トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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お待たせ致しました。



2章前編の完結となります




それではどうぞ


哀愁の聖歌

 + + +

 

 

洋美は明乃を探してヴィルヘルムスハーフェンの港付近を走っていた。

 

 

 

「岬さん……一体何処に――あっ!」

 

 

 

瓦礫と化してしまった建物の向こう側にある船着き場に、一人で海を見つめる明乃の姿を見つけた。

 

 

 

 

「岬さ――」

 

 

 

 

「~♪」

 

 

 

「!?」

 

 

 

明乃は歌っていた。

 

 

 

 

《哀愁漂うあの時を――

 

嘆いて、幾年経つ事か――

 

青い瞳を携えて、見るは果て無き七の海――

 

 

たなびく尾ひれを亡くせども――

 

 

いつの日にか――故郷へ帰らん》

 

 

 

 

聞いた事の無い歌詞であった。

 

 

 

その歌声は大衆を魅了するものでは無いのかもしれない。

 

 

しかし、透明な歌声と童謡の様な音調が潮風と相まって心に響いて来るのを洋美は感じる。

 

 

 

「哀しい歌ただな……」

 

 

 

再び声を掛けようと踏み出した彼女よりも先に、誰かが明乃に声を掛けていた。

 

 

洋美は慌てて建物の裏に隠れる。

 

 

 

 

「美波さん……」

 

 

 

「最近調子はどうだ?」

 

 

 

「えぇっと……うん、順ちょ――」

 

 

 

「眠れないのは解ってる。問題は¨いつから¨と言う事になるが……」

 

 

 

「やっぱり、お見通しだったんだね?やっぱり顔に出ちゃってたかなぁ~」

 

 

 

「私の質問に答えろ!」

 

 

 

「うん……小笠原での戦いの後――欧州に出発する辺りからな」

 

 

 

「そんなに前からか……何故言わなかった!能力を発動させるだけでもあなたの脳は超兵器に侵食されてしまうと言うのに、気を抜けば常時侵食されていたとなれば、人格どころじゃない――日常生活にだって支障をきたし兼ねないんだぞ!」

 

 

 

 

「どういう事なの!?」

 

 

 

 

「「!!?」」

 

 

 

 

洋美は思わず飛び出していた。

 

 

 

 

 

その顔を見た美波の表情が曇り、舌打ちをする。

 

 

 

 

洋美は、はれかぜメンバーの中でもっとも真っ直ぐな性格をした人物だ。

 

 

 

勿論、悪い事では決して無いのであるが、あらゆる意思が介在する現代にとって、その性格が必ずしもプラスに働くとは限らない。

 

 

 

今回の場合はその悪いケースが当てはまってしまったのだ。

 

 

 

大きな歩幅でこちらにやって来る洋美に、美波の眉間の皺が一層深くなる。

 

 

 

 

「黒木さん、悪いが大事な話をしてるんだ。ここは一旦――」

 

 

 

 

「岬さんと超兵器との間に何が有るの!?私、何も聞かされてない!岬さんも岬さんだよ!また何か隠して、勝手に何か決めようとしてるの?同じ命を預ける仲間なのにおかしいよ!気持ち悪いよ!」

 

 

 

 

 

美波の苛立ちが更に高まったのは言うまでもない。

 

 

実のところ、明乃に関する事は、彼女の過去と能力に関する事のみで、あまり公にはなっていなかったのだ。

 

 

 

特に脳の侵食に関しては、メンバーの恐怖を増長させてしまう懸念を考慮して、特に厳密に伏せられていた。

 

 

 

 

だが、今回は最も露呈してはならない人物に知られてしまった。

 

 

 

「黒木さん頼む。時間が無いんだ。艦長と話を――」

 

 

 

「時間が無い!?もしかして、岬さんはそれ程身体が良くないの?そんな状態で私達の命を預かってたわけ!?そんなの――」

 

 

 

「いい加減にしろ!」

 

 

 

「!!?」

 

 

 

「自分だけが被害者だとでも思っているのか!?自分だけが蔑ろにされているとでも思っているのか!?違うぞ!」

 

 

 

「私はそんな事思ってないし、そう言う事を言ってるんじゃない!」

 

 

 

 

「止めて二人とも!」

 

 

 

明乃の悲痛な叫びに二人は押し黙るも睨み合いは続いていた。

 

 

 

 

「クロちゃんお願い。少し美波さんと話しても良いかな?ここにいてもいいから……」

 

 

「ええ……」

 

 

 

「済まない艦長……私とした事が、冷静さを欠いていた様だ」

 

 

 

「大丈夫だよ。美波さんが私をここに呼んだのは、この現象について何が解った事があったからなんでしょ?」

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

美波の表情が一層険しくなったのを明乃は感じた。

 

 

 

 

「艦長、パナマ以降にあなたに渡した計測器の件は理解しているな?」

 

 

 

「うん……ヒュウガさんと共同開発したって言う脳波に現れる超兵器ノイズを検知する機器の事だよね?」

 

 

 

「そうだ。今回の件もそれで解ったのだが……それは一先ず後にしよう。問題は次だな。実はこの機器をウィルキアや蒼き鋼、そしてブルーマーメイドの一部の人間にも装着して貰っていたんだが――」

 

 

 

 

明乃は背中にゾクリとする様な、嫌な感覚を覚えた。

 

 

 

 

「¨全員¨の脳波からに例外無く超兵器ノイズが検知された」

 

 

 

 

「!!!?」

 

 

 

明乃は驚愕を隠せない。

 

 

 

当然であろう。

 

 

 

それは、全員に例外なく明乃と同様の症状が発症する危険性を有している事と同じなのだから。

 

 

 

 

「じゃ、じゃあ皆私みたいになっちゃうの!?」

 

 

 

「それは断言しかねるが、可能性は否定できない」

 

 

 

「そんな……」

 

 

 

「だがある程度の規則性は認められる。」

 

 

 

「規則性?」

 

 

 

「主に地位の高い人間の脳波に強く現れると言う点だ。そしてその者からは、大概超兵器の声が聞こえたとの証言も得ている。知名さんに於いてもそれは例外ではない」

 

 

 

「モカちゃんが!!?」

 

 

 

「ちょっ、ちょっと待って!全然話に付いて行けない……超兵器の声?脳波にノイズ?どういう事!?」

 

 

 

 

洋美には、二人がまるでSF小説の話でもしているかの様に思えた。

 

 

動揺する彼女を手で制しつつ、美波は話を続ける。

 

 

 

 

 

「順を追って話す。先ずは落ち着いて話を聞け」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「黒木さんもいる。ここは整理しつつ話を進めるべきだろう」

 

 

 

「解った。お願い美波さん」

 

 

 

 

「以前にも話した通り、あなたの過去には超兵器が関わっている。黒木さんには名前が伝わっていないかもしれないが、今回現れたフォーゲルシュメーラが過去に艦長との直接接触した超兵器なんだ」

 

 

 

「も、もしかして、岬さんが雷や嵐が苦手なのって……あの超兵器がご両親を――あっ!ご免なさい……」

 

 

 

「ううん、気にしないで。美波さん続けて」

 

 

 

「うむ。今までの見解では、そこで超兵器と艦長との間に何らかの絆が発生し、干渉が生じていると見ていた訳だが……」

 

 

 

「そうか……もしかして、超兵器と戦ってきたウィルキアの人達、そして今回超兵器と関わる事になった蒼き鋼やブルーマーメイドの皆にもその絆が発現したって事なんだね?」

 

 

 

「それだけじゃない。始めに全世界で同時多発的に生じた超兵器による襲撃によって、その影響が世界規模で発生している可能性が出てきたと言う事だ」

 

 

 

 

「なっ……!」

 

 

 

 

――いいか?

 

 

彼女は、動揺する明乃にもう一度自分へ視線を誘導する。

 

 

 

 

「この装置によって超兵器の干渉は、理性――つまり善悪を判断する前頭葉の一部に干渉して善の部分の機能を低下させる作用が有ることが解った。艦長……小笠原でのあなたの暴走はそれ故の事だ」

 

 

 

「それじゃまるで6年前のRATtウィルスと一緒じゃ――」

 

 

 

「いや……似て非なるものだな。RATtウィルスの場合は前頭葉自体の機能を低下させて本能を露にするものだ。確かに危険ではあるが、感染者の動きは単調で読み易く、ウィルス自体の遺伝子が変異しにくい物である為、ワクチンの接種で完全に抑え込める。だが……」

 

 

 

「超兵器の干渉には、有効な防御手段がない……だね?」

 

 

 

「ああ……更にだ。前頭葉の一部が機能している事がかえってタチが悪い」

 

 

 

 

つまりはこうだ。

 

 

 

RATtウィルスの場合、暴走状態に陥った者は、それがいけない事と理解しているにも関わらず、本能から来る衝動によって行動を制御出来なくなる。

 

 

 

対する超兵器の干渉は、脳があらゆる思考をこなして導かれる答えが、最終的に必ず惨禍をもたらす結果に繋がってくるのだ。

 

 

 

つまりは自身の正義や信念はそのままに、結果だけが破滅に繋がる。

 

 

 

例え虐殺をしようが、世界を滅亡させようが、自身は正しい行いをしており、何ら非など存在しない――そう言う価値観に歪められてしまうのである。

 

 

 

小笠原での明乃の暴走の切っ掛けは、江田を撃墜された事によりショックを受け、錯乱状態陥った芽衣の姿を見てしまった彼女の気持ちが歪められた結果からだった。

 

 

 

自身の家族が傷つけた対象に、例え家族の一人や二人失っても完膚なきまでの報復を行い、消滅させる事が¨最善¨であると判断した為である。

 

 

 

 

勿論、干渉に抵抗した明乃の心には、暴走の反動でとてつもない罪悪感と自責の念が押し寄せて来たのだが……

 

 

 

それが世界規模で発生するとなると看過出来る事態ではない。

 

 

 

そして……

 

 

 

「役職者に大きなノイズが出るのはどうしてなの?」

 

 

 

「ここからは私や博士、そしてヒュウガの私見が入るのだが……これ等の人物に共通するのは、皆武力を行使させる意思決定権を有している人物が大半なんだ。この意味が解るか?」

 

 

 

 

「……まさか!」

 

 

 

明乃は、自身の顔から血の気が引くと共に、強烈な吐き気と背筋に不快な寒さを感じた。

 

 

 

 

「そのまさかだ。人間どおしを争わせるは別にRATtウィルスの様に全員を暴走させる必要はない。解りやすく言うなら、国のトップや軍艦の艦長、若しくは武力を持つ集団に攻撃命令を下せる数人の意思を歪めてしまえばいいんだ」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

「解るか?一発だ。たかが数十グラムの銃弾一発で人は呆気なく死ぬ。やがて1つの死が生む怨みの連鎖が広がり、自分達では止められなくなる。人の心は低きに流れるからな……世界大戦だよ」

 

 

 

 

「世界大戦……」

 

 

 

「ああ。多くの人が死に、世界が疲弊する。もしそのタイミングで超兵器の総旗艦が起動したら……」

 

 

 

「抗う術がない世界は滅亡する……?」

 

 

 

 

「そうだ。だから艦長の身に起きている事は、他人事じゃない。逆に言えば、それを解決する事が事態打開の一歩となるんだ」

 

 

 

 

「そうだったんだね……」

 

 

「ねぇちょっと……ちょっと待って!なんかもう頭グチャグチャでついて行けない……世界大戦とか滅亡とか実感が湧かないわよ……」

 

 

 

 

彼女が混乱するのは無理もない。

 

 

 

普段トップ同士の会議の場へ赴く機会のない洋美にとっては、受け入れたくない内容のものなのだろう。

 

 

 

 

「あなた達、いつもこんな会話をしているの!?私、今の話だけで頭がおかしくなりそうよ……」

 

 

 

「だから敢えて話さない事もあるんだ。艦長達は、他の皆に余計な雑念が入らない様に憂慮している。相手が超兵器ともなれば尚更だろう?少しでも各員の動きにミスがあれば、その時点で私達の運命は決してしまうのだからな……」

 

 

 

「……」

 

 

 

洋美は今にも泣き出しそうな顔で明乃を見詰めた。

 

 

そんな彼女に、明乃はいつもと変わらない優しい笑顔を向ける。

 

 

 

 

「どうして!?どうして今そんな顔が出来るのよ!世界がこんなに大変で、岬さんの身体だって――」

 

 

 

「信じているからだよ」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

「私は皆を信じてる。美波さんはきっと私を助けてくれるし、クロちゃんだってはれかぜを支えてくれるって信じてる。だって【家族】だもん」

 

 

 

 

「岬さん……」

 

 

 

「クロちゃん私ね、昔は……ううん、きっと最近までは、自分がしっかりしないとダメなんだって思ってた。でもね、皆が私に一人じゃダメなんだって気付かせてくれたんだよ。そして世界も、きっと私達だけじゃ救えない。シュルツ艦長が言ってたんだ。¨アノ艦¨は世界が1つにならないと倒せないって……」

 

 

 

 

 

「自分がいかに困難な事を言っているのか解っているのか?」

 

 

 

「解ってるよ。だって神様ですらも、世界中にいる人間の意思を1つには出来なかったんだから……」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

「でもね、私は諦めないよ。だってそうじゃないと、皆が大切な人と永遠に会えなくなっちゃうから……」

 

 

 

 

二人は先程明乃が歌っていた歌詞を思い出していた。

 

 

 

どんなに嘆いても、どんなに待っていても、彼女の両親は返らず、帰る家もない。

 

 

 

 

超兵器襲撃を経て、明乃と同じ立場となった人々を見てきた彼女達には、それがどれ程悲痛な事なのかが理解できていた。

 

 

 

そしてそれが、自分の身にも降りかかって来る事も……

 

 

 

 

だが、その戦闘に立つべき明乃には時間が残されてはいなかった。

 

 

 

全てをしった洋美は、まるで達観した様な穏やか表情の裏に潜む明乃の脆さが心配でならなかった。

 

 

 

 

「でもその前に岬さんが……」

 

 

 

 

「大丈夫だよクロちゃん」

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

「さっきの歌、聞いてたんでしょう?」

 

 

 

「え、ええ……」

 

 

 

「あれ、小さい頃お母さんがよく私に唄っていた歌なんだ。不思議だよね……別な世界の歌なのに、まるでブルーマーメイドの歌みたい」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

「あの歌には続きがあるんだ―――」

 

 

 

 

《幾ら待てど暮らせども――

 

決してあの日は返らない

――

 

 

希望の瞳を携えて、見るは隣の友の顔――

 

 

海が牙剥き、溢れても――

 

 

友の待ちたる――あの場所へ帰らん》

 

 

 

 

「生きている私達は、生きている人にしか何かを出来ないって思うんだ。でもね……亡くなった人の為にって言えば偽善になっちゃうかもしれないけど、失われた悲しさや悔しさは、もうその悲劇を繰り返しちゃいけないって私達に訴えてる気がするんだ。だから……」

 

 

 

 

彼女は海へと身体を向けて目の前を真っ直ぐ見据えた。

 

 

 

「私は忘れないよ。お父さんもお母さんも、亡くなった人達の事も……絶対に無かった事にはしない!」

 

 

 

「!!!」

 

 

 

洋美は目を見開いた。

 

 

 

海……

 

 

彼女は明乃に海を感じていた。

 

 

 

生命の起源となる母なる優しさと、その中で逞しく生き、多くの者を率いる力強さをもった父の様な事逞しさ。

 

 

 

 

それらを併せ持つ存在、即ち……

 

 

 

 

「艦長……」

 

 

 

 

頭では理解していたつもりだった。

 

 

 

だが、様々なわだかまりを経て、この死に最も近い戦いの中で本音で話す事が出来た今、彼女にとって明乃は真に艦長となったのであった。

 

 

 

明乃は再び振り返って、彼女達にいつもと変わらない優しい笑顔を向ける。

 

 

 

 

 

 

「美波さん、前に言ってたよね?《まず自分にとっての日常を考えてみてもいいんじゃないか?どうしても無理なら仕事の事でも》って……」

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

「私決めたよ!私、先生になりたい!」

 

 

 

 

「先生?」

 

 

 

 

「うん。私、ブルーマーメイドを目指す子達に、海で【家族】がいる事がどれだけ素晴らしいのかを伝えてあげたいんだ。古庄教官が私達に教えてくれたみたいに……」

 

 

 

「艦長……」

 

 

 

 

「ダメ…かな……?」

 

 

 

 

「いいや、良いことだと思う。艦長、あなたにも目指すものが出来て良かった。その為に、私も頑張らねばな……」

 

 

 

「うん!信じてるよ美波さん!」

 

 

 

 

「さて……話は纏まった。二人ともはれかぜに戻るぞ。艦長には事態打開の為にもう少し付き合って貰うがな……」

 

 

 

 

「お、お手柔らかにね……」

 

 

 

3人は再度、この越え難い困難に立ち向かう決意を新たにしてはれかぜへと戻って行く。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

会議の終了後、ウィルキアの主な面々はブリーフィングルームに残っていた。

 

 

 

 

そこへ入って来たのは……

 

 

 

「ガルトナー司令!」

 

 

 

一同は姿勢を正して敬礼し、返礼を返したガルトナーが椅子へと腰を落とした。

 

 

 

 

「諸君、日本を出発してから今日までの不休の戦い、本当にご苦労だった」

 

 

 

 

「いえ!当然の事をしたまです!」

 

 

 

「うむ。それでだが……諸君らは、既に博士から超兵器の干渉が人々の脳にまで及んでいる件については聞いているな?」

 

 

 

「はっ!にわかには信じられませんが……」

 

 

 

 

「うむ……これは非常に由々しき問題だ。各国に公表しようにも慎重を期さねばならないだろう」

 

 

 

「同感です。荒唐無稽だと突っぱねられる位ならまだ良いのですが……」

 

 

 

「それを理由に軍事侵攻などされれば、世界の分断は必至だからな……」

 

 

 

 

 

彼等の懸念はこうだ。

 

 

 

超兵器の意思による干渉を公表すれば、仮に干渉を受けていなくとも、軍を有する国家が他国へと軍事侵攻をする理由を造り出してしまう。

 

 

 

あの時の侵攻は、超兵器の干渉で頭がおかしくなった者の命令だったので許してください……と

 

 

 

 

超兵器が特定の国家に属さなかった以上、戦後の賠償など困難であり、侵略された国家は泣き寝入りを余儀なくされる訳だ。

 

 

 

 

かといって公表しなければ、干渉によって戦争が引き起こされ、情報を持っていたのに公表しなかった国連やブルーマーメイド連合への信頼は失墜し、抑えの効かなくなった各国の軍が動き出す。

 

 

 

状況は政治的な面でも窮地に立たされていた。

 

 

 

「益々キールに行く必要性が増してきましたね……」

 

 

 

 

 

「うむ!バルト海での戦闘の前に、キールでの補給と今後の協議を進めて行こう。諸君らには無理難題ばかり押し付けるようで心苦しいのだが……」

 

 

 

「いえ!ウィルキア軍人……いや、解放軍として責務を全うして参ります!」

 

 

 

 

「そう言ってくれると助かる。他に何か報告事項はあるか?」

 

 

 

 

 

 

「司令、それに艦長もよろしいでしょうか?」

 

 

 

「ヴェルナー?どうかしたのか?」

 

 

 

「ええ、この場をお借りしてご報告しておきたい事が……」

 

 

 

「どの様な内容なのか?」

 

 

 

 

「申し上げます」

 

 

 

ヴェルナーの表情が険しくなり、場の空気が張り詰める。

 

 

 

 

 

「覚えておいででしょうか?超兵器【ヴィア・サクラ】の事を……」

 

 

 

 

「ああ。我々の世界のヴェスヴィオ火山から発掘された¨古代の超兵器¨の事だな?」

 

 

 

「そうです。筑波大尉から相談を受けた私は、ティレニア海での戦闘後、大戦艦ハルナに依頼をしましてヴェスヴィオ火山を調べて貰ったのですが……」

 

 

 

「………」

 

 

 

「我々の世界と同様に、超兵器と思われる巨大な物体が埋没している事が判明しました」

 

 

 

「何だと!?確かなのか?」

 

 

 

 

一同は驚愕していた。

 

 

 

 

 

「はい、しかも我々の世界で発見されたヴィア・サクラと同型の物と判明しております」

 

 

 

「何故ヴェスヴィオ火山に――」

 

 

 

「それは私からお話しします」

 

 

 

博士に全員の視線が集中する。

 

超兵器【VIA SACRA(聖なる道)

 

 

 

彼等の世界にて、ヴェスヴィオ火山に埋没していた超兵器である。

 

 

 

 

現代兵器のどの形状にも属さない特殊な形状と未知なる物質によって、原型をほぼ留めて発見されたソレは、帝国によって発掘され、超兵器技術の向上の為に利用されようとしていた。

 

 

 

結局、シュルツ達の介入によってそれは阻止されたのだが、ヴィア・サクラは彼等に様々な謎を叩きつけたのである。

 

 

 

 

 

 

「今回の超兵器の配置、そして我々の世界の例から見て、恐らく日本やハワイを含めた火山地帯には同様に超兵器の残骸が眠っているとみて間違いないでしょう。火山である理由は不明ですが、今回発見された超兵器とヴィア・サクラが発見された地層から推測するに、¨全世界の生命の大量絶滅¨が引き起こされた時代に存在していたことが明らかになりました」

 

 

 

 

「絶滅……」

 

 

 

「ええ。過去の手掛かりは僅かであり、かつて人類の様な知的生命体が存在していた証拠は無いのですが、仮に知的生命体が存在していなかったと仮定するならば、超兵器の意思……いえ、マスターシップの目的は、人類の滅亡ではなく、¨生命の滅亡¨なのかもしれません」

 

 

 

 

フィンブルヴィンテル(大いなる冬)……か」

 

 

 

「確かにこの星に突如訪れた氷河期と話が合致しますね。もしかしたら、世界に伝わる神話の争い、そして滅亡はこれを指しているのかもしれません」

 

 

 

彼らは一様に口をつぐんだ。

 

 

 

 

過去にもこの様な事が有ったのか――

 

 

だとしたら何故か――

 

 

 

何故複数回に渡って世界に干渉して来るのか――

 

 

 

 

謎は更に深まって行く。

 

 

 

 

 

この段階では結論が出ないと判断したガルトナーは、咳払いをして全員の視線を自分へと集めた。

 

 

 

 

「その件に関する調査は博士に一任するとして……問題はそれを公表すべきか否かだな」

 

 

 

 

「はい、火山は各国の領土内に有ります。もし未知なる技術が自国に眠っているとすれば――」

 

 

 

「周辺諸国を巻き込んだ争いの種にもなりかねん。超兵器機関こそ存在しなかったが、ヴィア・サクラだけでも我々にかなりの戦力をもたらしたからな」

 

 

 

 

彼らが持ちうる高威力の兵器技術は、帝国からの奪取のみならず、発掘された超兵器からも得ていた。

 

 

 

装甲に於いても極めて軽く、にもかかわらず強靭な性能を有していた為、分析解体を経てあらゆる部品や新生はれかぜの装甲等に利用されている。

 

 

 

 

迂闊に公表すれば、軍拡競争やソレを巡っての戦争に発展する可能性すらあるのだ。

 

 

 

 

「司令、恐れながら今はまだこの事を公表すべきではないと進言致します。しかし、戦後のこの世界の安寧と、新たな超兵器技術の開発阻止は最重要項目でしょう」

 

 

 

「同感だ。マスターシップに時空を越える能力がある以上、破壊しても再びそれが開発されて他世界に影響を及ぼさんとは限らんからな……とにかくだ、その件も含めて議論を加速する必要がありそうだ。引き続き諸君らには苦労を掛けるが、宜しく頼む」

 

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

自身にに敬礼をするシュルツに、ガルトナーは自分の無力さを思い知らされるのだった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

群像は、一人で401の甲板から海を見ている。

 

 

 

 

「艦長」

 

 

 

「ヒュウガか……話は聞いたよ。それで?何か収穫はあったのか?」

 

 

 

 

「少し……だけどね。隣いいかしら?」

 

 

 

「ああ、勿論」

 

 

 

ヒュウガは群像の隣に立ち、手摺に肘を置いて寄り掛かる。

 

 

 

その実、二人はこう言った会話の場を良く設けていた。

 

 

 

霧の視点からでは解らない事も、人間である群像との会話を通じて理解できる事も有るからだ。

 

 

勿論、その逆も然りであるが、今回は情報の共有が目的である。

 

 

ヒュウガは視線を海に向けたまま口を開いた。

 

 

 

 

「解らない事はまだ有るのだけれど、役職者にノイズが大きく現れるのは知っているわね?」

 

 

 

「ああ……この間話してくれたな」

 

 

 

「ただ、役職者の中にも特段ノイズが大きい人物がいたのよ」

 

 

 

「ウィルキアのシュルツ艦長や、はれかぜの岬艦長の事か?」

 

 

 

「ええ……恐らく彼等が三つの世界の代表の様なものと考えるなら、その例に当て嵌めると蒼き鋼では艦長……あなたがそれに当たる」

 

 

 

「だろうな」

 

 

 

「でも違うの、蒼き鋼で最も強くノイズが現れたのは¨イオナ姉¨さまだった」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

群像の表情が険しくなる。

 

 

当然、自身が超兵器に世界の代表者として認識されていない事が悔しいと言う事ではない。

 

 

 

 

問題なのは、より影響力のある人物に干渉しうる超兵器の意思が、何故イオナを選んだのかが重要であるからだ。

 

 

 

 

 

 

「それは、イオナが¨元総旗艦ヤマトとの直属の艦艇¨である事が起因しているのか?」

 

 

 

 

「無関係とは言えないわね……ただ、私達は現在アドミラリティコードの支配圏には無いわ。本来なら、その代弁者たる総旗艦からの指揮からも外れている筈よ。ただ……」

 

 

 

 

「ただ?」

 

 

 

「総旗艦直属であった時代の記録を覗こうとしても、プロテクトが掛かっていて閲覧が出来なかったの。総旗艦の支配から解放されているこの世界で……よ?」

 

 

 

「君が解錠出来ないレベルのプロテクトか……イオナ自身にその能力が秘められている可能性は?」

 

 

 

 

「姉さまのコアは通常よりも演算能力の高いデュアルコアを何故か有しているわ。でも本来、巡航潜水艦クラスのコアなら艦隊旗艦の資格を持つΔコア以上の干渉を拒否する権限は無いの。勿論、巡航潜水艦がメンタルモデルを持つ事自体が異例なのだけれどね……」

 

 

 

「………」

 

 

 

二人は沈黙した。

 

 

 

実際、霧で随一のハッキング能力を有する彼女がお手上げになった時点で、イオナの真相には辿り着けない可能性が高いからだ。

 

 

 

そもそも彼はおかしいと思っていた。

 

 

 

それは以前に彼女が発した――

 

 

【千早群像に逢い、従う事……それが私に課せられた只一つの¨命令¨】

 

【群像、私は貴方の艦。貴方の命令に私は従う】

 

 

 

 

彼女の言葉が確かならば、イオナは少なくともヒュウガのハッキングをプロテクト出来る程の上位存在に前途の内容を命じられている筈なのだ。

 

 

 

ところが、その指揮圏外にいる現在に於いても、彼女は彼の命令に実直に従い続けていた。

 

 

例を挙げるならバミューダでの一戦だ。

 

 

 

 

人間の戦術に対応しうる超兵器に対抗する為に、群像はイオナに自分の意思で行動せよと伝えた。

 

 

 

しかし彼女は、群像の命に従う様指示されていると、難色を示したのだった。

 

 

 

 

群像は、イオナの出時を含めた事柄を、自らの世界に於いてコンゴウ艦隊を突破し、総旗艦であるヤマトに問い質す必要性を強くする。

 

 

 

 

 

二人の間に再び沈黙が訪れ、今度は群像が先に口を開いた。

 

 

 

 

「イオナの件は取り敢えず保留にしよう。可能性の段階では混乱を生じかねない。それよりも――」

 

 

 

「あなたの聞きたい事は解っているわ。この事態、超兵器側と異世界艦隊を含めた人類側と言う構図に割って入って来ている¨第3の存在¨についてね?」

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

彼がヒュウガに真に求めていた内容とはそれの事だった。

 

 

 

 

「これも一度整理して話す必要が有りそうだな……まず、第3の存在を一先ず置いておくとしてだ。実は俺にも超兵器の声が聞こえる時がある。だが、その状況は岬艦長のもとはきっと別なのだろな」

 

 

 

 

「断定とは言えないけれど、私もそう思うわ。超兵器の声が聞こえた状況と、その人物を本人の証言を元に照らし合わせてみたのよ」

 

 

 

 

「結果は?」

 

 

 

「弁天の宗谷艦長や知名艦長、そしてドイツのテア・クロイツェル艦長――勿論、シュルツ艦長にも聞こえていた。このケースがあなたと同一と思われる事例なのだと考えると、あなたが聞こえていたのは、現状として戦闘海域に展開している超兵器の意思と考えるわ」

 

 

 

 

「ふむ……アームドウィングなど、相対している際に聞こえていたのはそう言う事か。岬艦長はどうなんだ?」

 

 

 

 

「彼女の場合だと、超兵器の意思……いえ、ウィルキアの言葉を借りるならマスターシップの意思と言えるのかしら?その声が主に聞こえているみたい。例外として、彼女の両親を死に追いやったと言うフォーゲルシュメーラの声だけは聞こえたらしいけどね」

 

 

 

 

「見えてきたな……」

 

 

 

 

つまり、現在に於いて確認されている超兵器の意思の種類はその二つに分けられた。

 

 

そして、事の本題となる第3の声に関しては――

 

 

 

 

 

 

「では第3の声について……君の見解を聞かせて貰えるか?」

 

 

 

 

「ええ。聞き取りによって判明した結果によると、第3の声が聞こえている人物は、マスターシップの意思を聞いたあの3人よ。そして聞こえた状況は大きく分けて2つ」

 

 

 

 

「2つ?」

 

 

 

 

「一つ目は、私達とウィルキアがこちらに転移して来る直前――あの謎の振動に包まれている時。2つ目は、異世界艦隊に犠牲者が出かねない状況の時よ」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

ヒュウガは群像の沈黙を、横目に見ながら続けた。

 

 

 

 

「具体的言うなら、バミューダではれかぜに対し、ノーチラスが量子魚雷を発射した時ね。記録を見せて貰ったけど、状況的に見て、アレの存在を知らなかったはれかぜは、重力の奔流から逃れる術はまず無かったわ。なのに――」

 

 

 

「生還した……か」

 

 

 

「ええ。何故か急に重力の力が弱まったみたい。そしてその状況に類似するのは――」

 

 

 

「ムスペルヘイムが重力砲を発射した時だな?あの時、その場にいる全ての者がアレを止められる状況に無かった。だが、いざ発射された重力球は急に威力を失った様に見えたが……」

 

 

 

「正にその通りよ。それと時を同じくして、岬艦長が例の声を聞いている」

 

 

 

 

「声は何と言っていたんだ?」

 

 

 

 

「不明瞭で聞き取れない部分が多いらしいけど、何かを懇願している様に感じたと聞いているわ。そこから判断すると、その声の主によって私達は¨元の世界から呼び寄せられた¨と考えているの」

 

 

 

 

「!」

 

 

 

今まで海から視線を外さなかった群像が初めて隣のヒュウガの顔を見詰めた。

 

 

 

彼女は頷き、根拠を求めてくる彼に答える。

 

 

 

 

 

 

 

「根拠は……残念ながら無いのだけれど。でも得心はいくわ。戦闘の記録から見ても、超兵器のウィルキアや蒼き鋼に対する執拗な攻撃。これは私達の存在が超兵器にとってイレギュラーな存在だったと見るべきよ」

 

 

 

 

「確かに……俺達が居なければ、この世界は瞬く間に掌握されていただろうな。だが、どうやって俺達をこの世界に送り込んだんだ?それは、遠からず俺達の元の世界への帰還にも繋がる無いようだが……」

 

 

 

 

「それは今のところは解らない……でも、方法と言うならば可能性は無くはないわ」

 

 

 

 

「言ってみてくれ」

 

 

 

 

「マスターシップが超兵器を他世界へ送り込む技術があると仮定して、それを利用すると言う手段よ」

 

 

 

 

「成る程……だから横須賀で超兵器が現れたタイミングと俺達が現れたタイミングにあまりズレが無かった理由が解ったよ。それに、第3の声が超兵器の戦闘中に聞こえてくる理由もな……」

 

 

 

 

 

「ええ。恐らくは、超兵器特有の意思伝達手段に無理矢理割り込んで居るのでしょうね。だから不明瞭な聞こえ方なのかもしれないわ。」

 

 

 

 

「第3の意思による干渉はそれだけなのか?」

 

 

 

「いえ……ある意味この話題こそが、この世界に於いて重要とも言える内容よ」

 

 

 

 

「聞かせて貰えるか?」

 

 

 

 

「私達に干渉しうる超兵器のノイズ、それとは全く逆の波長が、第3の意思が現れた際に検出されたのよ」

 

 

 

 

 

「なに!?」

 

 

 

これは初耳であった。

 

 

 

 

彼女達の研究が進展したのは、明乃を含めた複数の者に脳波を検知する計測機器を装着させたパナマ以降になる。

 

 

 

そこからはヴィルヘルムスハーフェンの戦いが終わるまでひたすら連戦であった為に、報告する暇が無かったのだ。

 

 

 

 

 

 

「元々は、小笠原で岬艦長が干渉を受けて暴走した際、美波ちゃんが偶然発見したものよ。彼女の証言によると、岬艦長は¨はれかぜの意思¨なるものと会話したとか……でもそれが第3の意思とどう関係があるかは解らない」

 

 

 

 

「だがその波長を用いれば、干渉を止められるんだな?」

 

 

 

「それは無理よ」

 

 

 

「………」

 

 

 

「超兵器の波長には特定の規則性がない。第3の意思の様に完璧に無効化は出来ない。でも――」

 

 

 

「低減は出来る……か?」

 

 

 

「ええ。超兵器の波長を検知したら、それと同調して素早く逆の波長を放てば、完璧とまでは行かなくとも、限りなく低減は可能でしょうね。今、その器機を美波ちゃんと共同開発しているわ。人類にも模倣可能なレベルにまで持って行くまでに少し時間が掛かりそうだけど……」

 

 

 

 

「あとは待つしかない……か」

 

 

「そう言う事。私からは以上だけど何か質問はあるかしら?」

 

 

 

「いや、これだけでも十分収穫だ。良くやってくれたヒュウガ」

 

 

 

「いいえ……それよりもまだここにいるつもり?結構冷えて来たみたいだけど」

 

 

 

「ああ、もう少し頭を整理したいんだ。君は戻って休んでくれ」

 

 

 

「ええ……そうさせて貰うわ」

 

 

 

 

 

ヒュウガが白衣を翻して去って行くのを横目で見送った群像は、再び海へと目を向ける。

 

 

 

 

(超兵器の時空を越える力……か。願わくば、俺達が元の世界に戻る手掛かりとなれば良いが)

 

 

 

 

だが、ヒュウガの言からもあった様に、現在ではどうにもならない事柄が多い事も事実であろう。

 

 

 

 

(真実が、戦いを進めて行った先にしか無いのであるならば、今は目の前の事に集中しよう。そうすれば、更に何かが見えて来るかもしれない)

 

 

 

 

群像は、海から視線を外し、401の中へと戻って行った。

 

 

 

   + + +

 

 

翌朝

 

 

 

残りの業務をヴィルヘルムスハーフェン所属のブルーマーメイドに引き継いだ異世界艦隊は、出発の準備を整えていた。

 

 

 

そこへ――

 

 

 

「アケノ!」

 

 

 

「ミーちゃん?それにテアさんも!」

 

 

 

「儂らもヌシらと共に行くぞ!二人で何がと言うかもしれんが、出来る事なら何でもするつもりじゃ!」

 

 

 

「二人が考えて出した結論なんだね?」

 

 

 

「勿論じゃ!この艦隊加わる事が何を意味するのかも知っとる!知った上でヌシらと共に行きたいんじゃ!」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

明乃は暫し俯き、そして大きく頷いた。

 

 

 

「解った。一緒に行こうミーちゃん、テアさん」

 

 

 

「アケノ……ああ!これからも宜しく頼むぞ!」

 

 

 

 

「自分達ばっかり水臭いんじゃないの?」

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

ミーナは声の主に顔を向け、目を丸くした。

 

 

 

 

「れ、レターナ!?」

 

 

 

 

快活そうな印象と、後ろに束ねられた長髪、そしてピンと跳ねた前髪が特徴の女性、レターナ・ハーデガンがこちらに向かって白い歯をニッと向ける。

 

 

 

更に――

 

 

 

「ローザ!それに――ローゼリッテ!」

 

 

 

「リーゼロッテですわ!あなたわざとですわね!?」

 

 

 

ショートボブの髪とおっとりした印象のローザ・ヘレーネ・カールスと、金色の髪を後ろにかき揚げ、気品溢れる佇まいを見せたリーゼロッテ・フォン・アルノーが、こちらにやって来た。

 

 

そして――

 

 

 

「皆!」

 

 

 

学生時代、学生艦アドミラルグラーフシュペーに搭乗していたクラスメイト達が勢揃いしていた。

 

 

 

 

「ヴィルヘルムスハーフェンの復興に来たのか!?」

 

 

 

「違うよミーナ。私達も艦長と共に行くために来たんだ」

 

 

 

 

「レターナ……だ、だが危険かもしれないんだぞ!?」

 

 

 

「へぇ~ソレをミーナが言っちゃうんだぁ。きっとはれかぜの皆だってそう思っていたのを、ミーナがゴリ押ししたんだろ?」

 

 

 

「うぐっ……」

 

 

 

「じゃあ言いっこ無しだな!」

 

 

 

「しかし――!」

 

 

 

「嘗めないでくださいましっ!」

 

 

 

「リーゼロッテ……」

 

 

 

「あなた方の為だけに行くのでは有りませんわ!度重なる襲撃によって失われた多くの仲間たちの命に報いる為にも、必ず超兵器を止める――皆そう言う覚悟をもって集まっているのですわ!」

 

 

 

 

「その通りさ!」

 

「その通りですわ!」

 

 

 

 

「お前たちは……レン!それに――」

 

 

 

「はい!遅れましたが何とか間に合ったようですわね!」

 

 

 

「ブリジット!」

 

 

 

 

ミーナ達の同級生でもあり、学生艦の艦長を務めた経験もある、赤毛の長髪に男装の麗人の様な整った顔立ちのレン・シュテーゲマンと、イギリス所属で、学生時代キングジョージⅤ世の艦長を務めた経験もあり、上品な佇まいに、金色の長髪をサイドで纏めたブリジット・シンクレアが立っていた。

 

 

 

 

「ブリジット!北に去っていった超兵器達と鉢合わせにはならなかったのか!?」

 

 

 

「ええ。異世界艦隊から速やかに情報が提供されましたから。それよりも――」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

「この戦いは、自分達だけの戦闘では有りませんわ。我々の首都ロンドンも焔に巻かれました。これ以上、罪無き方々が命を失うのは堪え難い屈辱ですわ。我が国の女王ネオクイーン・エリザベート一世陛下も、事態の終息をお望みになっておられます」

 

 

 

「そう言う事だミーナ。どちらにしても二人では何も出来ないと悩んでいたんだろう?」

 

 

 

 

一同が、ミーナとテアを見詰める。

 

 

 

嬉しかった。

 

 

 

かつて競いあった仲間たちが、共通の目的の為に再び集結したことが……

 

 

 

彼女は明乃に向き直って彼女の顔を見詰める。

 

 

 

 

 

明乃は静かに頷き、そして後ろに控えている艦長達に視線を送る。

 

 

 

 

最早異論は誰にもなく、群像とシュルツが頷くと、辺りからは歓声が巻き起こった。

 

 

 

 

「大所帯になりましたね。彼女達の乗る艦はあるのですか?」

 

 

 

「ええ……航空戦艦ペガサスを失いましたからね。その補強の為に改装を続けていたグラーフツェッペリン級一隻と――」

 

 

 

群像はシュルツの表情が少し険しくなるのを感じた。

 

 

 

 

「¨準超兵器級¨艦船を数隻です」

 

 

 

「!?」

 

 

 

群像は目を丸くした。

 

 

 

無理もない。

 

 

¨準¨とは言え、超兵器クラスの兵装をウィルキアが所持していたのだから。

 

 

 

 

「ご説明願いますか?シュルツ艦長」

 

 

 

「千早艦長の懸念は尤もです。しかしながら、ここまでの戦いで戦力不足を実感したことは確かでしょう。我々は以前、超兵器を小型化した準超兵器級艦船を複数拿捕しておりました。ここまで公表しなかったのは、色々と下準備をしていたからです」

 

 

 

「下準備ですか?」

 

 

 

 

「はい。準超兵器級には小規模ながら超兵器機関が存在します。暴走の危険がある以上、彼女達を乗せる訳には参りません」

 

 

 

「成る程……超兵器機関を別の機関に置き換え、この世界での仕様にある程度代えてから借与する訳ですね?」

 

 

 

「そうです。念の為、兵器情報漏洩の措置も、大戦艦ヒュウガに協力して頂いております」

 

 

 

 

「どの様な艦船なのですか?」

 

 

 

 

「ナギ丸級とレイガナーズ級。いずれも戦艦です。見た目もさほど違いは有りません。ですが、非常に強固な守りと攻撃力を備えています。ナギ丸級は弁天の代用として、レイガナーズ級、そしてグラーフツェッペリンは欧州から加わった組に使用して頂きます。宗谷艦長を納得させるのに苦労はしましたが……」

 

 

 

 

「確かに……あの方は自艦に愛着のある方ですから」

 

 

 

 

「いや、ナギ丸と言う名前がどうやら気に入らないらしく、準超兵器級の中から、気に入った物を抜粋して頂きました。確か……月黄泉だったと思います」

 

 

 

 

「あの方らしいですね……」

 

 

 

「ええ……」

 

 

 

 

二人は歓喜に湧く港を見詰めた。

 

 

 

 

 

笑顔を見せる彼女達の表情が絶望に変わらない事を祈りながら……

 

 

 

その後

 

 

 

 

新たな仲間を加えた異世界艦隊は、ヴィルヘルムスハーフェンを出港し、カテガット海峡へ舵を切る。

 

 

 

今後の情勢を占うキール、そして総旗艦の直衛を務める超兵器が待つバルト海に赴く為に……

 

 

 

 

 

 

2章前編

 

 

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


先ずは、注釈から――


今話冒頭の明乃の歌は、この話に沿う様に完全に私が考えた文言であり、何から引用した訳では有りませんので、ご理解願います。






皆さま方のお陰で、漸くストーリーを折り返す事が出来ました。




この場をお借りして、深く御礼申し上げます。




2章後編は、数話の番外編の話を挟んで送りして参ります。




今後ともとらふりを宜しくお願い致します。
































とらふり!



リーゼロッテ
「フフッ、流石のミーナも私の登場に驚いた様ですわね。愉快ですわ!」



ミーナ
「リーゼロッテ!あぁ、劇場版の大スクリーンで【ポロリ】したリーゼロッテェェェ!会いたかったぞ!」



リーゼロッテ
「や、止めなさい!大体おかしいと思ったのよ!アニメ版本編で晴風の皆さんはスクミズだったのに、学園祭の時は皆セクシーな水着で――ハッ!だから、実習のシオリに【自前の水着】が持参品の項目に入っていましたの?」



ミーナ
「劇場版ともなれば、みな背伸びをしたくなるものだろ?私もテアと買いに行って見せ合いっこしたぞ?そう言えばココにも見せたな、何故か鼻血を出していたが」




リーゼロッテ
「くっ……!折角の貴重な登場シーンで肌まで曝しましたのに、大和型の新キャラに負けてしまいましたわ!」



ミーナ
「でもあの者達も、結局はモエカに活躍を取られたと嘆いていたな。そしてモエカも、シロとアケノのベッドシーンとラストの抱擁シーンを羨ましがっていたし、まぁ両成敗ってことだ」




リーゼロッテ
「つまり皆、背伸びしたかったって訳ね……」
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