 

 

 

何らかの方法で、短時間での主砲へのエネルギー供給を果たした超兵器に隙は無く、仮に攻撃を加えたとしても以前には装備していなかった防御重力場によって攻撃を反らされてしまい、有効打を与える事が出来ない。

 

 

 

「電子撹乱ミサイルによる撃墜は困難か……」

 

 

 

「それよりも、敵主砲のエネルギー供給源を絶つ方が先決なのですが……あっ!もしや!」

 

 

 

「何か気付かれたのですか?」

 

 

 

「雷です!超兵器は大気に帯電させた莫大な電気エネルギーを吸収して主砲を放っているのでしょう!」

 

 

 

 

「成る程……我々の世界ではまだその技術が確立する前に撃墜され、今回はそれを克服してきたと言う訳ですね?」

 

 

 

「そうです。だとしたら厄介ですね……ここは海上ですから、湿度の高い空気が上昇気流で上空に運ばれ、それによる大気の帯電がエネルギー源となっているなら、敵は無尽蔵に弾薬を持っているのに等しくなります!」

 

 

 

 

「くっ!遠いな……」

 

 

 

こんな所でつまずく訳にはゆかぬと言うのに、足掻けば足掻くほどムスペルヘイムが遠くなる様な錯覚に陥る。

 

 

 

思えば、いつも彼の艦はシュルツ達の手をすり抜けてきた。

 

 

 

絶対的強者でありながら時に策を労し、時には撤退も辞さない。

 

 

 

 

ある意味では、強者である事に溺れない実直さこそが、彼の艦を総旗艦の直衛旗艦とする事を許され、シュルツ達を幾度となく苦しめてきたのだ。

 

 

 

 

ムスペルヘイムは現在、異世界艦隊から距離を置き、二隻ある空母の一隻からエネルギーの供給を受けつつ第三の重力砲発射に備えている。

 

 

 

シュルツには理解できていた。

 

 

 

もう先程の様な奇跡は決して起きないのだと……

 

 

 

だが……

 

 

 

 

「艦長!はれかぜ並びに401より報告!要救助者全員の救出を完了したとの事です!」

 

 

 

「!!!」

 

 

 

彼は目を見開いた。

 

 

 

 

目の前に見えた一筋の希望。

 

 

 

それは奇跡の様であって全く別の物。

 

 

 

そう、いつだって人類はそうして来たのだ。

 

 

 

奇跡を頼りに生きる者はいないだろう。

 

 

 

何故なら、奇跡は人類がその形無き希望を自らの手で現実に造りだし、後の世の人々の口からその偉業を奇跡と讃えられているに過ぎないのだから。

 

 

 

彼は思う。

 

 

 

今この海には、後に奇跡と呼ばれるに値する者達が、現に絶えぬ努力で全力をもって未来を造っているのだろうと。

 

 

 

 

(人間は変わらない。私達の世界でも、ここでも……なら!)

 

 

 

自身も全力で足掻いて見せると彼は静かに誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

はれかぜの甲板では、重傷者の治療が急ピッチで進められていた。

 

 

 

「美波さん!どうしよう……あの人意識がっ!」

 

 

 

「急いで手術しつに運べ!慎重にだぞっ!」

 

 

 

「鏑木さん……こっちはどうすればいいっスか?」

 

 

 

「……大丈夫そうだな。取り敢えず止血して様子を観察しろ。余り長期間強く圧迫するとかえって危険な場合もある。強さの加減には気を付けて作業を行え!」

 

 

 

「わ、解ったッス!」

 

 

 

美波は周りの者に指示を飛ばすと、険しい顔付きのまま手術室へと駆けて行く。

 

 

 

「ヒュウガ、先程のアレだが、記録は採っているな?」

 

 

『勿論よ。解析してみないと実用化は出来ないけど、大きな一歩である事は間違いないわ』

 

 

 

 

「頼む……」

 

 

 

彼女はまるで祈るような口調でヒュウガに告げ、の会話を終えて狭い廊下を急ぐ美波は、視界に救出を終えて艦橋に急ぐ明乃の姿を捉えた。

 

 

 

「艦長!」

 

 

「美波さん!?お疲れ様…救助した人達の様子は?」

 

 

「芳しくない……思った以上に重傷者が多かった。少数人ならともかく、ここでこの人数を完全に処置するのは無理だ」

 

 

 

「解った。大型医療施設があるスキズブラズニルに行きたいんだね?進路をそっち向けるようにする!」

 

 

「話が早くて助かる……」

 

 

 

「美波さんも、皆の事をお願い!」

 

 

 

「ああ……!」

 

 

 

二人はそれぞれの持ち場へと駆けて行く。

 

 

事が事だけに、互いに長い会話をする時間など無かったが、美波は心の中で誓うのだった。

 

 

 

 

(¨希望¨が見えた!艦長……必ずあたなも救って見せる!)

 

 

 

 

 

一方の艦橋では明乃の帰艦に取り敢えずの安堵がもたらされる。

 

 

 

「おかえりなさい……艦長!」

 

 

 

「ただいま!皆!」

 

 

 

「岬明乃艦長!指揮権を返上します!」

 

 

 

「指揮権を頂戴しました!リンちゃん、早速だけど進路をスキズブラズニルに向けて!重傷者を医療施設に預けないと!」

 

 

 

「う、うん!」

 

 

 

「ココちゃん状況は?」

 

 

 

「はい。大戦艦キリシマが401から救助者を収容して、移送の為スキズブラズニルに向かっています!大戦艦ハルナは戦線に復帰して天照と対峙、重巡タカオは超兵器ドレッドノートを撃破して、現在はムスペルヘイムから分離した空母の一隻を排除するため移動中です!」

 

 

 

「はれかぜがスキズブラズニルと現海域を往復した場合の時間は試算出来るかな?」

 

 

 

「90秒下さい!」

 

 

 

幸子はタブレット端末で試算を開始し、その間を埋める様に真白が口を開いた。

 

 

 

「401が海底に沈没した艦艇から人々を救助してくれたのが大きいですね。イオナさんが直接艦内に潜り、クラインフィールドで保護しつつ収容を進めた様です」

 

 

 

「良かった……」

 

 

 

「安心は出来ません。重軽傷者が多数いたとの報告を受けていますから」

 

 

 

「そうだね……」

 

 

 

「艦長、試算完了しました。重軽者を乗せていますので、全力での航行は無理だとしても最長で30分、最短で15分で戦線に復帰出来ます!」

 

 

 

「ありがとうココちゃん!タマちゃん、メイちゃん。スキズブラズニル迄、航空機の排除をお願い!」

 

 

 

「うぃ~!」

 

 

「オッケー!じゃんじゃん撃っちゃうよ~!」

 

 

 

「シロちゃん、各部署に連絡を!手の開いている人は負傷者を速やかに搬送出来るように準備してって!」

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

はれかぜ艦内が慌ただしく動き出す一方、戦況は一気に異世界艦隊に向けて傾き始める。

 

 

 

ハルナと401が戦線に加わり、タカオがドレッドノートを撃沈した事が大きいのだろう。

 

 

 

しかし、超兵器を数で測る事は出来ない。

 

 

 

天照は羽の様に拡げたチェーンソーをハルナへと叩き付け、フィールドが火花を散らす。

 

 

 

「くっ!成る程……この威力なら普通の艦艇は2秒形を保っていれば良い方だろう。だがっ!」

 

 

 

ハルナはカタパルトに見たてた電撃装置を展開し、天照の船体に接触させる。

 

 

 

ビジィ!

 

 

とてつもない電流が天照内部にある電気系統の大半を焼ききり、更に弾薬を誘爆させた。

 

 

 

「接近が持ち味らしいが、今回はそれが仇となったな。此方もその位の備えはしてあるぞ」

 

 

 

爆圧によって駆動系の一部が故障した天照のドリルが停止して黒煙が至る所から立ち上ぼり、異世界艦隊をも翻弄しうる凶速も鳴りを潜める。

 

 

 

一方のタカオや401もペーターシュトラッサー級空母一隻を追い詰めていた。

 

 

 

「凄いレーザー攻撃だね……地中海でも思ったんだけど、空母って航空機と自艦の防衛機能以外の戦力は乏しいんじゃないの?」

 

 

 

 

「そうとは限らないわ。私達にも海域強襲制圧艦ってのがあって、見てくれは空母だけど大戦艦であるハルナ達より出力が上なの。尤もアレは航空機の操作に演算を取られるから廃止したみたいだけど……」

 

 

 

「ペーターシュトラッサー級は航空機を操作してるって感じよりも指示だけを出して後は自律的に動いてる感じがするね。だから自身は攻撃に特化出来るのかな……」

 

 

 

 

「どちらにしても異常ではあるけどね……ん?無駄話は終わりみたいよ。艦長が動くわ!」

 

 

 

「うん!じゃあタカオ、思いきりお願い!」

 

 

 

「了解!128発の侵食弾頭兵器……全部避けられる?」

 

 

 

 

彼女は惜しみ無く侵食弾頭を撃ち放した。

 

 

だがそれでは終らない。

 

 

 

 

「まだよ!」

 

 

 

通常弾頭の一斉発射を空かさず行ったタカオの攻撃は暴力に近く、最初に放った侵食弾頭兵器を含めた攻撃があらゆる方向から超兵器を袋叩きにする。

 

 

 

 

対するペーターシュトラッサーは、迎撃性能の高いバルカン砲やパルスレーザーでミサイルの数を減らし、残りを防御重力場にて対応する。

 

 

 

 

しかし、これら一連の動きは布石に過ぎない。

 

 

 

もえかは一斉発射を行う事で、是が非でもこの場を圧し通り、旗艦であるムスペルヘイムに到達しようと躍起になる姿を超兵器に印象付ける狙いがあったのだ。

 

 

 

 

真なる目的は……

 

 

 

「今だ撃て!」

 

 

 

バシュ!

 

 

 

401から数発の侵食魚雷が発射され、超兵器へと向かって行く。

 

 

タカオに釘付けにされたペーターシュトラッサーは、迎撃に気を取られてソレの接近に気付かない。

 

 

 

そして……

 

 

ビジィ!

 

 

 

船底にて起動した侵食魚雷は10m程の巨大な穴を複数造り出し、そこから侵入した大量の海水が瞬く間に艦内を駆け巡って行った。

 

 

巨大な船体が傾き、甲板では航空機達が次々と海へと落下し、内部では壁と激突した航空機のミサイルが起爆した事による火災や誘爆が連鎖的に発生する。

 

 

 

 

動きが鈍くなった隙を突いて401は一気に加速し、敵の真下を通過して旗艦の強襲へと向かい、同時にタカオは超重力砲の発射体勢に入る。

 

 

 

 

「行くわよもえか!」

 

 

 

「お願い!」

 

 

 

 

最早、浮かんでいるだけの巨大な鉄屑を超重力砲が貫き、跡形もなく消し去ってしまう。

 

 

 

 

「あっ…はぁ!はぁ!やっぱり立て続けに超重力砲はキツいわね……でも!」

 

 

 

 

「うん!千早艦長達に道は開けたこれなら……え?」

 

 

 

 

もえかの表情が急に青ざめる。

 

 

 

   + + +

 

 

シュルツの額から汗が流れ落ちた。

 

 

 

「………!」

 

 

 

フォーゲルシュメーラが突如ムスペルヘイムへと向かった事に嫌な予感はしていたのだ。

 

 

 

「重力砲の第3射か!」

 

 

 

「早すぎる!それ程までに強化をされていると言うのですか!?」

 

 

 

「違います……」

 

 

 

「え?」

 

 

 

博士ですらも付いて行けない状況にも、シュルツは至極冷静に分析をしていた。

 

 

 

「総旗艦直衛艦には本来弱点と言う弱点は存在しません。故に、人類に使用されていた時は、内部からの破壊工作によって弱体化させていたに過ぎません。だが無人となり、特定の国への所属が無い以上、それは現実的では無くなってしまった」

 

 

 

 

「つまり、アレが本来のムスペルヘイムの力であると仰るのですか!?デタラメです!」

 

 

 

「ですがそう考えるなら得心が行きます。奴はそもそも空母の補助など無くとも重力砲を乱発出来る力があると……」

 

 

 

「そんな……」

 

 

「このままでは千早艦長が危ない。ナギ少尉、至急401へ退避の連絡を!」

 

 

 

 

「は、はっ!」

 

 

 

 

ナギは慌てて群像へと事態を知らせる。

 

 

 

その報を受けた401の困惑の色が一層濃くなった。

 

 

 

「イオナ……もし、俺達の世界にアレが出現したらどうなる?」

 

 

 

 

「海域強襲制圧艦の投入は必至だと思う……あのクラスが複数、若しくはあれ以上の艦艇が存在するなら、総旗艦自身が対処に当たるしかない」

 

 

 

 

「そこまでか……一度退避しよう。重力砲に単艦では対処出来ない」

 

 

 

「了か……」

 

 

 

『待ってください!』

 

 

 

「岬艦長!?」

 

 

 

 

突如通信に割り込んできた明乃に、異世界艦隊の面々が目を丸くした。

 

 

 

 

『重力砲発射時にはムスペルヘイムの防御重力場が薄くなると聞きました。それは本当ですか?』

 

 

 

 

「ええ。莫大なエネルギーを使用する筈ですから……どうされるのですか?」

 

 

 

 

『今はとにかくムスペルヘイムにあらゆる攻撃を集中させてください!』

 

 

 

 

「何か考えが有るのですね?解りました。攻撃を敵旗艦へと集中させます」

 

 

 

『お願いします!』

 

 

 

「シュルツ艦長!」

 

 

 

 

『聞いておりました。此方もその様に対処致します!』

 

 

 

「ハルナ、キリシマ!そして知名艦長!」

 

 

 

『『『了解!』』』

 

 

 

 

彼等は動いた。

 

 

 

 

一斉に発射されるミサイルやレーザー、そして砲弾群がムスペルヘイムに殺到する。

 

 

 

勿論、相手もただでは通してくれない。

 

 

 

 

フォーゲルシュメーラや天照が旗艦へ向かって行く攻撃の嵐を悉く削って行く。

 

 

 

 

だが、彼等の砲弾はそれさえも通過してこの惨劇の元凶に届き、幾重もの爆煙が彼の艦を包み込んだ。

 

 

 

 

「シロちゃん、今!」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

 

負傷者をスキズブラズニルに収容したはれかぜは全力で戦闘海域へととんぼ返りし、反撃の機械を伺っていた。

 

 

 

そして彼女には見えているのだ。

 

 

 

この後に生じる超兵器の隙が……

 

 

 

彼女は事前に共振派照射装置の起動を指示し、続けて異世界艦隊からムスペルヘイムに対する一斉攻撃を打診する。

 

 

 

 

重力砲発射にエネルギーを消費している彼の艦の防壁の力は弱く強力な攻撃に長時間は耐えられない。

 

 

 

その防壁が消失する瞬間を彼女は狙っているのだ。

 

 

 

 

「艦長、他の超兵器を居りますが!?」

 

 

 

「旗艦に照射を集中させて!」

 

 

 

 

はれかぜはムスペルヘイムただ一隻に照準を絞り込む。

 

 

 

 

そしてその時は訪れた。

 

 

 

数多の攻撃が防壁に弾かれる中、一発の砲弾が本来防壁がある筈の領域を通過して本体に着弾、炸裂した。

 

 

 

 

 

「今!共振派照射装置、照射始め!」

 

 

 

 

 

キィヤァァァアア!

 

 

 

 

悲鳴にも似た振動の波がムスペルヘイムを覆い尽くすと同時に、彼の艦の異変が始まった。

 

 

 

ヴォン!

 

 

 

艦首部分に取り付けられた重力砲の一部に紫電が走り、直ぐ様爆発が起きる。

 

 

 

 

「エネルギーの集中する箇所を脆くしたのか!?」

 

 

 

 

シュルツは事態を見て驚愕する。

 

 

 

しかしこのあと事態は予想外の展開をようした。

 

 

 

 

ヴォン!

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

ムスペルヘイムは重力砲を無理矢理発射したのだ。

 

 

照準が定まっていなかったソレは、異世界艦隊の遥か後方に着弾し、特異点からの強烈な引力が彼等を襲った。

 

 

 

 

「は、ハルナ!頼むっ!」

 

 

『了解した!』

 

 

 

重力球の消滅の為、ハルナが超重力砲の発射体勢に入る。

 

 

 

その最中、彼等はムスペルヘイムの行動に度肝を抜かれる事となったのだ。

 

 

 

 

「か、艦長!ムスペルヘイム転進!フォーゲルシュメーラと天照に牽引されて離脱を謀っている模様!」

 

 

 

「逃げるだと!?これ程の命を奪い、我々を弄んで起きながらまた逃げると言うのか!」

 

 

 

 

 

《アァ……主ヨ。不出来ナ信徒デアル我ヲ赦シタマエ……。汝ラトハ、イズレ再ビ見エヨウゾ。ソレマデ汝等ガ生キテイタノデアルナラバ……》

 

 

 

「ふざけるな!一体どこまで人を嘲笑えば気が済む!」

 

 

 

怒りを露にするシュルツを余所に、異世界艦隊は重力に引き摺られ、超兵器との距離が開いて行く。

 

 

 

そこへハルナが超重力砲を重力球に撃ち込む。

 

 

 

 

「重力が収まった!?ナギ少尉、好機は今しかない!至急奴を追うぞ!」

 

 

 

「ダメです!先程のフォーゲルシュメーラとの戦闘で機関の一部が損傷を受けています!最大で稼働しても追い付けません!」

 

 

 

「くっ!フルバーストを使ったばかりの401は速度不足か……誰か奴の足止めを……!」

 

 

 

『私達が行きます!』

 

 

 

「岬艦長!?それに知名艦長も!」

 

 

 

タカオとはれかぜは荒い波を掻き分け、ムスペルヘイムに追い縋る。

 

 

 

だか、相手も馬鹿ではなかった。

 

 

 

「空母がこっちにっ!?」

 

 

 

本体に随伴していたもう一隻の空母がレーザーを乱射しながらこちらに向かってくる。

 

 

更に……

 

 

 

「か、艦長!超兵器ノイズ極大化!自爆を謀っている模様!くっ……横須賀の時と同じトカゲの尻尾切りか!」

 

 

 

『こっちは超重力砲撃ったばかりで演算に余裕がないわ……』

 

 

 

『私に任せろ!』

 

 

 

『キリシマ!?』

 

 

 

攻撃の反動が残るハルナとタカオの代わりに、キリシマが超重力砲を展開して、超兵器空母へとうち放った。

 

 

 

 

超絶な威力によって、暴走をする超兵器機関ごと敵を瞬く間に消滅させる事には成功したが、これでキリシマも、ムスペルヘイムを追うのは難しくなってしまう。

 

 

 

だが、彼女達は諦めない。

 

 

 

タカオとはれかぜは再び荒れ狂う波間を縫う様に進み、黒煙を上げるムスペルヘイムを追う。

 

 

 

 

「逃がさない!」

 

 

 

 

『み、ミケちゃん!防壁を展開して!』

 

 

 

「!!?」

 

 

 

もえかからの悲鳴に、明乃の脳に少し先の未来が写し出された。

 

 

 

 

「防壁を展開して!早く!」

 

 

 

「一体何が!?」

 

 

 

「上から……来る!」

 

 

 

 

 

 

雨風が吹き荒れ、黒雲と雷鳴が轟く空から、フォーゲルシュメーラが彼女達の目の前に降りてくる。

 

 

 

 

「そんな……さっきまでムスペルヘイムを牽引していたんじゃ……」

 

 

 

真白は超兵器の機動性に呆気に取られてしまう。

 

 

 

その間に、フォーゲルシュメーラの機体下部に装着されたホバー砲が鮮血の輝きを発していた。

 

 

 

 

「防壁を最大展開!速度を落として!転覆しちゃう!」

 

 

 

 

明乃は叫び、両親を奪った超兵器を睨んだ。

 

 

 

彼の者と明乃。

 

 

 

両者の間に暫しのにらみ合いが生じる。

 

 

 

 

《マタ遊ボウネ……【約束】ダヨ》

 

 

 

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

 

彼女が目を見開いた瞬間、フォーゲルシュメーラは真下に向けたホバー砲の砲身から目を覆う様な閃光と共に巨大なレーザーを海面に向かって発射し、莫大なエネルギーの奔流によって瞬時に蒸発した海水による大爆発と衝撃波が彼女達に襲い掛かった。

 

 

 

 

「ぐっ……あぁああ!」

 

 

 

 

今にもひっくり返りそうな大波に煽られ、艦内が悲鳴で埋め尽くされる。

 

 

 

 

 

その間にも、ムスペルヘイムの姿はみるみる小さくなり、そして嵐の中へと消えて行った。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

海が静まり、空から光が差し込む。

 

 

 

異世界艦隊の誰しもが悔しさを滲ませながら立ち尽くしていた。

 

 

 

 

彼等の心に大きな喪失感を残したヴィルヘルムスハーフェン解放戦はここに幕を閉じたのである。

 

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


念願のガンナー2オープニングでのフォーゲルシュメーラのホバー砲発射シーンを入れてみました。


尚、原作に於いてのムスペルヘイムの立ち位置からして、彼の艦の後に控える艦艇は一隻しか無いと言う立場から二度目の逃走と相成りました。



彼の艦との真なる決着を、お待ちください。





さて……ミーナ達を生存させたのは良いのですが、どうするべきか………


次回まで今しばらくお待ちください。



























とらふり!  1/144ちょうへいきふりいと



播磨
「あっ戻ってきた!お疲れ~♪」



ドレッドノート
「あ、はいお疲れ様……です」



荒覇吐
「もっと自信を持ちなさいな!勇敢なる者の名が泣くわよ?」



ドレッドノート
「です……が」



近江
「まぁまぁ。この子は昔から引っ込み思案だから、でも努力に関しては誰にも負けてないと思うの」



グロースシュトラール
「戦艦が原型だったものを潜航型戦艦に改装、その後は空母改装によって戦いの幅を広げたのは評価出来ると思うよ」



ドレッドノート
「あ、ありがとう……ございます」




播磨
「じゃあ、今日はそんなドレッドノートへの祝勝会だね!」


超兵器ーズ
「わ~い♪」




グロースシュトラール
「何かに特化するも進化を続けるも1つの兵法……か。でも何か忘れているような……」







天照
「う~出番が、出番があら、葉巻?に取られちゃったよう……」



一同
「あ………」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。