トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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お待たせいたしました。

ヴィルヘルムスハーフェン編

後半になります


それではどうぞ


ローレライの乙女は悪魔の残した火傷を癒せるのか……

   + + +

 

 

 

ヴィルヘルムスハーフェンへと帰港した異世界艦隊は、残る救助活動に追われていた。

 

 

 

メンタルモデルによる行方不明者の捜索、医療班による治療。

 

 

 

そして……

 

 

 

 

遺体の搬送である。

 

 

 

建物が破壊されてしまった為、白い布で覆われた大量の遺体が場を埋め尽くしていた。

 

 

 

 

「宗谷室長……沈没艦艇からの遺体収容を完了しました」

 

 

 

「ご苦労様、千早艦長。助かったわ」

 

 

 

超兵器によって撃沈された艦艇の内部にいた者や、重力砲によって飛ばされて海底に沈んだ遺体の回収を終えた群像に、真霜は疲労した笑みを向ける。

 

 

 

いや、真霜だけではない。

 

 

 

 

この場にいる誰しもが、限界を超えた疲労を感じ、表情には堅さが残る。

 

 

 

 

無理もない。

 

 

 

家族や仲間を亡くした者達の悲痛な鳴き声、焼けた死体の臭いとそこらに転がる肉片が、皆の精神にのし掛かっているのだから。

 

 

 

 

明乃もその一人だ。

 

 

 

彼女は、瓦礫の上で事切れていたブルーマーメイドの隊員らしき人物の遺体をまゆみと共に担架に乗せて運んでいた。

 

 

 

 

「あの……」

 

 

 

「どうされましたか?」

 

 

 

 

明乃達の下へ生き残ったドイツのブルーマーメイドの隊員二人が近付いてくる。

 

 

 

「彼女を運ばせてください……」

 

 

 

「いえ、皆さんは休んでいてください。怪我だってされてますし……」

 

 

 

 

「お願い……私達、彼女と親しかったんです。最近、結婚して子供も生まれたばかりで……」

 

 

 

「………」

 

 

 

「祈りを捧げたいんです!家族の為にここに残って戦った彼女の為に……」

 

 

 

「解りました……お願いします」

 

 

 

 

彼女達は仲間の身体を遺体置き場へと下ろし、一部が焔によって赤黒く炭化してしまった手を握って嗚咽を漏らした。

 

 

 

 

その様子を見ていた明乃には、両親を失ったあの時の様な自身の無力さに対する強烈な嫌悪感と、再び世に現れて誰かの大切な者の命を奪って行った超兵器に対する狂おしい程の憎しみが沸き上がっていた。

 

 

 

 

「か、艦長……」

 

 

 

「え!?なに?まゆちゃん」

 

 

 

「今、凄い怖い顔してた……大丈夫?」

 

 

「ご、ゴメンねまゆちゃん!ちょっと考え事してて……あっ、あのっ!次…そう、次の仕事にいこ?」

 

 

 

「うん……」

 

 

 

怯えた表情のまゆみに、慌てて顔を元に戻した明乃は、次なる現場に向かって行く。

 

 

 

   + + +

 

 

 

混濁する意識の中で、その言葉は何度も繰り返された。

 

 

 

【大丈夫……生きてるよ】

 

 

 

 

「がはっ……!」

 

 

 

 

飛び起きたミーナは、自身が今どこにいるのか解らず、辺りを見渡す。

 

 

 

白い壁に心地よいベッドの感触。

 

 

そして不愉快に自身にまとわりつく複数の点滴と電極のコード。

 

 

一定のリズムで、心音を打ち鳴らしている電子機器の音。

 

 

 

 

彼女は漸く、自身が医療関係の施設にいる事に気付いたのだった。

 

 

 

 

「病院か……はっ!テア!テアは!」

 

 

 

「起きた途端にコレとはな……騒がしいのは相変わらずだなミーナ」

 

 

 

「ミナミ…か!?久しぶりじゃのう!ヌシらが儂らを助けてくれたのか?」

 

 

 

「まあな……」

 

 

 

「ヌシらとは話したい事が沢山あるんじゃ!あっ!それよりもミナミ!テアは!テアは無事なのか!?意識を失っておったのじゃ!」

 

 

 

 

「なんだ……まだ気が付いてなかったのか?お前の隣にいるだろう?さっき目を覚ましたばかりだがな」

 

 

 

 

美波は、ミーナの隣に仕切る様に張られたカーテンをめくる。

 

そこには銀色の髪をした女性が横になっていた。

 

 

 

「テア……」

 

 

 

「………」

 

 

 

二人は顔を合わせた瞬間に漂う雰囲気を察し、様子を見かねた美波は二人を囲うようにカーテンを締め切った。

 

 

 

 

 

「ふむ……互いに思う処が有るのだろうな。とにかく今は腹を割って話せ。そうしないと見えないものもあるぞ」

 

 

 

「腹を割る?oh……ハラキリの事か?」

 

 

 

「違う……互いに本音で話せと言う事だ。とにかくあまり騒ぐなよ。他の患者もいるのでな……」

 

 

 

 

呆れた様子でその場を後にした美波に取り残された二人は再び沈黙してしまう。

 

 

 

(ミーナ……怒っているのだろうな)

 

 

 

眉を潜め、険しい表情を浮かべている彼女に対してテアはどんな報いでも受けるつもりでいた。

 

 

 

ところがだ……

 

 

 

「うっ…うぅ……」

 

 

 

「ミーナ!?」

 

 

 

「良かった……無事で良かった!私、テアが死んでしまうと思って……本当に不安だったんだ。でも、生きていてくれて良かった……」

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

これには参ってしまう。

 

 

彼女は怒っていたのではなく、テアの無事に心から安堵して溢れ出しそうな涙を必死に堪えていただけであった。

 

 

拳を握り締めて嗚咽を漏らす彼女を見たテアは、同時に責められる事で安易に赦しを得ようとしていた自分が情けなく思えたのだった。

 

 

 

「済まないミーナ……」

 

 

「どうしてあんな事をしようと思ったんだ!?」

 

 

 

「ミーナ、孤立していた私に初めて友達になろうと言ってくれたお前を失うのが怖かったんだ。私自身の命を失うよりもな……」

 

 

 

「テア……」

 

 

 

ミーナが立ち上がったのを見た彼女は今度こそ打たれるだろうと覚悟した。

 

 

だが、頬を張る痛みの代わりに訪れたのは、彼女の柔らかく暖かな抱擁であった。

 

 

 

 

「あ……」

 

 

 

「バカだなテアは……私はあの時、お前を失うのが怖くてたまならなかったんだぞ!?遺された者がどんな風に思うのか解らなかったのか!?」

 

 

 

「あぁそうだ。私はバカだった。お前の手を離す瞬間までは、本当にそう思っていたんだ。だが、お前の顔を見て後悔した。私はミーナにあんな顔をさせてしまうなんて……」

 

 

 

「………」

 

 

 

「謝りたかった……でも死ねばそれも叶わなくなる。謝る事も、ありがとうと言う事も出来ない。死者が生者に出来る事は何一つとして無かったんだ。だが、お前は私を追い掛けて来てくれた」

 

 

 

「テアは私の……家族なんだ!当たり前じゃないか!」

 

 

 

「当たり前……か」

 

 

 

「どうした?何かおかしい事でも言ったか?」

 

 

 

「いや……ミーナらしいと思っただけだ」

 

 

 

「むぅ……」

 

 

少しむくれている彼女に、テアは安堵の表情を見せた。

 

 

そして、表情を引き締めて彼女を真っ直ぐ見据えたのだった。

 

 

 

「な、なんだテア。急に……」

 

 

 

「お前はあの時私に言ったな。『私はテアが艦長の艦じゃないとダメなんだ!一緒じゃないとダメなんだ!』って」

 

 

 

 

「なんでそんな事蒸し返すんだ〃〃」

 

 

 

「言わせてくれミーナ。私もミーナが副長の艦で艦長をしたい。ミーナ、私はお前でないとダメなんだ」

 

 

 

 

「テア……」

 

 

 

「私もへこたれない!お前に愛想を尽かされても、ずっと一緒にいたい!……ダメか?」

 

 

 

「………」

 

 

 

ミーナは顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 

 

 

困らせてしまったかとも思ったその時、ミーナは太陽の様な笑みを彼女に向けた。

 

 

 

「私が……お前に愛想を尽かす訳無いだろう?あぁ!いいとも!私達は何があっても一緒だ!」

 

 

 

「ミーナ……」

 

 

 

「痴話喧嘩は終わったのか?」

 

 

 

「うわぁああ!」

 

 

 

二人の背後には、半目を浮かべた美波が立っている。

 

 

 

「ち、違っ!私達は今後の方針について議論しておってじゃなぁ……!」

 

 

 

「ほぅ……でも一緒にいたいのだろう?テアさんと」

 

 

 

「なっ……ヌシ、ドイツ語が解るのか!?」

 

 

 

「日本はかつて戦時下には敵性語が禁じられていてな。だが、医療用語を全て和訳するには不便だったと言う事で、同盟国ドイツの言語使用していた名残が残っているんだ」

 

 

 

「………」

 

 

動揺するミーナを余所に、美波はあえて¨ドイツ語¨で彼女に言葉を発する。

 

 

 

「勿論私は話せるが、6年前の事件でお前達と関わった事で、コミニュケーションを取りたいとドイツ語を習得している者が多くてな。秘密の話をする際は気を付ける事だ」

 

 

 

「〃〃〃〃」

 

 

 

(少しからかい過ぎたか……)

 

 

再び顔を真っ赤にしているミーナに、内心微笑ましい気持ちも浮かぶが、彼女は自身の背後から押し寄せる殺気にも似た気配に押され、溜め息を漏らす。

 

 

 

「あぁ……話がそれてしまったな。ミーナ、お前に面会だ。さっきから会わせろとうるさくてな……」

 

 

 

「うるさいなんて心外です!私はミーちゃんを心配して……」

 

 

 

「ココ……?ココか!?」

 

 

「ミーちゃん……」

 

 

 

「ココ!久しぶりじゃのう!」

 

 

「逢いたかった……ずっとミーちゃんが超兵器にって私心配で……」

 

 

 

「儂はこの通り元気じゃ!ヌシらのおかげでのう。そうじゃ!儂を海から引き上げてくれたのはアケノなのじゃろう?お礼がしたいのだが何処におるのかのう?」

 

 

 

 

「え、えぇっと……艦長はまだ今回の件での残務処理が残っているみたいで忙しいそうですよ?」

 

 

 

「そうなのか……では後から探して見るとしようかのう」

 

 

 

「………」

 

 

 

テアは幸子の反応に違和感を感じた。

 

 

 

先程まではミーナの無事を心から安堵し、久しぶりの再会を純粋に喜んでいた様に見えた。

 

 

 

ところが最後の反応は少し違う。

 

 

 

艦長を経験し、艦内にいる仲間達の表情を常に見てきたテアだからこそ解るのだろう。

 

 

彼女の表情からは僅かな動揺、そして決意の様なものが感じられた。

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

一瞬テアと視線が交わった幸子は、直ぐに目を反らし雑務が残っていると言って立ち去ってしまう。

 

 

 

「ココ……もう少し話したかったに……」

 

 

 

寂しそうに幸子の去った方角を見つめるミーナの姿に、テアは複雑な表情を浮かべるのであった。

 

 

 

   + + +

 

 

ミーナが目覚める一時間程前――

 

 

スキズブラズニルのブリーフィングルームに集められた異世界艦隊のトップ達は、真霜の到着を待っていた。

 

 

張り詰めた空気が支配する中、ナギはシュルツに耳打ちをする。

 

 

 

「艦長、いよいよ判明するのですね?バルト海に展開している超兵器の正体が……」

 

 

 

「ああ。バミューダにグロースシュトラールを改装したニブルヘイムが展開していた事を考えるなら、バルト海にいる超兵器は別の何かとなる可能性が高い」

 

 

 

「統括旗艦クラスでしょうか?」

 

 

 

「間違いないだろうな。だが、何やら嫌な予感もするが……」

 

 

 

「嫌な予感とは一体――」

 

 

 

ガチャン……!

 

 

 

全員の視線が扉へと集中する。

 

 

 

一度部屋を見渡した真霜は、無言のまま席に座った。

 

 

 

 

「宗谷室長、バルト海に展開している超兵器が判明したとの事でしたが?」

 

 

 

「ええ……先ずはコレを見て頂戴」

 

 

 

 

ピッ!

 

 

 

モニターに写し出された映像を見た一同の表情が固まる。

 

 

 

特に超兵器を知り尽くしたウィルキア陣営に於いては、顔から血の気が引いていた。

 

 

 

「まさかヤツがここにいたとはな……」

 

 

 

 

「ここは、ウィルキアから説明を貰った方が良いようね……シュルツ艦長、お願い出来るかしら?」

 

 

 

「はい……この超兵器は、敵の中でも最上位の部類に入る総旗艦直衛艦隊を総括する三隻の超兵器の一隻、【最狂の航空母艦要塞】【暴君】の異名を持つ超巨大航空戦艦【テュランヌス】です」

 

 

 

 

「なっ!!?」

 

 

 

明乃を始めとしたブルーマーメイドや蒼き鋼の陣営は、事の重大さに驚愕する。

 

 

 

当然であろう。

 

 

 

救助に戦力を取られていたとは言え、最終的には総力戦を以てしても退散させるのが精一杯であったムスペルヘイムと同等クラスの敵を相手にしなければならないのだから。

 

 

 

 

 

「あ、あのっ!」

 

 

 

「どうされましたか?岬艦長」

 

 

 

「テュランヌスの具体的な性能についてお聞きしてもいいですか?」

 

 

 

「お答えします。テュランヌスはアノ三隻の中で最も強大な航空戦力を有しています。数で言うなら2000機以上でしょう」

 

 

 

 

「そ、そんな数、対処するだけでも一苦労ですよ!」

 

 

 

「それだけなら良いのでしょうが……近江や尾張の件もあります。テュランヌスの内部に他の航空機型超兵器が格納されていた場合、状況は極めて不利となるでしょう」

 

 

 

 

「少し宜しいですか?」

 

 

 

一同の視線が群像へと集中する。

 

 

 

 

「今のは飽くまでも航空戦力の話です。テュランヌス本体の戦力は低いと言う事ですか?」

 

 

 

 

「うむ……一度ここでテュランヌスについて見識を深めておく必要が有りますね」

 

 

 

「お願いします」

 

 

 

 

「解りました。ナギ少尉、テュランヌスのデータをモニターに投影してくれ」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

一同はモニターへと視線を集めた。

 

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

超巨大航空戦艦テュランヌス

 

 

形状

 

本体である巨大な戦艦の甲板を改装、両側にアングルドデッキ付きの甲板を、更に艦首部にも広大な飛行甲板が存在し、いずれも本体のからはみ出す程巨大な作りとなっており、艦尾以外のどこからでも航空機の発艦が可能。

 

 

各種兵装も飛行甲板上に設置されている。

 

 

 

装甲 対51cm砲防御

※防御重力場 電磁防壁有り

 

速力 32.0kt

 

 

艦載機数 2000機

※ステルスジェット機多数

 

 

兵装

 

 

三連装65口径56.0cm砲

前方3基後方1基 計12門

 

各種VLS 多数

 

エレクトロンレーザー1基

 

小型レーザー 多数

 

対空パルスレーザー 多数

 

αレーザーⅡ1基

 

 

補助兵装

 

電波妨害装置

 

 

ECM装置

 

 

自艦耐久能力向上装置

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

 

「以上になりますが、ご存知の通り、既存のデータがあまり当てにならない状況ですから、戦闘の際は速やかな情報の収集と共有化を謀れる様、各艦とも心構えをして頂ければと」

 

 

 

 

「今の件と、コイツが油断ならねぇ戦力を持ってるって事は解ったが、何か弱点とかは無ぇのか?」

 

 

 

「宗谷艦長の仰る事は尤もです。テュランヌスの弱点……まず一つは他の超兵器と比べて圧倒的に速度が遅い点でしょう。二つ目は被弾面積が非常に広い点です」

 

 

 

 

「成る程な……ムスペルヘイムみてぇに分離と言う手段が使えない以上、遅くてバカデカイ奴は、格好の的って訳だ」

 

 

 

 

「ええ。ですが……」

 

 

 

「解ります。この艦は防御が非常に厚いんですね?」

 

 

 

「知名艦長の仰る通りです。テュランヌスの兵装はムスペルヘイムには遠く及ばない、下手をすると統括旗艦であるニブルヘイムやヨトゥンヘイムよりも下でしょう。ですが、攻め手を航空機に任せている為、エネルギーに余剰がある本体が発する防壁の強さは桁違いに成ります」

 

 

 

 

「王は座して動かず、兵に下す命は残虐……正に暴君ね」

 

 

 

 

真霜の溢した言葉に、全員が頷く。

 

 

 

 

今までの超兵器とは異なり、艦隊ではなく単艦で鎮座している事もそれを増長させた。

 

 

 

まるで民から見放され、孤高に生きる狂王の様に……

 

 

 

超兵器に関するブリィーフィングを終えた一同が会議の終わりを悟った時、真霜は彼らを呼び止める様に慌てて口を開く。

 

 

 

 

「ちょっといいかしら?」

 

 

 

「どうされましたか?宗谷室長」

 

 

 

「少し提案が有るのだけれど……」

 

 

 

 

彼女がこの時発した言葉に、明乃を含めたはれかぜクルーともえかは苦悩する事になる。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

体調が回復したミーナは、病棟を抜け出してはれかぜの方角へと歩いていた。

 

 

 

先程、知り合いの隊員から、ドイツのブルーマーメイドからも異世界艦隊に加わる志願者を募っているとの話を聞いたからだ。

 

 

 

 

6年前も今も、自分達を助けてくれたはれかぜの様に、自らも多くの人々を助けたい。

 

 

 

ミーナの中でその気持ちは一層強くなっていたのだった。

 

 

 

 

「あっ!」

 

 

 

 

彼女の目に資材を搬入している見知った人物達が目に入ってくる。

 

 

 

 

「ヒメ!ヒカリ!それにミカン!」

 

 

 

 

 

「あれ!?もしかしてミーちゃん!?久しぶり~!」

 

 

 

三人は作業を中断して、ミーナへと駆け寄る。

 

 

 

 

「久しぶりじゃのう!皆も元気しとったか?」

 

 

 

 

「うん!でもパソコン通じて話してたから、6年も経ったて気がしないね!」

 

 

 

「そうだね~」

 

 

「じゃがこうして直接逢えて儂も嬉しいぞ!あっ!そうじゃ、アケノを見んかったか?異世界艦隊への加入の事で話がしたかったんじゃが……」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

3人の表情が一斉に固まる。

 

 

 

 

「どうしたんじゃ?」

 

 

 

 

「あっ、あのう……私達仕事が立て込んじゃっててさ、ゴメンね!じゃ、じゃあ今度またゆっくり話そうね!」

 

 

 

「あっ!ちょ……アケノは何処に――行ってしもうた……」

 

 

 

彼女は少し淋しい気持ちになる。

 

 

 

その後も、はれかぜクルー達に会い彼女との再開を喜ぶも、例の話を持ち出すと皆一様に言葉を濁して立ち去ってしまう。

 

 

 

最後に訪れた機関室でも反応は同様であった。

 

 

 

「なんじゃ!皆忙しいの一点張りでこっちをろくに見向きもせん!折角6年ぶりに会って、力を合わせようと言うのに、ちと薄情ではないか!?」

 

 

 

 

彼女は少し乱暴に扉を閉めると艦橋に向かってズカズカと歩いて行く。

 

 

 

 

その様子を見送った機関員達は、一様に大きな溜め息を着いた。

 

 

 

 

「艦長ってさ、横須賀で私達を異世界艦隊に加入させる事を最後まで反対したって言ってたよね……」

 

 

 

「うん。水先案内だけなら自分だけで十分だって言って、一人で行こうとしてたって聞いたよ?」

 

 

 

 

「私さ、なんか艦長の気持ち解る様な気がする……」

 

 

 

 

「解るかも……巻き込めないよね?こんな事にさ……」

 

 

 

 

噂好きの四人は口々に、ミーナ達を巻き込む事への難色を口にする。

 

 

 

 

麻侖に於いてもそれは同意であった。

 

 

 

 

彼女自身も軽い気持ちで参加している訳ではない。

 

 

 

だが、超兵器の実情を目の当たりにしてきた彼女は、横須賀で自分達に付いて行くと言われた明乃の気持ちが痛いほど理解できてしまうのだ。

 

 

 

麻侖は、洋美へと視線を

送った。

 

 

 

「………」

 

 

彼女は先程から一言も言葉を発せず、俯いている。

 

 

 

 

 

(クロちゃん……)

 

 

 

 

 

親友である麻侖には、洋美の心中が手に取るように理解できていた。

 

 

 

 

彼女は赴任先の佐世保にて、異世界艦隊との合流の際に明乃に盛大な平手打ちを食らわせていた。

 

 

 

尤も、それは死地に赴かなければならない異世界艦隊へのはれかぜクラスの参加を、明乃が独断で決めたと誤解していた事にある訳だが……

 

 

 

6年前のRATtウィルス事件で偶然にも関係を深める事となったミーナが、【この世で最も死に近い海】へと漕ぎ出そうとするのを目の当たりにした時、心の中に言い知れぬ不安が沸き上がって来るのを抑えられない自分がいたのだ。

 

 

 

同時に、あの時自身が明乃に放った言葉や行動が、いかに無神経であったのかを自覚した彼女の心には、モヤモヤとした不愉快な感情が生まれる。

 

 

 

 

「行きなよ、クロちゃん」

 

 

 

「麻侖?」

 

 

 

 

「謝りてぇってんだろ?艦長にな」

 

 

 

 

「!」

 

 

 

「ハハッ!クロちゃんはいつも顔に出るからなぁ!言いたい事が有るならクロちゃんらしく真っ直ぐ伝えりゃ良い。少なくとも、艦長はその気持ちをちゃんと汲んでくれる奴だって信じたからここまで付いて来たんだろ?」

 

 

 

「麻侖……ごめん!私ちょっと行ってくる!」

 

 

 

「ああ……艦長なら港の方に一人で歩いて言ったってさっき砲術長から聞いたぜ」

 

 

 

「ありがとう!麻侖!」

 

 

 

 

機関室から飛び出して行く洋美を、麻侖は温かい眼差して見送った。

 

 

 

 

(二人の仲を取り持つのは6年前以来か……今回も相撲で――ってな訳にゃいかねぇが、上手く行くといいな……)

 

 

 

   + + +

 

 

 

ミーナは未だに明乃を探していた。

 

 

 

 

(誰に聞いてもはぐらかされる。アケノもシロも不在……となれば!)

 

 

 

 

ミーナは、はれかぜで最も親交があった幸子の下を尋ねる事にしたのだった。

 

 

 

 

ガタン!

 

 

 

 

「ココ!入るぞ!」

 

 

 

「み、ミーちゃん!!?」

 

 

 

 

ノックもせずに突如部屋に入ってきたミーナに幸子は激しく狼狽え、咄嗟に手に持っていた白い封筒を、乱雑に机の中へとしまい込んだ。

 

 

 

 

「アケノと異世界艦隊の加入の事で話がしたいのじゃ!どこにおるのか教えてくれ!ヌシなら知っておるのじゃろう?」

 

 

 

 

「い、いえ!知りません!あのっ……私忙しいのでこれで――」

 

 

 

「待て!」

 

 

 

「あっ!」

 

 

 

ミーナは幸子の腕を掴み、自身の下へ引き寄せる。

 

 

 

「は、離してください!い、痛いです!」

 

 

 

「スマン……じゃが府に落ちんのじゃ!幸子は……いや、ヌシらは何故儂らを避ける!恨まれる様な事はしてない筈じゃろう?」

 

 

 

 

「そんな事は……」

 

 

 

「じゃぁ何故なんじゃ!儂が異世界艦隊に参加したいと言うのと何か関係があるのか?」

 

 

 

「……」

 

 

「儂はヌシらに命を救われた。じゃから今度は一緒に戦って、ヌシらや多くの人を助ける為に儂も行きたいんじゃ!」

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

幸子はミーナの手を振り払い、荒んだ瞳で睨み付ける。

 

 

 

彼女は思っても見なかった反応に思わず呆気に取られてしまった。

 

 

 

 

「……なんです」

 

 

 

「なんじゃと?」

 

 

 

「足手まといと言ったんです!」

 

 

 

「なっ……!」

 

 

 

「ミーちゃんは現実を何も解ってないんです!私達を?人々を救う!?笑わせないで下さい!自分達の街も、況して自分達の身すら護れなかったのに!」

 

 

 

「こ、ココ……?」

 

 

 

「ミーちゃん達は一体何をしていたんですか!?結局ただ救助を待っていただけじゃないですか!私達はお守りをする為にここに来た訳じゃありません!」

 

 

 

「ココ……ヌシ一体どうして――」

 

 

 

「っ!!」

 

 

 

「ココ!」

 

 

 

目に涙を浮かべて出ていってしまった幸子に、ミーナはただ唖然として立ち尽くすより他はなかった。

 

 

 

しかし……

 

 

 

(なんだこれは……)

 

 

 

ミーナは幸子の机の引き出しから何かがハミ出ているのに気付く。

 

 

 

手に取ってみると封筒の表面には感じで何かが書かれていた。

 

 

 

「???」

 

 

 

簡単な単語や平仮名ならともかく、漢字はあまり得意ではなかった彼女は、携帯端末を取り出して文字を調べる。

 

 

 

「!!!」

 

 

 

書かれている意味を理解した彼女は直ぐ様、部屋を飛び出し幸子の後を追った。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

(私、ミーちゃんに酷い事言って……最低だ!)

 

 

 

 

幸子は涙を散らしながら狭い廊下を一心不乱に駆けて行く。

 

 

 

 

「ココ!」

 

 

 

「!」

 

 

 

彼女が振り返った先には、ミーナの姿があり、その姿はみるみる大きくなっていく。

 

 

 

「っ!!」

 

 

 

 

幸子は構わず駆けた。

 

 

泣いている姿を彼女に見られたくなかったのだ。

 

 

 

しかし、元々裏方でのサポートがメインな彼女は、決して脚が俊敏な部類ではなく、呆気なくミーナに追い付かれてしまう。

 

 

 

「ココ!待ってくれ!」

 

 

「離してください!私に話すことはありません!」

 

 

 

「ヌシには無くともこっちには有るんじゃ!」

 

 

 

 

「はっ……!」

 

 

 

幸子は彼女の手に皺くちゃに握られている封筒に目が行く。

 

 

 

その表には黒い文字で

 

 

 

【遺書】

 

 

 

と記されていた。

 

 

 

 

 

「開けたんですか?私の机……」

 

 

 

「勝手に開けてしまった事は謝る……じゃが、これは見過ごせんかったんじゃ!ココ……ヌシらは一体何を見てきた!どんな事を経験したんじゃ!」

 

 

 

「……」

 

 

 

「話してくれココ!友達じゃろう!?」

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

限界だった。

 

 

 

目の前の人物は、最早異世界艦隊加入の事など頭の片隅にすら無いのであろう。

 

 

その眼差しは、真に友を思い、そして憂いでいたのだから……

 

 

 

 

彼女は溢れる涙を抑える事が出来なかった。

 

 

当然であろう。

 

 

 

幸子は、その社交的様相とは対照的に、自身の本心をあまり口に出す部類ではなかった。

 

 

事務的な会話以外では、一人芝居をしておどけて見せる反面、自身や友の死、そして自分の居場所が跡形も無く消滅してしまう事への耐え難い恐怖に苛まれていたのだ。

 

 

 

その無理矢理押し込めていた恐怖は、一旦こじ開けられしまえば溢れる以外になく、彼女はいつも演じている仮初め自分すらも保てなくなってしまう。

 

 

 

「ミーちゃん……あっ…あああっ!」

 

 

 

「ココ!?」

 

 

 

幸子はミーナの胸へと飛び込んで泣き叫んだ。

 

 

 

最早支えて貰わねば立てない程、彼女は憔悴していたのだ。

 

 

 

 

ミーナは、そんな幸子の頭を優しく撫で、耳元で諭すように語りかける。

 

 

 

「ココ……部屋に戻ろう。そこで話をしてくれんか?今までの事を……」

 

 

 

「うん……」

 

 

 

ミーナは彼女に肩を貸して部屋へと向かった。

 

 

 

「……」

 

 

 

彼女の部屋に到着してから、幸子は泣き止んだものの、ミーナの手を堅く握ったまま離さなかった。

 

 

 

「落ち着いたか?」

 

 

 

「はい……」

 

 

 

「ゆっくりで良い。今までの事を話してくれんか?」

 

 

 

 

幸子は、言葉を選ぶようにゆっくりと今までの見てきた惨劇をミーナに語った。

 

 

 

 

小笠原での戦い

 

 

ハワイでの惨劇

 

 

バミューダで相対した国家を相手にしうる戦力を有した超兵器潜水艦との死闘

 

 

 

端から見れば荒唐無稽な内容にも思えた。

 

 

 

だが、ムスペルヘイムの凶行を目の当たりにしたミーナには、それが現実である事が理解できてしまうのだ。

 

 

 

 

「儂らを巻き込みたく無かったのか?」

 

 

 

「だってミーちゃんなら絶対に行くって言うもの……超兵器と戦闘なんて絶対しちゃダメ!お願いミーちゃん、参加しないって約束して?」

 

 

 

「そうか……解った」

 

 

 

「ミーちゃ――」

 

 

 

「儂は行くぞ!」

 

 

 

「どうして!?どうして解ってくれないんですか!危ないんですよ!?死んじゃうかもしれないんです!」

 

 

 

「じゃから儂らに逃げろと言うのか?超兵器と戦ったヌシらには解っておる筈じゃろう。アレからは逃げられんとな……」

 

 

 

「……」

 

 

 

ミーナは、俯いてしまう幸子の手を強く握り、もう片方の腕で彼女の肩を抱いて自身に引き寄せる。

 

 

 

「あ……」

 

 

 

目の前に金色の髪が近付き、彼女の体温が不安を優しく癒して来るのを感じた。

 

 

 

 

「ココ……確かに儂らは無力かもしれん。じゃがの、¨友達として¨無力とは思っておらんのじゃ。こうして悩んでおるヌシらと話をするだけでも力になれる事はある。もしヌシが逆の立場なら、大人しく儂の言葉を受け入れて戦地に行かせたか?」

 

 

 

「そんなの嫌です!少しでも力になろうと――」

 

 

 

「じゃろう?儂もヌシらも、根幹は変わらん。力になりたいんじゃ……ダメか?」

 

 

 

「………」

 

 

 

狡い言い方である事は十分に承知していた。

 

 

だが、放っては置けなくなってしまったのだ。

 

 

実のところ、彼女は遺書の内容を少しだけ見てしまっていた。

 

 

 

育ててくれた両親への感謝や、友人達と過ごして幸せだった思い出が、記録員として文才がある彼女らしく丁寧に綴られていた。

 

 

 

だが、部屋に散らばるクシャクシャに丸められた紙くずの一部から覗いた彼女の文章には……

 

 

 

 

【死にたくな――】

 

 

 

震えていたのか、覚束ない文字でここまで書かれた文章は、ペンで乱雑に塗り潰されていた。

 

 

 

これが彼女の……いや、気丈かつ淡々と困難な任務に向かう勇ましい英雄像とは裏腹の、暗く重い¨彼女達¨の本心なのかもしれないのだった。

 

 

 

「お願いじゃココ……儂も、ヌシらと共に歩ませてはくれんかのう?」

 

 

 

「ミーちゃん……」

 

 

 

幸子は再び彼女に身体を預け、彼女はそれを了承と受け取った。

 

 

 

 

だが涙で濡れる彼女の顔には、友としていてくれるミーナへの感謝と同じ位に、戦闘へと巻き込んでしまった罪悪感の色が浮かんでいた。

 

 

 

【大丈夫……あなた生きてるよ】

 

 

 

二度に渡って明乃が発した言葉を彼女は思い返していた。

 

 

 

優しい慈愛に満ちた言葉であり、彼女の印象に残っている言葉でもあるが、幸子の様子を目の当たりした今は、似て非なる別の意味にも捉えられた。

 

 

 

 

 

【アナタハ今、死ヌトコロダッタンダヨ】

 

 

 

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

彼女背中にゾクリとする様な悪寒が走る。

 

 

 

そう……自分は超兵器と言う名の死神に首を狩られかけていたのだと言う事実が、忘れ去りたいと都合の良い解釈を浮かべてくる自身の脳に遅れ馳せながら叩き込まれた瞬間でもあった。

 

 

 

 

(アケノ……お前が姿を見せなかったのは、皆の気持ちを理解して熟考した上で、私が付いて来るのかどうかを判断して欲しかったからなのか?)

 

 

 

 

ミーナは彼女を堅く抱き締めると共に、異世界艦隊と超兵器を相手取る覚悟を決るのだった。

 

 

 

 

  

 

 




お付き合い頂きありがとうございます


漸くミーナとはれかぜメンバーとの絡みを書くことが出来ました。



初期構想の段階では生存ルートと死亡ルートに分かれていたのですが、1章を終えた段階で生存ルートには確定していました。



しかしながら、同行させるか否かについてはギリギリまで悩んだのですが、やはりはいふりにミーナは必須だろうと、今回異世界艦隊への同行を決意いたしました。



次回は、2章前編を完結出来ます様、善処して参ります。





尚、ご相談立ったのですが、2章前編と後編の間に簡易のキャラ紹介と超兵器紹介をのせるか否かについて、ご意見等ありましたら感想または、メッセージに宜しくお願い致します。



無い場合は、2章後編終了後に纏めて掲載を致します。








これからもとらふりをよろしくお願い致します。
































とらふり!


幸子
「ミーちゅわぁあん☆」


ミーナ
「コ・コ……♪」



幸子
「幸せですぅ!ミーちゃんの胸に抱かれて……あれ?なんか薄――」



ミーナ?
「掛かったな」


幸子
「あ、貴女は!テアさん!?」



テア
「そんなことだろうと思って事前に変装セットを用意していたのだ」



幸子
「変装までするなんて……狡いです!卑怯です!take2お願いします!今度は本物のミーちゃんで!」



テア
「無駄だ!幾度と無くわたしとミーナの邪魔をしたからには相応の報復を受けてもらう!」


幸子
「ぐぬぬぅ!」



ミーナ
「どうしたんじゃ?二人とも」


テア
「なに!?何故こんな所にミーナがっ!確か食堂に用意した大量のブルストとザワークラフトを餌に釘付けにしていた筈」



幸子
「食べ物に釣られるミーちゃんも可愛い!でも、愛には勝てなかったみたいですね!さぁミーちゃん!take2と参りましょう!」



ミーナ
「あ、ああ!勿論だとも!」


テア
(ん?なにか様子がおかしいような……)



幸子
「ミーちゅわぁあん!」


ミーナ?
「こ、ココぉ~!ちょっ、あの子いつも日本の方とこう言う事してましたの!?ちょっ、やめ、揉まないで下さいまし!」



幸子
「ああ!ホンモノ感触……なんか少し小さい気もしますが」



ミーナ?
「!!!!」



テア
「ああ、もしかしてリーゼ…いや、敢えて言うまい。ミーナにドッキリを仕掛けるつもりが、逆に墓穴を掘るとはな。気の毒に……ではホンモノはどこだ!!?」




その頃のミーナ


ミーナ
「ん~♪やっぱりブルストは最高じゃのう!飽きと言うものがない!」




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