どうも三國志のシーラカンスです   作:呉蘭も良い

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少し長めになりました
名有りモブ二人目の登場です



幼馴染みとは

冥琳達孫策軍と別れた後、俺達曹操軍も即座に陳留へと帰還する事にした。

いや、捕虜六千人と一夜を共にしたくねぇし。

急に反乱されたりしたら洒落にならんぞ。

だから疲れはあるのだが、多少の無茶は通して今日中に帰ろうと思った訳だ。

 

まぁ敵将にはしっかりと見張りを付けてるから大丈夫だとは思うけど。

そしてその敵将だが、名前はなんと波才だった。

 

いやぁ、場所が場所だけにもしかしたらとは思っていたが、まさかビンゴだったとは。

張曼成に引き続き黄巾党の大物来たわ。

 

俺はまだ会っていないのだが、今回の手腕を見るに有能なのは間違いないだろう。

張曼成の知り合いって話だし、俺の配下になってくんないかな?

重宝するんだがなぁ。

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

結局俺達が陳留に到着したのは夜中だったので、その日は直ぐに寝て翌朝の朝議で今回の討伐の報告を華琳さんにするのだった。

 

「___ってな感じで、今回の討伐は上手く行きました。」

 

「……そう。」

 

あれ、不満?

何か不味い事でもあっただろうか?

 

「……何か問題がありましたか?」

 

「いえ、……そうね。討伐自体に問題は無いわ。豫州の袁術とも問題を起こさなかった訳だし、そこは良いの。」

 

じゃあ何が不満なのだ?

 

「これは私個人の感覚だけど、雪蓮達への借りをキチンと返せてない気がするわ。」

 

「えっ、駄目でした?」

 

「そうね、十割借りた物を九割九分しか返していない感覚と言えばわかるかしら?」

 

わかんねぇー。

一分くらいはボッタくれよと思うが。

 

「まぁ良いわ、三ヶ月後に返す機会もあるでしょう。」

 

多分あいつらもチャラだと認識していると思うけどなー。

 

「それでは今回捕らえた敵将、波才を連れて来なさい。」

 

「華琳さん___」

 

「えぇ、話を聞く限り良き才があると私も思うわ。斬るには惜しいと思っているから安心なさい。」

 

うん、安心した。

斬るには惜しいが生かしておけぬ、ってならなくて良かったよ。

才有らば使う、の人だからね。良かった良かった。

 

「連れて参りました。」

 

と、そこで張曼成が波才を連れて部屋に入って来た。

 

俺はそこで初めて、波才___彼女を見た。

彼女の身なりはそれは酷いものだった。

肩まである髪はボサボサで、本来整っているだろう顔は痩けている。

身長は文若さんと同じ位なのに、文若さんよりも圧倒的に細い。文若さんだって体型は相当小柄なのに。

着ている服もボロボロで、腕に着けているバンダナの様な黄巾も血で汚れている。

 

……これは___

 

「……貴女が、波才ね?」

 

……華琳さんも些か戸惑っている。

それもそうだろう、俺だってここまで酷いとは思っていなかった。

 

「……えぇ、私が波才です。」

 

波才が弱々しい、今にも死んでしまいそうなか細い声で華琳さんの問いに答えた。

波才の後ろに立ち、彼女を監視している張曼成が痛々しい顔をしている。

 

「……そう。何故私に降ったのかしら?」

 

「私の首と引き換えに、私に付いて来た者達の命の保証をして頂きたく……。」

 

彼女は無表情で、無感動にそう言う。

 

「おいっ!(ゆう)___」

 

「黙れ(しゅう)!お前がっ、私に意見するなっ!」

 

張曼成が波才に声をかけると、今までの態度から一変して大声でもの凄い形相になる。

 

「お前にっ!……一早く邑を出て行ったお前に、私の何がわかる。……お願いだから、私に何も言わないで。」

 

「っ!」

 

張曼成は押し黙る。黙るしかないのだろう。

波才に何があったのかわからないのだから。

 

「……波才、教えてくれるかしら。……貴女に何があったのか、何故そうなったのかを。」

 

「何故?……ふっ、何故って、貴女達国の官僚が私達をこうしたのでしょう?」

 

華琳さんの言葉に、波才は自嘲した笑みを浮かべてポツポツと話をする。

 

「私はそこに居る、秀___張曼成と同じ南陽にある邑の出自です。」

 

……南陽、袁術か。

 

「南陽は豊かな土地でした。畑を耕したら毎回豊作になるような場所です。私達は将来に不安はなく、きっとこのまま幸せに暮らして行けるものだと思ってました。……袁術が赴任して来るまでは。」

 

「……袁術が来てから、変わったのね?」

 

「……まずは課せられる税が増えました。それだけならまだ何とかなったんですけど、今度は耕した作物を安く買い叩かれる様になりました。……そうなったら私達には税金が払えなくなります。それでも袁術は更に重税を掛けて来ます。……私達は自分達が食べる分の食料も売って税を払わないといけませんでした。……税を払わないと、役人に捕らえられるから。」

 

「……私が邑を出奔したのはその頃です。」

 

……あの時の事か。

 

「……私達はそれでも耐えて、耐えて、耐えて耐えて耐えてっ!……そしたら、人が死に始めた。」

 

波才が身を震わしている。

まるで自身から湧き出る激情に耐えるかの様に。

 

「役人が来る、食料を売って税を払い、人が死ぬ。それでもまた役人は来る。……今度は親が自分の分の食料を売って子供の分の税を払い、連れて行かれる。……それでもまだ役人は来る。次は子供が親を想って身売りをして親の分の税を払う。……こんな事の繰り返し。」

 

……想像を絶する。

 

「こんな国間違っている、そう気付いた時には、……私の親は私の為に死んでいた。……辛くて、苦しくて、死にたくなる程胸が痛かったけど、私は生きていて、生かされたから、精一杯生きようと思って南陽から脱国する為に立ち上がった。」

 

会議場にすすり泣く音が響く。

周りを見れば、沢山の人が泣いていた。

……俺も、胸が痛い。

 

「そんな時に黄巾党の噂が流れた。各地で反乱が勃発していると。私はその状況に応じて苦しむ皆と南陽から脱国する為に人手を集めた。……初めは良かった。千、二千、この人数なら他州に行けば難民として受け入れられると思った。……けど気付けば一万、二万まで数が膨れ上がってしまった。……そうなると、もう何処にも難民として受け入れて貰える訳がない。」

 

……確かに、陳留でも二万は無理だ。

 

「後は最後、青州しかない。彼処で私達の何処にも無い居場所を、自分達で作るしかない。そこで私達は本格的に黄巾を纏って、青州目指して行軍していた。……自分達の国を作る為に。」

 

……そして俺達にぶつかった訳か。

 

「強者は蔓延り、弱者が切り捨てられる、こんな世界間違っている!こんな世界っ!……私はもぅ、……死にたい。」

 

最後の言葉は囁く程小さかったが、しっかりと聞こえた。

波才は手を強く握り締めていて、血が滴っている。

 

何て恥ずかしいクソ野郎なんだ俺は。

こんな子を配下にしたいだと?

この子こそが本来守るべき民だろ!

守護鬼なんぞと呼ばれて舞い上がっていたのだ、今彼女に向かって土下座したい気分だ。

 

「……波才___」

 

華琳さんが無造作に波才に近付き、彼女の握り締めた手を掴んで優しく自分の手で包み込む。

 

「貴女は正しい。今、この国、この世界は間違っているわ。」

 

華琳さんの言葉を聞いて、波才は華琳さんの顔を見る。

 

「私はその間違いを正す為に、今と戦っている。……いつかきっと、私が間違ったこの世界を正して、貴女の様な子が泣かなくて済む国を造り上げるわ。……そこにはちゃんと貴女の居場所が、……貴女達が平和に暮らせる居場所が存在するわ。……だから、……貴女を慕って付いて来た者の為にも、……今は生きて。」

 

「うっ、うっ、うぅぅ。」

 

会議場に波才の鳴き声が響いた。

募りに募った今までの感情が爆発するかの様に、彼女は泣いた。

 

波才が泣き終え、会議場を出る時の張曼成と波才の会話が、俺には印象深かった。

 

「……優、私に___俺に思う所は色々あるだろうけど、……俺は君にまた会えて嬉しいよ。」

 

「……うん。……私も。」

 

……もし、俺と雪蓮と冥琳が戦場で敵として出会ったら、俺は一体___

いや、無駄な考えだ。

そうならない為に努力してるんじゃないか。

 

「……幼馴染みって、複雑なのね。」

 

華琳さんが張曼成と波才を見てそう呟いた。

 

「……そうですね、ただの親友とも違います。言ってしまえば自分という歴史の一部ですよ、幼馴染みってのは特別です。……だから他人と比べて粗雑に扱ってしまうし、傷つけば自分の事の様に痛い。」

 

だから雪蓮と冥琳が泣いてると、俺が苦しいのだ。

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

幼馴染みは特別、か。

 

「……なら、私と麗羽はどうなのかしらね。」

 

夜、自室にて一人で過去の私塾時代を思い出す。

怒る事もあった、争う事もあった、けなし合う事もあった。

……でも、どれもが楽しかった。

 

そして、卒業の時。

私が覇道を歩み出す最初の一歩。

私が初めて何かを切り捨てた最初の出来事。

 

『……華琳さん、(わたくし)と、来ませんか?』

 

『……麗羽、……っ、……名族の力だけでは、この大陸の世は何も変えられないわ。……私は私の道を行く。さらば袁 本初、……我が宿敵よ、壮健であれ。』

 

『……さらば曹 孟徳。……我が、我がっ、……(わたくし)の愛すべき宿敵。……再び合間見えるその日まで、……お元気で。』

 

私は振り返らず真っ直ぐ歩いてその場を去った。

……麗羽の声は震えていたから。

もし、もしあの時麗羽の泣き顔を見てしまっていたら私は___

 

「……今日は月が綺麗ね。」

 

部屋の窓から見える月が今日はやけに綺麗だった。

一人優雅に月見酒といきたい所だが、残念ながら今日は量が飲めそうにない。

……今日の酒は、少し辛過ぎる。

 




その頃の麗羽さん

「オ~ホッホッホ!さぁ皆さん!私が、名族たるこのわ·た·く·し·が!黄巾討伐の祝賀会を開いて差し上げますわ!さぁさぁ遠慮なさらず!私の驕りですわよ!どんどん食べてお飲みなさい!」

「よっ!流石麗羽様!大陸一!」

「もぅ麗羽様ったら、相変わらず派手な事するんだからなぁ。」

「オ~ホッホッホ!オ~ホッホッホ!もっと私を誉め称えてよろしくってよ!オ~ホッホッホ!」

麗羽さんは華琳の言葉通り壮健です。
麗羽さんにシリアスは似合いません。

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