トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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今回はアルペジオ中心の話を2本お届け致します。



それではどうぞ


並行世界のBlue Steel  …Arpeggio mix

  

 

 

   + + +

 

 

 

 

キ…キ…キ……

 

 

 

(……)

 

 

 

キールへ向かっていた筈の¨彼¨暗闇の中にいた。

 

 

 

 

¨存在する¨

 

 

 

確かにそれだけは理解出来たが、彼には自分が実体を有していると言う実感が全く湧いてこなかった。

 

 

まるで魂のみで浮遊しているかの様に……

 

 

 

 

《…ぞうくん。群像くん私ね…今日の研修楽しみにしてたんだよ》

 

 

 

 

誰だ…?

 

 

 

突如聞こえた声に彼が最初に抱いた率直な感想だった。

 

 

 

そして次に浮かび上がるのは膨大な疑問……

 

 

 

(知っている。俺はこの声の主を知っている!だが、解らない……思い出せないだけか?忘れているのか?それとも¨知らない¨のか?)

 

 

 

 

《そうよ》

 

 

 

(!)

 

 

 

彼の目の前に突如として宇宙服を着た人物が現れる。

 

 

 

(誰だ!)

 

 

 

《それは¨この¨貴方にとって重要な事ではないわ。重要なのは¨アノ¨貴方とこの貴方の現在の関係性の方よ。そして¨この私¨と¨アノ私¨の関係性でもある》

 

 

 

(どういう事だ……)

 

 

 

《解らないの?¨どちらも¨自分自身の事なのに……まぁ当然よね。互いは¨因果的に不干渉¨なのだから……》

 

 

 

 

彼は彼女の言っている意味がまるで理解できなかった。

 

 

使用されている言葉が安易過ぎて真実が全く見えて来ないのである。

 

 

だが、彼の疑問は尽きる事は無く混乱だけが脳裏を駆け巡って行く。

 

 

 

《はぁ……》

 

 

 

宇宙服の人物は深い溜め息を漏らすと、彼に近付いてくる。

 

 

 

《少しだけ貴方に見せてあげましょう。¨もう一人のグンゾウ¨の姿を……》

 

 

キ…キ…ギッ……

 

 

(……っ!)

 

 

 

暗闇の中にも関わらず、強烈な平衡感覚の喪失を覚え、¨グンゾウ¨は意識を失った。

 

 

 

   + + +

 

 

 

ピッ…ピッ…ピッ……

 

 

 

 

(ここは……どこだ?)

 

 

 

グンゾウは辺りを見渡す。

 

 

 

そこには見たこともない機器が並んでおり、定期的に電子音が鳴り響き、無数の機器とコードが延びるその中心には円形の機器が鎮座していた。

 

 

 

彼はソレに妙な感覚をおぼえ、近づいてガラス窓の中を覗く。

 

 

 

(なっ!)

 

 

 

彼は驚愕と、それにも況して動揺を隠しきれなかった。

 

 

無理もない何故なら……

 

 

 

(これは……¨俺¨なのか?)

 

 

 

 

ガラス窓の中には¨グンゾウ¨が眠っていたのだ。

 

 

 

身体には幾本ものコードが繋がれ、口には酸素を供給していると思われるマスクが装着されている。

 

 

 

(一体これは……俺はどうなってしまったんだ!まさか超兵器との戦闘で敗北して……)

 

 

 

 

《それはないわ》

 

 

 

(!)

 

 

 

振り向くと先程の宇宙服の人物が立っていた。

 

 

¨彼女¨は眠っているグンゾウの窓を優しく撫でるとこちらへと振り向く。

 

 

 

 

《だってこのあなたと今私と話しているあなたは全くの別物だもの》

 

 

 

(言っている意味が解らな――)

 

 

バチィ!

 

 

 

(あ゛っ…!)

 

 

 

グンゾウの中に突如としてイメージが流れ込んでくる。

 

 

 

 

 

仲間達との出会いから霧の艦隊との戦闘。

 

 

 

 

(解る…だが、解らない……)

 

 

 

つまりはこうだ。

 

 

 

宇宙服の人物から見せられた記憶には、彼が理解できる内容と、そうでない者があった。

 

 

 

とりわけ理解出来ないものに関しては、正確に言うなら彼自身が体験していない事象と、そして既存の事象との齟齬の2つに分類された。

 

 

 

後述に関しては言うまでもなく彼の艦であるイオナについてだ。

 

 

 

セーラー服を来て、人形の様な無表情を浮かべる彼女に対して、見せられた記憶の中にいる彼女は、ポップなTシャツにショートパンツ、そして縞模様のニーソを履いており、誰に対しても気さくに会話をし、何よりもおどけた表情を浮かべる事さえあった。

 

 

 

 

普段の彼女を良く見ているグンゾウからすれば、それは同じ顔をした別の存在に思えてならない。

 

 

更にだ、彼の父親が失踪した事を苦に自殺した筈の母、沙保里が北海道(北管区)にて存命している事にも驚いた。

 

 

 

彼は今一度自身の記憶と見せられた記憶との照合を始める。

 

 

 

(響真瑠璃……確かに同じクラスにいたがあまり話した記憶がない。401のソナー手として行動を共にしていた時期があった?刑部邸襲撃への介入記憶がない…ハルナとキリシマが行動を共にしていない理由だろうか…?それに硫黄島への陸軍襲撃も無かった。コンゴウとの戦闘の記憶…これは俺達がまだ彼女に接触しなかったから保留にするとして……)

 

 

 

 

《群像くん私ね……今日の研修楽しみにしてたんだよ》

 

 

 

(うっ…!)

 

 

 

はっきりと顔が見えた訳ではなかったが、何故か彼女の事を思い出そうとすると、頭に激しい痛みが走る。

 

 

だが、彼女がこう呼ばれて居たことは頭に残っていた。

 

 

 

(アマハ……コトノ?)

 

 

 

《駄目よ》

 

 

 

ギ……!

 

 

 

(あ゛っ……!)

 

 

 

 

グンゾウは頭に走る激痛でどうにかなってしまいそうだった。

 

 

 

そんな彼の様子など気にする素振りも見せない彼女は淡々と続ける。

 

 

 

 

《ここでの疑問は捨て去る事ね。でなければ魂に負荷がかかって消滅しかねないわよ》

 

 

 

 

 

(では何故、俺をここに呼んだんだ!)

 

 

 

 

《私が呼んだとでも?冗談にしては面白くないわ。因果を崩壊させかねない因子を私がわざわざ招くと思うのかしら?》

 

 

 

(では誰だと言うんだ!)

 

 

 

《……》

 

 

 

(答えてくれ!)

 

 

 

 

《来たわ……》

 

 

 

(!?)

 

 

 

グンゾウは宇宙服の人物が向いた方角へ視線を送った。

 

 

 

部屋の入口には3人の人物が立っている。

 

 

 

《二人は解るわね?コンゴウとそして……》

 

 

 

(そんな……)

 

 

 

グンゾウは驚愕した。

 

 

 

コンゴウの姿は、彼の世界でコンタクトを取ってきた彼女の印象とは少し違う。

 

 

ピッグテールに黒いドレス姿ではなく、長い金髪を下ろし、Tシャツとショートパンツと言う出で立ちだった。

 

 

 

どことなくこの世界でのイオナを彷彿とさせる。

 

 

しかし今はそんなことはどうでも良かった。

 

 

 

彼女に手を引かれていた白いシャツにサスペンダーが付いた短パンを着ている幼い少年。

 

 

それはどう見ても――

 

 

 

(俺!?)

 

 

 

 

コンゴウに手を引かれていたのは、幼い姿の自分自身だった。

 

 

 

 

彼女は幼いグンゾウに視線を向けると、彼はコンゴウの手を離し、彼女は眠ったままのグンゾウが入っているカプセルへと向かい――

 

 

 

 

「………」

 

 

 

まるで覆い被さる様に、自らの身体をカプセルに眠るグンゾウの身体に重ねてガラス越しに彼女とグンゾウの顔の距離が近付き、彼女は眉を潜めつつもまるで愛しい人を求める様な複雑な表情で彼を見詰めた。

 

 

 

 

「千早群像……何故だ。何故お前はいつも私の手の中からすり抜ける。何故なんだ……」

 

 

 

 

眠り続ける彼からはその答えは返ってこない。

 

 

 

彼女はその事に言い知れぬモヤモヤ感を募らせるのだった。

 

 

 

 

「またここへ来ていたのですか?コンゴウ」

 

 

 

「チョウカイ……」

 

 

 

彼女が振り返った先には、チョウカイと言われた癖のある黒い長髪を後ろで束ねて渦巻き模様のビン底眼鏡を掛け、エプロン部分に【撃沈倶楽部】の文字の入った和風メイドの服装の女性が立っていた。

 

 

 

 

チョウカイは幼いグンゾウの頭にそっと手を置き、そのまま頬や顎に手を伸ばして優しく撫でてると彼は気持ち良さそうに目を細める。

 

 

 

 

「彼の魂はやはりこの子に定着していない様です。ですが、かといって眠り続ける彼に固執しても得られる物は無いかと判断出来ます」

 

 

 

「解っている……」

 

 

 

「では何故ここに?」

 

 

 

「私にも解らん。ただ……千早群像は敵であれ、約束を違える人物ではないと考えたのでな。どうしても、もしやと思いここへ来てしまうんだ」

 

 

 

「そうでしたか……何か進展はありましたか?」

 

 

 

「聞かなくとも解る質問をするのはメンタルモデルの悪い癖だぞチョウカイ」

 

 

 

「そうでしたね。しかし彼が【世界の鍵】だと言うのであれば諦める訳には参りません」

 

 

 

「そうだな……」

 

 

 

二人の間に暫しの沈黙が流れる。

 

 

 

先に口を開いたのは、コンゴウであった。

 

 

 

「まぁ、こうしていても始まらない。何か用事があって来たのだろう?」

 

 

 

「ええ……グンゾウにおやつをと。確か¨どら焼き¨とか言う人間の嗜好品です。今、ネットワークに上げます」

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

「成る程……材料はどうしたんだ?」

 

 

 

「残っていた文献から抜粋して再現してみました。多分上手くいっていると思うのですが……尤も、これはグンゾウに魂が上手く定着するかの試験も兼ねていますので、とにかく食べさせてみて様子を見たいと思います」

 

 

 

 

「解った。それでは――」

 

 

 

コンゴウはまるで浮く様に幼いグンゾウの隣へと跳躍して着地すると、彼の手を優しく握る。

 

 

 

一瞬ではあったが、彼を見下ろした彼女のは、淡く慈愛に満ちた笑みを浮かべている様にも見えた。

 

 

 

二人に手を引かれて歩いて行く彼を見送ったグンゾウは、宇宙服の人物へと視線を移す。

 

 

 

 

(俺を読んだのは彼か?)

 

 

 

 

《そうよ。厳密に言うなら、似て非なる¨魂の鋳型を満たそうとする力¨に引き寄せられたと言うべきかしら。尤も、あのグンゾウがそれを意識的に行ったとは考えられないのだけれど》

 

 

 

 

 

(コンゴウ達は、肉体を損傷した俺の代用品を造ったと言う事か……)

 

 

 

《ええ……私ですら予期していなかった事よ。彼女達は自らの限界をしらいもの。本来、父と母から僅かずつ受け継がれる魂の鋳型を彼女達はあなたから抽出し、それは満たされてしまった。後戻りが出来ない所まで……ね》

 

 

 

(だからあなたが現れて事態に介入したと?)

 

 

 

 

 

 

《そう。あの子はメンタルモデルを母に、あなたを父とした魂の鋳型を持って誕生した新たなる存在。ひとはそれを人工人間と呼んでいた事も有るのだけれど……》

 

 

 

 

(……)

 

 

 

《不思議ね……まるで神代の英雄のような生い立ちだわ》

 

 

 

(まるで神代を知っているかのように聞こえるが?)

 

 

 

 

《ここは貴方には毒ね……少し別な所で話しましょうか》

 

 

 

 

(……)

 

 

 

彼女は彼の問いには答えなかった。

 

 

 

否――

 

 

 

答えても意味がないと判断したのかもしれない。

 

 

 

宇宙服の人物は部屋を出て行き、グンゾウもそれについて行く。

 

 

 

 

 

ついた先にはエレベーターの様なものがあり、彼女は扉の前で立ち止まる。

 

 

 

巨大な柱の様な物は、グンゾウが見上げても果てが見えない程上にまで伸びていた。

 

 

 

 

『ハシラジマ軌道エレベーターへようこそ。本日は素晴らしい空の旅へご案内致します』

 

 

 

 

(ハシラジマ……)

 

 

 

アナウンスの音声にグンゾウが首を傾げる。

 

 

 

宇宙服の人物はそんな彼に構わず扉を開けた。

 

 

 

 

《来たわ。乗りなさい》

 

 

 

エレベーター内部は、思った以上に広い構造だった。

 

 

上昇する風景を眺められるよう全面ガラス張りになっており、ソファー等も複数置かれいる。

 

 

 

二人がエレベーターに乗り込むと装置が起動して上昇を始め、肉体が無いせいなのか、身体にかかる重力の負荷は感じられなかった。

 

 

 

海がみるみる離れて行き、雲の上まで上昇したエレベーターからは、夕日に照らされて美しく輝くオレンジ色の雲海が望めた。

 

 

 

《全く……人間の発展速度には驚かされるわ。私の意識がまどろんでいた1世紀でここまでの物を創り上げてしまうのだから》

 

 

 

 

(ここ、ハシラジマとは一体何なんだ?)

 

 

 

《元は人間が創った施設よ。概要は……まぁそれは貴方には説明しても無意味でしょうけど、今は霧の艦隊の母港として使用されているわ》

 

 

 

(霧の母港……)

 

 

 

《さて――流石にこの格好も億劫ね》

 

 

 

 

彼女は疑問で頭が一杯になっている彼の言葉を聞き流しながら、宇宙服を脱ぎ始める。

 

 

 

 

(何をしているだ?)

 

 

 

 

《あら……私の正体が気になっていたのではなかったのかしら?》

 

 

 

 

パシュウ!

 

 

 

無骨なヘルメットが外れて宇宙服が下へと縮む様に下がって行き、漸く姿を現した彼女の真の姿に、グンゾウは思わず魅入られる。

 

 

 

(!!!)

 

 

 

 

声の調子から大人の女性と思っていた彼女の容姿は、グンゾウの想像とは掛け離れたものだった。

 

 

 

地面に着きそうな程長い金色の髪に、霧の紋章を象ったピアスとネックレス、そしてフリルのついた可愛らしくも気品あるドレスを来た¨少女¨の姿をしていたのだから。

 

 

 

うっすらと開かれた瞳からは複雑な光が輝いており、グンゾウはそこから星が煌めく夜空を想像した。

 

 

 

 

 

《私の名はグレーテル・ヘキセ・アンドヴァリかつて魔女(セイレーン)と呼ばれた存在》

 

 

 

 

(魔女……)

 

 

 

《そして今はこう呼ばれているわ――アドミラリティ・コードと》

 

 

 

 

(なっ……!!)

 

 

 

彼は驚愕した。

 

 

 

無理もない。

 

 

 

世界に突如として現れた霧の艦隊が絶対と定める存在が目の前に居るのだから。

 

 

 

(どういう事だ!?あなたがアドミラリティ・コードだとすれば、何故彼女達を使って海を支配した!一体何の目的で――)

 

 

 

 

《解らないわ》

 

 

 

 

(何だって!?)

 

 

 

 

《あなたの世界にいる私がどういった理由で彼女達を起動させたのかは、私にも解らないと言う事よ。あなたがこの世界のグンゾウと似て非なる行動の軌跡を辿っている以上、向こうの私も少なくともこの私とは違う理由で行動する可能性がある。お互いは本来不干渉であり、観測されるべき物では無いのだから》

 

 

 

 

 

ここで彼に疑問が生まれる。

 

 

 

確かにイオナ達は、アドミラリティ・コードの指揮圏外にいると話していた。

 

 

 

つまり、グレーテルと呼ばれたこの少女も、本来は出会うべき人物でも干渉してくる存在でも無いと言う事なのだ。

 

 

 

ならば何故、自分はここに意識が存在して彼女と会話をしているのか――

 

 

 

 

《混乱しているようね。さしずめ、互いに不可分な領域に何故自分が居るのか――って処かしら?》

 

 

 

(ああ……)

 

 

 

窓の外を眺めていた彼女は、その夜空のような瞳をグンゾウに向ける。

 

 

 

《随分と珍しいモノがあなたの脳波から見えるわ。恐らくはそれが原因でしょうね。他世界に干渉しうる因子によって偶発的に自身の肉体を離れた魂が、こちらのグンゾウ肉体に反応して惹かれた結果でしょう》

 

 

 

 

(超兵器か……)

 

 

 

《超兵器……機知に富んだ名前ね。どの様な経緯で存在しているのかは、解らないけれど、これ以上こちらのグンゾウに悪影響を及ぼす訳にはいかないわ》

 

 

 

 

(だから俺をここへ連れてきたのか?)

 

 

 

《そうよ。あたなと同じ魂の鋳型を持つ彼等に接続されては困るもの。彼は少し早いと感じるでしょうけど、あなたとの会話が終わったら直ぐにでも目覚めて貰うしかなさそうね》

 

 

 

(……)

 

 

 

《不満かしら。これはあなたの為でも有るのよ》

 

 

 

(俺の為?)

 

《此方の世界の影響を受け過ぎれば、あなたの魂に歪みが生じて戻れなくなってしまう。その為にも、あなたには全てを忘れて貰うわ》

 

 

 

――待ってくれ!

 

 

彼が口に出す前に事態は動き出した。

 

 

 

キ…キ…キ……

 

 

 

彼女の金色の髪がいっそう輝き、既に限界高度に達したエレベーターから見える蒼く美しい地球の風景と相まって幻想的な景色を造り上げる。

 

 

 

 

更に――

 

 

 

キ…キ……

 

 

 

(!!?)

 

 

 

グレーテルの周囲には不思議な紋様が出現した。

 

 

 

 

《これはかつての人間が¨魔方陣¨と呼んでいたものよ。きっと私が起動させたのを誰かが見ていたのね……それよりもお別れの時間よ、最期に1つだけあなた言っておくわ》

 

 

 

 

(なんなんだ?)

 

 

 

《あなたから見えたアノ波長、その元となる者と対極に位置する存在に接触しなさい。それ以外にあなた達が前に進む道は無いわ》

 

 

 

 

(それは一体どう言う――)

 

 

 

 

《さようならグンゾウ。海洋の王のたらねばならぬ者よ、あなたの検討を祈っているわ。深き海の蒼き水底から……》

 

 

 

 

 

彼女背後に浮遊する球体の重力子ユニットのような物から、白き光の翼と暗き闇の翼が羽ばたいて輝きを放ち、その余りの眩さに声に成らない悲鳴をあげるグンゾウの魂が銀色の光の粒となって霧散して行く。

 

 

 

 

彼が消え去り、静けさを取り戻した軌道エレベーター内で、グレーテルは翼を格納してグンゾウのいた空間から視線を外して外を見つめる。

 

 

 

《超兵器……もし私があと100年微睡んでいたら、人間はアレを造り上げてしまったのかしら……》

 

 

 

 

彼女が見下ろす視線の向こうには、宝石の様に蒼く美しい水の惑星が輝いていた。

 

 

 

   + + +

 

 

群像は、何かに呼ばれた気がして目を開ける。

 

 

 

 

「うっ……俺は寝ていたのか?」

 

 

 

いつもの服装のままベッドに倒れ込んでいたらしい群像は起き上がる。

 

 

そこには――

 

 

 

「群像……」

 

 

 

「イオナか?君が直接ここに来るなんて珍しいじゃないか」

 

 

 

 

「うん……何故かは解らないけど、群像の部屋からナニか引き摺られる様な感覚を感じたから」

 

 

 

 

「引き摺られる様な感覚?」

 

 

 

「そう。何かとても懐かしい様な、でも無視出来ない様な不思議な感覚」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

彼女の顔から視線を外しながら、群像は考えていた。

 

 

 

 

(何かを忘れている様な気がする。忘れてはいけない何かを……)

 

 

 

 

「群像?どうかした?」

 

 

 

 

「ん?ああ……いや、何でもないんだ。少し夢を見ていたのかもしれない」

 

 

 

「夢……人間の脳が睡眠時に造り上げる実体験を元に形成される記憶の残滓、または抑圧された願望の具現化現象の事?」

 

 

 

「まぁ、それほど高尚な物かは解らないが、どうにも内容を思い出せないんだ」

 

 

 

「自身の脳が映し出した事象なのに?」

 

 

 

「コアに記録した内容を決して忘れる事がない君達には少し難しいかな。だが、夢とはそう言うものなんだ」

 

 

 

「そう……」

 

 

 

 

首を斜めに傾けている彼女に、群像は笑みを向ける。

 

 

 

 

「心配をかけて済まなかった。そろそろブリッジに戻るよ」

 

 

 

「うん。私も一緒に行く」

 

 

 

群像は立ち上がり、二人は共に部屋を後にする。

 

 

 

イオナはもう一度振り向いて彼の部屋を見渡し、異常が無いかを確認すると、少し小走りで彼の隣へと向かった。

 

 

 

 

 

 

キ…キ…キ……

 

 

 

 

 

 

 

 

【外伝 待ちぼうけコンゴウの苦悩】

 

 

   + + +

 

 

 

 

千早群像が大戦艦コンゴウを硫黄島に招待してからかなりの時間が経過していた。

 

 

 

呼び出したにも関わらず忽然と姿を消した401一行であるが、コンゴウは何故か彼等が再び硫黄島へ現れると推測し、辺りを重巡洋艦マヤと共に巡回を続けていたのだが――

 

 

 

 

「千早群像。貴様らは一体何を考えている。この私を呼びつけておきながら姿1つ現さないとは……」

 

 

 

 

彼女は苛立った様に眉にシワを寄せ、そんな彼女の腕に、マヤが飛び付いた。

 

 

 

 

「ねぇねぇコンゴウ、カーニバルまだぁ?私もう飽きちゃった……きっと401はここには居ないよ」

 

 

 

 

「有り得ん。霧の北米艦隊も念の為に待機させていたハワイ周辺の艦隊も、奴等の反応を検知していない。サンディエゴに向かうのに我々から全く気づかれず進むのは不可能だ」

 

 

 

 

「でも何かズルしたのかもしれないよ?千早群像ってそう言うの得意なんでしょ?」

 

 

 

「仮にそうだとしても、アメリカに振動弾頭が届いていれば、人間側に何らかの動きがあってもおかしくはないが、通信をジャックしてもその反応は無かった。寧ろ、奴等は硫黄島に到着した段階から連絡を断っている事に焦りを感じたアメリカが、日本政府に対して催促の通信を送っているくらいだからな」

 

 

 

 

 

「う~ん。やっぱり硫黄島に隠れてるのかなぁ……そうだコンゴウ!硫黄島に上陸して探して見ようよっ♪もしかしたら居るかも知れないよ?」

 

 

 

 

「マヤ……そうだな。もしかしたら千早群像は、大戦艦である私が日本の哨戒から外してここに釘付けにし、振動弾頭を別ルートからアメリカに届ける算段を立てていたのかもしれん。上陸は面倒臭いが、奴等を発見出来れば行幸だ」

 

 

 

 

「じゃあ上陸していいの?やったー♪」

 

 

 

 

 

「念の為、メンタルコアにプロテクトを施した上で船体に置いて行け。ヒュウガが何か罠を仕掛けているかもしれん」

 

 

 

 

「はいは~い♪」

 

 

 

その場でクルクル回りながら喜ぶマヤを横目に、コンゴウは徒労感を感じる。

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

硫黄島に上陸した二人は、早速調査を開始した。

 

 

 

 

「先ずは奴等の拠点から捜索する。マヤ、センサー感度を上げてヒュウガのトラップに注意、攻撃の兆候が見えたら迷わず破壊しろ」

 

 

 

 

「うん!解ったよコンゴウ、楽しみだなぁ~♪」

 

 

 

 

 

 

彼女達は最大限に警戒しながら地下のドックを目指した。

 

 

 

 

だが――

 

 

 

「なんだこれは、裳抜けの空ではないか。本当に奴等はここに潜伏していたのか?」

 

 

 

 

「電気は付くね。発電施設は生きてるみたいだけど……」

 

 

 

「生命反応はどうだ?」

 

 

 

「待ってね~♪」

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

「ん~無いかなぁ」

 

 

 

「我々のセンサーに掛からぬよう巧妙に隠蔽しているのか?他の場所も探すぞ」

 

 

 

「オッケ~♪」

 

 

 

 

 

彼女達は更に奥へと進む。

 

 

 

「むっ、これは――」

 

 

 

「マグマ採掘用のボーリングシステムみたいだねっ。こっちは鉄の製錬工場かなぁ~」

 

 

 

 

 

硫黄島の深部に有ったのは施設を構成するためにヒュウガが創った施設があった。

 

 

 

 

活火山である硫黄島では豊富な資源が眠っており、ヒュウガはマグマの中に含まれる成分から、基地の構成部品を製錬して生み出していたのだ。

 

 

 

 

「施設が動いてるね。逃げる時うっかり止め忘れたのかなぁ?」

 

 

 

 

「いや……施設や発電装置生きてる点から見ても、やはり奴等がここに潜伏している可能性が高い。上層の施設は、敢えて投棄したように見せ掛ける為のブラフだったのだ。恐らく私達がここまで深く潜入するとは考えて居なかったのだろうな。本来なら全施設を停止させたかったんだろうが、私達の侵入を受けて急遽偽装工作を謀ったと言うことだろう」

 

 

 

「じゃあやっぱりどこかに隠れてるんだね?」

 

 

 

「間違いない。徹底的に探すぞ!ここからは別行動だ。マヤは施設内を、私は一旦外にでて塹壕内部を調査する。念の為に船体とのリンクは維持しておけ、私への連絡も怠るな」

 

 

 

 

「ハイハ~イ♪気を付けてねぇ~コンゴウ!」

 

 

 

   + + +

 

 

 

コンゴウは摺鉢山付近にある塹壕の内部へ向かうべく、辺りがすっかり暗くなった夜の砂浜を歩いていた。

 

 

 

 

(この靴のデザインでは歩きにくいな……)

 

 

 

だが、この位はまだ序ノ口である。

 

 

 

過去の大戦によって、焼けただれていた山には草木が生い茂り、非常に足場が悪かった。

 

 

 

 

――面倒臭い

 

 

 

正直、常に自艦の艦橋の上で座っている彼女にとって、陸を歩く等と言う行為は徒労でしかない。

 

 

 

しかしながら、この徒労こそが千早群像と401の策略なのだとしたら、彼等を排除する事によって未来の面倒事が減るだろう。

 

 

 

彼女はその一心で慣れない身体を一歩づつ動かして塹壕へと向かう。

 

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

(不発弾検知、数23――不発弾に偽装したトラップをヒュウガが仕掛けているとみたが、杞憂だったか……脅威度は皆無)

 

 

 

 

 

途中で茨の交じった深い草むらに行き当たった彼女は自身の周囲にフィールドを展開して周囲を警戒しながら進む。

 

 

 

どうやら手で草を掻き分けるのが面倒になったらしい。

 

 

 

 

暫く進むと、遥か昔に投棄されたM4戦車や高角砲などの残骸が視界に入る。

 

 

 

 

(兵器の成れの果てか……)

 

 

 

彼女が白く細い指で戦車の装甲をなぞると、ザリッとした不快な手触りと赤茶けた錆が指に付着する。

 

 

 

 

その時だった――

 

 

 

ダダダダッ!

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

突然の銃声に彼女の警戒が一気に高まる。

 

 

 

だが、辺りに人間らしき生命は無く、銃声がしたのにも関わらず空気中に漂う火薬の反応すら検知されない。

 

 

 

 

(どう言う事だ?)

 

 

 

 

彼女は首を斜めに傾ける。

 

 

 

すると――

 

 

 

 

ドゴォン!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

付近で爆発音が響いた。

 

 

 

しかし驚くべき事に、砲弾が着弾した形跡など無く、爆煙すら見えない。

 

 

 

 

「どう言うカラクリから知らんが安い挑発だ。こんなもので私が動揺すると思っているのか?私もナメられたものだな」

 

 

 

 

彼女は苛立ちを含んだ表情で辺りの闇を睨む。

 

 

 

すると更に――

 

 

 

《オ~イ……》

 

 

 

「何だと?」

 

 

 

 

摺鉢山の中腹付近から誰かがこちらを呼んでいた。

 

 

 

視線の先には一瞬だが複数の人物が見えた気がする。

 

 

 

「千早群像!出てこい!歓待するなどと嘘を付いて私を陥れようとする貴様の企みは、私自身への度重なる侮辱によって既に破綻した。それとも、私の船体を呼び寄せて直接戦闘に持ち込もうと言う腹か?無駄だ!こんな矮小な島など、私の力を以てすれば一瞬で消し飛ばせるのだぞ!これ以上安い挑発を止めて出てくるのだ!」

 

 

 

 

 

彼等からは何の反応も帰ってはこない。

 

 

 

 

「そうか……どこまでもこの私を侮辱するのか――良いだろう!貴様ら人間や巡航潜水艦風情がこの私を相手に出来るなどと言う幻想を打ち砕いてくれる!この私が直接手を下す事によってなっ!」

 

 

 

 

コンゴウは歩幅を広げて摺鉢山を登って行った。

 

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

摺鉢山中腹付近に掘られた壕の入り口立ったコンゴウは、中の闇を睨み付けながら周囲の索敵を開始した。

 

 

 

 

(トラップは……無いか。二酸化硫黄と硫化水素の反応を検知、脅威は皆無。本当にこの中に奴等が居るのか?メンタルモデルならともかく、人間が生存出来る環境ではないぞ)

 

 

 

 

火山性ガスが人体に及ぼす影響を共有ネットワークから引っ張り出した彼女は首を傾げる。

 

 

 

だが――

 

 

 

 

《オ~イ……》

 

 

 

 

「対策済みと言う事か……尤もヒュウガが向こうに付いているなら有り得ない話ではない。この先はトラップに注意しなければ――」

 

 

 

 

『コンゴウ!』

 

 

 

「マヤか?こちらは千早群像の一行と思われる一団と接触、これより作戦を調査から殲滅に移行する」

 

 

 

 

『そっかぁ~じゃあ私も行くぅ~!二人でカーニバルだよっ♪』

 

 

 

 

「悪いがお前は船体に戻り、戦闘をいつでも開始できる様準備をしておけ」

 

 

 

『えぇ~!なんでぇ~!?』

 

 

 

「奴等は私を内部へと誘導しようとしている。何か罠を仕掛けて足止めしている間に、島のどこからか脱出を計るかもしれん。いいか?何があっても絶対に逃がすな!」

 

 

 

『むぅ~でも401が出てきたら好きなだけ撃っても良いんでしょ?』

 

 

 

 

「ああ。跡形も無く消し飛ばしても構わん」

 

 

 

 

『ヤッタ~!やぁ~っと出番!私達は兵器!相手を殲滅する事だけが使命なんだからねぇ~!カーニバルだよっ♪』

 

 

 

「頼んだぞ」

 

 

 

通信を終えたコンゴウはナノマテリアルから形成した雪の結晶に似た剣を手に内部へと侵入する。

 

 

 

 

 

内部は闇で覆われ、夜であるにも関わらず34℃以上の気温と高い湿度、それに高濃度の火山ガスと強烈な硫黄臭が支配する地獄の様な空間であった。

 

 

 

尤も、地獄だと思うのは人類のみであり、感覚気管を完全に遮断しているコンゴウにとっては造作も無い空間ではあるのだが、それ故に彼女のコアは自身に疑問を提唱し続ける。

 

 

 

 

本当にこの中で人が存在しうるのかと

 

 

 

 

だが――

 

 

 

《オ~イ……》

 

 

 

確かに観測される音声が、結果的にこの中にナニかが居ると結論を出してしまうのだ。

 

 

 

故に彼女は、進む選択を選らばざるを得なくなる。

 

 

 

――面倒臭い

 

 

 

 

彼女は再び呟くと、更に奥へと足を進める。

 

 

 

 

しかし内部は複雑に枝分かれしており、いつの間にか聞こえなくなった声に、彼女は進む指針を見失ってしまったが――

 

 

 

 

 

《オ~イ……》

 

 

 

 

か細い声が聞こえてくるその場所とは――

 

 

 

(下か?)

 

 

 

一見何の変鉄もない石の床だが、スキャンの結果下に空間がある事が判った。

 

 

 

彼女が持っていた剣を振ると床が両断され、階段が現れる。

 

 

 

 

「小細工を……」

 

 

 

 

彼女の苛立ちは臨界に達しつつあった。

 

 

 

正々堂々と正面から戦うのが好きだとまでは言わないが、少なくとも今回のようなチマチマとした陽動は、面倒臭がりである彼女がもっとも嫌悪する方法である事は言うまでもない。

 

 

 

だが、ここで引き返せば今までのやり取りが全て無駄になり、彼女にとってはその事こそ面倒臭いのであった。

 

 

 

 

故に彼女は階段を降りて先へと進む。

 

 

 

 

 

進んだ先に出たのは少し広い空間であり、道の続きはない。

 

 

 

 

「千早群像!401!どこに隠れている。出てこい!」

 

 

 

彼女の怒声に返答はなく、彼女は罠を警戒して辺りをスキャンした。

 

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

「これは……」

 

 

 

罠は仕掛けられては居なかったが、変わりにあったのは別なものだった。

 

 

 

(人間の白骨死体か?それも沢山。風化具合からかなり前の物の様だが……)

 

 

 

 

夥しい数の白骨遺体が部屋中に横たわっていた。

 

 

 

火山ガスによって風化した為か衣服はボロボロであったが、辛うじて軍服であることが理解できる程には原型を留めている。

 

 

よく見れば、遺体はそのどれもが身体の一部を欠損しており、彼女はそれらが先の大戦で命を落とした軍人のものであると確信する。

 

 

 

(ここは負傷兵を治療する場所か何かの様だが……本当にここが奴等の潜伏場所なのか?)

 

 

 

 

彼女が疑問を浮かべたその時――

 

 

《ミズ…水ヲ……》

 

 

 

 

 

 

(!!!)

 

 

 

 

 

《イタイ…苦シイ…暑イ……》

 

 

 

《ハラヘッタ……》

 

 

 

《帰リタイ……》

 

 

 

 

 

周囲からおびただしい声が彼女に降り注ぎ、それと同時に彼女のコアが警告を発してきた。

 

 

 

 

information――

 

 

【計測不能ナ事態ノ発生ヲ検知。error多発。当区域カラノ退避ヲ推奨】

 

 

 

 

「何が起こっている!?センサーに異常はない、ヒュウガの罠か!?」

 

 

 

 

 

《帰リタイ……母サン……》

 

 

 

 

 

 

「くっ――!」

 

 

 

コンゴウは、振り返って階段まで一気に跳躍する。

 

 

本能的にそうしなければならないと直感したのだ。

 

 

 

たが――

 

 

 

 

 

《置イテ行カナイデ……連レテッテクレ………》

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

 

 

身体にまとわり付くナニかの力を感じたコンゴウは瞬時にクラインフィールドを展開し、振り払おうとするも――

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!身体がどんどん重く――」

 

 

 

 

 

 

《貴様ッ!何ヲシテオルカッ!逃ゲル事ハ赦サン!前へェエ進メ!突撃ィイイ!》

 

 

 

 

「や、やめろ!」

 

 

 

 

 

 

 

コンゴウは階段を駆け上がる。

 

 

 

 

 

正直焦っていた。

 

 

 

人間の女性の形を模しているとは言え、彼女の膂力は通常の生命体を遥かに凌駕している。

 

 

その動きを止め、更にクラインフィールドを透過してくる攻撃など想定した事など無かったからだ。

 

 

 

 

 

彼女は、マヤと連絡を取るために通信を開こうとした。

 

 

 

その時、彼女がコンゴウに宛てて送付された硫黄島の調査結果に意識が向く。

 

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

調査結果

 

――硫黄島の要塞化に使用されたヒュウガのナノマテリアルやタカオの船体を構成していたと思われるナノマテリアルは持ち主不在で不活性状態で発見

 

 

 

――メンタルモデルのユニオンコアの反応は皆無

 

――千早群像を始め、人間が摂取しなければならない食料を納めた倉庫の中身全ての積み込み形跡

 

 

以上の点から401一同は既に当施設を放棄しており、硫黄島に潜伏している可能性は低いと思われる

 

 

重巡洋艦 マヤ

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

 

「なん……だと!?」

 

 

 

 

コンゴウは驚愕した。

 

 

 

 

確かに自身のコアも、これ迄の調査からマヤと同様の結論を導き出している。

 

 

 

しかしながら、メンタルモデルを持った自身が体験した現在の事象も否定出来ない事は確かなのだ。

 

 

 

彼女は混乱した。

 

 

 

少なくとも、この事態を打開しない限りは思考を巡らせようもない。

 

 

 

故に――

 

 

 

 

「マヤ!」

 

 

 

『ハイハ~イ♪』

 

 

 

「これから送る座標に、お前の主砲を撃ち込め!」

 

 

 

『えぇ~?でもそこにはコンゴウが――』

 

 

 

「早くしろ!旗艦命令だっ!」

 

 

 

『オッケ~♪じゃあ全力で行くねぇ~!』

 

 

 

 

 

 

 

海上に待機していたマヤが甲板でクルクルとステップを踏むと、主砲であるレーザー砲塔が回転し、摺鉢山を照準を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤッタ~!やぁっと出番だねっ!それじゃあ行くよ~!ビィーム……発射~!」

 

 

 

ビギィーン!

 

 

 

マヤの主砲が一直線で摺鉢山に向かい、彼女の攻撃を察知したコンゴウは演算の全てをクラインフィールドに回した。

 

 

 

 

《伏セロォォォオオ!》

 

 

 

 

 

ナニかの声がそう叫んだ時――

 

 

 

 

グゥゴォオオン!

 

 

 

 

マヤのレーザーが摺鉢山の固い岩礁を意図も簡単に蒸発させて貫通し、熱で引火した可燃性の火山ガスが爆発する。

 

 

 

狭い内部で高まった猛烈な熱と爆圧が、マヤが開けた穴から一気に炎となって噴き出したのだった。

 

 

 

 

コンゴウの身体は、その空気の奔流に乗って炎と共に外に弾き飛ばされた。

 

 

 

落下を開始したコンゴウは、先程までいた壕の方へ視線を向ける。

 

 

 

 

《寂シイ……》

 

 

 

 

「――っ!」

 

 

 

 

最後に聞こえたその声に、何故か彼女のコアがズキズキと疼くのだった。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

マヤが迎えに来るまでの間、彼女は砂浜に体育座りの様に腰を下ろし、膝を抱えて顔を埋めていた。

 

 

 

(この私がこんな……情けない!)

 

 

 

感情をあれほど否定していたのにも関わらず、彼女のコアからは悔しさや怒りが湧き出していた。

 

 

 

 

そして――

 

 

 

 

《寂シイ……》

 

 

 

 

「……」

 

 

 

あの言葉が離れてくれない。

 

 

 

同時に、人間やコンゴウの元を去って行ったメンタルモデル達に囲まれている401の姿を想像する。

 

 

 

 

すると、彼女は自分の頬に何か暖かなものが伝うのを感じ、彼女には珍しい驚愕の表情を造って指でなぞった。

 

 

 

「これは……涙?この私が?」

 

 

 

 

――羨ましいと言うのか?401に人が集まるのが

 

 

――寂しいと言うのか?私から皆が離れて行く事が

 

 

 

 

 

「違う!」

 

 

 

 

彼女は立ち上がり、頭を押さえて激しく首を振る。

 

 

 

《苦シイ……》

 

 

 

「苦しくなどない!」

 

 

《助ケテ……》

 

 

 

「助けなどいらない!」

 

 

 

 

《寂シイ……》

 

 

「寂しくなどない!私は一人でいいのだ!それで良かったのだ!沸き上がる怒りや悲しみに押し潰されそうだっ!こんな……こんな【感情】知りたくなんかなかったのにぃ!」

 

 

 

 

 

彼女は、まるで人間の様に泣き叫んでいた。

 

 

 

どんなに否定を重ねても、彼女は昂る感情も涙も抑える事が出来なかった。

 

 

 

「何故だ…何なのだ、本当に……面倒臭い」

 

 

 

彼女は砂浜に倒れ、夜空を見上げた。

 

 

 

 

答えの明確でない解答は、彼女の思考を悉く停止させてしまっていたのだ。

 

 

 

その時――

 

 

 

 

「わったしーはマーヤ♪トモダチコンゴウ♪」

 

 

 

 

 

彼女を迎えに来たマヤが、甲板から跳躍してフワリと砂浜に着地する。

 

 

 

「あれ~?コンゴウどうしたの?もしかして泣いて――」

 

 

 

「見間違いだ。それよりも壕の内部で未知の攻撃を受けた。あれはなんだ?」

 

 

 

「う~ん」

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

マヤはコンゴウの戦闘データを閲覧する。

 

 

 

 

「実体の無い攻撃かぁ~私には難しい事は分からないけど、総旗艦が前に出した指令と関係有るんじゃないかな」

 

 

 

 

「硫黄島周辺で観測された¨重力嵐¨の調査の事か?」

 

 

 

「うんっ、時空に歪みが生じちゃう程のすんごいモノだったらしいよ~もしかしたらその時の影響が残ってるのかも」

 

 

 

 

「それと今回の事象に何の因果があると言うのだ?」

 

 

 

「う~んとねぇ……時空が歪んだ時に、一時的にあらゆる時間軸に干渉が起こった結果、先の大戦での事象が不完全に具現化しちゃったのかも」

 

 

 

 

「先の大戦……か。成る程、では千早群像と401の攻撃ではないのだな?」

 

 

 

「その可能性は低いね~でもさ、もしかしたら無関係でもないかもしれないよっ」

 

 

 

「なに?」

 

 

 

「仮に401が重力嵐に巻き込まれていたとしたらぁ、船体ごと別の世界にパァ~って飛ばされちゃっても不思議じゃないよね」

 

 

 

 

「まさか……いや、そう考えるなら全ての辻褄が合う。では、奴等はもう戻って来られないのか?」

 

 

 

 

「分からないなぁ~でももし、重力嵐の影響が暫く硫黄島に残るなら、戻ってくる可能性も無くはないんじゃないかな」

 

 

 

 

「戻ってくる……千早群像が、401が!」

 

 

 

「な~んかコンゴウ楽しそうだね!」

 

 

 

「そんな事はない」

 

 

 

アドミラリティコードに何より忠実な彼女は、決して高揚感など抱く筈は無かった。

 

 

 

¨上陸する前¨のコンゴウであるなら……

 

 

 

 

(そうだ、私にはまだマヤもいる。まだ終わってはいない。この手で直接奴等の最期を見届けるまで、私は――)

 

 

 

彼女の目付きが鋭さを増す。

 

 

 

 

「マヤ!」

 

 

「ハイハ~イ♪」

 

 

 

「私達は引き続き硫黄島の監視を継続する。奴等が現れた時、すぐに対処出来るようにな」

 

 

 

 

「えぇ~!また島の回りをグルグルするのぅ?」

 

 

 

「不満か?」

 

 

 

「ううん!私は、アドミラリティコードと、コンゴウに従うだけだよ~♪」

 

 

 

 

(そうだ、これこそが正しい判断なのだ。故に、エラーを振り撒く401は必ず沈め、間違いを是正しなければならない。この私が直接な……)

 

 

 

彼女の獰猛な瞳が、まるで仇敵を見つけたが如く虚空を見つめる。

 

 

 

その様子を見ていたマヤが、その場で何度かクルクルと回った後、コンゴウの顔に自身の顔を近付けた。

 

 

 

 

「や~っといつものコンゴウに戻ったね♪ウンウン!コンゴウは今まで通りアドミラリティコードの指示に従っていればいいんだよ♪」

 

 

 

 

「ああ……必ず奴等を見つけ出して沈める。必ずだ!」

 

 

 

コンゴウは獰猛に歪んだ表情で硫黄島を睨み付けるのであった。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

イオナの姉妹である400と402は概念伝達空間で向かい合う。

 

 

 

 

「監視に就いているマヤが、コンゴウのコアから検出した異常に関して、総旗艦【ムサシ】より¨廃棄処分¨の勅命が下りました」

 

 

 

 

「いつだ?」

 

 

 

「直ぐにと言う訳では有りません。彼女は401に特異な執着を見せていますから、姿を現し次第401と彼女を相対させ、疲弊した後に両者を完全に抑えます」

 

 

 

「同意する。だが、コンゴウが抜ける穴はそれなり大きいぞ?」

 

 

 

「大戦艦¨ヒエイ¨を旗艦に据えるようご指示を頂いています」

 

 

 

「しかし400、良いのか?出奔やコアの異常。同じコンゴウ型であるなら、同様の事態もあり得る」

 

 

 

「心配は要りません402。彼女には総旗艦ムサシより¨ミラーリングシステム¨を付与されました。何かあれば、いつでも総旗艦権限で彼女を排除できます。勿論、監視の意味でミョウコウ型4隻を彼女の部下として派遣するよう手配しました」

 

 

 

「抜かり無いな」

 

 

 

「総旗艦のご指示ですから」

 

 

 

「では、引き続きマヤを使っての監視を継続する。あまり刺激して暴走を招く訳には行かない」

 

 

 

 

「そうですね。それにしても……あの現象は本当に重力嵐の影響だったのでしょうか?コンゴウにはそう言うようマヤに指示は出しましたが、アレにはそれだけでは説明の付かない事象も含まれていました」

 

 

 

 

「それはクラインフィールドの透過と物理行動の抑制現象の事か?」

 

 

 

「はい……念の為、401が現れるまで硫黄島への上陸は禁止とした方が良いでしょう」

 

 

 

「私も同様の結論に達した。では、その旨も含めて監視を続ける」

 

 

 

「良き航海を……402」

 

 

 

「お前もな……400」

 

 

 

概念伝達空間から402が姿を消したのを横目に見ながら、400は東屋に置かれたテーブルを指でなぞる。

 

 

 

 

(本当にアレは何だったのでしょうか……何故か私のコアも、少し揺らぎを感じた気がました。在っては……ならぬ事です)

 

 

 

 

400は、ほんの一瞬だけ憂いに満ちた表情を見せると、概念伝達空間から姿を消した。




お付き合い頂きありがとうございます。


一本目は原作漫画を、2本目はアニメ版の話に、原作小説でアシガラとハグロが体験した硫黄島でのちょっとした心霊現象の話を独自解釈で書いてみました。





最期になりますが、この話で登場した硫黄島のご英霊の方々へ――


いつの日か、日米問わず必ず本土へと遺骨が変換され、ご英霊の方々に終わり無き戦争の終息と穏やかな眠りが訪れます事を切に願いながら、ご冥福をお祈り申し上げます。






それではまたいつか
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