物語、三国志の始まりは何時か?
諸説あるのかもしれないが、そう問われたら真っ先に出てくるのは黄巾党の反乱ではないだろうか?
実際の所、もし黄巾党の大規模な反乱が無ければ宮中のいざこざもそんなに激化しなかった可能性は無いだろうか?
大将軍の何進と十常侍の政争だけで済み、董卓が都入り等せず、時代が進み、曹操や袁昭と言った有名所の人物がいずれは宮中の高位官僚として政治を立て直す事はあり得なかったのか?
……実際の所は解らない。
俺はいくらか三国志に詳しいと言っても、それはあくまで物語として、登場する人物や戦いの内容を知っているだけで、その時代の詳しい背景なんかを知っている訳ではない。
故に、三国志の始まりは?
と、問われたら、黄巾党が現れてから、としか答えられない。
つまり、黄巾党が現れたら三国志が、……三国を築く英雄達がこの戦乱を切っ掛けに大いに飛躍し、戦乱が激化していくと思っている。
……そしてこの世界。
三国志に良く似ているこの世界で、ついに、……小規模ながら黄巾を纏った賊の噂が流れ始めた。
まだ全然見向きもされない小さな話だが、南陽で小さな邑が襲われたらしい。
結局そいつらは直ぐに討伐されたらしいが、黄巾を身につけていた、という話を聞いた瞬間に俺は背筋が凍った。
……いつかこうなるだろうと思っていたとは言え、実際来ると中々にキツい。
もう時間が無い所ではない。
……タイムリミットはもう越えてしまった。
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黄巾の噂を聞いたその日の夜、俺は一人山に来ていた。
俺が普段から修行をしている山の中腹に、昔建てた小屋があるので、そこの広場で一人、夜空を眺めながら酒を飲んでいた。
……今日の夜空は雲一つ無く美しく、星や月が明るく輝いており、天の川がくっきり見えて、まるで、……蒼い夜の様だった。
「……こんな所で、何を考えているのかしら?」
「……これからの事を」
……どこからともなく、声が聞こえて来た。
……知っている声だ。
「そう、……それで?」
「大した事は何も。……世が乱れるな、と」
一人で居たい気分だったから、山に来たんだけどな。
「その乱れる世、貴方はどうするの?」
「……解らない。 結局俺は、自分自身どうしたいのかも決まってない」
……俺が一人なら、もしかしたら何処ぞに隠れていたりしたかもな。
……けど、今更姉さんや霊里、地理や護衛隊の連中を捨て置いて逃げれはしないし、したくない。
「乱世は嫌いかしら?」
「嫌いだね。 誰かが嘆いているのを見るのも嫌だし、人が人を殺すのを見るのも嫌、勿論自分が人を殺すのも嫌だ。……晴耕雨読なんて贅沢は言わない。 ただ今が続けばそれで良かった」
春夏秋冬、花鳥風月。
春は花を愛で、
夏は鳥を眺め、
秋は風を楽しみ、
冬は月を見る。
それら美しい自然を感じながら酒を飲み、そこに愛する家族と愛すべき友がたまに居てくれるなら、俺に文句なんて無い。
「けど乱世は来るわ。……必ず」
「……でしょうね。 だからこうして物思いに耽ってる訳だし」
俺に出来る事は何も無い。
乱世を始めさせない事なんて出来ないし、家族や友人達を巻き込ませない事も不可能だろう。
……寧ろ自ら巻き込まれたがる奴だって居るくらいだ。
「ならばこそ、いち早く乱れる世を終わらせる必要があるわ」
「……」
……そんなもん理想だ。
誰だってそうしたいさ。
「私ならそれが出来る。……必ず成し遂げる」
「……どうやって?」
人の力でどう世を変えると言うのだろうか?
並大抵の行動では不可能だぞ?
「力で、よ」
「……力とは?」
力と言っても色々あるぞ?
「武力、知力、権力、財力、……およそ力と付くもの全てを使うわ」
「……それで乱れる世が終わると?」
その選択は、さらなる混乱を与える可能性だってあるだろう。
「それだけではないわ。……乱れる世の原因、根本たるこの国を完全に破壊し、新たに築きあげる。 そして乱れの種を完全に消し去るわ」
「……自分が何を言ってるのか解ってるのか?」
こんなの反乱宣言じゃないか。
「えぇ、反乱ね。 でもこの国、……いえ、この大陸の未来の為に必要な事よ」
「違う、そうじゃない。 貴女は今、大陸を血で染める覇業を成すと言ったんだ。 貴女のそれは聞こえは良いが、おおよそ人の成す事じゃない。……まるで始皇帝と同じ、英雄であると同時に歴史に類を見ない大罪人になるという宣言だ」
そんな覚悟があるのか?
「……英雄で大罪人、ね。 喜んで受け入れましょう。 この時代、誰にもなし得ないであろう功と罪、その全てを私が引き受けましょう」
「……何故、そこまで……」
「私が、曹 孟徳であるが故に」
……一体この人は何処まで真っ直ぐなんだろう?
もっと楽に生きる道はあるだろうに。
……責任なんて、誰かに押し付けてしまえば良い。
俺には関係無い。
周りが苦しむのは俺のせいじゃない。
時代が悪い。
俺だって苦しい。
……力や知恵があるかもしれないが、それを使う義務なんて無い。
……そう思った。
……そう思っていた。
「私の覇業、是非貴方の力を貸してくれないかしら?」
「……廖 元倹、これより命を賭して曹 孟徳様に仕えさせて頂きます」
_____
「……それで? 何でここに居るんですか、華琳さん?」
いや、さっきまで普通に話していたけど、どったのさ?
いつ襄陽に来たの?
「貴方の立ち上げた護衛隊というのが、私の治める陳留の街を訪れてね、……良い機会なのでその護衛隊に依頼して今日の夕方に襄陽に着いたのよ」
あー、そういや陳留行きの護衛の任務とかあったな。
最近俺は手を引いて張曼成に丸投げしてたからな。
「夜の山は慣れてないと危険ですよ? 春蘭さん達はどうしたんです?」
流石に護衛無しで山に来るのはいかんでしょ。
特にこの人は命を狙われてもおかしくないだろうに。
「今日は貴方を正式に迎えるつもりで来たの。……そこに護衛を連れるのは無粋だわ。 だから春蘭達は街に待機させて居るわ」
「……そこまで評価して頂いて恐縮ですよ。……まさか俺が華琳さん直々に三顧もされるとは思いもしませんでした」
どこの諸葛亮だっつうの。
いくら俺でも決心つくわ。
「あら、昔から賢人を迎えるにはそれ相応の態度が必要な筈よ? 太公望を迎えた文王の様にね」
「……比べる相手が偉人過ぎませんかね?」
おい、俺にそんな働きは不可能だぞ?
「そうかしら?……ならそうね、貴方を大将軍にでも任じましょうか?」
「一兵卒で構いませんよ?」
ねぇ、それ何処の韓信?
俺に大陸を平定しろとか命令すんの?
……それが出来たら苦労しねぇよ。
「私がわざわざ三顧してまで兵卒を勧誘する訳無いでしょう、全く。……でも私が貴方に期待するのは、百万の軍勢を討ち滅ぼす策を考える事でも、大陸の至る所を平定する事でもないわ。 それらは私自身が行いましょう」
「……では、このしがない凡夫に何をお求めで?」
「私を導きなさい」
……おいおい。
それまた充分重い命令だな。
「私を、この曹 孟徳を、大陸に覇を唱えんとするこの覇王を、……貴方が導きなさい」
……出来る訳ねぇだろ。
何言ってんだこいつ?
……って言えたら楽なんだけどなぁ。
「廖 元倹、可能な限りその命令を果たします」
「えぇ、よろしく蒼夜」
華琳さんは、それはもう清々しい程素敵な笑顔を俺に見せてくれた。
……ただ、俺は思っていた。
アットホームな雰囲気過ぎる、これ完全にブラックな職場だろ。
俺をどんだけ働かせるつもりだろうか?
せめて週休一日はありませんか?
「あー、華琳さん、早速二つ程頼みたい事があるんですが良いですか?」
「聞きましょう」
「まず一つ、他にも連れて行きたい奴等がいます。……本人達に聞いてからになりますが、人を連れても良いですか?」
「願っても無い事ね。 貴方の周りに居る人材は皆優秀。 それが纏めて我が陣営に加わると言うなら歓迎するわ」
そりゃ良かった。
まぁこれはあんまり心配してなかった。
……けど後一つどうかな?
「後一つ、……陳留に行く前に、呉郡に行って来ても良いですか?」
……雪蓮と冥琳には話をしないとな。
正直、ちょっとしんどいかも。
「……えぇ、行ってらっしゃい。 友と言葉を交わすのも、もうあまり出来なくなるでしょうしね」
……違います、ただ報告に行くだけです。
「おや、約束が違いますよ華琳さん? 乱世を速やかに平定するのでしょう?……なら、ほんの一時的な別れですよ」
「ふふっ、そうね。 その為にも貴方には働いて貰うわよ?」
あぁ、やるさ。
ここで生まれた一つの目標。
赤壁なんて起こさせない。
その為に。
と、言う事で作者が想定していたのは魏ルートでした。
華琳さんに主人公が三顧の礼をする事から考えていた話でした。
予想されてた方も居るのでしょうか?
呉を予想していた方には申し訳ありません。
作者としても、予想以上に主人公と雪蓮達が仲良くなり過ぎて、色々と葛藤がありました。
ですが、一応は最初の予定通り魏ルートで進めたいと思います。
ifルートとして、いずれは半独自の呉ルートもどきをいつか致しますのでご勘弁下さい。