といういつかの下校中に思いついた物語です、、
ちょうど学校の下駄箱を出るときに、灰色っぽい雲から雨粒が落ちてきました。
雨に濡れるのは別に嫌じゃないけれど、風邪を引いてしまうのは嫌です。
ベッドにひとり寝たきりになることほど退屈なことはありません。
なので下駄箱の横の傘立てに置きっぱなしにしておいたお父さんから借りている大きなビニール傘をさします。
足元の運動場の土がだんだんと湿ってきました。
パチパチと雨粒が跳ね返る音のするビニール傘は透明なので傘をさしていても外がよく見えます。
校門を出てしばらく家に向かって歩いていると、後ろにランドセルを背負った男の子が歩いていることに気づきました。
私と同じ、ひとりぼっち。
同じ方面から歩いているのできっと同じ学校の男の子でしょう。
傘を持っていないようです。一生懸命両腕を使って雨から頭を守っているけれど、それだと頭以外が濡れてしまって仕方がないです。
よく見れば同じクラスの男の子でした。
「ねぇ、傘の中入る?」
私がそう声をかけると、男の子はびっくりしたような顔でこちらを見ました。
雨の中と傘の中、どちらがいいのかなんてすぐに分かるはずです。それに知らない人から声をかけられたわけではないのです。
なのにその男の子はしばらく迷っていました。
そして私の顔を見ると頷き、そそくさと傘の中に入ってきました。
大きいお父さんのビニール傘の中に二人ともすっぽり収まりました。
「いきなりの雨でびっくりしたわ。」
今朝いつもの天気予報のお姉さんは晴れだと言っていました。天気予報は絶対ではないのです。それを知って少し安心しました。
「僕も…。でも傘、持ってきてたんだね。」
ボソボソとした声で男の子が言います。
「これは置き傘よ。いつ雨が降っても大丈夫なように学校に傘を置いているの。お母さんの案なのよ。」
「へぇ…」
男の子は俯いて何も喋らなくなりました。
そういえば私はまだ男の子の名前を知りません。聞いてみることにしました。
「ねぇ、名前は?」
「えっ?名前?僕の?」
「そう。あなたのお名前。」
「……中村海斗」
「中村くん、ね。覚えたわ。私、物覚えは良い方なのよ。ちなみに私の名前は…」
「知ってる…。」
「あら、それはびっくりだわ。」
中村くんはあまり関わりのないクラスメイトの名前ですら覚えているようですが、私はあまり関わりのない子の名前なんて覚えていません。
席が隣同士なわけでもないのですから。
「君はよく手をあげて発表しているから。」
とまた少し小さな声で中村くんが言います。
「なるほどね。」
私のクラスではなかなかみんな手をあげて発表をしないので私ばかり先生に当てられてしまいます。
先生は手をあげて発言することは大事だとおっしゃるのになぜみんな手をあげないのか、いつも疑問に思います。
きっとみんな答えをわかっていると思うから余計にです。
いつの間にか雨粒の跳ね返るパチパチという音が聞こえなくなっていました。
ビニール傘から顔を出して外を見てみると雨は降っていません。
雨雲もどこかへ行ってしまったようです。
いつまでもさしていてもしょうがないのでお父さんの傘を閉じます。
傘を閉じると上への視界が開けました。
「ねぇ、ほらあれ見て。虹だわ。」
まっすぐ目の前に電信柱から空へと綺麗な虹がはみでていました。
「ほんとだぁ。」
隣で中村くんも嬉しそうに歓声をあげています。
「虹の足まで行きたいな。」
虹は塵や雨に光が反射して映し出された目に見えている像なので実体はありません。だから触れられないのよ。と中村くんに教えようかと思いましたが、今までにこういうことを言って幾度か怪訝な顔をされたことがあったので、黙っておくことにしました。
代わりに私は中村くんに微笑んでみました。
「僕、あっちだから。」
この踏切のところで中村くんとお別れのようです。
中村くんは踏切を渡って右へ、私はそのまま左へ曲がりました。
ここが分かれ道。
「またね。」
お別れするときの挨拶です。
ふと、口をついて出てきた、というのでしょうか。反射的に口から零れ出ました。
「うん、佐倉さん、また学校で。」
とぎりぎり聞き取れるか聞き取れないかの小さな声で、手を振りながら中村くんはそう言いました。
素敵な返事です。久しぶりに先生以外の人にちゃんと名前を呼んでもらいました。
その返事に応えるかのように私も手を振ります。
中村くんと別れた後、お母さんの言いつけをちゃんと守ってまっすぐ家に帰ります。
私の右足と左足が楽しそうにリズムよく雨に濡れたアスファルトを叩きました。
もう少し語彙力増やします。
少女の感情表現がブレました…。