1-1左遷
季節は春に移り変わりそうな冬。
ゆりかもめの鳴き声が聴こえてくる横須賀鎮守府。
庁舎の片隅では『補給係』と呼ばれる窓際部署がひっそりと仕事をしている。
その部署の長は海軍中尉『有明誠』。海軍きっての嫌われ者で、補給係に絶賛左遷中である。
そんな、邪魔者有明は提督の呼出により提督室に出頭していた。
コンコンと重厚なドアをノックしたのち
「横須賀鎮守府補給係長、海軍中尉有明誠、入ります」
と声を張る。すると、中から「入れ」と短く返事が聞こえた。
部屋の主、横須賀鎮守府長官、海軍中将『幕張将司』提督はにたぁーっとニヤケながら有明を出迎える。
その顔を覗いた有明は内心で舌打ちをしていた。
なぜなら、有明を最も嫌っている人物こそが幕張提督であるからだ。
これは有明にとっていい話であるはずがない。
「いやぁ、元気にしてるかね、有明君」
「はぁ、まぁこの頃特に公私ともども異常はありませんが」
「それは、良かった」
と大げさに頷きながら、防衛省からの封筒を取り出す。
「ところでだな、今回は君の昇進なのだよ」
「はぁ、昇進ですか」
「そうだ。今から辞令を読み上げる。ごっほん、えぇー、横須賀鎮守府補給係長、有明誠海軍中尉。海軍大尉を命ずる」
「・・海軍大尉、拝命いたします」
「よろしい、では有明大尉。重要なのはここからだ」
今までの提督の言動から察するに、海軍大尉はきっと何かの準備だろう。
その何かに有明は不吉な予感しかしていない。
「えー、通達する。有明誠海軍大尉、本日付で横須賀鎮守府補給係長の任を解く。それに伴い補給係は解散、補給係業務は総務部へ移管する。」
「補給係が解散ですか...承知しました。すぐに引き継ぎ準備に入ります」
「うむ、頼むよ。で、次に君の次の仕事なんだが・・・・要港部を作ってくれ。」
「要港部...ですか?」
艦娘が深海棲艦と戦うこの世界では各地に艦娘が使用する軍港が多数存在する。
所属する戦闘艦の数に応じて小さい方から、軍港は要港部・警部府・鎮守府と分類される。
要港部を作れ、それすなわち要港部すらない場所に行ってこいというさらなる左遷命令であった。
その後、提督が嬉しそうに詳細について語った。もちろん、嬉しい理由は横須賀鎮守府から有明を追い出せるからだ。
詳細を要約すると
・現状安定してきた南部方面に要港部を設置し、南下への前線基地としたいので、ミクロネシア連邦ポーンペイ島に要港部を作ってこい
・とりあえず島の状態よくわかんないから、先遣隊作るので指揮をとれ
・あとはこの書類に書いてあるから夜露死苦
とのこと。
さすがの有明もまさか島流しになるとは思ってなかったので、「はぁ、わかりました」と気の抜けた返事をして、終始嬉しそうな提督を背にゆらゆらと補給係室へと戻っていったそうだ。
* * * * *
横須賀鎮守府補給係・・・それは提督が有明の顔を見たくないので新設した窓際部署である。
例えるなら、ドラマ『相棒』の特命係のような場所。
業務はひたすら補給関係の数字とにらめっこするという、ある意味提督が有明の依願退職を狙った内容だった。
そんな有明を支えるただ1人の部下は、吹雪型24番艦・世界を凌駕した特型、その最終タイプである特Ⅲ型のラストオーダー、駆逐艦電だ。
彼女は深海棲艦との戦いが始まった24年前から現世に現れた初期組で、4年前に第1線から退き予備艦として事務作業に従事している。
ちなみに、何人もの提督から『ケッコンカッコカリ』を申込まれたが全て拒否したため、レベルは99。
「有明ちゃん、さっき幕張ちゃんに呼ばれていたみたいでしたけど、なんの用だったのです?」
「電ぁ〜どおしよーっ。深夜アニメが見れなくなっちゃうよ〜」
「は?」
それから有明は電に島流しの件について説明をした。
捕捉をしておくと、有明は重度のオタクである。某軽巡から感染したのだが、それはまた別のお話。
「アニメうんぬんは置いとくとして、いくら幕張ちゃんが有明ちゃんのことを嫌いだからって、島流しにするのはひどいと思うのです」
「だろう?」
「いつ出発です?」
「ええっと、ここに提督からの書類が....ぇっとポーンペイ先遣隊は以下のように編成する。
隊長:有明誠 海軍大尉(横須賀鎮守府補給係所属)
事務:駆逐艦 電(同)
護衛:航空巡洋艦 鈴谷(呉鎮守府艦娘学校所属)
なお、出発は、えっ..この日付明日じゃんっ」
「げっ私もいくのですか......まぁ有明ちゃん1人じゃ可哀想ですし、仕方ないのです」
「てかさ、補給係の引継やってたら今日は、日付かわっても帰れないだろうから、明日出発ってこれ提督の逃がさないぞというメッセージだよな..」
「そうだと思うのです。しかも、護衛の鈴谷ちゃんなんて艦娘学校からの着任ですよ..新人に1人で護衛しろなんて酷すぎるのです」
「まぁ海軍の人員が足らないのはいつもの話だし、命令は絶対だしなぁ」
「有明ちゃんがそういうなら、私は黙って付いて行くのです」
「じゃ、早速だが補給係の業務を総務部に引き継ぐ準備をはじめるか」
「はいなのです」
* * * * *
艦娘には練度別にレベルが設定されている。
また、一定のレベルに達すると『改』となれるのだが、改になるためのレベルは基本的に各艦娘の職種や装備に応じて設定されている。
例えば、特殊な任務を命じられる潜水艦などは高めの数値、50が改レベルとなっていたりする。
海軍では原則、改になるまでは研修生として艦娘学校で学び、練度を高める事を義務づけている。
つまり、艦娘学校から着任する鈴谷は今回の先遣隊が初の実任務なのだ。
* * * * *
相変わらずゆりかもめの鳴き声が聞こえてくる横須賀鎮守府。日は次の日と変わり、時刻はもう太陽が昇り切ったころ.....
引き継ぎ書類の作成作業を終えて目に隈を作った有明と電がいた。
「やっと..おわったのです...」
「あぁ、やっと終わったな...ちょっとひと眠りしよぉ..」
と有明は机に突っ伏して眠りに就こうとしたが、補給係室入口である簡素なドアの『コンコン』と鳴ったノック音に遮られた。
「どーぞ」
「はっはじめましてっ!呉艦娘学校から着任した鈴谷です。よろしくお願いします!」
最上型三番艦『鈴谷』。アクアマリン色のつやのある髪で茶色いブレザーを身に着ける彼女は、あどけなさが残るが、魅力的な顔だちと明るい性格が光る艦娘だ。
だが、有明達に鈴谷を笑顔で迎えられる余裕は無い。
それどころか、書類作成作業で疲労し過ぎて起きている気力すらない。
結局、有明達は「ヨロシクー」「なのです~」だけ言い残して夢の世界へと旅立った。
鈴谷は着任早々放置プレイとなったのである。
それから3時間後、お昼前。
やっと充電を完了した有明が起動した。彼は応接用のソファーで座るように寝ていたのだが、いかんせん両肩が重い。右を見るとスヤスヤと寝息を起てている電、左を見るとなんかうなされている鈴谷が仲良く寝ている。
そんな、2人を見ていてほんわかしていた有明だが、時刻を確かめるともう正午。
ポーンペイに出発する予定時間は15:00なので、あと3時間しかない。
「!?っ。やばい、おいっ起きろ電、鈴谷っやばいぞ」
「あっ有明大尉、おはようございます」
「鈴谷は起きたか..おいっ電ぁ〜おきろぉー」
「あと3時間むにゃむにゃ〜」
「あと3時間じゃ遅刻しちゃうよ、マジで起きてください」
その後有明は電をシェイクし、なんとか起動に成功したのであった。
その後
「おっほん。では遅れましたが、ポーンペイ先遣隊結成式をはじめようか」
と有明の一声で、3人だけのプチ結成式が始まった。
「じゃあ、自己挨拶から。鈴谷からお願いできるかな?」
「はいっ。航空巡洋艦鈴谷です。うまれは横須賀、昨日まで呉艦娘学校にいました。先月、改レベルの35になれたので重巡から航巡に改装されて、発艦訓練とかやってました。今はLv.36です。よろしくお願いします」
「じゃぁ次は電」
「はいなのです。私は電。特Ⅲ型の末っ子なのです。この世界に艦娘として現れたのは24年前。いわゆる初期組なのです。今は第1線から退いて事務作業をしてるのです。よろしくなのです」
「じゃ最後は俺だな。俺は有明誠。昨日から大尉になった。好きな物は2次元っ!これからよろしくな」
「・・・」
突然の2次元ラブ発言に鈴谷はもちろんドン引きしている。そんな様子には目もくれず話を前に進める有明という男だ。
「それから、鈴谷」
「はっはいっ」
「これから、俺に対して敬語禁止」
「えっ禁止ですか?」
「そう、禁止。普通にタメでいいよ、俺、上下関係苦手だからさ。他人の前でだけは敬語にして欲しいけど」
「いやっでも、有明大尉は上司ですし..」
「じゃぁ上司命令で」
「そんなぁ〜」
「鈴谷ちゃん、一応これには訳があるので聞いてあげてほしいのです」
「..わかりました」
「それから、呼び方も有明でいいよ」
バシッ
「あんまり、調子に乗らないでください。仮にもあなたは隊長、つまり隊の司令官なのですよ」
と有明はと電からチョップの制裁を受けたが..
「いゃぁでも、階級呼びとか嫌いなんだよねぇ」
「まぁ有明ちゃんの言い分も解らなくはないのです。...じゃぁ司令官でどうですか?けっこう上司の事をそう呼んでいる艦娘は多いですし」
「まぁ電が言うならそれでいいか。じゃぁ鈴谷と電、今後は敬語禁止。俺のことは司令官と呼ぶように」
「はいっ..じゃなくて..わかったよ司令官」
「了解なのです~」
こうしてプチ結成式は終了したのだが、出発の時間は刻一刻と迫っている。三人は今後の予定を確認し、鈴谷は工廠に行って装備搭載、電はそれに付き添い、有明はその他出発準備を行う事となった。
* * * * *
時刻は15:00前。何とか準備を終えた一行は幕張提督に出発のあいさつをした後、横須賀鎮守府総務部の案内で三人をポーンペイまで輸送する船がいる桟橋まで向かった。
有明は電に問う
「なぁ電、こっちの方の桟橋って嫌な予感しかしないんだけど..」
「奇遇なのです..」
鈴谷はそんな二人の会話を耳にして頭に大きな『?』マークを浮かべていたが、すぐに理解するところとなる。
「こちらが、皆さんをポーンペイまでお送りする艦になります」
と総務部の担当者の手の先に現れたソレはーーーー
全長約120m、基準排水量10000トン。コンパクトボディに充実の重武装を施した現時点で海軍唯一のミサイル原子力潜水艦。
『そうりゅう型原子力潜水艦、ネームシップ・そうりゅう』
だった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
いろいろ史実とは違いますが仕様です。
ご了承ください。反応もらえると次回のUPが早くなります。
なると思います。..きっとなるはず...