どうも三國志のシーラカンスです   作:呉蘭も良い

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なるべく早めに話を進めます。
次回からは少しシリアスにする予定です。


蝶に代わっておしおきよ!

将棋大会は順調に進み、何の問題もなく終わりを迎え、イベントとしては大成功と言える成果を見せた。

 

……正確には、対外的に問題は無かったが、俺には問題ありだ。

……一回戦で敗退しました。

 

いや、仕方なかったんだ。

だって初っぱなから諸葛亮だったもの。

めっちゃ強かったわ。

 

穴熊に囲って必死に防御に全振りの将棋したけど、普通に負けたからね。

麻雀の恨みです、と言わんばかりにボコボコにされて、俺の心には拭いきれないトラウマが出来たよ。

 

それはさておき、結局誰が優勝したかと言うと、最初の詰め将棋の結果通り、鳳統が優勝を飾った。

 

決勝はその鳳統対戯志才で、中々の熱戦を繰り広げたが、鳳統のミスとも言えぬ様な緩手に戯志才が無理攻めをし、攻めが途切れて鳳統の勝ちとなった。

 

……もしかしたらあれは、誘いの一手だったのかもしれない。

 

まぁなんにせよ、どちらが勝利してもおかしくない程の名試合だった。

仮に華琳さんや冥琳が参加してたとしても、簡単には勝ち抜け出来ないレベルだったと思う。

 

ちなみに霊里はその戯志才に敗れ、少々落ち込んだものの、大陸の広さを感じとったのか、再び目を輝かせ、将棋道に励む様だ。

 

……将棋道が何なのかは俺はよく知らんがな。

 

とにかく、俺は優勝者の鳳統に、裏に小さく日付と将棋大会優勝と書いた王将の駒を手渡し、観客の前で、“王将”の称号を授与した。

 

戯志才には準優勝と書いて渡し、他の参加者にはそれぞれの成績を書いて渡した。

 

……ちなみに俺が密かに注目していた戯志才はツンとした雰囲気の眼鏡美人だった。

 

うーむ、眼鏡は頭が良いのだろうか?

 

更にちなみに、戯志才は俺の書物ファンらしく、熱く俺に書物の感想を言ってくれた。

 

……有り難いのだが、人前では恥ずかしい。

ってか、もしかしたらあの血痕だらけのファンレターはもしや……。

 

……深く考えるのは止めよう。

 

 

_____

 

 

「結局、僕には何の出番も無かったね」

 

「まぁ仕方無いさ。 本人が疲れてたもの」

 

大会前に姉さんに言った様に、俺は大会が終了した後に鳳統に姉さんと特別対局しないか聞いてみたが、本人は慣れない人前での派手な授賞に疲れたらしく、あわあわする余裕もなく断られてしまった。

 

……それに連続であんなに対局してたのだから流石にな。

 

「なんだったら、俺が相手してやろうか? 飛車落ちなら良いぜ?」

 

「躊躇いもなく手加減を要求するとは流石だね。 よし、ここは姉として飛車落ちでも勝てる所を見せてやろう」

 

いや、普通にやっても絶対勝てないし。

 

……だがその後、俺はかなりの苦戦を強いられてなんとか勝利をもぎ取った。

 

……飛車落ちでギリギリとか頭おかしいだろこいつ。

 

 

_____

 

 

「ところで、蒼夜。 君は最近本を書いているかい?」

 

……書いてない。

 

「……まぁ、なんだ、……あれだ、ネタが無いんだ。」

 

やべぇ、そういや最近本業そっちのけで遊びまくってたわ。

最後に書いてたのは何時だ?

蓮華様に渡した頃だから、二年近く前か?

 

「……そっか、それは深刻な問題だね」

 

違います。

 

「解った、僕と霊里も何か手伝うよ。 何か良いネタが思い浮かぶ様に三人で少し話し合おう」

 

「お、おぅ」

 

別にそんな事しなくても大丈夫なんだが……。

 

姉さんは霊里を呼んで来て、三人で家族会議の様な事に発展してしまった。

 

……どないしよう。

 

「さて蒼夜、君は今、何か書きたい種類の本でもあるかい?」

 

「あー、……特には」

 

「成る程、重症ですね」

 

何に納得したんだ霊里、全くそんな事無いぞ?

 

「うーん、なら僕と霊里ちゃんで読んでみたい話を言ってみるから、その中で君の琴線に触れる物がないか考えてみて?」

 

……まぁ、考え様によってはネタを出してくれるから楽で良いか。

 

「私は兄さんの経済論を読んでみたいです。 ここまで大きく発展させたお店を持ち、襄陽の経済に貢献している兄さんの経済論ならきっと皆さんも興味あると思うのです」

 

いきなりハードル高いなおい!

俺にそんな話書ける訳無いだろうが。

マルクスでも連れて来い。

 

「あー、悪い霊里、経済論はちょっと……」

 

「……残念です」

 

いや、本当すまん。

だからそんな悲しそうな顔をしないでくれ。

 

「じゃあ、歴史物なんてどうだい? 君そういうの得意だろ?」

 

「歴史ねぇ、……ありきたりだなぁ。 うーん、却下」

 

「……意外にわがままだね」

 

だってありふれているもの。

 

「では、政治闘争の話はいかがでしょうか? 昔の宮中のどろどろした争いは好きな人は好きだと思いますが」

 

「い、今の時代にそれは色々と不味いな」

 

ってか、それが読みたいの?

霊里は何か心の闇でも抱えているのか?

 

「じゃあ初心に戻って戦記物は?」

 

「それは前に書いた」

 

「……本当にネタが無いんだね」

 

いや、適当にやろうと思えば出来ると思うんだけどね?

 

「き、気晴らしに街をぶらぶらしてくるよ。 何か思い浮かんだらその時にはちゃんと書くから安心してくれ」

 

俺はそう言って、逃げる様に街に繰り出した。

 

 

_____

 

 

……さてどうしようか?

適当に一冊書いて安心でもさせるか?

……いやでも、俺の物書きとしてのプライドが。

 

俺がうーんと唸りながら街を歩いていたら、ある店で騒ぎが起こった。

 

「どけ、どけ!」

 

何が起こったのだろうかと、俺が騒ぎの方に目を向けると、一人の男が片手に剣を持ち、店の娘を脅して金を奪っている所だった。

 

……野郎、俺の街で何しやがる。

 

俺が男をしばこうと一歩前に出たら、何処かからか、大きく響く声が聞こえて来た。

 

「天下の往来で悪事を働く不届き者が! 例え天が赦しても、この華蝶仮面が赦さん! とぉ!」

 

……は?

 

「だ、誰だてめぇ!」

 

「愛と正義の使者! 華蝶仮面、推参! そこのお前、今謝って罪を悔いるなら憲兵に突き出すだけで済ましてやるが、……どうする?」

 

「ふ、ふん! 誰がそんな事するか! ふざけた奴め、ぶっ殺してやる!」

 

「ふっ、致し方無い」

 

そんなやり取りの後、強盗の男が華蝶仮面を名乗る阿呆相手に襲いかかったが、その阿呆はとんでもなく強く、男は一瞬で吹き飛ばされ気絶した。

 

……こいつ、阿呆だがつえぇ。

 

少なくとも、俺よりは強いだろう。

 

「無事だったか、娘さん? ふっ、では私は去ろう、さらばだ!」

 

何、逃がすか!

 

俺はこの阿呆を全速で追った。

こんな、こんな、……こんな良いネタ放っておけるか!

 

「待て!」

 

「む、何奴だ?」

 

「俺は廖 元倹。 あんたに用がある」

 

俺は路地裏で華蝶仮面に追い付き、肩で息を吐きながらこの阿呆に詰め寄った。

 

「ほぅ? 廖 元倹、……有名な作家が私に何の用だ?」

 

「あんたを、書かせてくれ」

 

「は?」

 

 

_____

 

 

俺はあの後、華蝶仮面を名乗る阿呆を取材して、華蝶仮面を題材とした小説を書いて良いか、許可を求めた。

 

そしたらあの阿呆は快く許可をくれ、俺の書物を楽しみにしてると言って去って行った。

 

……まさかこんな時代から美少女戦士の物語が書けるなんて夢にも思わなかったぜ。

 

そう俺が書いたのは、月に代わってお仕置きする、美少女が変身して悪と戦う勧善懲悪の物語だ。

 

まぁ変身って言っても、正体が解らなくなる月の宝貝の仮面を着けるだけだが。

 

……そう、俺はこの時、純粋に面白い話を書けた事を喜んでいた。

 

『主人公が女なのは、まぁ良いけど、馬鹿じゃないの? 匿名希望』

 

……おっふ。

毎度キツめのファンレターをくれる匿名希望さんが、今回は辛辣過ぎる。

 

『どうしてこれを書こうと思ったのですか? 戯志才』

 

……何か、ごめんなさい。

 

『私は、良いと思いますよ? 諸葛 孔明』

 

……めっちゃフォローされてる。

多分水鏡塾でも賛否両論なんだろう。

 

『次回会った時には問いたださせて頂くわ 曹 孟徳』

 

……会わない方向はありませんか?

 

『何か辛い事があったのなら、私でよければ何時でも相談に乗るぞ? 周 公瑾』

 

……ごめん、お前の手紙が既に辛いよ冥琳。

 

『素晴らしい読み物だ。 これこそ美少女仮面としてあるべき姿だ。 華蝶仮面』

 

うん、俺は好きなんだけどね?

でも誰も称賛してないんだよなぁ。

 

「あー、これこの前の華蝶仮面を題材にした話かい? 流石にこれはどうだろう?」

 

うん、ごめん。

きっと早過ぎたんだ。

 

「私は好きですよ? この頭空っぽにして読む感じが」

 

ひ、皮肉?

や、でもマジで好きっぽそうだなぁ。

 

……その後、各地から幼女によるファンレターが届き、俺はなんとかメンタルを保った。

 




美少女戦士は時代が追い付いて無かった。
ただ、一部の幼女には大人気の設定です。

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