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俺の覚悟が完了した所で、戦とも呼べぬ殲滅戦が始まった。
敵は多分百人前後、こちらは千人近く居る。
圧倒的じゃないか! 我が軍は!
最早俺が何もしなくても勝てそうな程だ。
そんな俺だが、一応自身の護衛兼部隊として百人程預けられた。
まぁ簡単に言えば特別百人将と言った所か、……うむ、格好いい。
キン○ダムなら出世コースだ。
王○将軍は何処ですか?
僕はここにいますよ?
冥琳から好きにして良いと言われたので、現在はちょっとだけ後方で全体を見ている。
……決してサボっている訳でも、ビビっている訳でもない。
戦況を確認しているだけだ。
そ、そう、俺は知将だからな。
……何か言い訳みてぇだな。
そんな事を考えていたら、乱戦が始まってしまった。
あれ? おい、包囲殲滅じゃなかったのかよ!
はよ囲め!
と、思って良く見りゃ雪蓮が一人で突っ込んでやがる。
「あの馬鹿野郎!」
俺の怒声に隣に居た兵がビクッとしてたが、そんなもんどうでもいい。
「おい! そこのあんた! 直ぐに祭さんに賊を囲めと伝令に行け! そこのお前! 冥琳に雪蓮が突出したと言いに行け、後俺が助けに行くと伝えろ!」
俺がそう命令している間に雪蓮が囲まれ始めた。
「ちっ! 腕自慢十人は俺に着いてこい、雪蓮を援護する! 残りは直ぐに裏に回って、囲いを助けろ!」
俺はそう言い切ると直ぐ様雪蓮が居る場所へと馬を走らせた。
雪蓮は既に囲まれていて、俺達以外の兵も近づこうとしていたが、中々近づけずにいた。
だが俺には関係ない。
「どけっ! 邪魔すんな!」
俺は馬に乗ったまま、無我夢中で双頭槍を振り回し、目の前の賊を蹴散らして雪蓮が居る場所へと向かった。
「あ、蒼夜。 わざわざ来てくれたの? 別に平気だったのに。」
……俺が助けに来た雪蓮の最初の一言はそれだった。
……久々にキレちまったよこの野郎。
その後は雪蓮と中から暴れ回り、予定通り包囲殲滅して賊の討伐は終了した。
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「いやぁ、楽勝だったわねー。」
戦が終了して、俺の目の前を意気揚々と歩いている雪蓮がそんな事を言い出したので、俺はついに我慢していた堪忍袋の尾が切れてしまい、雪蓮の尻を思いっきり蹴り上げた。
「いぎゃ! ったぁー、……ちょっと何するのよ! 蒼「おい、正座しろ。」え?」
「え? な「正座しろ。」え? え?」
聞こえてないのかよ。
「正座しろ!」
「は、はい。」
俺の怒声に戸惑いながら漸く雪蓮は正座した。
……あんまり俺を怒らせるんじゃねぇよ。
「ねぇ伯符さん、今回の作戦何でしたっけ?」
「は、伯符さん!? 「答えろ。」は、はい。」
「……えっと、確か今回の作戦は賊に一当てした後に直ぐ様包囲して殲滅だった筈です。」
その通りだ。
「わかってるじゃありませんか。……で? 何処の馬鹿野郎が一人突出して孤立した?」
「ば、馬鹿野郎!? ちょっとそれは酷「あ?」……な、何でもありません、私です。」
「……言い訳はあるか?」
「いや、別に、賊の百人くらい余裕かなーって。」
「あぁ、あぁ、余裕だ。 余裕だろうさ。 更に言えばお前が作戦通りに行動してたら、命の危険も無く、もっと余裕だったわ!」
「いや、その、悪いとは思っているわよ? でも、別に命の危険なんて無かったじゃない?」
こいつ全然わかってねぇ!
「本当にこの馬鹿! 命の危険が零から一になるだけでも駄目なんだよ! あの孫 文台でさえ、戦になったら死ぬ事もあるんだ! そこから少しは学べ! こっちはお前が死なない様に冥琳とわざわざ頭捻って策とか考えてるんだよ! ぶっ殺すぞ、この野郎!」
俺の怒りが少しは届いたのか、雪蓮も少し反省した様だ。
「……すいませんでした。」
「マジで反省しろよテメー、そんなに命が惜しくないなら俺がお前の首取って、孫家の当主を仲謀様に変えたろうか?」
そんな俺の説教にストップをかけたのは遠くから急いで来た冥琳だった。
「ま、まぁ落ち着け蒼夜。 兵が怯えてる。」
その言葉にはっとして、回りを見渡してみたら、冥琳の言う通り兵が俺と目を合わせない様にしてささっと逃げて行った。
……待て違うんや。
俺は普段優しい人間なんや。
雪蓮があかんのや。
俺が回りの反応に落ち込んでいると、冥琳が雪蓮にフォローと言う名の追い討ちを掛けていた。
「言いたい事は蒼夜がキツく言ったので、私から言う事はあまりないが、少しは私達の気持ちも考えてくれ雪蓮、皆お前を心配してるのだ。」
「ん。……次からはちゃんと作戦通りに動くわ。」
本当もう頼みますよ?
俺だって本当は説教なんてしたくはなかったんだよ?
そんな事を考えていたら、祭さんまでこちらにやって来た。
「お主はあれじゃの? 怒ると人格でも変わるのかの?」
そんな事無いんだけどなぁ。
「んな事無いっすけど、まぁちょっとやり過ぎた感はありますね。 でも正論言ってるつもりっすよ?」
「確かにの。 これで策殿がちっとは武将や当主として自覚してくれたら良いのじゃが。」
出来ればそういう教育は孫家できちんとしてくれ。
ってか今更だけど、予定とは言え一領主を兵の見てる前で説教って、これ完全に打ち首レベルの事しでかしてしまった。
いやまぁ雪蓮達がそんな事しないとは信じているけど、俺も反省しなくちゃ。
もっと人目のつかない場所で冥琳と二人でオブラートに包んで言うべきだった。
……自分自身じゃわからんけど、意外と激情家なのかな俺?
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その後、次の賊討伐に向けて再び部隊を編成して行軍を開始したのだが、……俺に対する兵士の呼び方が、元倹“殿”から元倹“様”になっていた。
……兵士から様付けで呼ばれる一般庶民って何だよ。
「その、蒼夜? まだ怒ってる? 本当ごめんね?」
「もう怒ってないよ。」
ちょっと落ち込んでるだけっす。
って言うか、凄い雪蓮が俺に気を使ってくる。
……一応あの説教も効果はあったのか。
「……はぁ、兵士が居る前であんなに怒って悪かったな雪蓮。 もうああいう事をしない様に俺も気を付けるよ。」
「あ、うん。 今回は私が悪かったから、あまり気にしないで?」
そうは言うが気にしないなんて無理なんだよなぁ。
やはり、俺が戦場に出るのは間違っている。
……このタイトルで今度一つ本を書いてみよ。
俺は現実逃避しながら、地平線を眺めていた。
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-side 冥琳-
行軍の最中に私は雪蓮達の後ろから彼女達の様子を見ていたが、正直笑いを堪えるのに必死だった。
蒼夜は先程の事を気にしているのか、普段の様子からかけ離れて意気消沈と遠くを眺めているし、雪蓮は蒼夜の説教が効いたのか、酷く狼狽えていた。
特に雪蓮は、蒼夜から“伯符さん”と呼ばれた事が効いたらしく、私に涙目でどうしようと聞いてきた程だ。
これを機に多少はあいつも回りの事を考えてくれる様になってくれたら言う事は無いのだがな。
それにしても、蒼夜があんなに雪蓮の事を気に掛けてくれてた事に少し驚くと共に嬉しさが湧いてくる。
確かにあの説教は少しやり過ぎな部分もあったが、その内容は主に雪蓮を心配しての事なので、寧ろ良く言ってくれたと思う部分もある。
……このまま蒼夜が孫家に居てくれたら。
ここ数日、ずっとその考えが頭を過る。
だが恐らくそれは無い。
あいつが私達を助けてくれる理由は、威方殿の件と私達が友人だからという二点だけだ。
あいつは本来縛られる事を嫌う自由な奴だからな。
この件が済んだらまた襄陽へと帰るのだろう。
……いつの間にかあいつを心の頼りにしている私が居るな。
ふっ、少々悔しいので今のうちに沢山こき使ってやるか。
初めての視点変換でしたが、これからもちょくちょくあるかもです。