戦闘力は引き算だ。
防御力と攻撃力の減算である。
つまりは余り物の類だ。


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ドラゴンボールの不思議ギミックに着目しました。



戦闘力はゴミか

 

 

私の名はアグリー。

父の名はベジータ。

私には義兄がいる。

兄の名は父のそれ。

 

縁のみが唯一の絆。

 

 

兄には世話になった。

私からサイヤ人としての全てを奪い、ゴミクズの様に辺境の惑星へと捨て去ってくれた。

私はこの兄にされたことを、絶対に忘れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兄は、天賦の才に恵まれた、粗野なサイヤ人の誇り高き王子だった。

私は義理ながらも兄として崇め、心の底から尊敬した。

私と同じくバカで、たわいもない事を夜更けまで熱心に話し合った。父にはその事で、よく叱られた。

 

「伝説のスーパーサイヤ人?…兄上は凄いものを目指してるんですね…」

 

ある時を堺に、兄はその単語をよく口にする様になり、私を驚愕させた。

フリーザとかいう、我々以上に冷酷な宇宙人が顔を出す様になってからだ。幼い兄とて、本能で察したのであろう。コイツには絶対に勝てないと。

その側近にすら手も足も出なかったのだから。

 

「この雪辱は、必ず果たしてみせるぞ。サイヤ人をナメやがって!」

 

トレーニングルームで、兄は血だるまになって床に這いつくばっていた。

ボコボコにされ、鼻血を垂れ流しながらも堂々と嘯ける兄が、私には心の底から誇らしかった、

これ程の攻撃を喰らっても平然と起き上がり、再戦の誓いを立てるその背中が、眩しくて仕方なかったのだ。

 

 

 

私は戦闘民族たるサイヤ人の王族の末席を汚しながら、ありえないほど脆弱だった。

飛行能力やエネルギー波の撃ち方は兄も認めるくらいなのだが、いざ実戦形式となるとそれを引き出す前に片付けられてしまう。

 

兄はおろかナッパさんに、手も足も出ない。一発もらっておしまいだ。ケチョンケチョンにされてしまう。

この二人がメチャクチャ強いだけなのもあるが、それにしても私の脆さは度し難い。

 

ラディッツさんとは、イビられ仲間であった。

彼は下級戦士なのに功績を上げるバーダックさんのご長男だ。ナッパさんに目の敵にされていた。

ラディッツさんは私に比べればよっぽど戦えた方だ。それにしても、弱者に対する兄とナッパさんの風当たりは、度し難いものがあった。

この頃から、兄の苛烈さは静かに芽吹き始めていた。

 

 

 

そんなある日、スカウターという野戦装備が支給された。

元々はツフル人が持っていた装置を、サイヤ人のニーズに応えてコンパクトに組み上げた物だそうだ。

これを持って方々の星に攻め入り、その地を支配したい異星人に売り渡すのが、一人前のサイヤ人の仕事だ。

あまり褒められた所業では無い気がして、私は自分を恥じた。

自らの弱さの言い訳のためにサイヤ人の生き方を否定するなど、許される事では無い。

兄の様な苛烈な姿勢こそが、正しい在り方なのに…。

 

私たちは真剣に、お互いの戦闘力をピピピと測りあった。

その結果、とんでもない事実が判明した。

 

ラディッツさんのスカウターが示した私の戦闘力は、1。

実質的な戦闘力の下限に触れてしまったのである。

戦士としては下級も下級、生まれたての兄にも劣るだろう。

弱い自覚はあったが、それにしても酷すぎる。

私は愕然となった。

ちょっと借りて実際の表示を見せてもらったが、省略された桁などは欠片もなかった。

 

兄は、王族にはあり得ない数値を繰り返しはじき出すラディッツさんのスカウターを、叩き割ってしまった。

自分にとって都合が悪い事実を、強引に揉み消したのだ。

 

「スカウターの故障だ…。アグリーよ、そこの弱虫に、もっと良いものを作ってやれ。丁度良い、役立たず同士、職人でも目指したらどうだ。」

 

その際に兄が言い放った言葉は、失明しかかったラディッツさんの容体と共に、変な風に広まってしまった。

トラウマに加えて不名誉まで植え付けてしまった彼には、回復を待って謝りに行った。

 

「済んだことだ。それよりオマエはもう…ベジータの言う通り、スカウター職人を目指せ。オレはもう少し、戦士の道で踏ん張ってみせる。」

 

「何でだよ…一緒に職人目指そうよ。」

 

「オレにももうすぐ、弟ができる。オレがここで逃げたら、アイツはどうなる。生まれながらに弱虫の弟扱いだ。…兄貴として、そんな無様は晒せないぜ。」

 

----だったら私は、弱虫以下じゃないか。

 

その言葉を、私は必死に飲み込んだ。ラディッツさんとナッパさんの戦闘力にも相当な開きがあったが、私との比較の差ではない。既に、私の戦士への道は、閉ざされてしまったのだ。大人しく受け止めるしか無かった。

私とラディッツさんは、お互いに手を握り、そして別れを告げた。

 

 

 

こうして、幼い私と兄は、皮肉にも揃ってこの機械の虜になった。

 

私は、納得いかない数値を吐き出す機械自体に。

兄は、その機械に表示される数値を高める事に。

 

それぞれに、のめり込んでいった。

 

とにもかくにもこうして、私は職人への道を歩み始めたのである。

スカウター職人は、戦士一人一人の戦闘スタイルに合わせて、オーダーメイドのスカウターを仕上げる事を生業としている。

 

戦闘では役立たずな私も、この道にはセンスを持っていたようだ。

早速頭角を現し、自爆機能を付与する事に成功した。戦死リスクの喚起と、リスク顕在化の際にスカウター技術の漏洩を防止するためである。何よりも、私達職人達の思いが込められたスカウターを、粗野な敵の手になぞ渡したくは無かったのだ。

 

しかし、先輩職人達にはいい顔されなかった。ツフル人の多くはスカウターの性能向上に感心があり、私のもたらした機能などは小手先の技術に過ぎないからだ。

何よりも機密保持の概念など持てない戦闘員たちが、「戦闘力が一定数以上になると壊れる、弱っちい機械だ」と噂した。

この機能を褒めてくれたのは、私の師匠と修行仲間くらいなものであった。

 

あとは、兄だ。

1年ほど前に仲間のスカウターを奪われた挙句に無線を傍受され、痛い目見たことがあったらしい。

この話を聞いた時、私は真っ青になった。

既にリスクなんてものでは無く、スカウターは鹵獲の憂き目にあっていたのだ!

スカウターとは職人にとって、我が子の様なものである。量産なんてとんでもない、どれ1つとして同じものは無いのだから。そのスカウターを取り戻す結末を語ってくれた兄に、私は心の底から礼を言った。

 

機能開発の背景…修行仲間の影響を受けて、爆発した方がカッコイイと思ったのとは、言い出せなかった。修行仲間…ベジータ王家に近い血の繋がりを持ちながら、私以上に低い戦闘力を持つルイソの事は、語り始めるとキリが無いので省略する。彼女の戦闘力は、1以下の自然数であるとだけ記そう。

 

この事を経てようやく、兄との仲は小康状態を迎えていた。

 

「スーパーサイヤ人の戦闘力?そんなのゼロに決まってるじゃないですか。」

 

「そいつへの配慮は認めるが、真剣に考えてその結論なのか…。」

 

あるとき兄は、私が修行させて貰っている工房を訪れて、そんな事を聞いてきた。因みにルイソは、戦闘力は皆無ながらも超越的な頭脳の持ち主であり、既にサイヤ人の間では伝説になっている。一部では、彼女こそがスーパーサイヤ人だと噂する脆弱者が出る始末だ。

 

しかしルイソに遠慮したとは思ってくれるな、兄よ。私もさすがにその頃には、駆け出しの技術者として一家言持つ様になっていた。

 

----究極の戦闘力は、中立だ!真に戦いを極めた者は、敵がいない!戦いの必要すら無くなった者の戦闘力は、スカウターでは測れない!

 

モチロン、コレは極論でしかなく、私も夢想だとわかっていた。

今の兄の様に呆れてしまうのも、仕方の無い事といえよう。

しかし、スカウター職人の卵としては、あながち間違いで無いと思っていた。いや、今に至ってもそう思っている。

何せ、自分の手でスカウターを作る様になってまず驚いたのは、この戦闘力という数値が測定値では無いという事だ。直接測る事が出来ないから、仕方なく計算で導き出しているのである。

 

じっくり説明しよう。

 

もはや兄のお気に入りの玩具と化したこのスカウターという機器は、構造としては物凄く単純な代物だ。測定器2つに演算機1つ、無線機1つに表示器1つの、合計5つのコンポーネントを寄せ集めたに過ぎない。

 

測定器2つは、防御力と攻撃力を個別に測る。演算機で前者から後者を引いて、表示器に送る。このしがない計算結果が、兄がその上下動に血眼になっている、戦闘力の正体である。

 

計算の順序、逆じゃない?戦闘力なんだから、攻撃力こそ先に来るでしょ?そう思ったそこのあなたは、工房入り初日の私と同じ感想を抱いた事になる。くれぐれも、ソレを工房の中で口にしないで欲しい。ツフル人の先輩職人達にとっては、禁句も良いところだからだ。

 

今に至ってすら、ツフル人の技術力をもってしても、敵の本質的な脅威度を直接に測る事は、出来ないのである。えっ、本当に?など聞き返そうものなら、彼等は烈火の如く怒り出す。

その証拠に彼らの作ったオリジナルのスカウターは、もっと原始的な構造をしていた。測定器が1つしか無かったし、無線機もついてなかった。パワー、スピード、といった各指標から、現在でいうところの攻撃力だけを弾き出していたのだ。

 

彼らが同種どうしでの戦闘しか経験していないうちは、それだけで十分だったのだ。

彼らの肉体は、我々サイヤ人に比べれば紙みたいなものである。そんな薄い装甲しか持たない存在同士が、強力な飛び道具に依存している戦いだったようだ。攻撃力が防御力を圧倒するのが戦いの常だったのだから、なけなしの防御などは見向きもされなかった。

 

そんな彼等にとって、思いも寄らぬ存在が逆襲を図った。

 

父の率いたサイヤ人である。

 

オリジナルのスカウターには、それほど高い数値は映らなかったとされている。父達は、それ程の脅威とは見なされなかった様だ。しかし結果として、ツフル人は一方的に打ち減らされてしまった。その過程に関する歴史的資料やデータが後世に全く残らないほどに、種族としては絶滅寸前に追い込まれたのだ。

 

そう。

彼等は愚かにも、我々サイヤ人の防御力を見誤ったのだ!

ツフル人は、確かに優秀な種族だ。彼等の知能の高さに比べ…なくても、我々はいわゆるバカの寄せ集めに過ぎないだろう。しかし、その身はかなりに頑丈だ。そこらを行く主婦一人とて、岩を砕く攻撃くらいではビクともしない。

 

ツフル人にとっては、完全な誤算だった様だ。

そうして圧倒的な戦力の差と惨劇に震え上がる生き残り達を、父達は躊躇いもせずに奴隷化したそうだ。私の真の父は、ツフル人達の技術を取り入れることを父に進言し、この戦いの最中に亡くなったそうだ。生きていれば真の父が奴隷化政策の旗手だったのかと思うと、この身に流れる姑息な血に、思わず溜息せずにはいられない。この話をマトマさんから聞かされた時は、職人の卵としての境遇をもたらした兄に感謝してしまったくらいだ。

 

ちなみにマトマさんは、一流のスカウター職人で私の師匠で、ツフル人の末裔である。スカウターに無線機の機能を追加したのは、他ならぬこの人だ。父にその一級の功績を表彰された際に、サイヤ人としての名を貰った、名誉サイヤ人なのだ!

 

「ツフル人職人としての技術などに、どうか畏まらないで欲しい。我々サイヤ人に協力の術をもたらしたオマエは、間違い無くサイヤ人のエリートなのだから。」

 

そう言ってマトマさんの肩に手を置いた表彰式での父は、なかなかにカッコ良かった。兄のお気に入り単語が、「スーパーサイヤ人」から「エリート」に移った瞬間だった。

因みに私の好きな言葉でもある。しかし、兄がエリートを自称してるのを見て自粛を心掛けた。私はスーパーエリートを名乗る事にした。兄の目を忍んで。

 

話は逸れたが、まぁ、こんな感じで。先代たちの大暴れの結果、攻撃力以外もキチンと測定しよう、という現在のスカウターの基本理念が出来あがった訳である。

 

その後のスカウターの歴史は、ツフル人の生き残り達の手によって黄金期を迎えた。

 

彼等は生来の職人だった。

過酷な労働環境なのだから手を抜けば良いのに、誰一人としてそうはしなかった。

 

攻撃力の大小に拘って命運を誤った…つまりは一次元の情報に頼りきり、敵戦力を見誤った彼等の執念は、凄まじい勢いでスカウターに改善をもたらした。その結果、戦闘力は単なる数値ではなく、多面体で示されるようになった。

 

パワー、スピード、タフネス、テクニック、スタミナ…。様々な情報が測定され、多次元の尺度が敵戦力を評価し、それはそれは美しいダイアグラムがスカウターの表示器を飾った。

 

しかし、ここで大きな問題が生じた。

 

スカウターのもたらす膨大な情報量に、お猿さん並みの知能しか持たない我々サイヤ人達が、ついに耐えきれなくなったのだ。個々人が戦場で、てんでバラバラな判断をする事態に陥ったのである。勝てる戦いを悲観視し、負ける戦いを楽観視するサイヤ人が続出したのだ。

 

元からその兆候はあったのだが、妙なところでプライドだけが高いサイヤ人達は、「もうちょっと分かりやすくしてよ」と素直に言いだせなかったのである。訳わかんなくても、偉そうな顔して鷹揚に頷き、その反応に気を良くしたツフル人達の職人魂に火がつき、ますますわかんなくなるという具合だ。

 

ここに、そんな悲劇を録音したテープがある。ちょうど、敵情報の表示方法が、平面から立体に移ったころだ。

興奮気味に語るのは、おじいちゃん世代のスカウター職人である。もちろんツフル人だ。この世代には、サイヤ人の職人などいない。それが求められたのは、兄が生まれる直前くらいだ。

 

「ご覧ください、ギエンリ様!コレが最新のグラフ理論と三次元投影機がもたらした、第3世代型スカウターです。」

 

「ホウ。そんなに変わった様には見えんが…これは、電源を入れるとわかるのか?」

 

「流石のご慧眼!見てください、ついに、敵戦力を立体表示する事が可能になりました!これで、現場から苦情が寄せられていた平面表示の問題点も解決されるでしょう!より高度な情報を、より多く、視覚化する事に成功しました!」

 

「フム、良くやったぞ。コレは…、大きさを見れば良いのだな?」

 

「ハハハ、ご冗談を!体積だけに注目したのでは、第1世代型の数値表現と変わりませんぞ!第2世代型の面積と同じことを言われるとは、お人が悪うございます。この角ばった多面体の形状、そのものにこそ真の意味が隠されております!ご安心下さい!既に70通りの解釈までに絞り込み、100ページ分のマニュアルを4時間分の研修コースにまとめ上げてあります!」

 

意地張って知ったかぶるサイヤ人と、職人芸にひた走るツフル人の間に、ユーザーフレンドリーの概念がもたらされる筈も無かったのだ。

 

しかし、改めて言うがスカウターは、野戦機器である。表示された情報をフムフムと眺めて、あーでもないこーでもないやってる暇は、戦場には無いのである。

 

一瞬で相手の脅威度を示す、明確な指標が要求された。

 

かなりの大論争になったと聞く。

お猿さん並みの知性しか持たない我々サイヤ人が参加してのものだから、それはそれは酷いものだっただろう。ツフル人の子孫たちは数学的芸術とでも言える関数で幾通りもの指標を提示したのだが、サイヤ人にはまるで理解出来ない。理論と実践がここまで隔絶してしまうと、最早単なる喜劇である。

 

この論争に終止符を打たせたのが私の父、ベジータ王であった。

彼は、ツフル人のスカウター職人には未だに敵視されている。

職人芸の極みにあったスカウターを貶めたとして、まるで罪人扱いだ。

 

父は、多面体表示しなければならない程に多くなった戦闘情報(パワー、スピード、テクニックetc)を、サイヤ人側の意見を集約して、攻撃と防御という歴史の出発点に帰着させるよう求めたのだ。

 

そう。サイヤ人にとって多すぎる多次情報を数値の大小に落とし込んだ第四世代型のスカウター、現行型の基礎はこの様にしてもたらされたのだ。

 

現在の測定器は、実のところ演算機を兼ねている。サイヤ人の戦闘経験とツフル人の知能のぶつかり合いによって編み出された歴史的関数は、それまで個別に評価されていた数々の情報を、攻撃力という単純な一次元の指標に落とし込むことに成功した。この結果、戦場で実際に発揮される攻撃力…その背後にある潜在的攻撃力、繰り出される攻撃の上限値、つまりは破壊衝動そのものの大きさを推し量る事に成功した。

 

防御力の測定器も同じである。実際に発揮される耐久性の背後に潜む、生物としての生存本能そのものの大きさを推定している。

 

で、最終的な問題が残された。

 

攻撃力と防御力を、どう扱うのかである。

当然、並列表示して現場判断に任せようよ、というのがツフル人技術者達の言い分だった。

しかし私の父は、ウンとは言わなかったそうな。

 

「最後まで知恵を貸してくれ。サイヤ人は戦士だ。情報に囚われて判断を誤っては、死んでも死に切れない。疑いようのない、明確な数字を示してくれ。」

 

まぁ、そうまで言うなら足し算でしょう。

ツフル人達は、ヤケクソ気味にそう考えた。ついには潜在力そのものの大きさを割り出すに至ったその時点において、実際の運用などには興味が惹かれなかったのである。

 

しかし、合算値の高さの割には防御一点張りだったり、低さの割にはそれなりの攻撃を繰り出されたりして、これはうまく行かなかった。そんなこんなが、ツフル人技術者に苦情として舞い込んだ。

 

だったらもう、引き算くらいしか残って無いじゃないか。

 

しっかし、足してダメなら引くって、意味がわからない。最早数字で遊んでるだけだろう。こんな仕事はやっつけ過ぎる。彼らは泣く泣く、過去のデータを洗い直すことにした。

 

ツフル人達が真に仰天したのは、この後のことである。

 

意外にも、蓄積された全てのデータをフルイにかけると、この引き算が脅威度の判定として有用な事が分かった。真に実力を備えた者ほど、防御力が攻撃力を圧倒的に上回っており、両者の乖離幅が大きくなるのだ。破壊衝動の大きい者ほどそれを上回る高度な生存本能を備える様になるのは、道理である。

つまりは、敵の真の恐ろしさとは、防御力から攻撃力を減じた差で表すことができる。

 

こんな単純な事実が見逃された背景には、ツフル人の職人気質がある。現実の戦闘の結果とは、攻撃と防御の実現値に過ぎない。ツフル人の目にはそうした観測可能な数値などは矮小なものとしか映らず、その背後にひそむ潜在力をこそ、割り出す事に必死になっていたのだ。「現実を見るな、理論を見ろ」とまで高まった職人魂が、現実から目を逸らさせたのである。

 

未だに一部の昔気質な職人は、「統計など逃げだ」と言い切ってしまう程である。

 

さて、驚愕の統計的事実が明らかになったのは喜ばしいことだが、両者の差は一体何を意味するのか。

防御力は生存本能、攻撃力は破壊衝動に集約される。この両者の差はつまるところ、破壊衝動に駆られていない生存本能の大きさ、余剰本能と称されたものの大きさである。

 

破壊衝動に駆られた本能の部分、つまりは防御力と攻撃力が同値で均衡を保っている部分は、戦闘には中立を保つ。他者を食むという生存行為を戦闘とは言わないのと同じ理屈で、制約本能と称されたこの部分は、戦闘力としてはカウントされない。単純に生きてるだけで相殺し合う部分だと考えられるからだ。この制約本能にまで手を出して戦闘を行うと、自身の生命力そのものが削られる。

 

そうした力を発揮し、戦闘力を大幅に上昇させる奴は、死兵としてだが例外的に存在する。破壊衝動を削って生存本能に回し、強引に水増しさせた余剰本能を戦闘で費消させるのだ。生存本能の定義に逆らう、相当に矛盾したイカレ野郎だ。その根本にあるのは、死を賭してとか自己犠牲の精神だとかいうものだろう。サイヤ人には無い素質である。

 

長々と語って来たが、私の得た結論はこうだ。

究極の戦士とは、戦闘力などという余剰本能の遊びを、一切持たぬ者だ。静かな心で、一切の欲を持たず、必要な時にのみ己の生存を賭して生存本能を爆発させ、その全てを戦いに費やす。つまり、サイヤ人でいる限りは精神構造上、絶対に到達できない。

 

 

 

 

 

 

私がこの様な考えをこじらせたのは、自身の戦闘力に対する負い目があるからだ。本当は、兄と並び立つ男でありたい。同じ戦場を駆け、共に強くなっていきたい。

サイヤ人の頂点に立つ兄を、支えたい。

 

しかしながら私には、天地がひっくり返っても無理だ。

ならばひたすらに、無駄な思考を巡らす他には無いではないか。

 

そうして私は、運命の分かれ目となるスカウターを組み上げた。

 

第1世代型の、攻撃力にしか目を向けなかった頃のスカウターである。

現在の第4世代型から単純に防御力測定器を外しただけのものだ。

 

しかし、当時では測ることが出来ずに現在では計測可能なものがある。当時は単純な、物理的破壊力を攻撃力として測定していた。しかし現在のスカウターでは、破壊衝動そのものの大きさを測ることができる。

 

「ルイソ推定式を使えば済むじゃない、回り道はよしなさいよ。」

 

実はこのスカウターを自作することを打ち明けたとき、ルイソからはこの様な言い方で自粛を促された。

 

攻撃力なんざ今時、測定するまでも無いのである。統計的に優位な推定式があり、戦闘力から逆算する事が出来る。

名前を聞けばわかる通り、彼女自身の手により導出された。どこまでも規格外なサイヤ人である。

これによれば私の攻撃力は、せいぜいが100程度である。

 

しかし私は、どうしても諦めることが出来なかった。

私の推定攻撃力が1,000にも届かないなんて、何かの間違いだと思っていた。

そう、信じたかったのだ。

 

兄の代名詞ともなった連続エネルギー波は、元々は私の技術だ。

初めて実戦で使いこなして、技として昇華させたのが他ならぬ兄であることは、否定しようの無い事実である。私では使う前に殺されてしまっただろうから、決してその技術が技として日の目を見ることは無かっただろう。兄の技である事に、異論は全く無い。

 

けれども、そもそもは私がトレーニングルームでやったのだ!

兄は、ベジータは、私がやってみせたから実戦に取り入れることが出来たんだ!

 

私だって、戦えるんだ!

 

そんな思いと共に。

丹精込めて作った第1世代型スカウターで、私は自分自身の攻撃力を測った。

 

その結果に、私は狂喜した。

 

スカウターは爆発した。

 

演算器に仕込んだままの自爆チップが、作動したのだ。つまりはスカウターの測定上限に触れたのである。

 

この事実から導き出される私の攻撃力は、10,000以上!

 

これは、通常では考えられないことだった。ルイソ推定式が成立するのは、戦闘力は防御力の10%±αに留まるという統計的根拠があるからだ。つまり私は、ごくごく稀な外れ値なわけだ。

 

私は、防御力を遥かに上回る、圧倒的な攻撃力を持つ存在なのだ!スカウターに内蔵された引き算では負値を取るために、閾値判定の結果、戦闘力が1になってしまっただけなのである。

 

私はルイソの制止も聞かずに、新たな第1世代型を作り出した。

 

 

 

 

 

 

私は走った。

 

兄を見つけ、自爆チップを除いた第1世代型のスカウターを渡して、強引に攻撃力を測ってもらった。

 

今やスカウターの表示器には、夢の様な桁数の数値が踊っている頃であろう。

 

「コレは…誰かに話したか?」

 

その時の兄は、信じられないほど冷たい目をしていた。

 

いいえと首を振ると、安心したように微笑んだ。

幼い日に見た、苛烈さを芽吹かせる以前の頃の表情である。私はついにその時、兄に認めて貰うことが出来たと思った。

 

そんな事を思った、その瞬間。

 

兄は、私の胸を撃ち抜いたのである。

 

「えっ…?」

 

私には、何がなんだかわけが分からなかった。

 

兄は私が丹精込めて作り出したスカウターをグシャリと握りつぶし、全てを否定する言葉を放った。

 

「また故障だな、アグリー。」

 

そんな筈が無い、このスカウターの測定器は確かに私の自作だが、測定器職人の元に通って作り上げた代物だ。太鼓判を押されている。それを、躊躇いもせずに破壊してしまうなんて…。

 

私は自分にされた事よりも、私のスカウターがされた事に大きく動揺した。

兄もそれが分かっていて、こんな残酷なことをしたのだろう。

 

私がいかに大事に一品一品を仕上げるか、ニヤニヤしながら眺めてくれたのだ。その兄が、私のスカウターに対してこんな酷いことするなんて、信じがたいことであった。

 

「おやおや、勿体無いことを…。」

 

「不正確なスカウターなど、惜しむに値しませんよ。」

 

ベジータの声が不慣れな敬語を使っている。

相手はフリーザだろう。私はあのチビがいる事にすら気付いていなかったというのか。

 

「べ、ベジータ!こりゃ一体…どうしたんだよ!」

 

私を撃ち抜いたエネルギー波は、壁を粉々にしていた。そのことに驚いたナッパさんが、駆けつけて来る。

もちろん私には、口をきく余裕など無い。

 

「コイツの戦闘センスの無さには、ほとほと愛想が尽きた。これ以上は、兄として我慢がならん。」

 

兄は私の身を抱えながら、ズンズンと歩を進め、止まる気配を見せない。

ナッパさんだけでなく、ラディッツさんや…お父さんであるバーダックさんまで駆けつけて来る事態となった。

それはそうだろう。私は義理とはいえベジータ王の子供なのだ。

 

それが兄の手により瀕死の重傷を負い、治療室とはまるで異なる方向へ運ばれていくのだ。

 

兄の足が向かう先には、心当たりがあった。

 

宇宙船の発着場だ。

 

「ベジータ、アンタ何するつもりよ。」

 

ああ、この声は…セリパさんだ。

彼女には、初めて作ったスカウターを褒めてもらった事がある。なかなかのデザインね、というお洒落な彼女らしい言葉を頂いた。

 

同時に彼女は、好戦的な戦士である。

おそらく、どこぞの星にでも向かおうとしていたのだろう。

 

まさか…。

 

「どけ。」

 

兄の動く気配がする。

セリパさんを、強引に押しのけたのだろう。

 

その声は、サイヤ人の王子に相応しい冷徹さを含んでいた。

 

そうして私は、一人用の宇宙船ポッドの中に押し込まれた。さすがに哀れんだのか、兄の手が生命意地装置を付けてくるのがわかる。

 

こんな事するくらいなら、一体なんで私を撃ったりなんかしたんだ。

 

「うごけないサイヤ人など、必要ない。」

 

兄の言い放った言葉の重さに、私の頭は揺れた。

ハンマーで殴られた様な衝撃があった。

 

そうだ…攻撃力の大きさなんて、戦闘では意味をなさないのだ。

 

兄が既に、この事を証明していたでは無いか!

 

戦闘力が引き算であるという事を告げた、翌日の事である。兄はトレーニングルームで強引に破壊衝動を抑え込み、余剰の生存本能を水増ししてみせたのだ。

 

その結果、動きにキレが無くなった。肥大した筋肉の重量が、実質的な戦闘力を削いでしまったのだ。

この時、兄は戦闘力の大きさにこだわりつつも、それを強引に押し上げる事の危険性を悟ったと言っていた。コントロールする事に熱を上げるよりも、より苛烈に実戦経験を積む道を選んだ。

 

その過ちを、スカウターの制作に関わる私自身が繰り返してしまうとは…。

 

「心して聞け!今後、コイツの様にサイヤ人に相応しく無いザコ野郎は、辺境の惑星へ送り出す!ガキだろうが赤ん坊だろうが関係無い!コイツは、今日限りで王家から除名する!」

 

周囲にそう告げると、兄は宇宙船の進路指定を終え、ハッチを閉じた。

私には、先の一言以外の何も告げずに。

 

私は一人、息絶える寸前で船内に取り残された。

 

----待て、待ってくれ。兄よ、私への言葉は、本当にそれで終いなのか?!何も、何も無いのか?!兄として崇め、貴方の役に立とうとした私は、貴方の道具でしか無かったのか?!その意にそぐわぬ不良品はいらぬと、それだけの理由でこんな事をするのか?!

 

生命維持装置に思えた器具は…私から急速に意識を奪い去った。後から分かった事だが、コレはルイソが作った治療装置でもあった。彼女はスカウター職人としては私と同列の卵だが、宇宙船職人や戦闘服職人としては一人前なのであった。

 

こうして、私はどことも知らぬヤードラットという星へと向けて、真空を彷徨う事になった。

 

脳裏をよぎるのは、遠いあの日にラディッツさんが語ってくれた言葉である。

 

「ベジータは…兄として、オマエを戦闘から遠ざけたいんだよ。オマエはサイヤ人である前に…アイツの妹じゃないか。オレも、兄貴になるって知って、思ったんだよ。下級選手でも何でも良い、弟には…とにかく生き残ってさえしてくれれば、戦闘民族の定めからすら逃れて構わないと。…こんな事を思ってしまうから、いつまで経ってもオレは…弱虫なんだろうな。」

 

――違う!

本音を吐露できる人が、なんで弱虫なんだ。サイヤ人としての評価は、どこか歪んでるんだ!肉親を大事に思う心の何処が、弱虫なんだ!

 

それに私には…ついぞ打ち明ける事が出来なかった。

兄に…妹としてでは無く、一人のサイヤ人として扱って欲しいと告げる事は、ついぞ叶わなかった。

血の繋がりの無い私達は、義理の関係のみが全てであった。それすら自分の手で打ち壊してしまう事は…私には出来なかったのだ。

 

しかしその仮初めの関係すら、兄はもう、否定してしまった。

今の私達は何の縁も持たぬ、他人同士である。

私の望みが叶った結果は、王子たるサイヤ人とザコのサイヤ人という関係性しか残さなかった。

 

兄には、闘いこそが全てだ。

 

私にはわかる。兄は、フリーザの打倒を考えている。あの人は、生まれながらの王子なのだ。自分の頭上には、何物も仰げ無い。自分が一番で無いと、気が済まないのだ。

 

その為に必要な事は、何でもする。

 

そう、何でもだ。足手纏いは、躊躇わずに切り捨てる。必要ない身内は、家系から外す。

 

私は、見捨てられたのだ。

 

 

 

 

 

その後、風の便りに惑星ベジータが巨大隕石の衝突で完全に失われたと聞いた。

 

私の名はアグリー。

母の連れ子だった。

父の名はベジータ。

父も母も既に亡い。

 

父の名の星も無く。

兄には見捨てられ。

義理すら絶たれた。

縁のみが唯一の絆。

 

私は、兄にされた事を忘れない。

私からサイヤ人としての全てを奪い去り、ヤードラットに送り込んだ事実を。

 

その真意を確かめる迄は、絶対に死なない。

 

兄は、フリーザに必ず叛逆する。

 

その時迄に、私は必ず、真の戦闘力に辿り着いてみせる。あの兄では、伝説のスーパーサイヤ人へは辿り着けるはずも無い。

 

次こそは、あの傲慢な男に私の存在を認めさせるのだ。

 

その為に、真の戦闘力を測るスカウターを開発してみせる。

 

長い道のりとなるだろう。

 

 




ドラゴンボールの二次創作を読んでいて、ふと思いついたことで一本書いてみました。

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