フルメンバーがいないままの演習
しかも相手がチート
果たして……。
今回も何卒最後までお付き合い願います。
それではどうぞ
+ + +
硫黄島
スキズブラズニルでは朝演習前の確認事項が行われていた。
そこに一人の男性が近づいた。シュルツはその人物に気づき、姿勢をただして敬礼。部下達もそれに続いた。
「アルベルト・ガルトナー司令に敬礼!」
明乃達も慌てて敬礼をする。ガルトナーも返礼を返すと、休めの号令を出す。
「諸君、異世界への移動からこっち、休む間もなくの務め、本当にご苦労だった。知っての通り、この世界でも超兵器はその超然たる力で罪無き民衆を蹂躙している。我等はこの世界においても、ウィルキアの名の下に超兵器討伐の任を負って行くつもりだ。各員準備を怠らず、万全を以て事に当たれるよう、尽くして欲しい」
「はっ!承りました」
ガルトナーはシュルツの返答に頷く。
「それに先立って、この度日本国に世界各国から超兵器の情報を収集するホットラインが開設されることが決まった。そして、このスキズブラズニルに日本の司令室を置くことも決定している。その担当者の方は此方だ」
「!?」
はれかぜ一同は、目を疑う。
「海上安全整備局安全監督室室長の宗谷真霜です。よろしくお願いいたします」
真白は突然の自分の姉の登場に狼狽する。
真霜の隣には、福内典子の姿もあった。
「宗谷室長には、各国との情報の連携や根回しなどに尽力してもらうことになるだろう。分かっているとは思うが、彼女は日本の代表としてここにいる。我々の品位を損なうことがないよう。くれぐれも失礼の無いように。以上だ」
ガルトナーが去り、周りの緊張がほどける。
真白は真霜に駆け寄って問い詰めた。
「真霜姉さんどうして……」
「今は宗谷室長よ、はれかぜ副長」
「失礼しました。宗谷室長。横須賀におられたのではないのですか?」
「逐一連絡を取り合う暇が惜しかったからここにご厄介になることにしたの。もう既に許可はとってあるわ。それに横須賀には宗谷校長や古庄さんもいるしね」
「母さんが?」
「ええ、いくら超兵器に太刀打ちできないとは言え、横須賀を手薄にする訳にもいかないわ。あなた達の抜けた穴も埋めなければならないし。それに、横須賀女子海洋学校の教員はブルーマーメイドの予備役になってるから心配はいらないわ」
「それにしても、事前に話して欲しかったですよ…」
「ふふっ、ご免なさい。こっちも色々立て込んでたのよ」
真白はイタズラっぽく笑う真霜に溜め息をついた。
(何も企んでなければいいけど……)
そんなことを考えていると、明乃から出発を知らせる号令がかかる。
向かおうとする真白に真霜が声をかけた。
「宗谷副長!ちょっといいかしら」
「どうされました?」
「ええ、岬さんに伝えて欲しい事があるのだけど」
「伝えて欲しい事?」
真白は真霜からの伝言を聞くと急いではれかぜに乗り込んだ。
+ + +
硫黄島沖10km
はれかぜは、鋼鉄の艦隊からの人員補助を受けつつ兵装の説明を受けている。
はれかぜの主な兵装は
228mmAGS連装砲
新型超音速酸素魚雷
35mmCIWS
長距離SSM
対空ミサイルVLS
対潜VLA
対空パルスレーザー
そして…。
『フニャ~ン!』
にゃんこビーム
「え?」
「今、鳴いたよね?ニャ~ンて……」
「目から!目からビームがでた!!」
「五十六みたいで、とても愛らしいですわ~」
軍艦には何とも不釣り合いな、猫のオブジェの目から、2本の光線が飛び出した。
その様子に彼女は口々に感想を言う。
「それは、¨にゃんこビーム¨ですな。小型で威力は高いですが、少し弾道が読みづらいですので、命中させるには訓練が必要ですぞ」
兵器の解説をしたのは
筑波貴繁
現在57歳で日本帝国海軍の特務大尉でウィルキア海軍大学にてシュルツたちの教官を勤めた。
ガタイがよく、訓練では厳しい面もあるが厳格な堅物というわけではなく、気さくかつユーモラスで社交的な面もあるなど実際は硬軟併せた性格をしている。艦隊内では主に戦術に対する参謀的な役割を持ち、副長不在の際は副長代理を務めることもある。
今回の演習で教官としてはれかぜで指導をすることとなった。
しかし、船舶に特化したこの世界において、明乃達の実力は相当のものであり。
事実上、筑波が教えるのは、主に対空戦闘や、光学兵器、対空兵器等の使用経験が無い兵装についてが主だ。
尚、機関に置いてはヴェルナーが指導を担当している。
「まぁ、自動迎撃装置が搭載されているとは言え、基本を疎かにしてはなりません。先ずは模擬弾を使用し、手動操作での対空戦闘に慣れて貰います。でなければ今後の戦闘に支障が出かねませんからなぁ。ルールとして、クラインフィールドや防御重力場の飽和率が一定量を越えた場合は撃沈扱いとし、白旗を掲げて頂きます。尚、蒼き鋼に対しては実弾の使用を許可します。こちらも念のため、防御重力場は作動させて起きますが、作動した場合は被弾と見なしますのでそのつもりで」
「はい!宜しくお願いします」
「宜しい。では、始めますぞ」
筑波が言うと。演習開始の汽笛がなる。
敵役の空母、メアリースチュアートから多種多様な航空機が発艦してきた。
(速い!横須賀でみたのとは段違いだ)
真白がそう思った時、後ろから筑波の罵声が飛んだ。
「何を、呆けておる‼さっさと回避運動を取らんか馬鹿者!」
筑波の凄まじい覇気に、一同は思わず体が硬直する。
しかし、明乃は直ぐに持ち直して操舵手に回避の指示を飛ばした。
だが、そんな明乃の気持ちを予測していたように、航空機は回り込み模擬弾を次々と命中させてくる。
筑波の罵声は続いた。
「避けてばかりでは、なにも始まらんぞ!迎撃だ!それにいつまで、空母に発艦を許しておる!甲板を破壊するか、魚雷で浸水を起こし艦を傾けて、発艦を困難にしろ!それに注意力も足らん!敵は空母や航空機だけではない!回りにいる艦艇や、潜水艦の存在にも注意しろぉ!!」
捲し立てるように怒鳴り続ける筑波に、実践経験の無い明乃達は、悪戦苦闘しながら何とか攻撃に耐える。
しかし、はれかぜの隙を着くように、斜め後方に、回り込んでいた双胴戦艦、出雲が主砲を向けていた。
真白は、出雲の動向を逃さなかった。皆がカバーしきれない死角すらも見逃さず、明乃に伝える。
明乃は素早く操舵手と志摩に指示を飛ばした。
志摩は出雲を睨む。
相手は既に発射体制だった。
(間に合わ…ない!)
回避が難しい事を悟った志摩は、砲撃手に砲撃座標を伝え迎撃合図を出す。
出雲は既に主砲を発射し砲弾が、高速で飛来してきた。
「撃てぇ…!」
はれかぜの主砲が火を吹く。
砲弾は弾道を描きそして……。
ズドォォォォン!
出雲の放った¨砲弾¨に命中させた。
筑波は目を見開く。
(砲弾を砲弾で撃ち落とすだと?まぐれでできる芸当ではない……。この小娘…一体何物だ?)
筑波が見渡すと、既に芽衣が魚雷を空母に発射し、志摩が航空機への迎撃と空母甲板への攻撃を指示している所だった。
航空機への銃撃も当たるようになり、明乃の回避運動の指示も的確になってきている。
筑波は、軍属でもなければ、実戦の経験すらない彼女達の奮闘に舌を巻いていた。
(航空機がなく、船舶が発展していった故か…。だがまだ甘い!)
はれかぜはたった一隻で、二隻と大量の航空機に対応し始めていた。
しかし、はれかぜの真後ろ遥か後方からそれは突然やって来のだ。
「!?」
真白が違和感に気付いた時にはもう遅かった。
海が突然¨割れた¨のだ。
「ねぇ!何なのこれ……」
芽衣が不安そうな顔で呟く。
真白は、窓から顔を出し後方を確認した。
割れた海の先、そこにはなんと、船体を展開させた艦が居た。
艦橋の形状からは、金剛型であることがうかがえた。
艦首には、一人の少女が立っている。
「フハハハハ!久しぶりの¨本当の体¨だ!肩慣らしに付き合ってもらうよ!はれかぜ!!」
大戦艦キリシマだった。
だが、今の彼女は可愛らしいクマのぬいぐるみではない。彼女の顔は獰猛に歪み、目の前の獲物を狙う獣のような顔をしている。
キリシマは超重力砲のロックビームで、はれかぜの機動力を奪い、模擬弾の雨を降らせた。
はれかぜも必死に足掻くが、船体は全く身動きが取れない。
次々と飛来するミサイルをどうにか数発落とすのが精一杯だった。
メアリースチュアートや出雲からも絶え間ない砲撃をはれかぜに加えていた。
(これ…演習の域を越えてるよ!だって皆絶対私達を沈める気で撃ってきてるもん…)
芽衣は足元が、震えている。
だが、猛攻はまだ終わらなかった。
はれかぜの真横から突然一隻の艦が浮上する。
しかし、それは潜水艦ではなかった。
重巡洋艦タカオが海の中から出現したのだ。
「万里小路さんソナーに何か無かった?」
「爆音で聞き取りづらいのも有りますが…そもそも海中からは何の異音も致しませんでしたわ…」
「どうして……」
明乃は途方に暮れてしまう。
その間にタカオは艦橋上部付近を展開し、二つのリングを出現させた。
「エンゲージ!」
タカオが叫ぶと、リングにエネルギーが集束し始める。
明乃はそんなタカオの艦橋の中に見知った人物を見つけた。
「モカ…ちゃん…?」
明乃のよく知る幼馴染みは、タカオに向かって何か指示を出した。
タカオがニヤリと笑った瞬間……
タカオの超重力砲が放たれ、はれかぜは強烈な閃光と衝撃に包まれた。
「きゃぁぁぁ!」
はれかぜのクルー達が光と衝撃によろけて倒れる。
明乃も踏ん張っていたが、堪えきれず倒れてしまった。
明乃達が何とか立ち上がった時、通信が入る。
『演習終了!はれかぜ撃沈!』
明乃達はシュルツの通信にまだ頭がついていかない。しかし次のセリフで一気に現実に引き戻される事となった。
『はれかぜの生存者はゼロ。戦死者の名は、艦長岬明乃。』
「!?」
驚く明乃達を尻目に次の名前が読み上げられる。
『副長、宗谷真白』
「なっ!」
シュルツはその後はれかぜに乗艦していた全ての名前を読み上げた。
「……以上が戦死者だ。午後は各種兵装や船体の点検を行い。硫黄島へ帰投する。以上通信終わり」
シュルツが通信を切ったあと、明乃達は呆然としていた。
だがそこへ筑波が猛然と明乃に近付き、おもむろに彼女の胸ぐらを掴んだ。
「こんのっ大馬鹿もんがぁぁ!」
「あ゛っ!」
筑波は明乃を殴り飛ばした。
彼女の小柄な体は宙を舞い、近くの壁に激突して崩れ落ち、唇は切れているのか血がしたたり落ちていた。
真白は慌てて駆け寄るが、筑波はそんな真白を引き離し、再び明乃に掴みかかって罵声を浴びせた。
「お前は何をしたのか解っているのか!?たった今お前の判断で仲間達の命を奪った…いや、殺したんだ!!それだけじゃない。この船が沈んだ事で、超兵器によって世界が蹂躙される。そこに居た罪のない人々の命すらも見殺しにしたんだ!」
「!!!?」
明乃は目を見開いた。
(殺した?私が皆を?私が、私の判断が悪かったから皆が…世界の皆が…。大切な皆が…死!)
彼女は殴られた頬の痛みなど既に感じなくなっていた。
それよりも、艦長である自分が不甲斐ないばかりに、撃沈と判断されてしまった。
もし、これが本当の超兵器との戦闘だったなら…。そう考えた時、明乃の頭に両親が死んだ時の情景が浮かぶ。
嵐の日、転覆した船から脱出する際幼い明乃は恐怖から足がすくみ、なかなか救命ボートに乗り込むことが出来なかった。
漸くブルーマーメイドの隊員に抱き上げられ、ボートに乗った明乃が後ろを振り向いた時、沈んで行く船の渦に巻き込まれ、足掻きながら沈んで行く両親の姿が見えた。
彼女は、想像してしまう。
はれかぜの艦橋内、辺りを見渡すとそこには仲間たちの変わり果てた姿。
頭がない死体
銃撃で穴だらけになってしまった死体
体のあちこちがちぎれてバラバラになっている死体
明乃のよく知る仲間達の無惨な亡骸が横たわる。それらが自らの判断で引き起こされかねないと自覚した彼女は、最早堪える事も出来なくなってしまった。
(私のせいでお父さんもお母さんも、皆も…)
彼女の精神は、頭の中で何度も映し出される惨劇に限界を迎えてしまう。
「う゛っ…う゛っ…あ あ゛ぁ゛。」
「艦長?」
真白が心配そうに明乃に駆け寄り声をかけるが、今の彼女の耳に届く事はない。
そして…
「ああぁあぁあ゛あああああ゛あぁあぁ゛ぁああああぁ!!!」
壮絶な絶叫が艦橋に響き渡り、近くにいた真白はその凄まじさに、思わず目を閉じた。
叫び終えた明乃は、まるで糸の切れた操り人形のようにグニャリと崩れ、そして意識を失った。
「艦長!?艦長っ!」
「宗谷副長!硫黄島までは貴様が指揮を執れぇ!岬艦長は、医務室に放り込んでおけぇ!」
「筑波大尉!!どうして!!なにもそこまで!」
「黙れ!ここは既に戦場なのだ!本物の超兵器は、今の生ぬるい演習とは比べ物にならん位の強敵なのだぞ!貴様らも今のままでは何も出来ずに無駄死することを、肝に命じておけ!」
筑波は、そう言うと自室へと戻っていく。真白はそんな筑波の背中を睨み続けていた。
+ + +
明乃達の演習の二時間程前
硫黄島で真霜は真白にあることを伝えていた。
それはもえかが、はれかぜに乗艦せずタカオにて別行動をとるという内容だった。
そんなもえかは、現在霧のメンタルモデル¨タカオ¨と一緒にいる。
(凄く綺麗な人…とても兵器だなんて信じられない)
彼女が緊張しているる最中、横須賀で撃沈した超兵器空母のサルベージに向かう401に同行させて貰えなかったタカオは不機嫌だった。
(何よ群像艦長ったら!私だけ除け者にしなくたっていいじゃない!)
頬を膨らませて怒る彼女に、ぬいぐるみ姿のキリシマが近寄る。
「まぁまぁ…そう怒るなって。折角自分の船体を復活させられるチャンスじゃないか。その方が千早群像に貢献出来て評価が上がるんじゃないか?」
「艦長の私への評価が…上がる?ふっ、ふん!仕方ないわね!べっ、別に評価とか気にしてないけど〃〃今日のところはコッチで我慢してあげるわ!」
(ホントチョロいなこいつは…)
キリシマは溜め息を付く。
「そういやタカオ。ヒュウガの言っていたナノマテリアルの鉱床は、ホントに硫黄島周辺にあるんだろうな?」
「まぁ、アイツが言うなら間違い無いと思うけど…」
タカオはクラインフィールドで足場を作り、3人は海の上を歩き始める。
「座標ではこの辺ね」
タカオが手をかざすと、海中から銀色の粉が舞い出てきて一つに集まり、艦の形を成した。
「フフン!上出来ね。キリシマ、あんたも早くやんなさいよ」
「ああ、そうだな」
キリシマもぬいぐるみの手を海にかざす。
ナノマテリアルがキリシマの船体を作り出した。
同時に、クマのぬいぐるみの中から霧の心臓とも言えるユニオンコアが出てきて、回りをナノマテリアルが覆って行き、一人の少女の姿に変化した。
ショートアップの髪型で後ろ髪をリボンで縛って小さなポニーテールを作っている。服装は袖の無いタイプの上着と片方を切り取ったようなジーンズにブーツ姿。
青くて長い髪を後ろでまとめて、ミニスカート姿の可愛らしいタカオの印象とは対照的に、キリシマは男装の麗人をイメージした様な格好だった。
「戻った…私の体…うっ、うぅ~」
「何泣いてんのよ!早くしないと演習始まっちゃうじゃない!モエカ…だっけ?あんたもいつまで呆けてんの?さっさと私に乗りなさいよ!」
「は、はい!」
タカオに促されて、もえかが乗り込む。
一同は演習場所へと急ぐのだった。
+ + +
現場に着いたタカオ達であったが、既に演習が始まっていた。
「始まっちゃってるわね…。」
「フフフ、久しぶりに暴れさせて貰うとするか!まぁ1分も持たないと思うけどな!」
「待って!」
早速乱入しようとするキリシマをもえかが止めた。
「何だよ!久しぶりの体なんだ。思う存分暴れさせてくれよぅ!」
「そんな事をしたら、ミケちゃん達がホントに死んじゃう!この演習の真の目的はそこじゃないから、絶対沈めちゃダメ!」
「真の目的?」
タカオが首をかしげる。
「そう、出発前にシュルツ艦長から言われているの。ミケちゃん達を死なせい為に敢えて今回の演習で、ミケちゃんの心を折って欲しいって。」
「心を折る?ああ¨挫折¨ってやつね。でもなぜ?」
「それは、ミケちゃんがまだ、超兵器クラスの相手を実際にした事が無いから。だから一度、超兵器と互角に渡り合ったシュルツ艦長達と人知を越えた力を持つあなた達と、一度矛を交えておく必要がある。そして失ってしまう恐怖を知り、そこから立ち上がる事。それが、一番重要だから。」
「もし、立ち上がれなかったら?」
「立ち上がらせなくちゃダメなの!ミケちゃんはきっと、¨失わせない命¨に自分の命を入れていない。だから知らなくちゃいけないの。自分が生きていなきゃ、大切な人を守ることが出来ないと言うことを!」
「ふん!理解しがたいな。たとえそれが有益だとして、味方である筈のお前がわざわざ出向かずとも、私達に任せておけば良いものを…。」
「だって、死んでほしくないもの…。」
「何だって?」
「私はミケちゃんに死んでほしくない!ミケちゃんが私達にそう思うように、私達だって…あなた達だってそうでしょう?自分の事を信じてくれる人、自分の帰りを待ってくれる人が生きていて欲しい。悲しい顔をしないで欲しい、そう思うでしょう?その為には、自分も相手も¨生きて¨いなくちゃ意味無いの!」
「バカバカしい!私達は兵器!そんなものなど…。」
【ヨタロウ!今日帰ってきたらハルハルと3人でクッキーを焼こうね。約束だよ!】
「まっ、蒔絵…」
【重巡洋艦タカオ。頼りにしている。これからよろしく頼む。】
「艦長〃〃」
二人のコアには、自身を頼り大切に思う人の姿が頭をよぎった。
そしてそしてそれらを失った時、また自分達が沈んだ時の彼等の悲しげな顔を感情シミュレーターが弾き出す。
「な、なんだ…。胸の辺りがモヤモヤする…。嫌だ!そんな結果は…断じて容認できない!」
「私と艦長。どちらが死んでもお互い永遠に会うことは出来ない…。そんなの私は認めない!!」
「そう、それが¨願い¨。でも願いだけじゃ何も救えない。行動しなくちゃいけない!だから協力して!皆で、生きて帰って来る為に!」
もえかは二人に真剣に語りかけた。
「ふん!仕方がない…協力してやるよ!」
「で?何かプランはあるわけ?」
「それは……!」
場面は変わって、演習後半。
キリシマはロックビームではれかぜの足を奪い、砲弾の雨を降らせる。
その最中、もえかを乗せたタカオは海中から、はれかぜに接近していた。
(まったく…。この子見た目の割りに結構大胆事を考えるわね。今いる他の艦を全て囮に使うなんて)
もえかは、キリシマを含めた全ての艦を囮にして、本命であるタカオを水中に潜ませる案を考えていた。
しかし、はれかぜには優秀なソナー手の楓がいる。
故にもえかは、周囲からの砲撃音とタカオのクラインフィールドによるノイズキャンセラーで音を減衰させ、さらに潮流を上手く利用しながら明乃達に全く気付かれる事なく懐に入ることに成功する。
(水上艦の私がここまで気付かれずに接近出来るなんて…。私の戦術の幅がまた広がったわね)
元々、霧の中でも戦術探求に興味を持っていたタカオは、今回の作戦での新たな戦術に舌鼓を打っていた。
「さて、そろそろ頃合いかしら?」
「うん、お願い」
もえかの言葉にタカオはニヤリと笑い、浮上。それと同時に超重力砲を起動した。
「エンゲージ!」
艦橋上部が展開し、二つの円形状の重力子リングが出現、展開が終わるとエネルギーの充填が開始される。
「タカオ!間違ってもはれかぜは…。」
「解ってるわよ!わたし手加減出来ない程下手くそじゃないわ!出力は0.008%程度に調整済みだから安心しなさい!」
「解った、あなたを信じる。発射を!!」
「了解!!」
タカオが超重力砲を発射した。目映い光にもえかは思わず目を閉じる。
タカオは、混乱するはれかぜの乗組員達を見ていた。
(まっチョロイもんよね)
幾多の人類をはね除けてきたタカオの顔には余裕があった。
しかし、次の瞬間タカオは目を見開く。
超重力砲の凄まじい衝撃と閃光で、立って居られるだけでも奇跡な状態であるにも関わらず、一人の少女が踏ん張りタカオを睨んでいた。
はれかぜ艦長 岬明乃
彼女はこの状況でタカオの位置を正確に見極めていた。
そして何よりあの目…。
艦長帽の下から覗く彼女の凄まじい眼光にタカオは思わず怯んだ。
彼女は回りの乗組員達に何やら叫んでいる。目をやられた乗組員達は手探りで何かをしようとしていた。
(ふっ、ふん!この状況で今さら何を……え?)
タカオは目を疑った。
はれかぜの主砲がこちらを向く。
彼女は焦った。
超重力砲発射時はかなりの演算リソースを必要とする上、発射方向のクラインフィールドに穴を開けなければならない為、一時的に無防備な箇所が出てきてしまうのだ。
はれかぜはこの土壇場で、霧の唯一の弱点を突いてきたのである。
(まずい…!クラインフィールドの演算処理が間に合わない!!)
次の瞬間、はれかぜから砲撃が飛んでくる。
このままでは直撃し、タカオが超重力砲の制御を手放してしまえば、超重力砲が暴走して、ここにいる全てのものを巻き込みかねなかった。
タカオは、発射中の超重力砲を緊急停止させ、余った演算能力で素早くクラインフィールドを展開する。
クラインフィールドが展開された刹那。
ズドォォォォォン!!!
はれかぜの砲撃がタカオの目の前に着弾したのだ。
(あっ、危なかった…一体何なの?いや、何者なのあの娘…)
タカオは、はれかぜを睨んだ。
そこで、演習終了の合図がなされる。
タカオともえかが、はれかぜに視線を向けると、筑波に明乃が殴り飛ばされているのが見えた。
「ミケちゃん!!!」
もえかは悲鳴にも似た叫び声をあげる。
艦橋を飛び出し、はれかぜに駆け寄ろうとするもえかをタカオが制止した。
「待ちなさい!アンタはあの娘に死んでほしくないから、今回こう言う形で演習に参加したんでしょう?なら、きちんと最後まで見届けなさいよ!」
直後、
「ああぁあぁあ゛あああああ゛あぁあぁ゛ぁあ!!!」
明乃の絶叫がこちらにまで響いてきた。
「う、くっ…」
もえかも本当に辛そうに唇を噛んだ。
タカオは、そんなもえかから視線を外し、自分の分身体である船体に目をやる。
外見上は無傷だが、最後の砲撃で少しすすけてしまった。
人間はとても弱い、少し感情を揺すぶられた位で平気で壊れる。
だが、今回その人間に隙を許した。
彼女達は千早群像の様に、霧の兵器を持っているわけではない。
ただの人間のただの兵器に、隙を許した。
タカオはもう一度、はれかぜに視線を移す。
明乃は仲間に担がれて、運ばれている。
(あんな弱い娘が私を…)
メンタルモデルは寒さを感じない。
だがタカオは、震えた肩を押さえるように、両手を添えて明乃が見えなくなるまで彼女から視線を離す事が出来なかった。
午後 硫黄島
スキズブラズニルの医務室で明乃は目を覚ました。
辺りを見渡すと、そこには美波の姿があった。
美波は、目を覚ました明乃に気付くと、近寄って腕を取り脈を確認した。
「だいぶ無理をしたようだな艦長。まぁ身体には別段異常は無いようだから心配は要らないが…」
「美波さん…私は?」
「皆まで言わなくていい」
美波は彼女のやつれた頬に優しく触れた。
「今日はとにかく休め。他の皆も目立った怪我は無いから安心しろ」
「ん、ありがとう美波さん。そうさせて貰うね…」
明乃はゆっくりとベットから起き上がり、おぼつかない足取りで、医務室を後にした。
「艦長…あなたには今、休息が必要だ。心の休息が…な」
誰も聞いていない医務室で美波が呟いた。
+ + +
スキズブラズニルのシャワー室
真白は、汗で汚れた身体をシャワーで流している。
だが彼女は、ただ虚ろな目でボーッと立っているだけだった。
そこへ、ドアを開けて誰かが入ってくる。
視線の先にはもえかがいた。
真白は、もえかを睨み付ける。
「よく平気な顔をしてらっしゃいますね知名艦長…。艦長の心をあれ程ズタズタにしておいて…」
「そう言うあなたも、『艦長の側で力になりた~い』とか言っておいて、何も出来なかったみたいね宗谷副長!」
「!!!」
ボゴォ!
「く…あ…。」
真白は、もえかを殴り飛ばし、倒れたもえかに馬乗りになる。
「あなたに何がわかる!実際にあの場にいた訳じゃないあなたに!あんな、化け物みたいな艦を相手に、艦長は一人で判断を迫られて…。それで全ての責任を背負ってあんな事に…。そんな艦長の気持ちがあなたなんかに解る訳無い!!」
「!!!」
ゴフッ!
「あぐっ!?」
今度はもえかが、馬乗りになっている真白の腹に膝を打ち込んで突き飛ばし、もえかが真白を上から殴り付けながら叫ぶ。
「甘えないでよ!何が艦長一人よ!ミケちゃんがいつも責任を一人で被るのは、大事な時にミスを恐れて仲間が全力を出せなくなる事を無くす為に、敢えて全ての責任を自分に課しているの。そんな事も知らずに自分の不甲斐なさや力量不足迄ミケちゃんに押し付けるの?勝手だよ!あなたはミケちゃんの隣で一体何を見てきたの!?」
「わ、私は…」
真白は何も言い返す事が、出来なかった。
気付いてしまったのだ。
いつも取って付けたような正論ばかりを口にして、肝心な時になるとすくんで動けず、近くに居る者にすがってしまう弱い自分に…。
あの時筑波が言った言葉は、明乃だけに言ったのではなく、自分達にも向けられていたのだ。
しかし、真白はまた明乃一人に押し付けて逃げてしまった。
(私、最低だ…。副長失格だ!艦長をよく知っている知名さんだって、心を鬼にして臨んで、艦長と同様に傷付いているのに、私は自分の事だけで頭が一杯で……ホント…)
「最低だ!私は…」
真白は、顔をくしゃくしゃにして泣いた。
すると突然もえかに身体を起こされる。
殴られる。 いや、殴られて当然だと真白は思った。
しかし、次の瞬間真白の顔に柔らかな感触が伝わった。
目を開くと、真白はもえかに抱き締められており、顔を上げるともえかの目にも涙が浮かんでいる。
「知名さんどうして……」
「私、やだよ。死ぬのが怖い!自分も、皆も、死ぬのが怖い!だから、生き残る方法があれば、藁だって、蜘蛛の糸だって掴みたい!皆でまた笑い会える日々を取り戻したい!」
「知名さん……」
彼女は理解した。
もえかや皆、そして明乃や自分自身は死にたくないんじゃない【生きたい】のだと【生きていて欲しい】のだと。
真白は決心した。
明日を生きるため、次の瞬間を生きるために自分の出来る事をやりきる。
かつて、6年前の事件の時に偶然救助したドイツ艦の副長が言っていた。
【艦長とは孤独なものじゃ…。何時もどこかで自分を殺して、艦と言う1つの集合体を纏めて行かねばならんからのぅ…。じゃが儂は、皆の為にこの海の上で孤独を敢えて引き受けてくれた艦長を一人にしたくない…いや、一人にしない為に居るんじゃ…】
だが言葉の本質はそこではない。
本当に重要なのは、
(艦長…。貴女の心を一人にさせない!)
真白は立ち上がり、もえかを抱き起こす。
「知名さん。ありがとう!誓うよ。もう艦長を一人にしない!心を一人ぼっちさせたりしない‼」
「宗谷さん…」
「解ったんだ、この演習の意味が。知名さんや筑波大尉が言っていた意味が。私だけでは、微力かも知れないけど、それでもはれかぜの皆を守る一員として艦長の力になりたい!」
「うん、私は同じ艦じゃないけど、絶対皆を守るから!。だから宗谷さん。ミケちゃんを…はれかぜをお願い!」
「ああ!」
二人は、硬く誓い合った。
皆との明日を必ず勝ち取るために。
+ + +
夕方
明乃は、はれかぜの艦橋に一人佇んでいた。
彼女は辺りを見渡し、ひび割れた窓ガラスを見て眉をひそめる。
それから舵輪に歩み寄り、それを優しく撫でて額をつけ、はれかぜに語りかけた。
「ごめんね……。また傷だらけにしちゃったね…。ダメだね…私…。6年たっても全然成長出来てないよ…」
明乃は涙を流し、本当に申し訳なさそうに、はれかぜに語りかける。
すると急に周りが明るくなった。
彼女は驚き周りを見渡すと、とても小さい光の玉が、フワフワと明乃に近付いて来る。それは彼女の前で止まると、なんと話しかけてきた。
《そんなこと無い…私は信じてる。いつだって皆を、私を大切に思う君を…私は信じてる……》
明乃は不思議と怖い感じは受けなかった。
まるで母親が子供に囁いているような優しい声に、心の不安が癒されていくような感覚を覚えていた。
「はれかぜ……なの?」
光は答えない。
「あのねっはれかぜ!私は…」
ガチャ!
「!!!!」
ドアの開く音がしたため、明乃は慌てて振り返る。
「あれ?ミケ艦長いたんだ。休んでたんじゃなかったの?身体は大丈夫?」
「め、メイちゃん?う、うん。大丈夫…」
明乃は振り返るが、光の玉の姿はなかった。
(夢?だったのかな……)
「ミケ艦長?どうしたの?」
「ううん…。何でもない。そ、それよりメイちゃんこそどうしたの?」
「あ~アハハハ。実は昼間の演習、私達ヤラレちゃったじゃん?だから明日の演習じゃ、ミケ艦長に迷惑駆けないようにって…」
気まずそうに芽依が半開きのドアを開くと、そこには、はれかぜのメンバーがいた。
「え、エヘヘ…。皆でさ、作戦を練ろうってね」
「…練る」
「あたぼうよ!負けっぱなしじゃこの麻侖の気が治まらねぇ‼」
「初めの経験でしたから対応出来ませんでしたが、次こそは……」
「待って!!昼間のは私の判断が……」
「ミケ艦長ダメだよ!また悪いクセが出てる。一人で抱え込みすぎないでって言ったじゃん!それにさ…私達だってミケ艦長を死なせなくないって思ってるんだよ。その為に、努力するのって行けないことなのかな…」
「芽依ちゃん……」
「私だって怖かったし、パニクッちゃったよ。だってそうじゃん。あんなデタラメな力を見せられたら誰だってそうなるっしょ?だからさ、皆で考えようよ!私達の日常を皆で迎えられる方法ってヤツをさ!」
芽依はそっと明乃を抱き締めた。
明乃は涙で濡れた顔を芽依の身体へ預ける。
孤独だった心を囲むように、皆の心が寄り添い、温めてくれるような心地よさを明乃は感じた。
「あ、あのう…。私達もいいだろうか?」
一同が振り返ると、真白ともえかが立っていた。
二人とも何故か、顔に絆創膏を貼っており、少し互いに気まずそうにしている。
「シロちゃん、モカちゃん…」
「ミケちゃん。私達、絶対に生き残ろう!皆で!」
「その為に、私達にも少しでいいから、貴女の肩の荷を分けて頂けませんか?」
もえかと、はれかぜメンバーが一応に明乃を見つめる。
明乃は涙に濡れた顔で儚げに笑顔を作った。
「ありがとう…」
「ヨッシャァァ!そうと決まれば、早速作戦会議だぁ!」
「うぃ!」
「そう言えば美甘ちゃんが後で夕食届けてくれるって!」
「そうかぁ、それは俄然やる気が出てきたぜぃ。待ってろぉ!明日は麻侖がギャフンと言わせてやるってんでぃ!」
彼女達はこの後、夜遅くまで明日の演習での作戦を考えていた。
+ + +
「まだ、やっているようですな」
「ええ…そうですね」
「それにしても、あなたも随分酷なことをなさる」
「あなたほどではありませんよ。筑波¨教官¨。」
「教官とはまた随分昔の話ですな」
筑波は苦笑いを返した。
「艦長。彼女達は、大丈夫なのでしょうか?」
「それは、近くで見ていたあなたが一番解っているのでは?」
筑波は表情を険しくする。
「ええ、全員が揃って居ないとはいえ、彼女らの能力には、何か背筋が寒くなるのを感じました」
「同感です。しかし彼女達ならいかなる状況においても、犠牲を何よりも嫌悪する慈愛の心を貫けると信じています。私とは違って…」
「ご謙遜を…」
筑波は、シュルツへ視線を向ける。
彼は、はれかぜを眺めていた。
その顔は、救世主の存在を信じてやまない純心で穏やかな顔をしていた。
お付き合い頂きありがとうございます。
字数の絡みで二日間の演習を一話に纏めることに失敗致しました。
メランコリー艦長明乃頑張れ!
次回もよろしくお願い申し上げます。
とらふり!
シュルツ
「それよりその資料は何ですか?」
筑波
「これは私が考案した、新たなはれかぜの訓練内容です。目を通していただけますかな?」
シュルツ
「全身に矯正ギブスを装着しての演習?時代が40年前ですよ…」
筑波
「スポコンじゃぁぁぁ!」
シュルツ
「あ~あ、始まっちゃった…」