なので書き貯めておいたストックを投稿します。
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ピチャ……
雫の滴る音が鳴り響いたこの場所は……
「風呂でぃ!!!」
がらがらと扉が開き、年頃の女性達が一糸纏わぬ姿でご入場されたこの場所は、白い湯気が辺りを被うスキズブラズニルの大浴場だ。
誰よりも一番に風呂に入ることがルーティーンらしい麻侖は、一直線に浴場へと走り込もうとして洋美に首根っこを捕まれる。
「このやり取り毎回やるつもり?湯船に浸かるまえにちゃんと身体くらい洗いなさいよ!」
「分かってねぇなぁクロちゃんはっ!一番に入らなきゃ江戸っ子とは言えねぇんでぃ!」
「麻侖江戸っ子じゃないじゃない……それよりも早く身体を洗わないと、艦長に先を越されちゃうわよ?」
「なにぃ!?こうしちゃいられねぇ!」
麻侖は急いで洗い場へと向かい、他のメンバーも次々とあとに続く。
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脱衣所では既に真白ともえかが静かな戦いを繰り広げていた。
(もう抜け駆けはさせない!さぁどう来る知名さん!)
(ぬぅ~やっぱり警戒してる。同じ手は二度は通じないか……あれ?)
彼女は何かに気付き、口許をつり上げる。
「ねぇ宗谷さん、アレ見て?」
「私がそんな手をくうとでも思っているのか?」
「どうなっても知らないよ?」
「くどい!私は今度こそ艦長の背中を流し――ひゃうん!」
真白は自身のお尻に感じた感触で全てを理解し絶望した。
「真冬姉さん!?」
「なんだぁ?こんなヤワな尻じゃ超兵器なんて相手に出来ねぇぞ!俺が根性を注入してやる!」
真冬が頬を上気させながら獰猛な笑みを浮かべていた。
背後には、そんな彼女を半目で見つめる平賀や福内、そして真霜の姿も見えた。
「どうして気付いたのかしらね……情報は漏れていないと思ったのだけれど」
「この人、学生時代からそういった嗅覚や感は人一倍優れていましたから」
「それをもっと任務に活かして貰えれば良いのですが……」
呆れる3人を他所に、真白は狼狽える。
(ま、まずい……このままでは知名さんが艦長の所にっ!)
(ゴメンね宗谷さんでま、ここは譲れな――)
「待て知名!お前にも注入だぁああっ!」
「う、嘘……や、やめぇええっ!」
彼女が目の前の獲物をみすみす逃す筈はない。
言う迄もなく、明乃は目にも止まらぬ早さで身体を洗い終え、彼女達の願望は悲鳴と共に潰えたのであった。
+ + +
「あ~生き返るなぁ!」
「メイ……オジサンみたい」
「だって久しぶりに足延ばしたぁって気分なんだもん。タマもそうでしょ?」
「うぃ……至福!」
彼女達は一時の安息を得ていたが――
「ウォオオ!見ろよ姉さん!楽園だ!楽園が目の前にあるぜ!」
「はぁ……あの子達にとっては地獄かしらね」
呆れた様子の3人と、何故かゲッソリした真白ともえかが現れた。
「グフフッ!誰からシメるか楽しみだぜ!」
「ちょっと!どこ行くのよ!」
「決まってんだろ?根性を注入すんだよ!」
「身体くらい洗いなさいよ……」
「バカ言え!これ程の光景を目の前にしてお預け食らうってのか!?わりぃが姉さんの指示でもこれだけは従えねぇ!行くぜっ!」
「ちょ――待って!待ちなさい!」
「根性ォオオ!」
この場は真冬にとって格好の狩り場と化していた。
しかし、彼女の姉である真霜がなんの対策もこうじていない筈はない。
「はぁ……悪いけどお願いするわ」
「了解」
突如、浴場の入り口から銀色の髪をたなびかせた少女が飛び出してくる。
彼女は一瞬すべての人間の意識から消え、真冬の背後へと接近して首元に手刀を撃ち込み――
「フッ……見えてるぜ!」
「!」
真冬は咄嗟に膝を折って彼女の攻撃をかわし、片方の足を軸に回転、直ぐ様反撃に転じようとした。
「先ずはお前から根性を注にゅ――なに!?」
完璧な不意打ちだと確信していた真冬の顔が固まる。
振り返った先には誰も居らず、彼女はその存在が既に自身の背後に回って攻撃の準備を完了させているのを感じた。
「こ、こんな所で終われるか……あぎぃ!?」
彼女の身体が倒れ、一同の視界に銀色の髪が露になる。
「イ、イオナさん!?」
明乃を含めた一同が驚愕の視線を向けた先には、人形の様に整った顔立ちのイオナが顔色1つ代えず佇んでいたのだ。
「保険は掛けておくものね……こういう事もあれうかと、千早艦長に私からイオナさんをお風呂に同行させる許可は貰ってあるわ」
「さすがは真霜姉さん!抜かりは無いと言う事か!だが願わくば脱衣所の段階で呼んで欲しかったものだが……」
落胆する真白を他所に、真霜はイオナへと視線を向ける。
「毎回ご免なさいね」
「大丈夫……脅威の排除は基本だから」
「そ、そう……」
「全く……一体コイツはどうなってるんだ?」
「大戦艦キリシマ?それに――」
真霜が振り返った先には、蒼き鋼のメンバーが浴場へと入ってくるのが映る。
「いや~ん!イオナ姉さまの勇姿がお風呂で見られるなんて、私もう我慢できませんわぁ!」
ドゴォ!
「イヤン♪」
真冬と同様に排除されたヒュウガが嬉しそうな顔で気絶するのを入ってきたキリシマは、呆れた様子で見つめた。
「相変わらずだな……お前には学習と言う言葉は無いのか?――それにしてもメンタルモデルの不意打ちをかわすだけでも異常だが、401は気配を消す事に関してはプロだ。その接近を感知するとは、コイツの感覚は人知を超えているぞ?」
「アンタはクマだから、私やもえかみたいに狙われないから良いわよね。何回餌食になった事か……」
「わ、私だって元の姿の時は狙われてたぞ!?まぁこの時ほどこの身体に感謝した事は無いがな」
「その言葉は真冬が起きたら言ってあげて頂戴。きっと喜ぶわ、尤もこの場で起こすつもりは無いけど」
――褒め言葉のつもりではなかったのだが
キリシマは、益々人間と言う存在が分からなくなる。
「イオナ~!こっち来て一緒に身体洗おうよ!」
「シャンプーも有りますよ~!」
「クリーニングは完了してる。洗浄は不要……」
「えぇ!?いいじゃん!たまには人間と同じ事をするのも良い経験になるよ?」
「艦長もそれが目的でイオナをここへ連れて行くよう指示したんだと思います」
「群像が?……うん」
「ヨタロウ!洗ってあげるからこっち来て!」
「蒔絵か、すぐそちらに行く」
「うん!ハルハルも洗いっこしようね!」
「そうだな」
「あれ?ハルハル今日ははぅ~ってならないの?」
「対策済みだ」
『ハルナお前……クラインフィールドで光を屈折させて衣服だけを透明化しているな?』
『気付いていたか……蒔絵には言うなよ』
――了解した
キリシマは自前のタオルを取り出して身体を洗い始める。
「クマが身体を洗ってるってなんかシュールな光景だね……」
「うん、今更だけど私達凄い人達と一緒にいるんだなって思うよ」
「でも、ネームがはかどる光景ッスね!ハルナさんやタカオさんもいいッスけど、イオナさんはアレでもう完成してる感じが堪らないッス!」
「あんまり見ると失礼だよ?」
若干1名?を除いて見た目としては完璧な彼女達に、一同の視線が釘付けとなった。
そこへ――
「Oh!これが¨ONSEN¨か!?儂は初めてじゃ!広いのう!」
「ミーナ……これは沸かし湯だから温泉とは違うぞ。だがこの広さは私も新鮮だな」
欧州のブルーマーメイドのメンバーが入ってきたのをみた慧が絶望的な表情を浮かべる。
「か、格差だよ……」
「ミーちゃんまた大きくなってるねぇ。でも、べつに皆がって訳でも無いし、気にしなくても良いんじゃない?テアさんとかいるし」
「でもテアさんも完成しちゃってるしさぁ~つぐちゃんは気にならないの?」
「私は別に……邪念はいつも祓ってるから。それにイオナさん、話によると¨発達途上¨らしいよ」
「え、えぇ!?メンタルモデルって胸が成長するの!?」
「う~ん普通はないんだろうけど……キリシマさんの話だと、初めて会った時と、硫黄島からこっちの世界に来た時とで身体を構成してるナノマテリアルの量が微妙に変化してたみたい。向こうの硫黄島で何か切っ掛けみたいのが有ったんじゃないかなぁ」
「胸が短期間で大きくなる切っ掛けって何なの!?気になるよぉ~!」
「また邪念祓おうか?凄い喰い付きだよ?」
蒼き鋼や欧州組は身体を洗い終えて湯船へと身体を浸し、それぞれ交流を兼ねて談笑を始め、ミーナは明乃の元へとやって来て笑顔を向ける。
「気持ち良いのう!ここに来て足を伸ばせるとは思っておらなんだから尚更じゃ!」
「うん、シュルツ艦長には感謝だね」
「あの~隣に失礼しても宜しいでしょうか?」
「あっ!イギリスのブリジットさん?勿論良いですよ」
イギリスのブルーマーメイドで、学生時代にミーナ達と交流があった、戦艦レイガナーズ艦長のブリジットが明乃とミーナ達の輪へと入ってくる
「ありがとうございます。あと敬語は結構ですわ。ミーナにも砕けて話してらっしゃるようですし」
「ありがとう、そうするね!」
「噂はテアさんから色々と聞いておりました。6年前、鮮やかに事件を解決したとか」
「ううん。皆が居てくれたお陰だよ」
「ふふっ!東洋の方は謙遜がお得意なのですね。ウィルキアの艦艇は異色ですから、色々教えてくださいね!」
「うん!力になれるなら協力する。ところでミーちゃんは空母の操艦はどう?」
「難しいのう……艦橋からの視点も違うし、何より航空機と自艦の両方を指揮せねばならんしの」
「我々のレイガナーズも、未知の武装や速度の速さにみんな戸惑っていますわ」
「バルト海での戦闘の前に習熟するしかないね。私達もアドバイスするから、一緒に頑張ろ!」
「ああっ!頼む!」
「宜しくお願いしますわ!」
3人は互いに笑顔を向ける。
欧州と日本の両方に顔見知りが多いドイツ組のお陰で場は和やかに進んで行く。
だが、彼女達は忘れていたのだ。
彼女の存在に――
ガラッ!
「!!?」
一同は入ってきた存在を見て唖然とする。
モデル体型と明るい性格で艦内でも人気のあるナギとエミリアであるが、そんな二人が霞んでしまう程の美女が真ん中にいたのだから
「ナギ少尉とジーナス少尉と………誰じゃ?」
「ミーナ!シーッ!」
真白ともえかが慌てて彼女の口を塞ぐ。
3人は洗い場へと向かうと身体を洗い始める。
「エミリアは髪長くて良いなぁ~私も伸ばそうかな……」
「えぇ?ナギは少し癖っ毛だし、第一ショートヘアの方が似合うよ?」
「私はナギ少尉の長髪も似合うと思いますよ。ですが、私のように背中まで伸びていると洗うのも大変ですから、ジーナス少尉のように肩くらいまで伸ばす方が手入れも楽かもしれません。尤も、私の場合は研究に没頭していたら長くなってしまったので、実の所はナギ少尉くらいまで切ってしまいたいくらいです」
「そんな勿体ないですよ~!折角綺麗なのに……でも、無頓着だって言う割にはとてもサラサラしてますよね?私は癖っ毛なので……」
「静さんと万里小路さんから頂いたトリートメントが有るのですが使いますか?とても具合が良いのです。研究で長期間シャワーを浴びる事が出来ない日や潮風に当たっても全く動じないのですよ」
「本当ですか!?使ってみようかなぁ~エミリアはどうする?」
「もし、宜しければですが……」
「勿論いいですよ!今度、鏑木医務長や大戦艦ヒュウガに成分調査を依頼してみます。量産出来るならスキズブラズニルの女性達も喜ぶでしょうから」
「良いのですねぇ~!楽しみです!」
3人が身体を洗う中、浴場にはピリリッとした空気が張り詰めていた。
自身の容姿にこれと言って執着の無いメンタルモデル達と蒔絵を除外するとして、前回この場に居なかった真霜や欧州のブルーマーメイド達も愕然とした表情を浮かべる。
「(ズキューンと閃いた!アレを形容するならボォン!だよっ!)」
「(いや、ズドォオン!でしょ?)」
「(いや、やっぱりボガァアン!だね!)」
「「それだ!」」
砲雷班がヒソヒソと話す横で機関班も半目で洗い場を見つめる。
「(黒木さん、やっぱりアレ¨ワールドクラス¨だったんだね)」
「(イギリスはともかく、まさかミーナを見慣れているドイツ組が唖然とするとは思って無かったわ……)」
洋美と麗緒がなかば呆れたように呟くなか、3人は身体を洗い終えてこちらにやって来る。
一同にこれまでにない緊張が走った。
あの強烈な身体を浴槽のどこへ沈めるのかが運命を左右する。
隣へと来られたからには間違いなく自信を喪失してしまうからだ。
一同が不用意な物音すら立てずに怯える中、残念な事に例の如く留奈が迂闊な奇声を張り上げる。
「超巨大金髪爆に――モガ!?モゴ――接近!!」
空と麗央が彼女の顔を桜良の谷間へと沈めて黙らせるも、既に手遅れであった。
「超巨大?ああ、超兵器に関して何か質問があるのですね?今そちらに向かいます」
「(ば、バカァ!こっち来ちゃったじゃん!)」
「(は、早く逃げよう!)」
噂好きの四人は空かさず逃走を開始し、前回同様に洋美を置き去りにしようとする。
だが彼女とて馬鹿ではない。
洋美は、留奈が奇声を発した時点で状況を理解し立ち上がっていたのだ。
これなら逃げ遅れる可能性は低い。
(悪いけど、犠牲になって貰うわ!)
彼女は動いた。
四人は慌てて身動きは取れていない。
――勝った!
妙な優越感が洋美の心を支配する。
――だが、このあと彼女が予想し得ない出来事が襲う。
「プハァ!苦しっ――」
「!!?」
桜良の胸に沈没していた留奈が急に立ち上がり、彼女達の横を通過していた洋美に思いきりぶつかってしまったのだ。
彼女は勢い良くその場に倒れて水しぶきが上がり、その間に四人は避難を終えてしまう。
「あっ…ててっ!」
湯面から顔を上げた洋美の目の前に――
「あのぅ……大丈夫ですか?」
「!!!!」
彼女が居た。
2度に渡って逃げ遅れた洋美に一同からは心の合掌が捧げられる。
彼女は洋美に手を貸して隣に腰を下ろすと、殺人的に美しい笑顔を彼女へ向ける。
「超兵器のどの様な所が疑問なのですか?¨駿河さん¨」
「いえ……あの~私は黒木ですけど……」
「え、えぇっ!?」
普段眼鏡を掛けている彼女は、どうやら声の主である留奈を目の前の洋美と勘違いしたらしく、慌てふためいた。
残酷な事に、オロオロする彼女が動く度、黄金の髪と猛烈なアレが揺れ動き、洋美の精神を着実に疲弊させて行く。
結局、誤解は解けたものの、彼女は洋美の隣に陣取ってしまい、浴槽はかなり片寄った方面に人が密集していた。
「ふぅ……やはり気持ちの良いものですね。ところで、欧州の皆さんの中には知らない方もいらっしゃると思いますので、改めて自己紹介をさせて頂きますね。私はエルネスティーネ・ブラウンと申します。ウィルキアで副長兼技術士官を勤めております。何かあれば気軽に話し掛けて下さい」
……えぇぇ!!?
一瞬の沈黙の後に欧州組からは驚愕の悲鳴が上がった。
「嘘でしょ!?アノ状態からこうなるものなの!?」
――やっぱりワールドクラスだったんだ……
欧州組の反応に他のメンバーは得心がいった。
美の怪物と化した博士の犠牲となった洋美は最早諦めた様に項垂れている。
そんな彼女に意外な助け船が出された。
「あれ?そう言えばさ、ブラウン博士とミーちゃんてなんか雰囲気似てない?」
洋美を美の地獄へと叩き落とした留奈が発した言葉に一同はミーナと博士の顔を見比べる。
「そ、そう言えば……」
「負担の雰囲気が違い過ぎるから気付かなかった」
「何じゃいおヌシら!儂がガサツだと言いたいのかっ!?」
「ち、違うよ!ミーちゃんも綺麗だって言いたかったんだよ」
「え!?そそっ、そうかのう〃〃」
――セーフ!!
「じゃが確かに特徴は似ておるのう。それに何処かで聞いた事があるような……あっ!」
ミーナは、閃いた様に博士の元へと向かい、顔を寄せてじっくりと眺める。
「あ、あのう……そんなに見られると緊張してしまうのですが――」
「解ったぞ!あなたは私の¨おばあちゃんと同じ名¨じゃ!確か眼鏡を掛けておったと聞いている!」
「!!!」
呆気に取られる一同を余所に、博士は一瞬目を丸くしたものの直ぐに表情を戻す。
「成る程……世界の軌跡が似通っているなら、私と同じ遺伝子を持つ人物が居ても不思議ではありません。あのぅ~もしやあなたのその言葉遣いは¨仁義の無い芝居¨などから影響を受けたものではないですか?」
「なっ、何故解るのじゃ!?儂もおばあちゃんが見ておった仁義の無い映画を見て自然と言葉を覚えたのじゃ!」
「私もそうなのです。日本には以前から興味を持っていまして、それで第二次大戦中に技術交流として日本を訪れた際に見た映画を見て感銘を受けまして、そこから言葉を覚えました。まさかここまで似通った共通点があるとは……」
「うむ!不思議な縁じゃのう!」
「待ってください!」
二人の会話にナギが割って入ってくる。
「今の話だと、ミーナさんは博士の¨世界違いのお孫さん¨と言う事になりますよね?気になっていたんですけど、ミーナさんのおばぁ様のお相手って誰ですか?」
「!!?」
この話題には流石の博士も動揺を隠すことが出来ない
「おじいちゃんの事かのう?」
「はい!もし良ければお名前をお聞きしても良いですか?」
「構わんぞ、名前は――」
「アアッ!ダメッ!いけません!」
慌ててミーナの口を塞ぐ博士にナギは少し不満気な表情を浮かべた。
「博士は気にならないんですか!?ご自分の¨運命の相手¨を――」
「運命、即ち未来とは観測する事で確定します。今、ここで結末を知ってしまったら……」
「あ~!分かりましたよ博士!もしかして意中の人じゃないかもしれないから臆していますね?」
「なっ、ナギ少尉、からかわないで下さい!」
「じゃが、儂も気になるのう……一体誰を好いておるのじゃ?」
「そ、それは……あっ!そう言えばですけどこの隣、男湯には入っているんですよね?艦長達が――」
「!!!」
その場にいる複数の女性が、ピクリと反応した。
「フリッツさんが……」
「シュルツ艦長が……」
「健一くんが……」
「群像艦長が……」
正直に言えば、女性優位のこの世界に於いて、シュルツや群像などの異世界で世の中の中核を担う男性は、彼女達にとって非常に魅力的に写っている事は間違いないだろう。
その男性達が壁を隔てた向こう側にいるとなれば、乙女も肉食になると言うものだった。
+ + +
「はぁ~なんか盛り上がってんなぁあっち……」
「そうですね、ですがこちらはこんなものでしょう。男同士で盛り上がるのもなんですから……」
誰が得をするのかは分からない絵面だが、ここは男風呂である。
一通りの事を済ませた一同は湯船に身体を浸して安堵の溜め息を付き、壁の向こうの賑わいにもう一度溜め息を漏らした杏平に、風呂場でもマスク姿の僧が少し首をもたげる。
「千早艦長、お湯加減は如何でしょうか?」
「とても良いです。シュルツ艦長始め、ウィルキアの方々には感謝しかありません」
「そう言って頂けて幸いです」
シュルツと群像は互いに笑顔を向けた。
「宜しいですかな?」
「筑波大尉、どうされましたか?」
「うむ……3つの世界が共生する本艦でありますが、こうして男だけの面子を見ますと、異世界組で構成されておりましたので、不粋とは思いますが、少し今後の話でもしておくのは如何でしょうか?」
「どうされますか?千早艦長」
「構いません。今まで戦闘の内容に関する事が主でしたから、これからの身の振り方を話すのも良い機会かもしれません」
「解りました。それで筑波大尉、どの様な事を議題に挙げるのですか?」
筑波は年齢にそぐわない筋骨を剥き出しにして、表情を引き締める。
「我々のこれからの事になります。大戦艦ヒュウガの事を信用していないとは言いませんが、未だに元の世界に戻る手段がない以上、こちらの世界に留まり生活をして行く事を考えて行かねばならない時なのでは……と」
「確かに超兵器を倒した後の我々の処遇はこの世界のパワーバランスに影響を与えかねない。どこかの国に属せば、世界各国が黙ってはいないでしょう」
「提案なのですが、宜しいですか?」
「千早艦長?」
眉間に深いシワを寄せるシュルツに群像が視線を向ける。
「硫黄島を事実上の拠点とするのは如何でしょうか?」
「硫黄島ですか?しかしあそこにはナノマテリアル以外の資源は有りませんし、そもそも日本の領土です。世界を揺るがしかねない戦力が日本一国に集中すると解釈されれば厄介な事にもなりかねません」
「確かに、¨堂々¨と日本政府や世界を通して硫黄島に駐留するならそうでしょう」
「ん?ではこの規模の艦隊を誰にも気付かれずに隠し通す手段があると?」
「ヒュウガが既に手を打っています。俺達の世界同様に、硫黄島には地下内部に基地を建設しています。いざとなればそこに身を潜める事は可能かと」
「まさかそこまでお考えになっていたとは……」
「しかし、元の世界への帰還を諦めてはいません。落ち着いた環境で必ずや帰還の道筋を立てたいと考えています。シュルツ艦長が仰る通り、我々の存在や技術は存在する限り追われて行くのでしょうから」
「そうですね……しかし、大戦艦ヒュウガですら苦戦するとは、何か問題でも在るのですか?」
「ヒュウガいわく、時空を超える方法は幾つか存在するそうです。しかし問題はそこではなく、正確に自分達が存在した時間軸に達する事が出来るのか否かが難しいらしいのです」
「少し話が難しいですね……」
――例えばですが
群像は困惑するシュルツに向かって両手を差し出す。
「右手が俺達、左手がシュルツ艦長達がいる世界だと仮定する。二つの世界は似てはいますが、起きている事象が全く違います。もし計算を誤ってしまえば、俺達がシュルツ艦長がいた世界へと飛ばされる事もあり得る」
「……」
――更にですが
群像の言葉に、一同が注目する。
「一言に俺達の世界と言っても、過去や未来など様々な時間があり、それぞれにシナリオが描かれている。似たような世界でも、生きている筈の人間が亡くなっていたり、存在していないモノが存在する世界では微妙に事象の結果が異なるのです」
「例えば、我々の世界でシュルツ艦長一人が居なかった事になれば、超兵器打倒にも影響が出て、結果として未来にもその影響が広がると……そんな感じですか?」
「江田さんの言う通りです。我々は、この無限に広がる世界の中から正確に自分達の世界、若しくはその世界と限り無く同じ世界への到達を目指して行く必要がある。それがいかに困難であるかは言うまでも無いでしょう。故にヒュウガは、超兵器や第3の存在を調べる必要があると判断した」
「成る程……超兵器や第3の存在は、少なくとも時空の移動を正確に行っている感は否めないですからね。しかしそれには――」
「はい。マスターシップへの道を切り開くしかないでしょう。勿論、現段階では北極海に存在する超兵器がマスターシップだと断定は出来ないのですが……」
「……」
ここまでを聞き終えたシュルツは暫し考え込む。
「私見ですが宜しいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
――では
シュルツは言葉を選ぶように口を開いた。
「もしかするとヴォルケンクラッツァーはマスターシップではないのかもしれません」
――!!?
ウィルキアの面々が目を丸くする。
シュルツは彼等に落ち着く様、手で促すと話を続けた。
「超兵器は個性の差はあれど、一律にマスターシップによって¨転送¨されて来ていると考えると辻褄が合うような気がするのです。勿論、奴がマスターシップであり、転送に莫大なエネルギーと演算を費やした代償として起動が遅い可能性もあるのですが、岬艦長への執拗な精神攻撃と、大戦艦ヒュウガが帰還と同時に調査している超兵器波動の逆探知に¨全く引っ掛からない¨理由から推察するに、マスターシップは¨異世界にいる¨のではと仮説を立ててみたのです」
「確かにその仮説では、北極海の超兵器を打倒したとしても根本的な解決には繋がりませんからね。ウィルキアの事例から見れば、可能性としては充分でしょう。ですがそうなると――」
「異世界へと渡る技術が必要になる……ですか?」
「そうなりますね。そしてそれが俺達に無い以上、必然的に存在している超兵器打倒の現状は変わらない」
「……」
「そんな顔をなさらないで下さい。希望が無い訳ではない。それは第3の存在です。岬艦長の言から、少なくともアレは超兵器の意思らしきものに干渉して言葉を伝えてきた。だとするなら、仮にアレを【彼女】と呼ばせてもらえば、彼女は北極海に必ず辿り着けと言っていた。俺達がこのまま進めば、彼女に接触して時空を超える手段を見いだせるかもしれません」
「その為にはまず、各国の足並みを揃える為のキール会談を成功させる事、そしてバルト海に存在する超兵器総旗艦直衛艦であるテュランヌスを撃破するこれが当面の目標になりますね」
「済みません……結局話題を戦闘の話題から切り離せませんでした」
「いえ、千早艦長が気に病む必要はありません。そうですね……頭の整理も着いて今後の方向性も明らかになった事ですし、折角の場でもあります。これからは少し仕事の話を抜きにして、雑談でも致しましょう」
「お気遣い感謝します」
「では、私の方から話題を振らせて貰いましょうかな」
「筑波大尉?」
筑波は滴る汗を拭いながら蒼き鋼の面々を見つめた。
「正直に皆さんは余り体を鍛えておらんかった印象でしたが、こう見ると中々どうして見事が体つきですな」
「私達は学園を出奔する前は、国の防衛を賄う人材として一通りの訓練は受けていましたからね。備えは怠ってはいないつもりです」
「それに全てイオナ任せだと演算に負担が掛かるしな、ナノマテリアルの節約も兼ねて敢えて船体の一部にアナログな部品も使ってるから、ある程度自分達で補修するとなると、体力が皆無って訳にもいかないんスよ」
「元々メンタルモデルはイオナだけでしたから、資材の搬入の手伝い等は階級も関係なく皆の仕事としてこなしていました」
「ふむ……そう言った横の繋がりは、むしろはれかぜの面々と似ておりますな。だがはれかぜも蒼き鋼も、艦長との距離の近さに甘んじる事なく職務を遂行するのは個々人の意識の高さ故なのでしょう」
「ええ、俺は今でもこれ以上のクルーは無いと思っています。俺はただ考えをまとめて口に出しているだけですから」
「群像……」
「ははっ!あなたのその謙虚な姿勢と若い者特有の時に大胆な戦略も見事なものですぞ!」
男達はそれぞれに、今まで話さなかった互いの内面を笑顔を交えながら語りあった。
+ + +
…………
女子風呂は何故か静寂に包まれていた。
理由は――
「ちょっと止めなさいよ!覗きなんて良くないわ!」
「シッ!静かにして黒木さん!向こうに聞こえちゃうよ!それに覗いてるわけじゃないもん!」
芽衣は小声で抗議した。
彼女を始めとした数人の女性は、男風呂とこちらを隔てている垣根に耳を着けて向こうの会話を聞いていたのだ。
その中には、意中の人物がいる芽衣を筆頭に群像の事が気になって仕方がないタカオに群像が目当ての欧州の女性陣。
そこに何故かナギに博士、そして福内や真霜の姿もあった。
「ナギ少尉や博士は何となく分かるけど、どうして室長や福内さんも行ったんだろうね……」
「え!?ルナ気付いて無かったの?室長と福内さんって、最近エドワードさんやフリッツさんと仲良いって噂だよ」
「え!?」
桜良の言葉に留奈は驚愕する。
「それにしても、壁で聞き耳を立てる女達なんてシュールな光景ッスよね……」
「なんかまどろっこしいぞな!いっその事、垣根ごと倒れちゃえば面白いぞな!」
「止めなってそんなフラグみないな事――」
「うっ……クソ!俺とした事がまた気をうしなっちまうとは――んっ!?」
意識を取り戻した真冬の視界には、壁に張り付く女性達の何とも言えない光景が目に入ってくる。
「こ、ここっ!こん……」
……あっ!
一同はなにやら嫌な予感を感じた。
「根性ォオオオ!」
「おわっ!?」
「え!?なに!?」
標的を発見した猛獣を止められる者などいる筈もなかった。
猛獣は、そのまま突進し――
ズルッ!
「あえっ!?」
不運と言わざるを得ないだろう……いや、ある意味では好運だったのかもしれない。
真冬は目の前の光景に気をとられるが故に、足元にある石鹸の存在を失念していたのだ。
彼女は見事に足を滑らせ転倒し、再び気を失う。
だが、真冬の身体は止まる事なく彼女達が集まる方向へ一直線に滑りながら突っ込んできたのだ。そして――
ギギッ!
「わぁあああ!」
悲鳴と共に、全員の顔から血の気が引いて行く。
なぜなら、真冬から逃げる為に多人数が寄りかかった事と、彼女自身が突っ込んだ事で垣根が傾き、向こう側に倒れ始めたのだ。
――え?
一同は目を丸くすると同時に(そんなベタな事……)とは思った。
「ま、不味いって!このままじゃ丸見えじゃん!」
「いやあぁああ!でもちょっと向こうも見たいかも……」
「呑気な事言ってる場合か!」
真白は叫びつつ手近な所にあるタオルで身体を隠しながら素早く湯船に身を沈める。
他の者達も真白に倣っていたが、湯船から出ていた者達はそうはいない。
彼女は走った。
垣根が倒れきるまで残り数秒の間に、出来るだけ距離を稼がねばならない。
しかし――
「あっ!」
誰かが、足元に倒れていた猛獣に足を取られて転倒し、それに吊られる形で次々と転倒していった。
――もうだめだ
誰もがそう思った。
そしてついに、運命の時は訪れる。
バタン!
「――っ!」
垣根が完全に倒れ、男湯と女湯の境が完全に取り払われしまった。
芽衣が恐る恐る振り返った先には――
カポーン!
「あれ?」
誰も居なかった……
そもそも女性である彼女達以外は、蒼き鋼にしてもウィルキアにしても、海上を部隊に活躍する彼等には水を節約する習慣が有り、長風呂などする筈もなく、会話が終わった時点でさっさと上がってしまっていた。
「はぁ……だ、誰も居なくて良かったね」
「本当ですよ!姉さ……いや、宗谷室長!あなたが居ながらこの体たらくは何ですか!きちんと後から皆で直してくださいね!」
「え!?でも原因は真冬が……」
「言い訳無用!母さんに報告しますよ!」
「うっ……解ったわ」
シュンとする真霜と、頬を膨らませる真白の表情を交互に見ながら明乃はその平和な光景に思わず表情を緩め、温かなお湯の感触に再び意識を戻した。
(ああ……いい湯だなぁ~)
+ + +
おまけ
垣根の修繕が行われるまで、浴場は使用禁止となっていた訳だが……
「ふぅ……残務が長引いてしまった。身体も冷えたし、もう一度お風呂を頂こう」
ヴェルナーはもう一度お風呂の前に立っていた。
女湯の前には使用禁止の看板が立てられているものの、男湯には特に何もない。
何か不具合でも有ったのだろうかと疑問には思ったが、彼はそのまま脱衣室へと入っていった。
だがこの時点で、既に¨トンでもない手違い¨が起こっていたのである。
脱衣を終えたヴェルナーが浴場へと入って来て見た物とは――
「え!?垣根が壊れている?確かにこれでは使用出来ない………なっ!?」
彼は驚愕した。
使用禁止になって誰も居ない筈の女湯に誰かが倒れているではないか。
よく見るとそれは――
「ま、真冬艦長!?」
素っ裸の真冬が倒れいた。
彼女は先程の騒動の後にこの場に置き去りにされていたのだ。
「ん……」
「!!?」
彼の声に反応した真冬が目を覚まし、そして互いに目があった。
「「……」」
ヴェルナーは一気に嫌な汗が全身から吹き出す。
「誤解と言っても信じて貰えないかもしれませんので、私はこれで……」
「テメェ!ヒトの裸見といてそれはねぇだろうがぁああっ!」
コーン!
「あぐっ!?」
真冬が投げた桶がヴェルナーの頭部を直撃した音が浴場に響き渡った。
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「あっ痛てて……」
「わ、悪かったな……誤解しちまって。チクショウ!あいつら、置き去りにしやがって!覚えてろよ!」
何とか誤解を解いたヴェルナーの前にタオルを巻いて不機嫌そうな真冬が立っている
「あのう~いつまでこっちにいるつもりですか?一応ここ男湯なんですが……」
「あ?なに細かい事言ってんだよ!身体が冷えちまったんだから温まるなんてどこでもいいだろ?」
「良くないに決まってるでしょう!早く戻ってください!」
「うるせぇな!どうせ俺とお前しか居ないだろうが!」
「いや……だから男と女が……あぁもう!解りました。私が出ますからどうかゆっくりと浸かって下さい!」
「待てよ」
「!」
浴場を去ろうとしたヴェルナーの腕を真冬が掴んだ。
よほど長時間倒れていたのだろう、彼女の手はとても冷たく感じた。
「お前も結構冷えてるじゃねぇか。一緒に入れ」
「な、何を!ご自分が何を仰っているのか解っているのですか!?」
「解ってるよ!ただ、垣根がブチ抜かれた風呂場で別々に入るとかえって意識しちまうんだよ〃〃」
「滅茶苦茶だ……」
「うるせぇ!とにかくこう言うのは流れが大切なんだ!良いから四の五の言わずに入りやがれ!言っとくが、あんまりジロジロ見るんじゃねぇぞ!」
「はぁ~理不尽だ……」
ヴェルナーは辟易していた。
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湯船に浸かる二人であるが、会話は無い。
当然であろう。
何故なら二人は¨隣り合って¨浸かっているのだから。
ヴェルナーは最早ツッコミをせずにはいられない。
「何故隣なんです?」
「あ?下手に離れると視界に入っちまうだろ」
「そうですか……」
「………」
――気まずい
ヴェルナーは風呂に疲れを癒しに来た訳であって、精神的負荷を増大させる為に来た訳では無いのだ。
(逆上せたフリをして先に上がってしまおう)
そう決意し、隣にいる真冬の顔色をそっと伺った彼は意外なものを目にした。
「ん……」
真冬は普段見せない様な穏やかな顔をしていたのだ。
それはとても女性的で、ヴェルナーは思わず見とれてしまう。
「ん?なんだテメェ!見んなつったろ!」
「え!?あ、あぁ!申し訳ありません!」
二人の間に再び沈黙が流れるも、今度は真冬の方が耐えきれず言葉を発した。
「まぁ良いけどよ……なぁ、なんか話せよ。どうも気まずくていけねぇ」
「何かとは?」
「その位、自分で考えろ!良いからなにか話せ!」
「はぁ……」
ヴェルナーは溜め息を漏らすと少しだけ表情を険しくした。
「怖かったですか?」
「あ?なんの話だよ」
「光子榴弾砲の事ですよ」
「テメェ!こんな所でする話じゃ――」
「何でも良いと仰ったのは貴女です」
「チッ!」
「どう感じました?超兵器とは別に、自分が持ちうる力を奮った感想は、恐かったのでしょう?泣いてしまう位に……」
「気付いてやがったのか……」
「ええ、目が少し赤くなっておりましたので」
「あざといな……ああ、そうだよ!怖かったよ!ガキみてぇに泣きじゃくるくらいになっ!」
真冬は開き直った様に捲し立てる。
それとは対照的にヴェルナーの表情は落ち着いたものだった。
「貴女は強いのですね」
「あぁ!?バカにしてのか!?」
「いいえ。因みにですが、私はこの力や超兵器を見たときは興奮しました。これで、最小限の犠牲で平和的に統治出来るとね」
「何だと!?バカ言ってんじゃねぇ!あの力はな――!」
「解っています。ですが残念ながら、他の諸外国はそう思ってはいませんよ?現に我々と接触した日本やブルーマーメイドには、諸外国から兵器情報と我々の身柄の即事引き渡しの圧力が方々から掛かっています。それが答えなんです」
「フザケんな!そんな滅茶苦茶な理屈――」
「そうですよね。滅茶苦茶です。ですが人間は1度手にした力を手離せない。もし手離せば同じ力を持つ者に蹂躙されると言う恐怖から脱却出来ない。無論、誰かが力を手離せば寝首を掻こうと言う勢力も在るのだから間違いでは無いのですが……」
「世界がぶっ壊れちまうぞ!」
「故にその結論に至れる貴女は強いのです。目先の恐怖のその先にある破滅を予見し、過ぎ足る力を忌むべき物と判断出来るのは簡単な事でない。だから我々はそんな貴女方に力を供与した。絶対に間違った使い方をしないと確信があったから……」
「岬の事か?」
「はい。あの方は我が艦長同様、力を何よりも憎んでおいででしたから。そして貴女もですよ」
「……」
彼女は心の中の氷が溶けて行くような感覚を得た。
それと同時に、こうして客観的に自分を評価される事が久しく無かった彼女は、その重要性を改めて感じる。
そう
この【世界で最も死に近い海】では、孤独ではいけないと言う事だ。
誰でも良い。
隣に居て、話をしてくれるだけでも良い。
それだけで、力の狂気に捕らわれるリスクは低減するだろう。
それが、自分の心の中で¨大きな存在¨であるなら尚更である。
「どうされました?顔が赤い様ですが……」
「なっ〃〃なんでもねぇよ!ちょっと逆上せただけだ!」
「大丈夫ですか!?早く上がった方が――」
「ホントバカだなテメェは……」
ピトッ!
「!!?」
ヴェルナーはいよいよ参ってしまう。
真冬はヴェルナーの肩に自分の頬を寄り掛けて来たからだ。
だが、先程のように穏やか表情をしている真冬を見たヴェルナーは、そのまま自らの肩を貸した。
解るのだ。
弱さを見せる事が許されない艦長にとって、こうできる時間がいかに貴重なのかを……
彼は真冬の腰に手を伸ばす程軟派な人間ではない。
だが、欧州での決戦を間近に控えた今、彼女に肩を貸す位の紳士では在ろうとヴェルナーは思った。
1度海に出てしまえば、超兵器も狂気に満ちたヒトの意思も、自分で受け止める他は無いのだから……