張曼成と波才の会話で、二人の真名が出ましたが、あまり気にしないで下さい
あくまで二人は名有りモブでので
真名の由来としては
張曼成は秀でているので秀
波才は優しい人物なので優
そして二人合わせて優秀
という適当な由来です
波才を捕虜にした日から一週間。
まともな環境での生活を再開した彼女は精神的に大分落ち着いて来た。
暖かい風呂に入り、暖かいご飯を食べ、暖かい寝床で寝る、そういう当たり前の環境が幸せなのだろう。
波才の世話を積極的にしてた姉さんが言うには、当初はこの当たり前に軽く泣いていたそうだ。
まぁ流石にこの時代で風呂は毎日入れないが、それでもやはり俺が日々送っている日常は感謝して享受するべきものなんだろう。
波才の話を聞いて改めてそう思った。
そして、そんな当たり前が享受出来る世界を作ろうとする華琳さんには尊敬の意が増す。
そうして落ち着いた波才も陳留の街並みをじっくり見定め、華琳さんに対して感じ入る何かがあったのだろう。
改めて華琳さんと面会した時には、自分から頭を下げて配下にして欲しいと告げてくれた。
その事に一番喜んでいたのは、彼女を説得し続けていた張曼成だった。
そして予定通り、波才は俺の部下になった。
初めから波才を部下にしたかった俺は、嬉しいと言えば嬉しいのだが、……流石に複雑な感情が拭い切れない。
……彼女にどう接すれば良いのか、……まぁ今は考えても仕方ないのだが。
……時間が解決してくれる事を願おう。
さて、そして時間が解決してくれない、今すぐ解決すべき事柄をどうするべきか考えよう。
波才が正式に曹操陣営に仕えたので、彼女と共に来た捕虜六千人をどうしようか?
軍属になるのかも決まってないし、仮になるとしてもどこの隊に編入するべきかも考えないといけないし、そもそも彼等の寝床を確保するのも相当大変だ。
……ホント、ギリギリなんだ。
アウト過ぎて俺の胃がギリギリなんだ。
ギリギリってかキリキリだが。
だって急に六千人分の住居や仕事を陳留で用意出来る訳ないじゃないか。
今だって陳留郊外に陣を張って貰って、そこで生活して貰っている。
当初俺達曹操陣営の考えは、黄巾党の討伐をする際に指揮官だけを討って雑兵は武器を取り上げ放逐する予定だったのだ。
そしたら後で黄巾がぶくぶく太って、人だけが集まり過ぎて何も出来なくなる肥えた豚になる予定だったから。
しかし波才の手前、今更彼等を放逐する訳にもいかずこうして頭を悩ませている。
……華琳さんには、お前が連れて来たのだからお前が考えろ、的な事を言われちゃったし。
……波才を買う為に六千人分のハローワークをしなくちゃいけなくなったぜ。
しかも脱走者を期待して警備はかなり緩くしてたのに、全く脱走者が出なかったからマジで六千人分だ。
食料に不安が無いのはせめてもの救いだな。
華琳さんが陳留に備蓄してた分を少しだけ出してくれたからな。
……でも前にもこんな事あったなぁ。
あの時は六十八人だったっけ、……はは、桁が二つ違ぇや。
……仕方ない、俺も久々に奥の手を使おう。
助けて!あねえもん!
─────
「いや、流石に僕も無理。」
そう言わずに!
「うーん、六千人の明暗をどうにかしてと言われても、……それこそ名案なんて出ないよ。」
誰がそんな上手い事言えと!
「いや、マジで、ホント。お願い知恵を貸して下さい。執筆でも何でもしますから!」
「むぅ、素晴らしい条件だけど、……僕もそう簡単には良い知恵が浮かばないなぁ。」
ぬぅ、姉さんで無理なら俺にはもう打つ手が無いぞ。
……こうなったら華琳さんと文若さんにも土下座して一緒に考えて貰うしかないか?
……凄い嫌味を言われそうな未来が見えるわ。
「話は聞かせて貰いました。」
バターン!と扉を開けて霊里が姉さんの執務部屋へと入って来た。
普段クールな霊里が珍しく興奮気味だ。
……何か嫌な予感が。
「……どうしたんだ霊里?」
「お困りの様ですね兄さん。私に一計があります。……私の案に乗ってみるつもりはありませんか?」
う、うーむ。
案の内容を語らない辺りが凄く怪しい。
しかしまぁ、六千人がどうにかなるのなら___
「詳しく聞かせてくれ。」
「承知しました。」
そう言って霊里は一度部屋を出てから、大きな紙束を携えてすぐに戻って来た。
「これをご覧下さい。」
そして紙束の中から、一際大きい紙を取り出して机の上へと拡げる。
「おぉ、これは___」
「へぇ。」
それは陳留の街の再開発計画案だった。
「以前華琳様から依頼されてた、街の再開発の計画を一人でひっそりと考えていたのです。」
「凄いじゃないか。……この、開発が完了した後に、こうなるだろうと予想した絵は地理が描いたのか?」
「はい。絵があるのとないのとでは印象が違いますから、地理さんに無理を言ってお願いしました。」
あー、それは嘘だな。
地理だったらノリノリで描くだろ。
「成る程ね。霊里ちゃんの案は、この街の再開発の工夫として六千人を雇うって事だろう?それで開発が済んだ場所から、その人達の住居が出来るって訳だ。」
「はい。華琳様の許可を得たらそうしようかと。」
「でも計画資金はどうするんだい?」
「それはもう華琳様とも兄さんとも交渉済みです。兄さんの資産から運用します。」
そういやそんな話でしたね。
「あー、成る程。……馬鹿みたいにあるからね、蒼夜の資産。」
……そうなのだ。
俺の資産は馬鹿みたいにある。
この城の一室に『元倹のお財布部屋』なるものが存在して、そこには国庫と見間違う程の金が入ってる。
いやまぁ国庫は流石に言い過ぎだが、……実際、田舎の県だと充分領地を経営出来るだけの金はある。
……この前ふと気になって覗いたらまた増えてたわ。賊討伐の特別報奨に新刊が売れたからなぁ。
個人資産なら華琳さんをも越えるからな俺。
文若さんに見られた時は、その金を国に回せと怒られたっけ。
まぁ今回で国の為に使うから大丈夫だよね!
「あれ?でも華琳さんには霊里の他にも有能な人材が後一人増えてからじゃないと駄目って言われなかったっけ?……あっ、わかった。文若さん巻き込むのか。」
「いえ、桂花様はとてもお忙しい方です。華琳様からも良くお仕事を振られる方ですし、この件に巻き込む事は控えるべきだと思うのです。」
違うのか。
「じゃあ姉さん?」
「いえ、撈姉さんも文官の纏め役に育成もあるのでとても手が空いてるとは思えません。」
「そうだね。面白そうな仕事だけど、ちょっと今の僕の状況では難しいかな?」
じゃあ一体誰が……。
…………。
……。
おい、待て、まさか___
「兄さん、今、仕事楽ですよね?」
マジかー!?
嫌な予感はこれかー!?
「いや、待て待て、確かに、そのぉ、あれだ。……仕事は多少楽にはなったよ?けど忙しくない訳じゃないし、街の開発なんて俺に出来る訳ないだろ?」
俺の仕事は確かに楽にはなった。
姉さんが育てた下級中級の文官に、清流派のエリート文官が来た訳だから、文官系の仕事は凄く楽になった。
ようやくだ、ようやく楽が出来る様になって、俺は定時で仕事を上がれる様になったんだ!
だから霊里、霊里さん、霊里様!
お願い、お兄ちゃんに新しい仕事与えないで!
ブラックはもう嫌なんだ!
「撈姉さんに知識を叩き込まれた兄さんなら、街の開発だって充分叶うと思うのです。それに、経済にも造詣が深い兄さんの意見は貴重なのです。私と一緒に街の開発をやってみましょう。」
「いやっ、それは__」
「……それに、この開発をする際の工夫六千人は兄さんが連れて来た人達なのです。そして、さっき何でもするって言ってました。」
……オワタ。
それを言われたら反論出来ねぇ。
「……華琳さんが、許可出したらな。」
俺は一縷の望みをかけてそう言った。
そしていとも容易くゴーサインは出た。
D4Cかよ、仕事が楽になった世界から、仕事が大変になる平行世界に移動させられてしまった。
おのれ大統領!
「すげぇな。……元倹様が俺達の為に金を出して街を開発するってよ。しかも開発責任者の一人になってくれたらしいぜ?」
「あぁ、だからあの方は守護鬼って呼ばれるんだろうよ。」
期せずとも、主人公の株は上がりました。