ムシウタ~夢捕らえる蜘蛛~   作:朝人

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六月後半に二つゲーム買ったせいで書く時間がなかった。ちなみにまだ終わってないから次回も遅れる可能性大。
今回は色んな奴がキレる。あとR-15のタグを付けた理由は今回で分かると思う。


禁句

 ――昔から、よく『器用だ』と言われる。

 

 自分でも手先は器用な方だと自覚している、ガ○プラとか作るの好きだし、物の修理とかもどちらかと言えば得意だ。だからといって、それらが何かの役に立つとは微塵も思っていなかった……虫憑きになるまでは。

 否応なく戦いを強要される虫憑き。単純に、且つ圧倒的な力を持っていればこんな事はまず思わないはずだ。しかし、誠に遺憾ながら俺の虫は弱く、単純な力比べではほぼ確実に負けてしまうだろう。故に、『能力の応用』に関しては他の誰よりも、一層頭を悩ませたのは苦い思い出である。……もっとも、残念な事に俺の虫の能力はその悉くが戦闘には向いていなかったのだが……。

 “一応”戦闘班に属してはいるが、実際の所俺は監視や工作要員として駆り出される事の方が多い。“大蜘蛛”の能力が(トラップ)や支援向きである事は、俺も十分に理解しているのであまり文句は言えない……寧ろ下手に前に出れば簡単にやられる為こっちの方が向いている。

 そんな任務ばかり続けていた為か、能力については相当理解があり、どういった事が出来るのかは粗方把握している。

 その中で、酷く面倒で時間も掛かるが、それなりに使えるものがある。潜入したり、特定の人物と接触する際役立つそれは――。

 

 

「すまないが、そろそろ解いてくれないか? さすがに『自分』と向き合うのはあまり気分がいいものではないのでね」

 

 波施市の市街地にあるマンション。つい最近出来たばかりであり、俺と“まいまい”の潜伏先でもある。その近く、大体車で五分くらいの所に、見るからに豪華な造りの屋敷がある。そこの一室に今俺達はいる。

 俺と“まいまい”とほのかの三人と向かい合うようにスーツ姿の男性が椅子に座っている。

 

 南条宗析(なんじょうそうせき)――数いる資産家の一人だが、“虫”について独自に調べている人物。ちなみに土師の知り合いである。

 彼は今回の任務の『外部協力者』として密かに俺達に手を貸してくれている。

 何故協力者が必要か? その理由は考えるまでもなく明白だ。流石に他の支部のお膝元でバレずに密偵するなど無謀過ぎる、潜伏先なんて通常の手段で手続きを取ったら即アウトだ。故に彼の様に特環以外の協力者が必要となる。おかげでこの支部の局員にバレることなく潜入出来たし、彼の所有するマンションに住まわせて貰っている。本当に“あの”土師の知人かと疑う程よく“出来た”人だ……今の所は。

 ……まあ、本人としてはあの会場を消す事が出来ればそれでいいらしい。事情に関しては詮索しないよう前もって言われているので聞かない。ギブアンドテイク、それが彼が俺達に求める関係なのだろう……と言っても明らかに彼の方が分が悪い……そうまでして、あの会場を壊したいのか?

 

 

「……わかりました」

 

 一瞬、余分な考えが頭を過った。だが『詮索するな』と言われている為、結局は割り切って呑み込む。そして一息の後に彼が言った言葉に頷くと、俺は今まで自分が纏っていた大量の糸をほどき、同時に消滅させる。

 一般成人並の身長を持つ南条さんと同じ姿をしていた為か、『擬態』を解いた後は二十cmほど背が下がり(戻り)、一瞬だけ妙に気分が落ち着かなったがそれも直ぐに慣れ、いつも通りの風景として認識する。

 ……うん、我ながら切り替えは早い方だな。誰に言う訳でもなく、胸の中で少し誇る。

 

「ん……?」

 

 不意にくいくいと袖を引っ張られ、振り向くとピエロが――正確にはピエロ姿の“まいまい”がいた。「どうした?」と尋ねるとケータイに着信が入る。

 

『“大蜘蛛”さん早く私のも解いて下さい! 今ブレイク中のネットアイドルマイマイちゃんの素性を晒させない為とはいえ、若干息苦しいです!』

 

 通話ボタンを押すと案の定、五月蝿い声が聴こえた。ちなみに素性を隠す為というのは当たってるが、特環局員である事を隠したかったのであって、間違っても“まいまい”の言ってるような理由ではない。

 

 『擬態』――俺の虫である“大蜘蛛”の能力を使った変装の通称をそう呼ぶ。あくまで変装である為自分より小さいものに化ける事は出来ない上、本気で真似る場合小一時間は掛かり多大な集中力を使用するので、『巣』以上に手間が掛かる代物だ。ただ、それに見合うだけの成果はある。何せ指紋や声すら真似する事が可能なのだから。その上持ち前の器用さも合ってか、一度でも変装した人なら二回目以降数分足らずで化け直せる。潜入・工作といった任務の際には最も重宝されるスキルである。

 ……まぁ、“ミミック”みたいに他人の虫をコピーとかは勿論出来ないので、例によって戦闘には全く役に立たないけどね……。

 

 で、その肝心の『擬態』に関してだが、皮を被る様な感覚に見舞われる為か、慣れない内は暑かったり息苦しかったりするのだ。特に今回の様に他人に使用する場合、どうしても調整が難しく、顕著に表れてしまうらしい。やはり、自分と他人では勝手が違うな……。

 

『すぅ……はぁ……室内だけど空気が美味しいです! あ、宗析さん加湿器つけてもいいですか?』

 

 とりあえず“まいまい”とほのかの擬態を解いたが、“まいまい”は相も変わらず平常運転である。……湿気を求めているのは虫がかたつむりだからだろうか?

 了承の声を待たず、勝手に加湿器の電源を押す“まいまい”に苦笑を浮かべる南条さん。

 

「これ、ありがとうございました。おかげでスムーズに入る事ができました」

 

 これ以上“まいまい”(あの馬鹿)が余計な事をして機嫌を損ねられる前に本題に乗り出そう。そう思い、借りていた会員カードと携帯電話を差し出す。

 

「それで、どうだったかね? 感想は」

 

 カードとケータイを受け取ると、お返しと言わんばかりの書類の束を渡された。

 

「はっきり言って、最悪ですね」

 

 出された質問に数秒も使わずに即答。そして元々頼んでいた、あの会場についての資料に目を通す。ちなみに俺の応えに対し、南条さんは「そうだろうね」と一応同意してくれるが本心は分からず。

 

 あの“イベント”――虫憑き同士の殺し合いは見ていて気分のいい物ではなかった。自分が虫憑きじゃなかったとしても、印象は悪かっただろう。ただでさえ自由が制限されている虫憑きを束縛して無理矢理戦わせ、欠落者を生み出す。資料を見るに、そうして出来た欠落者(稀に虫憑きも)は人身売買に出されるらしい……逆らわず、言われた命令をただ淡々とこなす彼らはまさに体のいい奴隷という事か……。胸糞悪い話だが場合によっては更に酷く、『維持するのが面倒だから』という理由で解体(バラ)して臓器を売っている奴らすらいるらしい。

 基本的に特環に属していない虫憑きは発見された時点で人権とかを無視される場合が多く、世間から“いないもの”として扱われる。どうやらあそこに囚われている虫憑きはその特環に属していない者達のようだ。……いや、正確には特環に属する前、か……。

 薄々感付いてはいたが今回の件、やはり此処の支部が関与しているらしい。恐らく彼らが捕まえた虫憑きの横領をしているのだろう、幾ら金が集まってもあんな数の虫憑きを用意できるはずがない。ほのかの証言も照らし合わせるとまず間違いない。

 問題はその特環に干渉できる様な存在――元凶がまだわからないという点だ。あのバカでかい会場を作れる程の経済力に、特環の――恐らく支部長に交渉できる程の権力を持つ相手か……候補はかなり絞れるが、見つけ出すのは骨が折れそうだ。

 

 

「――ありがとうございます」

 

 資料全てに軽く目を通し、おおよその見解は出来たつもりだ。後は……とりあえず、土師に現状報告するべきか。

 資料の束を左手に持ち、加湿器で潤っていた“まいまい”を右手で引っ張り、南条宗析の仕事部屋を跡にする。

 

「あ、待って! ラナちゃんの事……」

 

「彼女なら此処を出て右からの三番目の部屋で眠っているよ。心配なら覗いてみるといい、そろそろ起きる頃だろう」

 

 ほのかの心配を察した南条さんが、退室する間際そう告げる。それに対し、人見知りのほのかはお辞儀だけしてから俺達の後を追ってくる。

 『ラナ』か……ほのかとは違った情報を持っているかもしれないし、あの娘からも事情を聞かないとな。

 そう思い、言われた通り右から三番目の扉をノックすると、不機嫌そうな声で『どうぞ』と返事がきた。

 

 扉を開くと客間と思わしき造りの部屋に入る。一見よくある洋式の内装だが、恐らく家具や装飾品は一般のそれと比べ物にならない程高価なのだろう。うっかり壊して弁償だけはゴメンだ。興味深そうに何かの女神の置物に目を輝かせ、すぐにも触りそうな“まいまい”の首根っこを引っ張りながら、気をつけようと自分に言い聞かせる。

 

 部屋の奥……窓際にある、これまた高そうなベッドに件の少女はいた。体を起こしているのを見るに、ほとんど回復したようだ。実際、あのスタンガンは特環の技術部が作った特別製で、意識を飛ばす程の威力を出しても後遺症が残らない優れ物だ。個人的に技術部には(つて)があるので万が一に備え、こういった護身用の道具を作って貰ったのだ。他にも色々あるのだが、携帯出来る数には限度がある。今回は場所が場所だった為あれを持って行ったのだが、チョイスは間違っていなかったらしい。

 

「起きて大丈夫なの? ラナちゃん」

 

「うん、もう大丈夫よ、ほのか」

 

 心配していたほのかに優しく微笑み掛けた後、一瞬で表情が変わる。

 

「――で、アンタ達は何?」

 

 親の敵でも見るような鋭い視線、明確な敵意を持って俺と“まいまい”を睨み付ける。

 

『え、あの……私、は……』

 

 その威圧感に気後れした“まいまい”は今にも泣き出しそうにガクガクと震え、俺の背中に隠れる。普段のふざけた態度も、あそこまではっきりとした敵意の前にはたじたじのようだ。

 

「他の支部の特環局員だよ」

 

「何処の」

 

 仕方なく、俺が簡潔に説明すると意外な返しが飛んできた。そう訊くってことは警戒しているのだろう。確かに虫憑きにとって、特環に良い印象を持つ者はいない。だから妥当な反応とも言えるのだが……ここまで露骨だとちょっと悲しいな……。

 さて、ここは素直に言うべきか、嘘を吐くべきか、迷うところだが……。

 

「………………東中央支部」

 

 結局、素直に言うことにした。下手な嘘でボロが出るよりマシかなと思っての選択だったのだが……。

 

「――ッ!?」

 

 その名前を出した瞬間、目を見開く程驚愕し、次いでさっき以上の敵意が――寧ろ殺意が籠った視線を飛ばす。

 ……うん、これはミスったな。

 そう思ったのもつかの間、ベッド付近に置いてあった花瓶を掴むと、そのまま俺達に向かって勢いよく投げつけてきた。

 不意を突いた一撃。だが予備動作が大きかった為か早い段階で反応でき、なんとか回避する。対象を見失った花瓶はそのまま壁にぶつかり、粉々になってしまった。

 ……ちょっと待て、この花瓶いくらするんだ? 俺ブランド物の弁償なんかしたくないぞ!

 

「あの悪魔のいる所じゃない!」

 

「ラ、ラナちゃん……?」

 

 金銭関係で頭を抱えそうな時に、息を荒げながらラナは怒声を上げる。

 状況が今一呑み込めないほのかや、ラナのヒステリックに当てられトラウマ再発中の“まいまい”とは違い、俺はある程度察しが着いた。

 

 『悪魔』――敵味方問わず呼ばれる“かっこう”の別名だ。“かっこう”は容赦なく虫を殺し欠落者にする事で有名だ(無論悪い意味で)。勿論無差別にやっている訳ではないし、人は殺していないのだが……欠落者への恐怖と当人の性格、異常な戦歴に最強を表す『一号指定』という称号。それらが歪に混ざりあって化学反応を起こした結果、当人の預かり知らぬ所で彼は『悪魔』の二つ名を襲名してしまったのだ。

 最近は良好な関係を築いていた為、うっかり忘れていたが……本来彼は、虫憑きにとっての『恐怖と畏怖の象徴』なのだ。故に、出会った瞬間一目散に逃げる者や、事前調査を行い遭遇する要素を徹底排除する者もいる。

 恐らくラナは後者なのだろう、さわらぬ神に祟りなし。石橋を叩いて渡るどころか、石橋そのものを避けるタイプだ。

 個人的にその姿勢には好感を持てるが、もう少し感情を抑えられないものか……。それとも想定外の出来事には弱いのか?

 とにかく一度落ち着いてもらわないと真っ当に話が聴けない――。

 

「なんで人殺しの仲間と一緒にいるのよ! ほのか!」

 

 ……訂正しよう。やっぱコイツ嫌いだ、俺。

 

「待て、誰が人殺しなのかもう一回言ってみろ」

 

 今聞き捨てならない言葉が聴こえたの気がするが……。

 

「は? そんなの“かっこう”に決まってるでしょ」

 

 訊いた俺に対し、『何当たり前の事訊いてるんだ、こいつ』みたいな視線が向けられる。

 アイツ(大助)の評判がすこぶる悪いのは理解していたつもりだったが、まさか人殺し呼ばわりする奴がいるとは思わなかった。悪評というのはとことん下げる事が出来るらしい。

 仕方ない。効果があるかどうかはわからないが、友人を悪く言われるのはやはり居心地が良い物ではないからな……多少フォローは入れるか。悪魔は今更だとしても、せめて人殺しの誤解だけは解かないと――。

 

「……でも、欠落者にされるくらいなら……死んだ方がマシかもね」

 

 意気込み、いざ説得しようとした瞬間、彼女はそんな事を口走っていた。

 それは、この街で彼らが受けてる扱いを知っているからか。それとも夢を壊されるくらいならと思って出てきた言葉か。定かではないが……ただ、彼女が『それ』を本気で想った事だけは解ってしまった。

 

「……けんな……」

 

「え?」

 

 だからだろう、マズイと理性が判断し抑えようと努めるが、俺にとって“それ”は紛れもない『禁句(タブー)』だった。

 

 

「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ! このガキがッ!!」

 

 

 次の瞬間、感情が爆発し怒鳴りつけた。そして俺の心境を察してか、大蜘蛛が姿を現し、『禁句』を言った少女の四肢と首筋を無数の糸で縛り上げる。

 いきなりの事で“まいまい”もほのかも……怒鳴られ縛られた当のラナでさえ唖然としている。

 

「『欠落者になるくらいなら死んだ方がマシ』だと? 『死ぬ』ってのがどんなものかも知らねぇくせにほざいてんじゃねぇよ!!」

 

 止めろ、止めろ、止めろ。理性が必死にブレーキを掛けようとするが、俺の頭の中は今ある少女の事で埋めつくされていた。

 

 ――雨の中、俺の腕の中で抱えられるように眠る黒髪の少女。彼女が最後に願ったのは、ただ『一緒にいたい』というありきたりなものだった。

 だが、アイツの願いは果たされなかった。何故ならアイツはもう……。

 

「そんなに死にたいのなら……今すぐその首切り落とすぞ」

 

 だから許せない、アイツの願いを容易に叶えられる奴がそれを否定するのを――。

 

 アイツの顔が頭を過る度、糸に力が加えられる。残ってる理性で何とか抑えているが、このままいくと本当に首を落としかねない。

 針金の様に硬く、ピアノ線の如く鋭い糸。それがラナの首筋を切り、僅かに溢れた血が糸を伝ってベッドに滴り落ちる。

 あと少し……本当にあと少し力を入れるだけで『ごとり』と――。

 

『や、やめてください! “大蜘蛛”さん!』

 

「――ッ!?」

 

 突如聴こえた大音量の声。恐らくケータイの設定を越える程の音量に驚いた一瞬、“まいまい”がその小柄な体で叩きつけるように俺を押し倒した。

 

「ッ……! なにすんだテメェ!」

 

 頭を強く打ち、その原因たる本人に文句を言おうと睨み付ける。だが、飛び込んだ光景に息を呑んだ。

 “まいまい”が抱き着くように俺に上に倒れ込みながら、『やめてください』と泣きながら何度も懇願していた。

 

「……………………ゴメン」

 

 その姿を見て一気に頭が冷えた。感情が落ち着いた。

 ……嫌な所を見せてしまった。

 罪悪感に苛まれながらも『もう、大丈夫だから』と頭を撫でる。同時に縛っていた糸を解いて、虫も姿を消す。

 

「くッ! はぁ……はぁ……あ、アンタ……!」

 

 糸から解放されたラナは完全に俺を敵と判断したのだろう。当たり前だ、弁明の余地はない。

 右手を突き出し虫を呼ぶ、正にその瞬間だった。

 

「――いい加減にして」

 

 冷たい声が部屋に響いた。

 視界が霞む程の灰が一気に室内を満たす。出所なんて探すまでもなく一人しかいない。

 視線をほのかに向ける。彼女の周りには既に十を越える程の灰の蝶が舞っていた。

 ジャコウアゲハに似たその虫は、灰の鱗粉を撒き散らす。そしてその鱗粉が新たな虫を形作り、瞬く間にその数を増やしていくと、数秒もしない内にその数は優に三十を越えていた。

 

 ――自己増殖能力か……!?

 

 特殊型は媒体さえあればその数を増やす事が出来る。だがそれはあくまで媒体を使って行われるのであって、間違っても“自分から勝手に増える”なんて事はあり得ないのだ。だが、どうやらほのかはそのあり得ない『例外』のようだ。

 上位クラスの力はあるだろうとは思っていたが……これは幾らなんでも予想以上だ。

 

 目の前で起きた想定外の力に呆然としていると、ほのかは俺……ではなくラナを睨む。

 

「特環が憎いのは分かるけど……やり過ぎだし、言い過ぎだよ、ラナちゃん」

 

 幽鬼の様にふらふらとラナに近付くほのか。彼女が一歩進む毎にジャコウアゲハはその姿を増やしていく。

 灰色の長髪に、白い服。恐らく前髪に隠れ、表情は見えないだろう。大量の蝶を引き連れた彼女の姿はまるで亡霊の様だ。

 

「な、なんでアタシが責められるのよ! 元はと言えば……」

 

「最初に花瓶投げたの、誰?」

 

「うッ……」

 

 「アイツらが悪い」と俺達を指差そうとした瞬間、ほのかが遮ってある質問をする。無論、答えは分かっているが『自分です』とは言えず顔を俯くラナ。

 

「ねぇ、ラナちゃん」

 

「ひッ――」

 

 既に部屋の大半はジャコウアゲハに埋め尽くされ、例え近くにいるほのかの姿さえまともに見えないだろう。そんなラナに蝶の群れの向こうから、僅かに見えるのはほのかの断片的箇所だけ。

 その姿はホラー映画に出てくる幽霊に酷似していた。

 

「仲良くできるよ、ね?」

 

 その言葉を皮切りに、増え続けた蝶が一斉に彼女達の周りに集まり、蝶による小型のドームが出来上がった。

 ……此処からではよく見えないが、恐らく首を振っているのだろう……縦に。それも一回や二回ではなく、何度も何度も何度も。恐らくドームが解放されるまで続けるのだろう。だってあれ、暗に逆らうなって意味でしょ?

 ……数の暴力って怖ぇ……。

 

 それから大体一分後。ドームから抜け出た一匹のジャコウアゲハが窓を開けると、ドームを形成していた残りの蝶全てが窓から飛び出し、その瞬間ただの灰に還った。

 残されたのは、トラウマを植え付けられたのか未だに頷き続けるラナと……。

 

「ラナちゃん、分かってくれたみたい」

 

 とても素敵な笑顔でこちらを見るほのかだけだった。

 

 ……とりあえず、これからはほのかを怒らせないように気をつけよう。

 そんな俺の思いを悟ったのか、無意識に“まいまい”も涙目で頷いていた。

 

 




今回は色んな意味でカオスだった気がするが気にしない。数の暴力って怖いよね。
あと関係ありそうでない話。ムシウタ二次の主人公は大抵皆メンタル強いよね、まあそうじゃないと強い虫を宿せないから仕方ないんだろうけど……しかしそんな中自分は敢えて弱い奴を使います。何故なら弱い人間が好きだから。……だから、鬱展開があっても許してね。

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